元勇者の先生日誌   作:Ruve

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 正直な所、アビドスで起きている問題を少しだけ舐めていたところはあるかもしれない。

 完全に日が落ちたあと、アビドス高等学校に来るのは初めてかもしれない。砂漠特有の急激な寒暖差にくしゃみをしながらも、対策委員会の部室を訪れていた。

 

「ようやく来た、遅い」

「待ってたよ〜」

 

 中にいたのはシロコとホシノの2人だけ。いつも通りを装いながらも、焦燥感が滲み出していた。

 

「アヤネとノノミは?」

「一応、セリカちゃん家に行ってもらってるよ」

 

 何があったのかを改めて確認すると、セリカとの連絡が取れないとのこと。既に柴関ラーメンに行って確認はしてきたが、上がった後らしい。

 念の為自宅にいないか、何か痕跡が残ってないか今確認しに向かっているが、望み薄。

 

「………うーん」

 

 考えられる可能性は大きく2つ。誰かに攫われたか、自分の意思で失踪したか。しかし、後者の可能性は限りなく低いであろう。まだバイトも初めて1週間という中途半端なタイミングだし、何より彼女の性格からしてそんないきなり失踪、とはしないだろう。

 なら前者だとして、いつ、何処で、誰に襲われたのか。何か情報がなければどうしよもない。

 

「それと、先生。本当は明日共有しようと思ってたんだけどね、アヤネちゃんが追ってもらってたドローン、別のアジトを見つけたみたいなんだよ」

「学校襲うだけじゃ飽き足らず、誘拐するなんて。許せない」

 

 2人、いや対策委員会全員は既にカタカタヘルメット団の仕業だと考えているらしい。確かに今のところ敵対している組織はそれだけだ。

 

 ーーもし、そうだとして。ヘルメット団の裏側にいるやつは、何を考えている?

 

 一旦思考を止める。1分でも早く救助しなければ、酷い目に合わされる可能性がある。詮索するのは後でいい。

 シッテムの箱を取り出す。今自分に出来ることはそんな多くないが、アロナなら何か出来るはずだ。2人に待ての合図をしてから、アロナに話しかける。

 

「そういうことなんだけど、なんか出来ない?」

『なんかですか!?う〜ん……連邦生徒会のセントラルネットワークから、セリカさんの端末の位置情報を引っ張ってこれるかもしれません!』

「じゃ、お願い」

『……………はい、出来ました!セリカさんの端末が最後に電源が入っていた場所がこちらです!』

 

 画面に位置情報が表示される。アビドスの中でも砂漠化が進んでいる市街地の方で、人もいない半ば廃墟と化したエリア。そして、アヤネが見つけてくれたアジトも、離れてはいるがだいたいそちらの方向。

 しかし、たったの数秒でセントラルネットワークをクラッキングしこの情報を引き出した。こと電子戦においては、アロナ以上のものはないかもしれない。

 そして、ありがとうね、と告げてシッテムの箱をスリープモードにすると同時に、シロコとホシノの視線。

 ……2人には、アロナの姿はおろか声も認識できてない筈だ。

 

「あ〜……これは、また今度ね。それよりも、と」

 

 2人に位置情報を送信しておく。しかし、これでカタカタヘルメット団が犯人なのはほぼ確実になった。

 

「……さて、どうしようか?」

 

 

ーーーーー

 

 ガタガタと揺れる。なんの振動かと考えてから、そもそも今自分は何をしていたのかと思い出す。

 

「あっ!?」

 

 あれは、奇襲だった。"先生なんかいなくたって、私達でアビドスを復興するんだ"と、改めて思いながらふらりと市街地へ寄った。その時に、複数名のヘルメット団員の襲撃。

 もちろん抵抗はしようとしたけれど、流石に数の差があったと言わざるを得ない。

 そしてここは、トラックの荷台だろう。扉の隙間から、薄い光が差し込んでいる。なんとか這いずって動いてみれば、そこには線路があった。

 

ーーまさか、アビドス郊外の砂漠!?

 

 とんでとない所に連れてこられてしまった。これではみんなに連絡を取る手段なんてない。仮になんとか脱出が出来たとして、これでは砂漠を彷徨うだけだ。

 

 みんな、心配してるだろうな。このまま何処かに埋められちゃうのかな。

 

 嫌な考えが、頭を支配する。

 

 連絡も取れなくなって、今までいなくなった人達と一緒。逃げ出したなんて思われちゃうのかな。裏切ったって思われるのかな。誤解されたままみんなと会えなくなって、それで。死んじゃうのかな。

 

 空洞。抵抗しようとしていた身体から力が抜けていく。

 

ーープライドの為に、アビドスを無くすの?

