北の艦隊興隆記   作:あおみかん

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今回は後書きに少しお知らせがあります


北の異変(3)

 高速の艦隊が初めに山際を越えた先に見たのは、一つの島のある大きな湾だった。複数の艦隊が闊歩している様子が目に見えてわかる。

 

「発艦、はじめっ!!」

 

 瑞鶴はそれと同時に空に烈風を、熊野と鈴谷は紫雲を解き放つ。何度も見てきた光景はすでに瑞鶴の身には特別なものにはなっていなかった。

 

「お二人は弾着観測の用意を、摩耶さんは艦隊の上をお願いします!!」

「了解!!」

 

 三人の声が重なって聞こえてくる。間髪入れずに赤城と飛龍の攻撃隊が戻ってきて、滑らかな補給の後にそのまま再出撃すべく矢となって弓につがえられる。瑞鶴もそれを見てまだ発艦していなかった艦載機を取り出してくる。

 

「攻撃隊、頼んだわよ!!」

 

 三隻の空母から放たれる夥しい数の機体。少し欠けがあっても圧巻の光景だった。紅白と青の帯を持った機体が入り混じり、それぞれが狙う獲物へ分かれていく。

 

「ここからは一気に接近します。回避行動への意識は常にもっておいてください。」

 

 冷静に敵の位置を分析して赤城は航路を選択する。泊地に見えた飛行場。それが現時点での最優先目標だった。射程圏内に入るまでの時間を迅速にするため、一気に機関へ燃料を送る。

 

「よしっ……あと……少し。」

 

 集中した様子で鈴谷が主砲を構える。刻一刻と迫る砲撃の瞬間のためだけに全神経を注ぐ。

 

「左舷に敵機!!」

 

 飛龍の報告には、摩耶が待ってましたと言わんばかりに反応する。

 

「任せろっ!!」

 

 一瞬にして弾幕が張られ、接近しようとしていた艦攻が蜂の巣にされて火だるまになる。摩耶は対空電探を利用した索敵で空に浮かぶ敵機を見つけ、近ければ己の手で落とし、若干遠ければ瑞鶴に指示を飛ばして処理させていた。手の届かない場所で何機もの黒い機体が火を吹いて下降していく。艦隊の上空は完全に掌握された。

 

「一捻りで黙らせてやりますわ!!」

 

 快速で飛ばして数十秒後、敵の本拠地の手前にある島影から出たタイミングでついに鈴谷と熊野が発砲した。重い砲撃音が十秒弱で複数回続く。山なりに三式弾は島へと吸い込まれ、爆発を伴ってその命中を知らしめる。聞こえてくる何かの悲鳴は戦闘中でもはっきりと聞こえた。

 

「よしっ。」

 

 鈴谷のガッツポーズを尻目に赤城は次の行動を組み立てる。

 

「長居は禁物です。ましてこのような敵地のど真ん中、何が起こるかわかりませんし退却しますよ。」

 

 油断はしない。陽動とある程度の掃除を済ませたら帰る徹底ぶりに瑞鶴は感心を覚えた。

 その瞬間、背後から轟音と共に砲撃が飛んできて横の海中へと水柱を大きく立てながら消えていく。反撃という二文字が思わず浮かぶ。

 

「お目覚めなさったわね。」

 

 飛龍の言葉と共に空に新しい航空機が姿を見せる。空母の時とは違って少し大きい。

 

「やはり陸上型の姫級……のようですわね。」

「それなら鈴谷たちに任せて!!」

 

 もう一度負けじと鈴谷も熊野も砲撃を仕返す。三式弾の相性がいいのか、要塞のようになっていた一部の砲台を完全に破壊した。赤城もそれを受けて一度様子見をすることにしたのか、すぐに方向を切り返しはしない。

 

「まだまだ弾は余ってる。ここはもう少し追い詰めて良さそうだけどな。」

 

 敵の攻撃隊に対して摩耶の激しい弾幕が上空にばら撒かれる。ただしその方向はある程度まで絞ることで味方を誤射しないように配慮はしていた。あぶれたものは瑞鶴の直掩機がきっちりと仕留める。不可避の連携をやはり敵は突破できなかった。

 

「熊野さん、敵の姿はわかりますか?」

 

 やや速度を落とした赤城の問いかけに対して熊野は間を置いて答える。空の目は落とされてはいなかった。

 

「……小さい……ですわね。少女みたいですわ。」

「人型。噂通りというわけですか……。」

 

 その発言があっても容赦無く鈴谷と熊野は砲撃を浴びせていた。響く悲鳴は苦痛に満ちているが、お構いなしだ。容赦のなさは清々しかった。その間に後方では赤城と飛龍、そして瑞鶴の精鋭が敵の主力を順々に食らい尽くす。絶え間なくやってくる戦果報告に瑞鶴は困惑するばかりだった。

