北の艦隊興隆記   作:あおみかん

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番いの鶴(2)

 翌日、第二遊撃部隊は工廠の一角にある建造施設に集められていた。一航戦の気遣いで、自主的な節約に伴って週三回に減らされていた特訓は後に回されている。

 

「あれ、村雨まだいるの?」

「『まだお目当ての艦は引き当てられそうにない』らしいわよ。だからまだ所属できるの。」

「へ〜。」

 

 若干嬉しそうな顔を見せながらも、時雨の視線はドアの向こう側からやってくるであろう新しいメンバーへと釘付けだった。待ちに待った日だ。

 

─瑞鳳の代わり……なんだよね。

 

 対する瑞鶴の顔持ちはどこか不信感が残り、少し暗かった。前日の夜にしっかりと別れの挨拶を済ませたものの、完全に受け入れたわけではない。悶々としている様子に気づいた川内は息を殺して背後に回り込む。狙われた本人だけが気づかない。

 

「身体が硬い人は……こうだ!!」

「ひゃっ!?」

 

 忍び込まれた手になす術はない。思わず出た声に頰を赤らめた。建造窯へ迎えに行ったおかげで提督がいなかったのが唯一の救いである。とはいえ場が場。金剛も形式上の注意を流石に行なった。もちろんその意図に気づいていたために、ほんの軽くだが。

 

「全く……そう怖い顔をしてちゃ、相手といい関係は築けないよ? 私たちが会った時はもっと友好的だったのに。」

「分かってる。」

 

 重い感情は奥底で渦巻いていたが、強力な理性が歯止めを効かせていた。配置換え自体は些細なことだ。誰にも罪はない。切り替えることができていない己の弱みの問題。そう無理にでも納得させて立っていた。怒ってもいない、悲しんでもいない。ぽっかりと穴が開いているだけだ。折角瑞鳳が気持ちを汲んで色々してくれたのに、無下にするわけにはいかなかった。

 

「あっ、きた。」

 

 時雨が告げる。片開きのドアがキィッと音を響かせ開く。工廠特有の煤と金属の混じる強烈な匂いがより一層強くなった。極秘の施設として提督、明石、工廠の要請のみが立ち入れる空間が隙間から顔を覗かせる。

 

「すまん。ちょっとだけ放置してしまった。」

「いえ、大丈夫ですよ。」

 

 提督の言葉と共に聞こえてくる艶のある穏やかな声。最初に入ってくる細身な青年の影から現れる、紅鉢巻が映える銀髪の長い髪。瑞鶴は見覚えも聞き覚えもあった。しかし肝心の記憶は存在しない、不思議な感覚が襲う。

 艤装をつけながらやってきた瑞鶴の姉、翔鶴は改まった態度で綺麗な所作のお辞儀をした。

 

「翔鶴型航空母艦一番艦、翔鶴です。よろしくお願いします。」

「よろしく〜」

「瑞鶴の姉さんね。」

 

 第二遊撃部隊の面々はすんなりと受け入れる。金剛たちはすぐに近寄って握手を交わし、提督は壁に寄りかかって遠目で静観する。一人だけが動いていなかった。部隊の誰もが最初に飛びつくと思っていた彼女は、戸惑いながら立ち止まる。

 

「翔鶴姉……」

「あら、瑞鶴?」

 

 目と目が合う。眼前の姉は“彼女”を知らない。提督の過去を、加賀の使命を。何一つ。おかしい。喜ぶべきはずの相手であるはずなのに、自分自身でも驚くほどに心は冷え切っていた。親しく見えない、素直に歩めない。左足がほんの微かに後ろに動く。

 

「少しくらいは甘える相手を覚えた方がいいよ。そのための姉妹艦、なんでしょ?」

「ちょ……ちょっと!!」

 

 そんな中、時雨が肩に両手を置いて押し出してくる。瞳に映るのは提督だった。瑞鶴は想定外の押す強さに足が躓く形となり、倒れ込む。目を瞑って身を守ろうとすると、受け止めたのはフワリとした感触と温かい体温。それ以上身体は傾かなかった。

 

「ふふっ、今まで背負い込みすぎていたのね……。もう、平気よ。」

 

