それは、ある日のこと。D.U.近郊をリーリァが歩いていると、適当な裏通りで見覚えのある姿が1つ、そして知らない姿が1つ見えた。
「ほら見たことか、何か企んでるんじゃないか!?」
その知らない姿の方が、一方的に問い詰めている様子。なるほどこれはどうしようかなと少し様子見。
「とりあえず学生証を出しなさい。身元確認するから」
そう詰められた相手は、一瞬抵抗しようとした。しかし、直後に浮かんだ表情は……また、見覚えのある感情だった。
「カヨコちゃーん!」
わざとらしく声をあげながら、手をぶんぶん振り詰められていた少女、カヨコの元へ走る。
突然の乱入者に、2人の視線は当然こちらを向く。
「……どなたですか?」
「それは私の台詞だね。この辺りの警官であんたのことは見たことないんだけど……新人さん?」
「はあ?なんの……」
リーリァは自己紹介をせず、変わりにぶら下げているシャーレの名札を見せつける。
「………なるほど、先生でしたか」
「そういうこと」
ニコニコと顔だけ笑みを浮かべつつ、手で何処かへ行くように誘導する。今ならまだ見逃してやる、そういう意思を込めて。
「分かりました。先生のお知り合いなら大丈夫でしょう」
その意図を組んだのか、適当なことを言いながら警官は……いや、警官らしい格好をしたロボットは去っていく。
……ロボット人間達は、顔が顔なので見分けにくいなあと内心苦笑い。
「……どうして助けてくれたの?」
警官もどきが去ったからか、黙っていたカヨコが口を開く。
「今更説明いる?」
「……先生だから?」
「まあ偶然見かけたからってのもある」
いくらリーリァで元勇者で現先生であっても、キヴォトスの端から端までの小さなトラブルまで追える訳ではない。今日も別に仕事ではなく、ユウカにケツを叩かれて休みを取っていただけだ。
特に散歩のルートも決めていた訳ではないし、単に運が良かっただけだろう。
「……感謝はしておくけど、別にいいよ。ああやって警察に捕まることは良くあるし」
「そうなの?」
「この顔だから。よく不審者だと思われる」
はあ、とカヨコは分かりやすく溜息をする。しかし、リーリァの抱いた感想は、なんで?というものである。
確かに耳にピアスはしているが、流石にそれだけで不審者はないだろう。特徴的な髪色もしていて目立つが、それもまた不審者と断定するものではない。目付きは少々鋭いが、顔全体が整っているし、むしろ受ける印象は……
「へえ、こんな美人さんを不審者扱いする奴がいるんだ……」
「美人……?」
「うん、カヨコは可愛いってよりは綺麗って感じでしょ」
リーリァは目を逸らさない。真っ直ぐに見つめられ、ぶつけられた感情。便利屋の仲間にさえ滅多に言われない言葉に、カヨコは少しドキドキしながら目を逸らした。
「……先生だって、十分美人でしょ」
なんとか絞り出した言葉がそれである。
「まーそれなりにはいい線行ってるとは思うけど、カヨコ程じゃないよ」
「否定はしないんだ」
「卑下しすぎるのも良くないからね」
にししと笑う。冗談めかして言っているが、実際リーリァは自分のことを卑下できる立場ではない。客観的に自身を見つめて評価できなければ、人類最強の勇者なんてやってられない。
それに、もし自分のこと卑下したとして……自分より才能を持たない多くの人間へ、失礼にあたるというのもあるし。
少しネガティブな思考に入りかけていることに気が付き、話題を変える。
「でも、なんでこんな所にいるのさ」
こんな所というのは、D.U.に……ではなく、裏通りに、ということである。まあ千本譲ってカヨコが勘違いされやすい顔をしていたとしても、こんな所にいなければ捕まることはなかっただろう。
