元勇者の先生日誌   作:Ruve

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 それは、とあるビルの1室。それが何処かということは大した問題ではなく、何故そこにいるのかという方が重要である。

 

「お待ちしておりました、リーリァ先生」

 

 そう言って出迎えたのは、黒いスーツを身にまとった奇妙な存在だった。大雑把に言えば人間のような形をしていると言えるが、正しく表現するなら人間とは言えないだろう。

 肌らしきものは真っ黒で、目と思わしき部分も右しかなく、それも位置からして目だと感じる程度のものだ。まるで割れて中から白い炎が噴き出しているような、それを目と認めるのは余程の芸術家だけではないだろうか。

 本来左目がありそうな部分にはヒビが生えているだけで、口らしき部分もそういう形状に広がっているヒビでしかない。髪も生えておらず、代わりに炎が揺らめいているだけ。

 

「なるほど、これは"黒服"だね」

「おや?私のことを、ホシノから聞いていましたか?……ええ、私はこうして一度、貴女と話してみたかったのですよ」

 

 その1室にある、それっぽく用意された机と椅子。黒服はそこで座り笑っていた。いや、顔がないからこれは単なる私の感覚だ。

 

「貴女のことは知っています、連邦生徒会長が呼び出した不可解な存在。あのオーパーツ『シッテムの箱』の主であり、連邦捜査部『シャーレ』の先生」

 

 なるほどな、と心のなかで呟く。

 彼は、ここに来てからの、先生としての私のことは知っている。しかし、それだけか。

 

「貴女を過小評価する者もいるようですが、私たちは違います。……まず、はっきりとさせておきましょう。私たちは、貴女と敵対するつもりはありません。むしろ、協力したいと考えています」

 

 ……なるほど、やはりゲマトリアというのは個人ではなく集団のようだ。

 

「じゃ、帰っていい?」

「はて?まだ話は始まったばかりですよ、落ち着いてください……」

「いや、今あんたがあたしに協力できるのって、邪魔しないことだけなんだよね」

「……もう少し耳を傾けてもらえれば、きっと考えは変わるでしょう」

 

 いや〜、ないな。あたしこう見えてもかなりの頑固ものだよ?と、冗談半分で言ってやろうと思ったがまだ堪える。

 ……まあ、有益な情報が無いとも限らないし、もう少しだけ付き合ってやろうか。

 

「何処まで話したでしょうか。……ええ、そうです、私たちの計画にとって、一番の障害は貴女になると考えているのです。私たちにとってアビドスなんて小さな学校は、全くもって大した問題ではありません。ですが先生、貴女の存在は決して些事とは言えない。敵対することは避けたいのですよ」

「……は?いや、もう十分敵対してるでしょ」

「アビドスのことでしたら、安心してください。彼女との約束はしっかり守らさせていただきますよ」

「………はあ」

 

 駄目だ、話が通じる気がしない。上手く言えないのだが、例えば賢人塔の頭の固い爺さんと話しているような、或いは讃光教会のお偉いさんと話しているような。話してはいるのだが、最初から目線が違うというのだろうか。

 ……まあ、アビドスの借金の件はこいつの責任ではない。ただカイザーの行為に加担して、ホシノを手に入れるという自身の目的を達成しようとしたのだろう。

 問題は、そこである。

 

「ホシノのこと利用しといて、あたしと敵対してないって主張するの、無理なんだよね」

「……返せと言うことですか?しかし、貴女も知っているでしょう。彼女は退学している。その主張は認められるものではありませんね」

「悪いけど、あたしはこんなでも担任でね。サインしてないんだよね、あれ」

「……なるほど。貴女が『先生』である以上、担当生徒の去就には貴女のサインが必要……そういうことですか。なるほどなるほど……学校の生徒、そして先生……ふむ。中々に厄介な概念ですね」

「でしょ?役割ってのはさ、ちゃんと意味があるんだから」

 

 自らに課された役割と、その責任。あまり理解したい話ではないが、これまでの人生で嫌という程理解させられた。伊達に人類背負ってなかったというかね。

 そして、その上でだ。私には今の役割がある。

 