 

 誰かの問いかけ。誰だっけ、そんなバカなこと言ってきたやつは。忘れたいのに印象に残ってしまう、赤い髪と。憎たらしい笑みを浮かべる、嫌なやつ。

 

「……誰が、そんなことするか!」

 

 分かってる、自分は駄々をこねているだけだ。ただ認めたくなかっただけ。これまで5人で努力してきた事実を無くしたくなかっただけ。今まで関心も向けてこなかった大人に、都合よく解決されたくなかっただけ。

 頭に来た。あの人は、私が認めたくないってことを分かった上で言ったんだ。ムカつく、ムカつく。もう一回みんなと会って、いっぱい謝って。それからあのムカつく大人に言ってやるんだ。

 

「私は!」

 

 縛られている身体を、強引に解きなんとか立てる程度にはなった。

 

「アビドスが!」

 

 構える。あんまりこういうことはしたことないけど、出来るはず。

 

「好きなの!!」

 

 全力のタックル。僅かばかり開いていた扉を勢いよくぶっ飛ばし、砂漠へとその身体を投げ出した。

 そして、直後。先程まで乗っていたトラックへと、ミサイルが落ちていった。

 

 

ーーーーー

 

 

「セリカが飛び出してきた!?」

 

 移動するヘルメット団の部隊を追うように、1台のバギーが爆走していた。4人乗りのそれには、アヤネが運転手、隣にリーリァ。後ろにホシノとノノミ、そして屋根にシロコが乗っていた。そして、シロコのドローンから放たれたミサイルで、中央のトラックへと爆撃を仕掛けていた。

 ……まさかセリカが自力で飛び出してくるとは、誰も思わなかった。

 

「セリカちゃんには当たってないですよね!?」

「うん!あくまで当たったのはトラックにだけだよ!」

「シロコちゃん!出番だよ!」

「ん!」

 

 アヤネが敵の反撃を躱すために急ハンドルを切ると同時に、弾かれたようにシロコが飛び出していく。

 銃を乱射しながらど真ん中へと飛び込んでいき、適当な団員の前に着地すると同時に銃底でぶん殴り、後ろから襲いかかろうとするもう一人を蹴り飛ばしていく。

 更にノノミとホシノも降りていき、周囲の護衛と思われる車両へと銃撃で牽制していく。

 

「ん、半泣きのセリカ、確保」

「っ!?……うるさい!」

 

 シロコに拘束を解いてもらいながらも、いきなり半泣きとか言われたせいか随分と元気がいい。

 更にバギーもセリカへと接近していく。一番心配していたアヤネがーー合流した時は泣いていたくらいにはーーがようやく、その顔を見た。

 

「セリカちゃん!」

「アヤネ……!」

 

 安堵のせいか、再びアヤネが泣きそうになる。肩を叩いて止めつつも、荷物を1つ渡す。

 

「はい、セリカ」

「なっ、先生まで!なんで!?」

 

 どうしてあれほど憎まれ口を叩いていたのに、助けに来てくれたの?と。言外にそう語っていた。

 

「先生が生徒を助けるのに、理由なんている?」

「………ほんと、先生ってムカつく!」

 

 荷物、襲撃された現場と思われる地点に残されていたセリカの銃を受け取りながら、まんざらでもなさそうな笑みを浮かべた。

 

「それじゃあ、残りもぶっ飛ばそうか!」

「おーっ!」

 

 先程までの涙は何処へやら、アヤネの迫真のドライブに振り回されながらもアロナに戦況を管理してもらう。ついでに手が離せないアヤネの端末を借りてドローンの操縦も並行する。

 さて、この"残りの敵"の中に厄介な相手がいる。重戦車だ。シロコ曰くFlak41の改造品らしいそれを、このメンバーで攻略しなければならない。

 シロコとセリカの使っているアサルトライフルは、どちらかというと対人で効果を発揮するものであり、戦車のような重装甲には届かないだろう。

 なので対戦車での火力元になるのはノノミのガトリング砲とホシノのショットガン。しかしこちらも問題点。

 まず、どちらにせよそれなりに近づかないといけないということ。ハスミが使っていたような狙撃銃に比べたら貫通力は低いからだ。

 そして、ホシノは身長よりも大きい大盾を片手に戦う守りの姿勢、ノノミは撃っている間どうしても棒立ちになるので近距離での攻撃は危険を伴う。

 ……突破口が、ないわけではない。

 

「こんのぉ!」

「ん、弱い」

「ぐわーっ!」

 

