件の基地へ向かうために、その方面の列車である程度移動し、残りは歩いて行軍。
それ自体は既に行ったことだが、今日は人数が違う。しかも、向こうさんも襲撃に備えているだろう。
「それで、作戦は?」
ヒナが尋ねる。アビドスはリーダー不在、便利屋のアルは風紀委員会がいる状況で強く出てこられるような性格でもないーーその時のノリ次第な気もするけどーーし、自然とリーダーらしいリーダーは彼女だけになる。
「私、ヒナちゃんの実力だけ知らないんだけど……信用していいよね?」
「失望はさせないわ」
「なら問題なし。正直作戦も何もない、各自暴れまくってくれればいいよ」
「……流石に適当すぎない?」
ツッコんで来たのはカヨコである。今までの指揮と比べたら、そう思われるのは仕方ないんだけど。
「相手の兵力は不明。しかも時間がかかればこっちが不利。なら皆が得意とする戦い方をするのが一番でしょ」
「確かに、この人数を管理するよりは合理的かもしれませんね……」
ノノミが呟く。もし私が元からそういったノウハウを積み重ねてきている指揮官とかならいざ知らず、正直相手の兵力を把握しつつ、この人数に完璧な指示を出すのは少々厳しい。もし私が戦うのであれば、別に全部正面から叩き斬ればいいだけなのだが、そこまで強い人もいないし。……いや、ヒナは強いのだろうが、だとしてもそこまで無法な強さではないだろう、多分。
……シッテムの箱からアロナが何かアピールしているが、聞こえなかったことにしておこう。指揮よりもやってほしいことあるし。
「さて、善は急げということで突撃しちゃいますか!」
ーーーーー
カイザーPMC基地。そこに侵入出来そうなのは正面のゲートしかないが、そこは固く閉ざされている。更に、当然ながら見張りの兵士が待機している。
「こちらHQ、前方から接近を確認。アビドスとその協力者と思われる」
「総員警戒態勢に入れ!」
基地の周辺は、基地が大きな壁となり砂による視界の不良はあまり起きていない。
また、HQがレーダーで敵戦力を捉えているので、どちらにせよ接近してくる相手が見えないというのは考えられない。だからこそ、全員構えて待機する。
……猛スピードで、シロコとイオリが突っ込んでいく。
「撃て!撃てー!」
「その程度当たるかよ!」
「へえ、中々やるね」
シロコが弾丸をバラまき、イオリが大きく跳躍して敵陣へと飛び込んでいき、ついでに着地地点にいた1人に蹴りをお見舞いする。
「うああああ!!」
「な、何だ……!?」
イオリとシロコの"パフォーマンス"に視線を奪われていたからこそ、もう1人懐へと潜り込んでいることに反応が遅れる。
至近距離からのショットガンの連射に、あっけなくまた1人倒されていく。
「くそっ、止め……ぐあっ」
「ど、どうし……うわっ!?」
ロケットランチャーを構えていた兵士達にも、別け隔てなく弾丸がお見舞いされていく。
「させるわけないでしょ!」
「こんなんで兵士とかあくびが出ちゃうな〜」
セリカの狙撃と、それに合わせたムツキの援護。その間にもイオリとシロコは暴れ回り、ハルカは叫ぶ。
たった5人の攻撃で、前線は瞬く間に崩壊していく。
『げ、迎撃部隊が全滅……!?』
『ええい!応援を出せ!何がなんでも奴らを止めるんだ!』