「……なら、貴女はその役割を果たすべきでしょう。ホシノは理解し認めた上で私の下へ来ました。彼女の覚悟を、否定するのは先生のするべきことでしょうか」

「あ〜……それね。これさ、ちょっとした昔話なんだけど」

 

 昔話と言いつつ、まあそんな昔ということではないんだけれど。でも、昔のことだと感じる。それだけキヴォトスでの生活に馴染んできたということだろうか。

 

「昔々、ある所に勇者がいました。その勇者は世界で一番強くて、だから人類を守る使命を背負っていました。ある日、神様が人類を滅ぼそうと牙を剥きました。もちろん勇者は立ち向かわざるを得ません。ですが、とある占いにより勇者が神様に挑めば死んでしまうという結果が出たのです。なんと的中率100%、ああ大変だ挑めば死んでしまう。……でも、逃げるという選択肢はありませんでした」

 

 ふうと息を吐く。その勇者が神へと足を進めた時の恐怖が、鮮明に思い出させられる。足が少し震える。

 

「あんたはわざとそういう状況を作って、ホシノが逃げられないようにした。ホシノが、全てに納得したうえでその道を選んだと本気で思ってる?」

「……悪い神様ですか。くっくっく、面白い例えをしますね。ええ、確かに私は状況を利用させていただきました。それはもちろん、善か悪かで聞かれたら悪になるでしょう。しかし、ルールの範疇です」

「まあ、そうだね。でも、例えルールの範疇だとしても、悪意をもって理不尽を強いたのはあんただ。先生としての役割を果たすなら、そんな理不尽を後押しすることじゃない。あんたから、救うことだよ」

「その為なら、相手の意思を無視すると?」

「……単なる意地の張り合いだよ。()()()()の喧嘩。だから、大人のあんたにもう出番はない」

 

 まあ、なんというか。収穫はあったと言うべきだろう。話の通じない、悪意のある大人がまだ何人かいるという嫌な事実を知れた、ということだ。

 

「……どうして?どうあっても、私たちと敵対するおつもりですか?貴女は無力です、戦う手段など無いでしょうに!」

 

 手刀を、振った。当然その手は空を切る。黒服はおろか何にも触れることはない。

 そして同時に、激しい音を立てて黒服の背後の窓ガラスが割れた。破片が音を立てながら床へと落ちていく。……よく観察してみれば、割れた破片は外ではなく全てこのフロアの床の方へ落ちていることにも気がつくだろう。

 

「過小評価してるのは、誰だろうね?」

「……貴女は、一体」

 

 黒服が立ち上がる。その瞳?は、確かに私のことを捉えていた。先生としてではなく、リーリァ・アスプレイとして。彼の興味の対象に入った。

 

「……何故それほどの力を持っていながら、貴女は『先生』であるのですか?貴女の力とシッテムの箱の力、簡単にキヴォトスを手中に収められるのではないですか?」

「役割と責任。無責任な誰かさんに先生を頼まれたから、あたしは先生という責任を引き受けた。それだけだよ」

「…………」

 

 ズイッと近づいてくる。一歩、また一歩とこちらへ歩む。

 

「一度は人類全てを背負い、今度は子供たちを背負うのですか?貴女の言葉に偽りがなければ、人類全てを背負わされた果てに命を失っている」

「ま、そだね」

「貴女はホシノが犠牲になることを認めない。それが貴女の役割だから。……では、貴女が犠牲になることを誰が認めるのです?誰が、それを否定するのです?……そして、貴女はまたその責任に押しつぶされるのですか?」

「そうかもね」

「なぜ?なぜ?なぜ?なぜ?なぜ貴女がそこまでするのです?今貴女が先生なのは連邦生徒会長が決めたことであり、アビドスの件に関わったのは偶然。それら全ては貴女が取るべき責任ではない筈です」

 

 近い。顔が目の前まで迫っている。こうして近くで見てみると、結構身長高いんだな……と、どうでもいいことを考えてしまう。

 

「貴女は手に入れることが出来たのです。真理と秘儀、権力、お金。貴女はただ()()()()()()()()()()()という考え一つでその全てを放棄している。それは大人だからではありません、何が貴女をそこまで縛るのです?」

