元勇者の先生日誌   作:Ruve

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間章 空は青く
短い話


 とあるビルの一室。2人の人物が向かい合って座っていた。"前回"のせいか窓がなく、人工的な照明だけが部屋の中を照らしている。

 

「………ねえ」

「何でしょうか」

「いや、普通に電話してくるのどういうことよ」

 

 そして、リーリァは……黒服の顔?を見ながら溜息を吐いた。

 

「貴女は……そうですね、意味のない段取りを好まないと思ったのですが」

「それはそうだけど。でもあんたゲマトリアでしょ?いいの、それで」

「大丈夫ですよ、大切なのは内容です」

 

 くっくっく、と笑ってみせる。

 まあ、確かに大事なのは内容であり、呼び出すのに使った手段は大した意味を持たないのだが。

 1時間ほど前だ。いつも通り仕事をしていたら、見覚えのない電話番号から着信。とりあえず出てみたら、まさかの黒服である。10秒くらい理解できずに固まってしまったものだ。

 そして、呼び出された内容は"話したいことがある"と。断っても良かったのだが、行った方がいいと直感が言っていたのできてしまった。

 部屋の中に細工はされておらず、待機しているものもいない。今リーリァが座っている椅子も普通の椅子であり、黒服が座っている椅子も肘を置いている机もなんら変わりないものだ。

 特に騙されたとかいうこともなく、本当に何か話したいだけのようだ。

 

「……ええ、()()()目の正規勇者である貴女と、話がしたいのです」

「……今、あんたが言ったことと早速矛盾してない?」

 

 それは、単刀直入というには少々遠回りな表現だ。

 リーリァ・アスプレイという人物が二十代正規勇者なのは、まあ事実である。そしてもう1つ、それを教えた人物はキヴォトスには誰一人としていないのもまた事実である。

 それを知っているということは、手段はともかくとしてリーリァについて調べてきた、という話である。

 

「聡明な貴女なら、今の言葉で十分伝わると思いましたのでね、くくく……」

「……はあ」

 

 その手の持ち上げる言葉は、耳にたんこぶが出来そうなくらい聞いた。……まあ、この男の言葉はお世辞ではなさそうなのだが、とはいえされて嬉しい評価でもない。

 

「それで?」

「……貴女に、決して断れない提案が1つ」

 

 何処かで聞いた言葉だ。……そうだ、ホシノから聞いたのだ。黒服はそうやって迫ってきたのだと。

 

「私は貴女のことを調べてきただけではありません。貴女の亡き後、世界が、人類がどうなったのかのかも調べてきたのです」

「……」

「おっと、失礼。貴女が興味あるのは、人類ではなく……ヴィレム・クメシュの、貴女の愛した」

 

 黒服の言葉はそこで途切れる。リーリァが何かした訳ではない。ただ、リーリァの表情がブチ切れる寸前になったことに気がついたので止めただけである。

 

「失礼、見ていただけの人物を()()()と評するのは間違いでしたね」

「……喧嘩でも売りに来たの?」

 

 彼の発言に、明確にイラつかされている。しかし、これは狙ったものだ。深呼吸しながらも、頭の中を整理する。

 確かに私はヴィレムのことが好きだ。そしてそれと同じくらい嫌いだ。あいつのことを話したことはあるけれど、名前を出して話したことはなかったはず。

 今語っていた内容でさえ、しっかりと調べきたと、リーリァがいなくなった後の世界のことを調べたのも嘘ではないと主張しているのだ。

 

「……対価は?」

「私の話を聴いてくれれば良いのです」

 

 それはまた、破格を通り越して罠としか思えない内容だ。

 

「そんな怪しい取引が、私が断れない提案だって?」

「私にとって、この答え合わせはそれだけの価値がある、そう思っていただければ」

 

 "私たち"ではなく"私"。つまり、ゲマトリアとしての利ではない、ただ黒服個人の欲求を満たすためだけのものだということだ。

 ………駄目だな。それっぽく頭を働かせてるけど、私がこの場から離れていないという事実だけでこんなやり取りに価値はなくなる。

 

「知りたくないですか?ヴィレム・クメシュのことを」

「……あー、もう!分かった、分かったわよ。聞くだけでいいんでしょ?悪いけど、後から条件足そうもんならあんたのこと斬るよ」

「くっくっく……」

 

 黒服は楽しそうに笑う。そんなに楽しいか、この。

 

「さて、何から話しましょうか。……今の貴女には足りないものがある、違いますか?」

「いきなり質問?まあ、あるけどさ」

「ええ、聖剣(カリヨン)……正規勇者、準勇者問わず勇者の強さの秘訣でしょう」

 

