北の艦隊興隆記   作:あおみかん

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北の異変

 瑞鶴と川内が帰投した三日後、二人はそれまでに金剛と赤城にこっぴどく小言を言われたのちに幌筵の作戦会議室にやってきていた。議題は特殊な深海棲艦と北方最深部の調査結果についてである。瑞鶴たちの出会った敵に関して、朝から事前に聴取を取った上での会議だった。

 

「復活する装甲と……進化する兵装。」

「あぁ。この現象は一応、南方海域に前例が見られるがどれも姫級……元々強力な個体ばかりだ。」

 

 剣城が結果をまとめた資料を二人の提督に手渡した上で進行する。提督三人と秘書艦たちがテーブルを囲み、他の艦娘たちは壁際に立って会議の様子を見守っていた。

 

「今回、北方の全域にかかる形で殲滅作戦を展開したわけだが、この想定外の存在が現れたせいでますますこの海域のパワーバランスが読めなくなった。」

 

 困ったといった顔こそ見せてはいないが、確実に深刻なものとなると受け止めている表情を剣城は見せていた。

 

「だから作戦が終わってからもまだここにいるわけか。」

 

 提督の問いかけに剣城はうなずく。

 

「ああ、だからこのまま攻略は続行だ。」

 

 瑞鶴はその時、叢雲と中津原がそれを了承したのか顔を見て確認した。どうやらどこかで既にすり合わせ自体は終わらせていたのか、何も言わない。

 

「とはいえ資源負担の件もあるからな。一旦、備蓄や戦力の移動を行ってからにしようと思っている。」

「……そんな大した消費はしてない。ありがたいけど。」

 

 相変わらずの無感情な口調で中津原は答えた。そんな中、提督が軽く手をあげて発言する。

 

「なら……俺は単冠湾に戻ってもいいか。」

「何か用事でもあるのか?」

 

 剣城はすぐに理由を問う。

 

「いや、長く泊地を開けるのもどうかと思ってな。そっちは戦力が豊富だからいいが、こっちは主力が一応引っこ抜かれてる。帰ったら襲撃されてましたはごめんだ。」

 

 その答えに剣城は深く頷いた。

 

「そうか、分かった。」

「少し戦力は減るが、一応赤城たちは残しとく。自由に使ってくれ。」

 

 そう提督が言うと加賀の視線が彼に向いていたことに瑞鶴は気がついた。その眼差しに宿る何かはわからないが、眼光は鋭く険しい。

 剣城は続けて偵察結果を場に共有し始めた。

 

「それで昨日、殲滅戦が終わった時に少し深部の島嶼部について調べてみたんだが……。どうやら厄介な敵が潜んでいることが判明した。」

 

 高高度から撮られたのであろう一枚の写真が見せられる。雲の合間から見える島には基地のようなものが映っていた。

 

「これって……」

 

 叢雲の言葉に剣城はコクリと首を傾け答える。

 

「敵の基地だ。しかも結構大規模の……な。」

「ここを奪ったときぶりですか。」

 

 赤城が目を細めて言うと、提督も共感する。

 

「そうだな。見た感じは。」

 

 剣城はそれらを受けて情報を付け加える。

 

「とは言っても別に奪還が目的じゃないぞ。この敵泊地は遠いしどちらかと言えばそこへ補給を行う部隊を叩く方が効果的だろう。」

 

 長くなりそうな会議に身の入らない瑞鶴はうんざりしながら横を見ると、意識をどこかに飛ばしてしまっている川内とあくびをしている飛龍の姿が見えた。退屈なのは自身だけじゃないと分かって少しホッとする。

 

「……これって多分姫級がいるんじゃないかって思うけど。それは放置するの?」

 

 中津原は剣城の手から写真を取ると、じっと見てそう言った。

 

「まぁ十中八九いるだろうから、対処については考えるつもりだ。先に進めば進むほど南方で見るような強力な個体が出てきたわけだし一度潰しておかないと痛い目をみそうだからな。」

「そうなると準備期間が必要そうね。」

 

 矢矧の言葉に秘書艦も周りで見ている者も共感の意で包まれた。剣城も顎に手を当て思考する。

 

