銃声。それ自体はキヴォトスにおいて、特別な意味を持たない日常である。
1つ、2つ、3つ。銃声が鳴るたびに相手が倒れていく。
「……!」
彼女が握っているのは大型の拳銃だ。しかしおもちゃでも握っているかのように軽々と扱いーーキヴォトスではそれほど珍しい話ではないがーー当然のように命中させていく。
「全く……歯ごたえがないねえ」
「やっぱり、先生って……」
「だーかーら、あたしは先生なんかじゃないってば」
少女は赤い髪を揺らしながら、ひらひらと手を振る。そして、未だ困惑気味の陸八魔アルへと笑った。
ーーーーー
便利屋68、事務所。……訂正、D.U.地区にある、とある公園。金銭的な都合で"また"事務所を無くした便利屋68へ、それでも依頼は舞い降りた。内容は、とあるオークション会場の警護だった。
「便利屋68の噂は兼ね兼ね伺っております。是非、貴女達にも参加して頂きたいのです」
「……私達4人だけで、警護をしろ。そう言ってるのかしら?」
髪をかき上げながら、アルは男へと返答する。
「まさか。会場は広いので、いくら貴女がたとはいえ4人では厳しいでしょう。いえ、実力を疑っているわけではありませんがね……」
無言で睨みをきかせながらショットガンを構えようとしたハルカを見て、男は慌てて弁解する。
今にも男の顔面に銃弾を叩き込みそうな雰囲気になっている彼女を、カヨコが収める。依頼人に、それも特に悪意のない相手へ攻撃したとなれば面倒になる可能性は十二分にある。
「我々の方でも戦力は用意しています。で、す、が!便利屋68の皆様なら、百人力だと考えております。報酬の方は……」
男が提示した額に、アルは目を丸くする。ムツキが、ふーん?と口にしてカヨコは目を細める。
「ま、待って。本当にこの額で合ってる?」
まさかまさかの金額に、作っていた余裕の表情が崩れ始める。
「はい。このオークションの成功には、それだけの価値があると我々は考えています」
「……」
ーーすっっごく欲しいんだけど!?
絶賛テント生活をしている現状としては、その金額は喉から手が出るほど欲しいものだった。しかも、少し怪しいと感じる程度には依頼内容もそんなに難しいことではない。
と、アルは考え、またそう思ってるんだろうなあという顔でムツキとカヨコが見ている。
「……待って。少しだけ、5分だけ外で待っていてもらえないかしら」
「5分……分かりました」
男は素直にテントから……事実上の受付と化していたテント前の机から離れていく。
「……私としては受けたいのだけれど。でも少しだけ気になるし、皆の意見を聞いておきたいわ」
「えー?その必要ある?」
「わ、私もアル様に従います!」
面白くなればいいやというムツキと通常運行のハルカは即答だった。しかし、カヨコだけは違う。
「……まあ、いつも通り社長に従うけれど」
数秒の沈黙。しかし、答えは結局皆と同じだった。
そもそもの話、便利屋68において依頼を受けるかどうか意思決定しているのはいつも社長であるアルであり、今回もそれが変わることはないのだ。
「でも、社長の心配も分かる。正直、あの額は多すぎる」
そもそも、依頼を受ける時に相談すること自体が珍しい。……なのに、今回わざわざシンキングタイムを設けたのはアル自身引っかかっている部分があるからだろう、という点まで想像は出来ている。
だからこそ、その疑念となっている部分について話題にはあげておく。
「だ、大丈夫です。もしも、もしもですが騙されたりしているなら……」
ハルカがショットガンを握りしめて、それからまるで恋人を抱きしめるかのように抱えて。
「全部ぶっ飛ばしますので」
ニヤけた笑みを浮かべながら、宣言する。
「まー、そういうことだし良いんじゃない?」
「……よし、そうね」
そして、話は纏まった。
「依頼を受けさせてもらうわ!」
「……それでは、必要な資料をこちらに用意しましたので目を通してください」
会場の見取り図、他の警護の配置など、資料だけ残し男は去っていった。
