元勇者の先生日誌   作:Ruve

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 ブラックマーケット。連邦生徒会の手の及ばない、文字通り黒いところ。なのだが……どう見ても、1つの街である。街と呼べるだけの規模になっている。

 

「ここがブラックマーケット……」

 

 初めて来たのであろうセリカが、きょろきょろと見回しながら呟く。いや、セリカだけではない。全員興味深そうに観察している。

 

「わあ☆すっごい賑わってますね」

「本当に。小さな市場くらいの規模を想像してたけど……」

 

 私はどちらかと言えば警戒している。不法行為がまかり通るようなエリアでは、先生という立場は盾にはならないだろう。生半可な攻撃で怪我をするつもりはないし、()()()()()()()()()()()()()()()()()警戒するに超すことはない。

 この手の闇市というものに、多少の縁はある。誰かさんが突入して壊滅させたという話を聞いたり、別の任務の時にたまたま見かけたり。しかし、何れもここまでの規模にはなっていなかった。

 ……改めて、キヴォトスという土地の治安の悪さを実感せざるを得ない。連邦生徒会が会長の失踪に悩まされているのもつい最近のことだし、前からここいらには手は及んでなかったのだろう。

 

「うへ〜、普段は私達はアビドスにばっかりいるからねー。学区外は結構変な場所が多いんだよー」

 

 アビドス学区外が変、というよりかはアビドス学区に砂漠と市街地以外何も無いと評するべきな気がするが、言わないでおこう。

 

「ホシノ先輩、ここに来たことあるの?」

「いんやー、私も初めてだねー。でも他の学区には、へんちくりんなものが沢山あるんだってさー。ちょーデカい水族館もあるんだって。アクアリウムっていうの!」

「へえ、もしかしてホシノちゃんって水族館好きなの?」

「うへっ。へ、へへ……そうなんだよね。リーリァちゃんも行ってみたら分かると思うよ〜」

 

 水族館……というのは知識としてしか知らないが、とにかくホシノが水族館が好きというのはよく分かった。明らかに話している時のテンションが違ったからだ。年相応というか、むしろ少し幼い子供くらいの無邪気な感じ。

 リーリァも、水族館に興味がないかといえばそんなことはなく。元々帝国は内陸国だし、そこを中心に活動していた影響であまり海というものに馴染みがないのだ。13歳の時に、とある仕事で海のある国へ行ったには行ったが、あそこでも割とすぐ問題が起きて、のんびり観光とは中々いかなかったし。

 

「折角だしみんなで行くとかは?」

「へえ、リーリァ先生にしては良いこと言うじゃん!」

「普段は言わないって言ってる?セリカ?」

「ん、先生は素直じゃない」

「ま、おじさんもそこは賛成だね」

「ちょっと〜?」

 

 と、喋ってるところでアヤネから通信が入る。……そう、今回アヤネはブラックマーケットに来ていない。アビドスでお留守番である。

 

『皆さん、油断しないでください。そこは違法な武器や兵器が取引される場所です。何が起こるか分からないんですよ。何かあったら私が……』

 

 と、真面目なアヤネから釘が刺されている時、早速トラブルが。

 銃声が近くで聞こえる。それも多分、一方的な攻撃。

 

「待てー!」

「う、うわああ!まずっ、まずいですー!!ついてこないでくださいー!!」

「そうはいくか!」

 

 3人のチンピラが、誰かを追いかけている。しかも、こっちに向かって走ってきている。しかもあの制服、似た制服を見た記憶がある。何処で見たんだったか。

 

『あれ、あの制服は……』

 

 アヤネがポツリと呟く。どうやらアヤネも知っているようだけれど。

 

「わわわっ、そこどいてくださいー!!」

 

 ぼんやりと見ているシロコに突っ込みそうになっていたので、シロコを引っ張り、走ってきた生徒を受け止める。

 

「あっ、ご、ごめんなさい!」

「私はへーき。それより……」

 

 ちらりとアビドスの面々を見る。言わなくても分かるだろう、全員こっそり武器を構える。

 

「なんだお前らは。どけ!あたしたちはそこのトリニティの生徒に用があるんだよ!」

 

 トリニティ……なるほど。スズミやハスミと同じ学校か。何処かで見たな〜と思ったのは、スズミの制服と似ていたからだ。

 

「で?用があるって割には物騒じゃない?」

「キヴォトスで一番の金持ちの学校だからな!だから拉致って身代金をたんまり頂こうってわけさ!」

「拉致って交渉!中々の財テクだろ?くくくっ」

 

 なるほど。いやまあ、そんなことが上手く行くわけないというのは大前提だけど。だとしても、これは……

 小さく、合図。

 

「ぐえっ」

「がっ」

「ぎゃー!」

 

 シロコの蹴りが顔面に炸裂し、ノノミのミニガンの銃身が横殴りに腹を捉え、ホシノの格納している盾が頭に叩きつけられる。

 瞬殺である。いや、殺してはないけれど。

 

「悪人は懲らしめないとです☆」

「うん」

「あ……えっ?えっ?」

 

 助けてくれるとは思わなかったのか、あっという間に制圧したからか。彼女は困惑した様子だった。

 

