元勇者の先生日誌   作:Ruve

7 / 26
1-5

 対策委員会の部室に、対策委員会のみんなが集まる。それから眠っていた私とホシノが起こされた。

 昨日はお開きにした、定例会議の時間のようだ。

 

「まず、会議の前に。昨日のヘルメット団から押収した装備の出どころはまだ特定出来ていません。こちらは引き続き私が進めます」

 

 現状、唯一の手がかりであるそれに進展がなければこちらも取れる行動はない。そこはアヤネの頑張りどころだろう。

 

「ということで、今日はアビドス対策委員会の定例会議を開きます。本日は先生もいらっしゃいますので、いつもより真面目な議論が出来ると思うのですが……」

 

 いつもより硬い口調のアヤネが取り仕切る。どうやら仕事モードのようだ。気になるのは、いつもより真面目な議論、という言い方である。普段はあまり真面目ではないということになる。

 まあ、そこは私の関与する所ではない。ちゃんと会議として成立さえしてればいいだろう。

 

「は〜い☆」

「もちろん」

「何よ、いつもは不真面目みたいじゃない」

「うへ、よろしくね〜リーリァちゃん」

 

 若干不満そうなセリカはともかく、他の3人は気楽に答えた。

 なるほど?不真面目な人間はその3人かな?

 

「早速議題に入ります。本日は、私達にとって重要な問題……『学校の負債をどう返済するか』です。先生がシャーレとして仕事の斡旋をしてくれるということにはなりましたが、それだけでは返しきれません。なので、改めて議論することにしました」

 

 なるほどと思う。普段からこうして議論しているとすれば、借金の返済も遠くはないのかもしれない。いや、決して近くはないけれども。

 ……問題は、ここに不真面目そうな人間が複数いるという点。

 

「ご意見のある方は、挙手をお願いします!」

「はい!はい!」

 

 勢いよく手を挙げたのはセリカである。ここ数日の様子を見ても、セリカは分かりやすいくらい借金の返済への熱が籠もっている。良い意見が出るのではないだろうか。

 

「はい、1年の黒見さん。お願いします」

 

 アヤネが指名する。しかし、次に出てきたのは意見ではなかった。

 

「……あのさ、まず名字で呼ぶのやめない?ぎこちないんだけど」

「せ、セリカちゃん……でもせっかく会議だし……」

「いいじゃ〜ん、おカタ〜い感じで。それに今日はリーリァちゃんがいるんだし」

「そういえば、いつの間に先生のこと名前で呼んでる」

「確かにそうですよね?朝も一緒に寝てましたし、仲良くなったみたいですね☆」

「うへ〜、それはね、語ると長くなるんだよ〜」

 

 話が脱線している、それも物凄い勢いで。なんというか、これが定例会議の普段のノリなんだなというのはよく分かった。

 ……頭が痛い。

 

「……会議は?」

「……!そうね、そうよ!」

 

 その反応、忘れてたでしょ。

 どうやら不真面目な人間は4人いるらしいと理解する。

 

「対策委員会の会計担当としては、現在我が校の財政状況は破産の寸前としか言いようがないわ!このままじゃ廃校だよ!みんな、分かってるよね?」

「そうだね〜」

「毎月の返済額は、利息だけで788万円!私達も頑張って稼いでるけど、正直利息の返済も追いつかない。これまで通り指名手配犯を捕まえたり、苦情を解決したり、ボランティアをするだけじゃ限界があるわ」

 

 ここまでは、まあ前提の話。なのだけれど、利息が788万というのは初耳だ。……なるほど、やはり返せる額ではない。いや、返させる気のない額と言うべきだろう。

 

「このままじゃ埒が明かないってこと!なんかこう、でっかく一発狙わないと!」

 

 話の雲域が怪しくなってたね、うん。まさか宝くじとか言い出さないよね。

 

「でっかく……って、例えば?」

 

 アヤネの質問に、セリカは自信満々にとあるものを取り出した。

 

「これこれ!街で配ってたチラシ!」

「はい、終わり。アヤネ、次の意見に行こう」

「リーリァ先生!?」

 

 チラシに書かれた『ゲルマニウム麦飯石ブレスレットであなたも一攫千金』という文字列を見て、全てを察した。

 ゲルマニウム麦飯石が何かは知らないが、そこはあまり重要ではない。似たようなものは、今までも何度も見たことがある。それも貧困層が多い場所で、だ。

 

「いや、待ってよ。私、説明会に行って聞いてきたのよ。身につけるだけで運気が上がってがっぽがっぽ、しかもこれを周りの3人に売れば……」

「却下〜」

「ホシノ先輩まで!?」

 

 セリカ、実はアビドスの借金増やしてるんじゃないの?と心配になってきた。

 この様で、借金を返すと息巻いてたのは少々、いやかなり心配になる。いや、ほんとに。先生だからとかじゃなくて。

 

「セリカちゃん、それ詐欺だよ」

「厳密にはマルチ商法ですね」

 

 アウトである。

 

「うそっ!?2個も買っちゃったんだけど」

 

 2アウトのようだった。

 

「セリカちゃん、騙されちゃいましたね。可愛いです☆」

「まったく、セリカちゃんは世間知らずだね。気を付けないと、悪い大人に騙されて人生取り返しのつかないことなっちゃうよ〜?」

 