 優しく抱きしめられる。ほのかに香る“懐かしい”匂いに鼻がくすぐられた。身動きができない、というよりも自ずから振り離すことを拒んでいた。

 

「…………」

 

 沈黙が続く。背後では金剛や川内らが今後の活動方針などについて、提督に質問しているのが耳に入ってくる。時雨や村雨も姉妹の再会の邪魔はしないつもりなのか、素直にその場を後にして話している一群に加わっていな。あえて皆、触れはしない。普段から見ているからこそ、瑞鶴の異変にはいち早く気付いていた。解決する役目は姉妹の務め。暗黙の了解に口出しは無用だ。

 今なら話せる。絶好の機会。必然的に得られたタイミングで、潜めた声量で豊満な胸へ顔を埋めながら問いかける。息苦しくはない。

 

「ねぇ、翔鶴姉。」

「どうしたの?」

「私……強くなれるかな。」

「沢山時間がかかってもいいから、少しずつ頑張ればいいと思うわ。一緒にね。」

「うん」

 

 癒されるような、落ち着くような心地の良い声音が囁かれる。頭の上を走る手は、二人が提督に呼ばれるまで止まる事はなかった。

 

 

 

「意外と甘えん坊なんだね、瑞鶴。」

「……うるさい。」

「頼ってくれるのは良いことよ。私は嬉しいわ。」

 

 顔合わせも済ませ、一同は艤装を一度持ってくるために解散し、再集合した上で泊地内の案内をしながら演習用桟橋へと向かっていた。珍しく金剛や川内もついてくることに疑問を抱きつつも瑞鶴は話す。

 

「こっちは宿舎。翔鶴姉の部屋は……まだいっか。」

「お風呂場につながる通路が地下にあるから、いつでも入り放題だよ。」

 

 足りない部分は時雨が補足。過不足ない説明を続けながら歩く。広場に出ると日は少々傾きが急だった。伸びる影とえんじ色に染まりつつある空。北の一日は短い。

 

「冬はいいねぇ。夜が来るのが早い。」

「『出撃以外の消費は厳禁』よ、川内さん。」

「しないってば。」

 

 村雨からの忠告をさも分かっていると言わんばかりに口を尖らせ、川内は軽くあしらう。冬だけが静かな海。夜が暗い日が多いのは冬の風物詩。そう揶揄されるほどに他の時期における日々の夜戦訓練は多い。強さの所以は地道な鍛錬なのだ。

 

「それにしても、瑞鳳も急な異動で少し可哀想デース。同情してしまいマース。」

 

 一航戦との合流が近づいた頃、最後尾でやや大きい荷物を手に持つ金剛が不意に口を開いた。捨てることのできない共に戦ってきた仲間への愛着。旗艦だからこそ冷静に対応しているが、彼女もまた切り替えるのには時間がかかっていたのであった。

 吐露に応えたのは時雨。真っ直ぐと行き先を見つめながら答える。

 

「ん〜、大したことじゃないと思うよ。この後実際、会えるわけだし。」

「特訓自体は続けるもんね。いつの間にか恒例行事になってるし。」

「そっ。この先ず〜っと離れ離れじゃないんだからメソメソしている場合じゃないよ。敵は待ってはくれない。」

 

 この単冠湾において白露型は頻繁に色々な場所へ随伴艦として引っ張り出されてきた。主力艦隊、支援艦隊、水雷戦隊。多種多様な編成を移り変わってきたからこそ、仕事だと割り切れる。別れる側からしたら薄情に見えても、彼女たちにしてみれば文句を入れる隙もない事項なのだ。

 

「それに瑞鳳さんも妹、だもの。姉としては一任させすぎるのも悪いわ。」

「あぁ、祥鳳か〜。今もいるみたいだけど、そういえば最近一緒にいるとこ見てないなぁ。」

 

 翔鶴の指摘に川内が食いつく。空かさず理由が添えられる。

 

「このところは瑞鶴につきっきりだったからね〜。」

 

 時雨の意地悪い笑みが向く。揶揄おうとしているのが目に見えた。

 

「何よ、悪いの。」

「素直じゃないなぁ。」

 

 それ以上は刺激しないように引き下がる。要らない喧嘩は必要ない。

 すると遠くに見える新調された木造の橋の上で、人影が動いた。一航戦の二人だ。双方防寒着を着込み、新鮮な装いをしている。

 