 少し時間をおいて。簡単に自己紹介だけ済ませて。

 

「あ、ありがとうございました。みなさんがいなかったら、学園に迷惑をかけちゃうところでした……。それに、こっそり抜け出してきたので、何か問題を起こしたら……あうう……想像しただけでも……」

 

 トリニティ総合学園。3大学園の1つに数えられるマンモス校。そこの生徒がブラックマーケットなんぞに入り、拉致なんかされればまあ問題になることは想像に難くない。

 なので、この話の問題はそこではなく。

 

「えっとー、ヒフミちゃんだっけ?それにしても、トリニティのお嬢様が何でこんな危ない場所に来たの?」

 

 その点である。トリニティの生徒……ヒフミは、何故こんな危険と分かっている場所に来たのかということ。アビドスのみんなみたいに実力があるならいざ知らず、チンピラから逃げてた辺りその点もあまりなのだろう。

 

「あ、あはは……それはですね……実は、探し物がありまして……もう販売されていないので買うこともできない物なのですが、ブラックマーケットっでは密かに取引されているみたいで……」

 

 ブラックマーケットでの探し物。ということはまず間違いなく違法なものだろう。まさか私達みたいになんかの証拠探し……ということないだろうし。

 

「もしかして……戦車?」

「もしくは違法な火器?」

「化学兵器とかですか?」

 

 まあ、その辺りではないかとーー化学兵器は知らないので後で調べておきますかねーー思う訳なんだけれども。しかしなんというか、そういったものを買いに来たという雰囲気でもない。

 

「えっ!?いいえ……えっとですね、ペロロ様の限定グッズなんです」

「え?」

「ペロロ?」

「限定グッズ?」

 

 おっと、予想外というかなんというか。なんだそれ。

 

「はい!これです。ペロロ様とアイス屋さんがコラボした、限定のぬいぐるみ!」

 

 少々早口になりながらも、ヒフミはそのぬいぐるみを見せる。白目を剥いてる、舌が飛び出した鳥のような1頭身の動物が、口にアイスをぶち込まれてるような姿のぬいぐるみ。

 ……ヒフミが持ってるカバンも、同じ鳥?のデザインだと今更ながら気がつく。

 これは、あれか。ブサイクっぷりが逆に可愛くて、一部の層に刺さるやつとかそういうやつだ。帝国にもあったよ、そういう小規模の謎の流行り。

 

「限定生産で100体しか作られてないグッズなんですよ!ね?可愛いでしょう?」

 

 興奮気味のまま語る。のだが、可愛いでしょう?と同意を求められても困る。独特な味があるのは分かるのだけれど、アイスを口にぶち込まれて悶絶してるナニカを可愛いかと聞かれたら、大分上級者向けの質問だね、としか思わない。

 しかし、意外にもそこに肯定的な返答をする者が1名。

 

「わあ☆モモフレンズですね!私も大好きです!ペロロちゃん可愛いですよね!私はミスター・ニコライが好きなんです!」

「分かります!ニコライさんも哲学的な所が格好良くって!最近出たニコライさんの本『善悪の彼方』も買いましたよ!それも初版で!」

 

 それ、ニコライじゃなくて製作者が書いた本だよね?と言ったら首をねじ切られそうな気がする。そんな熱量を感じる。

 

「……いやぁー、何の話だか、おじさんにはさっぱりだよ」

「ホシノ先輩はこういうファンシー系にまったく興味ないでしょ」

「ふむ、最近の若いやつにはついていけん」

「歳の差ほぼないじゃん……」

 

 まあ、歳の差関係なくモモフレンズとやらにハマっているのはノノミだけのようで。2人だけの世界が出来そうな熱量とは真逆に、だいぶ冷めた雰囲気で待っていた。

 

「……というわけで、グッズを買いに来たのですが、先程の人達に絡まれて……。皆さんがいなかったら今頃どうなっていたことやら」

 

 まあ、なんというか。リスクを背負ってまでそのぬいぐるみを買いに来る行動力だけは、勇者(ブレイブ)向きかもしれない。

 

「それにしても、よく来たね?ここが危険ってこと、知らないってことはないでしょ?」

「当然です。連邦生徒会の手が及ばない場所の1つですから。ブラックマーケットだけでも学園数個分の規模に匹敵しますし、様々な『企業』が、この場所で違法な事柄を巡って利権争いをしていると聞きました。それに、ここ専用の金融機関や治安機関があるほどですから……」

 

 ………ん?随分詳しい気がする。たった一度、ぬいぐるみを買うためだけにここまで詳細に調べるものだろうか。

 

「銀行や警察があるってこと……!?それってもちろん認可されてない違法な団体だよね!?」

「はい、そうです……」

「スケールが桁違いですね……」

 

 銀行や警察があるほどの規模。やはり、もはやここだけで街として機能しているとかそういう話なのだろう。

 いや、銀行や警察……?銀行……?