「……私、そこまで縛ってるように見える?」

「……ああ、そうですか。そういうことですか。いえ、私には一つ、とある疑問がありました。何故ホシノが()()()()()のかと。ええ、ええ。貴女が原因だったのですね」

「え?いや、何でそこでホシノのこと?」

「貴女は、貴女は諦観している。自らが幸せになることを、1人の人間になることを。貴女は先生という殻に自らを封じ込め、責任という蓋をしている。ああ、興味深い。貴女は実に興味深い存在です」

 

 私はどんな顔をしていたのだろうか。それは分からないが、とりあえず一発殴ってやりたいというのは間違いのない気持ち。

 

「分かりました、認めましょう。交渉は決裂です。しかし、私は貴女という『神秘』を得ました。これは失うべくして失うものでしょう」

 

 くっくっくと、上機嫌に笑いながら少し離れていく。……私ってそんなに神秘的だろうか。なんか嫌だな、それ。

 

「ホシノはアビドス砂漠のPMC基地の中央にある、実験室にいます。『ミメシス』で観測した神秘の裏側、つまり恐怖。それを、生きている生徒に適用することができるか……そんな実験を始めるつもりです。そう、ホシノを実験体として。そして、もしホシノが失敗したらあの狼の神が代わりに、と思っていたのですが……ふう、どうやら前提から崩れてしまったみたいですね」

 

 ……ミメシス、神秘、恐怖。狼の神。知らない言葉が次々と彼から吐き出される。やはり研究者というのは、語るのが好きな様子。

 狼、その単語からシロコのことを連想したが、まあ神という感じではない。まあここで言う神というのは星神(ヴィジトルス)とはまた別の存在だろうが……それが何なのか真面目に考察しても今はしょうがない。

 

「リーリァ・アスプレイ。……是非先生としての責任を果たしに行ってあげてください」

「……一つだけ訂正していい?」

「ほう?何でしょう」

「難しいこと色々話したけどさ。()()()()()()()()()()()()()()()()()?」

 

 黒服は少し静止した。それから、笑った。それはもう、爆笑という表現をしてもいいくらいの笑いだった。……それでも顔の形状が変化しないのは、少し不気味だなとは思うが。

 

「ああ、やはり貴女は面白い。私は貴女のことが欲しくなってしまいました」

「そういう言い方、気色悪いからやめたほうがいいと思うよ?」

「ええ、ええ。貴女とお話できて本当に良かったです。……私は貴女のことを、これからも見ていますよ。ゲマトリアとしても、私個人としても、ね」

 

 そして、リーリァはそのビルから去っていった。

 

 

ーーーーー

 

 

「おかえり、先生」

 

 対策委員会の部室へ帰ってくると、シロコが迎え入れてくれた。いや、もちろんシロコだけじゃない。

 

「先生、お待ちしておりました!」

「リーリァ先生!」

「先生……」

 

 安堵の笑みを浮かべた4人が、迎え入れてくれた。……黒服には理解できないことだろう、こういった些細な幸せがどれだけ尊いことなのか。

 まあ、今ここにいないやつのことはさておいて、だ。

 

「ほんと、こんな時間に呼び出すとは勝手なやつだよね〜」

「1人で行くって言った時は驚いたんだからね!」

「でも、その甲斐あった、って感じ」

「そうそう、付けていた発信機と、あいつから聞いた話は合致した。……助けに行けるね、これで」

 

 窓の外で夜風が吹いている。その冷たさを感じないくらい、この部屋は暖かった。

 純粋に喜んでるような、或いはカチコミを楽しみにしてるような、少しだけ好戦的な、でも素直な笑みがそこにあった。

 

「ホシノちゃんを助けたら、叱ってあげないとね。自分が犠牲になって解決するなんて、最悪なことしでかそうとしたわる〜い生徒だし!」

「そうですよ!そんなことされて、私たちが喜ぶと思うだなんて…、理解(わか)らせてあげないとですね!」

「だから、『おかえり』って言って、『ただいま』って言わせよう」

 

 ……ただいま、か。私は結局、誰にも言えなかったな。でも、だからこそホシノには言わせないと。帰る場所があること、待ってる人たちがいること、ちゃんと分かってもらわないと。

 

