元勇者の先生日誌   作:Ruve

20 / 26
vol.ev 百夜ノ春に、忍者咲く
Ev-1


 リーリァがキーボードを叩く音が聞こえる。カタカタカタ、という音からして何かの文字列を入力しているだろうということは想像できるかもしれない。

 そんな様子のリーリァの近くに、缶が1つ置かれる。

 

「お疲れ様、リーリァちゃん」

「……」

 

 手を止めて、缶を置いた人物と目を合わせる。もちろん、誰かは分かっている。声もそうだが、"リーリァちゃん"なんて呼び方をする人物は、今のところ1人しか知らない。

 

「別に、休んでくれていてもいいんだよ?」

「うん、おじさんは疲れたし休ませてもらうよ〜」

 

 そう言って近くの椅子を引き、リーリァの隣に座る。それからキャップを外し、麦茶をごくごくと飲み始め、ぷはーと声を出す。その様子は確かにおじさんのようではあるが。

 ……というのも、1時間前までまた訓練をしていたのだ。鶯賛崩疾は一旦片隅に置いて、もっと違う角度の訓練をしていた。音から物の位置や形状を"正確に"把握するためのものである。格闘術なんかと違って、これは普段の戦闘でも使えるものだと思って始めたのだが。

 

「うへ〜」

 

 結果としては、無理である。リーリァという人間は、およそレベルが違うのだ。

 もちろんホシノも、音の方向が分からないほど音痴ではない。銃声がすれば何処からどの様な弾が撃たれたのか予想は出来る。しかしリーリァのそれはまた話が違う。

 例えば、今自分がどの様な空間にいるのかをミリ単位で正確に把握したり、少し離れた家屋が老朽化して剥がれ落ちかけていることを理解出来たりするのだ。

 

「………」

 

 ホシノの視線が、リーリァから側に置いてあるスマホへと移る。どうやら着信があるようだが、マナーモードになっているため気がついていない様子。

 流石にそこまでは分からないよね〜と安心しながらも、ちょんちょんと肩を突く。

 

「ん?」

「電話だよ〜?」

「ああ、音切ってたんだっけ」

 

 音にまつわる訓練をしていたので一旦マナーモードにしていたのだが、普段はやらないことなので戻すのをすっかり忘れていた。

 知らない番号だな〜と思いながらも出てみる。

 

「もしもし、こちらシャーレ」

『えっと、もしもし!その、こちらは……シャーレのリーリァ先生で、間違いないですよね?』

「うん、合ってるよ」

 

 電話の相手は、おずおず……といった様子なので、努めて明るく返す。

 とりあえず、知らない相手なのは間違いなさそうだ。

 

「それで、何の用かな?」

『あ、えっと……んんっ、よし……』

 

 ……声の調子を整えてる?

 

『改めて……初めまして、シャーレのリーリァ先生!私、シズコって言います!』

 

 ………あー、なるほどね。

 聞いているリーリァの顔が余程変なのか、ホシノは小さく笑う。

 

『シズコ実は、百鬼夜行連合学院に所属している「お祭り運営委員会」の委員長で、なんと!同時に、百夜堂の看板娘だったりします☆』

 

 百鬼夜行連合学院、名前は聞いたことがある。かなり独特な雰囲気の学院らしいけどーーその条件だと何処の学園もだいたいそうなんだけどーー百夜堂というのは聞いたことがない。まあ余り詳しく調べていないからしょうがないのだけれども。

 しかし、看板娘と聞いてなんとなく事情は察した。そういうキャラで呼び込みをしているのだろう。

 

『そ、それで、今回お電話させていただいたのは……私たちの百鬼夜行連合学院で開かれる春のお祭り、百夜ノ春ノ桜花祭(ももよのはるのおうかさい)に、先生をご招待するためです!』

 

 なるほど、なるほど。うーん、面倒の予感がする。

 これまで一切面識がなかったのに、わざわざ電話をかけてまで誘うのは完全な善意とは考えにくい。もちろん、完全に悪意だけで……という雰囲気でもないけれど。となると、シャーレとコネを作りたいか頼みごとがあるかの何方かの可能性が高い。しかしかけてきたのは生徒会に類する部活ではなく、お祭り運営委員会なる部活だ。と、なるとコネの可能性は下がる。

 

「お祭りかあ」

 

 そこまで頭が回っていることは隠して、とりあえず話の続きは聞いてみることに。

 

『はい!お忙しいかと思うのですが、よろしければお越し頂けませんか?今回の「百夜ノ春ノ桜花祭」……通称「桜花祭」では、以前に無かった新しい試みを行う予定なんです!』

