北の艦隊興隆記   作:あおみかん

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提督の過去の話です。なお飛ばして第一章からでも支障はありません。

※独自要素あり


第0章 記憶のカケラ
空白の記録


 

 まだ十歳の誕生日を迎えてから一ヶ月の時に、俺の家族は死んだ。最初は何が起きたのかわからなかった。家にいたら突然サイレンが鳴ったのだ。学校から帰って遊ぼうとしていた中だったからわけもわからぬまま父親に連れられるしかなかった。俺たち一家はそうして何かから逃げようとした。

 

 でも遅かった。

 

 奴らの無慈悲な爆弾は、隣の家を挟んだところにある親友の家へと落ちた。いくら障害物があったとしても爆弾だ。瓦礫とともに爆風がやってくる。両親は俺らを守ろうと上に被さった。だから死んだ。吹き飛ばされ、朧げな意識のまま顔を上げた時の光景は強烈なものだった。燃える生家と鮮明な血が流れでる事切れた二つのモノ。呆然と立ち尽くすしかなかった。今思ってみれば、その間に瓦礫に押し潰されなかったのも、炎に巻かれなかったのも運が良かったのだろうと思う。しかしあの時点では棒立ちの危険性を考えることすらもできなかった。生きる気力というものが存在しなかった。

 

 妹はもう行方もわからない。放心状態で俺が煌々と燃え続ける街を、手も繋がないでうろついてしまったからだ。悲鳴に溢れたあの街から逃げようとして階段を上り続けて、静かな神社にたどり着いた時にはすでに隣にはいなかった。いつも心には深い後悔という鋭利な槍が刺さっている。まだ小学生になったばかりの彼女を放置してしまったことへの、生き残ったという事実から目を背けようとしてしまったことへの悔恨は今に至るまで一度も無くなることはなかった。

 

 そんな絶望の淵に立っていたときに軍と出会った。横須賀に住んでいたから軍人に会ったとき、海軍の人間なんだと思った。でも彼は陸軍の大尉だった。服装が違った。

 

「そこの君、死んだ目をしているね。奪い返す側の人間になってみないかい?」

 

 初めてこの言葉を耳にした時、こいつは何を言っているんだと思った。小学四年生に哲学的な言葉など分かるわけがないからだ。普段なら不審者だと思ってすぐにでも逃げていただろう。だが、あの瞬間だけは違った。心の奥底に憎しみという感情が渦巻いていたからかもしれない。憎悪で埋め尽くされた体はその意味もわからない言葉を魅力的に見せた。

 

 彼はこの街を襲った敵が深海棲艦だということを、それに対抗する手段を作るための生物実験を呉で行っているということを、そしてその実験体を探しているということを教えてくれた。迷わず俺はついて行った。俺から全てを奪った奴らからナニカを奪い取るために。

 

 “防人”

 

 対深海棲艦に対する反撃の策として「地上の艦娘」を目指して作られた人工兵器。人間そのものを改造して兵器として転用するというもので、陸軍と海軍の共同で開発したとされている。“防人”になるには命に関わる複雑な手術が不可欠だったらしい。詳しいことは知らないが、その危険度は、実用化から数年後、多数の犠牲者やコストの問題から実施が禁じられたことからも明白なのだろう。

 俺が大尉に連れられて呉の研究所に来たときはこの技術の実用化がまだ認められていなかった時期だった。それにも関わらず一人だけ、成功している者がいたために研究所内の雰囲気はまだまだ活気に満ちていた。

 

「まずは適合検査を受けてからだね。君、何歳?」

 

 研究員であろう白衣を着た男が話しかけてくる。十歳であることを俺は伝えた。

 

「ふむ……。適正年齢よりは少し若いが成功した子供とは同じ年齢だな。」

 

 彼が顎に手を当てて物思いにふけるのを、ただ見つめるできなかった。自身を構成していたものの全てが火の中に呑まれてなくなったのだ。あの時点の俺は虚な目をしていたはずだ。

 そうして白い壁と床の淡白な部屋に連れて行かれた。そこからの記憶は薄い。ただ、検査の結果だけは覚えていた。

 

「うーむ、全体的に規定値を満たせてないね。若くて発達段階なせいでまだ筋肉があまりついていなさすぎる。これだと施術をしたとしても成功率は二割といったところかな。」

 

 その言葉を聞いた時、ただただ悔しかった。家族の仇を、友人の仇を取れると思ってきたはずなのに幼稚で筋肉がないからで弾かれてしまったのだ。無念以外の感情はない。

 