 取引されていた兵器から情報を辿っていこうと思っていたが、それは思わぬ収穫かもしれない。

 

「待って、銀行があるの?」

「はい、そうです。例えばあそこのビル、あれはブラックマーケットのなかでも一際有名な闇銀行なんです」

「闇銀行……」

 

 なんというか、隠す気を微塵も感じられないド直球なネーミングである。

 逆に言えば、隠す必要もないくらいの力がある、とも取れるが。変に隠れられるよりも厄介だろう。

 

「聞いた話ですと、キヴォトスでの犯罪に関わる金融資産の15%近くがあそこに流されているそうです。横領強盗誘拐など、さまざまな犯罪によって獲得されたお金が、武器や兵器に換えられて他の犯罪に使われる。そんな悪循環が続いているんです」

 

 ちらりとホシノの顔を見てみると、視線が合う。

 

「リーリァちゃん、これ……」

「当たりかもね」

 

 カイザーローンがここと取引し、それらの金を襲撃の資金として提供している。可能性としては十分あり得る。ここで行っているのならば連邦生徒会からの手は入らないし、証拠もしっかり流出しないように配慮してくれるだろう。

 ……しかし、これまた証拠はない。もう少し調べたほうがいいかもしれない。

 

「……あれは、マーケットガード!」

 

 闇銀行という名の闇銀行を見ていたヒフミが、別の何かを見つけて驚いた。

 視線を追ってみると、現金輸送車とそれを護衛してると思わしき集団。

 

「マーケットガード?」

「ここの治安機関でも最上位の組織です」

 

 ……ん?あの現金輸送車、カイザーローンって書いてあるな。

 

「待って、あれカイザーローンじゃない?」

「えっ?あっ、ほんとだ」

「まさか……」

 

 そこまま動向を伺っていると、現金輸送車は闇銀行の前で止まった。そして、中から1人の男が降りてきて闇銀行の職員だろうか?誰かと少しやり取りをする。

 

「今月の集金です」

「ご苦労さま、早かったな。では、こちらの集金確認書類にサインを」

「はい」

「……いいでしょう」

「では、失礼します」

 

 その行動そのものは、これといっておかしいことではないのだけれども。

 

「あの人……」

「っ!あいつ、うちに来てる銀行員じゃない!」

「大当たり、って所だね……」

 

 単なる予想が、現実に変わった。間違いなくカイザーローンは、闇銀行と繋がっている。それも最悪の形で、だ。

 

「ええっ!?皆さん、カイザーローンと取引しているんですか!?」

「なんか不味いの?」

「あの悪名高いカイザーコーポレーションが運営する、高利金融業者ですよね?カイザーコーポレーション自体は犯罪を起こしてはいませんが、合法と違法のグレーゾーンで上手く振る舞っている多角化企業で……」

 

 その点は事前にある程度調べた通りのようだ。……砂漠に呑まれるだけで先のないアビドスが、頼らざるを得なかった相手だったのだろう。もう、きな臭いとかいうレベルを超えている。

 

「カイザーはトリニティの区域にもかなり進出しているのですが、生徒達への悪影響を考慮し『ティーパーティー』でも目を光らせています」

「あのトリニティの生徒会がね……」

 

 ……なるほど?それは覚えておこうか。

 

「それで、皆さんはカイザーから融資を……?」

「まあ、でっかい借金があってねえ」

「借りたのは私達ではないんですが……」

「話すと長くなるんだよねー。アヤネちゃん、さっき入っていった現金輸送車の走行ルート、調べられる?」

『少々お待ちください……』

 

 あの現金輸送車が、本当にアビドスから受け取った金を流しているのか。その裏取りをすべきだと判断したのだろう。

 

『……ダメですね。すべてのデータをオフラインで管理しているようです。全然ヒットしません』

「だろうねー」

 

 残念ながら、そんな露骨な証拠を残してくれるはずもなく。

 

「まあでも、いつも現金で渡してたんだよね?……完全に足を残さないためでしょ、これ」

「じゃあ何!?私たちはカタカタヘルメット団の襲撃のための資金を提供してたってこと?ふざけないでよ!」

 

 頭に来るのは尤もである。私があの手紙を発見し、アビドスへ来ていなかったら。もうカイザーの手に堕ちていた可能性は十分にありうる。

 ……大人の、悪意。

 

『ま、まだそうハッキリとは……証拠も足りませんし。あの輸送車の動線を把握するまでは……』

「あ!さっきサインしていた集金確認の書類……それを見れば証拠になりませんか?」

 

 ここでまさかのヒフミが良いアイデアを思いついた。どれだけオフラインにしようとも、書類は残るもんだ。

 

「さすが」

「おお、ナイスアイデアだねー、ヒフミちゃん」

 

 しかし、そのナイスなアイデアをヒフミ自身で否定し始める。

 

「あはは……でも考えてみたら書類はもう銀行の中ですし……無理ですね。ブラックマーケットで最も強固なセキュリティを誇る銀行となると……それにあれだけの数のマーケットガードが目を光らせてますし……」

 

 まあ、普通に考えたら無理だろう。いや、そもそもその話もパクってくる前提になってしまっているので余りいい話じゃないけれど、状況が状況だしやるのはしょうがないだろう。

 その上で……そういう汚いことは、先生(おとな)が背負うべきものだろう。幸い例の隠形術もあるし、取ってくるのは可能だろう。

 