 

 うーん、その以前を知らないからそう言われてもね。

 

『それからちょーっとだけ、大したことではないのですが、先生にご相談したいこともありまして。来てくれると、シズコとっても嬉しいです!ではでは!』

 

 と、言うだけ言ってガチャ切りされた。まあ、予定もあるし今すぐ返事は出来ないけれども。

 まあ、事情はおおよそ把握した。"以前に無かった新しい試み"のせいでトラブルが起きているのだろう。ただ切羽詰まっている様子ではないし、出来れば来てほしいなーくらいのものだろう。

 

「行くの?」

「まあ、行くでしょ」

 

 そう言うと思ったよ、とホシノは呆れた様子で呟く。

 自然と視線を手元のスマホに戻すと、SMSで写真とメッセージが送られてきていた。

 

『会場までの案内図も兼ねているので、桜花祭のポスターをお送りします。』

『では、シズコは先生が来てくれるのをすっごく、す〜っごく楽しみにしてますね!』

『では、百夜堂でお待ちしておりますので!にゃんにゃん♪』

 

 ……アイドルって大変なんだなあ。

 と、ノノミによって仕入れられた浅い知識を元に思いながら画面を閉じた。

 

「ホシノも行く?」

「おじさんは大丈夫だよ。それに、行くとしてもシャーレじゃなくて皆と行くからさ」

「えー、あたしと行きたくないの?」

「リーリァちゃんと行くと大変そうだからね〜」

 

 何それ〜と笑いながらも、スケジュールを確認する。よし、問題無いな。この日の当番は無しにして、と。

 それから当日まで、これといって問題もなく時間は過ぎた。

 

 

ーーーーー

 

 

 百鬼夜行自治区。入って一番最初に気になったのは、何よりもバカでかい桜の木だろう。どれくらい大きいのか測るのも困難だ。下手すれば山くらいあるのではないかと錯覚してしまう。

 そして次に、祭り特有の賑わいだろう。そもそもこういった祭りの類に出たことは少ないが、それでもそうなんだなと分かるくらい活気と熱量に呑まれている。

 更にもう1つ、気になることがあるとすれば。

 

「あっ、あっ、危ないですーーっっっ!?」

 

 全速力で走ってきている誰かの気配だろう。いや、もう気配どころかハッキリと顔が見えているけど。

 避けてもいいけど、下手に避けても他の人にぶつかるだけだろう。祭りというだけあって人は多いし。……その人だかりを全力疾走してるのもおかしな話なのだが。

 

「わっ!?」

「大丈夫?」

 

 獣の耳に、茶色の短髪、黄色の瞳。そして、百鬼夜行特有の格好、"和装"らしい制服。あまり見たことない格好なので、珍しいなーという感想もあるにはあるけれど、それは一旦置いて。

 

「わ、私は大丈夫です!それよりそちらの方こそ大丈夫ですか!?お怪我はありませんか!?」

「私も平気だよ」

「そ、そうですか。それは良かったです……!」

 

 少女はほっと胸を撫で下ろすが、それどころではない。何も彼女は1人で全力疾走していたのではない、彼女を追いかけて走る気配が3人分ある。

 

「こっち」

「!?」

 

 有無を言わせず手を引き、適当な物陰に隠れる。

 

「待てー!逃さないんだから!」

「か、カエデちゃん、もうちょっと待ってください……はあ、はあ、は、速すぎます……」

「何処に行ったのよー!」

 

 少し待つ。顔を出して確認したくなる所だが、3人で探してるともなると見つかってしまう可能性は高い。少し意識を澄ませながら、追っ手が離れていくのを耳で確認する。

 

「……もう大丈夫かな?」

 

 少女と一緒に道に戻る。叫びながら走り回ってる人たちが通った後のため、若干道が開いているがそれだけだ。こちらを狙っている人物はいない。

 

「……えっと、イズナのことを助けてくれてありがとうございました!」

 

 イズナと名乗った少女は、ペコリとお辞儀する。

 

「ところで、あなたは……百鬼夜行の生徒ではなさそうですが、他校の生徒ですか?」

「ハズレ!私はこう見えてもシャーレの先生だよ」

「シャーレ、先生……?」

 

 初めて聞いたかのような態度で首を傾げる。それから思い出したのかハッとする。

 

「あ、もしかして……!イズナ、聞いたことがあります!シャーレには、キヴォトスの色々な事件をズバッと解決してくれる、凄い大人の人がいるって!どこにでも現れて即座に解決……忍者みたいです!」

 

