北の艦隊興隆記   作:あおみかん

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冷たい中で

 月光はなく、波も高い夜に瑞鶴と川内は幌筵の港へと到着した。暗闇の中にひっそりと灯りが点っている港は雪化粧に包まれており、その白い雪はわずかな光を反射して陸地の輪郭を浮かび上がらせる。

 

「はぁ……流石に疲れた。今夜は夜戦はする必要ないなぁ〜。」

「同感です。」

「瑞鶴は夜戦できないでしょ。あと、敬語はやめてってば。」

「……確かに。」

 

 体に溜まった疲労は瑞鶴たちの歩く足を重いものにしていた。二人とも小破程度で済んでいるのが、今となっては奇跡に思えるほどに艤装の傷は多かった。判断を間違えば、この雪を踏みしめる感触はなかったのだろうかと瑞鶴は起きなかった未来へ思いを馳せる。

 しばしの間、瑞鶴と川内は語り合わず雪と格闘しながら泊地の庁舎へと向かっていると、外で誰かが話している声が聞こえてきた。白い床を踏み締める音しか捉えられなかった静寂の空間で、二人の耳の意識は自然とその会話へ向けられる。

 

「私も探しに行きマース!!」

「駄目だ。お前の艤装はまだ直ってないんだぞ。」

 

 会話の主は金剛と提督だった。どうやら言い合っているようで金剛の語気が強い。

 

「でも、これは私の判断ミスデース!!最後まで探してあげないト……!!」

「今は耐えろ。赤城たちだって捜索してるんだから。」

 

 金剛のうなだれる姿に瑞鶴と川内は思わず顔を合わせる。

 

「えっ……私ら……殺された扱いなの?」

「そうなの……かも?」

 

 困惑した二人はひとまず金剛たちに無事を伝えようと前に足を進めようとした。しかし、その瞬間庁舎のドアが開けられる。そこに立っていたのは剣城だった。歩み足は止まる。

 

「ここで言い合うのはやめてくれよ。これは作戦を立案した俺の責任だ。」

「いや、単冠湾(こっち)の問題だ。剣城が重く受け止める必要なんて……ない。」

 

 心なしか暗い顔の提督に、どんどん事が重大になっている気がする現状に、瑞鶴と川内は出るタイミングを完全に逃してしまった。仕方なしに二人は路傍に寄せられた雪の影に隠れて様子を伺う。晴れていた星空も、今はその姿を隠していた。

 

「これ……どうするべきだと思う。」

「わからない……。」

「だよねぇ……。」

 

 川内も経験したことのないことなのか、声に自信がなかった。瑞鶴は言うまでもない。その間も話は進んでしまっていた。

 

「作戦は——」

「捜索と並行でやるに決まっているだろう。俺がそんな薄情な真似をするか。」

 

 剣城も提督に同情しているのか、いつもの調子ではなかった。

 

「…………」

 

 だが、それ以上に心理的ダメージを受けているのは金剛だった。剣城の目線も、どちらかといえば金剛に固定されている。旗艦であった彼女が一番負い目を感じているのは火の元を見るよりも明らかだ。

 

「とりあえず今は休息してくれ。俺の艦隊も一部捜索に回してるんだから。」

「だそうだ。金剛、立てるか。というか外は寒いんだから中に入った方がいい。」

 

 提督の催促に、剣城の説得に納得した様子は見せていなかったが金剛は立ち上がって指示に従った。パタンと閉められたドアの外に残されたのは亡霊とほぼ等しくなった瑞鶴と川内だけだった。

 

「これ、本当にまずいんじゃ。」

「このままだと遺体無しの水葬コースかな?」

 

 もはやこの状態を面白いと感じてしまったのか、川内は暗闇の中でうすら笑いを浮かべていた。悪い顔だ。瑞鶴はギョッとしながら答える。

 

「疲れてたんじゃ……?」

「そうなんだけどさ。」

 

 そう言って白いため息を吐く川内の眉には少ししわがよっていた。茶化せるほどの余裕がないのである。そんな問答をしていると、またドアは開いた。それに合わせて二人は静かになる。立っていたのは提督だった。戸当たりに体を預けて腕を組んでいる。