「索敵を何度か行って、その上で色々やるべきか……。中津原には結構、負担をかけることになるかもしれんな。」

「いいよ、それぐらい。距離的にもここが一番動きやすいのは知ってるし。」

 

 それには、中津原に合わせて叢雲も頷いていた。

 このような話が続くのであれば、秘書艦だけで良かったのではという印象を瑞鶴は受けたが、どうやら事態はそう簡単に捉えられるほどに単純ではない。

 

「それで、この作戦をするにあたって一応強力な個体に出会った二人からも情報共有をしてもらいたい。当事者の感想が一番伝わりやすいだろうからな。」

 

 突然、話が剣城から振られてくる。一瞬瑞鶴は戸惑ったが、その横にいる川内が歩み出る。いつ起きたのかわからないままであっても瑞鶴はそれに続いた。

 

「とりあえず……、先に私から。」

 

 川内があくびをかみころして先に口を開く。視線が集まる空間に瑞鶴は息を呑んだ。

 

「最初、敵を普通に追い詰めてたんだけどトドメをさす途中で駆逐艦が邪魔をしてきたの。そこから二体のヲ級の様子が変わって、改になった。」

 

 別にここまでは問題ないといった口調で川内は淡々とその時の状況をかいつまんで話す。どこからが問題なのかは瑞鶴も分かっていた。

 

「それで一旦逃げてから分けていた部隊を合流させて、殿をすることになったんだけど。その後、すぐに一体のヲ級改は処理できたのよ。」

 

 感心した様子の矢矧の顔が瑞鶴から見える。

 

「話にも出てたけど、ここからが本題。残った方のヲ級の装甲が復活して、それでいて新しい艦載機を出し始めたの。まるで怒って力を引き出したみたいに。」

 

 ざわつきはしないが重く受け止めているのであろう周囲の反応に、川内は軽い口ぶりではなく若干大袈裟に思えるほどに静かに語っていく。

 

「真面目な話、強力な制空力を持った艦載機じゃないと多分あれは勝てないと思う。一体だけなのに物凄い圧を持ってたから。」

「それは……この場にいるやつでも不可能なぐらいか?」

 

 提督の質問に川内は躊躇わずに答えた。

 

「可能にした子はいるでしょ、横に。」

 

 親指でさされた瑞鶴の方に焦点が当てられる。恥ずかしいと思う間もなく質問は飛んできた。

 

「なら、艦載機の強さっていう部分では瑞鶴に聞いたほうがいいんだな。わかるか?」

「えっと––––」

 

 瑞鶴は一瞬口ごもりながら脳裏に戦ったときの印象を浮かべて言葉をひねり出す。

 

「まず、単純な物量がすごい増えていました。機体の性能も多分高いです。」

「多分っていうのは……?」

 

 剣城からの問いかけに瑞鶴は苦笑いで答えるしかない。

 

「その……最終的には全部落としちゃったので分からないんです。母艦がいた時は厄介だったんですが、それを倒してからは統率があまり取れていない様子だったので。」

 

 瑞鶴には無音のため息が一部の艦娘からは感じられた。しかし剣城や中津原の提督陣は興味深そうな印象を受けているようにも思われた。

 

「それって……ヲ級が艦載機に指示を出していたってことだよな。」

 

 提督の反応に剣城が乗っかってくる。

 

「そうだな。今まで敵も弱かったから確かめることもなかったが。やはり上級の個体になってくると戦闘で()()を利用している可能性があるんだろう。」

 

 その口調に会議室の空気が一瞬変わる。動じなかったのは提督たちと加賀、そして川内だ。

 

「知性……ねぇ。」

 

 中津原の声が静かに響く。提督は剣城の仮説を全く気にせずに発言する。

 

「まぁ、知性を持ちうるだけでも俺は結構厄介だと思うがな。」

「それはそうだな。」

 

 瑞鶴は続けて、敵の艦載機の見た目やどのように沈めたかに至るまで事細かに剣城からの誘導を受けながら答えていった。淡々と答えながら、ただ虚空を見つめることしかできなかった。

 

 

 

 

 

 数時間後、長い質問責めから解放された瑞鶴は疲れて風呂に入っていた。外の吹雪であまり屋外には長時間出れないため、貴重な憩いの場所だった。

 

「はぁ……。」

「どうかしたの?」

 