 うーん、何処へ言っても噂には尾ひれが付くことには変わりないなあ。まあ勇者やってた時よりかは原型残ってるけど。

 ……しかし、忍者か。創作の中でなら聞いたことはあるが、私が忍者らしいかと聞かれたら別にそんなことは無い気がするけれど、どうなのだろう。

 

「まさか噂の先生にお会い出来るなんて……!」

 

 目をキラキラさせながら、ひょいひょいと周り珍しいものを見るかのように観察している。

 

「すごい、本物なんですね!」

 

 ……外見で分かる話でも無い気はするけど。

 しかし、こうも直球に好意をぶつけられると悪い気はしない。昔は『こんな乳臭いガキが正規勇者(リーガル・ブレイブ)ぅ?絶世の美女だって聞いたぞ?』みたいな態度を取られることも珍しい話ではなかった。それに比べたら、かなり良い扱いだ。

 

「ですが、シャーレの先生がどうしてここに?」

「それはもちろん、お祭りだからだよ」

 

 ……このタイミングで誰かに追われていた少女。どういう形であれシズコの相談したいことと関係があると考えた方が自然だ。

 まあ、悪い子ではないし彼女がトラブルを起こしているとは考えづらいが、念の為様子は見たほうが良いだろう。

 そもそも祭りに誘われて来たというのも事実だから、シズコの件を隠しても特に問題はないんだけれど。

 

「なるほど……そうだったんですね!せっかくの桜花祭ですし……よろしければイズナに、このお祭りを案内させてください!」

「ほんと?じゃあお願いするね!」

 

 

ーーーーー

 

 

「見てください、あそこ!屋台で百鬼夜行の名物、キツネせんべいを売ってます!」

 

 イズナが跳ねながら指さす先には、名前の通りのせんべいが。

 うーん、あんまり可愛らしいと食べにくくないだろうか、なんてことをぼんやりと考えながら周囲に視線を送る。

 

「あ、あっちには桜花祭と言えば外せない、タヌキ印のお好み焼きも売ってますし!」

 

 今度は別の屋台へ向かってぴょんぴょん跳ねる。キヴォトスであった生徒の中で、一番素直な少女かもしれない。

 ……だからこそ、周囲が気になる。

 

「あとは、桜の花びらで作ったサクラ大福も、とっても美味しいんですよ!」

「じゃあ、これ買おうかな」

「買いますか!?実は、これは桜花祭の名物なんです、えへへっ!」

 

 天真爛漫という言葉が似合う、屈託のない笑みを浮かべていた。彼女は間違いなく、心から桜花祭を楽しんでいる。だから、まだ触れないでおこう。

 

「そうだ、せっかくですし……百夜ノ春ノ桜花祭といえば、あれを見に行かなくては!」

「あれ?」

「はい!こっちです、こっち!」

 

 尻尾があればぶんぶん振り回してそうな勢いだ。

 小走りになっているイズナを追った先は展望台だ。先ほどからも見えていた巨大な桜の木が、街並みと共によく見える。

 大陸中巡ってきたけれど、あれほど大きくて綺麗な木は初めて見たかもしれない。

 

「絶景だね?」

「えへへへっ、ですよね!ちょうどこの時期になると咲く、百鬼夜行の自慢です!イズナは、ご神木と百鬼夜行の街並みとが同時に見渡せるこの場所が、大好きなんです!」

「……そうだね」

 

 かつてディオネがあったあの場所を、思い出す。今はもうディオネではないし、ディオネとして最後に見たのもだいぶ昔だし、ここみたいな特別な景色があった訳でもない。

 ……少しだけ、羨ましい気がする。

 

「ここでこうしていると、イズナも夢のためにまだまだ頑張らなきゃって気持ちになります」

「夢?」

「はい!イズナには夢があるんです!キヴォトスで、一番の忍者になるという夢が……!」

 

 ……ふーん?忍者が夢ねえ。

 

「今日も今日とて、そのために日々……」

「忍者ねえ?」

「……はっ!?」

 

 そこで、イズナは"失言"に気がついたようだ。

 

「す、すみません、その、今どきこんな夢を持っている人なんていないことは知っているのですが……で、でも……!」

 

 今までも、勇者になりたい!と目を輝かせていた子供を散々見てきた。物語の勇者は、かっこよく、時に美しく、そして強い。憧れるのに相応しい存在だ。しかし、現実は違う。

 忍者がそれと同じかは分からないけどーーそもそも実在してないだろうしーーきっと、本質的には同じことなのだろうと思う。だから、素直に応援はしづらい夢だ。

 