 先輩達の反応を見るに、どうやらいつも通りのことらしい。どうして会計担当にしたんだろう。弄りに参加しそうなもう1人を見てみると、真面目な顔で端末を見ている。……せめて話は聞いてあげようよ。

 しかし、ホシノの冗談が冗談に聞こえなかったのは多分気の所為ではないのだろう。ホシノはやはり、過去に何か"そういうこと"があったのだろう。

 まあ、そこは一旦置いておいて。

 

「そ、そんな風には見えなかったのに……せっかくお昼抜いて貯めたお金で買ったのに」

「まあ私が奢るからさ、うん。元気出して」

「リーリァ先生〜!」

 

 やっぱり、素直でかわいい子という印象は崩れることはないだろう。思ったよりも純粋ではあったけれど。

 

「えっと……それでは、黒見さんの意見はこの辺で……他にご意見のある方は?」

「はい!はい!」

 

 次に手を挙げたのはホシノだ。

 ……この場で最も真剣なのは彼女のはずだが、みんなの前でそういう様子を見せていることはーー少なくても私が来てからはーー一度もない。

 

「はい次」

「リーリァちゃん、おじさんは悲しいよ……」

「先生、その……嫌な予感がするのは分かりますが、まずは聞いてみませんか?」

「う〜ん、流石アヤネちゃん。悪い先生とは違うな〜」

 

 やはりアヤネだけは凄く真面目だ。それに対してホシノのふざけ具合が凄まじい。……まあ、聞くだけ聞いてみようか。

 

「ということで、3年の小鳥遊ホシノさん」

「うむうむ、えっへん!」

 

 謎の掛け声?を発してから、ホシノは話し出す。

 

「我が校の一番の問題は、全校生徒がここにいる全てってことなんだよねー。生徒の数イコール学校の力。トリニティやゲヘナみたいに生徒数を桁違いに増やせれば、毎月のお金だけでもかなりの額になるはず」

「え……そ、そうなんですか?」

 

 アヤネは驚いているが、その理屈自体は自然である。極端な話、三大学園の予算が今のアビドスと同程度しかなく、あとはみんなのポケットマネーから……というのはあり得ない話だ。

 

「そういうことー!だからまずは生徒を増やさないとね〜、まずはそこからかな〜。そうすれば議員も輩出できるし、連邦生徒会での発言権を与えられるしね」

 

 会長探しに躍起になっている今の連邦生徒会の発言権を得たところであまり意味はない気がするが。悪い意味で連邦生徒会長の実力に引っ張られていたのだろう、というのはよく分かる。

 そして、ホシノの意見には重大な穴がある。肝心の、生徒を集める手段である。分校の校舎を使っている程度にはボロくて砂漠に埋もれかけているこの学校に、人が来る理由なんて用意できるだろうか。

 

「鋭い指摘ですが、でもどうやって……」

「簡単だよー、他校のスクールバスを拉致ればオッケー!」

 

 ……なんて?

 

「はい!?」

「登校中のスクールバスをジャックして、うちの学校への転入学書類にハンコを押さないとバスから降りられないようにするの」

「はい次〜」

「うへ〜、リーリァちゃん厳しいよ〜」

 

 まず間違いなく冗談で言っているが、仮に本気ならカタカタヘルメット団未満の行動をしようとしていると分かっているのだろうか。

 

「ん、私は興味ある」

 

 ここまで沈黙を保っていた1人が、まさかのタイミングでの発言。そしてそれに興味を覚えるあたり、シロコはそっち側の人間のようだ。

 ……もしかしなくても、シロコの意見もまともじゃないね?

 

「ちょ、ちょっと待ってください!そんな方法で転校なんてありなんですか!?それに、他校の風紀委員が黙ってませんよ……」

 

 風紀委員と言えば、ハスミはトリニティの風紀委員会である正義実現委員会ーーこの名前を付けた人はししょーとセンスが似てるのかもしれないーーであり、チナツもゲヘナの風紀委員だったなと思い出す。

 ユウカと違って2人にはまだシャーレに所属はしてもらってないが、何度か連絡は取っている。

 ……と、思考が別の所に引っ張られそうになる。この会議、だいぶ辛い。まあ讃光教会のお偉いさんの話聞いてるよりかは全然マシだけど。

 

「うへ〜、やっぱそうだよねー」

「やっぱそうだよねー、じゃありませんよホシノ先輩!もっと真面目に会議に臨んでいただかないと……」

 

 やはり冗談だったのだろう、あっさりと引き下がった。

 さて、次の問題児は……

 

「私にいい考えがある」

「……はい、2年の砂狼シロコさん」

 

 アヤネももう疲れ始めている。私があの立場だったらと考えると、凄く嫌だな〜と思う。いや、私も先生としてここにいるので話は聞かないといけないんだけど。

 

「銀行を襲うの」

「アヤネちゃん、次行こ」

「先生、でもこれが一番確実かつ簡単な方法。ターゲットも選定済み。市街地にある第一中央銀行」

 

 よかったね、私が憲兵じゃなくて。

 

「金庫の位置、警備員の動線、現金輸送車の走行ルートは事前に把握しておいたから」

「さっきから一生懸命に見てたのは、それですか!?」

 