 傷を治してすでに元気になっていた瑞鳳が微笑みながら瑞鶴に話しかける。

 

「ずっと話してて疲れちゃった。」

「それはお疲れ様だね〜。川内さんが愚痴ってたのを見てたけど、本当に長かったんでしょ?」

「うん。」

 

 瑞鶴は顔を温かいお湯の中へと埋める。芯から温めてくれる存在は、色々とくたびれた体に染みた。すると背後でドアの開く音と共に聴き慣れた声が聞こえてくる。

 

「あれ、先客いたんだ。」

 

 振り向くとそこにいたのは飛龍と矢矧だった。どちらもあの会議室にいた者だったので、瑞鶴はさっきの言葉が聞かれていないか一瞬心配になったがそれは杞憂に過ぎない。

 二人は十分なかけ湯を行った上で湯船に入ってきた。

 

「この前は心配したんだからね。帰ってこないって言われたときはどうしようって本当に焦ったんだから。」

 

 先日の騒動の一件から瑞鶴は少し注目を買うようになってしまっていた。といっても北方の地域内なのでそこまで恥ずかしいわけではないのだが、それでもまだ青二才である自覚がある故に肩身は狭かった。

 

「でも、よくあの川内が苦戦するって言った相手を撃破できたわね。」

「艦載機の子達のおかげと、ただ単に運が良かっただけです。」

 

 その瑞鶴の答えに矢矧は怪訝な顔をする。

 

「本当に? 結構貴女、実力をごまかすから分からないのよ。」

「確かにねぇ。演習で相手した時も普通に強かったと思うし……強い艦載機を的確に使う能力だってちゃんと実力だよ。」

 

 褒められているはずなのに瑞鶴はどこか気は晴れなかった。

 

—結局、あの力はなんだったんだろ。

 

 自分自身の力ではないと言える根拠は全てそこにあった。導かれるようにして行ったあの策は借り物に過ぎない。あの時に聞こえた声が誰のものなのか、それが気になっていた。

 

「まぁでも、とにかく無事で何よりよ。」

「そうそう。」

 

 横に座っていた飛龍がにっこりと笑って腕を徐に瑞鶴の肩に回す。

 

「帰ってこれたっていう自信は持ったほうがいいんだから。」

 

 珍しく微笑んでいる矢矧の顔が近くなり、瑞鶴は飛龍の柔らかい感触が頬に感じられた。

 

「でも、実際どうやって突破したの? 聞いてた限りだと物量でも機体性能でも負けてたっぽいんでしょ。いくら艦載機の練度が高かったとしても一筋縄では行かないと思うんだけど。」

「それは……。」

 

 瑞鶴だけの力ではないから可能だった。川内がいたから勝てた。ただそれだけ。

 

「川内さんが頑張ってくれたからです。」

 

 目を落とした先の水面はわずかなため息で微かに揺れていた。自分の実力とも言い切れない今が、もどかしかった。

 

「つまり、二人で勝てたってことね。いいじゃない!」

 

 明るく受け止めてくれる飛龍が今は瑞鶴にとってありがたかった。

 

「あっ……そういえば、提督が泊地に戻るって言ってたんでしょ? 私たちはこのまま残るってこと?」

 

 そんな中、瑞鳳が不思議そうな顔で瑞鶴に聞いてくる。その答えを持っていたのは矢矧だった。

 

「後で詳しいことを伝えるつもりだそうよ。」

「そうなんだ。」

 

 剣城の秘書艦である矢矧ならその情報にも信憑性がある。疑問がなくなった瑞鳳は浴場の蒸気で結露して何も見えない窓の方を向いて、深くお湯にまた浸かり始めた。

 そんな中、飛龍がパッと瑞鶴の首にかけていた腕を離すと言った。

 

「それにしてもあの人も謎よね〜。」

「誰が。」

 

 矢矧の間のない問いに飛龍は笑いながら答える。

 

「そんなの瑞鶴たちの提督に決まってるでしょ〜? うちの提督と長いこと付き合ってるのは知ってるけど、全く心の内側が見えないのよね。」

「まぁ……それには同感できるわね。」

 

 瑞鶴は不意に提督がどのように思われているのかが気になった。

 

「その––––二人ってどれぐらいの時から私たちの提督を知ってるんですか。」

 