「……野良猫に、餌やってたの」
少し考えてからの発言だった。素直に言うのが恥ずかしいという気持ちと、この人なら大丈夫だろうという信頼。天秤は後者へと傾いた。
「へえ?猫、好きなんだ」
「……悪い?」
「いや〜、それは全然ありだよ。私も好きだし」
リーリァは趣味らしい趣味がない……が、別にその辺の感性は一般人のそれである。普通に可愛いものは好きだ。
「でも、飼うつもりが無いなら野良猫に餌あげるのはやめなよ。責任、取れないから」
「………」
リーリァは声のトーンを変えずに、あくまでサラッと言ったつもりだった。しかし、カヨコには何となく理解できてしまった。それが、リーリァという人間の本質だと。
だからこそ、このちょっと変わった先生に、意地悪をしたくなった。自分よりムツキの方がしそうだな……と、少し苦笑いしながら。
「なら、責任取れる?」
「へ?」
場所は変わってシャーレ内、リーリァの居住スペース。
ベッドの上にはのほほんと笑っている、くじららしきぬいぐるみが置いてある。
「……カヨコは猫じゃないでしょ」
「……」
そのくじら以外、これと言ってめぼしいものはない。生活空間を見れば、リーリァという人間について少しでも分かるのではないかと思ったが、分かるような分からないような。
ただ、1つ言えることは……彼女に趣味らしい趣味はなさそうだ、ということ。いや、見えるように置かないだけかもしれないが、それにしたって質素な部屋だ。
……ポケットの中から音楽プレイヤーとイヤホンを取り出す。
「先生は音楽とか聞く?」
「ん?……うーん」
どうだろうかと一瞬考えて、いや、聞かないなあ……と1人で納得する。
「これ、私の推してるバンドの曲。聴いてみて」
「バンドかあ」
バンドとなると尚更聴いたことはない。どんなものだろうかと、少しだけ興味を引かれながらもイヤホンを付けてみる。それを確認すると、カヨコはプレイヤーのボタンを押す。
ーーギュィィイイイイン!!!
全く予想もしていなかった、激しくうるさい音が耳をつんざく。驚きのあまりイヤホンを外しかけるが、このタイミングで外すのは流石に失礼だと何とか押し留まる。
『私が渇望するのは死っ!お前に要らないのは生っ!相手の心臓を抉り抜いて、溢れ出す血でのどを潤せええぇぇぇぇ!!!』
それは最早歌詞と言っていいのか分からない、音楽に合わせて叫んでるだけではないのかという声が聞こえる。
……これ、ヤバいのでは?
流石にイヤホンを外し、カヨコの肩を掴み視線を合わせて言う。
「その、何か悩んでるなら聞くよ……?」
「…………」
雰囲気で分かる。冗談半分ではなく、本気で心配されているやつだと。
バンドを貶されているように感じる怒りが半分、この人はちゃんと心配とかしてくれるんだなという納得が半分。絶妙な感情を何とか飲み込み、リーリァの手を剥がす。
「ヘビメタ、聞いたことないんだ」
「ヘビメタぁ……?ごめん、全然分かんない」
ぽかーんとしているリーリァに、丁寧に"ヘビーメタル"とは何なのかを説明する。話して分からないような人ではない……はず。
「はあ、なるほど。うん、ヘビメタについては分かったけど、流石に歌詞が物騒すぎない?」
「確かに『ブラック・デス・ポイズン』の歌詞は多少過激かもしれないけど、人生において不可欠で、教訓的ないい内容が含まれてる」
「うーん……」
「先生もファーストアルバムを聴いてみれば、分かるはずだよ」
「………まあ、また聴いてみるよ」
何とも鈍い反応。こういう時、大抵の人は聴かないものだ。……この人に、何を期待していたのだろうか。いや、期待してしまっていたのか?
