北の艦隊興隆記   作:あおみかん

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部隊結成

 瑞鶴は建造されてから地獄の鍛錬の日々が二週間ほど続いていた。冬が近いこともあって一日中訓練である日も珍しくなく、いつも疲労で朝までぐっすりだった。

 まだ日も上がらない早朝。瑞鶴は訓練のために起きて顔を洗い、艤装を身につけて演習場へ向かっていた。

 

ー毎日の航行訓練と対空射撃訓練…。空母の私にとって意味ないような気がするんだけどなぁ。

 

 瑞鶴にとって先輩にあたる一航戦の二人は航行と対空射撃の練度は空母には必要不可欠なものだと言っていた。

 

ー艦載機の子たちの訓練の方が優先すべきな気がするけど。

 

 そう考えながら海の上を航行していると第二演習海域に到着していた。すでに赤城と加賀は待機している。今日の随伴艦は響と時雨だった。双方初対面だったので赤城から紹介され、挨拶を交わす。

 

「いつも思うんですけど早くないですか?」

 

 瑞鶴は単純な疑問を赤城たちに投げかける。返事は早かった。

 

「航行訓練の準備のためです。」

 

 赤城のはっきりした声はいつも瑞鶴に少しプレッシャーを与える。納得はしたが、少し瑞鶴は尻込みしてしまった。すると響が赤城に確認を取り始める。

 

「対空射撃をほどほどに行えばいいんだよね。」

「えぇ。あくまで瑞鶴さんの訓練がメインですので。」

 

 赤城は淡々と答えながら響と時雨へ動きの確認をしていく。聞いている身の瑞鶴としては自身が見るべき艦載機の量が増えるため、あまり手を抜かれたくはなかったのだが、そのようなことは絶対に先輩の面前で口には出せなかった。

 

「艦載機は本当に捉えづらいからなぁ。手加減できるほどの実力持ってる響ならまだしも、僕だとうまく手を抜くって難しいよ。」

 

 時雨が苦笑しながら言葉を漏らす。すると加賀からすぐに返答がやってきた。

 

「手を抜けとは一度も言っていませんよ。」

 

 時雨は「わかってるよ」と言いながら、赤城の指示に素直に従っていく。瑞鶴は赤城たちの配置が終わるまで静かに遠目で見守っていた。

 一航戦の二人は瑞鶴のいる地点から約二キロ離れた位置に待機し、艦載機を放つ準備を済ませる。瑞鶴の動いてよい範囲は指定されており、四つの頂点にそれぞれブイが浮かべられている。それを偵察機によってはみ出ることがないか、随時監視が行うのだ。

 

「そろそろ大丈夫かな?」

 

 響が確認のための合図を行うと赤城たちから副砲の音が返ってくる。開始時間は空が明るくなり始め、視認がしやすくなる五時半。始まるまでの間の海は静寂に包まれていた。しかし、その静けさに耐えれないのか時雨が瑞鶴に話しかけてくる。

 

「瑞鶴って提督のことどう思った?」

「えっ。」

 

 突然の質問に少し瑞鶴は詰まった。最初の挨拶をし、鎮守府案内に少しついてきただけの人だ。印象なんてものはなかった。

 

「特になんとも…。」

 

 瑞鶴がそう濁して答えると時雨は珍しそうなものを見る顔で「ふーん」と言った。提督と少ししか面識がないことを知らないのかはわからない。だが時雨の表情を見る限りでは瑞鶴は何かしら印象を受けるものなのだろうと思った。瑞鶴は顔色を伺いながら少し付け足す。

 

「でも……結構自由な人なんだなって思ったかな。案内中に突然演習見るって言い出してすっぽかしてたし。」

「だからあの時桟橋にいたのか……。」

 

 時雨は勝手に納得した様子で独り言を呟く。瑞鶴は時雨の言葉の意味にピンとこなかった。そうして、聞かれた言葉を瑞鶴も時雨へと返した。

 

「時雨は最初に会った時どう感じたの?」

 

 答えようとした瞬間、時刻がきてしまった。響が手元の懐中時計を閉じながら空砲を鳴らす。「返答はお預けってことで」と時雨は言い、そのまま艦載機がくる方向へと顔を向けてしまった。瑞鶴は気になってはいたが、訓練の最中でもあるので気持ちを切り替える。注意力散漫の状態で捌けるほど、一航戦の艦載機は甘くはない。

 

「艦首風上、第一次航空隊、発艦始め!」

 