この基地の入口は、東西南北にある4つのゲートだけである。しかし今攻撃されている南部に出るには、他のゲートを経由して外から攻めるには遠すぎる。なので、出るにも正面のゲートを通る必要があるので、当然そこが開放されていく。
開かれていくゲート。攻撃準備を整えた部隊が出撃しようとした所で迎えに現れたのは弾丸の嵐。
ノノミとヒナの機関銃が、まだ開いている途中のゲートの隙間へと差し込まれていく。
「なっ!?」
「反撃しろ!撃て撃てー!」
最前列にいた者は全員弾丸の餌食になったが、結果として盾になったので後方の兵士は問題なく反撃に移れた。そしてロケット砲の嵐がお返しとして飛んでいき……
「その程度かしら?」
空で1つ炸裂し、またその爆破が周囲に連鎖していく。アルが撃ち抜いたのだ。
「……もしかして私、いらなかった?」
「何言ってるの。カヨコがいるお陰で、安心して狙撃できたのよ?」
狙撃態勢に入っていたアルと、護衛をしていたカヨコがお互いに笑う。……戦力が過剰過ぎて、護衛をする必要はなかったのかもしれないが。
「ん、今度は私が先」
「へえ、案外やるじゃん」
シロコが我先にとゲートの中へと突入し、イオリとハルカも着いていく。
『何をしている!?侵入されているぞ!』
『ゲートを閉じろ!これ以上入らさせるな!』
「駄目です、もう全員中に……うわーっ!?」
アル、カヨコと共に待機していたリーリァと、アヤネ、アコ、チナツの援護チーム含め、颯爽と基地へと侵入していく。ゲートの前に取り残されたのは、伸びている兵士達だけとなった。
そこに、シッテムの箱からアロナの声。
『先生!確認しました!』
「おっ、全員一旦止まって遮蔽に隠れて!」
「えっ、今!?」
敵の主力と思われる編成と交戦距離に入っていた先鋒の三人が、突然の指示に困惑しながらもUターンする。
「な、何だ……?」
「我々の前に怖気づいたに違いない!」
戦車隊が意気揚々と反撃に出ようと、砲塔を遮蔽へと向ける。
『3、2、1……来ます!』
しかし、怖気づいて隠れたなんてそんなことはなく。榴弾砲が雨あられのように基地内へと降り注いだ。
まさかの外部からの攻撃に、ますます現場は混乱していく。
「今のは、トリニティの牽引式榴弾砲、L118……?」
アコがボソりと呟く。対立している学園というだけあって、兵装に関しては見ただけで分かる程度の知識はあるようだ。
「……トリニティの協力まで取り付けたのね」
砲撃が止むと同時に先鋒の三人が再び飛び出し、残りのメンバーも支援射撃を開始する。
先程の攻撃で戦車隊は多くのダメージを受けており、随伴していた歩兵もほとんどが吹き飛んで戦闘不能になっている。残党狩りでもしてるようかの勢いで、あっという間に制圧が完了した。
『た、たった12人に制圧された……?』
『り、理事!このままでは突破されます!』
『ええい!アレを出せ!残りの戦力全てをぶつけろ!』
『全てですか?施設の防御が……』
『構わん!全てだ!!』
混乱を極めていたのは現場だけでなく、司令室もだ。非戦闘員である先生、つまりリーリァを除けばたったの12人という極小数のチームに手も足も出ずに制圧されているという事実は、混乱させるのに十分だった。
基地内にあるハッチから、複数のゴリアテが起動し出撃する。更に上空からは戦闘用ドローンがわんさかと現れる。兵士もまだいるのかというくらいわらわらと顔を覗く。
(う、嘘ーっ!?1機倒すだけでもあんなに苦労したあの機械が、あんなにいるの!?)