 セリカとシロコは持ち前の機動力と連携力で、その辺の雑魚を蹴散らしていく。

 更にはガトリングの弾幕が刺していき、何れも捉えきれてないおまけにはホシノのショットガンがおまけにプレゼントされる。

 相変わらずその辺のヘルメット団員を制圧するのは簡単だが……

 

「どうしたどうしたーっ!?その程度の攻撃しか出来ないのか!?」

 

 肝心の戦車である。今はシロコとセリカが撹乱してるお陰で、お互い決定打を出せていない。ホシノはノノミを戦車の攻撃から守らないといけないので余り遠くには行けず、そうなると威力が足りてない二人の攻撃しかされないが、当然弾かれるだけ。

 この状況が長く続けば2人の体力の限界になるだろうし、ノノミの弾薬も心配になる。

 先程使ったシロコのドローンによる爆撃も選択肢としてはあるが……これは戦士としての勘だが、ダメージは与えても決定打にはならないだろう。

 なら、やはり……

 

「ホシノ、私から提案があるんだけど」

「うへ〜、おじさんに?」

 

 

ーーーーー

 

 

 戦車以外は潰し、気絶しているか撤退したかの状況になった。しかし戦車はほとんどダメージを受けていないためか、撤退という判断はしなかった。

 

「こっのお!」

「ん、相手は私」

 

 セリカとシロコがなるべく対角線上に位置するように、戦車の周りを周りながら攻撃を仕掛ける。何方を狙えばいいのか定まらず、主砲はどちらも捉えられない。

 

「だから効かねえつってんだろ!」

 

 しかし攻撃が通ってないのも事実。

 いい加減この無駄な時間を終わらしたいと思ったのか、いよいよ砲塔はセリカの方へ移ろうとする。

 しかし、観測手を務めていた団員が違和感に気がつく。逃げ回っていたバギーはともかく、ガトリングをぶっ放していたやつが見当たらない。

 

「待った、あの2人囮じゃないか?」

「だとしても、至近距離で撃たれでもしなきゃ効かねえよ!潰しちまえ!」

 

 ならばいいかと、改めてセリカへと狙いを付けようとした所で、強引に迫ってくる"盾"が見えた。そしてその後ろにはノノミ。

 無理矢理至近距離まで詰め込むつもりだ!と思い、砲塔を慌ててそちらへと動かす。

 

「ちょっと!こっち見なさいよ!」

「不味い……!」

 

 対空砲の回避を優先していた2人が、露骨に動きを鈍らせ攻撃をする。

 しめた!と思い、盾を構えているホシノへと狙いを付ける。いくらなんでも、主砲の直撃には耐えられねーだろ!と笑みを浮かべた所で、その盾は、砂へと刺さった。

 なんで、今置いた?

 

「ミサイルだ!」

 

 直後、飛んでいたドローンからの爆撃が行われた。セリカとシロコが露骨に囮をしていたのも、ホシノとノノミが強行してきたのも、全てカモフラージュ。本命はこっちだ。

 ……勝ったな!

 戦車を襲う激しい揺れに耐えながらも、勝利を確信していた。生半可なミサイルじゃ、こいつの装甲は貫けない。

 爆風と巻き上がった砂埃が収まっていき、今度の今度はぶっ放す。そう、思っていた。

 

 ガンッ!

 

 上部から、何かを叩きつけるような音。

 

 ガンッ!ガンッ!ガンッ!

 

 何度も、何度も。

 

 そして、勢いよくハッチの扉が落ちてきて。

 

「やっほ〜」

 

 ホシノとドローンが、顔を覗かせた。

 

 

ーーーーー

 

 

 ぎゃ〜〜!と叫びながら、慌てて逃げ出していく。ヘルメット団員を見送りながら、アビドスの皆が集合する。

 

「ホシノ先輩、凄かったね」

「先生の作戦のお陰だよ〜」

 

 シロコとセリカの攻撃はもちろん囮、ノノミをホシノと一緒に突撃させたのも囮。ドローンによる攻撃も本命に見せかけた目眩し。

 視界を奪った隙にホシノが戦車に乗り、至近距離での射撃。予想していた通り装甲を貫いたのだった。

 明らかに守る戦いをしているホシノがこの作戦に乗ってくれるかは不安だったが、意外と軽く承諾してくれた。やはり性格的には攻撃的なのかもしれない。

 

「でも、みんなの頑張りがあったからこその勝利でしょ?」

 

 バギーから降りながら、素直な気持ちを伝える。……両手に端末を持った状態で、アヤネの激しい運転に振り回されていたせいで少しくらくらするのは言わないでおく。

 