「仕方ない、私が取ってこようかな?」

「!?いくら先生でも、それは危ない」

「いやいや、私こう見えても隠れるの超得意だから。だから……」

「それでも万が一があります。仮にマーケットガードに撃たれでもすれば!」

「いや、えっと……」

 

 シロコやノノミに全力で制止される。……まあ、彼女らからすれば私は単なる大人であり、一般人である。これは実演したほうが分かりやすいかと思い、ゆっくりと呼吸を整えて……

 

「リーリァちゃん」

「?」

「これはね……おじさん達が行くべきだよ」

「ん、私達がやるべき」

 

 ……呼吸を普段通りに戻す。何だか嫌な予感がしてきた。

 

「つまり……『あの方法』ってことですか☆」

「いや、確かにリーリァ先生に行ってもらうよりはいいかもしんないけど……!」

「……!」

「う、嘘っ!?本気で!?」

「……あ、あのう。全然話が見えないんですけど……『あの方法』ってなんですか?」

 

 完全に察しているアビドスの面々と私に、当然付いてこれていないヒフミ。

 

「残された方法はたった1つ」

 

 シロコは鞄を降ろし、素早く例のモノを取り出す。青い、目出し帽。スッと取り出し被る。

 

()()()()()

「はいっ!?」

 

 う〜〜〜ん………どうしたものだろう、これは。

 

「リーリァちゃんを危ない目に合わせる訳にはいかないからね〜」

「はいいいい!?」

 

 ちゃっかり目出し帽準備完了のホシノが軽く笑いながら言う。

 

「わあ☆そしたら悪い銀行をやっつけるとしましょう!」

「えええっ!?ちょ、ちょっと待ってください!」

 

 やはりこっちも乗るだろうと思った。ノノミもしっかり準備完了である。

 

「はあ……マジで?マジなんだよね……?それなら……」

 

 ガサゴソ、スチャッ。

 

「とことんまでやるしかないじゃない!!」

「あ、うあ……?あわわ……?」

 

 セリカも、準備完了である。

 いや、うん。これはヒフミの反応の方が正常だろう。しかも先程からヒフミの話を聞く限り、かなりブラックマーケットへの理解度が高い。つまり、マーケットガードの危険性や銀行のセキュリティの高さも正しく理解している。だからこそ、なんか全員ノリノリで襲撃の準備をしているという目の前の現実に混乱していくばかり。

 

「……はぁ、了解です。こうなったら聞く耳持たないでしょうし……どうにかなる、はず……」

 

 最後のブレーキになるはずのアヤネもついに諦める。ついでに私も、これは止めようがないなと諦める。そもそもの発端は私が取りに行くと言い出したことでもあるし。

 

「ごめん、ヒフミ。あなたの分の覆面はない」

「うへー、ってことはバレたら全部トリニティのせいだって言うしかないねー」

「ええっ!?そ、そんな……覆面……何で……えっと、だから……あぅ……」

 

 そしてさり気なくヒフミを巻き込もうとしている。……以前の定例会議の時もそうだったけど、悪ノリすると手を付けられなくなる節があるのかもしれない、この子達は。

 アビドスという狭いコミュニティで過ごしているからこそ、独特な感性が誰も止めることなく育っていった結果かもしれない。それがまだ浸透していない1年組が比較的ツッコミ側に回るのかもしれないが、残念ながらここはツッコミ不在になっている。

 

「それはかわいそうすぎます。とりあえず、これでもどうぞ☆」

 

 かわいそうと言いつつ悪魔の手が伸びてくる。

 

「え、ちょっ、ちょっと待ってくださ……!」

 

 ガボッ。混乱に陥っているヒフミはまともな抵抗もすることが出来ず、覆面……というか紙袋を頭に被せられた。何処で用意したよそんなもん。

 

「あううっ」

 

 心の中で合掌しておく。

 

「見た目はラスボス級じゃない?悪の根源だねー、親分だねー」

 

 1人だけ紙袋なのを揶揄してから、ホシノがからかう。まあ、準備してあったらそれはそれで恐ろしいのだが。

 

「わ、私もご一緒するんですか……?闇銀行の襲撃に……?」

「私達、さっきヒフミちゃんのピンチ助けたよね〜?」

「う、うああ……わ、私、もう生徒会の人達に会わせる顔がありません……」

 

 今にも泣きそうになっているが、もう私は止められない。そして止めようという面子もいない。諦めてね、ヒフミちゃん。南無。

 ……ところで、ヒフミは生徒会の人と顔を合わせるだけのポストにいるのだろうか。いや、案外ティーパーティとやらが気軽に顔を見せてくるタイプの人達かもしれないがーー例えばユウカみたいなーートリニティという学校を調べた感じ、そんな友好的な雰囲気は想像できない。

 もしかして、ティーパーティ傘下の部活にでも入ってるのだろうか?……まあ、そこはまた別の機会に聞いてみればいいか。

 

「問題ないよ!私らは悪くないし!悪いのはあっち!だから襲うの!」

「それじゃあ先生。合図を」

 

 ……う〜ん。もう、この流れを止めることは出来ない。出来ないけど、1つだけ。

 

「セリカちゃん、問題ない……ってことは、ないよ?」

「リーリァ先生!?」

 

