少し短めに済ませました(前の二話が少し長くなってしまった…)。
それではどうぞ。
「第二小隊は再度右翼に展開!重武装兵は正面で引き続き火力支援を頼む!」
「了解!!」
どれだけ戦ったか分からない。俺の体は疲労で悲鳴を上げていた。だが、それに鞭打って動き続ける。
「砲撃くるぞ!伏せろ!」
指示の怒号が飛び交う。相手は一撃で人間に致命傷を与えられるが、俺らは火力でもって破壊するか、防人によって効果的な攻撃を加えることでしか殺すことができない。唯一助かったと言えるのは敵の攻略艦隊は主力艦以外が小物であったことだ。恐らく南に火力を集めているのだろう。
「敵機だ!特殊兵装で撃ち落とせ!」
空襲に対しては黒い弾頭の弾薬、通称「征海弾」を使って対空射撃を試みた。的は小さいが耐久力はない。そこまで弾薬消費はなかった。
「明石、一旦戻ってこい!」
最前線で時間を稼ぎ続け、その後も主力艦を単独で撃破していた彼女はボロボロになっていた。これ以上は働かせなくていい。
「でも、まだ戦いは終わってない!」
そう言いながら何度目かの爆炎を上げて戦艦を一隻破壊する。身体能力に富む防人の身体と彼女の持つ破壊力を持った鈍器兼砲はとてもマッチしていた。素早い動きで撹乱しながら近づき、一撃で仕留める。完成された動きだった。
「いいから戻ってこい!もうスコアを稼ぐ必要はないだろう!」
俺の背後で宮本が声を張り上げるのが聞こえる。だがそれでも尚、明石は止まらなかった。
「だったら最後の一匹!」
明石は浜を駆け抜けて海の浅瀬で佇む青いオーラを放つ奴へと攻撃を仕掛けた。目に見える主力艦を大体片付け、海上にいる機動部隊しか脅威ではない以上、当然の行動ともいえた。砲の一撃を見切って避け、渾身の一打を振りかぶる。
「貰ったぁ!!」
その瞬間爆発が起こる。俺は何が起きたかわからなかったが明石が吹き飛んできたので状況を理解した。奴の後ろの海に新手の敵影が見える。
「増援か……!!だが」
俺はすぐに明石を引きずり、安全な場所を連れこむ。連続で砲撃が飛んできていた気がするが、その時は運良く生き残った。
「しっかりしろ!明石!」
肩と頬を交互に叩く。
「……ごほっ!ごほっ!!」
やはり防人である以上、頑丈と言うべきか。直ぐに意識を取り戻した。だが、咳に血が混じっている。限界だと俺は判断した。
「大丈夫か!今の爆発。」
複数の兵士が駆け寄ってくる。
「意識は戻った、それよりも増援だ!艦砲射撃に注意し」
懸念していたことが起こったと言うべきなのか、耳に響く轟音と共に強い衝撃を受けて俺は壁に叩きつけられた。
「……っ、畜生。」
被害を確認する。土煙で視界が悪いが宮本と明石が無事なのは見えた。先程まで居た兵士も無事だ。しかし日比谷がいない。
「日比谷!」
叫ぶと少し離れた場所から声がした。
「います!!」
恐るべき事態は起きていなかったため、俺は胸を撫で下ろした。その上で奴らのいる方角を睨みつける。
「他の部隊の被害状況は?」
俺は無線で聞いた。
『正面で掃射していた部隊と連絡が取れません!!』
心の中で俺は舌打ちをした。明石も動かせない現状、火力に欠ける。時間を稼ごうとしても戦力消費が激しくなるのは自明だ。
心臓の拍動の音が強く、速く感じられる。万事休す。そんな言葉が脳裏に一瞬浮かんだその時だった。海の方からまばらな砲撃音が鳴っているのが聞こえる。
「なんだ?」
俺は体に残る痛みに顔をしかめながらも今にも崩れそうな建物から顔を覗かせて海を見た。