 

「……はぁ……。」

 

 ドアからこぼれる光から読み取れる顔は呆れていた。目を細めて暗闇へと話しかける。

 

「趣味が悪いぞ、川内。」

「あ、バレてた?」

 

 川内は申し訳なさそうな気概も見せず、軽く返事をして躊躇いもなく前に出る。それに釣られるような形で瑞鶴も姿を見せた。他者に自身の疲労を見せない川内に、瑞鶴はどこか優しさを感じた。

 

「全く……どれだけ心配したかと——」

「別に任せられた仕事をしてきただけなんだけどなぁ。」

 

 提督の声を遮って川内は答える。やや被せ気味だった。

 

「……とりあえず無事なのは何よりだ。先に艤装を預けてこい。話はその後だ。」

 

 不満げな顔で提督はそう言うと、瑞鶴の姿を一瞬一瞥してまたドアの向こうの世界へと行ってしまう。またもや残された二人は顔を合わせた。結局、除雪された狭い道を一列で歩くことになった。

 

「なんかちょっと……怒ってた。」

「瑞鶴も分かった?」

「うん。」

 

 川内は頭の後ろに回す。

 

「……流石に無茶しすぎたか。」

「まぁ……。」

 

 後ろに瑞鶴の言葉は続かない。達成感というものに付随した微かな罪悪感がそこにはあった。

 

「後で金剛に怒られると思う?」

「さぁ。」

 

 何もかもが瑞鶴には分からなかった。川内に腕を引っ張られた時にそのまま逃げてしまえばこうはならなかったのだろうか。そんな思いが頭によぎる。自分自身の判断に自信が持てなくなってきていた。仲間のために敵に殺意を抱いた己を誇っていいのか、分からなかった。

 

「ま、そんなことよりも……。」

 

 川内は瑞鶴の方へ振り返る。その目には好奇心が映っていた。

 

()()()、どこで身に付けたの?」

 

 不意の質問に瑞鶴は上手く答えることができなかった。何を聞かんとしているのかは分かっていたのだが、説明が浮かばなかった。無意識の中でヲ級や艦載機の動きが手に取るように分かっていた。今までは美しいとだけ思っていたあの烈風の空戦軌道を、合理的な存在として認識していた。そのきっかけとなるものはなんだったのか、瑞鶴は自分になりに言葉にする。

 

「う〜ん……。なんか『今、やらなくちゃ』っていう思いなのかな。そんなぼんやりとしたものだけど、それが頭の中に浮かんできて。そこからはもう体が勝手に動いてて……。」

「そんな曖昧なものじゃ、分からないってば。」

 

 苦言を呈しながらも、川内は理解に努めようとしていた。夜戦の師弟関係にあった夕立が似たような事例を抱えていたからこそ、その眼を解き明かす鍵を模索する。瑞鶴の成長のためにも必要なことだった。

 

「こう……感情の衝動っていうのかな〜。根幹にあったものを聞いてみたいんだよね。」

 

 かの駆逐艦は「夜戦の楽しさみたいなものっぽい」と語っていた。この経験から川内は、瑞鶴なら使命感や責任感からきたのだろうと当たりをつけていた。そして、それを期待していた。

 

「…………殺意。」

 

 だが、静かに言い放たれた言葉は予想もしていなかったものだった。

 

「へ?」

「殺意だよ。敵に対する。」

 

 冬の夜の空気よりも冷え切った、深い深い殺意。憎しみとは違う、冷静でありながら不気味なほどに他の者を萎縮させうるその感情が瑞鶴の全身に力を与えていた。それだけは分かる。

 

「そんな物騒な感情持ってたの!?」

 

 まさか瑞鶴がそんな事を言い出すとは思っていなかった川内は冷や汗をかいていた。

 

「悪い?」

「いや……なんかあんまり聞いた事なかったから。」

 