「筋肉を増やせばいいんですか。」

 

 俺の口は考えるよりも前に開いていた。研究員は苦笑いで答える。

 

「端的にいえばそうだけど……。多分そこまで意味はないよ。君の場合まず全体的に細い。現時点でその体型で成功した実例はないんだ。まぁ今から陸軍で鍛えて成長してからくるとかなら話は変わるかもね。」

 

 彼の言葉に活路を見出したのを俺は今でも覚えている。その日のうちに大尉に「陸軍に入りたい」と俺は申し出た。

 

「正気か? 命は大事にしろ。養子に出た方が幸せに生きれるかもしれんぞ。」

 

 彼の言葉は良心からのものだったのだろうが、俺には届かなかった。大尉と一度別れ、焦げた故郷に戻ってからは戦災孤児として里子に出される前に横須賀に駐屯していた陸軍に駆け込んだ。あの時点では小学四年だったこともあり跳ね返されそうになったのが記憶として残っている。だが、狂気とも言える泥臭い説得と偶然居合わせたという大尉からの背景説明によって事務員の人に陸軍幼年学校というものの存在を教えてもらった。そしてその熱意を間近で見て大尉は根負けしたのか、養子として俺を取り陸軍に入ることを事実的に承諾した。

 

「まずは小学校の学業を修了しろ。そうしたら試験を受ける資格がもらえるようになる。」

 

 そうして俺は大尉のお世話になった。佐官一歩手前であった身のためか官舎の部屋の大きさは大きかった。地位の割に独身であることに彼はコンプレックスを抱いていたようでたびたび「この部屋は広すぎる。独身の人間への当て付けか」と文句をこぼしていた。

 

「そういえば名前を聞いていなかったな? 自分の名は近藤一誠だ。」

 

 彼の紹介に俺も返した。下の名前に少し珍しがっていたが、その先への進展はなかった。

 そこからの日々は淡々としていた。毎日三食食べて、昼は学校へ行き、勉強を終わらせたら頑健な体づくり。それしかやらなかった。時々空襲警報が鳴るたびにあの日の記憶がフラッシュバックしたが、その点を除けば快適な暮らしを送っていたと思っている。

 

「お前、本当にその道に進むんだな。」

 

 十四になった春の時の大尉の言葉だった。迷わず陸軍幼年学校を志望した俺へかけた最後の心配だった。普通の中学に行っても面白いものなど何もないと思っていた俺に選択の迷いはなかった。学科試験や身体検査など、倍率が高いこともあってある程度は難しかったが、ここに入るために日々を費やしてきた俺にとって合格は必然的なものだった。

 入ってからは通常の授業に加えて、軍隊の規律や生活を学んだ。そこで三年の月日が流れた。その間に親代わりになっていた大尉は佐官に昇進していた。あの時は海軍が反抗作戦を行なったおかげで深海棲艦の勢力が著しく衰えていた。だから伸び伸びと学んでいた平和な時期だった。

 そうして成績上位で陸軍士官学校に入学した。中学校を卒業後試験を受けて入ってくるある意味では一般生徒が混じるようになった。時々内部進学組との対立が見られたが、俺にはあまり関係のない話だった。ただ、戦況が悪化していたのか忌々しい空襲警報がまた鳴るようになった。海軍は何しているのだと不満が学内に流れることがあったが、その全てを教官に一蹴されたのが印象に残っている。

 いよいよ今年で卒業となった年、戦力を磨耗してしまった海軍に代わって陸軍主導の作戦が開始された。突然、戦争ということが身近になっていった。先に卒業した先輩に死傷者が出ているという報が流れ始め、心なしか皆笑わなくなっていったのを覚えている。見知っている教官も一部は引き抜かれた。

 激戦の時期だったときに俺らは卒業した。本来ならば見習士官として一年勤めてから少尉になれるのだが、俺は努力の甲斐もあって成績優良ということで半年ほどの横須賀勤務で少尉に任官された。だが、それは指揮官として実戦に出るということでもある。心躍る気分だった。奴らにやっと復讐できる。その一心だった。その頃には近藤さんとは少し疎遠な関係になっていた。部屋も別々であったし当たり前だ。

 

「君は本日付で対深海棲艦部隊「碧」に配属となる。私が上司の勝坂だ。中佐をしている。よろしく頼む。」

 

 少尉に任命されてから二日後の秋口のことだった。まだ仕事がないことに疑念を抱きながら訓練に参加していたところを呼ばれた。海岸では砲撃の音が鳴り止まない中、戦地へ足を運んでいないことが何よりも苦痛だったため、少しだけ期待を持っていた。

