剛腕のフリーレン   作:ベルゼバビデブ

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フリーレンは魔法使いです。誰がなんと言おうと魔法使いです。ちゃんと魔法だって使ってますからね。


第2話 生命を感知する魔法

 私が魔法の練習をしていると、何やら物音がしました。獣の物ではありません。なんでしょうか?

「この森で《生命を感知する魔法(マッスルサーチ)》を使って感知できる人間なんて一人だと思ってたのに人違いだったか。…あ、ちょっと離れた先に別の人間の反応がある。あっちかな」

 目の前に現れたのは筋肉が筋肉着て鍛えてると言えるような…女性…女…性?女性…。とにかく、耳の特徴からエルフでしょうか。…白い髪のツインテールで筋肉ムキムキの女性エルフ…ハイター様がおっしゃっていたかつて共に仲間として旅をしたフリーレン、という方に特徴が一致します。

「あの、何かお探しでしょうか?」

 すると、フリーレン様(仮)は突然アブドミナルアンドサイを披露しました。何故突然ポージングを?それにしても肩に岩でも乗せてるのでしょうか?筋肉のキレも凄まじいです。

「(頭)どうかなさいましたか?」

「…いや、ハイターって人の家を探してるんだけど」

 ハイター様のお客様、やはりこの方はフリーレン様なのでしょう。

「では、お客様ですね。案内します。こちらです」

 私はフリーレン様を家へと案内しました。するとフリーレン様はダブルバイセップスを披露し始めます。だから何故ポージングを?そしてよく見ると、家の扉の前にはモストマスキュラーをするハイター様が立っていました。

「まだ生きてたんだ、生臭坊主」

「はっはっは、格好良く死ぬのも難しい物ですな。それにしても相変わらずの筋肉のキレ、肩に女神像でも乗せてるのですか?」

 

「「ナイスバルク!!」

 

 うわ、声デッカ。私はあまりの声の大きさにひっくり返ってしまいました。

 

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「墓に供えるプロテイン買ってきちゃったけど一杯やる?」

「いただきましょう」

 人間死が近付くとやはり恐ろしくなるもので、私は酒を断ち代わりにプロテインを飲むようになりました。そして気がつくと女神の聖典すら重く感じるようになった自身の肉体の老いが怖くなり、せめて死ぬまで不自由なく生活がしたいと思い、軽い運動を始めました。だんだん物足りなくなり筋トレに励んでいたらなんと言うか…細マッチョと言える肉体に。いやはや、人生とは分からない物ですね。

「どうぞ」

 私達が空気椅子に腰掛けるとフェルンがプロテインを運んできてくれました。本当に気が利く良い子です。そして森で採ってきたキノコの仕分けをしてくれている…キノコは良いですよ。栄養たっぷりですからね。

「あの子は…そう、フェルンって言うんだ」

 やれやれ、フリーレンはまた私の心を読んだようですね。いつもやめなさいと言ってきたのに。

「えぇ。…南側諸国の戦争孤児です。」

「そうなんだ。もう少し大きくなったら研鑽したいな」

 おやめなさいフリーレン。殺す気ですか。「ちゃんと手加減はするよ」そう言う問題じゃ無いです。

「でも、らしくないねハイター。進んで人を助けるような人間でもなかったし、筋トレも嫌がってたのに」

「なに…勇者ヒンメルならそうした、と…思っただけですよ」

「そっか。…そうだね。」

 フリーレンは少しだけ微笑むとサムズアップをしてきます。少し照れくさいですね。

「それにしても…フリーレン、何故私のところへ?」

 この森には特に珍しい植物や動物はいなかったと思いますが…

「聖都での買い出しのついでだよ。旅先で会う人とは出来るだけ手合わせするようにしてるからね。ハイターは強力な僧侶だし、死なれる前に手合わせしに来た。」

 冗談がキツい。細マッチョになったとはいえ、最早フリーレンを相手できるような肉体のキレは無い。アイゼンじゃあるまいし、こんな体でフリーレンと手合わせしたら内臓が弾け飛び四肢が爆散してしまうことでしょう。「そっか」だから人の心を読んで会話するのはやめなさい。やめろ。しかし、わざわざ私に会いに来たのにこれではあまりにも不憫…そうですね…