 ここで名指しにされたことに驚いている。けれど、さっきのはちょっと言っておかないといけない。

 

「行動には責任が伴うものだから。相手が悪かったとして、私達が今からやろうとしていることが悪くないかと言われたらそんなことはない」

「……いや、でも!」

「だからさ、自分達も悪いことをするという自覚を持って、ちゃんと考えて選ぶ。ただ流されるだけじゃ駄目だよ。これはセリカちゃんだけじゃなくて、皆も一緒」

 

ーー最終的にどういう行動に出るにせよ、自分で選択しての行動と、道徳規範にやらされてるだけの行動は全く別モンだぞ。

 

 普段はくそだらしなくてすぐフラッとどっか行っちゃって、自分の建てた養育院の面倒も見ないような超だめだめ大人の典型例のししょーの、有り難い言葉を思い出す。

 あの時とはだいぶ状況は違うけど……ちゃんと考えて、選ぶ。そこは大切にするべきだと、今なら分かる。得られる行動と結果が同じだとしても、流されるだけと選んだうえでなら、それはきっと違うことだから。

 

「あ、あはは……私はここで……」

 

 さり気なく抜けようとしたヒフミを、ガシッとホシノが掴む。

 

「ヒフミちゃん、トリニティから抜け出してブラックマーケットに来たって言ってなかったっけ?」

「あうう……!」

 

ーー自分の意志で悪いこと、してるよね?

 

 そう言外に語るホシノに、ヒフミは脱走を諦めた。

 

「……そう、かな。うん、リーリァ先生。もう言い訳はしないから」

「ん、私達は極悪人……!」

「シロコちゃん、先生が言いたいのはそういうことじゃないと思います……」

 

 1人だけ目を輝かせてるのは心配だけれど、まあ言いたかったことはだいたい伝わったようで。

 

「さて、始めますか。銀行襲撃!」

 

 

ーーーーー

 

 

 決して人が多いという程ではないが、全くいないわけでもない。例の銀行の中は、通常運転だった。

 しかし、何の脈絡もなく全ての電源が落ちる。

 

「な、何だ!?停電か!?」

 

 職員が何事かと辺りを見回していると、銃声がロビーに響く。無造作に発砲されたそれは辺りを滅茶苦茶にしていく。

 予備電源が中の照明を取り戻すと、そこには倒れているマーケットガードと複数の侵入者がいた。

 

「全員その場に伏せて!持っている武器は捨てて!」

「言うこと聞かないと、痛い目に会いますよ☆」

「あ、あはは……みなさん、ケガしちゃいけないので、伏せてくださいね……」

 

 全員が死角が出来ないようにほぼ均等に距離を取りながらも、しっかりと観察していた。何とか窮地を抜け出そうと、銃を拾おうとしたマーケットガードの1人が手を撃ち抜かれる。

 

「武器は捨ててって聞こえなかった?」

 

 職員も怯えてーーいや、これは演技か?ーー誰も動けなくなっている。

 

「うへ〜、ここまでは計画通り!次のステップに進もうー!リーダーのファウストさん、指示をお願いね」

「えっ、えっ!?ファウストって私ですか!?リーダーですか?私が!?」

 

 ピンクの1番の覆面をつけているやつが、紙袋の5番のメンバーに何か言っている。

 ……いや!何ふざけてるのさホシノちゃん!?

 リーリァは、アロナの力で監視カメラをクラックし映像を盗み見て、それぞれに着けているマイクから音も回収していた。なので丸わかりである。

 

『はいはーい、真面目にね?』

「う、うへへ……」

「あうう、何で私がリーダーに……」

 

 注意されて苦笑いしているホシノと、突然のリーダー指名に項垂れてるヒフミーーそれでも周囲の警戒は怠っていないーーを余所に、次のステップへ進行する。

 

「監視カメラの死角、警備員の動線、銀行内の構造、全て頭に入ってる。無駄な抵抗はしないこと」

 

 シロコが警告を出しながら職員へ近づいていく。……と、同時にリーリァは気がつく。

 あれ?便利屋68のみんながいる?

 監視カメラの端の方、強盗団に狙われないように適当なソファでカバーしているが、見覚えのある顔が4つ。まさかこの銀行から金を借りようとしてる……?

 彼女らの仕事はアビドスの襲撃だが、それは成功させる訳にはいかない。そうなると、借金が溜まることになる。そうさせるわけにはいかないし、これは手を貸さないと駄目だな……と、内心思っておく。

 

 ところで、この時点のリーリァの知る由もないことなのだが、便利屋は既に融資を断られた後であった。

 

「さあ、そこのあなた、このバッグに入れて。少し前に到着した現金輸送車の……」

「わっ、分かりました!何でも差し上げます!現金でも、債権でも、金塊でも、幾らでも持っていってください!!」

「そ、そうじゃなくて……集金記録を……」

「どっ、どうぞ!これでもかと詰めました!どうか命だけは!!」

 

 ブラックマーケットなんかでやってる銀行だからなのか、妙に手慣れた動きでゴソゴソとバッグに詰め込み差し出した。怯えている演技も完璧だ。

 

「あ、えっと……ボス……」

 