「……先生は、変な夢だと思いますか?」

「変な夢だと思う。……そう言われたらさ、諦める?」

「それは……諦めたくありません!」

「それならそれで良いんじゃない?真剣に追いかけてるんだったらさ、立派な夢だと私は思う。まあ、頑張りなよ」

 

 ……絶対に正規勇者(リーガル・ブレイブ)になれないし、勝てもしない。それでも努力し続けてきたホンモノの馬鹿がいたからか、他人の努力を笑う気にはならなかった。

 

「……イズナの夢を、応援してくれるんですか?」

「イズナが努力することを諦めなければ、きっと叶うよ」

 

 ……そんなことは無いんだけれど。努力した所で結果は保障されない。でも、努力している人間を応援することは何も悪いことではない。

 

「そ、そう言ってもらえたのは先生が初めてです!え、えへへへっ、そ、そうですか……!イズナの夢を応援してもらえるなんて……!」

「……そっか」

 

 多分、これまで忍者になりたいと語った結果馬鹿にされてきたのだろう。それでもまだ諦めてないのは、素直に凄いなと感心する。

 私だったら、多分とっくに諦めてる。いや、そもそも夢を持てたかさえも怪しい。

 

「まだ色々と失敗が多い身ではありますが、あらためて、イズナは立派な忍者になってみせます!」

 

 ニコニコと笑みを浮かべていたが、突然ハッとした表情になる。しかし今回は失言はしていない。どちらかといえば……忘れ物を思い出したかのような感じ。

 

「……あっ!雇い主の依頼を終えてないのを思い出しました……!」

「雇い主?」

「すみません、イズナはお先に失礼します!では先生、依頼が終わっ後、また一緒に桜花祭を楽しめたら嬉しいです!」

 

 イズナはバタバタと展望台から出ていく。

 ……なるほどねえ、だからさっきから"イズナを監視している"人物がいるのか。なるほどなるほど。

 そしてイズナの性格も踏まえれば、なんとなく見えてきた気がする。裏にまたゲマトリアがいる、みたいなことが無ければいいんだけど。

 

 

ーーーーー

 

 

 さて、ポスターには会場……つまりこの辺りまでの地図はあったものの、百夜堂までの案内はなく。頑張って探してもいいのだが、知ってる人がいないか聞いてみた方が早いだろう。

 と、思ったのだが。

 

「百夜堂といえば、あの有名な喫茶店だね」

「百夜堂のイチゴ餡飴が最高でねえ」

「色々最高なものがあるんだけど、何より最高なのは……」

 

 どうやら思っていた以上に有名な場所らしくーーこの規模のお祭りの運営をしている部活の拠点と考えれば、そこまで不思議な話でもなかったのだがーー色々な人が教えてくれる。

 ついでの情報も付けて。

 

「「「シズコたんの可愛い笑顔!」」」

 

 ……どうやら、シズコも苦労しているようだ。

 

 ということで、無事百夜堂へとたどり着く。中に入ってみると早速お出迎え。

 

「お頭ァァ!ようこそいらっしゃいマシタッ!わざわざシャーレ組からいらっしゃると聞いて、このフィーナ!心よりお待ちしておりマシタッッッ!!!」

 

 ……と、明るい金髪の少女が。

 

「……ええっと?」

 

 想像していたのとは全く違うのだが。

 いや、そもそも彼女がシズコではないのが間違いないのだが、それにしたってシズコとはキャラが違いすぎる。あれか、これが所謂ギャップというやつか。可愛いキラキラなキャラのシズコと、ヤンキーキャラのコンビみたいな感じで。

 

「ちょっと、フィーナ!先生が困ってるでしょ!」

 

 と、店の奥から声が聞こえる。その声は電話越しに聞いた声とそっくりなので、彼女がシズコなのだろう。

 そして、その格好だが……あれか、ノノミ先生がおっしゃっていた和装メイドという奴だ。桜色といかにも可愛らしい雰囲気に振った色と、ザ・制服って感じの紺色。そしてメイド服らしいフリルが地味に主張している。

 

「エ、でも……」

「いや、私は大丈夫だよ。君がシズコだよね?」

「は、はい!」

 

 それから、こほんと咳払いをして。

 

「いらっしゃいませ、先生!百夜堂へようこそ!にゃんにゃん!」

 

 と、100点満点の作り笑顔で挨拶。

 後でこっそり撮影してノノミに見てもらおうかな。……いや、やめておこう。

 

「いや、別に………」

 

 そのキャラじゃなくても大丈夫だよと言おうとしてから、よく考えたら普通に他の客がいることを思い出す。

 ……まあ、私は気にしないし頑張ってもらうか。

 