 そして、黒服は聖剣(カリヨン)についてペラペラと話し出す。

 聖剣という名はついているものの、実際はそんなものではない。どちらかといえば"剣の形をした呪具"である。聖剣というのは、単に勇者が持つに相応しい剣という大衆的なイメージの植え付けであり、それ以上でもそれ以下でもない。

 仕組みだけでいうなら、厳密には剣とさえ呼べないものだったりする。幾つもの護符(タリスマン)を繋ぎ合わせて、剣の形状にしているだけなのだから。

 正直そこら辺の仕組みには門外漢なので、使う側として持つべき最低限の知識しか持ってないのだが……とりあえず、呪力が複雑怪奇に干渉して、元の護符(タリスマン)たちの持つ力とは全く違う力が発現しているらしい。

 

「そして、貴女には極位古聖剣セニオリスがありました」

「いや、あたしのって訳じゃないんだけど」

 

 聖剣には、主に2種類ある。極位古聖剣と一般的な聖剣である。極位古聖剣というのは、昔作られた聖剣たちであり、実のところその詳細に関しては不明な点ばかり。共通点があるとすれば、いずれも現代の技術では再現できなかったり、そもそも能力がよく分からなかったりとかそんなもんである

 逆に一般的な聖剣というのは、工房で作られているものである。しっかりと理論を立てて、組み合わせて作られているものだ。なので、中には"量産型聖剣"なんていう、聖剣とは何ぞやと聞きたくなるようなものも存在している。

 まあ、実際の所聖剣じゃないのだから何もおかしくないのだが。

 

「例えセニオリスがなくても貴女は強い。それこそ人間だと思いたくない程度には」

「それはどーも」

 

 腹立つ言い方ではあるが、否定できない事実である。

 

「しかし、セニオリスのある貴女は……強いという表現も憚られるでしょう」

「いや、それは"強い"でよくない?」

「くっくっく……それもそうですね。吐息1つで森を鎮められるような、女神ではありませんからね」

 

 それはまた、何処かで聞いたような話だ。多分新聞(ペーパー)に書いてあった、"リーリァ・アスプレイのご活躍"だろう。

 んな訳ないのだ。いくらリーリァが強いとはいえ、そんなバカバカしいことが出来るわけがない。だったら当の昔に戦争なんて終わってる。

 

「セニオリスの高い魔力(ヴェネノム)適性と貴女の魔力(ヴェネノム)の相性のよさで、一般的な刀剣を超える強さを誇っていたでしょうか。しかし、特筆すべきは……特筆能力(タレント)でしょう。刀身を触れたものを、()()()()力」

 

 セニオリスは、極位古聖剣の中でも最古の一振りらしい。そんなセニオリスの持つ能力が、相手を必ず殺す力というのもまた物騒なものだ。

 これは、例えば相手の首をはねて殺すとかそういう物理的なものではなく、()()()()()()()()()()()をかけるとかそういうものだ。なので、厳密にいえば()()という表現さえ間違っているのだが。

 

「さて、聖剣に関してはこの辺りでいいでしょう。それでは……」

 

 ペラペラとまたどうでもいいことを話し始める。ディオネで平和に暮らしていたところ、国を失って正規勇者にさせられて、ついでにその時ヴィレムと会ったとかそんな話。

 そこからのご活躍についても色々話し始める。なるほど聞く側に立つと、本当に物語に出てくる勇者らしい活躍をしているものだ。……これを正しく知っている人物はあまりいないのだが。ならあたしの努力はなんなんだと思わなくもないのだが、それについてはあたしよりもヴィレムの方が怒ってくれていたし、それもあってあまり気にせずに生きてこられたけど。

 ただこうして客観的に聞いてると、改めて思わなくはないな。

 

「そして、貴女は星神(ヴィジトルス)エルク・ハルクステンを討ち取り、同時に貴女の命も尽きたのです」

「……」

 

 適当に聞き流していたら、いつの間にあたしが死んでいた。

 ……エルク・ハルクステン。あの白い部屋の中にいた、真っ赤な髪の少女。彼女自身に人間への害意も殺意も何もなかったけれど、それでもやらなければいけなかったのだ。

 

「では、そろそろ貴女の欲しているヴィレムの……いや、人類の顛末について話しましょうか」

「はあ」

 

 このもったいぶり方。もう、嫌な予感しかしない。

 

「人物は、絶滅しました」

「……いや、まあ」

 

 それは、そうだろうか。長い時間をかければいつかはそうなるだろう。いや、そうではなく

 

「おっと、失礼。貴女が亡くなってから1年も経たず、でしたね」

「…………」

 

 脱力する。空を見上げようとして、そこにあるのが天井だと気がつく。

 ………なにやってんのさ、ししょー。

 