 深海棲艦は人間ではない。だから殺人ということにはならないのだろうが、それでも海の生命体として捉えるのならば殺すということにはできる。川内は昔考えた意味のない論を掘り返されたような、そんな気分だった。

 

「まぁでも、それだけの感情を持ってたんだろうな。」

 

 敵意の方向がもし川内に向いていたら、あの時点で迷わず主砲を撃っていたかもしれない。夕立と同じような変化の仕方でも、その時に抱いた感情は全く違かった。瑞鶴は川内の独り言の意図が読めずにただ戸惑うばかりだった。

 そうして、別の話題も交えて話しながら歩いていると倉庫のような見た目の施設にたどり着いた。桟橋まで戻ってから少し歩くために、足は鉛のように重かった。日が落ちていたのもあって休んでいた妖精たちが二人の顔を見て、慌てた様子で装備を受け取る。身軽になれば向かうのは当然、入渠施設だ。

 艤装からのサポートを受けなくなると、途端に全身が強張っていう事を聞かなくなる。浴場に至るまでの行為にかかる時間はいつもの倍ほどに膨れ上がっていた。二人はそうして手間取りながらもドアを開ける。その先にあるものに期待を寄せていた。

 

「初めて使うんだけど……どう思う、これ。」

 

 キャビネットと曇った鏡のついた腰壁の先に見える、幌筵島の入渠設備は質素なものだった。大傷を治せるレベルのものは標準的な数で二桶あり、通常のものは単冠湾とは規模も数も劣っていた。頑張った自負があるだけに川内にはやや不満が募る。

 

「ちょっと……狭い?」

「だよね?」

 

 湯気の立ち込める浴場は視界が悪かった。外の空気がどこからか入っているのか、若干寒い。瑞鶴は備え付けの椅子を借りて、海風にあたった髪や体を洗い流す。お湯は温かった。

 

「瑞鳳と時雨はもう入渠自体は済ませてるみたい、残念。」

 

 お風呂に入るための禊ぎを終わらせ、二人は比較的大きい石製の浴槽へと向かう。

 

「ん〜?」

 

 それぞれが入ろうとしたその時、先客は動いた。

 

「あれ……? 貴女たち、単冠の——」

「えっと、瑞鶴です。」

「それは分かってる。そうじゃなくて椃木先輩がずっと探してた。」

 

 幌筵の長である提督、中津原とその秘書艦である叢雲がその浴槽のお湯に浸かっていた。予想外の来客なのか、双方とも驚いた顔をしている。

 

「もう会ってきたよ。だから大丈夫。」

「それならいいんだけど……。」

 

 川内の返答に叢雲は怪訝な顔を示しながらも、場所を少し明け渡す。瑞鶴もそのスペースを利用した。

 

「一時間半前は大変だった。会議室がお通夜みたいでもう空気は最悪だし、高速修復材使うことになってここも慌しいし。」

 

 川内と瑞鶴が腰をかけると、ため息混じりの愚痴がこれみよがしと中津原の口から飛び出す。その口ぶりと庁舎前の一件から、瑞鶴は容易にその様子が想像できた。同時に謝罪の念が浮かんでくる。

 

「本当、何してたのよ。貴女たちのお仲間さんは意気消沈よ。」

「別にただ殿をやれって言われたからそれをしてただけ。ね、瑞鶴。」

 

 実際の事実であるために川内から同意を求められて瑞鶴は頷き返すことしかできなかった。浴槽のふちに寄りかかって体を伸ばす川内の姿には戦闘時の緊張感は全く感じられなかった。

 

「ふーん。まぁ終わったことだしいいんだけど。それで……二人はいつからの付き合いなの。仲よさそうに見えるけど。」

 

 中津原はそうやって純粋な疑問をやや強引に二人にぶつける。暇を持て余していた彼女は話し相手が増えたことを嬉しく思っていた。川内がはきはきと答える。

 

「そんなだよ。第二遊撃部隊ができてからだし、そもそも瑞鶴が来てから四半期も経ってない。」

「そうなの。色々と珍しい。」

 

