元勇者の先生日誌   作:Ruve

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私は先生だから

 シャーレの事務室へと1人の少女が足を踏み入れる。そして、目的の人物を探そうと目を動かし……違うものを発見する。

 ソファに寝転んでいる、桃色の髪の少女。その姿を、間違えるわけはない。

 

「……小鳥遊ホシノ?」

 

 シャーレは立ち入り自由だし、何よりアビドス対策委員会の5人は部員になっていた筈だ。いることは別に不自然ではないのだが、何故ソファで寝ているのだろうか。

 少女の呟きにも全く反応を示していない。完全に眠っている様子。

 あまりにも、無防備だ。

 

「……」

 

 無防備、それ以外に言い表せないホシノの姿に少女は少しだけ好奇心に突き動かされる。

 用のある人物、つまりリーリァ先生に関しては待てば戻ってくるだろうし、探しに行くのもすれ違う可能性がある。だから、この好奇心は何も悪いことではない。

 誰かに言い訳するように少女は足を進めて、背中をツンと押してみた。

 

「ぎゃっ!?」

 

 悲鳴が上がった。驚いたという言葉では済まされないだろう、悲鳴が。

 目を丸くしながらホシノは、悪戯してきた犯人の顔を確認する。

 

「……委員長ちゃん?」

「……えっと」

 

 空崎ヒナと、小鳥遊ホシノの間に。……微妙な空気が流れた。

 

「……何やってんのさ」

 

 そして、ちょうど戻ってきていたリーリァが呆れ顔で様子を見ていた。

 

 

ーーーーー

 

 

 2時間前の話である。

 

「うへ〜、今日はおじさん調子いいし、組手しない?」

「えー?」

 

 "例のフロア"でリーリァとホシノが対面していた。組手とは言っているものの、毎度の如くホシノが手も足も出ずに終わってしまうので訓練としては不適切だと思いやっていなかったが。

 

「まあ、ホシノちゃんがそれでいいなら」

 

 ただ、リーリァも"先日"の件以降、身体を動かしたいとは思っていた。だから、深く考えずに了承してしまう。

 

「今日こそ1本取っちゃうぞー!」

「……」

 

 準備体操をしながらも、ぼんやりとリーリァは別のことを考えていた。黒服が言っていたことが本当に正しいのか、そもそも嘘を吐いてなかったのか。

 ……単なる現実逃避にしかならないが、真実を確かめる手段がないのもまた事実なのでもやもやするばかりだ。

 

「よ〜し、リーリァちゃん。おじさんはバッチリだよ」

「……うん」

 

 まあ、今は目の前のことに集中しようと意識を無理やり引き戻し、そして……ホシノが妙に自信満々なことに気がつく。

 

「あたしは別にいつでもいいけど」

「……よし」

 

 ホシノがゆっくりと深呼吸をし、姿勢を整える。そして……"落ちた"。

 

「!?」

 

 常人には間違いなく捉えられないであろう速度で走ったホシノの身体は、直後に90度ひん曲がり壁へと吹っ飛んでいった。

 

ーーやばっ!

 

 リーリァとて人間であり、生物である。だからこそ反射による行動というものは取ってしまう。本能的な、怯えとでもいうべきだろうか。

 完全に想定外だったホシノの行動に、つい蹴りをかましてしまったのだ。それも結構な威力で。もう少し具体的に言うと一般人なら死んでもおかしくない威力で。

 ……壁にホシノの型を作ったうえに、その身体がぺしゃりと床に転がった。

 

「ホシノちゃん!?!?」

 

 

ーーーーー

 

 

「……えっと」

 

 ヒナは、物凄い微妙な表情をしていた。

 

「いやー、何事も集中は欠かしちゃ駄目だよね……」

 