黄色の装甲の量産型ゴリアテを前に、アルが声にならない悲鳴を心の中だけで上げる。
「総力戦に持ち込むつもり?」
シロコが冷静に戦局を見る。あのゴリアテが複数機出てきたこともそうだが、ドローンや兵士の数的にも、総力戦と考えて間違いない量だった。
「セリカはドローンの対処を、ノノミは兵士への攻撃優先!アヤネもドローン持ってきてたよね!?」
「はい、ここにあります」
「アヤネさんのことは私に任せてください。ゴリアテは……」
「私に任せて。3機程度ならまとめて相手出来ると思う。イオリもゴリアテを優先して、チナツは兵士を相手して」
リーリァとヒナの指示で、役割分担を決めていく。
「くっふふ〜、沢山持ってきた爆弾、派手に使えそうだね?」
「は、はい……邪魔者は全部吹き飛ばします!」
「私は兵士を……社長?」
「え?……ええ!そうね!」
固まっていたアルが意識を取り戻す。一瞬心が折れそうになっていたアルとは反対に、社員の3人はやる気満々である。
や、やってやるわよーっ!と、これまた心の中で雄叫びを上げていた。
「じゃあ、私もゴリアテと戦った方がいいよね」
それぞれの役割を聞いていたシロコが、ドローンを用意しつつ構える。
『総員、撃てーッ!』
「攻撃、開始!」
双方、攻撃の準備が整い、同時に攻撃が開始された。
セリカとアルがドローンへ狙いを定め、アヤネのドローンが同じく空へ舞う。ノノミの機関銃がばら撒かれ、チナツとカヨコが裏取りに走る。
ヒナが弾幕の中を駆け抜けながら、適当な3機へと攻撃を仕掛ける。同時に、入っていた情報と違うことがあることにも気がつく。アビドスに現れた理事専用機と違い、しっかりコクピットが露出しないように設計されている。
ーー中距離からコクピットを制圧出来れば楽だったけれど、面倒ね……
ヒナに攻撃された3機が、それぞれ対象を認識し腕のガトリングで攻撃を仕掛けるが、全く当たる気配を感じない。
「なんだあいつ、あんな得物を持っていて妙にすばしっこいぞ……?」
「待て、あの姿は聞いたことがある。ゲヘナの風紀委員長じゃないか?」
「嘘だろ!?あのゲヘナ最強のか?」
「待て、3機で連携すれば流石にあいつでも倒せるはずだ!」
流石に3機の計6門のガトリングの中を突撃してくることはなく、徐々に防壁の方へと移動していく。
1機がガトリングを止めて、ゴリアテを走らせて腕のガトリングで殴りにかかる。同時に逃げ道を塞ぐように、別の1機がミサイルを放つ。
それら全てはヒナへと向かった。それは良かった。しかし、パンチが当たる寸前に羽根を大きく広げながら跳躍し、コクピットの上へと乗った。
「は?」
「……はあ」
モニター越しに映る悪魔の姿に、固まった。銃口がコクピットへと突きつけられ、ゼロ距離での乱射。装甲を用意にぶち抜き戦闘不能へと陥らさせる。
「うわーッ!」
「嘘だろ……クソッ!」
戦闘不能になったゴリアテへ当たることも気にせず、ミサイルを斉射する。しかし命中するどころか、ゴリアテへ当たることもなく空で炸裂する。そして、爆風の中から飛び出す小さな影に、紫色に輝いている銃口。
直後、放たれた紫の弾幕が2機を穴だらけへと変えた。
同時に攻撃を仕掛けに飛び出していたイオリとシロコ。ドローンから放たれたミサイルと、イオリの蹴りがそれぞれ1機ずつ転倒させる。
「な、何だ!?速すぎる!」
「うおおお!!」
倒されながらも必死にガトリングを撃とうとするが、2人の姿をまともに捉えることが出来ていない。
そして、シロコが倒した方へイオリが、逆にイオリが蹴り倒した方にシロコがひょっこり、コクピットの目の前に現れる。
ガンッ、ガンッ、ガンッ。と3発撃つと同時に、反対側では連射をしてそれぞれコクピットをブチ抜いていた。
「なるほど、量産型の方が装甲は薄い……」
「この程度なら相手にもならないな」
それと同時に、ゴリアテの1機が爆発した。
「おい、お前、何して……!」
「消えてください」
コクピットに爆弾を設置したハルカが、ニヤリと笑い起爆スイッチを握ったまま飛び降りた。直後、その機体は見事に爆発していた。
「アヤネさん、そうです……」
「これで!」
敵のドローンとドッグファイトを繰り広げていたアヤネのドローンが、最後の1機を機銃で撃ち落とした。
