元勇者の先生日誌   作:Ruve

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Ev-2

「いや、あくまで容疑者だよ。それに、仮に彼が本当に犯人だったとして、魑魅(すだま)一座を相手しないといけないことには変わりない。とりあえず行こうか」

 

 というのが、先程の話。シズコの声が大きすぎて会長が戻ってくるのではないかと心配したが、それは大丈夫だった。

 しかしだ。予想が正しければ、アビドスの1件とは比べものにならない程度には単純な話になってくる。正直な所、少し安心している。

 

「……で、誰に会うんだっけ?」

 

 そもそもその話が途中だった気がする。

 

「百鬼夜行でトラブルが起こった時に相談する相手といえば、すぐに思い当たる所が2つあります。1つは、実質的に百鬼夜行連合学院の生徒会とも言える、『陰陽部』。そしてもう1つは、『百花繚乱紛争調停委員会』というところなのですが……」

「聞いた話によると、百花繚乱は全員不在だそうデス!」

 

 ……なんだそれは。全員不在?

 名前からして、例えばゲヘナの風紀委員会のような役割をしているのかな、と想像は出来るのだけれど。それが全員不在です!とはどういうことだ。

 

「はい、フィーナの言う通り、そちらは今頼れない状況です。今の私達が頼れるとすると陰陽部の方、なのですが……」

「……頼りづらい?」

「頼りづらいというか、なんというか……」

 

 歯切れの悪そうに言葉を続けていたシズコだったが。

 

「えぇぃっ!実際会ったほうが早い!」

 

 なんか吹っ切れた様子。まあ、猫の手も借りたい状況なのは事実だし、頼れるなら頼るしかないだろう。

 

「さあ、行きましょう!先生!」

「うん。行くか」

 

 2人で行こうとしたが、シズコがまだ言うことがあったのを思い出したのか立ち止まり振り返った。

 

「あ、フィーナ。私がいない間、百夜堂の留守番はお願いね」

「モチロン!任侠の精神で、守り通してみせマス!」

「……じゃあ問題」

「ハイ!」

「先生と私がいない間に、魑魅一座が来たとするわ。やつらが『喉が渇いちゃったんだけど、お水を1杯もらっていい?』って言いながら百夜堂に入ってこようとしたら……どうする?」

「困った人がいたら助ける!それが任侠デス!」

 

 ………いやまあ、その仮定の通りになることは考えにくいけれど。誰彼構わず助けることを任侠というのは、だいぶ考えがズレている。

 所詮は"ごっこ遊び"みたいなものか。まあ、他人に対して優しいことは悪いことではないんだけれどさ。

 

「だーかーらっ、それじゃダメなの!追い出しなさい!」

 

 どうやら今のようなやりとりも1度だけでは無い様子。

 

「はぁ……本当にもう……任せても大丈夫なのよね?」

「ハイ、委員長!フィーナにお任せクダサイ!」

 

 理解してるのかしてないのか、フィーナは満面の笑顔だった。

 

 シズコと2人で陰陽部へ向かうと、とある建物の前で足を止めた。少し大きめかつ、百鬼夜行らしい少し変わった雰囲気の場所。察するにここの中に陰陽部がいる筈だが。

 

「そんなに嫌?」

「嫌……というより、胃が痛くなる……」

 

 緊張とはまた別の感触だ。……そんなに変な所なのか、陰陽部って。

 

「ふぅん」

「陰陽部はかなり腰が重いことで有名で、何かお願いしても中々動いてくれないんです。そもそも、実際にそういう対処をするのはほとんど百花繚乱の方で……」

 

 それはなんとなく予想が出来ていたけれど、やはり肝心の百花繚乱が機能していないのは百鬼夜行にとってかなり大きいことではないのだろうか。

 今のところそれで何か頼まれたりとかはないけれど、後々関わることになりそうだなあ、という予感はする。まあ、今は一旦置いておいて。

 

「陰陽部はその名の通りにと言いますか、自分たちは百鬼夜行のバランスを保つために存在していると言ってるんですが、その実何が起きても大抵ニコニコしながら『私たちには権限がないので〜』とか曖昧な態度を取ってばっかりで……」