 彼女はどこか空気の読めない人間だった。ふわふわと着地点の見えない感情の起伏の無さに隣にいる瑞鶴は意識が持っていかれる。

 

「えっと……幌筵の提督はうちの提督とはどれぐらいの関係なの。」

 

 川内はその呼び名に困りながらも問い返す。中津原は躊躇いもなく答えた。

 

「三年以上。あと、中津原さんでいい。提督呼ばわりするのはこっちだけ。」

 

 そういって中津原は叢雲の頭に手をポンとのせる。

 

「ちょっと。」

 

 嫌がる素振りを見せながら、叢雲はゆっくりとその手を振り払った。

 

「ヘ〜。そんなに提督と関係長いんだ。」

 

 川内は意外そうな顔で中津原の返答を受け止めていた。瑞鶴を間に入れて行われる会話に若干肩身が狭い思いをする。

 

「うん。あの人、今と違ってもっと怖かった。この世のすべての闇を見てきたような顔してて。目に生気がなかったなぁ。」

「えっ、そうなの?」

 

 瑞鶴も川内もその話に食いつく。瑞鶴が無意識に右を向くと、思いの外距離が近くて気まずくなる。中津原は意にも介せず話を続ける。

 

「そう。なんか、全身から怒りが伝わってきてた。何かにずっと怒ってて、憎んでる。」

「そういえば、さっきもなんかちょっと怒ってたって瑞鶴言ってたな。」

「そうなの?」

 

 今度は中津原から顔を寄せられ反応を求められて、瑞鶴はたじろぎながらも答える。

 

「自分に思い通りにならなくて怒っているのか、それとも心配してたのにふらっと現れた川内さんに怒っているのかはわからなかったんですけど。でもちょっとムスッとしてました。」

「う〜ん。それとは多分違う。もっと、鋭い怒りっていうか——」

 

 言葉選びに悩んでいるのか、そこから声が続かない。川内は思い付いたかのような顔で聞いた。

 

「殺意?」

「そう、それ。」

 

 中津原は納得し、共感したような表情で反応する。瑞鶴はその表現に耳を傾ける。

 

「誰かを殺したい——。そんな感じの雰囲気を持ってた。剣城先輩は全く知ろうとしなかったけど。」

「あの人、そういうのは疎そうだもんね。」

 

 笑いながら放つ川内の言葉を、中津原は違和感があるのか首を傾げる。代わりにそれを叢雲が否定する。

 

「疎いんじゃなくて、()()()()()()のよ。うちのちょっとポンコツな提督ですら分かる感情を、あの人がキャッチしてないわけないじゃない。」

「え、うっそだ〜。単冠に来るときのあの人なんかどこか抜けてたよ。実際、演習用のドローンのミスやらかしてたし。」

 

 その指摘を中津原と叢雲は苦笑いしながら受け止める。中津原はポンコツと言われたことに若干ショックを受けており、叢雲は演習用ドローンのミスをしていたことに言い返すことができずにいた。

 

「……まぁでも、剣城先輩が人の気持ちが分からないっていうのは全否定はできないけど、肯定もできない。大湊の提督が務まっているのは、そういう部分もあるはずだから。」

「そういうもの……か。」

 

 未だ消化しきれずといった様相を示す川内はお湯に顔の三分の一を沈める。

 

「提督も大変な時期があったのは知ってたけど。そんなに違かったなんて……考えられない。」

 

 掴みどころのない湯気はふわふわと漂い続ける。この場にいる四人が、彼の核心に迫る過去を知っていなかった。

 

「う〜……。流石にのぼせそう。」

 

 中津原はそう言って立ち上がる。フラフラと滴る水滴は入口へと続いていく。

 

「叢雲は上がらないの?」

「大体の子が長風呂なの知ってるでしょ。それにあの人、更衣室でダウンしてるからほっとけばいいの。」

 

 そう語る彼女は空いたスペースを詰めて座る。しばしの静かな時間が流れた。お湯の流れる音が柔らかな響きを浴場に満たさせる。瑞鶴はずっと先の戦闘のことを思い返していた。

 