「えぇ!?何それ、恥ずかしい!青春っぽい!!背筋がぞわっとする!」

「何言ってるの、みんな正に青春の真っ只中でしょ」

「うん。私はする」

「え、え!?」

「セリカちゃんがしなくても、私もします!」

「えっ、えぇっ!?」

「わ、私も……ちょっと恥ずかしいけど……」

「か、勝手にして!私は絶対、そんな恥ずかしいこと言わないから!!」

 

 顔を真っ赤にしてセリカは宣言するが……うん。これは……なんか、察するな。

 

「さて、じゃあ今日は、英気を養うためにみんなお休みだね」

「そういうリーリァ先生も、ちゃんと休んでよね!」

「あはは……私、そんなに無理しそうに見えるかな」

「う〜ん、私は見えますね」

「ん、なんか分かる」

「私も、言いたいことはなんとなく分かりますね……」

 

 そ、そうなのか……みんなにそう思われる程度には態度に出てたのかな……?

 がっくりと肩を落としながら、"先程の連絡"をもう一度確認する。まったく、タイミング良いんだか悪いんだかって話だ。

 

 

ーーーーー

 

 

 そこは、大将の家だ。そこまでの大怪我ではなかったのでーー改めてそれも不思議な話だけどーー早々に退院して、今はのんびりと過ごしているようだ。

 そして今、そんな彼の家にそこそこの人数が押し寄せている。

 

「柴さんの怪我、そして店の破壊。どちらも私の責任です。本当に申し訳ありませんでした……」

 

 甘雨アコが、大将へと頭を下げていた。

 そう、昨日来た連絡というのは、保留にしていた風紀委員会からの柴大将への謝罪の旨だ。時間を作れたので謝罪へ向かいたいと、そういう話。

 

「委員長として、私も謝罪します」

「い、委員長!?」

 

 続けてヒナが頭を下げ、アコが驚きで顔を上げた。

 

「あ〜、頭を上げてくれ。確かに店が潰れちまったけどよ、俺は見ての通りピンピンさ。それに、色々と行き違いがあったって話だろ?わざわざ忙しい所出向いてもらって、こっちが申し訳ないくらいさ」

「あ、ありがとうございます……」

 

 こんなにあっさりと許されると思っていなかったのか、アコが目を丸くしていた。

 

「まあ退去通告来てたのに退いてなかったのもそっちだしな」

「イオリ……今回悪いのはこちらです、分かってますか?」

「いやあ、でも……」

 

 そんな2人の後ろでひそひそと話しているイオリとチナツ。真摯に謝っているアコと、本来は何も悪くないのに頭を下げているヒナと違って、イオリはまだ納得してない部分がある様子で。

 軽く肩を叩くと、むっとした顔で振り向いた。

 

「気安く触るなよ」

「イオリ!……先生、イオリも本当は悪い人ではないんです」

「まるで今の私が悪人みたいじゃん!?」

「いやいや、悪人というより自分の非を認められないガキって所でしょ」

「ガッ……ガキッ!?」

 

 まあ、ガキというのは自分もあまり他人事ではないけれど。

 

「……柴大将、店へ与えた損害から、私たちが出せる額です」

 

 ヒナはスーツケースを取り出し、机へと置いた。そして中身を見せる。

 あ、ほんとに金用意してくれたんだ……

 

「こりゃ……いや、いいんだ。そのお金は、お嬢さん達自身のことで使ってほしい。俺なんかより、子供の未来のために活きてくれたほうが嬉しいんだ」

「……私があなたのラーメンの味に興味がある。だから投資する。それなら、受け取っていただけますか?」

「また断りにくいこと言ってくれるなあ」

 

 困ったような顔をして顎をさする。これはあと一押しすれば、彼は受け取るだろう。

 なので大将の前へと顔を出し、私も持ってきたものを出した。

 

「はい、これがシャーレからの分です」

 

 シャーレから大将へ出すと約束した分の金だ。大将の振込先を聞いてなかったので、私も現金で持ってきていた。

 

「おう、これはまた……ははっ、分かったよ。ああ、これは受け取る。その分最高のラーメンを作るから、待っていてくれよ!」

「期待しているわ。また食べに来ましょう、アコ」

「はい。柴さん、私も楽しみに待ってます」

 