 

「これなら瑞鶴自身が頑張る必要もなさそうね。」

「そう……ですね。」

 

 余裕が出てきて飛龍も瑞鶴に話しかけられるようになってきた。陸上の敵をいじめることに熱意を注ぐ二名によって眼前に見える泊地は燃え、摩耶と瑞鶴によってかろうじて反撃に転じようとしている存在がかき消されていく。

 

––なんか、夢に出てきたときに似てる。

 

 外から見ている立場だと呆気ないものなのか。積み上げてきたものが簡単に破壊されていく。そんな思いが瑞鶴を襲った。だからと言って敵に同情するわけではないが、背筋に流れる気味の悪い寒気は取り除かれない。

 陸海空の全てで蹂躙を尽くした赤城たち一行は湾内の海域から離脱、そこから掃討作業へと移ろうとしていた。

 

「ここからは襲われたことを感知した敵が戻ってくるはずです。それを迎えうちましょう。」

「もう相当沈めた気がするけど……容赦ないねぇ。」

 

 飛龍がやれやれといった感じでそれに付き合う意思を示す。未だ健在する攻撃隊はその勢いを削がれてはいなかった。

 

「見つけましたわ。右舷前方に戦艦中心の艦隊が一つ。」

「航空機ですり潰したほうが良さそうな編成だな。」

 

 熊野の報告に、摩耶が意見する。

 

「そうしましょうか。」

 

 赤城は同意して弓を構えた。瑞鶴も構えようとしたがそれを飛龍が止める。

 

「もしものために残しておいてもらってもいい?」

「分かりました。」

 

 瑞鶴は手を下ろして肩の力を抜いた。赤城と飛龍は二、三射ほどすると合流地点に向かってゆっくりと舵を切る。

 

「矢矧たちが後は成功してればいいけど。」

「大丈夫ですよ。どの子も水雷戦隊の要を務めているわけですし。」

「それもそうだよねぇ。空母はこっちが引きつけたし。なんとかなるか。」

 

 全幅の信頼。それぞれが同じ艦隊でやってきたからこその言葉だった。そんな中、鈴谷から報告が飛んでくる。

 

「今度は左舷から。げっ、空母がいる。」

「瑞鶴さんの航空隊を当てましょうか。砲撃戦は二人にお任せします。」

 

 同時多発的な戦闘に対し抵抗もなく赤城は指示を出す。瑞鶴はそれに合わせて補給の終わった虎の子を解き放った。

 

「念のため聞きますが、戦艦はいないんですよね?」

「うん。今ちょうど逃げ帰ってるみたいで連絡は取れないけど間違いないよ。」

「分かりました。」

 

 そう言うと、赤城は速度を上げる。

 

「挟撃されるのは厄介ですし早めに戦闘に入ります。くれぐれも油断はしないようにしてください。」

「やっとまともな戦闘になるのですわね。うずうずしますわ……。」

 

 熊野が薄ら笑いを浮かべて主砲を持ちながら言う。それには鈴谷も苦笑いで接した。

 目標を決めて数分、目の前に海とは異なった存在が遠目で確認できるようになった。

 

「敵航空隊、発見だ。」

 

 対空電探に映し出される波の揺らぎを摩耶は読み取って迫る危険を察知する。

 

「輪形陣で対応します。その後すぐに砲撃に移ってください。」

 

 赤城の命令に皆は従う。数秒も経てばやってくる航空機の識別も用意となった。

 

「よしっ……ここはもう一回、ひと暴れさせてもらうぜぇ!!」

 

 幾度となく空の敵を落としてきた正確な射撃は再び絶大な効果を発揮した。瑞鶴の航空隊が先に戦闘をした後なのもあってか、やってくる機体はどれも手負いで簡単に墜落していった。

 

「さてさて……突撃いたしましょう!」

 

 一度空からの攻撃を凌ぐと鈴谷と熊野の速度がぐんと上がった。赤城は静止する気はないのか何も言わない。

 金剛ほどとはいかないが、二人の攻撃の威力は瑞鶴の身には向けられたくないほどに強さを示していた。敵空母が真っ先に落とされる。それでいて敵の駆逐艦の砲撃は軽く装甲で弾くために数的不利を被っているはずなのに完全に流れは鈴谷と熊野が握っていた。それに負けじと瑞鶴の攻撃隊も果敢に攻めて、すぐに敵の艦隊は全員水面の底へ沈んでいった。

 

「流石ねぇ。」

 