「依頼は電話でいいって、伝えたほうが良かったんじゃない?」
それは、もう男の姿が見えなくなってからムツキが呟いた言葉である。
そして当日まで時間は飛び。
ーーーーー
「全員、配置に着いたかしら?」
会場の外、隣の建物の屋上。狙撃ポジションに着いたアルが、スマホで3人と連絡を取る。
「おっけーだよ!」
「こっちも問題なし」
「は、はい!」
日が沈み始め、代わりに人工的な明かりが点いていく。それは目の前にある会場でも変わりないことである。
オークション開始まで後1時間の予定。スマホを仕舞いながら周囲の警戒に戻る。会場には3つ出入り口が存在しているため、アル、カヨコ、ムツキがそれぞれ担当しハルカは中で待機している。
ーーそれにしても、大きな会場ね……
資料を見た時に一度そう思い、実際に下見に来た時もそう感じた。これほどの規模のオークションともなると、偉い人とかも来ているのだろうかと考える。それなら依頼の額も納得できるし、何よりそんな会場の警護を任されるなんて便利屋68も随分有名になったものね!と考えてから、いやまさか万魔殿や風紀委員会が来ているなんてことないよね!?と心配になったり。
中へ入っていく人に怪しい人物がいないか、逆に知り合いがいないか……気にしながらも見張っているが今のところ問題もなさそう。
ーーこのまま終われば楽なんだけれど。
見ているだけで大金がもらえるなら御の字だし、余計な弾薬費もかからない。仕事としては退屈になってしまうけれど、たまにはそういうこともあっていいのではないだろうか。
そして、1時間経過。
会場の入り口は閉鎖され、依頼主が別に雇ったであろう警護の黒スーツ達が各入り口に2人ほど配置される。
事前に決めていた通り、ムツキとカヨコは中へと入る。こうなれば、トラブルが起きるのは外より中の方が可能性が高いだろう。
アルは引き続き外で警戒。屋内では取り回しの悪い狙撃銃が得物なのと、以降全く侵入者が現れないという保証もないからだ。
この場所だと見えない部分も多いため、狙撃ポジションの変更をしようと立ち上がろうとして。
「……っ!?」
声にならない悲鳴を上げた。後頭部に、冷たい感触。
「動かないでよ。あんた、便利屋68の陸八魔アルだよね」
真後ろで、誰かが銃を突きつけている。
……誰かが近づいている気配なんて全くしなかった。誰かは分からないけれど、相当な手練かもしれない。
「……そうだと言ったら?」
ーーなんで挑発しちゃうのよー!?
内心とは裏腹に、強気な笑みを浮かべながら少しだけ振り向こうとして……ぐっと銃口を押し込まれた。
「今すぐこの件から手を引くなら、見逃してあげる。どうする?」
「……ふふっ。舐められたものね」
どう考えてもピンチな状況なのに、ついつい強がってしまう。残念ながらこの場にアルの暴走を止められる人物は1人もいない。
「ふーん?そりゃ残念」
容赦なく、引き金が引かれた。後頭部に痛みが走る。
しかし、それだけだ。
もしこれがキヴォトスの外の人間ならば、撃たれた時点で死ぬか重傷になるか、とにかく助からないだろう。しかし、ここはキヴォトス。弾丸を当てられることなど日常茶飯事だ。
「このっ!」
「うおっ!?」
振り向きながら狙撃銃を振るい、相手を殴ろうとする。しかし相手の反応が早く躱され、そのまま数歩分距離を取られる。
アルは立ち上がりながら、改めて相手を観察する。得物はどうやら大型の拳銃のようだ。それから見たことがない学生服に、キャップを目深に被っている。そして帽子から溢れている燃えるような赤い髪に、見えづらいが同じく赤い目………
「………へっ?」
「………あー」
微妙な空気が二人の間に流れた。
「先生?」
「や、誰が先生だって?あたしはただの生徒だよ」
…………
「………」
そういえば、だ。だいぶ前に……そう、アビドスの1件があった際に。先生が実は裏の稼業を行っているのではないかという疑いをかけたことがあった。
ーーまさか、本当にやってたの!?