「……セリカちゃん」

 

 ホシノが、セリカに言う。何を言いたいのかは、まあ、うん。

 

「〜〜っ!べ、別にあんたの助けなんかなくったって、私1人で何とかなったし、あんな奴ら……!」

 

 めちゃくちゃ目を逸らしながら、顔をブンブンして、でも。

 

「でも……助けに来てくれてありがと、()()()()()()

 

 顔を真っ赤にしながら言うセリカを、夜明けが照らしていた。

 

「お〜?セリカちゃんもデレ期かあ」

「なっ、何がデレ期よ!」

「ん、どう見てもデレてる」

「ちょっと、シロコ先輩まで!?」

「うんうん、仲直りできて何よりです☆」

「〜〜!!」

 

 やっぱり、素直ないい子だな〜。リーリァは、言いそうになった言葉を飲み込む。先輩達に十分いじられてるし、今はもういいだろう。

 

 

ーーーーー

 

 

 もうすっかり日が昇ったあと。対策委員会の部室で、"会議"が開かれていた。

 

「どうだった?」

 

 殆ど無傷で制圧した戦車、それについてアヤネに調べてもらっていた。今回の戦車も間違いなく、裏にいる人間が提供したものだろう。

 しかし、一度明確に"失敗"したカタカタヘルメット団にもう一度チャンスを与えるとは思わなかった。これは、相手が余程大きな組織の可能性が出てきた。

 

「はい、あの戦車はキヴォトスで使用の禁じられている違法機種でした」

「裏があるって先生の推測、これは大当たりだね〜」

 

 しかし、その何者かがキヴォトスを狙う理由が思い当たらない。それほどの金を出してまで手に入れる、メリットがない。

 リーリァ・アスプレイという人間はその人生において、陰謀に巻き込まれたり命を狙われたり、そういう機会はよくあった。しかしそれは正規勇者(リーガル・ブレイブ)だから、という分かりやすい理由があってのものだ。

 ……やはり、そういう推理をするのは向いていない。

 

「こちらで入手経路の確認をしますが……今日の所は定例会議を」

「待った!」

「どうしました?」

「どうもこうも、今日は徹夜での戦闘になったでしょ?次何してくるか分からないし、一旦休むこと!いいね?」

 

 定例会議とやらを当然のように始めようとするアヤネにストップをかける。特に止めようと思っていた人はいなかったようで、いかにも出鼻を挫かれましたみたいな雰囲気だ。

 

「……そうだねえ。うん、先生が言うなら仕方ないね。でも、1つ忘れてない?」

 

 ホシノが、リーリァのタブレット……つまりシッテムの箱を見ながら言う。

 確かに、また今度とは言ったね、うん。忘れてなかったか。

 

「その端末に何かあったんですか?」

「よく分かりませんが、私も気になります☆」

「え?何?私がいない間になんかあったの?」

 

 見ていなかった3人も関心を寄せてくる。駄目だ、これは逃げられない。

 ……まああまり隠すことでもないかもしれないけれど。しかしアロナを認知出来ないみんなに説明するのは、少々難しい。適当にはぐらかすのも、ホシノは許さないだろう。

 

「う〜ん……これはね、先生の権限がないと動かないし見えないんだよね。OSが優秀で、人と話す感じで使えるってだけ」

「つまり、先生専用の端末」

「まあそんなとこ」

 

 シロコは納得してくれた。色々と説明としては足りてない部分はあるものの、実際私もその程度の認知だ。

 えっへん!と"教室"の中でドヤ顔しているアロナを一応みんなに見せてみるが、やはり見えない様子。

 

「おじさんには画面が点いてないようにしか見えないな〜」

「不思議ですね。先生が操作できるというのは分かりますが、見えないなんて」

 

 これ以上追及しても何も出ないと分かってくれたのか、ホシノもそれ以上は言わなかった。そして、今日の所は一旦解散になった。

 

 

ーーーーー

 

 

『……いや、私に聞かれても分かりませんけれど』

「そこを何とか!」

 

 部室の隣で、ユウカに今回の件を相談してみた。が、反応はそんな感じ。

 

『でも、気になることがあります。昔のアビドスは、どうやって借金を返済していたのでしょう?』

「ん?ん〜……」

 

 今でも返済は続けているし、そこを疑問には思わなかった。そこは流石セミナーのーーミレニアムの生徒会はそう言う名前らしいーー所属、着眼点が違う。

 

