北の艦隊興隆記   作:あおみかん

29 / 84
昼戦最終話です


エースと二番手 〜白日〜(3)

 観覧モニターの周辺では白熱の様相を呈していた。

 

「響、やってしまうのです!!」

「村雨も夕立も時雨も頑張れ〜!!」

 

 特に駆逐艦は熱心に応援している。姉妹艦がいる第六駆逐隊の面々と白露は特に応援に熱がこもっていた。割と新規のものである如月や敷波も釘付けになっている。対照的に、あまり興味がなさそうな艦娘もいた。

 

「やっぱ戦う側の方が面白くない、熊野?」

「同感ですわ。見ているだけではつまらないですの。」

 

 鈴谷と熊野の航空巡洋艦コンビは退屈に感じていた。皆が行くから来てみたものの、やはり面白くはない。熊野に至っては開始役をやらされて少し不機嫌であった。

 

「いーなー第二遊撃部隊。公式戦にも出れるみたいだし。」

 

 鈴谷はため息をつく。

 

「結構な期間泊地にいるけど、先にデビューしたのはあっちだったか〜。」

 

 空母、戦艦、軽巡、駆逐艦。それらが提督の艦隊には主に使われやすかった。重巡系統は必要になったら使うぐらいだ。とはいえ、二度の大規模改装を行ってもらえるほどには出撃しているし非公式ではあるが演習もしているため不満とまではいかなかった。

 

「瑞鶴さんが羨ましいですわ。建造されてからそこまで経っていませんけれど実戦投入されていましてよ。」

「えこひいきってやつ?」

 

 薄笑いを浮かべ、鈴谷がそういった時だった。

 

「そんなわけがないでしょう?」

 

 赤城のお小言が飛んでくる。鈴谷と熊野の会話がたまたま耳に入ってしまっていたのだった。二人はすぐに背筋を伸ばす。秘書艦様の言葉は重みが違うと言わんばかりの変わりようだった。

 

「全くもう……。」

 

 赤城は呆れた様子で提督の元へと戻る。視界に入るのはモニターの画面だ。上空にいる搭乗員の妖精の見ている映像のため、少しブレや見辛さがあった。だが、設備的にこれが限界だと語る提督によって改善されることはない。場所によってはドローンなるものを利用したものもあるようだが、通信環境が整っていない以上導入することはできないと判断したのだった。

 

「中々拮抗しているかもしれませんね。」

 

 提督の横で観戦していた赤城は微笑みながらそう言った。

 

「そうだな、思ってるよりも赤城の調整はいい塩梅だったようだ。」

 

 その言葉を赤城は訂正する。

 

「私だけじゃありません。加賀さんもです。」

「え?」

 

 提督は一瞬理解できなかった。

 

「瑞鶴さんと瑞鳳さんの艦載機がフリーで動けることなんて本来ありませんよ。普通、全て落ちてます。」

「まぁ……、改めて考えてみればそうだな。」

 

 加賀が完璧に抑えられるとは思えない。ただ、一つだけ気になることはあった。

 

「でも、そうなるとも言えない根拠もある。」

 

 赤城は提督の発言にムッとして反応する。

 

「加賀さんにも負ける因子があると?」

 

 提督は答えた。

 

「榛名が観測機を出した時に護衛のために加賀は烈風を出した。だが、その烈風は今どこにあると思う?」

「…………まさか。」

 

 俯瞰視点だったとはいえ、細かいところまで提督は見ていた。加賀は護衛機を発艦してから一機も着艦していない。赤城の彩雲は戦場を駆け巡っているが、加賀が回収に動いたように思えない。確かに、手加減しているというのはあるだろう。だからと言って動かないというのはあるのかと疑問を抱いていた。

 対照的に瑞鶴と瑞鳳は二人で息を合わせて味方の危ない場面を救おうとしている。そう提督は感じていた。その上で提督は瑞鶴が発艦した時のことを思い返した。

 