驚き、困惑、そして憧憬。色んな感情がごちゃごちゃになり、唇をわなわなと震わせるばかりでアルは言葉が続かなくなる。
そんな様子を察した少女は、はあと溜息を吐いてから。
「念の為聞くけどさ、自分が何を守ってるか分かってる?」
「えっ?……そ、それは当然よ!まさか護衛対象も知らずに護衛してるなんてこと、あるわけないじゃない!」
はあ。と、また少女が溜息を吐く。
「じゃあ、何?」
「それはもちろん、オークションの会場で……」
「取引されてるものが全て盗品の、違法オークションのね」
少女は情報を付け加える。
ピタッ、とアルは固まってしまう。当然、そんな話は聞いていない。しかし、しかしだ。それならば妙に警備が厳重なのと、割に合わない報酬の額に納得も行ってしまう。
「あたしは盗品の回収をしに来ただけ。あまり時間をかけたくないからこれだけ聞くね。あんたはどっちの味方?」
「……」
ーーな、何よそれーっ!?
ただでさえ突然先生と思われる人物が出てきて、しかも守ろうとしていたオークションが違法なものだと言われて。
いやでも証拠はないのよねでも先生が言っているんだしきっと正しいのよねでもそんなこと言われてもこの仕事はもう受け持っちゃったし……と、頭の中をフル回転。ぷしゅーと頭から、蒸気機関のように煙が噴き出しそうになる。
そ、そうだ。
「ちょ、ちょっとだけ……ちょっとだけ待ってもらえるかしら?」
シュバババっとスマホを操作して、カヨコへと電話をかける。
「いや、だから急ぎだって……」
少女は待てないと返そうとするが、もう電話は繋がったようだ。
「カヨコ?」
『どうしたの、社長。トラブル?』
「えっと、もうオークションって始まってるかしら?」
『これからって感じだけど』
「そう?えっと、実はね……オークションに出品されてるものが、全て盗品だって話を聞いたのだけれど」
『……なるほどね』
電話の向こうで、カヨコも納得する。自前の警備がいるのに、わざわざ便利屋に依頼してきたこと。しかも法外な額の報酬を用意していたこと。電話ではなくわざわざ公園に来て依頼してきたのも、足を残さないためかもしれない。
『どうするの?』
「……でも、証拠はないのよ」
『始まるまで待ってみる?』
「それは……」
チラリと先生と思わしき少女の方を見ると、表情だけで『早くしろ』と言っていた。
「いえ、大丈夫。決めたわ。……全員に繋げたいからかけ直すわね」
『分かった』
一旦電話を切り、グループ通話でかけ直す。
「皆、この仕事は終わりよ」
『えっ!?終わりですか?』
『ふーん……?』
「このオークションは違法なものよ。出品されてるものが全て盗品。だから、物品を取り返すわよ!」
『なんか面白くなってきちゃったね!』
『それで、取り返すと言ってもどうするの?』
「まずは1回合流しましょう。裏切りには気付かれないように……」
直後だった。
『うわああああ!!』
話を聞いていたのかいないのか、ハルカの絶叫と銃声が電話越しに響いた。
「……」
『何処合流にする〜?って言ってる場合じゃないね!』
『……!悪いけれど、一旦切るよ』
ムツキとカヨコも、同じく銃声と共に電話が切れた。
「……」
「何ぼさっとしてるの。早く行くよ」
「え、ええ……」
まさかの事態に硬直していたアルを軽く叩いてから、少女は階段を降り始める。この場にいてもしょうがないのでアルも付いていくことに。
ーーーーー
そして話は冒頭へ戻る。
少女の正確な射撃の前に警備に当たっていた男たちはあっという間に倒されたのだった。
「そーれっ!」
そしてそのままの勢いで、少女は扉を蹴破った。それからおもむろに手を上げて天井へと1発弾丸を放つ。
「……うん。まだ物は全て運営側にあるはずだし、適当に取っ捕まえて吐かせる」
「なら2人で行動しましょ。流石に先生1人じゃ危ないわ」
「えー?お仲間は大丈夫なの?」
「ふふっ、便利屋の実力を疑ってるの?」
ーー連絡取れないから凄い心配だけど!先生を1人の方がもっと心配でしょー!?