『特に根拠とかはないんですけど、カイザーが襲わせてるということはないですか?』

「ん〜?なんで?」

『どうしてカイザーがアビドスに貸し続けたのかは、先生も疑問に思ったんですよね?どうして返せない金額を貸し続けたのかって考えると、むしろ()()()()()()()()だったとか考えられませんか?』

「ふむ」

『けれど、意外にも返そうとし続けている。だから暴力で追い出そうとした、みたいな』

 

 なるほど、まあ割と線が通っているなとは思う。けれど、問題はある。

 

「そこまでして欲しい土地ではないと思うけど」

『そうなんですよね』

 

 人を追い出そうとするということは、土地が欲しいということになるだろう。しかし砂漠化が進んで人もいなくなっているこの土地を、莫大な金と時間をかけてまで欲しいものだろうか。

 

『……ん?ノア?どうしたの?……ごめんなさい先生、用事が出来たのでここまでです』

「いいよ〜、悪かったね」

『その分こっちで何かあったら手伝ってもらうので。……無理はしないでくださいね』

 

 ユウカとの電話が終わる。収穫があったようななかったような、微妙な感覚。

 ただ1つ言えるのは、カイザーほどの巨大なグループが関与しているならあの程度の装備を揃えるのもなんてこともない、という点か。

 ……まあ、他の仕事でも片付けながら考えればいいか?

 そう思い適当なフォルダを開こうとした瞬間に、ガラリと扉が開いた。誰か来ること自体想定外だったけれど、それ以上にその人物が予想外だった。

 

「休めとか言っておいて、自分は仕事してる気?」

 

 憎まれ口を叩きながら入ってきたのはセリカである。

 

「珍しいね?セリカちゃんが私に会いに来るなんて」

「別に。帰ってなさそうだと思って見に来てみただけ」

 

 ぷいっと顔を逸らしながら答える。

 

「……それとね、リーリァ先生に言いたかったことがあるから」

「え?感謝ならいっぱいしてくれてもいいよ?」

「それはもうしたでしょ!」

 

 私の冗談に怒りながらも、咳払いを1つしてから話し出した。

 

「私達の借金は私達でなんとかする、そこを譲るつもりはないから」

「え〜?」

「……でも、もう私達()()でやるとは言わない。リーリァ先生が手伝ってくれるなら、それはありがたく受け入れる。でも、やっぱりこれは私達の問題で……だから……」

 

 まるで必死に言い訳するかのように言葉を絞り出そうとしている。目が泳いでいる。ついには顔も見られなくなったのかそっぽを向く。

 

「この件で先生が無理する必要はないから。勘違いしないで欲しいけど、別に心配してるとかじゃなくって、ほら、ええっと、恥ずかしいでしょ?元々関係ない人が倒れたりとかしたらさ」

 

 言わなくていい言葉を積み上げていって、もう言いたいことがめちゃくちゃになっていっている。

 

「だから、その。リーリァ先生は……」

 

 忍び足。

 

「あぁもう!とにかく!」

 

 それ以上言い訳は思い浮かばなかったのだろう。頭を振って、目の前を見て。

 

「そりゃ!」

「うわぁ!?」

 

 そんなセリカに勢いよく飛びついた。

 

「な、ななな何!?」

 

 当然予想外だったであろう行動に困惑し、変な声を出し始める。そんなセリカの身体を強く抱き、そして。

 

「ありがとう、セリカちゃん」

 

 からかいも冗談もない、ただ素直な気持ちをぶつけた。

 その答えは返ってこない。けれど、無理矢理引き剥がそうとしないのが答えの代わりになっていた。

 

「急にごめんね?」

 

 ゆっくりと離れながら一応謝っておくと、複雑な表情のセリカがそこにいた。

 

「……変態」

 

 ぼそりと言った。

 それはなんというか、結構傷つく。まあしたことがことなので、言われても仕方ないけれど。

 それから露骨に大きく溜息を吐き、先程言いたかったであろうことを言い始めた。

 

「リーリァ先生のこと、送ってくから。その後は私もちゃんと帰る」

「いやあ、ほんと出来た生徒だねえ」

「ホシノ先輩みたいなこと言わないでよ!」

 

 そんな調子で、怒ってるのか楽しんでいるのか何とも分かりにくいセリカに、自宅ーーホシノに借りている家だけどーーへと返された。

 しかし、ユウカにしろセリカにしろ、そんなに私が無理しているように見えるのだろうか。そんなつもりはないのだが、心配かけてばかりなのも悪いでそこは改善しよう。

 ……とりあえずそこまで急ぎの仕事もない。とはいえ他にしたいこともないし、もう少しだけ考えてから寝よう。まだ、()()()()し。

 

 そして、日が落ちていく。

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