 あんな真面目な顔でこんなことしていたとなると、天職はテロリストのようだ。真界再想聖歌隊(トゥルーワールド)に向いてる、きっとそうだ。

 因みにだけど、勇者(ブレイブ)は聖歌隊を始めとした犯罪者集団を相手にすることもあった。今ここにいるのが"先生"のリーリァ・アスプレイでほんとによかったね、シロコちゃん。

 

「5分で1億は稼げる。はい、覆面も準備しておいた」

 

 ドサッと、5つの覆面が出てくる。ニット帽に穴をくり抜いたもの。ご丁寧に5色あり、それぞれ数字が入っている。

 

「いつの間にこんなものまで……」

「うわー、これ、シロコちゃんの手作りー?」

「わあ、見てください。レスラーみたいです!」

 

 ノノミが、緑に3番のマークがある覆面を被っていた。レスラーというのはちょっと知らないけれど、まあうん、立派な犯罪者に見える。

 

「……」

「……」

「いやー、いいねえ。人生一発でキメないと。ねえ、セリカちゃん?」

「そんなわけあるか!!却下!却下ー!!」

 

 内容が内容だが、大真面目に考えていたセリカが可哀想になってきた。

 ……シロコがふくれっ面をする。そんなに強盗したかったのか。

 

「いや、駄目だからね?」

「……」

「そんな顔しても駄目だから」

「………!」

 

 どこに、ここまで強盗に対する熱意が出てくるのだろうか、謎である。謎の美学を持っている犯罪者というのは、こうして生まれるのかもしれない。

 

「はあ……みなさん、もうちょっとまともな提案をしていただかないと……」

「あのー!はい!次は私が!」

「はい……2年の十六夜ノノミさん。詐欺と犯罪は抜きでご意見をお願いします……」

 

 アヤネも、もはや期待してなさそうだ。

 

「はい!犯罪でもマルチ商法でもない、とってもクリーンかつ確実な方法があります!」

「アイドルです!スクールアイドルです!」

 

 ここに来て知らない概念が出てきた。まあ、さっきまでよりはまともな意見だと信じたい。

 

「ア、アイドル……!?」

「そうです!アニメで観たんですけれど、学校を復興する定番の方法はアイドルです!私たち全員がアイドルとしてデビューすれば……」

 

 ノノミからは知らない単語が次々と出てくる気がする。多分、娯楽の類なのだろう。ユウカからも趣味とかないんです!?と言われているが、無いものは無いんだ、しょうがない。

 その上で、1つ。

 

「「却下」」

「……ん?」

「うへ」

 

 今度はホシノと意見があった。

 

「あら……これも駄目なんですか?」

「いやいや、アニメとやらみたいに都合よくはいかないでしょ」

 

 正規勇者(リーガル・ブレイブ)リーリァ・アスプレイの活躍をテーマにした劇というものはまあそれなりにあった。意識して見ることはなくても、それでも何回か見たことはある。なんというかまあ、酷かった。新聞(ペーパー)でさえ原型をなくすほど活躍を盛られるのに、劇となれば尚更だ。

 そして、創作というのは大なり小なりそういう点はある。私の活躍ほど盛られることはないだろうが……アニメとやらのように、都合よく解決することはあり得ない。

 

「決めポーズも考えておいたのに……」

 

 なるほど、襲撃計画を考えていた誰かと同じく真面目に通ると思っていたらしい。

 呟きながらも、シャキッとポーズを取る。なるほど、アイドルというものの方向性は理解した。

 

「水着少女団のクリスティーナで〜す♧」

「どういうことよ……何が『で〜す♧』よ!それに『水着少女団』って!だっさい!!」

 

 うん、そもそもダサいと思ったのは私だけではないようだ。

 

「えー、徹夜で考えたのに……」

 

 むしろ徹夜で考えたからこうなったのかもしれない。

 

「あのう……議論がなかなか進まないんですけど、そろそろ結論を……」

 

 困っている様子のアヤネである。全部却下、終わり。でいい気がするけれど、そこまで強気になれないのは見ていて分かる。

 ……ほんとにそうだろうか?バギーを乗り回していた時の彼女はまるで別人のようだったけれど。

 

「それはリーリァちゃんに任せちゃお〜う。リーリァちゃん、()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 全部却下って言ったのに、あえてその聞き方をしてくるというのは。ホシノなりに、私を測っているのだろう。ならば……

 

「そりゃもうバスジャックするしかないでしょ?」

 

 一番不真面目だった意見に投票してやろう。

 

「うへっ!?」

「えっ!?先生!?」

 

 アヤネはもちろん驚いているが、一番驚いているのはホシノだった。

 

「本気なんですか!?先生!?」

「あ、あはは……よし!決まり〜!」

「ふむ、何処を襲えばいいでしょう?決めないとですね☆」

「ほ、ほんとに?リーリァ先生?ほんとにそれがいいの?」

「う、うへ〜……まあ、リーリァちゃんの判断だし!」

「計画は大胆な方がいい。でしょ、アヤネ?」

 

 選ばれると思っていなかった3年と、見事に悪ノリしている2年。そして本気で困っている1年。……まあアビドスがどういう学校なのかはよく分かってきた。これでも仲良くやれてるのが不思議まである。私なら既に……

 思考を中断する。アヤネが、震えている。

 

「……い……」

「い?」

「いいわけないじゃないですかぁ!!!」

 

 ドンガラガッシャーン!