「でも、私これしかないんだよなあ」
そう言って、リーリァが見せてきたのはスマホである。
「……?」
「いや、やっぱそういう専用のプレイヤーとか、それか高いスピーカーか。音を聞くんだったら、スマホはあんまり良くないでしょ」
「確かに、そうだけど」
とはいえ大半の人は、音楽を聴くのに専用の道具を買うことは少ない。最近の端末類の音質も、昔に比べたらかなり良くなっている。
……しかし、だ。彼女は真剣な顔でそう言っている。さっきの反応は適当にはぐらかそうとしたのではなく、ただ悩んでいただけだったのだ。
そういう真摯な対応をするから、だから期待してしまうのではないだろうか。
「……私から言い出したことだけど、そこまで"責任"を感じなくていいと思う」
だから、心配になるのだ。
本当は趣味でも何でもない音楽、それも人を選ぶジャンルであるヘビメタ。それを、ただカヨコに勧められたから、という理由だけでここまで真剣に聞こうとしている。
ーー責任を取ってくれる?
さっきの発言だって、からかうくらいのつもりで言った。しかし、対して仲もよくないはずのカヨコのことを、プライベートな空間に連れてきている。
この人は。……どれだけの責任を、背負うのだろうか。
「………ふう」
溜息だった。
「いや、生徒に心配されるなんてまだまだだね。いい先生になるにはまだまだ遠いかなあ」
「………」
にししと笑って誤魔化そうとしている。……まあ、そこまで拒絶するのであれば、こちらからは干渉する理由なんてない。
来るものは拒まないが、こちらからは突っ込まない。今までそうして生きてきたし、これからもそうして生きていくつもりだけれど。
だけれど、不思議とこの人は手を伸ばしたくなってしまう。だって、まるで……野良猫のようだからだ。でも野良猫と違って、1人では生きていけなさそうだから。
「まだ、時間ってある?」
「ん?」
「私のオススメのプレイヤー、教えてあげる」
そうして、カヨコに連れられて近場の家電量販店へと向かう。D.U.内だけあって、かなり規模の大きい店舗だ。ここならあると思う、そう言うカヨコでそれらしきコーナーへと案内される。
リーリァは、書いてあることを読んでみるが……まあ、全然分からない。"音"に関する知識は、残念ながらこれまでの生活では仕入れてこなかったものだ。
「へえ、こうして見るとピンキリだね」
「そうだね。……先生って、お金ってあるの?」
「うん。まああんま高いのだと困るけど」
先月は全力の極貧生活をしていたし、今あるのは先月末に入った給料から生活費を抜いた分だけ。
もちろん、シャーレの給料が極端に少ないということはないので、1万も出せない!なんて事態にはなってないが。
「私が使ってるのはこれ」
「へー。じゃあこれにしよっかな」
「……他は見ないの?」
「私が見ても分からないし。何より、バンドのこと好きなカヨコが使ってるやつなんだし、悪いものじゃないでしょ」
もちろん、これよりいい奴なんてのもあるにはあるだろう。ただ上を見すぎると数十万とかになるし、何処かで見切りは付けないといけない。
でも、そのラインを探るには知識不足である。なら、オススメされたもので十分だ。
「イヤホンも無いよね。……無線と有線、どっちが好きとかある?」
「別に。むしろ何が違うの?」
「無線の方が邪魔にならないけど充電は必要だし、小さいからよく落とす人はなくしやすいかな。あと、有線の方が安かったりもするけど」
「じゃあ、とりあえずは有線でいいかな」
別になくす心配はないけど、プレイヤーと一緒に高いイヤホンまで買うのは少々辛い。それに、充電がいらないなら聴きたい時に聴けて便利ではないだろうか。
それから、イヤホンもまたカヨコと共に選ぶ。こちらもまた知識はないので、値段以外はカヨコのチョイスになるが。
「……アルバムはCD買わないと駄目かな」
「ストリーミングで良いと思うけど」
「ああ、そういうのもあるんだっけ」
「………」