そこで繰り広げられていたのは海戦だった。滑るように海の上を駆けながら深海棲艦に切り込んでいく集団が見える。
「援軍だ……!!」
隣で見ていた兵士からの歓声が上がった。そう、横須賀で顔を合わせた少女たち、いや艦娘たちが助けに来てくれたのである。それと同時に青いオーラを放つ奴の顔が歪んだような気がした。
陸地から見ていてもわかるほど、敵は迅速に殲滅されていった。俺としては館山湾の解放作戦を行なっているのと同時並行で大丈夫なのかと一瞬不安にはなったが、爽快感が打ち勝ったのを覚えている。それほどまでに俺は奴らへの憎しみというものを抱いていた。だが、その気持ちは俺だけの専売特許なわけではない。あの場にいた人間は誰もが感じる感情だと俺には思われた。
「ここで一気に畳み掛けるぞ!殲滅だ!!」
声を張り上げ、鼓舞する。忌々しい深海棲艦どもを潰す絶好の機会を皆逃さなかった。統率に乱れが生じている小物共から駆逐する。
「ガンガン弾薬使え!」
重く響く銃火器の音が戦場を支配する。俺が一本の弾倉を消費した頃にはポツンと孤立した人型の深海棲艦たちしか残っていなかった。
「あとはあいつらだけか……。」
勝利も確実となってきた現状、目指すは完全な全滅だった。
「私もそろそろ動けるかな〜。」
体をほぐしながらそう話す明石の動きは少しぎこちないものの、戦闘に支障をきたすほど重くはなかった。
「一人には荷が重いな。ある程度分担しよう。」
主力艦を一人で相手取ることができるのは防人だけだ。いくら対深海棲艦用の弾薬を持っていたとしても少数の助けがいることは変わらない。
「自分、隊長、日比谷を中核とした班を作って、対処すると言うのはいかがでしょう?そうすれば複数で同時に攻撃できます。」
宮本の提案は合理的だった。日比谷は何か言いたそうな顔をしていたが、やむを得ずそのまま採用した。周辺の兵士をかき集め、指示する。
「皆、生き残るぞ。健闘を祈る。」
そう言って俺は最後の仕上げへと取りかかる。数多の屍の上に築かれる勝利をこの手で掴むために。
俺は血の匂いのする浜へ一挙に躍り出た。艦娘たちとの挟撃によって小型艦は撃滅され、残骸だけが虚しく残っている。
「親玉は一度防人に任せろ!!俺らは他の艦を殺る!」
「了解!!」
付近の兵士達が呼応する。艦娘の砲撃で手一杯になっている奴から順に背後から鉛玉を撃ち込んだ。空虚な怨念混じりの声を上げながら爆炎に包まれていく。
「正面の敵にだけ集中しろ。他は別の部隊に託せ!!」
宮本と日比谷にはその両翼へ回ってもらうことになっている。広範囲で敵を殲滅する前線を作り出すのだ。その形成過程の時間稼ぎを、明石が大将を叩くことで実施するのだ。
しばらくして、艦娘に誤射が起きないように通信兵に先に秘匿無線を通じて意思疎通を済ませたから一斉砲火も可能となった。準備は万端だ。明石の爆煙を合図に俺は言い放った。
「斉射!撃て!」
無数の黒い弾丸が煙を切り裂いて奴らの元へと放たれる。その体へ射し込まれた弾みで無数の爆発となって致命の傷を与えるのだ。妖精の手によって底上げされた威力は容易く深海棲艦も絶命に至らせしめるものだった。続けて、俺の左右で同じような射撃音が聞こえてきた。
「やったか?」
一人の兵士が声を上げる。煙が晴れた先にいたのは装甲が破壊され、憤りの表情をしている親玉の姿だった。間髪入れず明石がもう一撃を叩きこむ。艦娘たちからも砲撃が浴びせられる。
「しぶといな。」