 机が物凄い勢いでひっくり返された。置かれていた筆記用具諸々が散らばっていく。

 ……アヤネが、ちゃぶ台返しをした。少し離れて正解だった。

 

「出たー!アヤネちゃんのちゃぶ台返しー!」

「………」

「きゃあ、アヤネちゃんが怒りました!非常事態です!」

 

 先輩達の反応から察するに、これもまあそこそこ日常的な行動なのだろうと想像が付く。

 ……あとでいっぱいラーメン奢ってあげよう。

 

「うへ〜キレのある返しができる子に育ってくれたねえ。ママは嬉しいよ〜ん」

「誰がママですかっ!もうっ、ちゃんと真面目にやってください!いつもふざけてばっかり!銀行強盗とかマルチ商法とかそんなことばかり言って!!」

「ギクッ」

「……」

 

 まあ、これが普段通りなら怒るだろう。私なら怒ってる。

 

「先生もです!」

「え?」

「先生もしっかり止めてください!なんでノッてるんですか!?」

「いや、それはホシノちゃんが……」

「全員、お説教です!!!」

 

 昼になるまで説教は続いた。

 説教なんてされるの、いつぶりだろうか……と思う。なんとなく、シリルのことを思い出した。……眼鏡をかけていること意外に、それといって共通点はないけれど。

 

 

ーーーーー

 

 

「いやあ、悪かったってばアヤネちゃーん。リーリァちゃんがラーメン奢ってくれるし、怒らないでねっ?」

「怒ってません……」

 

 怒っている人間が言う時のトーンでアヤネは返す。私もこんな感じになっていた時があったりしたのかなと、ちょっとしみじみと思う。

 

「はい、お口拭いて。はい、よくできましたねー☆」

「赤ちゃんじゃないんですからっ」

 

 場所は柴関ラーメン。今日も全員分奢るということで、また来ている。また奢られる訳にもいかないよ〜とか言っていたけど、先程の謝罪も兼ねてということで了承を得た。

 

「……なんでもいいんだけどさ。なんでまたうちに来たの?」

 

 既にバイトモードのセリカが疑問を口にする。

 

「いやあ、ここしか知らないからねえ」

「まあ、リーリァ先生はそうかもしれませんけど」

「美味いからいいの」

 

 帝国中駆け回り、果にはその外まで何度か顔を出し。そのついでに色々なものを食べてきた私が言うのだ。多少好みの差はあるかもしれないが、ここのラーメンは間違いなく美味いと言えるだろう。

 

「アヤネ、もっとチャーシュー食べる?」

「ふぁい」

 

 見ると、隣ではシロコがアヤネの口にチャーシューを押し込んでいた。まあ何だかんだで、アヤネも許してはいるのだろう。

 ……もし本気で嫌うのであれば、今ここにいるはずないのだから。

 そんな中、ガラリと店の扉が開いた。いや、それ自体は問題ないのだけれど。

 

「………あ、あのう……」

 

 入ってきた紫の髪の少女が、控えめにセリカに声をかけた。制服を着ているし、ヘイロー……ーー頭の上にある天子の輪のようなものをそういうらしい。不思議なものであるーーもある。なるほど何処かの生徒なのだろうか。

 問題は、アビドス学区にある学校は当然、アビドスだけなのだが。

 

「いらっしゃいませ!何名様ですか?」

「……こ、ここで一番安いメニューって、お、おいくらですか?」

「一番安いのは……580円の柴崎ラーメンです!看板メニューなんで、美味しいですよ!」

「あ、ありがとうございます!」

 

 ガラリ。

 

 あれ?出ていったね?と思ってよく耳を澄ませれば、誰かと話している声。

 

 ガラリ。

 

 また開く。そして今度は4人入ってきた。

 

「えへへっ、やっと見つかった、600円以下のメニュー!」

 

 一番小柄な白い髪の少女が、嬉しそうに言いながら入ってくる。

 

「ふふふ。ほら、何事にも解決策はあるのよ。全部想定内だわ」

 

 今度は逆に一番体格がよく、赤めの髪の、何故かマントを羽織っている少女が入ってくる。……角が生えてる?鬼種(オグル)

 

「そ、そうでしたか。流石社長、何でもご存知ですね……」

 

 再び紫の控えめそうな子が入ってくる。社長だからマントを羽織っていたのだろうか。その割に600円以下のメニューを探していたようだけれど。

 

「はあ……」

 

 今度は精悍な顔立ちの、髪が白と黒の二色というだいぶ目立つ姿の少女だ。

 ……少々鋭い目つきだけど、かなり綺麗なのではないだろうか。私もあれだけ美人なら、ヴィレムにも……いや、なんでもない。なんでもないって。

 

「4名様ですか?席にご案内いたしますね」

「んーん、どうせ1杯しか頼まないから大丈夫」

 

 4人で1杯。……なるほど、どうやらアビドス来てから金欠の生徒と縁があるらしい。

 