イヤホンとプレイヤーが入っている袋を持ちながら、帰路に付く。帰路は帰路でも、シャーレではなく便利屋の事務所の方へだが。
「聴いてくれるのは嬉しいけど、無理してまでしなくてもいいから」
「無理なんかしてないって。ただ、カヨコが好きっていうものをさ、知らないままにしておくのも違うと思うのよ」
まあ、実際聴いてくれれば彼女が『ブラック・デス・ポイズン』の良さを理解してくれる可能性はあるし、それは悪いことではないのだけど。
……ただ、何故そこまでしようとするのか。それはリーリァという人間が選んだことなのか、先生という責任が選ばせたことなのか。いまいち分かりそうにない。
「そうだ、今度猫カフェとか行ってみない?」
「?」
「猫、好きなんでしょ?私はまだ行ったことないんだけどさ」
「……私もないよ」
「何?もしかして顔のこと気にしてる?カヨコ程の美人を、不審者みたいな怖い顔だ、なんて言うやつがいたら私がぶっ飛ばしてやるんだからね」
「ふふっ」
でも、これは先生としてではなく、リーリァとして本音なのだろうと何となく理解する。
「もう、ここで大丈夫。……もし、また依頼したいことがあれば是非社長にかけて」
「まあ、そんな事態にはならない方が嬉しいけどね。……また、感想送るから、じゃあね」
この1日を通して、1つだけ変わったことがあるのなら、それは彼女へ感じていた不信感がなくなったことだろう。
確かに彼女は多くのことを隠しているし、何かを背負っているように見えるが……少なくとも、皆に悪影響や危害を加えるような人間ではない。そう、確信出来るだけのものがあった。
「美人、か」
……正直な所、そう言われたことは少し嬉しかったのかもしれない。
ーーーーー
それは数日後の話。
カヨコに勧められたバンドの曲を寝る前に聞いたせいで、目が冴えてよく眠れなかった。
そんな状態でふらふらと部室で仕事に取り掛かる。まあ一度眠れなかっただけでまともに仕事が出来なくなるほどやわではない。最初は慣れない作業だったので大変だったが、ここ最近は慣れてきたものだ。
幸いその日はトラブルもなく、そろそろ仕事を切り上げようかな〜と思ったところで端末に通知。
「アロナ〜」
『ハルカさんからの連絡です!』
「……ハルカ?」
ハルカと言えば便利屋68の、ちょっと危なそうな子だ。また便利屋の誰かと用ができるとは、偶然なのかそれともカヨコの話だろうか。
『あの』
『もし、』
『もし時間がありましたら、大したことではないのですが、』
『こちらに来てもらって、ちょっと確認していただけませんか』
『どうしてもというほどではありません』
『それか、私がまた今度、』
『いえ』
『何でもありません』
ハルカらしい、卑屈というか縮こまったというか、無駄に謙遜しているような文章だ。
しかし、"確認"とはなんだろう。別に便利屋の仕事に関わってるわけでもないし、個人的な親交もない。何より、リーリァが確認できることなんて精々書類関連のことだけだろうが、ハルカが書類担当とはちょっと考えにくい。そこら辺はカヨコとアルではないだろうか。
……まあ、ちょうどこっちも時間できたし、見てみようか。
『行くよ〜』
『今どこ?』
行くと打ってから、そもそも何処にいるか知らないのでついでに聞いておく。
すると、1秒も経たずに返信が。言われた場所へ向かってみることに。
ということで、言われた場所へ……とある学校の校舎へ着く。
「やっほ〜、ハルカ」
じっと待っていたのだろうハルカが、呼びかけに気がついてリーリァを見る。そして……
「……?」
「……?」
お互い首を傾げた。
「先生……?」
「うん」
「……!?」
あー、なんだろうか。多分、予想通りなやつ。
「せ、せせせせ先生!?どうしてここに!?」
「ハルカ、モモトーク確認してみて」
「も、モモトーク!?……!!!」
言われて気がついたのだろうか、月明かりの下でも分かりやすいくらい顔を真っ青にしながら大慌てでスマホを取り出し、そしてもっと真っ青……真っ青通り越して真っ白になる。大丈夫?生きてる?
