試合が終わり達也はCADのケースを置いた机に向かう。
負けたことにはそれほど気にはしてないようだ。
それとも予め負ける前提で戦っていたのか。
「待て」
達也の進行を摩利が止める。
「最初の動きは....自己加速術式を予め展開していたのか?」
確かに最初の動きは驚いた。
試合開始の合図と同時に俺の目の前まで移動し、その後背後まで回っていた。
「そんな訳がないのは、先輩が一番良くお分かりだと思いますが」
「生身の身体でやったことだな。動きは忍術を使うやつの動きに似ていたな」
「太刀の言う通り身体的な技術です」
「わたしも証言します。兄は、忍術使い・
マジかよ、あの変態野郎に指導を受けているのか。
世の中って狭いもんだな。
「じゃ、あのサイオンの波も忍術か?」
「いや、あれは振動の基礎単一系統魔法で、サイオンの波を作り出しただけだ」
「その割にはなんか頭が割れそうなグラグラ感って言うのか?気持ち悪い感覚が残ってんだよ」
「酔ったんだよ」
「酔った?一体何に?」
皆が首を傾げる、それに面倒くさそうな素振りをせずに達也は説明を続けた。
「魔法師はサイオンを、可視光線や可聴音波と同じように知覚します。それは魔法を行使する上で必須の技術ですが、その副作用で、予期せぬサイオンの波動に曝された魔法師は、実際に自分の身体が揺さぶられたように錯覚するんですよ。その錯覚が肉体に影響を及ぼしたのです。催眠術で、『火傷した』という暗示を与えることにより、実際に火ぶくれが生じるのと同じメカニズムですね。この場合は『揺さぶられた』という錯覚によって、激しい船酔いのようなものになったというわけです。本来なら倒れるはずなんですが、太刀は倒れなかった。恐らく、耐性があるからだと思います」
最初の方は何言ってるか分かんないけど最後の方がわかったから良いや。
うーん、耐性ねぇ。記憶にはあまりそんなの食らったことが無いが多分鞘の魔法だろうな。
直接サイオン波を当てる魔法が多いし。
「でも、魔法師は普段からサイオンの波動に曝されて、サイオン波に慣れているはずよ。無系統魔法はもちろんのこと、起動式だって魔法式だってサイオン波動の一種だもの。それなのに、魔法師が立っていられないほどのサイオン波なんて、そんな強い波動を、一体どうやって....?」
「波の合成、ですね」
「リンちゃん?」
答えたのはリンちゃんだった。
「振動数の異なるサイオン波を三連続で作り出し、三つの波がちょうど太刀さんと重なる位置で合成されるように調整して、三角波のような強い波動を作り出したんでしょう。よくもそんな、精密な演算ができるものですね」
「お見事です、市原先輩」
「流石リンちゃん」
「リンちゃんはやめて下さい」
うーむ、可愛いニックネームだと思うんだがリンちゃんは気に入っていないらしい。
「それにしても、あの短時間にどうやって振動魔法を三回も発動できたんですか?それだけの処理能力があれば、実技の評価が低いはずがありません」
それより、さっきからあーちゃんが俺の右腕と達也の手元を繰り返し覗き込んでるんだが。
「あの、もしかして、司波くんのCADは『シルバー・ホーン』じゃありませんか?」
「シルバー・ホーン?シルバーって、あの謎の天才魔工師トーラス・シルバーのシルバー?」
なんじゃそりゃ、全然わかんない俺は世間知らずなのか?
「そうです!フォア・リーブス・テクノロジー専属、その本名、姿、プロフィールの全てが謎に包まれた奇跡のCADエンジニア!
世界で初めてループ・キャスト・システムを実現した天才プログラマ!
あっ、ループ・キャスト・システムというのはですね、普通の起動式が魔法発動の都度消去され、同じ術式を発動するにも.....」
「ストップ!ループ・キャスト・システムのことは知ってるから」
助かった、あのまま語られてたら頭が壊れそうだった。
「ってことは、そのループ・キャスト・システムで同じ魔法を連続発動してたのか?」
「ですが、ループ・キャスト・システムは全く同じの魔法を連続発動するもの。波の合成には振動数、座標、強度、持続時間を変数化するとなると....まさか、それを実行しているというのですか?」
驚きで言葉を失ったリンちゃん、達也は軽く肩をすくめていた。
「多変数化は処理速度としても演算規模としても干渉強度としても評価されない項目ですからね」
話を聞いているといきなり目の前が揺れる。
「兄様、大丈夫ですか?」
どうやら後ろに倒れたらしい。
みんな「どうしたんだ?」と声をかけてくる。
「すまん、ちょっと『休む』。鞘、保健室まで運んどいてくれ」
「分かりました」
その後目の前が真っ暗になる。
感想など待ってます