「瑞鶴達は対応するために艦載機を出していたな。そして迎撃するために上がっていった機体の中に明らかに“瑞鶴の練度とは関係なしに艦載機としての練度が乖離したやつ”がいた。いくら妖精とはいえ体に負荷はかかる。けれどそれをものともせず上がっていった。」

「加賀さんの護衛機はそれに落とされたと?」

 

 彩雲の搭乗員が恐らく見惚れていた瞬間があった。発艦してからすぐに横回転を入れながら垂直飛行で登っていく一機の烈風。他の機とは違った軌道をしていた。提督の憶測の範囲内ではあるが、隊長機だろうと思っていた。本来、小隊ぐらいは組みそうなものだがそれを無視していく大胆さを持つものは中々いない。協調性がないとも言えるが、急務に対して最適解を叩き出す可能性を秘めているその判断力は備わっている才能とも取れた。

 

ーあれはネームド機になり得る逸材。やっぱりかという思いは強いが。

 

 提督はトラック泊地の彼女を思い出した。昔の秋季大演習で優勝したあの誇り高き彼女を。

 

「直に観ていればわかることさ。」

 

 提督は口角を少し上げながら赤城に返答し二つの部隊が戦う海原を見つめていた。

 

 

 

 

 

 瑞鶴と瑞鳳は戦場を偵察機で見渡しながら味方へ適宜艦載機を送り込んでいた。瑞鳳が俯瞰視点で見て指示を出す。瑞鶴が攻撃隊を再補給の後に発艦させる。その繰り返しだ。瑞鳳の艦載機は加賀へ送り込み、気を引くことだけに注力していた。

 その狙いは加賀も感じ取れていた。だが、対策はしない。やっても面白くないと思っていた。後で愚痴を言われるとしたら阿武隈だけだ。それぞれが好きなように対応するだろうと信用していた。事実、加賀は旗艦だが誰も指示を聞くものはいない。それぞれが独立して動ける実力を持っている。それを合わせてできたのが第一艦隊だ。強みも弱みも考えられていない。シナジーなど見ていない実力だけで構成された粗い部隊ともいえる。

 

ーさて、どうしようかしら

 

 榛名の観測機につけた護衛機が帰ってこないのが気になっていたが、それ以上に上空で健気に飛んでいる艦載機が加賀には目についた。空母であるなら、自身の上くらいは殲滅しておきたい。プライドと言うものがある。

 

「空は渡しません。」

 

 加賀は自らの意思で自慢の艦載機を発艦した。待ってましたと言わんばかりに烈風達が効力を発揮し始める。捕食者のように食らいついたら逃さない。それが加賀の艦載機のスタンスだ。

 

「加賀さんが動いた……。」

 

 一方その頃、瑞鳳もその様子を搭乗員から逐次伝達されていた。

 

「私の艦載機も割いた方がいいかな?」

 

 瑞鶴は何度目かの艦載機の補給を行っていた。加賀に動きがないおかげで墜落した機体は一桁で済んでいた。ただ、村雨へ飛ばした機体に損害が多い。時雨が言っていたように響が落としているのだろう。

 

「まだ大丈夫だとは思うけど……。」

 

 瑞鳳が気がかりなのは榛名の観測機についていた護衛機だった。戻ってきて機体が喰われたら戦術が崩れる。

 

「隊長機の子とは連絡着く?」

 

 瑞鳳の言葉に瑞鶴は申し訳なさそうに答える。

 

「全く。」

 

 瑞鶴は何度も交信を試みたが、返ってきてはいなかった。二人はため息をこぼす。心なしか空の雲は少し大きくなっていた。

 

「瑞鶴ってあと何機戦闘機ある?」

「十二。直掩機が残ってるけど……。」

 

 瑞鳳は「だよねぇ…」と再度肩を落とす。心許ない数字だった。せめて練度の高い隊長機ぐらいは欲しいというのが双方の総意だ。

 

「加賀さんの艦載機の采配がわからないから怖いなぁ。」

 