「す、すすすすすすすみません!た、たた大変失礼なことを……!わ、私、その、これは……!先生に送ろうとしたのではなく……!間違えて……!間違えて先生に送ってしまいました……!ど、どうしましょう……!!」
最初は気が付かなかったが、道中で思ったのだ。便利屋の誰かへ送る予定だったものを間違って送ったのではないか、と。
1つ予想外なことを言うなら、ただ送り間違えて呼び出してしまった、ということでとんでもなく取り乱していることなのだが。……普段からこんな感じなんだろうなと言われると、それはそれで納得の行く話なのがこれまたなんとも。
「落ち着いて、私は別に大丈夫だから」
「で、でも……!」
「えい!」
「わぷっ」
1人で錯乱しかけているハルカを無理やり抱きしめる。最初は何が起きたのか分からずに固まり、理解して離れようと暴れ、逃げられないのを理解したのかまた固まる。
「はい、落ち着いた?」
「……はい」
今度は顔が真っ赤である。うーむ、中々ヤバい子だと思ってはいたが、こうして相手していると面白いかもしれない。
「それで?何をしてたの?折角だから確認するけど」
「ほ、ほほ本当ですか!?……ええっと、その、爆弾を、設置してました……」
…………うーん、まあハルカらしい仕事かもしれないけど。
「爆弾」
「は、はい、爆弾です。便利屋への依頼で……明日どうしても遅刻させなきゃならない人がいて、明日ここを通るみたいなので、通る時に爆発させれば……そしたら、遅刻させられますから……永遠に……」
ハルカはニンマリと笑う。……我ながら良い仕事をしたとか、なんかそういうニュアンスを感じる。
「えっと……誰かからの指示?」
「……え?あ、いえ、特に爆弾を設置するように指示は」
まあ、そうだろう。ただ遅刻させるだけの依頼で、校舎ごと発破して大怪我させようと思うのは、ハルカ以外のメンバーの発想ではない。
正直、今回の依頼には一切噛んでないのでこの暴走を収めるのは義務ではないのだが……
「いやあ、結果的に私を呼んでくれて正解だったね」
「え?そうなんですか?……良く、分かりませんが、先生が大丈夫なら良かったです……!」
「うん、爆弾、全部回収」
「……え?あ、はい。それは全然……!先生がおっしゃるなら……」
あ、それでいいんだ。
意外と全く抵抗せずに、素直に爆弾の回収をする。その数は二桁にも及んだ。この狭いエリアを発破するだけで、何とも入念に設置したものだとある意味感心させられた。
「終わりました……えっと、もしかして私、余計なことをしてしまったのでしょうか……」
あ、今聞くんだねそれ。
「うん、まあ凄く余計だね」
「そ、そうなんですか……?」
「あくまで仕事は目標の遅刻だよ?消すことじゃない。それなのにこんな派手な攻撃したら、また別の方向でトラブルになる。あまり皆に迷惑かけたくないよね?」
「……はい」
しょんぼりといった様子。まあ、ハルカ的には任務を必ず遂行するために善意で行ったのだろうーーそれが恐ろしいのだがーーから、それが余計なことだったと指摘されれば凹むのはしょうがないかもしれない。
しかし、ここは庇わないでおこう。成長のためだ。
………1つ思い出すのは、まだアビドスで敵対していた時のことだ。アルがなんかヒートアップしていた時に、ハルカがこっそりと起爆スイッチらしきものを取り出そうとしていたことを思い出す。まあ、アルを収めたら直ぐに仕舞ってくれたけど。……ただあそこで取り出したということは、柴関ラーメンの店舗にも爆弾を仕掛けていたのではないだろうか。
「……ねえ、他に仕掛けてたりしない?」
そういう、"暴走"をしやすい彼女が、爆弾をこの辺りのエリアだけにしているなんて生易しいことをするだろうか。
「えっと……ビルの地下、ジムに、公園……」
「うん、それらも解体ね」
「全部ですか?」
「もちろん全部」
……危うく便利屋68が、この辺り一帯に爆弾を仕掛け攻撃した無差別テロリストになる所だった。なんだろうか、彼女らが指名手配されているのはそういう暴走の副産物のような気がしてきた。