「では提案です。弟子を取りませんか。フェルンは魔法使いとしての素質があります。今はまだ手合わせする相手としては不十分ですが、それを貴女の手で鍛えてみては?」

「なるほど、その手があったか」

 どうやらフリーレンは了承してくれるようでした。

「あと、賢者エーヴィヒの墓所から出土した魔導書が10冊ほどあります。こちらの解読もお願いして良いですか?」

「まぁ、5、6年もあれば」

 

 こうしてフェルンは魔法使いのフリーレンの弟子となりました。どんな成長をするか、これからが楽しみですね。

 

〜〜〜〜〜 〜〜〜〜〜 〜〜〜〜〜

 

 私がいつもの場所で魔法の授業をしていると、フリーレン様が上から落ちて…いや、現れました。《空を飛ぶ魔法》でしょう。きっと。

「フェルン、修行はいつも森でしているの?」

「…フリーレン様は私がどこにいたか分かったのですか?」

 ハイター様から私はよく存在感が薄いと言われていました。それに、魔力感知に引っかからないように練習していたつもりです。それなのに…。

「うん。私の《生命を感知する魔法》なら魔力を隠していても居場所を探知出来るからね。…それにしても既に魔法使いとしての基礎はもう出来てるね。その歳なのにすごく研鑽を積んだってわかるよ。偉いね」

 勇者パーティの魔法使いであるフリーレン様に褒められると少し嬉しくなってしまいます。ですが私の頭を撫でようと迫る手は大きすぎて一瞬頭を握りつぶされるのではないかと恐怖を感じてしまいました。…気を取り直して私は杖を構え、対岸の一番岩を狙います。

「ハイター様にあの一番岩を撃ち抜けば一人前になれると言われました。」

「へぇ」

 そして私は魔法を放ちます。しかし、魔力は途中で離散し、届くことはありません。ハイター様にも訊ねましたが、ハイター様は僧侶であったため、勝手が違うところもあり分からないと言われ、今の私には分からずじまいなのです。

「どのような修行をすれば良いでしょうか」

 魔法使いであるフリーレン様ならば何か良いアドバイスをくれるはずです。

「そうだね…長距離魔法は魔法使いに必要な要素3つの合わせ技なんだ。さっきの魔法は途中で離散してしまった、それは魔力の量とそれを押し出す力が不足している事を示している。魔力は撃ち出された後も空気との干渉で少しずつ量が減っていくからね。そして押し出す力が不足していると空気の干渉に負けて魔力が止まってしまう。だから途中で離散してしまう。」

 なるほど…。

「でもコントロールは良いみたいだね。魔力の質…言ってみれば密度や量、軌跡がブレていると本来よりも余計に干渉されてしまって無駄が大きくなるけど、それは心配しなくてもいいと思う。足りていない魔力の量と押し出す力っていうのは反復練習すれば誰でもいずれこなせるようになる…筋肉と同じだね。」

「わかりました。フリーレン様。でも筋肉とは違うと思います」

 こうして私の魔法使いとしての特訓が始まりました。まずは杖を持ったままスクワット100回。

「いいかいフェルン。魔法使いたるもの杖を持ったまま行動するのは当たり前、特に構えた杖がぶれてしまうような足腰だったり腕ではせっかくのコントロールが勿体無い」

 なるほど、確かにそうかもしれません。そして次は走り込みです。

「いいかいフェルン。魔法使いは魔力を消費して攻撃や防御を行うから体力は不要と言う考え方があるけれど、それは間違いだよ。例えば魔力が切れてしまった時、敵から逃走するのに足が遅かったら死んでしまうからね。脚力とスタミナはあって損はしないし、戦闘中の疲労に対する耐性にも繋がるんだ」

 なるほど、確かにそうかもしれません。そして次は瞑想です。湖面の上に立ち、精神を統一する。…フリーレン様が湖面の上に立つとそのあふれんばかりのオーラや魔力、力とも言える何かの奔流とでも言いましょうか、水面が凄まじく荒れています。

「いいかいフェルン…」

 

 それから、暫く魔法の修行が続きました。

 

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 エーヴィヒの墓所から出土した魔導書は1冊の本としては普通の重さしかないものの、めくろうとすると1ページが100kgになる魔法がかけられていた為、並の魔法使いでは読み解くことができませんでしたが、フリーレンならば問題なさそうですね。

「フリーレン、フェルンの修行は順調ですか?」

「常人なら10年かかる道を3年で超えさせた。まだまだ強くなるよ、あの子は」

 最近ずっと森に篭りっきりですからね。余程鍛錬がキツいのでしょう。

「それでも私の手合わせ相手が務まるのは先のことだ。」

「そうですか」

 ですが、フェルンの事を語るフリーレンはどこか嬉しそうですね。「人間の成長は早いからね」…全く、そう言うあなたは成長しませんね。人の心を読んで会話するのはやめなさいといつも言っていたのに。