 "考え事"の内容はさておいて、客観的に何があったのかをヒナに説明した。

 因みにホシノは受け身を取れていたようでーーホシノじゃなければ無理だっただろうーー無事だったが、それが限界だった様子。病院に連れて行こうとしたが、ホシノが「リーリァちゃんのこと説明する訳にもいかないし、ここで休んでるよ……」と拒否したため絶賛休憩中だったのだ。

 なら何故ヒナに説明したのかだが、ヒナには勇者だったという事実は一度話しているまあいいのではないか、というだいぶ軽い理由である。

 

「……何処から聞けばいいの?」

 

 あまりにもツッコミどころしかない話に、どうしたものかとヒナは困っていた。

 

「まあまあ、私たちのことは置いといてさ。用事があるからわざわざ来たんでしょ?」

「……」

 

 再び寝始めたホシノへと、視線を移す。

 ……あれほど強いホシノが、リーリァに一撃で落とされたことに驚くべきなのか。はたまたオウサンなんだかという技に感心すべきなのか。

 

「……そうね」

 

 実のところ、用事というのはそこまで大事ではない。今後の風紀委員会の活動についての相談が少しと、後は書類関係で手伝ってもらいたいことがちょっと。

 本音を言うならば、リーリァに会いたかったという部分の方が大きかったのではないだろうか。

 ということで、1時間程度でそのことは片付いた。用事は終わったし帰ろうかと支度しようとして、視線は熟睡してるホシノへと向く。

 

「ん?まだある?」

「……もし、だけど」

「うん」

「私もリーリァに、鍛えて欲しいって言ったら……どうするの?」

 

 数秒の沈黙。リーリァの赤い瞳がヒナを射抜く。それからホシノへと視線を移し、それから何故か部屋の端にあるロッカーへと移し、それからヒナへと戻る。

 

 あー……うん。凄い困るな。

 

 リーリァは無言で呟いていた。ホシノにイズナまでーー流れでだがーー弟子入りしてしまったし、ヒナまでとなると身体が1つだと厳しくなる。

 というのもあるけれど、気になることがある。

 

「……"それ"が理由なら駄目かなあ」

「?」

 

 ヒナはきょとんとした顔になる。

 そんな様子にリーリァはふふっと笑い、"それ"について説明する。

 

「ヒナちゃんさ、()()()()()()()()()()()とか思ってない?」

「……!」

 

 ヒナの驚愕する表情が、それを肯定していた。

 

「悪いけどさ、ヒナちゃんはホシノにはなれないよ。というか、ならない方がいい」

「……どうして」

「あたしがヒナちゃんのこと、好きだから。なんてね」

 

 それは嘘ではないけど、本音はもう少し違うところにある。……当たり前だ、リーリァは"何処ぞの誰か"として生を全うしたのだから。それは間違いなく、楽しいもんでは無かった。いやまあ、だから会えた人物とかは沢山いるけどもそれはまた別の話。

 

「まあ、ヒナちゃんに教えるのは良いんだけどさ。そこはもう少し考えてよ」

「………」

 

 にかっと笑い、困っているヒナを軽く押す。

 

「私は……」

「ヒナちゃんも仕事あるでしょ?とりあえず帰ってから考えてみてよ。すぐ答えが出せる話じゃないしさ」

 

 ……いやー、我ながら酷いことしてるなあ。

 とほほと思いつつも、とりあえず自分の仕事を優先することにした。何だかんだと言ったものの、やっぱりこれ以上弟子が増えられても困るというのはあるのだ。

 

 

ーーーーー

 

 

 鶯賛崩疾という技なのだが、取得できる者はそう多くはないのだが()()に関してはそうではない。鶯賛崩疾の本質は不意打ちにこそあり、動き自体は直線的になるからこそ対策自体は存在するのだ。

 ……リーリァが反射的に蹴り飛ばしたのは、また別の話だが。

 だからこそ、使うたびに足を完全に止めて息を整えてなんてやっていたら、鶯賛崩疾という技を使いこなせているとは決して言えないだろう。

 しかし、だ。

 

「……よく覚えられたよね」

「おじさんも頑張れば出来るものだよ」

 