 どちらも顔を合わせると、先に飛龍から答える。

 

「単冠湾を奪ってからぐらいかな〜。それまでは電ちゃんと加賀さんしか部下にいなかったって聞いたけど。」

「私は着任が飛龍より遅いから秋季演習が初めての接点ね。でも……今よりもう少し感情が薄かった記憶があるわ。」

「あっ、それは分かる〜。冷たいロボットみたいって言えばいいのかな?」

 

 中津原から聞いた時とはまた違った視点ではあるが、やはり共通点があった。

 

「えっと、それは」

「赤城さんと夕立ちゃんが二連覇した時ね。自分のところが勝ったのにあんまり喜んでなくてびっくりしたもん。」

 

 赤城の全盛期。といっていいのか定かではないが彼女が第一艦隊の旗艦をするに足る存在になった時のことなのだろうと瑞鶴は容易に想像がつく。

 

「提督は矢矧が勝った時は大喜びだったからそれもあって余計に異様に見えたなぁ。元々勝つって分かってたとしても普通は喜ぶと思うし。」

 

 その飛龍の言葉を受けた時、瑞鶴には中津原の何かに怒っているという言葉が引っかかっていた。脳裏に、喜びを上回るだけの重い感情を持っているのだという一つの仮説が浮かび上がる。

 瑞鶴は情報を得るため、瑞鳳にも聞くことにした。

 

「瑞鳳は知ってる? 提督の昔。」

「ううん、私が来たの矢矧さん達の言ってる時期のもうちょっと後だから。」

 

 瑞鶴は時間間隔で一瞬、混乱した。そんな様子を汲み取ったのか、飛龍は丁寧に瑞鶴に教えてくれる。

 

「う〜んっと、私が六年前に建造されて。矢矧は五年前。瑞鳳ちゃんは……」

「三年前ぐらい。ちょうど単冠湾が戦力拡充をしようとしてた時期だったはず。」

 

 そう言われて瑞鶴も理解が進んだ。そして同時に経験量の差というものを深く思い知った。まだ未熟者なのだという自覚が湧いてくる。

 

「まぁでも、瑞鶴はまだ半年も経ってないんでしょ? 普通ならまだ実戦にも出ない時期なのに上手くやってきてるんだからすごいと思うけどね。」

「私もそこに関しては敬意を払いたいわね。貴方、加賀さんの戦闘機を負かしてるんでしょう。どれだけ凄いことかはわかっていなさそうだけど。」

 

 矢矧の指摘に飛龍が血相を変え、瑞鶴の肩をつかんで揺さぶってくる。

 

「本当に!?」

「そうだよ〜。ちゃんと私見てたもん。」

 

 長い間お風呂に浸かっていたところにと揺さぶられたことによってまともに応答できない瑞鶴に代わって瑞鳳が答える。ぱっと手を離して、信じられないと言った顔で飛龍は言った。

 

「だってあの人、十年前以上からいるって噂があるぐらいの大ベテランでしょ。そんな人の艦載機を負かすって、すごいどころの話じゃないって。」

「でもあの時は、ただ見ているだけしかできませんでした。応援することしか。だからあれは搭乗員の子が頑張ってくれたおかげの話です。それが多分……、私がこうして戻ってこれた理由だとも思ってます。」

 

 頭がクラクラする思いがしながら瑞鶴はそう返した。実際、頑張ったのは己ではないのは事実だ。瑞鶴自身の経験が加賀を上回ったとは思えなかった。

 

「帰って来れたっていうのは本当にそれだけで説明できることなのかしら。」

「っていうのは?」

 

 その矢矧の独り言に飛龍がすかさず反応する。

 

「川内から聞いたけど、瑞鶴、貴方隠し事があるわよね?」

 

 心当たりしかない。今すぐにでも出たい気分になった瑞鶴はしれっと立ち上がろうとしたが両肩を掴まれる。

 

「何……それ?」

 

 飛龍と瑞鳳の純粋な疑問の眼差しが深く瑞鶴に突き刺さる。逃れることのできない宿命に抗う間もなく、なすがままにするしかなかった。

 

「眼の……事ですよね。」

「そうよ。どこで身につけたのかわからないんでしょう?」

「はい」

 