 飛龍も感心した様子で蹂躙していく様を眺めていた。緊張するタイミングはもう過ぎたのか、肩の荷をおろしたようにリラックスした心持ちだった。しかしその裏ではまた別の艦隊が消されているという事実に瑞鶴はどこか一抹の恐怖のようなものをぬぐいきれなかった。

 そうして、海域は赤城たちによって制圧されていった。少しずつ減っていく弾薬を気にせず戦闘を継続する一同は三、四戦あまりした頃、合流地点の付近にやってきていた。暗い雲は北に移りつつあり、青い空が隙間から顔を覗かせていた。

 

「満足ですわ。もう十分でしてよ。」

 

 流石の連戦に小破状態になってしまった熊野は心のいく行動ができたのもあったためか、その被害にも関わらずすっきりした表情をしていた。だが、対照的に赤城の顔は少し険しい。

 

「まだ来てないみたいですね。」

「しくったとしても水雷戦隊だし逃げれるとは思うけどな。」

 

 摩耶の指摘に飛龍も頷く。

 

「矢矧と不知火がいたら目印の島を間違えるのはないだろうし……、このまま来なかったら反対側の海域で捜索にあたるのもありかもね。」

「一応鈴谷が出しとくよ。」

 

 そう言うと、戦闘が終わって格納していた索敵機を引っ張り出してカタパルトから射出した。空に上がった緑の機体が複数散らばる。

 こうして待ち時間、見慣れた島を眺めながら待つこととなった。朝に渡された戦闘糧食は残っていないために暇つぶしの行為は限られる。

 時間の流れが遅く感じられる中、鈴谷が突然血相を変えて声を上げた。

 

「っ……近くで戦闘してる!! しかも空母相手!!」

「は? 空母? この海域のはほとんど潰しただろ!?」

 

 全員がその情報に動揺していた。空母や戦艦は泊地の方で引き付けていたことや、今までの蓄積された殲滅戦があっただけに信じられなかった。

 

「すぐに援護にしに行きます。方位だけ教えてください。」

 

 冷静に、しかし素早く赤城は判断を下す。

 

「ここから北東、アルフォンシーノ周辺。」

「妙ですが……、とにかく今は向かいましょう。」

 

 その声に異を唱えるものは誰もいない。少なくなってきた燃料を使って、一同は出発した。

 島の間を抜けて波が少し高い海域にやってくると軽い砲撃音が聞こえてきた。

 

「いた……!!」

 

 飛龍が見つけると赤城も気づいたのかすぐに指示を飛ばす。

 

「先に制空権を確保します!!」

 

 それに合わせて瑞鶴も握る手に力を込めて弓を構えた。仲間を守るため、力強く矢を放つ。快速の航空隊が瞬く間に現れて、空へ上がっていった。

 

「本当はお腹一杯なのだけれど、味方が襲われているのであれば助太刀して差し上げるまで……。形勢逆転を演出してやりますわ!!」

 

 熊野が一気に突貫する。それを追って鈴谷も速度を上げた。赤城と飛龍は様子を見ながら攻撃隊の指揮を取る。空の担当はやはり瑞鶴と摩耶だった。

 

「空だけを見なさい!! 他は夕立と綾波に任せるから。」

 

 戦闘している集団に近づいていくと判明したのはどうやら、矢矧たちが手負いの状態であるということであった。中破なのが一目見て分かる不知火を中心にして矢矧、叢雲、響が対空砲火を担当している。火力にリソースを割いた二人が駆逐艦や軽巡洋艦等の水上艦を沈めているからギリギリ持ち堪えられている。そんな現状であった。

 

「母艦、見つけた!! うりゃぁ!!」

 

 鈴谷がやや離れた位置で孤立するヲ級に対して攻撃を加える。爆発が起こったが、少し煙を出させただけだ。

 

「硬っ!?」

「目を見てください!! それは改型で装甲が厚いはずです!!」

 

 青白い瞳。瑞鶴が見た相手とやはり似ていた。しかしながらその艦載機は比べ物にならないほどに脆く弱い。

 

「だったらもう一撃、お見舞いするだけですわ!!」

 

 熊野が砲の威力を一点に集中させる。流石の二連撃に装甲は対応できずヲ級は沈んでいった。

 

「いつきたの。」

 

 不意に聞こえた赤城と鈴谷の声に矢矧は目を丸くする。

 

「今さっき。見つけたから。」

「助かったわ。」

 

 横にやってきた飛龍の返答に対して矢矧は礼を言う。そうして不知火を中心に据えながら瑞鶴達の方へやってきた。摩耶と瑞鶴の烈風がなす防空圏は堅牢で、赤城や飛龍の戦闘機が既に追っていたのもあって中心に敵機は近づけもしなかった。