 えっへん、と寝間着姿のホシノが胸を張る。

 まだ少しだけ痛むという話なのでーー回復が随分早いものだと感心するがーー泊まりということになった。服は適当なのを貸したので、少しぶかぶかだ。

 しかしだ、少なくともリーリァのいた世界において"才能がある"ということは決していいことではないのだが、キヴォトスにおいてはそうではない。と、信じたいものである。

 

「頑張ればって……頑張って覚えられるなら苦労しないでしょ」

 

 頑張ったら覚えられてしまう側のリーリァが言うのも変な話ではあるが。

 

「ふふん」

 

 どういう感情でツッコめばいいのだろうか。

 

「でも、なんであれ間に合っちゃうの」

「ん?……ああ、さっきの蹴り?いやなんでって聞かれてもなあ」

 

 至極単純な話、それだけリーリァの身体能力がおかしいというだけではある。

 ……そもそも鶯賛崩疾"程度"で傷を付けられるなら、正規勇者(リーガル・ブレイブ)なぞやってられないだろう。なんなら準勇者(クアシ・ブレイブ)さえ無理ではないだろうか。

 

「まあ、そういうもんだから諦めてよ。ホシノちゃんには"それなり"に才能があるのは分かったけど、あたしはそういう次元じゃないの」

「いつかは絶対におじさんが勝ってみせるからね」

「期待しないで待ってるよ」

 

 それからは他愛のない話をして、後は寝るだけになった。談笑こそそれなりに盛り上がったが、趣味無し人間2人である。話したいことを話すだけ話したら寝るだけだ。

 

「……じゃ、お休み」

「……」

 

 ベッドに2人で横になり目を瞑る。……いやまあ、ホシノが一緒の布団で寝たいって言うからさ。

 

 数分経っただろうか。ホシノの少し小さい手がリーリァの手を握る。

 

「リーリァちゃん、まだ起きてる?」

「……」

 

 起きてる。起きてるけど……なんとなく、狸寝入りしたくなったので黙ってる。

 

「ね、リーリァちゃん。私はね、リーリァちゃんの悩み聞きたいんだ。リーリァちゃんが私のために力になってくれるのと同じくらい、リーリァちゃんの力になりたい。……駄目かな?」

 

 ……駄目。だって、私は先生で、ホシノは生徒なんだから。

 

「……おじさんなんかじゃ頼りないかもしれないけどさ」

 

 別に、そんなことはない。いてくれるだけで嬉しいし。

 

「……って、何言ってるんだろ。今度こそお休み、リーリァちゃん」

 

 ……お休み。

 

 

ーーーーー

 

 

 盗み聞きしてしまったことに、僅かな罪悪感を得つつもホシノを帰宅させる。

 さて、今日の仕事がんばるぞー!と気合を入れて事務室へと入り。

 

「………」

 

 "また"かと溜息を吐く。気がついてないフリをしながら椅子を引き、座る……と見せかけて顔を机の下に覗かせる。

 

「わっ!」

「わっ!?」

 

 そして、そこにはつい先日弟子入りしてきた忍者少女、イズナがそこにいた。……前回はロッカーに隠れていたが、今度は机の下か。もっとバレやすい場所になった気がするのだが?

 

「また見つかってしまいました!」

「甘いな〜、イズナちゃん」

 

 シュバッと机の下から転がり出て、バッと立ち上がる。フォームは綺麗なんだけどな……

 

「ロッカーと違って音は立たないと思ったのですが、うーん」

「いや、場所の問題じゃない」

 

 というか、事務室内で隠れてるのを是非やめていただきたいのだが。

 どうやら、師匠である私に気付かれずに潜伏出来るようにと修行の一環で隠れているようなのだが、直接師事を頼んでこないのは私に配慮してなのだろうか。

 

「……今日も仕事あるんだけどなあ」

「分かりました!不肖イズナ、お仕事を手伝わせてもらいます!」

「いいの?修行じゃないけど」

「師匠の手伝いをするのも修行の一環だと、漫画で読みました!」

 

 屈託のない笑顔でイズナは笑う。……ちょっと眩しい。こんなに素直な子がいて良いのだろうか。いや私が曇りすぎてるだけだろうか?