 

 なるほど。確かに頼む側としてが胃が痛くなる案件かもしれない。

 ただ陰陽部も陰陽部で理由はあるのだろう。下手に動くことの出来ない立場であることも、紛れもない事実なのだろうし。

 

「特にあの部長!こっちが何かクレームを入れに行っても、いっつも『重要な案件は書類でお願いします』ばっかりだし……書面じゃ遅いんだってば!!!」

 

 まあ、どちらも一理ある。……もう少し融通を利かせられないのかは気になるが。実際、少しでも間に合わなければ大変なことになる……ことはあったけれど、百鬼夜行でそこまでヤバい事態はないか。

 

「官僚制!?官僚制なの!?何でそんなに動きが遅いの!!!それが通る頃には良くも悪くも解決してるってば!!」

「はい落ち着いて」

 

 放っておいたらどんどんヒートアップして止まらなさそうなので、いきなり手を繋いでみる。

 

「!?……先生!?」

「陰陽部の愚痴をするためにここに来たんじゃないでしょ?」

「……ありがとうございます」

 

 落ち着いたのを確認して手を離す。

 

「……ふう。でも、今は先生がいますから。きっとあの陰陽部の部長だって重い腰を上げてすぐに協力せざるを得ないはず。あのいっつも余裕そうな態度をこちらの思うがままに使って……」

「じゃ、行くよ〜」

「……え、待って先生!」

 

 待ってるといつまで経っても入れなさそうなので、置いていくと慌ててついてきた。

 まあ、ついてきてくれないとこの屋敷?のことを何も知らないので困るし、正気に戻ってくれて助かった。

 

 そして上がると、1人の少女がお出迎え。

 

「ようこそ、先生。待ってた」

 

 水色の髪に、対照的な赤色の角が2本。瞳も同じく赤色だ。

 角の生えた少女、という条件ならゲヘナで見てきたので今更驚かないが、それとはまた違った印象を受ける。おでこの辺りから生えてるせいで、より鬼種(オグル)っぽさが増した気がする。

 

「チセ……って、あれ?今、『待ってた』って言った?私たちが来ることを知ってたの?」

「うん、部長が言ってた」

 

 ……なるほど、部長は既に私が百鬼夜行に来ていて、お祭り運営委員会と協力していることを知っている。その上で、陰陽部を頼りに来ることも想定済。

 

「2人来る。可愛い大人と、タヌキさん」

「だっ、誰がタヌキよ!?」

 

 ごめん、なんとなく分かるかもしれない。

 

「こほん……それで、相変わらずその『全部知ってます』みたいな態度の部長はどこ?」

「部長は……えっと……うーん……確か、飼うなら黒猫が良い、って」

 

 なんだ、それは。なんかの暗喩?それとも暗号?

 

「ペットの好みは聞いてない!」

 

 ……どちらでもなさそうだ。このチセという少女、かなり雰囲気が緩いし適当なことを思い出して呟いたとか、その程度のことだろう。

 

「……もしかして、さっきの『タヌキ』っていうのもペットの話じゃないわよね!?私、先生のペットとかじゃないから!!」

「あれ?違った?」

「先生!?」

「……タヌキは、先生のペット」

「違うって言ってるでしょ!!」

 

 こんなに大袈裟にリアクションしてくると、弄りたくなるな。……まあ、これ以上はやめておくけど。脱線してもしょうがないし。

 

「はあ……とにかく、今日はあなたと遊ぶためじゃなくて、部長に会いに来たの。もう一度聞くけど、部長はどこ?」

「部長……今日はもう、下校しました。また明日」

 

 チラリと外を見る。まだ太陽は空高い場所を漕いでいる。

 

「下校には随分早くない?」

「……。……どうしてだと思う?」

 

 いや、聞きたいのはこっちなんだけど。

 ………所謂電波な感じあるけれど、それで誤魔化そうとしてない?だからこそその部長は、チセに応対を任せたのではないだろうか。

 