 瑞鶴は弓をつがえ、自身の戦闘機を発艦する。本来空母であれば、雷撃機と爆撃機も扱うのだが、今回は対空戦闘や回避動作の訓練が主な内容のため直掩機のみを使用し実戦に近い雷撃や爆撃などは瑞鶴は行わない。赤城と加賀も同様の理由から戦闘機を削り、雷撃機と爆撃機の数を底上げすることでより実践度の高い対空戦闘を瑞鶴に行わせると言っていた。

 時雨が双眼鏡を持って目視で敵の戦力を確認する。

 

「機数は……。ん〜、わっかんないや。慣れないことはするもんじゃないね。」

 

 時雨が腑抜けた声で私言を交えて報告する。響が若干怒りながら「真面目にやれ」と時雨の頭を小突くと、響に対し少し文句を言いながら再度瑞鶴に知らせてきた。

 

「機数は百五十くらい。雷撃機が多いかな。あくまで概算しただけだから信用はしないでね。」

 

 瑞鶴は二度目でも雑な時雨の報告に戸惑ったが、気持ちを鎮め指示を行った。

 

「時雨は私の左舷前方で、響は右舷前方で対空戦闘!致命弾になりそうな奴はしっかり落としなさい!」

『了解』

 

 指示された通りに響と時雨が動く。どちらも対空電探と高射砲を完備しているため、準備は万端だった。

 そして、響が空砲を鳴らしてから一分も経たずに攻撃隊はやってきた。目標は瑞鶴。直掩機は少数の戦闘機部隊に阻まれているようで、未だ敵に墜落判定を受けた機体はいない。

 

「さすが一航戦と言うべきか。簡単には機体を落とさせてはくれないわね……。」

「エースの二人だからね。」

 

 赤城と加賀の雷撃機、爆撃機ともに隙がない。だが、戦闘機に関してはそれ以上だった。確実に敵機の後ろにつき、一機ずつ葬っていく鮮やかさは直掩隊を落とされている身である瑞鶴でさえ感動を覚えた。芸術とも言える一航戦の機体の空戦軌道は、空の王者なのだと瑞鶴に錯覚させるほどに目を奪われる。

 艦載機は一向に減る気配はなかった。まぐれあたりで時々撃墜判定が出ているが所詮は運。対空射撃がまぐれ以外で当たらないことに瑞鶴は苛立ち、だんだんと集中力が削られていった。それによって生まれた僅かな隙を一航戦の機体が見逃すわけもなく、赤い帯を胴体に二本携えた流星改が一機、海面付近へぐんと降下し致命の一撃を投下する。

 

「っ⁉︎ 魚雷接近!瑞鶴そこから早く離れて!」

 

 時雨がすぐに気づき知らせるも、手遅れだった。瑞鶴はどこから接近しているのかもわからないまま主機に演習魚雷をくらい、水飛沫に包まれた。

 

 

 

 

「まったく…。航行の形は板についてきていますが対空戦闘にはまだまだ改善点が多いですよ。これから艦載機の扱い方についても入ってくるんですからしっかりしてください。」

 

 赤城は訓練用のブイを片付けながら瑞鶴を柔らかい口調でたしなめた。瑞鶴自身もいつもの十周三セットを終わらせて、それを手伝いながら黙って聞いていた。赤城が何を懸念しているのかを着任初日に知っているからこそ、瑞鶴は気分を害すことはなかった。

 

「それにしても加賀さんの流星改は全部とんでもないぐらい強いね。確実に一撃で仕留めてくるし、機銃で狙ってたとしても全く当てられる気がしないよ。」

 

 時雨が遠くのブイを全て集めて帰ってきて呟く。当の加賀自身は秘書艦として呼ばれて既に演習場を立ち去っていた。響も午前から出撃らしく同様に先に泊地に戻った。

 

「当たり前です。あの人は私が着任する前からあの調子だったんですから。今は互角と謙遜していますけど、経験量という観点では加賀さんに勝る人はいませんよ。」

 

 赤城が時雨の言葉に対して素早く返答する。長い相方ということもあって非常に信頼を置いている様子だった。

 

「加賀さんってそんなに古い時からいるの?」

 

 瑞鶴は赤城の言葉が気になり、時雨に内緒話をする声量で聞いた。瑞鶴は加賀がどうやら鎮守府内で特別視されていることに一抹の疑問を抱いていた。いつも演習場で顔を合わせることしかなく、その隠された実力を見たことがなかったからだ。訓練はほぼ全て赤城に一任していたのも理由のうちの一つだった。

 とはいえ実際に今、相手にしていることで瑞鶴は加賀の艦載機の実力を知った。だからこそ今では尊敬するべき先輩だと思っているが、気になってはいたのである。

 

「そうだよ。巷の噂では最初に来たの電よりも早いって言われてる。」

 