かろうじて立っている奴に反撃の力は残っていないようだった。勝利も目前となった現状、俺以外の兵士は少し浮かれているようだった。気を緩める雰囲気が少し感じられる。よくはないが、この勢力を相手にしてここまで戦ったのだ。喜ぶくらいは許してもいいだろう。
そんな時だった。日比谷に連れて来られた通信兵がやってくる。
「あの、彼が伝えたいことがあるそうで。」
そう語る日比谷の隣にいる通信兵は嬉々とした顔だった。
「何があった。」
俺の言葉にその場の空気が再度引き締まる。
「南の部隊からの連絡です。『作戦は無事完了した。我々の勝利だ』と。」
各地から歓声が上がる。だが、事は終わっていない。
「あとはあいつの処理だな。」
俺は海へ足を入れながら歩む。弾倉を交換した六四式小銃がほのかに輝いて見えた。明石が少し離れたところで見守っている。何かあればすぐ対処できる位置だった。
「………………」
だんまりを決め込むこいつに、俺は慈悲の余地はなかった。銃口をきっちり頭に向けて、引き金に手をかける。愉悦、それだけが俺を占めていた。
「これで終わりだ。」
その瞬間、日比谷の叫び声が背後から聞こえた。
「館山湾から撤退していく敵主力部隊が射撃したと無線に連絡が入りました。おそらく後四十秒ほどで着弾します!!」
すぐに俺は引き金を引いた。連鎖して爆発が起こる。けれでも、奴は倒れなかった。後々知ったことなのだが、艦娘によるとどめのみでしか沈めることはできないのだそうだ。あの時の俺は時間も僅かだったし仕方なく撤退することにした。どうせ敵の砲撃で死ぬ相手など、どうでもいい。殺しきれなかったのは残念だったが自身の命の方が大事だ。
俺が走って日比谷を追い抜くと、彼もまた走り始めた。階級など気にしなければいいのにと俺は思ったが、そう簡単に済ませるわけにもいかないのだろう。
「貴様…………ダケデモ…………。」
死を覚悟した奴は道連れを狙っていた。奴の背後に連結されていた大きな腕は俺を捕まえようとする。だがそれを見逃す人間ではない。軽々と避けて安全地帯へと走って向かう。俺の装備は重いが鍛えた肉体には苦ではない。
「っ!?」
だが、奴は同時に日比谷も狙っていた。少し後方でうめき声が聞こえる。
「日比谷!?」
俺の足は止まった。部下を見捨てて逃げる上官など言語道断。すぐに救援を試みる。慎重に征海弾で腕を狙えば日比谷でもおそらく振り解けるはずだ。
「走ってください!!時間がありません!!」
けれど、俺の行動を日比谷は拒絶した。
「だめだ!!お前を捨てて逃げることなどできない!」
叫ぶ声は少し力弱い。今戻ればギリギリ間に合うだろう。だが日比谷が死ぬ。かと言って助けられる可能性は限りなく低い。最悪両方が死んでしまう。どちらに転んでも救いようのない選択に俺は無力だった。
「行ってください!!あなたが生きれば僕が生きるよりも何倍も価値がある!!あなたのような人がいればこの国は必ず勝てる!!」
覚悟の決まっている目は、どこかで見たような目だった。そう、両親が俺と妹を守った時の覚悟と似たような。俺にはない、迷いのない心を彼は持っていた。
「さぁ、早く!!」
俺は急かされるままに背を向けて走り出した。日比谷が生きたことを俺が覚えている限り、彼が死ぬことはないと思って。しかし、その決意を固めるまでの時間が長すぎた。背後で砲弾の風切り音が近づいてくる。間に合わないことを俺は悟った。
—すまない。
数多の爆音が響く。背中に強い衝撃を受け、俺は空中へと舞った。そうして地面に打ちつけられ何かにぶつかって止まった時、俺の視界は暗転した。
そこで“神木鷹牙”の人生は幕を引いた。