「あのさ、ここだけの話なんだけど——」

 

 そんな時、川内が不意に神妙な顔つきで話し始める。訝しげな表情を浮かべる叢雲の間に挟まれる瑞鶴はその話に興味を抱いた。

 

「『深海棲艦が進化する』っていうの、叢雲は信じる?」

「何よその胡散臭い話。」

 

 瑞鶴は川内の言わんとしている事を理解した。

 

「ん〜。なんか倒しても立ち上がってくるというか、感情に動かされて強くなってるというか……。」

「アイツらに感情があるなんてまだ思ってるの!?」

 

 信じられないと言った表情で叢雲は川内に視線を向ける。

 

「そうとまでは言ってないって。でも南方の敵って言われてもおかしくない強さだった。」

「はぁ……。それに手こずったってことね。」

「そうゆうこと。」

 

 瑞鶴は蚊帳の外のような会話だった。元々面識があったのかは定かではないが、この空気感に馴染めないのは確かだ。しかし、間に座っている以上それらと向き合わなければいけず瑞鶴は口を一文字に結びながらも場の空気を伺っていた。機会はすぐに訪れた。

 

「瑞鶴がいなきゃ多分、死んでたよ。夜まで持たなかった。」

「本当? 私、あんた——じゃなくて瑞鶴……ってまだ建造されて期間経ってないって聞いたけど。」

 

 叢雲と顔は何度か合わせているが、喋るのはこれが初めてだった。呼び捨てることに抵抗があるのか、一瞬言葉が少し詰まる。

 

「全部本当。でも私だって川内がいなきゃ勝てなかったと思ってるよ。一人だけで勝てたわけじゃない。」

 

 瑞鶴は川内さんといいかけたがなんとか踏みとどまる。心の距離があるわけではないが、赤城や加賀が丁寧な口調なためによく引っ張られてしまっていた。そろそろどうにかしないとなとは思っていたために意識して改善した。

 

「すぐ謙遜するんだから。これが改装受けてからどうなるかな。」

「ヘ〜、まだ受けてないのね。大型艦って使うこと多いから改装するのも早いって聞くけど。」

 

 初耳の事実に瑞鶴は首を傾げる。

 

「そうなの?」

「えぇ、うちの提督が言ってたわよ。『とりあえず採用するから経験がどんどん積まれていくことが多い』って。」

 

 語勢に抑揚のない口調を真似する叢雲は、彼女の秘書艦なのもあってか非常に特徴が捉えられていて酷似していた。

 

「まぁ確かに提督が水雷戦隊使っているところ見たことないからね。私が旗艦になる事は少ないからいいんだけどさ。」

「どうせ夜戦演習以外ならないのと、そっちの練度自体がもう十分に高いからでしょう。前の前の合同で演習やった時死ぬかと思ったわよ。」

 

 ため息をついて叢雲はそう語る。夜戦と言うものに参加した経験が非常に薄い瑞鶴にはイメージが全く持ってつかなかった。

 

「あれは全部夕立のせいだから。ノーカンノーカン。」

 

 また置いてけぼりになった気がした瑞鶴は温泉に顔を沈める。それを見た二人はその時に気づく。

 

「さすがに喋りすぎたかしらね。私はもう上がるわ。」

 

 そういって叢雲は浴槽から立ち去る。川内と瑞鶴も顔を合わせて、出ることを決意した。

 三人が更衣室に戻ったとき、長椅子に中津原はタオルを引いて寝っ転がっていた。扇風機が当たる位置に移動されている。

 

「そういえば……。提督呼んでなかったっけ?」

 

 瑞鶴は記憶の片隅に残っていた言葉を思い出す。川内も気がついたのか深呼吸して答える。

 

「そうだった……。これ怒られるかもなぁ。」

「何やってんのよ……。このまま外行って髪凍らせないようにしなさいよ?」

 

 呆れた声でそう言いながら水気を取り除く叢雲とゆっくりしている中津原とは対照的に、川内と瑞鶴はそそくさと外に出る準備を済ませようとドライヤーに手を伸ばした。

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