「1杯だけ……?でも……どうせならごゆっくりお席へどうぞ。今は暇な時間なので席は多いですし」

 

 アビドスの砂漠化の問題もあり、ただでさえ人が少なめのこの地域。しかも人の少ない時間ともなれば店はガラガラである。

 

「おー、親切な店員さんだね!ありがとう、それじゃお言葉に甘えて。……あ、わがままのついでに、箸は4膳でよろしく、優しいバイトちゃん」

「えっ、4膳ですか?ま、まさか1杯を4人で分け合うつもり?」

 

 セリカもようやく気がついたのだろう。驚きのあまり敬語が崩れている。

 

「ご、ご、ごめんなさいっ。貧乏ですみません!!お金がなくてすみません!!」

「あ、い、いや……!その、別にそう謝らなくても……!」

「いいえ!お金がないのは首がないのも同じ!生きる資格なんてないんです!虫けらにも劣る存在なのです!虫けら以下ですみません……!」

 

 少々自意識過剰としか言いようがないくらい、紫の髪の子が激しく謝罪し始める。ううむ……"先生"として、いつかはちゃんと相手してあげないといけないだろう。

 

「はあ……ちょっと声デカいよ、ハルカ。周りに迷惑……」

 

 白黒の髪の子が、紫の子……ハルカを窘める。多分だけど、いつも通りのことなのだろう。対応に慣れている。

 しかし、なんというか凄く大人な雰囲気だ。体格だけ見ると一番の年長者は社長と呼ばれた人に見えるが、様子を観察してるに彼女が年長者に見えてくる。

 しかし、それは置いておいて。

 

「そんな!お金がないのは罪じゃないよ!胸を張って!」

「へ?……はい?」

 

 金欠同士、変にシンパシーを覚えたセリカがハルカを元気づけ始めた。

 

「ねっ、大将?」

「おうよ!金は天下の回りもの。お嬢ちゃん達まだ学生だろ?それでも、小銭をかき集めて食べに来てくれたんだ。嬉しいじゃねえか!ちょっと待ってな!」

「席に座って待っててね!」

 

 ……ううむ。キヴォトスに来て、初めてこんな優しい大人に会ったかもなあと柴大将を見る。

 しかし、相手は少々困惑気味だった。

 

「……何か妙な勘違いをされてるみたいだけど?」

 

 席に座りながら、小声で相談している。

 

「まあ、私たちもいつもはそれほど貧乏じゃないけどね。強いていうなら金遣いの荒いアルちゃんのせいだし」

「うっ」

「さっきの依頼が一銭にもならなかったうえに次の依頼の人員確保にほとんどの資金を使っちゃったし」

 

 ………ん?少し気になる会話だ。もう少し耳を傾けてみよう。

 

「ふふふ。でもこうして実際にラーメンを口にできるわけでしょ?それぐらい想定内よ」

 

 社長がそんな刹那的な生き方していて大丈夫なのだろうか。……とはツッコまないでおく。今この時点では無関係な部外者だ。

 

「たったの1杯分じゃん。せめて4杯分のお金は用意しておこうよ……」

「ぶっちゃけ忘れたんでしょ?ねえ、アルちゃん。夕飯代取っておくの、忘れたんでしょ?」

「……ふふふ」

 

 完全に笑って誤魔化そうとしてる。これはあれだ、アルが社長なのはいいとして、実のところ他の3人に支えられている感じではないだろうか。

 

「はあ。ま、リスクは減らせたほうがいいし。今回のターゲットはヘルメット団みたいな雑魚には扱えないってことには同意する」

 

 ………ん?ヘルメット団?

 

「でも全財産をはたいて人を雇わないといけないほど、()()()()って危険な連中なの?」

 

 ……なるほど、ねえ?

 

「それは……」

「多分アルちゃんもよく分かってないと思うよ。だからビビッていっぱい雇ってるんだよ」

「誰がビビッてるって!?全部私の想定内!失敗は許されない。あらゆるリソースを総動員して臨むわ。それが我が便利屋68のモットーよ!」

「初耳だね、そんなモットー……」

「今思いついたに決まってるよ」

「うっ、うるさい!」

 

 和気あいあいと話しているが、なるほどヘルメット団を雇っていた連中は彼女達"便利屋"を雇ったようだ。ヘルメット団を雑魚と言う程度には実力もあり、更にラーメン1杯食べるのに苦労する程度には傭兵か何かを雇っている。

 そこはまあ、かなり問題ではある。でも個人的に一番気になっているのは、"生徒同士の衝突"になる、という点である。"先生"として……するべきことはどうなのだろうか。キヴォトスの治安を考えればいずれ直面するとは思っていたけれど。

 ……まあ、今は難しいこと考えずに、アビドスの味方をするのが正解だとは思うけれど。

 

「はい、おまたせしました!お熱いのでお気をつけて!」

 

 ドンッと、便利屋達の机にラーメンが置かれた。……運んでいるのが見えたが、明らかに超大盛のラーメンが。

 

「ひぇっ、なにこれ、ラーメン超大盛じゃん!」

「ざっと10人前はあるね……」

「こ、これはオーダーミスなのでは?こんなの食べるお金、ありませんよう……」

 