時間と共に調子を取り戻してきたと同時に改めて状況を認識し直すが、やはりとんでもない状況なのは違いない。
そして、サポートすると決めたのはいいがやはり取り回しにくい屋内で、しかも先生に誤射は出来ない状況となるとかなり難しい。どうしたものかと考えながらも、走り出した少女を追いかける。
「見つけたぞ!便利屋の……」
ばったり出くわした黒スーツが、増援を呼ぼうとインカムに触れようとした。その瞬間には少女の銃口が顔面に触れていて、これまた躊躇無く引き金が引かれる。
「……え?」
アルも、あまりの早さと手際の良さに驚くしかない。それと同時に少女は振り返り、アルの背後めがけて2発撃ち込んだ。
ハッとなり振り返ると、見事顔面を撃ち抜かれた黒スーツがやはり2人。
ーー私、要らなかったかしら?
その思考と同時に……それを打ち消さんばかりの爆音が、少し離れた場所から響いた。
「何!?」
「……な、自爆するつもり!?」
少女は血相を変えながら飛び出していく。待ってと静止する間もなく、だ。
風のように過ぎ去り、残されたのはアルだけである。狙撃手のアルが、閉所に、1人である。
「……ちょっと!?」
1人で行ってしまった先生も心配だが、それ以上に自分の身の安全を確保しなけらばならない。
慌てて走り出すのだが、行き先も何処か不明。そういえば見取り図は念の為スマホに残しておいたはずだと思い出すが、両手は銃で塞がっており操作が出来ない。そうなると事前に頭に詰め込んだ情報から推測するしかないのだが、外を担当していたアルは出入り口周辺と、会場への最短経路程度しか覚えていない。
廊下より会場の方が広いしとりあえずで飛び込んでみるもいいのだが、当然敵の数も多いだろうしそんな目立つ場所に向かってる人もいないだろう。つまり、会場へ向かうというのは最終手段であり取りたい行動ではない。
今回のオークションの規模からして、品物は多かっただろうしまだ運び出しはされてないのでは?とも考えるが、これだけ警備がいるのならそれだけ人数も割いて……
「このっ!」
「うわっ!?」
考えながらも、突然曲がり角から出てきた相手へと銃口を向けぶっ放す。走りながら狙いを定めるのは難しいが、この距離なら外しはしない。別に顔ではなく胴体に当てても威力は十分だし。
そして再び走り始めて、また思考を再開する。結局どこに向かうべきなのか……いっそ外に出て見張った方がいいだろうか。ただそうなると今まで来た道を逆走するの?どうしよう、と思いながらチラっと背後を見てみると、3人くらい走ってきているのが見える。
「嘘!?」
嘘ではない。というかあれだけ人数いたんだし別におかしくはないけれど!