 好奇心がくすぐられるのか、飛龍の表情がより明るくなる。

 

「あの——感情が昂ると覚醒しちゃいます的なやつ?」

 

 そうなのかが分からない瑞鶴は反応に困った。

 

「た……たぶん?」

 

 呆れたため息を吐いて矢矧が飛龍を静止する。

 

「終始冷静だったそうよ。というか、感情に呑まれて判断ミスをする方が困るでしょう……。」

 

 落ち着いた指摘に「たしかに」と飛龍は相槌をうつ。実際、自分自身がそのミスをしたことがあるのか、その顔はどこか気まずそうだった。

 

「『的確に敵を沈める殺意』と川内は言っていたわね。それがトリガーなの?」

「なんというか……。確かに力の源はそれだとは思っているんですけど、きっかけかって言われると違くて。」

「やっぱり私や夕立(あのこ)とはまた違うわけね。」

 

 矢矧の言葉が瑞鶴は気になった。

 

「えっと……。そんなに違いが出るものなんですか?」

「個人差というか。これは私もあまり良くはわからないけど––––」

 

 矢矧は深呼吸して目を閉じる。数秒してゆっくりと目を開いた時、赤銅色の瞳が燐光を発するようにぼんやりと輝きを伴い始めた。

 

「……すごい。」

 

 瑞鶴はその目に見惚れていた。綺麗な発色をする様子は美しかったが、すぐに光が消えてしまう。

 

「私は少ししかできないわ。それに強力な力を持ってない。」

 

 集中した影響で疲れたのか、目の上辺りを軽くほぐしながら矢矧は続ける。

 

「貴女の場合、何か効果があったはずよ。分かる?」

「それは––––」

 

 すでに薄れかかっていた戦闘の記憶を掘り起こす。隊長機の動きを鮮明に捉えていたのが頭に残っていた。

 

「––––視力……は多分良くなってました。」

「あとは?」

 

 尋問のような雰囲気に瑞鶴は若干、戸惑いを覚えつつも答える。

 

「声が……聞こえたんです。」

「急にオカルトチックになったわね……。」

 

 飛龍が思わず声を上げる。瑞鳳も共感の意を示していたのか首をふった。矢矧は気にせず質問を続ける。

 

「それで、どんな声だったの?」

「一言だけだったんですが『眼を狙え』って。」

 

 場に流れる微妙な空気が瑞鶴に感じられた。しかしそれが真実である以上、弁解する余地はない。あまりにつかみどころの無い返答に矢矧もどう分析しようか困っているのか黙り込む。

 続く沈黙に瑞鶴が居心地の悪さを感じた頃、その均衡を破る存在が現れた。

 

「瑞鶴と瑞鳳って来てる?」

 

 引き戸の開けられる音とともに聞こえてくるのは時雨の声だった。すぐに飛龍が返事をする。

 

「いるわよ。」

「提督がこの後のことについて伝えるって。」

 

 すぐに瑞鶴と瑞鳳は立ち上がった。

 

「いってらっしゃい。」

 

 矢矧と飛龍は笑顔で見送る。冷たい空気が入り口から立ち込める中、二人はすぐに身支度にとりかかった。

 

 

 

 

「とりあえず、残留するメンバーを伝える。」

 

 単冠湾以外の関係者のいない室内は周りの内装を除いて、瑞鶴には母港の風景と変わらないように思えた。整列する十二人の艦娘は誰も姿勢は崩さない。

 

「今後の作戦のことを鑑みて、赤城、加賀、瑞鶴……榛名、夕立、響を残す。他は戻ってもしものための留守番だ。」

 

 誰も文句は言わない。作戦に参加することも、最悪の事態を想定して泊地の防衛に加担することもどちらも重要な役割だからだ。

 

「場合によっては、また戻ることってあるの?」

 

 川内から質問が出る。

 

「いや、ない。もし呼ばれるとしたら重巡の連中だろうな。誰も連れて来てないから。」

 

 金剛たちとのしばしの別れ。瑞鶴はそんな感覚があった。寂しい思いもあるが、同時にやる気にも満ちあふれている。

 

「明日中には出発だからな。今日の夜には準備を済ませておいてくれ。」

 

 提督は並ぶ面々を一瞥するとそう言って、すぐに解散を命じた。

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