「えへっ、では中へご案内します!フィーナ、1名様!」

「はいっ!不肖フィーナ!お頭を全力でおもてなしいたしマスッッッ!」

「そういうのじゃないって!!」

 

 …………

 

「それにしても先生、本当に来てくださったんですね!」

「お祭りに興味があったからね」

「えへへっ、ではあらためて自己紹介を。私は河和(かわわ)シズコ。百鬼夜行連合学院所属、お祭り運営委員会の委員長であり、この百鬼夜行自慢の伝統的な喫茶店『百夜堂』のオーナー!それと同時に百夜堂の看板娘でもあって、つまりはみんなのアイドルみたいなものです!」

 

 ひょこりと小さめのツインテールが揺れる。まあ、百夜堂の人気のある程度は彼女が得ているのであり、人気があるということはお祭り運営委員会がちゃんと活動できている部活であるというアピールにもなる。笑顔の裏に苦悩があるのは、やはりそういう仕事をしていれば誰でもそうなるのだろう。

 

「そしてワタシは百夜堂の従業員!任侠の道を究めんとする、フィーナと申しマス!」

 

 そして、先ほどからシズコとは違う変なテンションのフィーナが、これまた気合の入った挨拶をする。気合が入りすぎているが、慣れている光景なのか特に視線が集まったりはしてない。どちらかといえばシズコへの視線がある程度だ。

 しかし、忍者といい任侠といい、やはりここは少々変わった自治区だ。

 

「もう知ってるだろうけど、私はシャーレのリーリァ・アスプレイ。よろしくね」

「はい!……それで先生は、百鬼夜行連合学院に来るのは初めてなんですよね?」

「そうだね」

「では、私たちお祭り委員会のPRも兼ねてお話しましょう。ズバリ!百鬼夜行連合学院とはどういうところなのか、始まり始まり〜!」

 

 そして、シズコは話し出した。

 

「百鬼夜行連合学院は、昔から観光業を中心に発達した学院自治区です。お祭り、温泉、音楽といった様々な娯楽が沢山あるのですが……何よりも注目すべきは、グルメ!ありとあらゆる文化と生徒たちとか交わり、息づいている。そんな場所なんです!」

 

 なるほど。確かにここは喫茶店だし、イズナがオススメしていたものも食べ物ばかりだった。特に食文化に力が入っているというのは、なるほど納得行く話ではある。

 特に食というのは、生きるのに必要な最低限の行為ながらも、娯楽にもなる。自他共に認める趣味無し人間のリーリァでも、上手いものを食べるのは好きである。

 

「そして私たち『お祭り運営委員会』は、その百鬼夜行の観光業の中でも最大級の規模を誇る『お祭り』を担当しています。『運営委員会』という名前ですが、企画から運営、そして全般的な管理まで、そのほとんどを担当している部活なんです!えっへん!」

 

 胸をそらしドヤ顔を披露しているが、まあそれをする資格はあるだろう。この桜花祭も当然彼女達の管轄だし、この規模のお祭りを問題なく管理・運営している実力があるのだ。

 

「そしてここ百夜堂は、私たち『お祭り運営委員会』のCoooolなアジトなんデス!」

 

 ……フィーナのテンションはよく分からないな。そもそもアジトって表現もどうなのよ。

 

「そして今まさに、私たちが準備してきた『百夜ノ春ノ桜花祭』が開催中!これが私たち、お祭り運営委員会の力です!」

「うん、見れば分かるし、何より私もここに来るまでにもおまんじゅう買っちゃったからね」

「早速楽しんでもらえてるようで嬉しいです!もちろん、私たちだけでなく色々な方の協力もあって、先生も楽しんでもらえるくらい盛り上がっているのですが……」

 

 ニコニコ笑顔で語っていたシズコの表情が、少し暗くなっていく。

 まあ、ここからが本題だ。

 

「最近、邪魔をしてくるやつが現れまして……今朝もいきなりあちこちを荒らされたし、ほんっとに……」

 

 シズコの営業スマイルが完全に剥がれてしまっている……のは良いとして、やはり朝も一騒動あったばかりなのか。だから追いかけっこになっていたのだろうが。

 

「……新しいこと始めた、って言ってたよね?その件でトラブルになってるとかだったりしない?」

「それが、あちこちで暴れるだけで特に要求とかも……」

 

 シズコの言葉が終わる前に、リーリァは振り返る。直後、外で爆発の音が聞こえる。

 ……邪魔は邪魔でも、やっぱりキヴォトスで行う"邪魔"は派手なだなあと内心呆れる。真界再想聖歌隊(トゥルーワールド)よりも、ある意味では悪質かもしれない。何が悪質かって、その辺のチンピラ程度でもこれほどの騒動になることなのだが。