「さあ……じゃなくて、何であなたが聞くのよ!何もかも意味わからないんだけど!?」

「でも、1つだけ分かることはある」

「え、今ので分かったの?」

「私たちが何の用事でここに来たか、把握してるしどう対応するかも既に教えられてる。違う?」

「うん、分かってる。桜花祭を邪魔しようとする騒ぎの件、でしょ?」

 

 予想通りだ。本当に下校したのかはともかく、部長が応対しないのは既に応対の準備が出来ていたからだろう。

 遅かれ早かれお祭り運営委員会が来ることは予想済。そして、私が来たことにより一緒に来るだろうなとも予想済。その結果が今だろう。

 

「部長は言ってた、助けてあげることは出来ないけど代わりに、修行部に行けばなんとかなるはず、って」

「……修行部?」

 

 なんだ、それは。なんかヴィレムが入ってそうな部活だな。……いやあいつならやれること全部やって、もう退部してるかな。

 

「修行部からも来たの、クレーム。街がうるさいって。それで部長が、1つでダメなら、2つ合わせればいいんじゃない?……って」

 

 なるほど。自分らは手伝えないけど、ちょうど困ってる部活が2つあるから協力すればいいんじゃない?ということか。………2つしか、ないんだ。え、お祭りをあんなに荒らされてるのに?

 

「うぅっ、修行部か……仕方ない、今度は修行部の方に……」

 

 仕方ない、と言うほどまた変な部活なのか。

 

「チセ、もし後で部長が帰ってきたらまた連絡してくれる?さあ先生、行きましょう!」

「じゃあね、チセ」

「いってらっしゃ〜い」

 

 ほんわか少女に見送られながら、陰陽部を後にする。

 

 街を歩きなから、シズコが呟く。

 

「にしても修行部、修行部かぁ……」

「そんなに嫌なの?」

「嫌……というか、修行部の生徒達って結構変わり者でして」

「ふーん」

 

 まあ、みんな変わり者というか癖が強いというか。言ってるシズコ本人も、そこそこ変わり者だとは思うけれど。

 

「修行部は、毎回修行のためと言いながら、色々とよく分からない活動をしてる部活です。例えば、修行の一貫として寝ながらジグソーパズルをやる人とか」

 

 ……ヴィレムなら出来たりしないだろうか、それ。私は……流石にパズルは無理だな。

 

「素敵なレディになると言いながら、何故か街のチンピラ退治してる人とか」

 

 確かに強いレディーというのも、素敵なレディかもしれない。いや、その理屈が通るのであれば私も素敵なレディになるはずなんだけどな。

 

「大和撫子の嗜みと言って、読心術を使える部員もいるとか」

 

 "大和撫子の嗜み"はちょっと良く分からないけど、読心術くらいならまあそんなに驚かない。限定的だけど、未来予知が出来る私に比べたら大したことはない。……まあ文字通り、最強の人類たる私と比べるのもどうかだが。

 

「……あまり驚いてませんね」

「まあ」

 

 奥義を取得するための修行で取得出来なかったので、1週間かけてドラゴンを殴り続けて殺しました、なんて逸話の前には大抵の修行話は霞んでしまう。

 私でもやらんぞそんなこと。

 

「私も噂でしか聞いたことがないので、実際のところは会って確認してみないと分からないんですけど。そんな変わり者達に、そもそも協力してもらえるかどうか」

「……その点は大丈夫じゃない?」

 

 その"修行"の内容が真なのかはさておいて、噂なんて尾ひれ背びれつきまくって伝わるものだ。変な修行をしている人達だとしても、話が通じないほどの変人の可能性はかなり低いだろう。

 

「そうでしょうか……」

「まあまずは会ってみようよ」

「……はい、そうですね。早く修行部の所に行きましょう!」

 

 と、シズコの足が早まろうとした瞬間。

 

「待って!」

「ひゃっ!?」

 

 腕を引っ張り適当な遮蔽に隠れる。すると、近くに着弾したロケットランチャーの弾頭が炸裂し、辺りが煙で覆われる。

 

「今度は何!?」

「ふははっ!今度こそ桜花祭を台無しにするため、魑魅一座の参上だ!」

「今度こそぶっ潰してやるっす!」

 

