北の艦隊興隆記   作:あおみかん

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前話からの続きです。
少し今回は短めですがご了承ください。


初陣(3)

「ねぇ……。あれ。」

 

 村雨が少しうんざりした顔で指をさす。その先には編隊を組んでいると思われる艦載機の機影が並んでいた。

 

「もしかしてフラグってやつ?」

 

 川内が苦笑いで答える。その顔には微小の疲労が浮かんでおり、村雨と同じように面倒な様子が伺えた。

 

「笑い事ではないデース。」

 

 金剛の声が不機嫌なものになる。全員が臨戦態勢を整えていた。

 

「でもなんか様子がおかしいですね。普通こんな堂々と来ます?」

 

 瑞鳳が疑問を呈する。再補給が終わっていないためまだ発艦はできないが構えは解いていなかった。

 

「だからと言って味方だとも断定できないんだよねぇ。」

 

 時雨が悩ましい声でいう。とはいえ万が一の可能性を除ききれないため、双眼鏡を持って機体の確認を行うことにした。時雨が視認している間、静かな波音と風が吹き付ける。

 

「ん〜……。」

 

 まだ正確に視認できていないのか双眼鏡は顔から離れなかった。

 

「遅い!!早く貸して。」

 

 焦ったく感じた川内が時雨の手からひったくる。

 

「乱暴はやめてよ、これ備品なんだから。」

 

 そんな時雨の文句を尻目に川内は目を凝らす。その目には濃緑色の機体が捉えられていた。少なくとも敵ではない。

 

「多分第一艦隊の機体でしょ。この辺りで活動している艦隊の中で艦載機を扱えるのはこことあそこしかないし。」

 

 双眼鏡を下ろし、川内がそう報告する。瑞鶴を始めとする皆が安堵のため息をついた。

 そしてしばらく待ち、形が明確に見えるほどにまで接近したタイミングで艦載機に金剛が交信を試みる。だが結果は予想外のものだった。

 

「what?」

 

 金剛が驚いた顔で聞き直す。

 

「どうしたの?」

 

 川内が改めて質問した。金剛が説明する。

 

「『こちら大湊所属S艦攻撃隊。北部海域における作戦の敵残存兵力殲滅のための任務に当たっていた。』と言っていマース。おそらく私たちが沈めた艦隊を追っていたんでショウ。」

「戦闘機も付随していますしそうでしょうね。とはいえこの付近で別の作戦など聞いたことがありませんが……。」

 

 瑞鳳の指摘に金剛や川内が頷く。瑞鶴も共感する気持ちだった。場に少しだけ不穏な空気が流れる。

 

「一度確認してみマース。」

 

 艦載機は頭上を飛びながら金剛と交信を再開する。瑞鶴が少し目を細めて見てみると、胴体に青い識別帯が一本入っていた。他鎮守府、泊地所属の艦娘の存在を感じることができた瞬間だった。すると、さっきまで会話を続けていた金剛が口を開く。

 

「『そこまでは教えられない』だそうデース。極秘任務で動いていたのかは図りかねマスが、キス島の作戦前日に行われているあたり、独自に陽動作戦を組んでいたのかもしれまセーン。」

 

 推測でしかない意見だったが、十分あり得るなと瑞鶴には感じられた。そうしていると、用事が終わった大規模な攻撃隊は母艦に帰るためなのか来た道を辿って飛び去っていく。

 

「後で提督に聞けばなんとかなるか。」

 

 川内が気楽な様子でいった。今度こそ終わりだという確信が皆の中で確固たるものとなる。

 

「とりあえず赤城さんたちと合流しないとね。途中の奇襲のせいで計画がズレちゃったけど。」

 

 時雨は伸びをしながら言った。

 

「あっ、あれじゃない?」

 

 村雨がまたもや機影を見つける。瑞鶴はあまりに発見する速度が早すぎると感じたが、対空戦闘を行う駆逐艦なら苦ではないのだろうと予想した。瑞鶴も目を凝らしてみると偵察機と共に遠目で艦隊が付随しているのが見える。時雨が双眼鏡で念のため確認し、「うん、今度は当たりだ」と微笑む。

 

「ま、夜戦はできてないけど暴れられたし満足満足。」

 

 川内が背中を伸ばす。左腕の連装砲に損傷が出ていることに瑞鶴は申し訳なさを改めて感じた。謝ったとはいえ引きずるものはある。

 

「流石にお昼ご飯をちゃんと食べたいな〜。艤装の燃料が尽きない限り空腹になることはないとはいえ二連続でおにぎりはどうかと思うんだ。」

 