「これ以上好きにさせ……がッ」
裏を取ろうとしていた兵士の1人が、拳銃で殴られて気絶する。おまけに1発胴体を撃ち抜く。
同時にその背後を狙っていた別の兵士が頭部へ2発撃たれ、バタリと力なく倒れていく。
「ありがとうございます、カヨコさん」
「別に。意外とやるんだね、チナツも」
狙撃チームもドローンの対象が必要なくなったため、ゴリアテと残った兵士への攻撃に参加。
適当な遮蔽で様子を見ていたリーリァは苦笑いしながらも、どうしようか頭を動かしていた。このまま全滅させてからのんびり突入……なんてしていると、流石に時間がかかり過ぎる。黒服は助けたければご自由にどうぞと言わんばかりだったが、それはそれとして実験室に捕まっているという事実は変わらないし。
そう考えていると、ヒナがするりと遮蔽に入ってきた。
「どうしたの?」
「残りの戦力は、風紀委員会だけで対処できるわ。便利屋とアビドス、そして先生は先に進んで」
「……なら、ありがたくそうさせてもらいますかね」
先程からのヒナの暴れ具合からしても、対処できるというのは事実だと思う。
ヒナが再び前線へ向かうと同時に、端末越しに全員に指示を出す。
「アビドス、便利屋は奥に進行するよ!風紀委員会は援護お願い!」
近くでドローンの操作をしていたアヤネと一緒に飛び出し、アルとセリカ、ノノミとカヨコと合流しながら前線でシロコとハルカ、そしてハルカの援護をしていたムツキを拾う。
「プレゼントあげちゃうよ〜!」
ムツキが爆弾を1つ取り出し、ひょいと放り投げると煙幕を放った。
「くそっ、見えな……っ!」
「あなた達の相手は私達よ」
前線に残った兵士達が見ると、ヒナを中心に風紀委員会が集合していた。
ーーーーー
奥へと進んでいくと、基地には似合わない光景が現れる。落ちている黒板、ひしゃげたロッカー。割れた机と椅子。……そして、朽ちた巨大な校舎。
「……ここ、学校?」
セリカが、そんな不思議な光景にボソリと呟く。
「へえ、こんな所に学校があったんだね〜」
「砂漠の真ん中……」
珍しい光景にムツキが楽しそうに観察し、シロコは真剣な表情で考えている。
『先生、ここは……』
「ああ。ここは本来のアビドス高等学校、その本館だ」
アロナの言葉を遮るかのようにーー私にしか聞こえないから偶然だろうけどーーその男は言う。
カイザーの理事、彼は再びその姿をアビドスの前に出したのだ。
「あんたは……!」
「最後の最後までしつこいな、アビドス対策委員会」
「しつこいのはあんたの方だよ、おっさん」
理事の前に立つ。アビドスの騒動の一件、その元凶に。
「リーリァ・アスプレイ……貴様のせいで、全てが台無しだ。これまでありとあらゆる手段を講じて、それでも滅びかけの学校に残り最後まで借金を返そうとあがいて……!あれほど懲らしめて、徹底的に苦しめて、ようやく終わりにできるという時に貴様が現れて……!その上毎日毎日楽しそうにして!私の計画が!!!私の計画がぁぁっ!!!!」
理事の怒りは勝手にヒートアップしていく。……まあ、なんとも醜い姿だと思う。探し物については結局よく分からなかったけど、青春を謳歌している子供達への嫉妬でそこまで嫌がらせしていたというのは、なんというか。
……そういう子供に憧れる気持ちだけは、理解できないこともないけれどさ。
「私達はあなたには屈しない」
「いいからホシノ先輩を返しなさいよ!」
「負けません、あなたのような情けない大人には!絶対に!」
ぐぐぐと、拳に力を込めながら理事は吠える。
「これ以上邪魔をさせるものか……!私は早くあれを見つけなければならないのだ!」
「何の話か知りませんが、そこを退いてもらいます!」
……この状況に陥って尚、見つければ挽回できると考えるような代物。これまでの情報からでも、余程重要なものなのは想像出来たけれど。
「フフフっ……やれるものならやってみるがいい!!」
理事の背後へと、再び黒いゴリアテが現れる。時間をかけられない。……"ズル"をしてもいいかなと少しだけ考えたが、その思考は中断される。
「行きなさい、アビドス!」
「えっ?」
「だから、ここは任せて先に行きなさい!!」
アルのまさかの進言に、全員が少し固まる。……言った本人も含めて。
ーーい、言っちゃったーっ!!