 

「委員長!敵襲です!」

 

 銃を構え外の様子を見たフィーナが、振り向きながら叫ぶ。

 

「ああもうっ!言ってる側からあいつら!ほんっとやってらんない!!」

 

 と、吠えてから。

 

「あっ……え、っと、きゃーシズコ怖ーい……なーんちゃってー……てへっ」

 

 人の目があることを思い出したのか、取り繕うとする。

 ……シズコが人気なのって、案外努力家なのを評価されてのことかもしれない。

 

「まー落ち着いてよ、私がいるからさ」

「先生……ん"ん"っ、とりあえず詳しいことは現場に向かってから!」

 

 3人が外へ出てから、騒動の中心となってる場所を見ると、案の定爆煙に包まれていた。

 

「ふはははっ!あたしらは、百鬼夜行の路上に(たむろ)する魑魅魍魎!」

「その名も……魑魅一座(すだまいちざ)・路上流っす!」

「さあみんな、ご要望通りに荒らして荒らして荒らしまくりな!」

 

 口元の空いている天狗の面を付けた生徒達が、暴れ回っている。

 なるほど、ほんとに荒らしているだけのようだ。それなら考えられる目的は、桜花祭の中止か。"ご要望通り"と言っているし、彼女らは金かなんか単純な理由で暴れているだけだろうし、捕まえても仕方なさそうだ。

 ……桜花祭の中止、考えられる理由。まあ、検討は付くな。そして検討が付くからこそ、ゲマトリア関連の事件の可能性はかなり薄まったと思っている。少しだけ安心した。

 

「……よし、私が指揮するよ。2人じゃ大変でしょ?」

「ありがとうございます!……やるよ、フィーナ!」

「はい、邪魔なんてさせマセン!」

 

 巻き込まれないように物陰に隠れながら、しかし声の届く距離は保つ。

 

「はっ、たかがお祭りの運営委員会ごときが、あたしらの相手になるとでも!?……まあいい、相手してやんな!」

 

 そして。

 

「うわーっ!?」

 

 フィーナのマシンガンが火を吹き、魑魅一座を薙ぎ倒し。

 

「こんのっ!」

 

 ロケットランチャーを構えている相手の懐に飛び込み、そのロケットランチャーを蹴り飛ばしながらショットガンの弾を腹に撃ち込む。

 そして蹴っ飛ばされたそれは、ギリギリの所で蹴飛ばされたらしく砲弾は変な方向へと撃ち出され……

 

「きゃんっ」

 

 聞き覚えのある悲鳴と共に、爆煙の中からこれまた見覚えのある獣耳が飛び出してきた。

 

「イズナ!」

 

 先ほどの相手が、ここで暴れている魑魅一座の最後の1人だったようで銃声が止んだ。

 フィーナとシズコに止めるよう合図を出しながら、倒れているイズナの元へ駆け寄る。……どうやら砲弾は直撃まではしなかったようで、特に怪我もしていない。

 

「あれっ、先生!?」

 

 イズナもまた直ぐに気がついたようで、シュバッと立ち上がる。

 

「えっ、どうして先生が私たちの邪魔を!?はっ!もしかして先生は、最初からイズナを誘い出すために近づいて来たのですか!?」

「いや、違うけど……」

 

 うーん、状況の飲み込めていないというのはあるかもしれないが、これまた変な勘違いを……

 

「ならどうして邪魔するんですか!?」

「いや、むしろ私がそれを聞きたいくらいなんだけど」

 

 まあ、察しは付いてるけど。それでも聞いておかないと、間違ってたら大変だ。

 

「い、イズナは忍びとして命令に従っているだけです!」

 

 あー…………うん、だよね。

 

「くっ、あいつら強い!あんなに強かったか!?」

「先生!」

 

 倒れていたやつが1人起き上がったようで、シズコが駆け寄る。同時にイズナもひょいっと軽い身のこなしで距離を取ってしまう。

 ああ、ちょっとタイミング悪くない?出来れば誤解を解いておきたかったんだけど……!

 

「あそこにいる大人……?大人のせいっす!」

「大人か?」

「とにかく、あの赤い髪のやつが指揮を取った途端に動きが変わったっす!」

 

 おい、聞こえてるぞ。いや確かに大人じゃないけどさ。そんっなに童顔かあたしは!?私服ならともかく今スーツ着てるんだけどね!?