 

「君は勤勉で優秀だそうじゃないか。近藤からの推薦で今回君を抜擢にしたんだ。彼にはお礼を言っておきなさい。」

 

 部屋も別々となり、赤の他人と言っても差し支えない俺を近藤さんがいまだ気にかけてくれていることは少し嬉しかった。そうはいってもあの時点では戦時中だ。気の緩みなどは一切なかった。

 

「さて、すぐに話に戻ろう。」

 

 勝坂はそう言ってカーテンを閉じてドアに鍵をかける。俺は緊張して口を真一文字に結ぶことしかできなかった。そうして徐ろに彼は口を開けた。

 

「今回設立された対深海棲艦部隊「碧」は、現在敵対している深海棲艦を撃滅することを目的とした部隊だ。呉の研究所で海軍の連中と共同開発して作成した試製の特殊弾薬を携帯した一般兵卒と数は少ないが強力な戦力である“防人”で構成されている。」

 

 “防人”という言葉に俺は少し目を細めた。俺自身がなることができなかったものであり、陸軍に入るきっかけの半分でもある。少なくとも思うところはあった。

 

「防人を一人含んだ四人で一つの分隊だ。残念ながら部隊と言っておきながら小隊は恐らく二つしか組めないぐらい人数が少ない。少数精鋭になるだろうな。」

 

 俺は黙って聞いていた。さほど足枷になるようなものではないとたかを括っていたのもあった。だが、それ以上に深海棲艦への殺意の方が勝っていたのが大きかった。

 

「第二砲撃場に君の所属する第三分隊がいるだろうから会ってこい。合流したのを無線室で確認したら作戦を開始する。君は初の実戦だろうから頑張ってくれたまえ。」

 

 唐突な実戦配備だった。しかしそれが何よりも俺自身が喜んだ瞬間でもある。十年間待ち続けてきたことをやっと実行できるのは、歓喜以外の何者でもなかった。顔に出さないようにしていても口角が少し上がってしまう。

 そうして横須賀の少し小高い山の上に配置されている砲撃場へと俺は向かった。道中、海岸から引き上げてきたのであろう負傷者や避難者と出会ったが既に駐屯地の医療テントで見慣れた光景だ。気にも留めなかった。

 そこで初めて“防人”と呼ばれる人間と出会った。

 

「明石瑞奈で〜す。よろしくね。」

 

 軽い挨拶と共に現れたのは女性だった。見た感じ十八という成人にも満たない少女が、陸軍の深海棲艦に対する有効戦力だと事実に俺は絶句した。軍服を緩く着て、軍人とは思えない身なりをしている人間に俺は嫌悪感というものを感じた。

 

「貴方が私の上官?」

「……あぁ。」

 

 態度に苛立ちを感じながらも手は出なかった。男としての感情もあったが、防人がどのような力を秘めているかを十分に理解していたからの方が理由として大きかった。常人の十倍の怪力、肉体強度。これだけでも恐ろしいが何より不老なのがその能力の異常性を示していた。

 

「あっ、あと私一応少尉なんだ〜。だから一応階級同じだし仲良くしようね?」

 

 明石が友好の握手を求める。指揮官は俺だという言葉を飲み込みながら、軽く手を握り返した。

 

「自分も参加してよろしいか。」

 

 すると今度は堅苦しそうな雰囲気を醸す青年がやってきた。きっちりと着込んでいる軍服に俺は機嫌が少しだけ良くなった。わずかに威厳を持った声音で俺も返答する。

 

「問題ない。」

「自分は宮本、上等兵です。」

 

 若い見た目の割に経験豊富なことに俺は驚いた。生身の人間による深海棲艦との戦いは消耗が激しく、人材が不足しがちなのだ。そんな中でも生き残っているのはあの時においてはやはり実力がある証拠だった。

 

「あぁ、よろしく。俺は**だ。少尉をしている。と言っても二日前からだがな。」

 

 ジョークを言ったつもりだったが雰囲気が少し凍りついたのを覚えている。新人であることを暴露した影響は大きかった。指揮官である以上文句を口に出すことはできないのだろうが宮本の目が不信に染まったのは印象に強かった。そんな最中に、一人の小柄な青年がやってきた。

 

「えぇっと。皆さんが第三分隊であっていますか……?」

 

 気弱そうな身なりだった。俺が頷くと例に漏れず、自己紹介を始めた。

 

「日比谷です。まだ徴兵されたばかりですがよろしくお願いします……。」

 