 

「よし、それならガンガン手伝ってもらうからね」

「任せてください!」

 

 と、始めたのは良いものの。

 

「あれ取って」

「はい、これを……うわっ!」

 

 転んで書類の束が床に広がってしまったり。

 

「えっと……えっと……」

「これは……うん、そうそう」

 

 書類の作成も別に早くない、どころか文書ソフトの操作も覚えきれていない。

 

「師匠が必要なのは……これですね!」

「……こっちだけど」

 

 言われる前に取ってこようとして、違うものを持ってきたり。

 

 てんやわんやといつもより忙しい仕事をしながらも、お天道様は空の上。時計の針は12時を示していた。

 そして、そんな日や針とは真逆にイズナは真下を向いていた。

 

「うぅ、イズナ……全然役に立てていません……」

 

 完全にしょんぼりしてしまっている。確かに忖度無く言ってしまうのなら、普段より忙しかったのだが。

 

「落ち込まないでよ。なんだっけ、ほら、失敗は成功の母って言うでしょ」

 

 なんだろう、なんだろうか。どうフォローすればいいのか分からない!イズナみたいなタイプの人と話すことあまりないし!

 多分ヴィレムのやつならこういうのは向いてるんだろうなあ……と余計な思考を挟みそうになったので、頭を振って追い出す。

 

「……ですが!」

 

 ん?

 

「イズナ、諦めません!師匠の弟子として、忍術も仕事も出来るようになってみせます!」

 

 ……なんか勝手に立ち直っちゃった。

 イズナのポジティブさは見習いたいものである。

 

 とりあえず昼飯を食べていると、先に食べ終わったイズナが近くでぴょんぴょんし始める。そのたびに尻尾がふわふわと上下する。かわいいんだけど毛がご飯に入りそうでちょっと気になる。

 

「どうしたの、さっきから」

「師匠がご飯に集中出来るよう護衛中です、ニンニン!」

「……」

 

 むしろ集中出来ないんだけどー!?

 

「えっと、イズナちゃん?忍者ならもっと忍ばないと……」

「……はっ!?流石師匠です!忍びながら護衛しないとですね!」

 

 シュバッ、シュタッ。少し距離を取り周囲を警戒し始める。まあそれくらいの距離ならいいか……と食事を再会する。

 しかし、だ。ホシノと違って彼女には何を教えればいいのだろうか。適当言ってあしらうのは流石に無責任にも程があるが、とはいえ彼女に教えることもそう出てこない。……やはり隠行術だろうか?

 と、全然忍んでる様子がないイズナを見ながら考える。忍んでるどころか動きまくってるせいで主張が激しいまである。

 というかそもそもだ。イズナが忍者になりたいのって、カッコいいからとかだよね。ちゃんと聞いた記憶はないけど、漫画とか参考にしてる辺りそうなのだろう。そんな彼女に真剣に教えるというのもまた……

 もぐもぐ、考えながらも観ていると、パッと目が合う。ピタッと止まり、それからシュシュッとひとっ飛び。

 

「師匠、悩み事ですか?」

「……」

 

 うん、まあそうなんだけど。

 

「……イズナはさ、忍者になって何かしたいこととかってあるの?」

「したいこと、ですか?うーーん……」

 

 まあ、イズナにとって忍者は手段ではなく目的だ。特に考えてないだろう。

 

「師匠を守ります!そして一緒に戦います!」

「……」

 

 お、おお。私か……私が目的になっちゃったか……

 

「でも、私めっちゃ強いよ?」

「大丈夫です。弟子はいつか師匠を超えるものなので!」

 