「随分と早いわね。」

「そのまま来たからね。」

 

 近くまで寄って、合流した頃に各々の口を開いた。

 

「朝食はどうしたの。」

「普通に抜いた。」

 

 川内は肩をすくめ答えた。その返答に加賀は顔をしかめる。

 

「感心しませんね。身体は資本ですよ。」

 

 赤城からも忠告が飛んでくるが、感情は大してこもっていなかった。それ以上に新しい顔ぶれに意識が割かれていたからだ。

 

「そちらは……五航戦の翔鶴さんですか。私は赤城、こっちは加賀さん。これからよろしくお願いしますね。」

「はい!!」

 

 明るい声音で翔鶴は返事をする。友好的な赤城とは裏腹に、加賀からの目は少し冷ややかだった。複雑な内情を抱えているからこそ、どのように接するかについて思慮を巡らせているからだ。とはいえ歓迎しないわけにもいかない。ぎこちなくとも笑みを浮かべて声をかけた。

 

「紹介の通りよ。よろしく。」

 

 控えめな言葉に違和感を覚えたのか赤城の視線がちらりと動く。本題には入らないといけないためそれ以上の会話はなかった。

 

「さて、用事も済んだことですし今日は厳しめな内容でいきましょう。ちょうどいい方々もいますしね。」

「What?」

「しょっぱなから飛ばすねぇ。」

 

 予想通りの反応。新人が前後左右わからないまま実践的な訓練をする意味はないからだ。教える立場に立ったことのある艦娘であれば当然の知識。忘れているわけではない。

 そういった意味で怪訝な目を向けていたのは金剛だった。何度か経験がある彼女は念のために問う。

 

「翔鶴は新造艦デース。わかってはいると思いマスガ……。」

「はい。だから私は翔鶴さんに基礎を教えます。他は全て、加賀さんにやってもらうつもりです。」

 

 迷うことなく繰り出された言葉は凄みがあった。加賀を信頼に足る人物として捉えているからこその丸投げ。一航戦の年季は姉妹以上、そんな一言が似合う発言だった。誰もそこに口を挟む余地はない。

 早速、別れて訓練は開始された。金剛は日課のやるべきことがあるため参加はしない。七人は二手に別れて各演習海域へと向かう。いつもならいるはずの瑞鳳の姿が見えないのが瑞鶴は少々気がかりだったが、ひとまず集中するように深呼吸をして心を落ち着かせた。

 

「私からは別にやることがないのだけれど……、提督から要望があったから今日はそれを行うわ。」

「要望?」

「ええ、具体的に言えば秋季を意識した訓練ね。『単艦演習を軸にしてほしい』らしいわ。」

 

 道中、加賀の物言いに川内が反応する。

 

「そうすると余るんじゃない? 私は構わないけど。」

「だから、時雨と村雨に色々と助言をしてくれないかしら。」

「あぁ、なるほど。」

 

 やるじゃんと言いたげな顔で頷く。

 

「げぇ、川内さんに教わるのか……。」

「弾薬消費は免れないわね。」

 

 駆逐艦組は肩を落とす。他の季節にしごかれたことがあるからこそのため息だった。様子を見た川内は二人の首を軽く絞めながら強引に連れて行く。

 そうして五人はそれぞれ分かれて第二演習海域を二分するようにして陣取った。その内にある北東に定められている海域の、沖合により近い側。二隻の正規空母は相対する。

 

「どうしたの?」

「何でもない……です。」

 

 瑞鶴は静かに答えた。遠くで鳴る砲撃音は苛烈だ。

 

「そう。なら始めるわよ。手加減はなし、撃沈判定が出たら終わり。」

「単艦形式ですか。」

「えぇ。でも……相手は私ではないわ。」

「えっ?」

 

 意味がわからない、そんな矢先に頭上で鳴り始めるプロペラの音。目の前から後方へ引き下がる加賀。奇襲。脳裏にその語彙が浮かんだ時にはもう遅い。

 

「あぶなっ!?」

 

 間一髪で回避が間に合った。目の前で水飛沫が大きく上がる。振り返ると、たった三機の二二型艦爆が退避していくのが見えた。

 

─白三本……!!