 タイミングが良いのか悪いのか、また魑魅一座が現れてしまった。

 先程の攻撃から大して時間は経ってないし、人員と武器はたんまりあると考えたほうがいいだろう。

 

「まーた魑魅一座!懲りないわね!」

「1人じゃ流石にキツいでしょ」

「うっ、それはそうだけど……」

「だから、時間を稼ぐ。……修行部も来てくれるでしょ」

 

 先程襲撃があった時は百夜堂の周辺だったし、割とあっさり片付いたので修行部は来なかったが、ちょうど修行部へ向かっている今なら来る可能性はある。

 ……仮に来なければ、私がフィーナを呼びに行くしかなくなるんだけど。

 

「それじゃ、行って!」

「もう、時間稼ぎでも何でもぶっ飛ばしてやるんだから!」

 

 シズコが勢いよく飛び出していき、直後にシズコのショットガンの思い射撃の音と、殴ってると思わしき音も聞こえてくる。

 ……わざわざ殴りかかりたくなるほどにストレスが溜まってるのは、なんとなく察するけど。

 それから暫く、流れ弾に当たらないように気をつけながらもチラリと顔を覗かせながら様子を見ているが、最初の勢いはどこへやら数の暴力に呑まれている。幸い魑魅一座の連携はそこまでしっかりしたものではないので、劣勢止まりだが……

 でも、もう大丈夫そうだな。

 

「もう!いつまで耐えればいいのよ!」

「一旦下がって!」

「!」

 

 シズコが下がると同時に、向こう側からの気配。そして……

 

「そこまでだよ!魑魅一座・路上流!」

 

 と、声が聞こえる。

 ……そして、聞き覚えのある声だ。やっぱりあの時の3人かあ。

 

「だ、誰だ!?」

「誰だなんだと聞かれたら、答えてやるのが人情ね!」

 

「シュバッ!」

 

 ……自分で効果音付けるの?

 

「派手に!」

 

「可憐に……」

 

「う、美しく……で、合ってます……?」

 

「ばっちり!街の平和を守るため、美少女三人組の修行部……!」

「ここに参上!!」

「参上……」

「えと、参上、です……」

 

「……チッ」

「先生?」

 

 何とは言わないが、3人の中で一番テンションが高い少女の発育を見てつい舌打ちをしてしまった。いやまあ、あそこまで大きくなりたいとは思わないが、1/3くらい分けてもらえないだろうか。

 

「ふふーん!完璧な登場演出!ね、ツバキ先輩!」

「ふぁ……そう?」

「えっと……カエデちゃん、何だか凄い見られてる気が……」

 

 まあ、なるほど。ヴィレムよりはスウォンの方が近いかな。とかどうでもいい感想を抱きつつも改めて3人を見る。

 小柄で、濃い赤紫色の髪で、あと縦に対して横に発育のいいテンションの高い少女。よく見ると獣耳が付いてる。リスか何か、小動物のものっぽいが。

 黒い髪で、体格もいいがなんかずっと眠そうな少女。寝ながらパズルという噂は間違いなく彼女のものだろう。こっちも獣耳らしきものが付いてるけどあれはなんだろう。

 そして最後は、2人とは対照的に明るい桃色の髪に、青い瞳の少女。読心術の使い手がどちらかと聞かれたら、まあこっちの様な気がする。

 ……これが修行部ねえ。

 

「……ね、言ったでしょう?変わり者だって」

「まあ、うん。変わってるけど、協力は出来るんじゃない?」

「そう、かな……?」

 

 と、2人で話している間にも、突然のヘンテコな登場に固まっていた魑魅一座の1人がハッとする。

 

「つ、つい見惚れてしまったが、お前たちは何者だ!?」

 

 いや見惚れてたんかい。

 あと名乗ってたじゃん。聞いてなかったんかい。

 

「私たちは素敵なレディーになるために日々修行を続ける『修行部』!」

「それが目的なのは、カエデだけでしょ?私は別にそんな修行もしてないし……とにかく寝られればそれで。……ふぁ、眠い。ここで寝ていい?」

「魑魅一座と対峙しながらも全く動じないツバキ先輩、かっこいい……!」

 