「おや?あまり驚いてないようですね」

「……星神の魂を加工する必要があった、だっけ。あれが失敗した……そういうことでしょ」

 

 星神討伐へ向かう前夜、ししょーから話は聞いていた。正直何言ってるんだ漫画の読みすぎかくらいには思いたかった話。

 理由は、いくつか想像は出来る。例えば私があの場で意識を失ってしまったせいで星神の遺体を持ち帰れなかった。……まあ、それはないぁろう。誰かがスタンバっててもいいはずだ。

 例えば、真界再想聖歌隊の過激派の強い妨害があったとか。或いは讃光教会が余計なやる気を出して、ししょーのこと捕まえちゃったとか。

 ……具体的に何をするつもりだったのか、どうして星神の魂が必要なのかとか、そこら辺までは教えてくれなかったけど。世界が滅ぶ寸前と言っていたのだ。その通り、本当に滅んでしまったというだけのこと。

 リーリァはやれることをやった。守りたいものを守った。そうだろうか。確かにヴィレムは正規勇者なんぞにならなかっただろうが、その後すぐ死んでしまいましたというのを救ったなんて言えるだろうか。

 

 正規勇者は、かつての勇者の生き写し。だから、それと同じく本当に救いたいものは救えないのだ。二十代正規勇者であるリーリァ・アスプレイも、元十八代正規勇者でありししょーのニルス・D・フォーリーナーも。

 

 ………と、理屈を並べれば納得するだろうか。んな訳ない。

 

「……ですが、貴女はもう正規勇者ではありません」

「何?」

 

 もう、本題は終わったのだろうと勝手に思っていた。黒服は、ただあたしがクソみたいな事実を知って悲しみ絶望する様を見たかっただけではないかと思っていたけど。

 

「なのに、その生き方に拘ろうとする。抜け出そうとしない。であるならば、もう一度同じ結末を迎えるでしょう。貴女が貴女である限り」

「……」

「自らの幸福を追い求めて、重責を脱ぎ捨てて。普通の女の子になることを、誰も責めないでしょう」

「……」

「それが、キヴォトスの滅びを回避する最も賢明な手段です」

 

 ……こいつは。

 

 

「提案をします。ゲマトリアに、入りませんか?」

 

 

 数分後。床に転がった黒服が1人笑っていた。来客の失った部屋で、くくくと笑っていた。

 何故床に転がっているかといえば、最強の人類による本気のビンタが、思ったよりも痛かったからだろう。

 

 ところで、だ。黒服の話に、明確な悪意があったことを知る人は黒服しかいない。

 何故なら、確かに人類は滅んだのだが、ヴィレム・クメシュという男は死んでいないからである。




あとがき

設定整理も兼ねた大事な回でした。
前回までのイベント編のあとがきも書けてないので、そちらもまととめてのあとがきのコーナーにしましょう。
いつものごとく飛ばしてもらっても構いませんのでね、勝手に喋ってるだけですので。


まず、ですね。イズナかわいいなあ!!!!というのがあのイベントの話の率直な感想でしたね。その上で話を作った……訳ではないんですけれど、いくらかイズナ贔屓にはなってしまったかもしれません。いいんです、その分リーリァが苦労するだけですので。(おい)
ただ、話の作りとしてリーリァの頭の良さなら会長が犯人なのはすぐ気がついてしまいそうだよなーと思い、どうやって話を進めるべきかは悩みましたね。結果としてリーリァが無双することになりイズナが弟子入りしてしまいました。……なんで?誰だこれ書いたやつ(お前じゃい)
さてイベントの話はこんなもんでいいでしょうか。いや、シズコのマジギレパンチは入れさせたいのでリーリァがとどめを刺さないようにしたとかそんな話もあったりなかったりですが。……え?あとがき欄の話はなんだって?何だろうなー(すっとぼけ)

そして今回の話。やりましたよ黒服さん。リーリァにヴィレムは死んだと思い込ませるというクソ以下の行動を。下手に嘘吐けばバレますからね、どう話すべきか三日三晩考えたのではないでしょうか。
ところでですが、そろそろ察してる人いるかもしれません。今回の話もそうなんですが、本作はリーリァにはかなり心労を背負ってもらうことになるのです。いやね、私もそんなことしたくはないんですけども正規勇者の人生ってそんなもんなのでね。vol2もvol3も色々苦労することになると思います。
……さて、これ以上書くとネタバレのコーナーになりかねないのでこの辺りにしておきましょうか。くっくっく……

……後ですね、前話の投稿が遅れたのは風邪引いたからですよ。皆さんも体調には気をつけてくださいね。


ということで?また次回です!
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