 しかしどう見ても、集金記録以外……というか大量の金が詰め込まれたバッグに困惑しながら、シロコはボス、つまりリーリァに連絡を取る。

 

『長居するのは危ないし、とりあえず逃げよう。どうするかは後で考える』

「ん、了解」

『全員撤収!』

「任務かんりょ〜」

「アディオ〜ス☆」

「け、ケガ人はいないようですし……すみませんでした、さよならっ!!」

 

 各々勝手に捨て台詞を吐きながら、そそくさと退散する。すると予想通り、先程まで怯えている演技をしていた職員が怒りを露わにしながら怒声を上げているーーもうマイクはないので見た感じだけどーーようだ。流石に切り替えが早い。

 予め決めていた集合場所へ向かうために、アビドス+ヒフミの位置と、マーケットガードの位置をアロナに教えもらいながら、事前に取り決めしていた逃走経路の候補から安全な経路を教える。

 そして私は、久々にしっかりと魔力(ヴェネノム)を熾し、適当なビルの壁を蹴り屋上まで移動する。リーリァの高い魔力(ヴェネノム)適正と取得している体術を組み合わせれば、そういった重力を無視した動きが出来るようになる。

 まさか、生身の人間がそんな動きをするとは思わないだろうし、こちらから行けば警戒は少ないはずだ。皆も逃走中だから見てないだろうし。

 

『先生!?今、凄い動きをしませんでしたか!?』

 

 ……アヤネにモニタリングされていることをすっかり忘れていた。幸いカメラで見られてるわけではないし、誤魔化しておこう。

 

「え?何?なんか言った!?」

 

 しっかり聞こえてるけど、聞こえないフリをしながら屋根から屋根へと移動していく。なるべく段々と低い位置へと移動できるように経路は選んで進む。流石に高いビルから直截飛び降りるのは少々危険だ。できないこともないけど、それだけの技術と魔力(ヴェネノム)を熾す必要がある。楽できるなら楽したほうがいい。

 

『え、ええっ!?先生、先程から位置情報がおかしなことに……!』

「え?私、普通に移動してるだけなんだけど!?」

 

 大嘘である。汚い大人でごめん……!と心のなかで手を合わせながらも、皆より一足先に合流地点に辿り着く。

 

『……落ち着いたみたいです。この件は、後で調べておきますね』

「……うん」

 

 適当な橋の上、一応周りから見られないようにしゃがみながら、シッテムの橋で改めて位置情報の確認。もう近くに来ているようだ。

 それから程なくして合流する。

 

「おーい!リーリァちゃーん!」

「先生、無事?」

 

 私が先に来ている件に関しては、早めに移動していたと思っているのか特にツッコまれない。

 

「みんな、お疲れ」

『封鎖地点も無事に突破、ここは安全です』

 

 この地点を合流地点に選んだのは、ここまでは封鎖網は敷かれないだろうな、という読みだったが正解だったようだ。

 

「やった!大成功!」

『本当にあの銀行を襲ってしまうなんて……』

「シロコちゃん、集金記録の書類はちゃんと持ってるよね」

「ん、それなんだけど……」

 

 ドサリ、と。明らかに重量のあるバッグをシロコは置いた。カメラ越しに見てもそうだったが、明らかに書類以外が入っている。

 開けて覗いてみれば、まあそこは大量の札束が。

 

「……へ?なんじゃこりゃ!?」

「うええええ!?シロコ先輩、現金盗んじゃったの!?」

 

 逃げるのにいっぱいで、そこまで気がついてなかったのだろう。シロコ以外の面々は明らかに驚いている。

 

「ち、違う……目当ての書類はちゃんとある。このお金は職員が勝手に入れたもの。先生も撤収したほうがいいって言ったし……」

「まあ、これは私が何とかするよ」

 

 アビドスのみんなには悪いけれど、結局1人であそこに潜り込むことになりそうだ。とほほ……と軽く笑う。

 

「う〜ん、でもこれ、1億はありそうだねえ」

 

 ホシノが改めて鞄の中身を見る。あまりこちらの現金、それも大金を見るのは慣れてないのでそこまでの判断はできないけれど、確かに今日返した利息分よりも多そうである。

 ……幾ら取り返す前提でも、咄嗟に1億積めるのはあの銀行員も手慣れたもんだなと、ある意味感心する。

 

「何とかするって何?貰ってきちゃったんだし、持って帰ろうよ!」

 

 ……セリカがニコニコ笑顔で、とんでもないことを言い出した。

 

『ちょ、ちょっと待ってください!そのお金、使うつもりですか!?』

「アヤネちゃん、なんで?少しでも借金返せるじゃん」

『そんなことしたら……本当に犯罪だよ、セリカちゃん!!』

 

 意見の対立が起き始める。これは……少し静観したほうがいいかもしれない。こっそり2歩くらい下がって聞きに徹する。

 

「は、犯罪だから何!?このお金はそもそも、私達が汗水流したお金なんだよ!それが闇銀行に流れてったんだよ!それに、そのままにしておいたら、犯罪者の武器やお金に変えられていたかもしれない!悪人のお金を盗んで、何が……!」

「違うよね。セリカもアヤネも勘違いしてる。そもそも私達は悪いことをしてきたんだよ」

 