 もはや忍者の話ではないような気がするが。

 ……でも、ここまで本気でそう思っているのなら、実現出来るかもしれないとか思ってしまう。

 

「……そっか」

「師匠、ようやく笑いましたね」

「えっ」

 

 イズナはまたニコッと笑みを浮かべる。とても純真で、優しくて、見ていてちょっと安心しちゃう笑顔。

 

「師匠、仕事中もですけど、休憩に入ってからもずっと難しい顔をしていました。きっとイズナには分からない難しいことがあるのかもしれませんが、なるべく師匠の力になりますので!」

「……」

 

 あーー……私、もしかして普段からそういう雰囲気出てる?だから色んな人から心配されてるの?

 まあ、でも。

 

「ありがと、イズナ」

「はい!」

「なら、早速……」

 

 午後も仕事を手伝ってもらおうかな、と言おうとした所でスマホの通知音。

 

「……いい?」

 

 こくこくと頷くので、スマホを見てみると相手は……ヒナ?何々?あー……昨日の。

 

「うーん……午後はゲヘナに行かないと駄目そうなんだけど、どうしよっか?」

「あのゲヘナですか!?分かりました、イズナに護衛を任せてください!」

 

 即答である。まあトリニティ生でもあるまいし、シャーレの付き添いなら問題は無いだろう。イズナの性格的にトラブルの元には……ならないと思うけどゲヘナだからなあ。……まあ大丈夫でしょ。

 

「じゃあ、行こうか」

「はい!師匠には埃一つ付けません!」

 

 それは無理だと思う。

 

 

ーーーーー

 

 

「な、何でしょうか……ずっと狙われてます!?」

「イズナが珍しいからじゃない?」

 

 無事にゲヘナ自治区へと着いたのだが、視線が凄い。イズナの格好はゲヘナでは珍しいし、何より耳と尻尾の首長が激しい。ぴょんぴょん動き回っているので尚更である。

 ただ、運が良いのか普通なのか襲われる気配はなく、道中はひたすらイズナが目立つ結果に。……忍びとは何だと思わなくもないけど。

 そんな感じで風紀委員会の執務室へと顔を出すと、見知った顔はアコだけだ。……ヒナは呼び出した傍からまた仕事か?どうなってるのよゲヘナは。

 

「やっほ〜、妖怪乳モロ出し」

「は?」

 

 ジト目でこちらを観察した後。

 

「は?」

「よ、妖怪ですか!?イズナが退治します!」

 

 ジョークにしてはパンチを入れすぎてしまった。いやでも、なんかアコはいじっても許される気がするんだよな。

 

「イズナ、あの妖怪は退治しなくても平気だから」

「そうなのですか?」

「さっきから何ですか!?私も暇じゃないんですけれど……!?」

 

 と、半ギレしながらも応対してくれているアコだが、目の前には結構な量の書類が。他のみんながいないのはまたなんか事件の対処に当たっていて、それでも処理しないといけない書類もあるからアコは居残りか。

 ……シャーレの仕事量も大概だが、改めて酷いなゲヘナ。

 

「ヒナちゃんに呼ばれて来たんだけど、またなんか事件?」

「ええ、先ほどまた温泉開発部がテロを……」

「温泉開発部が、テロですか?」

 

 良く分かっていない顔のイズナが、コクリと首を傾げる。まあ、普通はそうだろう。

 

「……そちらは?」

「今日のシャーレの当番」

「はい!イズナは、久田(くだ)イズナと申します!ししょ……主殿元で修行中です!」

「ししょ……?」

 

 今なんて言いかけた?と顔が聞いているが、そこは知らんぷりしておく。下手に答えると存在しない墓穴が生まれてしまう気がする。

 そんなこちらの態度に1つ溜息を吐いてから、しかし応対は続けてくれる。

 

「委員長に用があるなら、こっちではなく委員長のことを手伝ってきてください」

 

 と言いつつスマホを操作すると、直後に通知音。アコのモモトークから、地図が送られている。

 