その場の流れで余計なことを言ってしまった。前回ここにいるメンバーでようやく倒せたあのゴリアテを前に、先に行けなんて言える余裕はない筈なのだが。
「うっわ……アルちゃん、それは惚れちゃうよ……」
「はあ……」
「さっ、流石アル様です。一生着いて行きます!」
察しながらも鼓舞するムツキと、完全に呆れているカヨコに、気付いてないハルカ。
まあ、この流れでやっぱ無理助けてなんて言えるはずもなく。
「早く、行きなさいッ!」
「ありがとね、アル」
「こ、この、礼は言わないわよ!……ラーメン1杯奢るから、今度一緒に行くわよ!」
「もうセリカちゃん……ありがとうございます、皆さん」
「このご恩は必ず!」
リーリァ含めて、各々が礼を言いながらも走る。
「させるかぁ!」
「それは、こっちの台詞よ!」
理事がゴリアテで殴ろうとすると同時に、アルが撃つ。片手で狙撃銃を構え立っている姿は、ハードボイルドと言っても間違いないものだったのではないだろうか。
ーーーーー
『ねえ、ホシノちゃん。私ね、ホシノちゃんと初めて会った時、これは夢なんじゃないかと思って、何度も頬をつねったの』
深い緑の髪を揺らしながら、彼女は喋る。
『ホシノちゃんみたいか、可愛くて強くて、頼れる後輩がそばにいてくれるなんていう夢みたいなことが、本当に嬉しくて……』
ホシノは黙って、言葉の続きを待つ。
『うーん、上手く説明できてないかもしれないけど……ただ、こうしてホシノちゃんと一緒にいられることが、私にとって奇跡みたいなものなの』
この人は何を言っているのだろうか。軽く溜息をしながらホシノは応える。
『……毎日毎日、こうして一緒にいるじゃないですか。昨日も今日も、明日もこうです。こんな当たり前のことで、何を大袈裟なことを』
『はぅ……だって……』
『「奇跡」というのはもっと凄くて、珍しいもののことですよ』
『……ううん、ホシノちゃん。私は、そうは思わないよ。ねえ、ホシノちゃん。いつかホシノちゃんにも可愛い後輩ができたら、その時は……』
……奇しくも、そんな日々が『奇跡』だったことを、自らの身を持って証明してしまった。
ーーゴォン!!
「何っ!?」
静寂が、爆発の音と振動によってかき消される。ホシノの身体を拘束していたものは、その衝撃で外れ身体が床へと落ちる。
断頭台へと上がり、その刃が振り下ろされるのを待っていただけだったのに。まるでその断頭台がひっくり返ったかのような。
「……リーリァちゃん?」
きっと、そうだ。頼りになるのに何処か頼りにしてはいけないような変な雰囲気で、とても強いのに銃弾1つで死にかねなくて、大人で先生なのに子供っぽい、あの人。
……リーリァは、もう知っていたのだろうか。なんてことの無い日々が、幸せな日常が、かけがえのない奇跡だということを。
私がユメ先輩を失ったことを抱え続けているように、みんなにとって私が消えてしまうことはとても恐ろしいことだって。例え借金を返せても、幸せだった日々は二度と帰ってこないって。
覚悟、していたのに。……私は、その『奇跡』を守りたいって思ってたのに。でも、間違えていたんだ。
……ユメ先輩。私、まだ帰れるかな。私は。
足に力を入れる。ゆっくりと立ち上がり、そして。
部屋が、爆発した。
ーーーーー
「ちょっと、なんてことしてくれたのさ!」
瓦礫の下敷きになった理事が、ムツキに顔を蹴られる。
理事が何かのボタンを押したと同時に、アビドスの皆が進んでいった方向にある建物が爆発したのだ。
「くく、忌々しいアビドスも、あの女も、全て生き埋めにしてやる……!」
「ゆ、許せません許せません!」
「いたっ、やめろ!」
ガンガンと、ハルカがショットガンで頭を殴る。
「マジかよ……」
「無事を祈るしかありませんね」
便利屋と合流していた風紀委員会も、そこから眺めていた。
ーーーーー
ホシノを拘束していた実験室は崩れた。足場などなく、ホシノの身体は空を舞う。そして、落ちていく。
ーー駄目なの……?私はもう、何もできないの……?