 普通のラーメン頼んでそんなものが出てきたら、まあ驚くだろうという量。大盛程度なら気が付かないかもしれないが、あれは凄い。

 

「いやいや、これで合ってますって。580円の柴崎ラーメン並!ですよね、大将!」

「ああ、ちょっと手元が狂っちまってな。せっかくだから食べてくれ」

 

 なるほど。

 

「私もあれ食べたい」

「ちょっと〜?リーリァちゃん?」

 

 仕事終わりにあの量のラーメンが出てきたら、喜んで飛びつくだろう。

 ……が、まああれは便利屋達のラーメンである。当たり前だが。

 

「大将もああ言ってるんだから、遠慮しないで!それじゃごゆっくりどうぞ〜」

「う、うわぁ……!」

「よくわかんないけど、ラッキー!いっただっきまーす!」

「……ふふふ、流石にこれは想定外だったけれど、厚意に甘えてありがたくいただかないとね」

「食べよっ」

 

 見てみれば便利屋の4人とも大なり小なり目を輝かせている。

 1人前の丼が4人分配膳されたので、それぞれに分けながらーーそれでもまだ沢山盛ってあるーー食べ始めた。

 

「「「「おいしい!」」」」

 

 これだけ美味しそうに食べてくれるなら、大将もご満悦だろう。そう思いながらチラッと様子を伺うと、ふっ、と小さく笑っていた。

 ……美味しい食事でみんなを笑顔にする。それは正規勇者(リーガル・ブレイブ)だろうが先生だろうが、私に出来ることではない。ああいう人がもっと沢山いてくれれば、世界も平和になるのだろう。

 

「でしょう、でしょう?美味しいでしょう?」

 

 大将の方を見ている間にだろうか、いつの間にノノミが4人に声をかけていた。

 向こうはアビドスを知らないとはいえ、流石に目の前に立てば気づかれるのではないだろうか。出来れば止めたかったが、ここで席に無理矢理戻せば逆におかしいだろう。

 ノノミに釣られてか、他のみんなも便利屋の席の前に移動し始める。まあ、常連の店に遠くから?のお客さんが来たんだ。自分のことのように嬉しくなってしまうのもしょうがないのかもしれない。

 

「あれ?隣の席の……?」

「うんうん、ここのラーメンは本当に最高なんです。遠くからわざわざ来るお客さんもいるんですよ!」

 

 それは初耳だ。まあ私自身ここに来るのは2回目だし、それは知らなくてもおかしなことではないが。

 

「ええ、分かるわ。色んな所で色んなものを食べてきたけど、このレベルのラーメンはなかなかお目にかかれないもの!」

 

 アルは嬉しそうに語るが、逆に言えば色んな所で仕事をしてくるくらいには、実績もある……という認知でいいのだろうか。やはり厄介な相手になりそうだ。

 

「えへへ……私たち、ここの常連なんです。他の学校のみなさんに食べていただけるなんて、なんか嬉しいです……」

「その制服、ゲヘナ?遠くから来たんだね」

 

 ……ゲヘナ?なるほど、何処かで見た気がすると思っていたのだが。あのチナツがいるゲヘナね。

 シロコが言う通り、ゲヘナ地区はこの近くではない。先程の話から考えるに、ゲヘナ地区ではなくもっと広く活動しているのだろう。便利屋に社長、部活というよりはもう企業として活動しているみたいだし。

 

「うふふふっ!いいわ、こんなところで気の合う人達に会えるなんて。これは想定外だけど、こういう予測できない出来事こそ人生の醍醐味じゃないかしら!」

 

 和やかに話しているアルの後ろで、元々目付きの鋭い少女が更に目を細めて警戒を露わにしていた。そして小柄な方にこっそり耳打ち。

 やはり、気が付かれたか。

 

「こんにちは」

「……なに?」

 

 楽しそうに話して、そんな様子に気がついてないアルとアビドスのみんなは一旦置いておいて、2人に話しておく。

 

「私はシャーレの先生、リーリァ・アスプレイだよ。好きに呼んで?」

「……私は鬼方カヨコ」

「浅黄ムツキだよ〜。よろしくね、先生っ」

「そっちが、伊草ハルカね」

「よ、よろしくお願いします……」

「そして、我らがアルちゃんだよ!」

「陸八魔アル、ね」

 

 小声で3人から挨拶される。……性根が腐ってるとか、明らかな変人とか、別にそんなことはなく。普通に良い子達に見える。

 それでも便利屋なんかやってるのがキヴォトス、というのはまだ少々慣れない。

 

「一応ね、今は暴れないでよ?」

「流石にそんなことしないよ。ラーメンが勿体ないじゃん!」

「……そもそも社長、気づいてなさそうだし」

 

 まあ、これから戦う相手と気がついていてあの様子なのなら、相当な狸だが。先程の会話を聞いた限りでも、それはない。

 

「まあ、面白いしほっておこ?」

「私も今は黙っておこうかな〜」

「言わないんだね」

「せっかくの生徒同士の交流、水を差すものでもないでしょ」

 

 それからしばらく、話しながらも便利屋は超大盛ラーメンを完食した。

 

「それじゃあお気をつけて!」

「お仕事、上手くいきますように!」

「あははっ!了解!あなたたちも学校の復興、頑張ってね!私も応援しているから!じゃあね!」

 