「ごめん、やっぱ駄目かも」

「……」

 

 シズコのジト目が刺さる。

 いや、ここで寝ようとする胆力は凄いが、じゃあ何のためにここに来たんだという話である。絶対カエデって子に連れてこられただけじゃん。

 

「ああっ、でもツバキ先輩!ここで寝ちゃダメ……!」

「あはは……でも、目標があるというのは良いことだと思います」

「そうだよミモリ先輩!素敵なレディーになるための修行ついでに、街の治安も守らなきゃ!」

 

 一番行動力のありそうなカエデが一番後輩なのか。それはそれで大丈夫か先輩達。

 

「ということで、私たち修行部の出番だよ!魑魅一座・路上流、覚悟!」

「うん、覚悟〜」

「そ、それでは、覚悟してください!」

「ごめん、シズコ。加勢してきて」

「……よし、頑張る!」

 

 自然と戦闘が再開すると同時にシズコも飛び出していく。意図せずだが挟み撃ちになり、戦闘の結果も目に見えるものとなる。

 

「ぐああっ!また強くなってないかあいつ!」

「無駄無駄!こっちには先生がいるんだから!」

「ちっ、いったい何者なんだシャーレ……!」

 

 特別具体的な指示までは出せてないし、シズコ自身の力だと思う……のは言わないでおこう。

 

「あの馬っ……忍者もどきはまだか!?」

「えっと、確かそろそろ……」

 

 そう話している上空に、見覚えのあるシルエットが現れる。と、同時に。

 

「イズナ流忍法!四方八方もくもくの術!」

 

 大量のスモークグレネードが投下され、爆発。けたたましい爆発音と共に、視界が煙で覆われていく。

 

「ば、爆発!?」

「え、うわっ!?」

「よし、今のうちだ!全員突撃!」

 

 ……煙で視界が潰れている中での総攻撃。まあ結果は察するとして。

 戦場が混乱してる中、こっそり突破させていただく。

 

「イズナ、予定通りに再び参上しました!」

「やっほ、イズナ」

「イズナ、あの後気がつきました!例え先生が私の夢を認めてくれたかっこいい大人……かっこよくて悪い大人だとでも!」

「ちょっと、そういうの良いから一回ちゃんと話そう?」

「……!あの術を食らっても平気とは、流石先生!強敵です!やはりこれは宿命!」

「……はあ」

 

 まあ、今こっちも見てる人は少ないし、少し相手をしてあげてもいいんだけれど。

 

「カエデ!ツバキ!ミモリ!こっち!」

「はっ!?この声、噂の先生!」

 

 煙の中から信号弾が放たれ、近くで炸裂。

 

「うわーっ!?」

 

 ちょうどイズナの視界で炸裂したらしく、眩しかった様子。

 

「ぎゃふんっ!」

 

 それと同時にサブマシンガンが放たれ、全弾命中。

 煙の方も晴れていき、そこには自滅したであろう魑魅一座達と、運良く倒れてないやつをシズコとミモリが追撃している姿。

 まあ、大した連携も取れてないやつらが大人数で煙の中ぶっ放したらそうなるよね、ということだ。

 ということで、とりあえず倒れたイズナを引っ張り起こす。

 

「あ、ありがとう……じゃなくて、イズナ、また負けてしまいましたか!?」

「まあ、負けじゃない?」

 

 後ろに待機してる4人をチラ見する。まあ、どう見てもこれは負けと認めた方がいいだろうな。

 

「前回以上に準備して来たのに……!これでも敵わないなんて!?」

「まあこっちも人数増えたし」

 

 ついでに戦法も失敗してたし、というのは黙っておこう。

 

「やはり、まだ修行が足りないのですか……?」

「うーん、まあ足りてないのはそうだよね。イズナ、今自分が何をしてるか分かってる?」

「それは……忍者として、雇い主の命令を遂行しています!」

「……桜花祭を攻撃するのが、命令?」

「えっ……と?」

 