「じゃあ行こっか」
「……え、えっ!?いえいえ、私1人だけでも十分です!わざわざ私なんかに付き合わせてしまう訳には……!」
「私が解体するって決めたし、1人で行かせるのは無責任でしょ」
「い、いやそもそも私が勝手に設置したものですし、だ、大丈夫です!」
やっていることはヤバいのだが、反省はできる子だし責任感もある。あまりこういう言い方だと同行を許してくれなさそうだし……
「じゃあさ、私がハルカと一緒に行きたいって言ったら?」
「……!?ど、どうして私なんかと……で、でも……」
「嘘なんかじゃないって。ほら、行こう」
「……!?」
まだ迷っているハルカの手を引いて出発する。
まあ、自分のことを卑下しすぎているが、根っこの所は真面目でいい子なのだろう。……やり方がぶっ飛んでることに、目を潰れば。
「……はい、外しました」
「うーん……」
とあるビル、柱の陰に付けていたが……なるほど、確かにここなら気づかれにくい。設置場所のチョイスはプロ顔負けなのではないだろうか。
「……あの、何か?」
「いや、設置場所はかなり考えて付けてるんだなって」
「そ、それは……もちろん、確実に消そうと思っていたので……」
まあ、遅刻させようという所から確実に消そうという発想は、やはり分からないけど。
ということでまた手を引いて歩き始める。
「あぅ……」
「どうしたの?」
「……だ、だだだ大丈夫です……!」
そんなどもられると心配になるんだけど、まあ嘘は言ってなさそうだし次へ。
今度はジム。そもそも不法侵入だとか色々気になるが、そこは一旦見なかったことにする。回収しそこねて怪我人が出たほうが大変だ。
「ちょっともったいないです……ここで爆発させたら、綺麗に消せたのに……」
また恐ろしいことを言っているが、そう言えるということはしっかりと対象の行動ルーチンを確認しているのだろう。また勤勉ではあるのだが……本当に、拾ったのがあのアルで良かったなと心底思う。
「あ、あの……」
「何?」
「わ、私なんかと手を繋いで、その……」
「……あー、別に誰かと付き合ってなんかないし、私は平気だよ」
「えっ、あっ、はい……」
よく考えたら道中ずっと手を引いて来たので、端から見れば恋人同士だろうか。
正直、私はハルカのことは小動物を連れてる感覚で引いて来たのであまり気にしていなかったが……
「ハルカは嫌だったりしない?」
「だ、大丈夫です!先生に繋いでもらえるなんて……!」
今度は公園。しかし随分と歩き回ったのか、もう空が白み始めている。
「これで、全部撤去しました……」
「よし、任務完了って所かね」
じっと、ハルカが見つめてくる。
「どうしたの?」
「あの、どうして私なんかと……」
「はい、それ禁止」
「……!?」
「私といる時だけでいいからさ、
「え、あっ、でも……いえ、先生が言うなら私は……えっ、えっと……」
突然の命令に、目を白黒させている。ちょっと意地悪だったかな?と思いつつも、撤回はしない。あまり自己肯定感が低すぎても良いことなんて無い。もちろん無駄に高いのももちろん危ないけれども。
……それに、
「今日はハルカと一緒にいれて、楽しかったよ」
「あっ、えっと……あぅ、私なんか……じゃなくって、えっと……どうして私に、優しくしてくれるんですか?」
「……どうして、ねえ?」
まあ何となくだけれども、想像は出来てしまう。ゲヘナの中でも爪弾きになっている便利屋という組織に属していること、暴走しがちな言動、低すぎる自己肯定感、アルに対する崇拝のような感情。
……いつも通り、私は先生だから、で締めてもいいんだけれど。
「だって、ハルカが可愛いんだもん」
「………えっ…………!?!?!?」
「ちょ、ちょっと!?」
驚きのあまり、回収してきた爆弾を詰めたバッグを落としかける。……のを、何とか防ぐ。いや、ちょっと落としただけで爆発するようなものとは思わないが、あまりにも危なすぎる。もし起爆したら私が死にかねない。……アロナがいるから平気だとは思うが。
軽いパニックの後、ゆっくりと深呼吸。