 すっかり打ち解けたアビドスと便利屋のメンバーが別れていく。

 アルはそれはもう手をぶんぶん振って別れていったが、その復興途中の学校をこれから襲うのは露知らず、といった感じだ。

 むしろよく気がつかないな……と、カヨコと少しだけ話していたのはここだけの話。

 

「先生もなんか話してたよね?」

「ま、大したことじゃないよ」

 

 便利屋達の姿が見えなくなり、みんなで帰路につく。セリカも今日のバイトは終わりということで一緒に帰る。

 そこで藪から棒に言ってみた。

 

「さて、防衛もしないとね〜」

「うへ?」

「どういうことですか、先生?」

 

 この反応、予想通り誰も気がついてなかったようだ。まあ制服や校章を一目見ればターゲットだと気がつけた向こうと違い、こちらは話を聞いてなければ気がつけなかったのも仕方のないことだ。

 

「あの子達の仕事、うちらの襲撃だよ?急いで戻って防衛の支度しないと」

「……えっ!?」

「ちょっと、何それ!せっかく特盛にしてあげたのに!」

「まあ便利屋って言ってたし、仕方ないんじゃないかなあ……」

 

 残念ながら、仕事は仕事である。ヘルメット団以上の報酬が用意されてるだろうし、そうなれば相当な額だ。ラーメンで使い果たしたであろう懐事情も考えると、やっぱやめます!とはならないだろう。

 

「便利屋なんてって言ってたっけ?」

「みんなが話しかける前にね」

「盗み聞きしてたの〜?リーリァちゃんってやっぱ、悪い先生だね〜?」

 

 ちょんちょんと肘で突きながらも、ホシノが笑う。その顔に失望とか警戒とか、そういったものはない。私がそういうことをする人物というのは、もう受け入れたのだろうか。

 

「さ〜て、仕事の時間としますか!」

 

 

ーーーーー

 

 

「先生の予想通り、南方から便利屋と傭兵……多分日雇いのですね、接近しています」

 

 対策委員会の部室からアヤネがタブレットで周囲のモニターをしていた所、便利屋一行がやってきたようだ。

 既に、人のいない市街地で全員配置に着いている。来ると分かっている相手を正々堂々と待つという選択肢を取るほど、先生としての私は甘くなったつもりはない。私個人で仕掛けるなら真正面からでも行ける気はするけど。

 ……しかし、なんというか予想通り、便利屋達は堂々と現れた。アルの先程の言動からして、奇襲を仕掛けてくることはないと踏んではいたものの。

 まあ、手加減はする必要はない。周囲の建物に潜伏している各メンバーに指示を出す。

 

「じゃあ手筈通りお願いね」

 

 一番最初に仕掛けるのは、シロコのドローンだ。数が多いことは想定していた……ので、最初にミサイルの爆撃で数を減らす。そこまで上手く行かなくても、爆炎が煙幕となる。

 20人程の部隊へ、背後からミサイルが放たれる。

 

「……!アル様!」

「え?きゃああ!?」

 

 たまたま後方を見て真っ先に気がついたハルカがアルを庇い、カヨコが舌打ちをしながら適当な瓦礫にカバーする。ムツキも建物の陰に避難したが、傭兵達はすぐには対応できずまともに直撃する。

 爆発で視界が塞がっている所に、ノノミのガトリングとセリカの狙撃がお見舞いされる。狙いは傭兵の皆様だ。例え烏合の衆だろうと、数が多いというのはそれだけである程度の危険度を持つ。

 

「言ったでしょ、あの人は仕掛けてくるって」

 

 カヨコがアルに言いながらも、退却しようとしたドローンを撃ち抜く。

 

「あわ、あわわわわ……!」

「……アル様をこんな目に合わせるなんて……許せない許せない許せない許せない許せない許せない許せない………!!」

「う〜ん、楽しくなってきたね」

「言ってる場合?」

 

 テンパってそれどころじゃないアルを尻目に、ハルカが適当な狙いを付けて走り出そうとするが、そこへショットガンがお見舞いされる。

 

「ふふ、おじさんを倒してから行くんだね」

「うわあああああ!!」

 

 得物がショットガン同士の2人が、1対1の戦闘を始めてしまう。しかし盾を持っているホシノの方が有利なのは火を見るよりも明らかだったが、被弾を恐れずにツッコんでくるハルカの姿は傍から見てもかなり恐ろしいものだった。

 ガトリングの斉射が止まった時には、傭兵達は倒れているか逃げているかのどちらか。しかし何処から攻撃されているのかしっかり確認していたムツキは勢いよくバッグを放り投げた。

 

「はあ?何だか知らないけど……!」

「待って、セリカ!」

 

 挟撃する形で狙撃していたセリカには狙いやすい位置だった。殆ど反射的に、セリカが狙撃を成功させてしまう。

 直後、バッグは盛大に爆発した。

 

「うわあ!?」

「そこ!」

 

 派手に崩れる建物。そこからノノミの姿がしっかり見えてしまう。カヨコが拳銃の銃口をそちらに向けると同時に、シロコが銃弾をばら撒きながら猛スピードで突っ込んでいった。

 

「相手は、私!」

 

