かつてVtuber三大将と謳われたわたしが今では大手事務所のマネージャーをしているわけ 作:吹夜
雨乙しずく、フェティ・アンモナイト、弾宮ミヤ……わたしの担当三人の配信画面が同時に映り、三人それぞれの声がヘッドホンから耳に響く。当然、別々の話題を話しているので情報が入り乱れる……が、これくらいなら大丈夫だ。わたし五窓……別々の配信五つまでなら同時に見ていても理解できる自信がある。お姉ちゃんからは聖徳太子か? とドン引きされた特技で、昔講義動画で勉強するときなんかには効率的に進められてお世話になった能力だけど、こんな形で仕事に役立てられるとは思っていなかった。
それで、わたしが何をしているのかと言えば、モデレーターである。不適切なコメントを非表示にする作業。もちろん担当の配信ならいつも全て請け負っているというわけではなく、ライバードは分担してモデレーターをしている。今回は時間が空いていて可能だったから三人分の仕事を請け負っただけの話だ。……こういうことをしてるから清水さんに他の社員のベンチマークを上げているとか言われちゃうのかな。
三人分のライブチャットに目を光らせると言っても、手を動かす機会はそう多くない。三人とも優等生でアンチを増やすような芸風じゃないからか、消さなきゃならないほど度を超した中傷コメントはそうそう来ない。
「あ……削除」
……なんて思っていたのに、フェティの配信に来てしまった。視界に入った瞬間削除したが、内容はオブラートに包むと以前のスーパーチャット読まれなかったことに対する文句だった。可能な限り最速で対処できたと思うけど、フェティは……一切触れずに配信を進めていた。これは会社としても無視をするよう指導しているし、おそらく他社でも同じだろう。
ライバーとしてやっていくなら、これくらいのスルースキルは必須だ。もっとも、フェティに関して言えば、あの人は本当に気にしていないだろう。天然でおっとりな人柄の彼女だが、メンタルは三人で一番強いと感じる。ミヤさんもしずくさんも生主経験があり、その経験からかこの程度で動揺するほどヤワじゃないにしても、未経験のオーディション組であるフェティがここまでの逸材なのはライバードとしては掘り出し物だ。他の二人……ミヤさんは裏では結構凹んでしまうことがあるし、しずくさんは……荒れる。
もちろん、三人とも優等生であるからそうそうそんな事態にはならないけれど、荒れた時のしずくさんは大変なのだ。……しずくさんの生主時代、『ののこ』として活動していた頃のののさんは結構なアンチを抱えていたらしいけど、よく立派なバーチャルライバーになってくれたものだ。お姉ちゃんはその功績がわたしにあると考えているみたいだけど、本当かな?
「って、複窓してることののさんに知られたらマズいかな……」
と、それ以降は非表示にするようなコメントもなく、ミヤさんとしずくさんの配信が終了した。
「あとはフェティだけ……一人だけなら手が空くし、タスクの整理でも……うわ」
画面に配信をフェティのものだけにして、メールボックスを開こうとしたその矢先、特徴的な着信音が響く。聞き間違えるはずもなくそれはディスコードの着信音で、それが鳴るということはサーバーではなく個人からの着信で……確認すれば、そこには雨乙しずくの文字。ののさんだ。
「……もしもし、しずく……ののさん。配信お疲れ様です」
『……ちゃんと見てた?』
「も、もちろんですよ」
『何の話してたか言える?』
「わ、わたしと出かけた話……」
『よし』
……これを答えられないと拗ねるから、雨乙しずくの配信は特に見逃さないようにしている。ののさんが今日の雑談で話題の一つとして出したのが、以前わたしとカフェに行った……というよりわたしを連れ回したという話。途方もない時間トークをし続けるライバーは自然と周囲の人間関係から話題を抽出するが、雨乙しずくの配信でわたしはマネちゃんとしてかなりの頻度で登場している。
「あの、わたしのことばかりじゃなくて他のライバーの話もしてください。リスナーさんはしずミヤを求めていると思いますよ」
『ミヤの話もしたよ。それより、ミヤの家に行ったって本当?』
「その話をどこで……って、ミヤさんしかいないか……」
情報共有が早い。二人の仲がなんだかんだ良さそうなのは良かったが、ミヤさんはこういうところで配慮が足りないように思う。彼女はののさんのこういう一面も可愛いじゃんの一言で済ませるから話が合わないのだ。
『うん。自慢された……っていうか、なんで敬語に戻ってるの? 何回言ったらわかるの?』
「え、いや……一応仕事……」
『ねぇ』
「う、うん……ごめん……」
『で? なんでミヤの家行ったの? マネージャーでも普通しないよね?』
「ののさんのところにはよく行ってるけど……」
『私は特別だよね?』
「うん……ほら、ミヤさんがね? ののさんばっかりわたしと会ってるからずるいって思ってたみたいで……どうしてもって言うから、一回だけね?」
『ふーん……』
……納得してくれたみたいだ。ののさんと仲の良いミヤさんだったからまだ良かったが、フェティだったらこんなにもあっさり引き下がってくれなかった気がする。二人と違ってフェティの家は事務所からもわたしの家からも地味に遠いから、頻繁に通うようなことにはならないだろうけど。
『……ねぇ、遊ぼ』
「ゲームってこと? でもまだフェティの配信が……」
フェティの配信はまだ終わっていない。通話しながらでも、モデレーターはできるが、さすがにゲームとなると同時には無理……あ。
『なんでフェティの配信見てるの』
「も、モデレーターを引き受けてて……あ、もちろんしずくのもしてたよ?」
『複窓してたんだ』
「はい……」
ののさんの機嫌、一段階ダウン。わたしは悪いこと一切していないけど、どうしようもない時はある。
「だ、だからゲームはちょっと……」
『私が他の人と遊んでも良いの?』
「ど、どうぞ……」
『……男の人とやるかも』
「そ、そうなんだ……」
バン!
ヘッドホンに物音。台パンだぁ! しずくの時は絶対しないのに!
『吉乃ちゃんは! それでもマネージャーなの!?』
「マネージャーがライバーのプライベート縛る方が問題だよ!」
『……雨乙しずくのアカウントで遊んじゃうかも』
「え……そ、それはちょっと……」
それも禁止じゃないけれど、超非推奨だ。その遊び相手にスクリーンショットでも取られたら炎上リスクになるのは避けられない。誰と遊んでいようと勝手だ、と流せるリスナーばかりじゃないし、めちゃくちゃやめて欲しいけど……あ、フェティの配信が終わりそうだ。
「……わかったよ。何したいの?」
『……エペかスプラ』
無事フェティの配信も終わり、ののさんと遊ぶことにする。なお、響家コエとしての活動でこういうシューター系のゲームをやったことはないので、これらはののさんに買わされたものである。
一旦。