花畑で幼いリデルは花輪を作り、一人の女性に渡している。その女性はにっこりと笑い、リデルに話しかける。
「起きないと遅刻するわよ? リデルちゃん」
「え?」
ガバっと音がするほど勢いよく、かけられた布団ごとリデルは上半身を起こす。
目の前には彼の母である神綺の姿が見えるが、今はそこが問題なのではない。
「夢かって遅刻?」
「そこの時計を見なさい。今は八時よ」
慌てて時計をみると確かに八時を過ぎていた。
「アラームは!?」
「うん? アラーム? なんかその時計うるさいから音が鳴る部分を壊したけど何か問題あったかしら?」
「大有りだ! この馬鹿母!」
「酷い!! なにもしてないのに罵倒するのはさすがに母さんどうかと思うわ!」
神綺が住む魔界には時計はあっても目覚ましい時計などは存在しない。そのため、朝時計が鳴っているのを睡眠の邪魔と判断してアラーム機能を完全に壊したのだ。そのため、リデルはアラームで目を覚ますことができなかったのだ。
「ああああああ!! 着替えるから部屋から出ててくれ母さん!」
「あら、別に気にするほどじゃ」
「僕が気にするんだよ!」
そのまま神綺を押して浴室に投入してから、急いで制服を着始める。
慌てているためにこの後何が起きるかを忘れて。
「おはよう」
空気が死んだ。形容するならこういうしかない。
男子寮のこの部屋、つまりリデルの部屋は毎朝必ず一緒に登校しようとする生徒がいる、ザジ・レイニーディだ。彼女は魔族であり、魔界人ではないが神綺と深いかかわりがありリデルとも関係がある。そのために毎朝リデルに会うためにわざわざここまで来ているのだが。
リデルは下半身はすで着替え終えているが、上半身は裸だ。それを見てしまいザジとて混乱して固まってしまう。
しかし、この固まった空間に更に火を投入する厄介な魔界神もいるのだから固まるべきではなかったのに。
「着替え終わった? リデルちゃん」
何故だか知らないが服を脱ぎ、下着姿の自身の母親が浴室から出てきたのだ。
「リデル、これは何」
見様によっては、いや、どう見ても親子でR-18の禁断の扉を開けてしまったような光景にザジがリデルに説明を求める。なにせ、普段はすでに着替えて自分を待っている男が慌てて着替えており、浴室から裸の女性が現れたのだからそうとしかザジにはとらえられなかった。そのため後ろにサリエルレベルの威圧感を出しながら迫る。
「お、落ち着けザジ! 僕と母さんの間には何もない! だから落ち着け!」
「聞いていることは違う。何をしたかではなく、何が起きたかを聞いているの」
「両方とも同じ意味だよ!! 昨日母さんが突然魔界から麻帆良まで来てそれで仕方がなく僕の部屋で寝泊まりさせたんだよ」
「だとしても何で神綺様は裸なの」
元から抑揚の少ないザジであったが、とうとう抑揚も感情もないお経を読むような声でリデルに問い詰める。
「知らないよ!! というより何で母さんは裸なんだよ!?」
「あら、下着を着ているから裸じゃないわよ?」
「それを普通裸っていうんだよ!」
「それにこの服を脱いだのは「待って、無視? 無視するのか!」リデルちゃんが浴室に私を詰め込んだときぬれちゃったから脱いでいただけよ?」
そう言い切ると同時に神綺の周りに魔力が集まり、赤い服を形成する。
「じゃーん。これでパーフェクト母さんの完成よ!」
もはや回答する気力もないリデルはさっさと着替えることにしたのかもくもくと着替えている。ザジもその様子から勘違いということが分かり、神綺へ挨拶をする。
「お久しぶりです。神綺様」
「あら、ザジちゃんじゃない。向うの魔界はどう? またルシファーが何かしていない? 何かされたら私に言うのよ。すぐに懲らしめてあげるから」
「母さんが行ったら向うの魔界は滅ぶだろうが。外交問題になるからやめろよな」
魔界に外交なんてあるのかは不明だがリデルは着替え終わり扉に手をかけザジに言う。
「そろそろ行かないと本格的に間に合わなくなるぞ」
「飛べばいいじゃない? 飛べばすぐでしょ」
「ここでは飛ぶわけにはいかないの!」
神綺の疑問に答えてリデルはザジと一緒に走り出す。実際遅刻しそうなのは事実だしザジを見送らなければならない。
「行ってらっしゃい~」
「部屋から出るなよ! 絶対!」
最後の言葉が神綺に届いたか確認する余裕すらなく二人は走り続けている。厳密に言うと一名は走って、もう一名はブランコで移動しているが。
「う~ん。仕事がないって暇ね。面倒だけど暇しないっていう意味では仕事も必要ね」
「あら、じゃあ息子の学校にでも行けばいいじゃない」
突然神綺の隣に一本の線が見えたかと思うとその線が広がり数多の目が見えた。そこから一人の女性が上半身だけ出して神綺に語りかけた。
「そうね、そうしようかしら。ねぇ、紫?」
「ふふ、久方ぶりねリデルに会うのも。行きましょうか、神綺」
最悪の二人組(リデルにとって)が学校へ向かう。はたしてリデルはこの猛攻を堪え切れることはできるのだろうか!?
ババーンと最高クラス(年齢)の方々が麻帆良に訪れてました。次回は紫と神綺による学校訪問。