 肩をすくませながら時雨が言った。村雨も首を振って同感する。

 

「どちらにせよまずは合流デース。情報を合わせなければ何も始まりまセーン。」

 

 金剛が動き始めるのに合わせて続々と列を作って行った。少し崩れていることに瑞鶴は少し不安を覚えたが、誰も指摘しないため言葉にはしなかった。

 第一艦隊と合流してからは情報整理が主に行われた。

 

「大湊の方々が作戦を……?」

 

 赤城が首を傾げる。

 

「イエース、内容までは教えてもらえませんでしたガ。」

「加賀さん、聞いてました?」

 

 一番情報を知っているであろう加賀に赤城は聞いた。確実で最短の経路だと判断したのだ。

 

「いいえ。通達されてないと思いますよ。」

 

 加賀の返答で一層謎が深まる。金剛や赤城は考えたが、答えが出ることはなかった。

 

「まぁそんなことより、戦果報告の方をしちゃえばいいんじゃないんですか?まとめちゃいましょ。」

 

 瑞鳳が手を合わせて催促する。

 

「それもそうですね。始めちゃいましょうか。」

 

 赤城の合図を皮切りに泊地に進路を取りながら、具体的な戦果報告が実施されていった。

 

「まずはこちらから、敵支援艦隊らしき艦隊に三つ出遭いました。もちろんその全てを撃沈しています。また、瑞鳳さんが知っていると思いますが今回の目標だった敵主力を半分請負っています。とどめはしっかり刺させてもらいました。」

 

 加賀が具体的な内容に触れ始める。瑞鶴も後半の内容は知っているものだった。

 

「そして内訳としては、主力艦相当のものがヲ級六隻ヌ級三隻、ル級三隻リ級二隻の合計十四隻、他は軽巡と駆逐艦です。どれもフラグシップ級とエリート級の複合部隊です。北方海域深部に少し近いのもあってか少し強力な個体も見られましたね。」

「流石デース。それではこっちの番ネ。」

 

 金剛は感心した様子だった。瑞鶴は四艦隊も相手にして全て撃滅している赤城たちに驚愕したが、他の第二遊撃部隊は特にいつも通りといった感じでなんの反応もない。それほどにこの泊地では当たり前となっていることなのであった。

 

「主力の生死は多分赤城たちのいう通りデース。だから本来なら仕事はこれで終わっていたはずなんですガ、イレギュラーな艦隊が出てきたネ。」

「具体的には?」

 

 赤城の目が鋭くなる。近海での異変は泊地の危険度に関わるかもしれない早急に対応すべきものだと考えているからこそ、重要な情報なのだ。

 

「南方海域でしか発見されなかった戦艦タ級フラグシップとヲ級の改良型に会敵しまシタ。前者は幌筵泊地が接敵しているから確実な情報はあちらが持っているはずデース。ヲ級改の方は奇襲される形で遭遇したのでどこからきたのかはわかりませんガ、北方海域に生息するもので間違いはないデショウ。」

 

 加賀がその言葉で一瞬第二遊撃隊の面々を見つめる。奇襲という言葉に反応したようだった。瑞鶴と目があうと安心した様子で目線を逸らした。

 

「そうですか……。とりあえず提督に確認を取るところから始める方が良さそうですね。」

 

 報告にひと段落がついた瞬間だった。瑞鶴が周りを見渡してみると、すでに赤城と金剛の話に飽きたのか少し距離をとったところで時雨と村雨は夕立や響と会話を始めていた。また、川内の左腕の連装の損害を見て阿武隈が心配そうに声をかけているのも視界に映る。

 

「どうだった?始めての戦闘。」

 

 瑞鳳が明るい声で瑞鶴に聞いてきた。もうそこには戦闘時の真剣な眼差しは見られない。

 

「最初は緊張とか怖さとかあったけど、今は楽しいかな。自分の艦載機が活躍してる時とかは特にね。」

「でしょでしょ〜?これからもがんばってね!」

 

 瑞鳳の言葉で、瑞鶴は彼女が空白の席にたまたま入っただけの存在だったことを思い出す。もしかしたらいなくなってしまうのだろうかととても寂しく感じた。

 そうしていると加賀が瑞鶴の元へと寄ってくる。

 

「私の教えは役に立ったかしら。」

「もちろんです!」

 

 普段関わりの薄い加賀が話しかけてきたことに瑞鶴は驚きを感じながらも答えた。自分はよくやったという自信があるからこそ笑みが伴う。

 

「そう……。」

 

 少しだけ明るくなった声のトーンに瑞鶴は加賀の優しさの一面が少しだけ垣間見れた気がした。

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