何もできない。これまで何度も味わってきた無力感が、全身を支配する。重量に身を任せ、全てを諦めて、脱力しかけて。
暗闇でも映える、燃えるような赤が視界の先にあった。
「ホシノッ!!」
「リーリァちゃん……?」
ホシノが落ちるよりも早く、リーリァの身体は飛び降りてきた。救いを求めるように、ホシノは自然と手を伸ばし、そして……2人の手は繋がれた。
「でも、どうやって……」
「
リーリァは
「……うへ」
目を丸くすることしか出来なかった。およそ、普通の人間がしていい動きではない。
そして、とある高度、一見何もない場所で拳を振りかぶり壁を突き破った。そのままの勢いで2人の身体は外へ舞っていき、直後に背後で大爆発が起きた。
「うわぁっ!?」
「わあぁ!?」
ふっ飛ばされて、リーリァの身体はセリカとアヤネに受け止められ、ホシノはノノミに突き刺さるようにぶつかった。
「ホシノ先輩!?」
「リーリァ先生!!」
空を見上げると、そこには僅かに落ち始めた夕焼けが広がっていた。
「本当に心配したんだからね!!」
「先生、無茶しすぎ」
あはは……と、リーリァは笑って誤魔化す。
建物を爆破しようとしている、そのことにいち早く気がついた時点で、ホシノのいる実験室はもう目の前だということを理由に強引に全員を撤退させて1人突入していったのだ。
もちろん、リーリァからすれば大丈夫という自信はあったものの、周りからすればそんなこと知ったことではない。
「悪かったって……それより、主役がお待ちかねだよ?」
「うへへ、主役って……」
「確かに、主役はホシノ先輩ですね」
そもそもの話が、ホシノを救出するための作戦だったのだ。あえて主役と言うならば、それはホシノであろう。
「だから……おっ、おかえり!ホシノ先輩!」
そう最初に言ったのは、セリカだった。言わないと言っていたセリカが、最初に。
まあそうだよねえ、とリーリァは内心笑う。
「あっ!ズルいですセリカちゃん!恥ずかしいから言わないって言ってたのに!」
「うっ、うるさいわね!別にいいでしょ!」
そうは言いながらも、セリカの顔は真っ赤である。……恥ずかしいのは事実なのだろう。
「ホシノ先輩、おかえりなさい!」
「おかえりなさいです!」
「おかえり、ホシノ先輩」
「おかえりなさい、ホシノ」
ーーああ、こんなに温かい言葉だったね、ユメ先輩。
「何だかみんな期待に満ちた表情だけど、求められてるのは
「ああもう!分かってるなら焦らさないでよ!」
「そうですよ、それをホシノ先輩の口から聞くためにここまで来たんですから!」
にへら、とホシノは笑う。心から安心した、笑みを。
「まったく、可愛い後輩達のお願いだし、仕方ないなあ」
息を吸って、吐いて。
「ただいま」
過去は消えない。それでも、奇跡に満ちた明日を掴み取れた。なんてことのない幸せが、なんてことのない日々が、紛れもない、奇跡なのだから。
ーーーーー
かくして、最初の大仕事と事件は幕を閉じた。これでめでたくアビドスが救われ、ハッピーエンド……と、物語ならそうなったのかもしれない。
しかし現実として、借金はほとんど減っていない。失った土地の件も含めて、あくまで合法的な取引だったため、そういう問題は都合よく消えたりしない。
一応、連邦生徒会の調査は行われた。私が上げたアビドス市街への攻撃の映像と、あとブラックマーケットで行われていた不法な取引の件は、介入をする理由としたは十分だったのだろう。結果としてカイザーによって跳ね上げられた異常な金利はなくなり、上げられる前の額も十分高かったため下げられた。借金の総額はそこまで減っていないが、長期的に見れば十分減ると思っていいだろう。
また、理事は速攻クビを切られたようだ。しかも生徒誘拐事件の容疑者。……誘拐自体は、黒服の仕業だと思うんだけどね。それで蜥蜴の尻尾になった結果、彼の責任ということで連邦生徒会へ移送されたが、その途中で逃亡。現在も行方不明とのこと。……まあ、もはやカイザーグループの人間でない彼に力は残っていないだろう。