 こうして、柴大将と風紀委員会の面会は無事に終わった。

 ……それもとても重要なことなのだが、ここからもう一つ重要な用事がある。それは事前に伝えていたので、とりあえずアビドス高校への案内は何事もなく進んだ。

 部室だと狭いということで、別の教室に9人が入る。

 

「それで、先生。用事は?」

「単刀直入に言うよ。カイザーPMCの基地からホシノちゃんを奪還するのに、ヒナちゃん達にも手伝ってほしい」

 

 ピクリと、アコが反応した。

 

「待ってください、以前もそうですけど"ヒナちゃん"って何ですか!?確かに委員長は可愛いですけど!?」

「かわっ……!?」

「反応するとこそこなんだ……」

「アコちゃん……」

 

 突然変なテンションになるアコ、発言の内容に顔を赤くするヒナ、そして呆れるセリカとイオリ。

 まあ、変に緊張したまま話すよりはいいのかも、うん。

 

「え〜……うん。それはまた今度答えるから、とりあえず返答を聞きたいかな」

「言いましたからね?また今度答えるんですね!?」

「アコ」

「……!!」

 

 ヒナに咎められたアコは、少し口をパクパクしてから大人しくなった。なんというか、なるほどなという感じである。

 もしかして以前、私を捕まえようとした理由、シャーレという不確定要素がヒナへの負担を増やす可能性があったからか。政治的な理由よりも、ヒナへの心配の方が割合が大きかった……そうじゃないかと予想する。

 その結果としてヒナの仕事が増えた辺り、暴走具合も伺えるが。

 

「……それを手伝うことの、意味は?」

「意味?ヒナちゃんは、実利があれば協力するって言いたいの?それとも、情に訴えかけて欲しいのかな?」

「……」

 

 後ろから刺すような視線が4人分感じる。気の所為だと思っておこう。

 

「実利の面で言えばちゃんとあるよ。カイザーほどの企業が長い年月をかけてまでする宝探し、その成果がゲヘナを脅かす可能性は十分に考えられるからね」

「そうね。けれど、宝探しというのは理事が言っていただけでしょ?」

「そうだね。だからもう1つ。私は……大事な生徒で、大切な友達のホシノちゃんを助けたい。だから、助けてほしい」

 

 頭を下げる。それと同時に、後ろでもみんな頭を下げた様子。

 

「私たちからもお願いします。どうか、力を貸してください」

 

 暫しの沈黙。それから溜息が1つ。

 

「アコ、イオリ、チナツ」

「はい」

「準備は?」

「出来てますよ」

「出発前に準備はしてきたし」

「最初から手伝うつもりでしたよね、委員長」

 

 顔を上げると、大きな羽根を広げたヒナが微笑んでいた。まるで蝙蝠のような羽根は、角と相まってまるで悪魔のような風貌だが、しかし彼女はむしろ……天使とでも、言えるのではないだろうか。

 

「1つ貸しよ、先生」

「……ありがとう、ヒナ」

 

 

ーーーーー

 

 

 ところ変わってトリニティ総合学園。戦力が多いに越したことはないので、こちらも協力を頼めないか会いに来ていたのだ。

 

「お久しぶりです、皆さん!」

 

 出迎えてくれたのはもちろんヒフミだ。むしろヒフミ以外でトリニティの知り合いなんて……いや、ないことはないが、アビドスと関わりがあるとなると彼女だけだ。

 

「お元気そうですね、ヒフミさん」

「はい、こらも皆さんのお陰です。それで、ホシノさんの件……ですよね」

 

 もちろん事前に連絡と軽い説明はしてある。意外とアビドスとトリニティは近くてすぐ到着したので連絡するの遅かったかな、と思ったけれどそれも問題なかった様子。

 

「私がちゃんと止められれば良かったんだけど」

「先生は悪くないですよ。私たちも、ホシノ先輩の抱えているものに気づけなかったですから……」

 

 ……いや、私は皆とは違う。分かった上で、行かせたんだから。そこを無理でも止められれば良かったということなんだけど。

 説明するとややこしくなるし、その訂正はしないでおくけど。

 

「ティーパーティーに相談してみます。少し待っていてください」

 