 

 宣戦布告。誰かは分かっていた。どうしてやや型落ち品を使っているのかは不明だったが、この際どうでもいい。

 

「戦闘機隊、発艦。」

 

 自慢の愛機を空に上げ、ある程度分割して索敵に回した上で直掩機も待機させる。大海原と比べれば湾内など取るに足らない範囲だ。

 

「私は少し他の所へいくから、満足がいくまでやるといいわ。」

「ありがとうございます!!」

 

 瑞鶴は既に海の上を駆けていた。状況は飲み込んだ。あとは勝つだけだ。

 

─やってくれるじゃない

 

 血がたぎる。理由は分からない。親しき友と本気で戦えるのが楽しいのか、それとも。

 前に進むと深緑色の機体が散らかっているのが目で見て判別できた。その先にいるのは小柄な少女だ。湾内は静かな波のはずなのに、心なしか大きな波紋がそこにあるように感じられる。強者の風格をまとっていた。

 

「やっと来たね。」

 

 浮かぶ顔つきは戦意に満ちている。上空で凌ぎ合う紫電と烈風。制空権は互角だ。ただしそれが実力の拮抗を示すわけではない。

 

「私、一回瑞鶴と戦ってみたかったの。」

 

 眼前の彼女は不意に口を開く。ふわふわとした優しい色ではない、決意に満ちた締まる声が響く。

 

「へぇ、どうして?」

「一航戦の二人には勝てないから……よ!!」

 

 挑発するような質問に対して蹴り飛ばすように距離を詰めてきたかと思えば、弓を構えて矢を放つ。手早い動作は今まで見てきた発艦操作の中で最速だった。現れるのは流星。躊躇いもない攻撃だ。

 

─早っ……!?

 

 反撃を行うことはできない。幸運なことに旋回するスペースはあったため、時計回りに直線の魚雷は避ける。

 

「そう簡単に会えなくなっちゃうし。色々見せてあげる。空母同士の出し抜き方を……ね。」

 

 絶え間なく魚雷がやってくる。独立した操作で艦載機を動かしているのか、一つ一つに指向性があった。バラバラの軌道は一見、速度に任せて回避をすればいいように感じられるが、残っているのは撃沈判定である。前なら確実に食らっていただろうなと思いながら、瑞鶴は緩急をつけた操舵で軽々と包囲網から抜け出した。反撃をするべく矢をつがえて照準をつける。風は弱いが不可能ではない。

 

「遅い!!」

 

 だが対応は素早かった。またもや飛んでくる流星に発艦の断念を余儀なくされる。もどかしく思いつつも回避に努めた。

 

─どうやってやってるんだろ。

 

 一度距離を取ろうと航路を北西にとり、攻勢に出ることができないほどの激しい猛攻から逃れるべく外側に膨らむように蛇行する。軽空母であるにも関わらず、圧倒的な手数を叩き出せるカラクリを暴こうとしていた。

 

「みすみすは逃さないんだから。」

 

 背後から攻撃機が追跡してくる。瑞鶴はちょうど戻ってきた素敵用の烈風を当てて対処した。余裕が生まれて一瞬、思考にふける。印象強いのは瑞鳳の速射発艦動作だった。補給をいつ済ませているのかと思うほどに連続して矢を飛ばしている。搭載数で言えば正規空母が優位であるはずなのに、戦況としては押され気味なのだ。

 

「流石……でも──」

 

 相手も手練れである。それ以上、考える隙は与えられなかった。主翼の風切り音と共にエンジンの駆動音が真上で聞こえる。パラパラと舞う弾丸は入り乱れていた。艦娘の航行速度といえども艦載機の最高速からしてみれば所詮は船。追いつかれるのは必然。思い切った作戦をとらなければこのままではすり潰される。

 

「こっちもやられっぱなしは癪なの……よ!!」

 

 身体の重心は進行方向に置いたまま、振り向きながら矢をかけ一射。七、八機の天山が出現した。勢いそのまま反攻に出る。体に残った慣性を消しながら二射、三射と出来る限り早く、そして連続して攻撃機を放つ。背を追っていると見せかけた上で隙を見て反撃、物量で押し切る。数の暴力は空母の基本戦術だ。

 

「いい動き……、だけど通用しないよ!!」

 