 時雨が淡々と回答する。瑞鶴は加賀の着任からの歴に度肝を抜かれた。そこまでの重鎮だとは思っていなかった。

 

「ちなみに……時雨はいつ着任したの?」

 

 瑞鶴は連続して質問を続ける。一度聞いた質問は他人にも聞いてみたくなってしまうものだった。

 

「僕は赤城さんと同じ時期かな。少し赤城さんの方が早いけど。駆逐艦だと三番目ぐらいに長いと思うよ。」

「へぇ…。」

 

 そうして瑞鶴が相槌を打っていると、思い出したかのように時雨が訓練前の問いかけの答えを瑞鶴に伝えてきた。

 

「そういえば、対空訓練が始まる前の質問の答えだけど、僕の提督に対する最初の印象は『どこか寂しそうな人』だよ。着任してからも思ったけど明るく振る舞ってる割に時々笑顔が絶えるっていうか、どこか物足りそうな顔するんだよね。今はあんまり見かけなくなったけど。孤独が染み付いてる感じがしたのは確かさ。」

 

 瑞鶴は時雨の提督に関する意外な言葉に二度目の驚きを受けた。いつも笑顔で艦娘と接している提督が寂しそうな雰囲気をしていたとは到底思えないからだ。人は見かけによらないのだとしみじみと感じた。

 

「……確かに近頃はよく笑っているというか、少しストレスが軽減されているような気はしますね。」

 

 時雨の発言を盗み聞いたのか赤城が集めたブイに紐を通し、まとめながら会話に参加する。

 

「赤城さんもそう思う?」

 

 質問に対して赤城は肯く。

 

「昔はもう少し仕事に熱中していたというか。私たちに心の底から興味があるようには思えませんでした。」

「言われてみれば確かに。そうかもしれない。」

 

 瑞鶴の知らない世界を共有している二人に少し疎外感を感じた。瑞鶴と提督のつながりは残念ながら非常に少ない。だからといって邪魔をする気も起きなかった。仕方ないと割り切るほかない。

 

「でも……そういう意味では加賀さんも変わりましたよ。」

 

 赤城がふと新しい話題を提供する。時雨も関心を示したが、運が悪いというべきなのか訓練の片付けは終わってしまった。赤城は一度話を中断し。進路を鎮守府の方へとる。

 

「二人とも気になる顔をしているようですし帰りながら少しだけ御教えしますね。」

 

 瑞鶴と時雨は赤城についていく。東の空にはすでに朝日の絢爛とした陽光が海を照らしていた。

 そうしてブイを携えて数十秒後、時雨は口を開いた。

 

「それで……加賀さんが変わったっていうのは?」

 

 帰路についた一同は桟橋に着くまでの間、続きの話を始めていた。

 

「簡単に言ってしまえば、最近よく話すようになってきたんです。」

「それは、加賀さんが今まで全く会話してこなかったってこと?」

 

 時雨の問いを赤城は肯定する。

 

「えぇ。プライベートですら艤装の管理や艦載機の戦闘技術向上へ当てているような人柄ですから。」

「す……すごい。」

 

 思わず瑞鶴の口から感想が漏れ出る。自らに手厳しいのだと容易に想像がついていた。

 

「なので私もあまり普段から喋るということはなかったんですよ。会話は専ら任務中ばかりで、実のところ交流は深くありません。」

「そうなんだ。」

 

 珍しい一航戦の二人の一面に時雨と瑞鶴は意外といった印象を受けた。泊地の最強タッグというイメージがある故にその関係性が希薄であるというのはギャップがあった。

 

「それが最近になって改善したんです。まぁ……少し程度ですが私語を交えることが増えました。」

「あ〜……、良かったんじゃないかな。うん。」

 

 やや嬉しそうにする赤城に対して、ただ親密になったというだけなのではという疑念が湧いたのか時雨の反応はあまり良くはなかった。瑞鶴も他愛もない話として捉えていた。

 

「私としては結構重要なんですよ? 加賀さんについて色々知ることができるようになるんですからね。」

 

 芳しくない二人の表情に赤城は若干拗ねたようなそぶりを見せながらこう返答した。

 

「あっ、そっか。それなら第一歩としてはいい感じだもんね。」

 

 時雨の言葉に赤城も首を振る。

 

「提督共々、一切自分のことについての情報は明かしてきませんでしたからね。これで少しはベールの向こう側がわかるというものです。」

 

 瑞鶴はそれで案外古株のものでも詳しいことは知らないのだなと感じた。意図的に隠していると言えるのかもしれないが、いつかはあばかれるものだ。近いうちにいいものが聞けるかもしれないと胸躍らせた。