「……ありがとね、アコ」

「……はあ」

 

ーーそんな顔されたら、無視できるものもできないじゃないですか……

 

 アコは声に出さず作業を再開する。

 出会い頭無礼を通り越した挨拶をされたが、そういう冗談を飛ばされる程度には信頼されているのだろうか。と、もやもやとした感情を抱える。

 

「よし、イズナ。行こう!」

「はい!」

 

 そんなアコのことは放っておいて、リーリァとイズナは足早に執務室を出ていく。

 

「……どうして、あの人のことなんか心配してるんでしょうね」

 

 

ーーーーー

 

 

 機関銃の音が、辺り一面を支配していた。

 応戦しようと銃を向けた者はことごとく機関銃の餌食となり、逃げようとしたものもその背中を捉えられる。

 

ーーどうしてこんなタイミングで。最悪……!

 

 機関銃を放つ少女は、悪鬼羅刹と化していた。ゲヘナ郊外にて"温泉開発"をしようとしていた部員達は手も足も出ない。

 

「私たち要らなかったかな」

「あれが噂に聞くゲヘナの風紀委員長……!」

 

 少し離れた家屋の屋根から、2人の忍者が顔を覗かせる。手伝いに来たのは良いのだが、圧倒的な早さで制圧しているし手を貸す必要もないのではないか。

 と、思いながらも念の為索敵していると、ヒナの後方に陣取ってる生徒が数名。

 

「イズナ、あそこ見える?」

「……見えました!」

「よし、忍者らしくシュバッと制圧してきちゃって」

「ふふん……強くなったイズナの姿、見せる時!」

 

 手で何か組みながらーー忍法の構えだろうかーー屋根から屋根へと跳び、そこから隠れている生徒達の真上へ飛翔。

 

「イズナ流忍法、超もくもくの術!」

「何!?」

 

 ちょうどヒナが制圧を完了したと同時に、後方でスモークグレネードが幾つも炸裂。

 ……と、同時にリーリァもヒナの元へ着地。

 

「待って、あれは味方だよ」

「先生!?………そう」

 

 急に声をかけたからか、驚きの余り機関銃を落としそうになったがすぐに状況を理解した様子。

 それから煙の中で小気味よい発砲音が続き、煙が風に流される頃にはイズナだけが立っていた。

 

「主殿!イズナも強くなってるんですよ!」

「よーしよしよしよし」

「ふふん」

 

 褒めて褒めてと言わんばかりにドヤ顔をしていたので、いっぱい頭を撫でる。こうしていると人間ではなく小動物を相手しているような感覚になるなあ。……そんな身長差あるわけでもないのに。

 

「………」

 

 ヒナがそんな様子を見てむすっとしていたことを見た人物は、ここにはいない。

 

 温泉開発部の処遇は……まあいつも通りである。今回は部長の姿はなかったので、指示だけ出して別の作業をしていたのではないかとかそんな話はあるものの、とりあえず現場にいた者は全員捕まえたので、この件はこれ以上リーリァが気にしなくてもいいことである。

 

「ごめんなさい、呼んだのにこんなことになっていて」

「私は気にしないよ」

 

 場所は改めて執務室。話がしたいということでイズナが抵抗するアコを追い出して今は2人きり。……アコがヒナの命令に反抗したのは意外だったけれど、2人きりにするのがそんな心配か?

 

「……それで、もう結論が出たの?」

 

 正直な話、1週間くらいはかかってもおかしくないと思ったし、風紀委員会の忙しさなら1ヶ月も視野に入れていた所なのだが。

 それでもこれだけ早く決めたとなれば、諦めた……と考えるのが自然になるくらいだけれど。

 

「……仕事」

「え?」

 

 出てきたのは思ってもなかった単語。

 

「私が今より強くなれば、もっと早く不良達を捕まえられる。……風紀委員会の仕事のために、シャーレに協力して欲しい」

 

 んん?