どうしようかと悩んだその時、近くの曲がり角からひょいひょいと手招きされる。手だけしか見えないから誰か分からない……が、迷わずそこへ飛び込んだ。
「やっほ〜、アルちゃん」
「やっぱりムツキね!」
「連絡取れなくて大変だったんだよ〜?」
と、言いつつポイッと廊下へ手榴弾を3つ放り投げる。そして爆音と共に男たちの悲鳴が響く。
「今どうなってるか、アルちゃんは把握してる?」
「……も、もちろんよ!」
「う〜ん、分かってないんだね?」
「………」
幼馴染であるムツキとは付き合いも長いので、当然強がっていることもバレてしまうのだ。いつものことだし、何より非常事態なのでお互いそれ以上ツッコまないが。
「まあ、私も分かってないけど!」
「……」
「ただ人の流れを見て、こっちに誰かいると思っただけで〜。あっ、でもさっきの爆発はハルカちゃんのだよね?爆弾仕掛けておくなんてさっすが〜」
「……待って。爆弾で品物ごと吹っ飛ばしてないよね?」
「それは、見に行けば分かるんじゃない?」
むふふと笑ってから身体を廊下へと出し、直後に乱射する。……このまま留まっている訳にもいかないので、地図を確認してからアルも飛び出す。
「こっちよ!」
「りょーかい!」
先ほどまでは危険な道中だったが、2人になったお陰でだいぶ安全になりさくさく進めた。
結果として、バックヤード周辺まで問題なく辿り着いたのだが、そこには既になぎ倒された後の黒スーツばかり。
「……もう先生が来てるのかしら?」
「え?先生?」
「あ、そういえば話してなかったわね」
周囲を警戒しつつも、先程の流れについて説明する。
「ふ〜ん?」
「……ひゃっ!?」
扉をゆっくりと開けると、顔面に拳銃が突きつけられる。驚きアルも構えようとするが、お互いの顔を見て銃を降ろす。
「カヨコ……!」
「社長も来たんだね」
「ムツキちゃんもいるよ〜?」
改めて扉を開け、2人とも中に入ると同時にピシャリと扉を閉じる。
中には大量の品物と思わしき物品が並んでおり、先生と思わしき少女がスマホ片手に確認をしている所だった。
「あら?ハルカはいないの?」
「あっち」
品物の隙間から、カヨコの示した方を見ると反対側の扉を警戒しているハルカの姿が。きょろきょろと辺りを見渡し、それから偶然目が合う。
「アル様〜!」
まるで主人を見つけた子犬のようにパタパタと駆けつける。
「お怪我はありませんか?大丈夫です、アル様を傷つけるやつは全員……」
ニヤリと笑みを浮かべる姿は、子犬と呼ぶには似合わないのだが。
「はいはい、それは大丈夫だからね〜」
「……ところで、今どういう状況なの?」
「こういう状況」
いつの間に便利屋達の元へ来ていた少女は、アルとムツキに見せる。……ふん縛られて壁際に転がっている、見覚えのある男とその仲間の姿を。
つまり、もう運営側も捕まったということになるようだと理解する。
「……え、もう全部解決したってこと?」
「まあ、そういうことになるね」
唖然とするアルに、カヨコが肯定する。
つまり、大変な目にあった割に特に活躍もなく解決してしまったということになる。……と、思われたのだが。
「いや、終わってない。1個足りないんだよね」
「足りない?」
「これ」
少女がスマホの画面を示すと、そこにはダイヤモンドが映っていた。……そこに書いてあるのは、100ctのダイヤモンド、という文字列である。
「ひゃ、100ct!?」
「……それ、盗まれたって話題になってなかったっけ?」
「確かに聞いたかも?」
100ctのダイヤモンドなんて、滅多にあるものではない。それも同時期にとなれば尚更だ。なので、噂の盗品であることはほぼ間違いない訳なのだが。
「あたしが見落としてるだけかもだし、ちょっと手分けして探してくれない?あ、ハルカはこっち手伝って」
「わ、私ですか……?」
「うん。あいつらちょっと脅したいから」
「え、えへへ……それなら任せてください。先生とアル様のお手を煩わせるなんて許せません……!」