 拳銃目掛けて蹴りを繰り出すと、想定外だったのか諸に喰らい弾き飛ばされる。

 

「ちょっとちょっと〜!」

 

 更に追撃を加えようとするシロコに、ムツキがアサルトライフルで牽制。その隙に素早く拳銃を拾い直される。擬似的に1対2なってしまったシロコに対して、セリカが狙撃しようと構えると同時に別な所から狙撃。

 

「なっ!?」

「……ふふっ!この程度想定内よ!」

「流石に無理があるよ、社長」

 

 いつの間に立ち直っていたアルが、身長程もありそうな巨大な狙撃銃でセリカを逆に狙撃していた。

 巻き込まれないように少し離れた場所から観察しているが、両者実力は拮抗しているようだ。一進一退の攻防が続いているばかりだ。

 

「ちょっと、あんた達も仕事しなさいよ!」

 

 アルが隠れながらも、伸びている傭兵を叩き起こす。数人逃げたようだけど、大半はまだこの戦場に残っている。再起されると少々面倒だけど。

 

「……こんな強いやつらと戦わせるんだったら、もっと出しなよ」

「はあ!?こんな時に何を……!?」

「いやいや、あんたら相当値切ってたの忘れたの?じゃ、もう帰るから。全員、撤収〜!」

「いいのか?いやー巻き込まれなかったお陰で軽傷で済んだし、蕎麦でも食べに行こうかな」

「いたたた……治療費で飛んじゃうかなこれ」

 

 傭兵達はぞろぞろと帰り支度を始めている。その様子に、全員固まって見ていた。

 

「……やっぱり、金欠なんだね」

『そう、みたいですね』

 

 ちょうど支援を頼もうと思っていたアヤネと、軽口を交わす。今流れているこの凄く微妙な空気を誤魔化す為に。

 

「ちょ、ちょっと待ってよ!!」

 

 アルの悲痛な叫び声が、市街地に木霊した。

 

「こりゃヤバいね?向こうはまだ補給もありそうだし……アルちゃん?どうする?逃げる?」

 

 便利屋の3人は、攻撃を止めているアビドスの面々から顔は逸らさずに、しかし的確な動きでアルの下に集合していた。

 

「うっ、うぅ……!」

 

 状況的に逃げるべきなのは分かるけれど、プライドとの葛藤をしているのだろう。

 ……少し呻いた後に、勢いよくアルが言った。

 

「こ、これで終わったと思わないことね!!」

「あはは、アルちゃん、完全に三流悪役の台詞じゃんそれ」

「うるさい!逃げ……じゃなくて退却するわよ!」

「アル様、待ってくださ〜い!」

 

 ドタバタと愉快に逃げ始める3人に、少し遅れて逃げ始めたカヨコが少しだけ止まり、じゃ、と軽く手を振って親しい友人と別れるように追いかけていった。

 

「待って!……行っちゃいましたね」

 

 ノノミが止めようとするが後の祭り、もう姿も見えない。この退却の判断と速さ、なるほど強いなあと思う。

 引き際を間違えて命を落としてきた者は見てきたし、それ以上に沢山いたはずだ。必要な時に逃げられるというのは、十分なスキルだ。ましてや便利屋という立場なら。

 

「うへ、結局誰の依頼かは聞けなかったね」

「まあ便利屋68に関しては私の方から調べてみるよ。金に困ってなければいいけど……」

 

 アル達は今回の依頼に失敗したということになるので、報酬はもらえない。ということは金に困ってる可能性はかなり高い。

 

「ん、そっちの心配するんだね」

「悪い子達じゃなさそうだし、何より……"先生"だからね」

「でも、仕事だとしても納得いかない!」

 

 ノノミも幸い爆発に直撃はしてなかったようで怪我らしい怪我はしていない。無事に全員適当な場所に集合する。

 

『皆さん、お疲れ様でした。今日の所は帰還しましょう』

「うへ〜……あっ、リーリァちゃん、ちょっといい?」

 

 アヤネの言う通り帰還しようとした所で、ホシノがリーリァを呼び止める。周りもなんだろうと足を止める。

 

「おじさん疲れちゃったから、今日はリーリァちゃん家で泊まるね〜」

「やっぱりホシノ先輩と先生って、仲良しになってますよね☆」

「私も泊まりたい」

「ちょっと、何言ってるのシロコ先輩!?」

「駄目だよ、シロコちゃん。おじさんはね、リーリァちゃんとあま〜い時間を過ごすんだからね〜」

『せ、先生!?まさか本当にそういう関係なんですか!?』

 

 わいわいと好き勝手言っているが、ホシノが誤魔化しているということは多分真面目な話だ。多分、昨晩の続きでもしたいのだろう。結局グラウンド整理して終わったし。

 

「いやいや、違うよ。流石にそんなことしないって」

「ま、そんな訳だから2人きりにさせてもらうよー。おじさんもちゃんと休むから、みんなも休んでね〜」

「先生、手を出したら駄目だからね」

「いやいや、しないでしょ……しないよね?リーリァ先生?」

 

 ホシノが変な誤魔化し方をしたのもあって、凄く微妙な空気にはなったけれど……とりあえず一度アビドスの校舎へ帰り、アヤネとも顔を合わせてから解散となった。

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。