そういえば、アビドス廃校対策委員会が公的な機関として、半ば騙し討ちみたいな感じで認証させたのは良かったのだが、そのままホシノ救出作戦までゴタゴタしていたのでその件について話す時間がなかった。その後話し合った結果、生徒会長は不在という形になった。唯一の3年であり、旧アビドス生徒会にも所属していたホシノがするのが自然な流れだとは思うけれど、本人は拒否しているようだ。……過去を割り切るのは、そう簡単なことではない。それもわかるから、無理してさせるつもりはない。
また、借金の足しの為に対策委員会がシャーレの部員として働くという約束。こちらも現在実行中。
仕事の一環という体で、今私はゲヘナに、アヤネと共に来ている。
「うわー!」
「きゃー!」
生徒会のメンバーの悲鳴が上がる。ヒナが引き金を引く度に、次々となぎ倒されていく。
イオリは射線を振り切るように跳び上がりヒナに蹴りを入れようとするが、軽く身体を逸らして躱し、逆にその銃口を腹に突きつけた。
「かはっ」
もろに食らったイオリはそのままゴロゴロと転がり、しかしすぐに立ち上がり構え直した。
「どうですか?」
「大変なんですね、風紀委員会の訓練は……」
後方で待機しているアコが話しかけてくる。
アビドスでも訓練自体はするだろうが、5人しかいないのでこういった派手な訓練を行うことはないのだろう。
しかし、考えられた訓練だ。ヒナは訓練された集団相手の殲滅戦を、相手しているメンバーは強敵を制圧するための訓練を同時に行っている。
「これを考えたのは?」
「委員長です」
「ふーん、ヒナちゃんがねえ……」
いい訓練だなと思う反面、大きな欠点もある。ヒナが部員相手に戦えるだけの実力があるということは、逆にヒナに敵うような相手がいないということでもある。確かに彼女にとって殲滅戦をするための訓練にはなっているのかもしれないが、それ以上の成果を期待できない。……ならば、彼女自信のための訓練はいつしているのだろうか。
なんて考えながらアコをちら見すると、ジト目で睨んでいた。
「結局、委員長のことを"ヒナちゃん"呼びするのは何なんです……?」
「ほら、可愛いじゃん」
「委員長を見た第一印象が'可愛い"なのは中々図太いですね。ですが、私が聞きたいのはそうではなく……」
アコが言いたいのは、例えば怖いとか、強そうとか、そういった印象ではなくて可愛いという印象を覚えるなんて変人ですね、ということなのだろう。
確かに、並大抵の人は可愛いとかいう感想を覚えることは出来ないだろう。
「いや、私の知り合いに孤児院の経営をしてる人が……まあ、一応いたのよ。だからそういう子供と話す機会がそれなりにあって。……で、ヒナちゃん、背が低いじゃん?」
「はあ?委員長のことを孤児と同じ目線で見てます?」
「……孤児院、ですか。もしかして先生も?」
「やー、違う違う」
「それで、その人は?今も元気なんです?」
「まあ元気でしょ、多分」
本人曰く
その日はそれ以上特別なこともなくーーまあ訓練中に不良達による軽い事件が起きて、制圧をしに向かっていったけどーー終わった。
そういえば、便利屋68はまた何処かへ避難したようだ。何だかんだ風紀委員会と共闘していたが、あれはあくまで一時的な関係。基本的には追う側と追われる側のようだ。
何処へ転移したのかは知らないけれど、まあ……便利屋全員とモモトークは交換してあるので、連絡に困ることはないだろう。
「大将、やってる〜?」
「お、来たか」
大将のラーメン屋だけど、屋台という形で再開することにしたらしい。今日はいないみたいだけれど、セリカもまたバイトとして働いているとのこと。
「いやあ、相変わらず美味いね、柴関ラーメン!」
「そういうお嬢ちゃんも、相変わらずかい?」
「そりゃあ相変わらず"先生"だよ」
そういえば、黒服の動向についてだけどこれは完全に不明。一応黒服と会ったあのビルも調べてみたが、特に痕跡は残っていなかった。
ゲマトリアという組織については、またちょっと奇妙な情報を得た。どうやら昔存在していた組織だったようで。つまり、現ゲマトリアは名前を借りているだけということだ。
