北の艦隊興隆記   作:あおみかん

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今回は豪華に二本仕立てです(どこかで二話投稿するということを言っていたので実現させました)


エースと二番手 〜白日〜

 次の日の午後二時二十八分、泊地の大半は第二演習海域の浜辺に集合していた。その理由はもちろん、第一艦隊と第二遊撃部隊の演習を観戦するためである。とは言ったものの、肉眼で見えるわけではないため赤城の偵察機を流用して俯瞰視点で中継できるようにしていた。艦娘と搭乗員である妖精の通信技術を応用したハイテクノロジーだ。

 

「撃たれないといいんですが……。」

 

 赤城が心配げに空の方向を見やっている。概ね視界は良好、雲はまばらで空戦における視界は確保できていると判断していた。だが、それ故に偵察機も危険に晒される。

 

「わざわざ機体の色を目立たせるように蛍光色にしたんだろう?そ れに戦闘可能空域の制限高度を三キロに指定したんだからそれ以上の高さで飛行する分には大丈夫なはずだ。まぁ、公式戦は制空戦だけ実弾仕様だから万が一ということもあり得るんだろうが。」

 

 提督は腕を組みながらそういった。その目は青い大空と海原を見つめている。

 

「高度を上げれば皆さんの姿が点になってしまいますから、多少の危険は承知で行くしかないでしょう。最悪、また出せばいい話ですから。落とされたとしても補給をすれば戻って来れますし。一応予備の機体も上空に待機させておきました。」

 

 そう語る赤城の背後では開始を待つ集団で埋まっていた。真横には持ち運び可能なスクリーンが置かれ、中継映像が映し出されている。

 

「そろそろか。」

 

 開始は午後二時半。合図は熊野の空砲だ。どちらかが大破しきるまで終わらないデスマッチ形式。今回の場合、時間は理論上は無制限なので日没が午後四時前なのを考慮すると視認性が良い状態での戦闘は一時間半弱、それ以降は夜戦となる。これには夜戦師弟である川内と夕立は嬉々とした声をあげていた。

 提督は腕時計を確認する。秒針は一周し、開始の合図を告げる。その瞬間遠くから一発の砲音が遅れてやってきた。周囲で僅かに歓声が上がる。姉妹艦を応援する者、観戦を純粋に楽しもうとする者など様々な艦娘がスクリーンを凝視しはじめる。泊地のエースと二番手の戦いの火蓋は切られた。

 

 

 

 

 

「発艦、始め!」

 

 瑞鳳のもとから偵察機、彩雲が飛んでいく。加速していくその機体は、青空へと吸い込まれていった。

 

「敵は恐らくですが大きく動いてはきまセン。ロングレンジで基本待ちの姿勢を貫く可能性が高いデース。」

 

 金剛が情報を提示する。事前の相談での主な問題点はいかに相手に接近するかだった。時雨はつぶやく。

 

「こっちも対抗できればいいんだけど……。対空兵装は積んできてないからなぁ。」

 

 演習開始前でも方針はまとめることはできていなかった。相手が完璧だと言う仮定において取れる手段があまりにも少なかったからだ。だが、ハンデをもらっているおかげで、一点だけ突破口は見つかっていた。

 

「今はこちらも待ちまショウ。瑞鳳、偵察機との綿密な連絡をしてくだサイ。」

 

 金剛の言葉に瑞鳳も頷いた。背後では、開始地点の目印に選ばれた第一演習海域の中心を示す大きなブイが音を立てながらゆらゆらと浮かんでいる。第一艦隊の開始地点は第二演習海域の中心を示すブイだ。

 

「湾内はある程度見渡せるけど、やっぱり晴れてても見えないね。」

 

 時雨は浜辺の方を見渡すが、演習海域全面は広い。泊地施設は見えていても、第一艦隊はおろか、観戦している一群も目視することはできなかった。

 

「頼りは瑞鳳の偵察機なんだから、周囲の警戒だけしてなさい。」

 

 川内の返しに反応することもなく、瑞鳳は集中していた。敵機の予感はないか、第一艦隊の位置はどこかなどを妖精達に探してもらう。いわば艦隊の目だった。

 

「瑞鶴、一応発艦準備だけは整えておいてくだサイ。」

「はい。」

 

 金剛からの指示に瑞鶴は忠実に従う。戦闘機の性能だけなら十分加賀に立ち向かえると瑞鳳に教えてもらったのだ。勝つまでは行かなくても制空権は互角には持っていきたい。ただ、後手で動き過ぎると競り負ける。なるべく先手を打てるように発艦準備だけは整えていたのだ。