 

「くっ、イズナ殿!一旦戦略的撤退だ!」

「せ、戦略的撤退……?ですがイズナは……」

「ちょっと待ってよ、あんたらは知らないけどイズナには話があるの!」

「先生!?あいつらも逃がしたら……!」

 

 シズコが撃とうとして、しかし撤退の準備をし始めているため反撃だけを狙ってくる。こうなると2人じゃ止められないな……

 

「立派な忍者は引き際を弁えてるものだよ!なんかの本で読んだ気がする!」

「なるほど!そういうことであれば!」

 

 困惑気味だったイズナの目が、少し輝いた。

 

「ああ、もう!」

 

 完全に利用されている。適当におだてておけば仕事してくれるだろうとか、そんな風に思われてるに違いない。

 

「先生……イズナの夢を応援してくれた先生が立ちはだかるなんて、何という運命の悪戯……!ですがイズナは知っています!忍の道を行くからには、こういったことも起こり得るのだと!……ドラマで見ましたので!」

 

 待って、私が知ってる限り、そういう関係性って丸く収まること殆どないんだけど。現実でも創作でも、だ。しかも忍者だぞ、忍者。

 

「いや、素直に話し合わない……?」

「悲しいですが、イズナは雇われの身!望まぬ戦いに巻き込まれてしまうのは忍者の宿命(さだめ)!」

 

 いやあるけどさ、望まない戦いなんていくらでも。

 

「逃がしマセン!」

 

 フィーナが追撃をしようとイズナを撃つが、これまたひょいひょいとそれこそ忍者らしく跳び躱してしまう。

 

「次に相まみえる時はイズナ、今の3倍くらい強くなっているはずなですので!では、ニンニン!」

 

 ぼふん!と煙幕が撒かれーーと言うと忍者っぽいが、多分スモークグレネードーー視界が開ける頃には、イズナも魑魅一座も全員いなくなっていた。残ったのは、お祭り運営委員会の2人と、私と、荒らされた店や屋台だけだ。

 いや、動きだけならホシノよりも素早いのでは?と見当違いな感心を得つつも、溜息を吐いた。

 

 そして、できる範囲で片付けをして百夜堂に戻ってくる。

 

「ああもう、また!桜花祭が始まってからというものの、こうやって魑魅一座のやつらがあちこちで悪さをするんです!」

「……そういえば、魑魅一座って何なの?」

 

 頭の中で勝手にカタカタヘルメット団と同列にしていたが、よく考えたら何者なのかは知らない。

 

「魑魅一座・路上流。昔から百鬼夜行で、しょっちゅう問題を起こしているやつらデス!」

 

 ……やっぱりただの不良グループか。

 

「確かに以前から問題児だったとはいえ、こんなに組織的に動くようになったのは最近になってからな気が……」

「まあ、雇われてるみたいだし」

「そうよね……って、ええっ!?先生、何か知ってるの?」

「……」

 

 いや、言ってたじゃん。あいつら、自分でさ。

 ということを、2人に伝える。ついでに、イズナもそう言ってたと。

 

「……誰かが桜花祭を台無しにしようとしてるってことデスか!?」

「そういうことだね」

「はあ!?何なのよそれ!そんなことになったら、私たちがあちこちから責められるじゃない!たまったもんじゃないわよ!」

「それが目的だからでしょ」

 

 軽く言うと、2人はーー特にシズコはーー鳩が豆鉄砲を食らったかのような顔をして硬直した。

 

「はーっ!?」

 

 そして、爆発した。

 

「何それ、嫌がらせ!?ふざけないでよ!」

「さあな。ただ、色々と気に食わないんじゃないのか?」

 

 突然、入り口の方から第三者が割り込んで来た。猫人間ーー柴大将を猫にしたみたいな見た目のーーが、顎に手を当てながら歩いてくる。

 

「……あっ、会長!」

 

 しかし、シズコは知っている人物のようだ。

 

「どうも、百鬼夜行の商店街の会長だよ」

「どうも、ご丁寧に……」

 

 ……さて、ここに1つ質問がある。もし、お祭り運営委員会が今回の責任を負ったとしたら、それで得するのは誰だろうか。

 もちろん、そんな難しい理由ではなくただ単にシズコが言った通り嫌がらせの可能性もあるが、そのためだけに魑魅一座を雇うだろうか。と、考えると目の前のこの猫が、容疑者になる。

 

「どうして私たちに嫌がらせをしてくるのでしょうか……?」

「さあね……ただ強いて言えば、今回はひとつ大きく変わったことがあるだろう。昔から『百夜ノ夜ノ桜花祭』の最後には、伝統的に花火が打ち上げられていた。でも今回はちょっと違うだろう?()()()()()だとかなんとか」

 

 おっと、彼が犯人かは一旦置いておいて、1番気になっていた話だ。

 誰が犯人であれ、発端はそれだと考えるのが自然だ。

 