……まあ、生徒達に手を出すことをしなければ、私から何かするつもりもない。今回の件のような大ごとになる可能性もあるので、警戒くらいはしておくけれど。
「いやあ、あの時のリーリァちゃん、超カッコよかったよ?」
「……そっかなあ」
あの時というのは、崩落している実験室で助けに行った時のことらしい。
「正に勇者って感じだったよ」
「……絶妙に褒められてない気がするんだけど」
「ううん、リーリァちゃん。私は、ちゃんとリーリァちゃんのことを見て、その上で思ったの。昔なんかあったとか、そういう難しい話じゃない。ただカッコよくて強い人のこと、勇者って呼ぶのは駄目かな?」
「あ〜……それ、すっごい嬉しいかも」
早朝の対策委員会の部室。秘密を共有している2人の密会は、扉の開く音で終わりを告げる。
「おはようございます、ホシノ先輩。それに、先生も早いですね」
「おはよ〜、アヤネちゃん」
「おはよう。こう見えて私は早起きだからね」
そういえば、これはチラリと聞いた噂。覆面水着団なる恐ろしい強盗集団と、そのリーダーのファウスト。更にリーダーさえも統べる真のボスがいるとか何だとか。
そんな集団知らないし聞いたこともないけれど、いやはや噂というものは恐ろしいものだ。アルが漏らしたとも考えづらい……けれど、それでも広がるものは広がってしまうものだ。
……いや、そういえばホシノ救出作戦の際にヒフミが連絡を私宛に入れてきていたけど、その時例の紙袋を被っていたな。まさかトリニティから広がったのでは?
と、色々可能性は考えてみたけど、どれでも大差はない気がする。まあ原型がなくなるほどの噂が流れてないだけで良しとしよう。例えば……そうだね、指先1つでブラックマーケットを制圧した、とか。
「ペロロ……ペロロ……」
「そうです、これがペロロ様です!」
「そしてこちらが……」
そんなヒフミだけど、ノノミと合わせて凄いモモフレンズを推してきた。私に趣味がないという話をホシノが漏らしたようだ。……多分、わざと。
サブカルの類はキヴォトスに来てから初めて触るようなものなので、正直よく分からないというのが本音。
これが、全ての始まり。私の先生としての、始まり。きっと、そうだったんじゃないかなと、今なら思うかな。
あとがき
未来は明るく差すが、過去という影は拭えない。そんな感じかもしれないしそうでもないかもしれませんが、あとがきのお時間です。
vol1、2章完結です。1章→2章が続き物なので、ようやく1区切りついたかなって感じします。
とりあえず次回からは、vol2に入る前にイベントストーリー、の前に!絆ストーリー始めとした単話が続きます。vol1の1〜2章って後への影響大きすぎて下手に話をいじれなかったですが、しばらくはオリジナリティ強い話が続くかもしれません。
ここからまた好き勝手話すだけなので、読んでも読まなくても自由なコーナーです。
まず、黒服が先生と対面するシーンですが、かなり先生重要なシーンですよね。作品のテーマとか、そういった要素が強く出るシーンです。なので、本作でもそういったメタ的な側面でも重要なシーンとして描きました。えっ?黒服がウキウキすぎてそうには見えない?そう言われるとそうですね、ハイ。
そして作品としての話といえば、(個人的な考えではあるんですけど)ブルアカも終末なにしてますか?シリーズも、戦闘描写は多いものの話の主軸としてはバトル物ではないと思ってます。なので最初は戦闘シーンはほぼカットでもいいかなと思ってたんですが、気がついたら書いてました。バトルが主軸じゃなかったとして、カットしていいかと聞かれたらまた違うということは平成ライダー初期が物語っている、多分、きっと。
あと、あれです。終末なにしてますか?シリーズ原作キャラは、リーリァ以外は
おしゃべりタイムはここら辺にしておきましょうかね。なんかこれ以上語りだすと終わらない気がする。
なのであとがきはここまで。それではまた次回!