 対空母の演習は艦載機の采配、練度で決まると言っても過言ではない。収容機数も各自異なるため個人の色が濃く出やすいのだ。加賀は搭載数が多い。瑞鶴と瑞鳳の数を合わせれば流石に上回るが、艦載機一機一機の練度に歴とした差がある。

 

「とりあえず敵の攻撃機が来るまでは待つしかないよ。後手に回った方が対処はしやすいはずだし。」

 

 瑞鶴は勝つために新人なりに頭を回していた。特訓で教わったこと、そして自主的な学習をした内容を思い出す。

 

ー情報さえ整っていれば後手でも十分に勝てる。

 

 どこにどの敵がいるのかを常に把握し、戦場を見渡せる状況にであれば勝利の兆しを見出せる。その状態を維持し続ける。

 

「焦らず、他の人達を援護しよう。私の艦載機も弱いわけじゃないし。全体で勝てればいいもん。」

 

 瑞鳳と瑞鶴、そして加賀の静かな上空での戦いは誰にも知覚されず、始まっていった。

 

 

 

 

 

 

 阿武隈は焦燥感に駆られていた。

 

ー夜が近い、このままだと。

 

 魚雷を出し惜しみせずに使っているのにも関わらず、阿武隈は自身の相手を捉えることはできなかった。

 

ーたった一人で戦況をひっくり返されちゃう!!

 

「まだまだコース甘いんじゃないの阿武隈?主砲で狙えちゃうんだけど。」

 

 川内の周囲では水柱が定期的に立っていた。その全てが阿武隈の魚雷の爆破だ。

 

「いつもの敵はそんなことしないからでしょ。普通なら当たってるんですけど?」

 

 魚雷を射撃して爆破させる事は演習においては珍しくない。珍しくはないのだが、甲標的からの魚雷まで把握しているのは理解不能。それが阿武隈の心の内だった。

 

「ま、私だから。」

「だ、か、ら、それが意味わかんないんだってば〜!!」

 

 川内の意地悪な返しに阿武隈は手に持つ主砲を振りながら答える。その反応を見て少しだけ川内は手の内を明かした。

 

「夜戦じゃ視界も不明瞭なんだから音で判別できないとダメでしょ? それを昼にも応用しただけ。」

「とことん夜戦バカなんだから……。」

 

 航行している時の音はどうするのだという疑問を呑み込み、阿武隈は戦闘を再開する。公式戦なら対戦相手と喋る事はないが身内戦なら許される。川内のスピードは未だ全力の半分程度だった。

 

「ほらほら、もっと攻撃してきなよ。」

 

 軽い煽り文句では阿武隈は取り乱さない。どちらかといえば空の明かるさが落ちていき、夜が近づいていることの方が大問題だった。

 

ーどこかで一発当てないと……。

 

 阿武隈は軽くなった甲標的を拾い上げて魚雷を補充する。妖精サイズだからこそ移動のついでに補給できているが、これが実物大になったらと思うと阿武隈は艦娘でよかったと安堵していた。甲標的に指示を出し、一度砲戦を展開する。だが、どう狙っても当てることができない。

 

「主砲が当たってないよ〜?」

「もうぅ、うるさい!」

 

 痺れを切らした阿武隈は最大戦速へ切り替えて距離を取る。背後が見えないのは良くないので途中で速度を零に切り替えて、慣性力に任せてバック航行する。

 

「逃げるの? まぁそういうわけじゃないんだろうけど。」

 

 川内もついてくる。阿武隈は速度が減る一方なため、追いつかれるのは必至だ。だが、その速度差を利用する気でいた。ある程度縮まったところで魚雷を放つ。そして速度をもう一度最大戦速へ切り替えて反航戦の形を作る。艤装に負荷はかかるが大規模改装したのだ。これぐらいではヘタレない。

 

ー相手は夜戦においては泊地一の強さを持ってる相手。

 