「いや、だから……はあ」
少女は否定しようとして、諦めて溜息だけ吐いた。
10分後。
「無いわね」
「なーい!」
「こっちも無い……」
少女が持っていたリストをコピーしてもらい3人でチェックしていたが、確かにダイヤモンドだけ見当たらなかった。
「逃げたぁ!?」
「こ、こいつらどうしますか……?」
「好きにしていいよ」
ドンッ、ドンッ、ドンッ。重い銃声が1人に1回ぶち込まれる。
どうやら聞き出すのは終わったようだとそちらに向かってみると、困った表情をしている2人が。
「どうだったの?」
「1人見逃してたみたいで、そいつが盗んで逃げたんじゃないかって話」
「じゃあ、もう今からは追いつけないんじゃ……」
「いや、さっきまでアル達がドンパチしてくれてたお陰で逃げ遅れたっぽいね」
「なら……どうするの?」
ーーーーー
「なんでこうなるの!?」
「こうするしかないでしょ!」
会場から飛び出した"バイク"が、夜の街を疾走する。少女とアル、2人を乗せて。
『先生って免許持ってるの?』
『……だからあたしは違うし、ついでに免許もないよ』
『……へ?』
『というか、人のバイク使ったら先生も泥棒になっちゃうよ〜?』
『まあ、無傷で帰ってくれば大丈夫でしょ』
『先生も結構悪い人だね』
『だーかーら……まあいいや』
というのが先程の会話である。つまり免許を持ってない少女が人のバイクを盗んで走り出しているのである。
因みに何処から調達したかといえば、警備に来ていた黒スーツの1人から"借りた"ものだ。
「そもそも、何処向かってるのよ!?」
「それはさっき話さなかったっけ!?」
「聞いてないわ!」
「近くにアジトがあるって言うから向かってるのよ!」
大声で会話しながらも、バイクは止まらない。落ちないように、そして銃も落とさないようにアルは必死に掴まりながらも堪えていると、バイクは適当な物陰で止まった。
「ここなの?」
「いやあ、無傷で返すんだから、このまま前には出れないって……」
そういいながら、彼女の目線はとある家屋へと向けられていた。特に外見に違和感はなく、言われなければアジトだなんて分からないであろう。
……但し、今は見張りが何人か立っているので、いかにも怪しい場所にはなってしまっているが。
「……先生、ここは任せて」
「私は裏口の方行くからよろしくね」
そのまま少女は駆け足で去っていく。
ふう、と息を吐き、それからまたゆっくりと息を吸う。それから銃を"片手"で持ち、見張り達の中心目掛けて構える。
ーーカッコいい所、見せないと!
引き金が引かれ、弾丸が地面へと着弾。銃声に何だと彼らが反応した時には既に手遅れ。着弾した地点を中心に、爆発が起きた。
「うわーっ!?」
「な、なん……ぐわっ!」
それと同時に、建物の反対側でも少女が奇襲を仕掛けていた。
見張りはあっさり倒され、建物の中に2人が突入する。普段便利屋68が事務所として借りるような部屋のサイズとどっこいどっこいだろうか、とにかく決して広いとは言えない部屋には、まさに逃げようとしている男と護衛らしき黒スーツがまた2人。
しかし両方の入り口から侵入者が同時に入ってきて、何方に対象するべきか一瞬だけ迷ってしまったのだろう。その隙に少女が2人とも撃ち抜き、アルは飛びついた。
「逃さないわよー!」
「ぎゃーっ!?」
窓から出ようとしていた男の足を引っ掴み、部屋の中へと引っ張り倒した。
そして。
「あったわね……」
「こりゃ凄い。割れなくて良かった」
簀巻きにされて床に転がっている男を無視し、肝心のダイヤモンドがあるかと確認したらそれらしきものが出てきた。
残念ながら2人とも鑑定が出来るほど宝石に詳しい訳ではないが、それでもこれは本物だろうという輝きを放っていた。
「クソ!どうして裏切りやがった!あれだけ報酬も用意してやったのに!」
「……どうして?そんなの、」
ーーそんなの、特に無いわよー!完全に流れに乗せられただけじゃない!!