 しかし彼女も号令をかけたらしく、紫電改二が急降下して襲いかかり始めた。撃ち落とされまいと天山も果敢に速度を上げようとするが、改良型戦闘機の運動性能には敵わない。瑞鶴の烈風も鋭敏な軌道に幾分か惑わされているようだった。なかなか崩せず、常に後手の対応をさせられている現状に心の中で舌打ちが飛ぶ。より多くの速射ができれば苦労しないのだが、生憎改装もまだしていないし、訓練でも経験がない。

 

「厄介な隊長機もまだ来てない。だからここで決めさせてもらうね!!」

 

 一気に間合いが詰められる。射った矢がそのまま顔に当たるような距離感で瑞鳳は構えをとる。

 

─嘘、正気!?

 

 体感少し頭が傾く。それを見透かしていたかのように彼女は止めをさす要の二二式艦爆を繰り出した。背後で実体化するのが熱と音で感じ取れる。頭のちょうど上を狙った射撃だったのだ。完全に流れを持っていかれている。

 

「まずい……」

 

 どうにかして振り切ろうと足に意識を集中するが、その前に腕をがっしりと掴まれた。動けない。

 

「これ以上は逃げられない……よ?」

 

 殺意はこもっていないが思わず体がすくむような目で彼女は笑う。艦爆は急上昇からの急降下で攻撃の態勢を取っていた。万事休す。その言葉が脳裏に浮かんだときには勝敗は決したも同然。

 

「ふふっ? どう、凄いでしょ。」

 

 やられる。そう思った次の瞬間には瑞鳳の顔はいつもの愛嬌ある笑みに戻っていた。艦爆も爆弾を放たずに機首をあげて離れていく。

 

「う……うん。てっきり爆破されるのかと思ったんだけど。」

「しないよ〜。あの時点でもう勝ってたし。」

 

 言葉が刺さる。見た目に似通わない無意識の口撃へは苦笑いするしかなかった。

 

「終わったようね。」

 

 不意に加賀の声が聞こえる。腕を軽く組みながら立っていた。

 

「どうだったかしら、貴女の“元僚艦”は。」

「強かったです。」

「そう。」

 

 当然とでも言いたげな表情を見せると、距離を縮めてやってくる。

 

「これからは深海棲艦相手に加えて、こういった艦娘との戦い方も扱うわ。実戦の中では大した役には立たないのだけど、この際気にしないで頂戴。」

「分かりました。」

 

 話を終えると今度は瑞鳳が質問する。

 

「もう一戦はどうするんです? 指示を受けた時はやらなくていいって」

「えぇ、その通りよ。瑞鶴の次の相手はもう決まってるわ。」

 

 まさか、という思いが駆け巡る。現状、空母で自由な状態にあるのは二人。その片割れと演習したということは。

 

「私とやる……と言いたい所だけど、まだ早いから次は翔鶴ね。」

「えっ」

「不満でもあるの? 赤城さんが『筋がいいので行けると思いますよ』って言ってるから大丈夫よ。」

 

 そういう簡単な問題でもないのだが、反抗するつもりでもないため口は開かない。負けたこともあって逆に鬱憤を晴らす機会だと捉えていた。

 

「もう始めていいんですか。そしたら。」

「少し待ちなさい。装備を変えてもらうわ。特に戦闘機。」

「二一型に落とすとかじゃ……」

「五二よ。そこまで下げたらやる価値がないでしょう。秋季演習のルール上で試さなきゃならないの。」

 

 ルールがあったのかと思いつつ、手渡された矢を手に取って烈風と換装する。馴染みのない機体で平気なのか心配だったが、存外気に入ってる様子だった。

 

「代わりに艦攻のグレードを上げるわ。天山を貸して。」

「はぁ。」

 

 戸惑いながらも束にして突き出す。やってきたのは少し羽が使い古されている物だった。

 

「これは時々使ってる流星よ。大事に扱いなさい。」

「使うって……加賀さんの機体ですか!? これ。」

「悪い?」

 

 ムッとした目で見つめられ、何も言い返せない。

 

「……後で詳しい事は伝えるわ。たまには好きにやって気分転換をしないと。」

 

 視線が一瞬、瑞鳳の方角へ向く。合点のいった瑞鶴はその言葉に甘えることにした。

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