 しばらくして、一同は朝出発するときにみた木製の桟橋へと到着した。

 

「私は先に片付けますから、解散しても大丈夫ですよ。」

 

 赤城はそう言って艤装の動力を落とすと岸に上がり、倉庫の方へと訓練用のブイをしまいに行く。取り残された時雨と瑞鶴はひとまず上がることにした。

 

「それにしても、赤城さんと加賀さんが今までそんな関係だったとはね……。」

 

 時雨は少し心ここにあらずといった様子だった。瑞鶴自身も雑談程度には楽しめる内容であった。

 

「とりあえず宿舎の方に戻る? 艤装を置きたいだろうし。」

 

 時雨は瑞鶴の顔を一度伺うようにして部屋へ行くことを提案した。瑞鶴も頷きながら賛成の意を示そうとしたその時、お腹から音が鳴る。朝早く訓練に向かうため、軽い握り飯しか食べていないために黄色信号が点っていた。

 

「先に食堂のほうが良さそうだね。」

 

 時雨はニヤつきながら瑞鶴を軽くからかう。少し顔が熱くなる感覚がありながら瑞鶴は平生を取り繕った。

 

「軽食しか食べてないんだから当たり前でしょ。しかもこっちは航行訓練もやってるの。これでお腹がならなかったらおかしいぐらいよ。」

 

 時雨は言い訳を聞いてもなおニヤニヤしていた。そして、彼女のお腹からも瑞鶴の時と同じ音が鳴る。

 

「おっと。これは失敬。」

 

 時雨が瑞鶴を置いて先に逃げるように食堂の方向へ向かう。瑞鶴も負けじとその背中を追った。泊地の桟橋から食堂までは早い。

 そうして半ば争うように食堂の方へと二人が向かっていると、何やら泊地内が少し賑わっているようだった。泊地に平時から滞在している人間は提督以外いないのだが、今日は数人庁舎の外に立っている。煙草を吸う人は単冠湾にはいないことから瑞鶴は人間だと判った。

 

「誰か来てるのかな。おおかた予想はつくけど。」

 

 時雨が庁舎の裏口の方向を見ながら言い放つ。食堂はすでに目の前にあるため、すぐに視線を外し瑞鶴の方へ向き直った。

 

「今日は生姜焼きらしいよ。ちょっと朝から豪勢だよね。」

 

 瑞鶴は大して気にはならなかったが、朝のおかずが普段の卵関連と魚のおかずではないことは時雨の言う通り珍しかった。朝が定食であることは変わらないが本来、生姜焼きは昼か夜に出るような内容のように瑞鶴には感じられた。

 

「庁舎の方にいた人たちと関係してるのかな。」

「さぁね。」

 

 時雨が瑞鶴の言葉を軽く流す。二人はそのまま食堂内へと入った。

 食堂は泊地が大規模な鎮守府かと思わせるほど沢山の艦娘がいた。単冠湾では朝の起床が六時四十五分、朝食は七時半からとなっている。一応、食堂自体は七時には開いていて混雑しないように配慮はされていた。ちなみに瑞鶴たちの早朝訓練はこれに合わせて七時過ぎに終わり、そこから片付けと移動をするとピッタリ朝食の時間に被るという計算だった。普段は先に艤装をおいてきてからに朝食を取ることにしていたが、今日は遅く終わっているのもあって空腹の方が勝っていた。

 

「さてと、貰おうか。」

 

 時雨は艤装付きのまま平然と配膳の列に並ぶ。一部の艦娘に若干引かれていたが気にしていないようだった。瑞鶴はさすがに気が引けたので、先に席に弓と飛行甲板を置いてから列へと並んだ。

 

「いや〜、美味しそうだね。」

 

 瑞鶴が戻ってくると時雨が待ってましたと言わんばかりに口を開いた。実際、お腹を空かしているときのご飯は本当に魅力的に見えると瑞鶴も思っている。温かいご飯は一種の艦娘たちの心の拠り所であった。

 

「そういえばさ。」

 

 不意に瑞鶴は言った。時雨が首をかしげる。

 

「今日知り合ったばっかなのにグイグイくるよね。」

 

 ふと思ったのだ。時雨とは初めて顔を合わせて三時間ほどしか経っていない。普通は時間をかけて親しくなっていくものだが、そうではないなと。すんなりと喋れていることに違和感というものを瑞鶴は感じたのだった。今まで一緒に鍛錬してきた子と長続きしてこなかっただけに嬉しさもあった。

 