 

「そういう理由なら、断らないよね。()()は」

 

 んんん?

 

「……んー?」

 

 そう来たかあ。いや、ほんとに断れなくなるんだけどそういう理由にされると。……ヒナちゃんの現状をどうにかしたいなーというのも思ってはいたしさ。

 

「いや、まあ。……それなら良いけどさ」

「……」

 

 ヒナは、悪戯が成功した子供のように笑みを浮かべた。

 

「改めて言っておくよ。ヒナはヒナだからさ、ホシノにはなれないよ。私はそのつもりでやるからね」

「……ええ」

 

 人は誰かになんかなれない。ヴィレムがリーリァになれないように、リーリァがヴィレムになれないように。

 

「まあ、でも。そもそもヒナちゃん忙しいよね。スケジュールはちゃんと組んだ方がいい……かな?」

 

 割とホシノとは当番のタイミングだったり、そんな深く考えず出来る時にやっている。イズナも勝手に来たりするのでしっかり段取りなんてしてない。

 しかしヒナはそうもいかないだろう。当番自体も頻度はそんなに取れないし、それ以外のタイミングとなると尚更そんな簡単に出来ない。だからちゃんとスケジュールは決めた方がいいと思うけれど……なんかそれさえも反故になりそうな気がするのは私だけだろうか。

 

「リーリァがそれで大丈夫なら、私は平気よ」

「んー……まあ仕事ってならこっちは調整出来るし」

 

 問題ないけど、と続けようとした所でドカンと扉が開く。

 

「委員長、食堂でトラブルがあったとのことなので私が行ってきます!」

 

 ……相変わらず忙しいな、ここ。

 

「イズナも行ってきて。アコじゃ戦力ならんでしょ」

「はい!?……いや手伝ってもらえるのなら構いませんが……」

「分かりました!アコさんの力になれるようイズナ頑張ります!」

 

 ドッタンバッタン、支度して出ていくアコとイズナ。まあ、アコもああ見えて面倒見いいタイプだし任せても大丈夫だろう。

 

「……私もなんか手伝う?」

「大丈夫、って言いたいけど……今日はお願いしたいわ」

 

 そして、結局その日は夜まで風紀委員会の手伝いをすることに。気がつけばイズナがみんなと仲良くなっているようで、相変わらずの人懐っこさに少し安心した。

 

 

ーーーーー

 

 

 というのが、ここ最近のことになる。

 

「…………はあ」

 

 まあ、忙しい方が暇よりかはいいだろう。それだけ目の前のことだけに集中出来るんだから。

 特にイズナといる間は凄い気楽だし、たまに尻尾もふらせてもらうし。

 

ーーもう一度同じ結末を迎えるでしょう。貴女が貴女である限り。

 

 ……私は、もう勇者じゃないんだ。今の私は先生だ。だから、きっと大丈夫。大丈夫だから。

 頭からこびりついて離れない、彼の言葉を振り払うように頭を振ってから、桃色のくじらを抱きしめた。




あとがき

連休中なのでガンガン書き進めるぜ!とリアタイじゃないと分からないでしょう呟きしながらこんにちは。
イズナが……イズナが強い!ホシノやヒナ、そしてリーリァとも違って湿度が低いから凄いありがたい!となる1話でした。あとちょっとだけアコでした。


ここからはよもやま話なんですが、今回どういう話にしようかという脳内プロットを用意せず勢いで書いたので、割とグダグダな話になってしまったかなーと思うのですが、要素としては書くべき点を書けたかなと思ってます。
本作の特性上リーリァに焦点当たっていますが、リーリァに影響されて周りがどう変化していくのかというのも考えながら書いてます。もちろんブルアカ原作が未完&不明点多い作品なので、想像も多々噛ましていますがそこは二次創作の醍醐味ということで。


ということでまた次回!vol2,1章まであと2〜3話くらいの予定ですので……予定なので!次のメインストーリーまでお待ちください!
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