 

「私が渡した夜間偵察機、一応弾着観測射撃もできるから戦闘の時は使っていいよ。ただ、一機だけは夜戦用に残しといて。」

 

 川内が確認を取る。金剛は「Of course!!」と言って頷いた。戦闘が始まる前から皆、臨戦態勢だった。

 

「……!!」

 

 瑞鳳が反応する。

 

「敵艦隊、いました。真っ直ぐこちらに向かってきているようです。」

「射程圏内になったらすぐに砲撃するつもりデース。動きますヨ。」

 

 金剛がやや右舷方向へ航行を始める。皆がそれに続いた。

 

「瑞鳳、相手は今どこにいますカ?」

 

 その問いかけに瑞鳳は言った。

 

「もう撃墜されちゃいました。空に哨戒機を出してるみたいです。」

 

 帰ってきた返答に金剛は「分かりまシタ、それなら仕方ないデース」とだけ言い、瑞鶴にとって不可解な指示を出した。

 

「瑞鶴、烈風を出しておいてくだサーイ。嫌な予感がしマース。」

 

 瑞鶴は発艦準備を整えていたのもあって、すぐに烈風を繰り出した。多くの機体は概ね段階的に高度を上げていたが、急上昇をして真上へと上がっていく機体が少なからずいた。瑞鳳がその動きに反応する。

 

「上に観測機が来てる。」

 

 金剛も同じ感覚を持っていたのか、砲撃の警戒を命じた。距離を離さないのかと瑞鶴は感じたが、艦隊が速度を上げる素振りはない。

 

「瑞鶴、上空の戦闘機隊とは常に連絡を取り合っておいて欲しいデース。爆撃機と雷撃機を見たら知らせるように伝えてくだサーイ。」

「了解です!!」

 

 瑞鶴は隊長機との連絡を試みる。無線機実物を利用しないで済む通信連絡網は従来の戦闘をより高度なものへと変異させていた。やはり距離に関係なく繋がれるのはメリットとして大きい。

 瑞鶴は意識を集中させたが今のところ、話せる余裕はないようで砂煙の音のようなものだけが流れていた。

 

「私も戦闘機だけ発進させましょうか?」

 

 その様子を見ていた瑞鳳が金剛に問う。

 

「いや、相手はあの加賀デース。ここは様子見で済ませマース。」

 

 第一艦隊にいた時の記憶が金剛には色濃く残っていた。敵の心理を掌握し海域を制圧していくその能力は味方であれば心強いが、敵となれば牙を剥く。

 

「それに、このまま急いで距離を詰めても阿武隈の甲標的が待ち受けてるからね。落ち着いて一つ一つに対処した方がいい。」

 

 川内がそう口にする。

 

「多彩な攻撃が相手の強みデース。焦らず着実に対処すれば勝つ道はありマース。」

 

 金剛の鼓舞に皆は再度、その闘志をたぎらせる。

 

「瑞鶴、どう?」

 

 時雨は問い詰めるかのように言った。通信を求めると、今度は返答が返ってくる。

 

「制空権は拮抗してる。観測機を狙いたいけど加賀さんの戦闘機が邪魔をしてくるみたい。魚雷や爆弾を保持している機体は見当たらないって。」

 

 瑞鶴の答えに金剛は遠くを見渡す。砲撃音は聞こえない。

 

「長距離砲撃も攻撃機もないなんておかしいな……。」

 

 時雨は考え始める。周囲警戒をしていた村雨は口を開いた。

 

「まだ射程圏内に入っていないのか、それとも偵察機に捕捉されたから行動を変えたのかのどちらかよね。このまま近づいてきたらもう撃てるはずだし。」

 

 第二遊撃部隊も第一艦隊を目指して航行しているのだ。単純に考えれば、向かい合わせで進んでいた場合もう長距離砲撃の射程に入っていてもおかしくない。演習海域の中心部の距離は約三から四キロメートルだ。原速で動いているとするとその確率は高かった。

 

「あえて撃っていない可能性もありマース。榛名は確実性を求める娘デース。賭けで当てに行くとは思えまセーン。」

 

 金剛が経験則で話す。自身が第一艦隊のポストを譲ったのは榛名がその砲撃命中率を極限まで引き上げたからだ。魔術とも言える精度は自他共に認める強みだった。

 