 

 それから、フリーレンに呼ばれて森を抜け、かつてフェルンに言った一番岩の見える崖までやってきました。

「ハイター様、見てて下さい」

 そう言うとフェルンは魔法を放ち、一番岩を粉微塵に吹き飛ばしました。…あの岩を粉微塵に掻き消すのは些か威力が強すぎる気がしますがね。

「これでフェルンも一人前の魔法使いだ。」

 フリーレンがそう呟き、フェルンが私の顔を見てきます。

「どうでしょうか、ハイター様」

「えぇ、見事ですよフェルン。」

 私が微笑むとフェルンも微笑みました。これでフェルンは1人でも生きていける力を身に付けた事になりますね。

 

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 私が一人前の魔法使いと認められてから暫くの時が過ぎました。その間ずっとフリーレン様と魔法の修行をしていましたが、一時期よりかなり修行の密度が少なくなった気がします。その事をフリーレン様に聞いたところ、「それだけフェルンが成長した証だよ」と言われたのですが、それだけでしょうか?

「いやぁ、とうとうフェルンに腕相撲で負けてしまいましたか。身体の鍛錬は怠らなかったつもりですが、いやはや、歳には敵いませんね」

「違うよハイター。フェルンが成長しただけだよ。人間の成長は早いからね」

 そう言うフリーレン様は両端に重りの付いた杖…現在合計708kgだそう…を軽々しく持ち上げてスクワットをしています。

「成長、ですか。そうかもしれませんね。…フリーレンの言う通り…人の成長とは確かに早いものかもしれません」

 ハイター様はアブドミナルアンドサイをしつつそう言いました。…なんだか懐かしいですね。

 

 

 それは今から何年前になるでしょうか…

「そこのお嬢さん。今死ぬのは勿体無いと思いますよ。」

 両親が死んでしまい、私も身投げで自殺をしようとした時に声をかけてきたのがハイター様でした。私が振り返ると褌一丁でアブドミナルアンドサイをしているハイター様…当時はただの変質者だと思っていましたが…が居たのです。

「…勿体無い?」

「そうッ!勿体無い!」

 そう言うとハイター様はポージングをダブルバイセップスに切り替えていました。今思えばキレキレだったと思います。

「…随分前になりますか、古くからの友人を亡くしましてね。彼は私と違って大変な努力家で見た人が必ず振り返るような人間でした。」

 それだけの発言をする間にサイドチェスト、モストマスキュラー、ラットスプレッドフロントとポージングをコロコロと変えていたのを思い出します。

「私は彼とは違うので筋トレせず余生を過ごそうと思っていたのですが、ある時ふと気が付きまして」

 そう言うとハイター様は今も愛用している純金製の女神の聖典でウェイトトレーニングをしていたと思います。

「私がこのまま死んだら彼に比べてあまりにも見窄らしくないか、と。」

 そう言うとハイター様は白い歯を光らせニコリと笑って再度モフトマスキュラーをしていました。

「人間老いてから鍛えてもこれだけ筋肉が付くのです。若いあなたが死ぬのは勿体無いと思いませんか」

 …あれ、なんだか今思うと滅茶苦茶浅い話じゃないですか?これ。…まぁ、それでも当時の私はハイター様に救われました。そしていつも思うのです。ハイター様は私を救った事を後悔…「嫌ですねフェルン。後悔なんてするはずがないじゃありませんか」…ハイター様?

 

「あれ、ハイターも《心を読む魔法》使えるようになったの?」

「違いますよフリーレン。私はこれでもフェルンとそれなりに過ごして来たつもりです。長く共に生きていればそれなりに相手の思っていることがなんと無くわかるようになると言うもの(フェルンだって私の考えていることが少しくらいはわかるでしょう?)」

 私に微笑みウィンクをするハイター様はそう言っているような気がしました。

 

 それからまたしばらくして、ハイター様は見事なサイドトライセップスを決めたまま天へと召されたのです。




《生命を感知する魔法《マッスルサーチ)》
 フリーレンの【魔力】により、周辺の生命反応を感知する魔法。森の中であろうと小動物一匹一匹を個別に感知することができる。魔力感知と異なり相手の魔力が少なくても関係なく感知可能だが、この魔法では魔力を感知することはできない。
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