 一見話を理解してなかったようにしか見えないシロコが、真面目に説得し始める。

 色々とノリがおかしい部分はあるけれど、根っこのところは凄い真面目なんだろうな……とこっそり感心。

 

「ましてやそれを返済に使ったら、私達も立派な悪人だよ」

「……でも、このお金は悪いことに使われてしまうんですよね。私は、セリカちゃんの意見に賛成です」

「そ、そうよ!私達が悪人になるとしても、元々悪人が使おうとしてたんでしょ!だったら少しでも有意義にしたほうが!」

 

 まさかのノノミがセリカと同じ意見なせいで、どんどんヒートアップし始める。ホシノがシロコと目線が合い、それからチラリと2人とも私を見る。

 

「……どちらにしても、ホシノ先輩は反対するよね」

「うん、私は反対だよ。リーリァちゃん的にはどう?」

 

 多数決……という訳ではないものの、この場いる者ーー本来は部外者のヒフミは除いてーーの意見をしっかり聞いておきたいのだろう。

 

「私は別に、好きにすればいいと思うよ?そもそもアビドスの問題だし」

「うへ〜、ここで他人事にしちゃうんだ?」

「……でも、盗んだ金で返済してさ、それを汗水流して真面目に稼いでた自分に胸を張って言える?悪いことして楽に返しましたってさ。言えちゃうような人なら、私はもう知らないけどね」

 

 結局、今回の強盗を許してしまったのは私の責任だ。だからそれ自体を責めるつもりはない。けれど、相手が悪人なら悪いことをしても許される、なんて考え方をまかり通す訳にはいかない。

 ……それを許してしまえば、歪んだ正義が生まれるだけだ。正義ほど、厄介なモノはない。

 

「あと、アヤネちゃん。理由はどうあれ強盗した時点で犯罪だからね?」

『は、はい……そうですよね……』

 

 "本当に犯罪"、なんてまるでまだ犯罪をしてないかのような口ぶりも気になったので、軽く言っておく。

 

「うへ〜、じゃあおじさん達はみんな犯罪者だね〜」

「まあ、そこは私が許可したし。その責任は私が持つよ」

「………」

 

 ホシノが不満そうな顔を、一瞬だけした。別に変なことを言ったつもりはないけれど。それとも少し突き放すような言い方をしたのが気に入らなかったのだろうか。

 

「で?セリカにノノミ、2人はそれでいいの?」

「……嫌だ!私は、ちゃんと胸を張れるアビドスでいたい!」

「そうですよね。そもそも手段を選ばないから、私のゴールドカードを使っても良かったですし……」

 

 ゴールドカード。やっぱりノノミの実家は金持ち、なのかな?また今度そこは確認しておこう。

 

「ま、そういうことだね。今回の件は()()()()が責任を持つって言ってるし、このお金は任せちゃおう。それでいいよね?」

「ということで、これは一旦預かっておくね」

 

 必要な書類だけホシノに渡して、残りの金だけ入った鞄を閉める。それを持ち上げようとして、気配。……誰かが近づいてくる?でも1人だけ?

 

『……!!待ってください!何者かがそちらに接近しています!』

 

 アヤネも気が付き、警告する。やはり気の所為というわけでもなさそうだけど、一体誰が?マーケットガードが単独で接近してくるとも考えられないし、他に誰かから恨みを買ったりとかもない。

 

「まさか、マーケットガード!?……でも、静かすぎる?」

『はい、どうやら敵意もなさそうですが……え?』

 

 多分、アヤネが周囲のカメラからその人物が誰かを特定したのだろう。困惑がマイク越しに伝わってくる。

 

『べ、便利屋のアルさん!?』

「うそ、追いかけてきた!?」

「どういうこと?」

「あ、いやさっきの銀行の中にいたんだよ、便利屋……」

 

 マーケットガードによる警戒網が敷かれている中で、追っかけてきたというのか。胆力があるというのかなんなのか。

 銀行の中にいた、という事実に気がついていた人はいないらしく、そもそも面識のないヒフミ以外は目をパチクリさせていた。

 

「はあ、ふう……ま、待って!!」

 

 言ってる間にも、アルの声が聞こえてくる。ササッと全員が覆面を被り、身振りだけでリーリァに隠れるように伝えるが、それは拒否。強盗に関与したことを言いふらされたら困るには困るが、それが責任というものだろう。

 ずっと走っていたのだろうか、姿を現したアルは完全に肩で息をし、膝に手を置いていた。

 一応警戒して全員武器を軽く構えるが、

 

「あ、落ち着いて、私は、敵じゃ……」

「やっほ〜」

「先生!?」

 

 よほど追いかけてくるのに夢中だったのか、ここで初めて目が合った。驚愕のあまり、完全に静止している。

 それから数秒、意識を取り戻したのか驚愕はそのままに喋りだした。

 

「ま、まさか先生がさっきの強盗の指揮を……!?」

「そうだと言ったら?」

 

 まあ、作戦の立案はシロコだったけど。一応指揮していたといえばしていたし、仮にそうでなくても私が指揮したということにしておきたい。どうあがいても悪いのは私なのだから。

 ……しかし、アルの表情はむしろ輝きだした。

 

「銀行の襲撃、見せてもらったわ!あのブラックマーケットの銀行をものの5分で攻略して見事に撤収……先生の指揮もさながら、みんな素晴らしいアウトローっぷりだったわ!」

 

 なんて?