 そう言って、てとてとと駆けていく。……これほどの規模の学校で、ティーパーティに直談判できるというのはやはり、妙な関係だなと思う。

 

 

ーーーーー

 

 

「……ということなんですが」

「ふむ、どうしましょうか」

 

 ヒフミが、桐藤(きりふじ)ナギサ、ティーパーティのホストの1人である彼女への説明を終える。

 

「そうですね、確かにそのカイザーPMCという企業の存在が、我が校の生徒達に良くない影響を及ぼしそうなのは確かですね」

「では、ご協力をいただけ……」

「但し、例の条約も目前に迫っていますし、今は下手に動くわけには行きません」

 

 ヒフミの言葉を遮り、ナギサは言う。

 

「少しお時間を頂けますか?」

 

 それが、ナギサの回答だった。

 それを伝えるべく去っていったヒフミを見ながら、1人呟く。

 

「先生、貴女を敵に回すと厄介になりそうですから、借りは作っておきましょう……」

 

 

ーーーーー

 

 

「結局保留かあ……」

 

 そう、セリカが呟く。

 ヒフミから得た回答は、保留。拒否されなかっただけマシだろう。

 そもそもの話、ゲヘナの風紀委員会と違ってトリニティとアビドスには何の関係もないのだ。宝探しだって何かしら確証のある話でもないし、喜んで協力してくれる方が不自然まである。

 

「まあまあ、少なくとも便利屋とゲヘナ風紀委員が協力してくれるんだし、問題ないでしょ」

「……それでも、人は多い方がいい」

「それはそうだけどね」

 

 数が多いことによるアドバンテージは、そうそう覆るものではない。余程卓越した戦術か、個人の力量差で埋めることは可能ではあるが、それでも数が多くてマイナスになることは少ない。長期戦なら物資だったり指揮の管理だったり色々出てくるけど、今回は短期決戦にするのでそこもあまり関係ない。

 ……ミレニアムに関しては、それこそ私を通してユウカと繋がりがあるだけなので流石に協力の要請はやめておく。あと単純に、ゲヘナやトリニティに比べると遠いのもある。

 ということで、待機してくれている風紀委員会と合流するために、電車に揺られてアビドスへ帰還する。

 すると、そこには想定外の、でも想像は出来た光景が待っていた。

 

「……ようやく帰ってきた、先生」

「待ってましたよ先生!なんで便利屋が来るんですか!?」

「風紀委員の協力を得るなんて、先生流石だね〜」

 

 同じく合流するために来たであろう、便利屋と風紀委員会がいがみあっていた。

 ……そうだよね、うん。

 

「そ、その……これは」

「分かってる。今日だけは見逃す……それで良いでしょ」

「委員長!?見逃すって、今捕まえるチャンスじゃないか!」

「今日は、先生と協力するのが優先。それとも、仕事を増やしたい?」

「ハルカ、分かってるわね?今日だけは仲間だからね?」

「は、はいっ!アル様のご命令なら、今日は戦いません……!」

 

 と、なんともまあ賑やかな感じになっていた。

 

「先生、便利屋のこと呼んじゃいました?」

「いや、何も。むしろこれから連絡取ろうと思ってたんだけど……」

「参加するメンバーが合流出来たのは良かった、かな?」

「でもリーリァ先生の人徳はあるかもね、ああやって敵対してる人たちが協力してくれるんだから」

 

 人徳、かあ。あまりそんな徳を積んでるような人になったつもりもないけどね。

 とりあえず睨み合っているーーアコとカヨコの雰囲気だけなんか違う気もするーー2チームを呼んで、整列する。いや、即席チームだし決まった列はないんだけれど。

 12人の前に代表として立つ。これだけの人数と一緒に作戦をするなんてまずなかったこともあって、ちょっとだけわくわくしてる自分もいる。

 

「皆、集まってくれてありがとう。……長い前置きはいらないよね?それじゃあ、ホシノちゃん救出作戦始めるよ!」

 

 おー!とノリよく拳を上げるアビドス4人と、おまけにムツキ。他のメンバーもそれぞれ頷いて、アビドスを発つ。

 

 そして、アビドスの一連の騒動の、最後の戦いが始まる。

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