「瑞鳳、もう一度偵察機を出してくだサイ。その結果で動くかは決めマース。」

「了解です。」

 

 瑞鳳が弓を構えて偵察機の第二陣を用意する。瑞鶴がふと空へ視線を向けると一機、加賀か瑞鶴のどちらかの機体が煙を上げて高度を下げていた。演習だと分かっていても、戻ってくると分かっていてもなんとも言えない気持ちが襲う。

 

「落ちる機体ってやっぱり見てて悲しくなっちゃうよね。」

 

 瑞鶴の様子を見て心中を察したのか、瑞鳳が横に来る。

 

「……うん。」

 

 煙は炎へと変容し、最後は爆発する。

 

「な〜にしんみりしちゃってんの。」

 

 川内が瑞鶴のおでこにデコピンを喰らわせる。瑞鶴は「あだっ」と言う声をあげて打ち込まれた箇所を片手で抑えた。

 

「妖精を大事にするのも結構だけど、一番大事なのは戦わせてあげることだよ。だって最期まで母艦と共に歩むんだから。存分に暴れさせてあげな。」

 

 その言葉は瑞鶴にとって救いとなった気がした。一度きりの命ではないと言うことはそれ程にまで偉大なのだろう。しかしそんな話も、次の瞬間吹き飛んだ。

 

「方位七十!!マズルフラッシュ!!」

 

 村雨が反応する。この前に引き続き色々発見していることからも、目がいいのだなと瑞鶴は確信した。

 

「各自、回避運動デース!!』」

 

 金剛の動きに皆が合わせる。瑞鶴は一瞬遅れたがなんとかついていった。背後で水柱が上がる。恐ろしく正確な射撃に瑞鶴は驚愕した。動かなければ大破していただろう。それと同時に隊長機から連絡がやってくる。

 

「『敵観測機をロスト!!恐らく弾着観測射撃を実施中』だそうです!」

 

 瑞鶴の報告で金剛は行動を決めた。

 

「一度砲撃戦に移りマース!瑞鳳と瑞鶴は艦載機を発艦するネ!!」

 

 その指示に二人は迅速に従った。瑞鳳は戦闘機隊から、瑞鶴は艦攻隊、艦爆隊の順番に大空へ艦載機を解き放つ。

 

「第一次攻撃隊、発艦始め!!」

 

 金剛もそれに合わせて観測機を二機、繰り出した。

 

「射程が短いと暇だねぇ。」

 

 時雨のぼやきに村雨からお小言が飛んでくる。

 

「周囲警戒をしないとだめよ? 阿武隈さんが甲標的を忍ばせていたらどうするの。」

「そうそう、こんな風にね。」

 

 川内はそう言って突如海へ演習弾を撃ち込んだ。それと同時に魚雷の爆発が撃ち込まれた場所で上がる。

 

「相手は戦力を減らす隙を伺ってる。ちゃんと警戒しないと簡単に負けるよ。」

 

 説得力のある行動に時雨も心を入れ替えて目を皿にして辺りの変化に気を配る。波間を凝視すれば魚雷が来ることも察知できる。というのが川内の言い分だった。

 

「瑞鳳?」

 

 艦載機を一通り出し終えた瑞鶴は瑞鳳に呼びかける。気になることがあったのだ。「どうしたの?」と言って瑞鳳が近寄ってくる。

 

「方位七十ってどこだっけ。」

 

 呆れた様子も見せずに瑞鶴へ瑞鳳は教えてくれた。

 

「北があっち。それで時計回りだから一応だいたい東ぐらい、だからってあそこの方面だけど……。」

 

 瑞鳳はある確信を持てていないのか断言はしない。そうすると発言した張本人である村雨がやってくる。

 

「あってるわ。人によっては進行方向から時計回りにするみたいですけどね。」

 

 瑞鶴は試しに凝視してみるが、やはりというべきか人影を視認することはできなかった。発砲炎が見えた村雨はどれ程の視力を持っているのかと瑞鶴は驚嘆させられる。

 

「流石は熟練見張員の妖精さんだよね〜。尊敬しちゃう。」

 

 瑞鳳の指摘で瑞鶴は村雨の肩に乗る妖精の存在に気がついた。双眼鏡を持って索敵する姿は可愛さそのものだが、この妖精の存在のおかげで村雨は何度も僅かな変化を見つけているのだ。瑞鶴は自身の認識が間違っていたことを証明されたように感じた。

 