 新手の新人に明石と宮本は苦悩を抱えていたようだった。少しだけだが顔がピクピク動いている。深海棲艦に相対する最前線の分隊の人間に二人も新人が起用されていることに生命の危険を感じているのだ。もちろん俺も危機感を抱いていた。

 

「……まぁこれで全員揃ったんだよね。」

「そうだな。」

 

 明石の言葉を受けて俺は無線機を繋いだ。待機していたのであろう勝坂が応答する。

 

『全く、待ちくたびれたぞ。これから作戦概要を説明する。現在横須賀南東の海岸で人形の深海勢が暴れ回っている。その駆除を行ってくれ。わかってると思うがこの地域の制海権は奴らにある。くれぐれも近海にいる艦隊からの艦砲射撃を受けるなよ。座標は*****だ。』

 

 指示された内容は単純だった。無線を切ってその言葉をそっくりそのまま分隊の三人へと伝える。

 

「そうなるとまずは敵の戦力を知る必要がありそうね。物によっては応援が必要になるだろうし。」

「それには自分も共感だ。奴らは火力だけは高いからな。慎重にことを進める必要がある。」

 

 明石と宮本の言葉に俺も納得していた。明石に関しては少し悪い印象はあったが戦闘面に関しては信用が置けると感じた。戦場では情報が命取りになる。戦力、地形、位置など多様な情報を操ることができる人間が生き残るのだ。

 

「それなら、山を下った場所から双眼鏡で戦力と位置を確認する。目に自信がある奴はいるか?」

 

 俺は確認を取ったが誰からも反応はなかった。

 

「なら、俺がやろう。」

 

 そうして、下山し市街の方へと出た。街といっても、度重なる艦砲射撃という名の虐殺によって閑散とした廃墟の多い地域となっていた。大体の市民は皆内陸の方へと身を寄せている。沿岸部に向かうものは自殺願望があるものか軍人だけだ。

 

「そろそろか。」

 

 俺は地図を確認しながら目的地へと辿り着いた。まだ戦闘が起きてから時が浅いのか硝煙の匂いとくすぶっている火の音が辺りを漂っていた。そうして、それと同時に鳴り響く数多の悲鳴と共に凄まじい砲撃音が辺りに鳴り響く。

 

「っ……。伏せるぞ。」

 

 分隊全員に指示を出す。匍匐前進をしながら敵の様子を双眼鏡で確かめた。血に染まる浜が見えるが、俺は冷静に状況判断を行った。

 

「目標は戦艦か……。海の方には別の艦隊が見えるな。少なくとも四人では不利だ。」

 

 双眼鏡を顔から離して報告すると山の方から砲声が聞こえた。

 

「火力支援が三発きます。その三発目の時に仕掛けましょう。私が側面から叩きます。そうして一撃で仕留めて一目散に退却すれば勝算はあるかと。」

 

 明石が禍々しい雰囲気を持つ武器を取り出す。折りたたまれていた物体はみるみると大剣のような鈍器になっていった。中心に少し空洞の線が入っている。

 

「海軍協力のもとに作られた陸軍特製の武器です。どんな相手でもイチコロですよ?」

 

 ウィンクしながら言う明石に俺はため息をついた。

 そうして、二回目の砲声音とともに敵を殲滅するための即興のブリーフィングが四人の間で始まった。淡々と動きを組み立てていく。

 

「とどめは明石の出番だろう。奴らは砲塔の旋回速度が遅い。陸の上なら体を動かそうにもでかい艤装が行動を阻害するはずだ。そこを叩いてもらう。イチコロなんだろう?」

 

 宮本の提案に俺も頷く。防人とは深海棲艦を殺すためだけに作られた兵器だ。利用する手以外はない。明石もやる気満々の様子で「任せなさい」とだけ言った。同時に砲撃陣地からの三射目を行うという旨の無線が入る。それに伴い俺は最終的な情報を整理した。

 

「明石は最後の締め、俺ら三人は陽動だ。浜から市街地へと上手く引き込む。そこからは廃墟をうまく活用して敵を撹乱だ。敵の艦首方向には気を付けろ。主砲と目があったら死だ。行くぞ。」

 

 俺の掛け声に合わせて他の三人が呼応する。

 

「了解!!」

 

 無線が途切れて間もなく、三発目の砲声とともに俺らは速やかに作戦行動を開始した。

 

 

 

 

 

 

「今回の作戦、よくやってくれた。」

 

 戦闘が終わってから、俺ら第三分隊は勝坂中佐の執務室にいた。

 