心のなかで絶叫しながらも、一旦深呼吸して頭を整え直して。
「……盗品で儲けようなんて
「そんなこと言えるほど余裕なんか……!」
ぐい、と銃口を押しつける。
「……ふふっ、"ハード"ボイルドってよりも"ハーフ"ボイルドって言った方が似合ってるかもね?」
そんな様子に少女は、小さく笑いながらも言った。
「な、何言ってるのよ!?ただ……そう、私達の目指すアウトローはこんなセコいことして稼ぐようなものじゃない、真のアウトローになるってだけよ……!」
「ま、半分くらい期待しておくよ」
「ちょっと!?」
ーーーーー
ヴァルキューレ警察学校の者が到着した時には既に静かになっていた。ただ、いくつもの盗品が発見され、またそこに転がされていた者たちも自分たちが盗んだと自供した。
事件は解決したのだが、1つだけ噂が出来てしまった。
便利屋68に、5人目のメンバーが増えた、というものである。
ーーーーー
翌朝、シャーレの事務所。
スマホでニュースを眺めながら、そろそろ仕事しますかねと頭を切り替えようとした所で。
「おはよう、先生」
「………おはよう」
カヨコが来た。それも1人でだ。
だいたい察したリーリァは、苦笑いするしかない。
「昨日のこと、弁解は?」
「いやー、何のことかなー?」
「実は、昨日先生にそっくりな髪と目と声の、知らない学校の生徒と会ってさ。しかも
「………はあ」
ですよねー。流石に言い逃れ出来ないかと諦める。
実は、昨日散々使った大型拳銃ーーデザートイーグルをカスタムしたものーーは、カヨコと一緒に選んで買ったものである。
リーリァの実力的に必要ないものであるのだが、文字通り銃社会なキヴォトスで持ってないのもなと思い、拳銃を使ってかつ実力のある人ということでカヨコを頼ったのだ。
「それで?」
「いや、ほんとはあたしも誰かに頼もうと思ったんだよ?そしたらみんなタイミング悪くってさ。でも先生として摘発に行くのもやだなーって思って」
「生徒のフリをして攻撃を仕掛けた、ね」
「皆には言わないで欲しいなあ」
「全員にバレてると思うけど?」
ハルカだけはリーリァのことを呼ばなかったが、アルもムツキも先生と呼んでいたし、そのハルカも流石に気付いているだろう。
……そもそもリーリァは、髪色だけでも目立つ部類だ。
「公的に認めるのと、周りが勝手に思ってるだけなのは違うから」
「……とにかく、無茶しないでね、先生」
要件はそれだけだからとカヨコは帰っていく。じゃあ改めてと視線をパソコンに向けようとした所で。
『そうですよ、先生!最近危ないことしすぎです!』
シッテムの箱から、アロナの声。お怒りの様子である。
「や、もうあたしの実力分かったでしょ」
『それは分かりましたが……でも!危ないことには違いもありません!』
「でもアロナが守ってくれるし」
『確かにこのスーパーアロナちゃんがいれば、先生に怪我なんてさせませんが……でも、わざわざ危険なことをする必要ないんですよ!』
「またケーキあげるから」
『え、ほんとですか?……って誤魔化されませんよ!』
また、平和な日常が始まる。
その裏で、キヴォトスの存亡に関わる事態が動き始めているとは、まだ知らない。
ブルーアーカイブ!
「いや、どんな部活よ……」
「あなたが先生?あんま先生っぽくな……」
「目指すはミレニアムプライスで優勝だよ!」
「悪い子達じゃないの。だからお願いね、先生」
「また廃墟に向かうの?」
「私は勇者アリスです!」
「いやなんでこうなるの!?」
Vol.2 第1章 勇気はロマンを貫いて
これで決まりだ!