「提督が補強増設を付けてくれないとこんなことはできないから、あの人には感謝よ。」

 

 村雨の返答に瑞鳳も頷く。そんな中、金剛が瑞鳳へ問いかけた。

 

「瑞鳳? 様子はどうデース?」

 

 すぐに瑞鳳は反応した。意識を偵察機の搭乗員とリンクさせ、情報を得る。

 

「先ほど砲撃した位置からはさほど動いていないそうです。これ以上接近すると哨戒機に見つかると言っているので一度帰投させますね。」

 

 その返事に金剛も了承し、第二遊撃部隊皆で考えた作戦の確認を始める。第一艦隊に白星を上げるための方程式だ。

 

「これが最後の確認デース!瑞鶴達の攻撃隊が敵艦隊は到達する前に動き始めマース。接近して本格的な戦闘が始まったら瑞鶴と瑞鳳は二人一組のセットで動いてくだサーイ。他は事前に決めた相手へタイマン勝負デース。瑞鶴達はその援護、加賀へは戦闘機と数機の攻撃機を送って邪魔だけしてくれれば大丈夫デース!」

 

 金剛はそう言い終えると。航行速度を一段階あげた。甲標的からの魚雷攻撃を処理し終えた川内と時雨が共に合流する。

 

「瑞鶴、戦闘機隊は今どうなっていマスカ?ついでに第一次攻撃隊の現状も教えてくれると助かりマース。」

 

 瑞鶴はそれぞれに順番で交信を試みる。戦闘機隊からは連絡がないが、攻撃隊からは返信があった。

 

「攻撃隊はあと三十秒ほどで敵艦隊上空に待機できるそうです。」

 

 思いの外猶予がないため金剛は速度を一気に第五戦速に上げた。なびく髪の動きは激しくなり、水飛沫が若干舞う。瑞鶴の頬を撫でる風は突き刺すような冷気を浴びるようになった。

 

「さむ……。」

 

 思わず声が瑞鶴の口から漏れ出す。装備をつけていてもそれを上回るということは、余程の寒さなのだろうと瑞鶴は推測した。

 

「瑞鶴、一応戦闘機の子たちにも移動していることは伝えといてね?」

 

 瑞鳳は瑞鶴へ注意喚起を行う。とはいえ、瑞鶴も理解しており何度も交信を試みていたのだが繋がらない。まさか全滅したのだろうかと心配になった。加賀の艦載機と交戦しているのだ、可能性は拭いきれない。

 しばらくして前方やや右方向に人影が明確な色と形を持って顕れた。決戦。演習ではあるが瑞鶴の弓を握る手に力がこもる。金剛は丁字不利の状態にならないように転舵して、態勢を整えた。

 

「飽和攻撃を仕掛けマース!Are you ready?」

 

 瑞鶴はその言葉に合わせて攻撃開始の合図を送った。白い綿雲から艦載機の一軍が舞い降りる。それを迎撃し、追随しているのは加賀の戦闘機だ。川内、時雨、村雨は事前に魚雷発射準備を終えておりいつでも雷撃の準備を整えている。金剛も砲を構える。

 

「全砲門!Fire!」

 

 その声と同時に魚雷と演習弾、そして艦載機の攻撃が第一艦隊へ向けて放たれた。

 そうして、その瞬間金剛へ重い命中弾が飛んでくる。榛名からの先手の砲撃だった。

 

「Excellent……。流石は私の妹デース。きっちり当ててきマース……。」

 

 褒める声は少し憎らしげだった。咄嗟に大破にならないようにしたおかげで金剛は中破判定でいることができたが旗艦である以上、非常に不利な状態だった。

 

「うっそ……。」

 

 瑞鶴は思わず肝を冷やした。こんな正確な砲撃が飛んできたら避けれる自信は瑞鶴にはない。

 

「大丈夫?」

 

 川内が金剛に近づく。だが、その心配も無意味だった。

 

「こうなるのも想定済みネ。ここからが正念場デース。気合を入れて臨みますヨ!」

 

 中破判定による装備出力の低下で速度は少し落ちたが、闘志は燃えている。

 

「了解!!」

 

 五人の声が北の海へ広がった。




 長くなりそうです(現在三週ほど先まで書けてはいますが思っていた量より長引きました)。
 タイマンになる戦闘が同時多発的に起きるので次話からは結構視点が動きます。なるべく分かりやすく丁寧に描写するのを心がけてはいますが、少々混乱が生じるかもしれません。ご了承ください。
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