「君たちだけだよ、戦果がでているのは。他の分隊は全滅したか駆逐艦をはじめとする補助艦艇の撃破しかなせていない。上から少しだけ文句が飛んでいるが君らのおかげで黙らせることができた。」

 

 ため息をつきながら勝坂はそう言い放った。そうすると日比谷が発言権をもらうためなのか手を上げる。勝坂はそれを躊躇いもなく許可した。

 

「他の分隊が全滅したと言うのは本当なのでしょうか?」

 

 声が少しだけ震えながらも目は真っ直ぐと勝坂のことを捉えていた。

 

「もちろん、本当だ。君たち第三分隊が派遣された横須賀南西部の海岸も激戦区域ではあるが、それ以上に戦力消耗が激しい区域が存在する。わかるかね、少尉?」

「横須賀鎮守府をはじめとする港湾部周辺ですね。今現在は海軍の反抗作戦を行うための時間稼ぎが行われていると聞いています。」

 

 俺の答えに勝坂は満足げにうなずいた。

 

「そうだ。陸軍が今行っている作戦は全て海軍の戦力復旧の時間稼ぎのために過ぎない。だからこちらの損害を度外視した『海軍の漸減作戦』の肩代わりが行われているわけだ。そういう意味では、生き残っているだけでも奇跡だな。」

 

 俺が横目で見た日比谷の目には光がなかった。絶望という名の感情に染まっているのかもしれない。すると、宮本が手を少し上げた。勝坂が続けて発言を許可する。

 

「中佐の言葉では『海軍の戦力復旧の時間稼ぎ』とおっしゃられていますが、上はどのようなお考えでそのような作戦を展開しているのでしょうか。今のところ無駄な犠牲を強いられているようにしか感じられません。」

 

 宮本の質問に勝坂は丁寧に答えはじめた。

 

「今、日本は国家存亡の危機に瀕している。それは二十年前から確認されていた奴らのせいだ。シーレーンを食い荒らし、南洋や欧州を急襲して壊滅的被害を与えた。日本がその第一波に巻き込まれなかったおかげで現在戦うことができていて、また甚大な被害を被っているわけだ。」

 

 宮本は頷いている。それを確認しながら勝坂は若干仰々しく続けた。

 

「この戦争は『聖戦』とまでは行かないが『国家のため、家族のため、未来のため』という大義名分が国内で触れ回っている。全てをかけて戦っているのは火の元を見るより明らかだ。だからこそどんな作戦が立案されようとも勝つためとあればある程度は許容され、賛同され、実行される。」

 

 スローガン。俺があまり好まないものの一つだ。他人に決められた言葉など簡単に滅びる。俺は自身の中で持っている確固たる信念こそを信じるべきだと思っていた。

 

「奴らには海軍が対応していた。技術的なことはわからないが“艦娘”と呼ばれる兵器をもって優勢な状態を作り上げてきたようだ。だが、あっさりとその状況が今崩れ去っている。証拠に二年前に陥落した佐世保は未だ奪還できていないし、ここ横須賀だって浦賀水道を抑えられて反撃できないでいるだろう。だが、だからと言って陸の俺らが深海棲艦を相手にすることは難しい。これまでの戦闘行為で痛いほどわかっていることだ。」

 

 勝坂はいらない紙なのかわからない書類を千切って机の上に落とした。俺はそれを目で少しだけ追って、目線を勝坂へと戻した。

 

「だから上はもう一度海軍の“艦娘”に賭けた。彼らが二度目の反抗作戦を行う戦力を整えるために全戦力をもって時間を稼ぐことを約束したんだ。しかしその結果、君たちに火の粉が降りかかっている。」

 

 上の決定に下が迷惑を受けるのはどこまで行っても不変だ。だからこそこちらが適応すべきだと俺は思っている。宮本は納得していなさそうな顔をしていたが、その場は言葉を飲み込んだようだった。

 

「本当に俺も申し訳ないとは思っている。だが、これが戦争だ。有無を言わさず奴らは殺戮を無差別に行うだろう。俺らはそれを止めながら、海軍が反撃を行える状態になるまで耐え抜くしかないんだ。君たちは優秀だ。だからこそ、これからも生き残れよ。」

 

 その言葉を放つ彼の目は慈愛とも期待とも言える色で俺らを見つめていた。




あくまで艦これメインにしたいので装備などの描写は控えめにするつもりです。そこまで詳しくないというのもありますが。
なお、この話は前日譚的立ち位置となりコロコロ死人が出ますのであしからず。
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