 阿武隈は川内に戦闘を仕掛けられた時点でどのように夜戦までに戦闘能力を削るか考えていた。中破までは欲しかった。

 

「夕立ちゃんに繋げて見せるんだから!!」

 

 魚雷と共にすれ違いざまに攻撃を行う。少なくとも重心移動ではどちらかの攻撃の回避には間に合わない速度なはずだった。阿武隈は鈍い痛みを感じ、それと共に航行速度は落ちる。けれども、せめて差し違えてくれという淡い期待を持っていた。

 しかし、阿武隈の思いは届かなかった。川内は高速のまま突然ほぼ直角の軌道で演習弾と魚雷を避けながら阿武隈へ主砲を当ててきたのだ。

 

「考えは良かったけど、想定が甘かったね。」

 

 そう語る余裕を見せ、バック航行からの足捌きだけで急ブレーキをかける川内の姿を阿武隈は見つめていた。ただ、その顔は絶望ではなく未だ期待のままだ。

 

ーあの魚雷はフェイク。お願い、当たって!

 

 川内の背後には甲標的が控えている、今までの阿武隈の行動は甲標的の射程範囲内に彼女を誘導するための行動。二段構えの仕込みだった。

 

「さてと、そろそろトドメでも。」

 

 阿武隈の計算ではあと数秒で着弾する。雷撃を撃つタイミングに揃えて甲標的には行動させている。発射音はいくらあの川内でも聞こえないはずだ。あと少し、心の中で阿武隈は呟く。

 だが、そのフェイクすらも看破された。川内のわずか後ろで爆発が起こる。

 

「え?」

 

 阿武隈は川内の実力を疑った。いくらなんでもズルすぎではないかと。しかし、実際はそうではないようだった。

 

「痛った〜……。小破かぁ。やるじゃん、阿武隈。」

 

 川内の反応は明らかに魚雷に気づいていなかった様子だ。では何があったのか、そう阿武隈は考えた。

 

ー魚雷の感度が高すぎた……?

 

 今になって考えてみれば川内は一度も射撃していない。ならば何が起きたのか。阿武隈の考えうる限りでは魚雷が勝手に先に爆発した以外なかった。だがその理由がわからない。

 求めているその答えは空にあった。

 

「普通なら大破してもおかしくないけど、瑞鶴に助けられたかな。鶴の恩返しってね。」

 

 川内の言葉で阿武隈は彼女の周囲を飛ぶ艦載機の存在に気がついた。加賀のものだと思って気にしていなかった艦載機は、瑞鶴のものだったのだ。

 

ー嘘でしょ。

 

 いくら航空戦力が不利であってもここまで艦載機が自由に動けるとは阿武隈には思えなかった。あの加賀が自由にさせるとは思えなかった。

 

「あれ? というかこれって……、榛名の観測機の迎撃に上がった隊長機だよね。」

 

 阿武隈は呆然と立ち尽くした。あまりにも衝撃の事実を、受け入れがたかった。

 

ー加賀さんの艦載機に勝ったってこと……!?

 

 弾痕の残るその機体は悠々と空を飛んでいる。燃料が少ないのか、そのスピードは速い。

 

「実弾を使えるのを活かして演習魚雷を撃ち抜くなんてやるじゃん。」

 

 その言葉に反応しているように瑞鶴の烈風は機首を上げながら横回転で捻り、渦を巻いて飛んでいった。その方角は日の入りを終えた西の水平線。太陽の残光はもう消えつつあった。タイムリミットがもう過ぎようとしている。闇と低温の夜の世界が海原を包み込む。

 

ー何もできなかった……。

 

 阿武隈の努力も虚しく、川内は口角を上げて言い放った。

 

「夜が来る。暴れさせてもらうよ!!」




空戦も書きたいなぁって思ってはいるのですがまだそれができる段階ではないので歯痒い思いです……。
次話はいよいよ夜戦です。視点は固定なので読みやすいかと思います。お楽しみに
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。