 

「不覚でした……。」

 

 ひとまずの安全圏にやってくると、不知火が悔しさを滲ませた声で話す。

 

「仕方ないでしょ。生き残れただけマシよ。」

 

 叢雲の言い草が瑞鶴には引っかかった。しかし戦闘中である以上聞くこともできない。

 

「とりあえず対空を手伝ってくれ。流石の摩耶様でも弾薬が底をつきそうなんだ。」

「はいはい。」

 

 矢矧はそう言って空を見上げる。けれども、その目は呆れに満ちていた。

 

「この閑散さなら援護も要らないでしょう。」

「同感だ。」

 

 響も共感する。顔に煤が少しつく彼女の機銃は、熱でまだほのかに空間を歪ませていた。

 数分後、敵の姿は跡形もなかった。周囲の安全が確保されたのが確認できたことで十二人の艦娘が集まる。

 

「作戦は——」

「完遂()したわ。だけど安心はできない状況よ。」

 

 赤城に対しての矢矧の回答は濁すようなものだった。その言葉に飛龍が勘づいた様子で問いかける。

 

「想定外の敵がいたのね。」

「えぇ。しかも……特定の海域にいるはずの()()()よ。」

 

 何のことやら分からない鈴谷や熊野、瑞鶴に対して二人の眼光は鋭くなった。

 

「もしかして……レ級ですか。」

「そうね。でもただのレ級じゃないわ。言語を操るタイプよ。」

 

 赤城は絶句した。

 

「まさか……!? 顔は見ましたか。」

「左眼が欠落してましたよ。穴が空いてて……。」

 

 答えたのは綾波だった。傷一つない姿は、不知火や響と比べれば異様に見える。そこに見える何かの壁を瑞鶴は見せられたような気がした。

 

「すぐに引き返します。このままじゃ……。」

 

 その答えを受けて焦燥感に駆られたような顔で赤城は舵を切る。

 

「ちょっと待ちなさい。どういうことよ。」

 

 矢矧が落ち着いて引き止める。今までに見ない赤城の取り乱した姿にその場にいた全員が唖然となっていた。

 

「加賀さんから聞いたんです。『隻眼のレ級がいれば、必ずどこかの泊地が襲われる』と。」

「っ……。それは確かに洒落にならない冗談ね。」

 

 飛龍はすぐに事の深刻さを理解した。矢矧も、その言葉によって決断する。焦燥感に駆られていそうなものだったが、赤城たちを信用しての言葉だった。

 

「事情は分かったわ。でもこっちもけが人がいるの。速度は保証できないからせめて先に行ってちょうだい。」

「ありがとうございます。」

 

 そういって波を蹴り出して赤城は一瞬で飛び出す。それに反応したのは飛龍と夕立のみだった。取り残されて呆然としていた瑞鶴は矢矧の一言によって押し出される。

 

「あなたも行きなさい瑞鶴。護衛はこれ以上必要ないわ。」

「……すいません。行きます!!」

 

 瑞鶴は追いつくために一気に海を駆け上がる。脳裏に浮かんでいたのは夢の中で見たあの光景だった。

 

––繰り返させはしない……。

 

 何かの使命感に突き動かされるような思いを瑞鶴は感じながら加速していった。

 次いで綾波と熊野がついてくる。六人目が行ったのを見ると、矢矧はこれ以上人数を減らさないように摩耶と鈴谷を引き止めた。当人らは若干不満げな顔ではあったが背くことはしない。そうして機関に負荷をかけて瑞鶴が高速で航行していると前で先行する赤城たちの背中が近づいてきた。

 

「目標は幌筵ですか?」

「そうなんじゃないの?」

 

 飛龍が瑞鶴の言葉をそのまま赤城へ問う。彼女は答える。

 

「そのつもりです。ですが……」

 

 自信のない声で続ける。

 

「私の勘としては、最悪の事態を……想定しないといけませんね。」

 

 その指摘に飛龍と綾波以外の者は赤城が何を言わんとしているのかすぐに気付く。

 

––まさか……。

 

 瑞鶴の頭に浮かぶ一抹の懸念。冷えた空気と荒れた波の帰途の先にある空は暗い雲だった。




 後日活動報告で連絡するとは思いますが、どこかで構成の作り替えを行います。内容としては過去編と現在の話をくっきり区別するのと、序盤の練り直しが主な改善場所です(話の大筋は一切変えません)。
 期間は二週間程度で一度非公開にしてから完成後に再度戻すという方針を取る予定です。ちなみにその間の投稿ですが一応お詫び程度に三話分ぐらいは進めると思います。
 詳しいことはまた後ほどお伝えしますのでご了承ください
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