 予想外もいいところの反応に、チラリと他のメンバーを見るとやっぱりよく分かってない様子。でもシロコだけは何かを感じ取ってるような気がする。

 

「正直、凄く衝撃的だったというか、このご時世にあんな大胆なことができるなんて……そう、感動的というか」

 

 そうだろうか。ご時世という意味ならあちらこちらでテロが起きていても納得するくらいキヴォトスは色々と酷い気がするけど。いやまさかそこまで酷いことはないと思うけど。ないよね?

 

「それに先生も、表は先生、裏は強盗団のボス……!最高にハードボイルドよね!」

 

 わーお、凄い勘違いされてる。普段から裏稼業としてそういうことしてるとか、そういう認知されているなこれ。

 誰かこの勘違い娘を引き取ってくれないかと辺りを探してみると、予想通り少し遠くに他の便利屋のメンバーが。目が合ったムツキが、おーいと手を振っている。こっちに社長いらっしゃいますよ。

 

「わ、私も頑張るわ!法律や規律に縛られない、本当の意味での自由な魂!そんなアウトローになりたいから!……だから、名前を教えて!!」

「名前……!?」

 

 まさかの要求にシロコが変な声で聞き返した。というか今更だけど、この様子、もしかしなくてもアビドスだって気がついてない?関わりのないブラックマーケットの面子ならともかく、アルは知り合いなんだし気がつけそうなものだけどな……

 

「その、組織っていうか、チーム名とかあるでしょ?正式な名称じゃなくていいから……私が今日の勇姿を心に刻んでおけるように!!」

 

 いやまあ、完全に即席の強盗団だし、当然ながらそんなものはない。ないったらない。百歩譲ってあったとして、名乗る理由もない。

 と、思っていたらノノミから耳打ちされる。

 

「ここは私に任せてください、ボス」

「え?」

 

 ……ノノミさん?今日までの()()のお陰で全く信用できないんだけど?

 

「……はいっ!おっしゃることはよーく分かりましたっ!」

「ちょっと?」

「私達は、人呼んで……覆面水着団!」

 

 ししょー、今日から私は覆面水着団のボスになりました。真界再想聖歌隊(トゥルーワールド)のボスと、どっちの方が字面的にマシなんでしょうか。

 頭の痛くなる組織名のリーダーという、物凄く残念なししょーとの共通点が生まれてしまった事実に頭を抱えそうになる。今は耐えろ、リーリァ・アスプレイ!1人の時間でいっぱい抱えて喚いていいから!

 

「……覆面水着団!?」

 

 あー、ほら。いくらアルでもこれは……

 

「や、ヤバい……!!超クール!!カッコ良すぎるわ!!」

 

 あー、ししょー側だったかあ。

 思ってることを顔に出さないようにするだけで必死の私を知ってか知らずか、案の定誰かさんが悪ノリに乗っかっていく。

 

「うへ〜本来はスクール水着に覆面が正装なんだけどね、ちょっと緊急だったもんで、今日は覆面だけなんだー」

「そうなんです!普段はアイドルとして活動してて、夜になると悪人を倒す正義の怪盗に変身するんです!そして私は……」

 

 ガシッと、悪ふざけが大好きな先輩方の肩を掴む。この2人が口を開けば開くほど、変な設定が増えていくばかりなのは嫌ほど理解させられた。頭がおかしくなりそう。

 のんびり眺めているムツキ達に視線でヘルプを出すと、ムツキは楽しそうに笑い、カヨコが大きく溜息。少しだけ歩く速度が上がった気がする。

 

「まあ、待ちなって。あまり口が達者なのも、良くないからね」

「っ!?か、カッコいい……!」

 

 何が?

 

「それじゃあ、私達はこれで失礼するよ。……アル、くれぐれも内密にね?」

「ええ、絶対に秘密にするわ!せんせ……いえ、ボス!頑張ってね!」

 

 未だ興奮してるアルを置いて、スタスタと歩き始める。

 

「アディオス〜☆」

「行こう!夕日に向かって!」

「夕日、まだですけど……」

 

 最後の最後まで悪ノリし続ける2人と、終始置いてけぼりだったヒフミのツッコミ。その言葉を最後に退散した。

 

「ふふ……私もボスに負けないハードボイルドになるわ!」

「……先生もよく付き合ったね、アレ」

「くふふ、お人好しだよねえ」

 

 

ーーーーー

 

 

 これはまた後日の話。

 某闇銀行内で、突如1億円も入っているバッグが置かれていたという。いや、妙な話なのだが、それを置いた人物の姿を誰も見ていないし、監視カメラにも映ってなかったのだ。

 調べみると、少し前にとある銀行強盗に奪われた金だったそうだが、まさか返しにくることはないだろうし、第三者が取り返したという可能性はあるがどちらにせよ調べないといけない。

 ……まあ、返しにきたというのが正解だとは誰も思わないだろう。

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