 目を丸くして固まる。言ってる意味が分からない、そういう顔だ。

 

「はっ!?これも先生の罠ですね、やはり悪い大人です!……悔しいですが、イズナは引き際を知っている忍者なので、今回は引きます!」

 

 シュタッとバック転を決めながらも距離を離される。身のこなしは間違いなく凄いんだけどなあ。

 

「次に会った時こそ、覚悟しておいてください!必ずや先生を倒してみせますので!」

「無理じゃないかな?」

「そ、そんなことありません!イズナはもっと強くなるので!なので、次は絶対に負けません!ニンニン!」

 

 ぼふん!再びスモークグレネードが炸裂し、それと同時に逃走する。後方を改めて確認すると、魑魅一座も全員逃げおおせたようだ。逃げる能力だけは高いな……

 

「大丈夫ですか、先生!お怪我はありませんか!」

「私は平気だよ。そっちは?」

「私は大丈夫です。修行部の皆さんも……」

「平気だぞ!でも逃げられた……!」

「全員、『くっ、次は必ず……!』みたいなことを言いながら逃げていったね」

 

 何だろうか、もう身体に三流悪党のそれが染み付いてしまっているのだろうか。

 

「これまでずっと苦戦続きでしたが、先生がいるとこんなに違うなんて……」

「いやいや、私は何もしてないよ」

 

 精々イズナの気を引いたのと、位置を教えただけである。

 

「こんなに凄いのに謙遜するなんて……ごくり、これが大人のレディー!?」

「うん、凄い」

 

 ……なんか凄い尊敬の目で見られてる気がする。いや、ほんとに何もしてないんだけどな。むしろ最初に会った?時はイズナの逃亡を手助けしたくらいだし。

 あまり居心地もよくないし、話題を変えるか。

 

「それで、どうしてここに?もしかしてパトロールとかしてるの?」

「おっ、流石先生、正解だよ!私たちここしばらくずっと、魑魅一座と戦いながら街中を回っていたの!」

「そう、修行の一環で街を守ろう……ってことで。それも一応、うちの部活の趣旨の1つだから」

「あいつらの手から桜花祭を守らなきゃ!」

「皆さん楽しめてこその桜花祭ですからね。急にあちこちで魑魅一座・路上流が暴れ始めてしまって、困っていたところでした」

 

 なるほどね、まあ確かにパトロールも修行の一環にはなるだろう。ヴィレムにパトロールを任せた日にはそれはもう大変な修行になるかもしれない。あらゆる手を尽くして捜索し続けるだろう。

 ……まあ、今いない相手のことは一旦忘れて、と。

 シズコを見ると、軽く首を横に振った。

 

「私も修行部がそんな活動してるなんて、全然知らなかった」

「よく今まで会わなかったね?」

 

 まあ、案外そういう偶然ってあるものだけどさ。

 

「いつも変なことをしてる変わり者たちだとばかり……」

「それを素直に言っちゃうシズコも大概じゃない?」

「こほん!……とにかく、やはり『急に』暴れ出したのよね?やっぱり、雇われてるのは間違いないのよね」

 

 さっきもイズナがハッキリと"雇い主の命令で"と言っていたので、そこに間違いはないだろう。

 

「んー……そういう噂も聞いたことあるよ」

「まあ、雇い主がいるのは確実。目的も『桜花祭を潰す』ことなのは確実。一応容疑者はいるけど犯人だと決まったわけじゃないし、そこを確定させたいんだけどね」

「!……そこまで分かっているのですか?」

「ええ、全部先生のお手柄よ!」

 

 せっかく話題を変えたのに、また"先生は凄い!"という話に戻りそうになっている。なのでここは一旦私が舵を切ったほうが良さそうだ。

 

「だから、犯人を捕まえる手段が欲しいの。お祭り運営委員会の2人だけじゃ厳しいし、改めて修行部にも力を貸して欲しい」

「もちろん!桜花祭を潰そうだなんて、絶対許さない!」

 

 こうしてこの場で合流できた修行部の3人とシズコは、改めて作戦会議のために百夜堂へ向かうことにした。

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