「だって瑞鶴は近々僕と一緒の部隊になるはずだから。先に距離を近くしておいた方がいいでしょ。」

 

 時雨はそう答えた。その答えに瑞鶴は首をかしげる。

 

「それって私が第一艦隊に入るってこと?」

 

 瑞鶴にはあまりよく意味がわかっていなかった。時雨は第一艦隊の経験があって今もまだ現役、ということは赤城から伝えられていたし、見た目は幼く見られがちかもしれないがベテランだという先入観はあった。しかしそれを時雨が否定する。

 

「違うよ。僕はそもそもあそこには手伝い程度でしか入ったことはないんだ。だから赤城さんとかと面識はあるけど実際に戦ったことは少ないし、そもそも本来の僕の所属は具体的には決まってないよ。」

 

 瑞鶴は時雨の言葉に呆気に取られた。ただ勘違いをしていただけということがわかったのだ。早とちりをしてしまったことを瑞鶴は内省した。

 

「ということは時雨の所属が決まる時に私も一緒に決まるってこと?」

 

 瑞鶴は続けて聞いた。時雨の言葉を聞く限りでは、二人は同じ部隊に入るのだろうと推測できるからだ。

 

「まぁそうだね。多分提督のことだしそろそろ通達しそうなものだけど…。」

 

 二人が話していると食堂の扉が大きい音を立てて開けられる。その場にいた艦娘の視線が一点に集まった。入り口には、瑞鶴の見慣れない顔の男性がいた。他の艦娘達は顔を確認するなりすぐに食事に戻る。瑞鶴はその様子に戸惑った。

 

「えっと…。あれって誰?」

 

 瑞鶴は目立つ行動をとった人物を本人には見えないように指差して時雨に聞いた。

 

「大湊の提督の剣城さん。ちょっと変わってるんだよねあの人。」

 

 時雨はいつも通りといった様子で咀嚼を効かせる。慣れというものが皆にはあった。瑞鶴も気になりながらも食事を再開する。そうすると、時雨に「大湊の提督」と言われた人物が話し始めた。

 

「椃木。いつも思うが、そこまで艦隊の規模が大きくない割にここの食堂が大きいよな!」

 

 力強い声が食堂内に響く。瑞鶴はびっくりして危うく箸を落としそうになった。

 

「うるさいっての。」

 

 単冠湾の提督が食堂内の艦娘の声を代弁するかのように静止する。頭を叩こうと迷ったような手の動きをしていた。

 

「お前がここで食べたいって言うから連れてきたんだからな。邪魔はするなよ?」

「『お前』じゃない。『剣城』と呼べと言っているだろ。」

 

 提督は呆れた様子で天を仰いだ。

 

「分かったから……。さっさと並んで食べてくれ。」

 

 剣城は頷いて配膳の方へと向かう。提督もそれに続いた。瑞鶴は秘書艦として呼ばれているはずの加賀がいないことに気づいた。

 

「加賀さんどこに行ったんだろ?」

「知らない。」

 

 時雨は淡々と答えた。黙々と食べているためか時雨の皿にはわずかな米と生姜焼きしか残っていなかった。対して瑞鶴の箸は半分しか進んでいないことに気づく。食べ終わる瞬間を合わせるために瑞鶴は急いでかきこんだ。

 

「その食べ方胃に悪いからやめたほうがいいよ。別に食べ終わっても置いてかないからゆっくり食べなよ…。」

「艦娘だから大丈夫よ。」

 

 瑞鶴は飲み込む合間を縫って話す。時雨は物も言わずに生姜焼きの最後の一切れを味わって食べ終えると立ち上がり、片付けに移った。瑞鶴も一気に流し込んで追いつく。

 

「あっ、時雨と瑞鶴。九時くらいに執務室に来てくれ。話がある。」

 

 そうして二人が片付けを行なっていると、提督が声をかけてきた。二人は了解の旨を伝える。そうして時雨と瑞鶴は食堂を後にした。

 

「時雨の言ってた部隊編成の話かな。」

「多分。それ以外思いつかないし。」

 

 時雨と瑞鶴は、艤装を抱えながら提督の召集の理由についてなんとなく考えていた。しかし答えははっきりと決まることはない。実際の時刻にならなければわかることはない。

 

「僕はこの後交渉で装備点検するんだけど……瑞鶴は何するの?」

 

 時雨が問いかける。

 

「一旦暇になるから……多分道場で自主練かな。」

 

 瑞鶴からすると正直、微妙な時間の空き具合だった。そう答えると時雨は「なら一度ここでお別れだね」と返す。瑞鶴は頷いて手を振りながら時雨と別れ、直線的な道を通って宿舎の門を潜った。

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