「……私が、可愛い、ですか?」
「うん」
「あの」
「うん?」
「……名前で、呼んでいいですか?」
「もちろん、構わないよ」
「ありがとうございます、リーリァさん」
今日初めて見せた、肩から力を抜いた微笑み。そんなに嬉しかったのだろうか。
「私なんか……じゃなくて、私と付き合ってもらって、楽しんでくれて、そ、それに可愛いだなんて言ってもらって……わ、私、リーリァさんの為なら……」
……なんだろう、嫌な予感。
「リーリァさんの為なら、目障りな奴ら、全部排除出来そうです」
いつものニヤついた笑みに戻っていた。
「………その、勝手にはやらないでね?」
「あっ、はい。大丈夫、です。リーリァさんの迷惑にはならないようにしますので」
もう、完全に日が昇っている。すっかり朝だ。………朝、だ。
「……朝?」
「えっと……?」
「その、遅刻させるのって今日のことじゃない……?」
「…………!!!」
まあ、ハルカがその仕事にどう噛んでいるのかは知らないけれど。勝手に爆弾設置してたくらいだしなにも分担されてない可能性まであるけれど、それはそれ。仕事の当日に戻ってこないともなれば良くないだろう。
「……よし」
「!?」
幸い便利屋の事務所がどこらへんかは、カヨコを送ったばかりだし覚えている。
特に承諾を得ずに、ハルカのことを抱える。いわゆるお姫様抱っこという奴だ。まあ、している私の方が姫様なんだけどね、とかくだらないことを考えながら、
「今日のデート、皆には内緒ね?」
「え?えっ!?」
「掴まっててよ!」
そして、まだ人があまりいない早朝の中で、リーリァは跳んでいく。壁面を蹴ったらその建物が壊れかねないので、適当な屋上に優しく着地しながらも何度も跳んでいく。
「!?!?」
高速で景色が流れていく。時間としては決して長くなかったが、まるで永遠のような感触さえ覚えた。
「じゃ、ここら辺でいいよね」
「えっと……?」
事務所近くの適当な場所でリーリァに降ろされる。しかしハルカは今の景色と、リーリァの顔が頭から消えずにまだ少しふわふわとしている。
「……急で驚いたかな?」
「……秘密、ですよね?」
「うん」
「えへへ……」
そして、一晩の秘密のデートは終わった。
……それ以降、便利屋の4人がシャーレに来る機会が増えたのはまた別の話である。
ーーーーー
『聴いたよ、アルバム!』
『カヨコの言ってたことは何となく分かったけど、ごめん!私にはやっぱり合わなかったな』
『そうだ、私の推しバンドとか出来たらさ、今度はカヨコが聴いてよ』
『まあ、いつになるかは分からないけどね!』
カヨコは小さく溜息を吐く。
まあ、良さが分かってもらえたのなら十分かな。と、考える。
……しかし、本当に真面目だ、あの人は。
「あれ?もしかして先生?」
「ちょっと、勝手に覗かないでよ」
「いいじゃーん、別に隠すことじゃないでしょ?」
「……まあ、そうだけどさ」
「か、カヨコ室長も
「……?」
珍しくハルカも乗ってきたと思ったが、一瞬違和感。
……とりあえず返信しよう。見られながらなのが困るけれど。
『うん、待ってるよ』
あとがき
はい、カヨコとハルカの回でした。ムツキとアルに関してはまた今度です。
えー、まあその前に1つ、先週投稿なかった件についてですね。はい、その、バレンヌ帝国の歴史を刻んでたと言いますか、七英雄とタームとの決戦をしていたと申しますか……それだけならともかく、他にも急用が出来たりと中々カオスで……
はい!!!申し訳ありませんでした!!!!!
なるべく週1投稿はしたいと思ってますが、不定期にはなりますのでよろしくお願いします。イラストの練習もしてたり、あと仕事が忙しかったり……ゲ製もしたいなとか思ったり、やりたいことばかりで。
と、言い訳のお時間はここまでにしましょう。
ここで一旦、イベントストーリー挟もうかと思います。あれですよあれ、アビドス後の時系列でイベントと言ったらあれですよ。多分みんな分かってるとは思いますが、一旦言わないでおきます。
ということでまた次回!サヨナラッ!投稿者はしめやかに爆発四散!