「はい……今回の桜花祭のために、特別に準備したものが」

 

 シズコの視線の先には、この喫茶店には相応しくない機械が置いてある。

 

「今回のお祭りのフィナーレのために、ミレニアムにお願いした特別な装置です」

「ホログラムで花火を再現する、specialでniceな機械だと聞きマシタ!」

 

 ……ほろぐらむ?まあとにかく、本物の花火ではなく何らかの手段で再現するための機械ということか。

 うーーん……なるほどそれは、十分理由になり得る話だ。

 

「お金のかかっていそうな装置だな……」

 

 会長は、機械を見つめながら呟く。まあ、確かにミレニアム特注ともなれば高いだろうけど。

 ……あえて何も言わずに、会長の様子を伺うに留めておく。

 

「まあ何にせよ、何かが変わるということを、誰しもが簡単に受け入れられるわけじゃない」

「それはそうですけど……それが理由で、桜花祭を攻撃するなんて……私はただ『百夜ノ夜ノ桜花祭』を、今まで以上に素敵なものにしたくって……」

「あくまで推測だ。それに儂だって今さら、このことを蒸し返したいわけじゃあない。ただ、気に食わんと思うやつらもいるだろうなって話だよ。学生がこんなに金を使って……ってな」

「あの、会長さん」

「ん?何だ?」

「……今、金の話してましたっけ?」

「いや、今のだってただの推測だよ」

 

 ………いやー、これは。

 もしもだ、ホログラムの花火が気に食わないのだけであればここを襲撃するなり、潜入して盗むなりすればいい。しかし実際は桜花祭自体を攻撃している。つまり、シズコ達への攻撃ということでもある。

 そして、先ほどから彼の口から出ている"金"の話。彼にとって気にしているのは、伝統がどうではなく金ということだ。

 

「……?」

 

 シズコは少し怪訝そうな表情をする。まあ、黙っていたのに急に話に入ってきて、それも変な質問したら変だとは思うだろう。

 

「……私たちも趣味や道楽だけでやっているわけじゃありません。全てはお祭り運営委員会委員長として、桜花祭を素敵なものにするために!それだけは自信を持って言えます!」

「ハイ!お祭りというのは、毎年どんどん楽しくなっていくべきデス!」

「ふん、そうかい。じゃあそうなるように頑張りな」

「そうやってぶっきらぼうですが、会長はいつも手伝ってくれますし。今回の桜花祭でも、色々と心配してくれてますもんね」

「フィーナ知ってます!『ツンデレ』ってやつですね!」

 

 ……そうかな。そうなのかも?

 

「違うわい!……それで、どうするつもりなんだい?そろそろあいつらを止めないと、このままじゃ桜花祭が滅茶苦茶になっちまう」

「まあ、そうだね……」

 

 その意見は尤もである。誰が犯人であれ、この2人だけで魑魅一座を相手取るのは大変だろう。……奇襲を仕掛けてもいいかもしれないが、確実に犯人だと分からない限り駄目だ。勘違いして襲ったなんて日には、お祭り運営委員会の評価はだだ下がりだろう。

 

「誰か協力できる人はいないの?」

 

 朝の出来事を思い出す。顔は見なかったけど、イズナを追っていた3人は魑魅一座と戦っていたと考えるのが自然だ。

 

「うーん……助けを求められる部活や委員会がゼロってわけじゃないんですけど……どこもかしこも、真っ当に手伝ってくれるのかどうか……」

「えぇ……」

 

 いや、百鬼夜行ってそんなに癖強い部活ばかりなのか?ゲヘナじゃないんだから。

 

「うーん、でも背に腹は代えらませんし……心当たりはあるので、1度行ってみましょう。ただ……」

 

 ただ?

 

「先生の力が必要です、協力してくれますよね?」

「へー」

 

 しらばっくれる。実は話している最中に名札をしまっておいたので、なんとか誤魔化し切れないだろうか。

 

「そうかい、まあ協力してもらえるといいな」

 

 会長はそれだけ言って出ていく。

 今のところ1番怪しい彼に、素性を知られたくはないからだ。……まあ、魑魅一座やイズナに顔は割れているので、最悪バレても良いけどさ。

 

「……先生?さっきから少し変じゃないですか?」

「いや、だってあの会長怪しいし」

 

 名札を取り出しながら、さらっと呟く。

 

「……」

「……」

「……」

「「「………」」」

 

 数秒間の沈黙。その後に。

 

「えええーっっ!?!?」

 

 本日最大の絶叫が、百夜堂に木霊した。

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。