もしも綾小路がAクラスだったら 作:綾小路が一番のヒロイン
体育館に着いてから、然程待つ事もなく直ぐに部活動説明会が始まった。オレは悠々と歩いて来たが、割と時間が押していたことに気づき、間に合ったことに対して安堵を覚えていた。
そんなオレとは裏腹に、説明会は進行役の橘先輩の声と共にテンポよく進んで行った。
どの部活も一年生に少しでも興味を持ってもらう為に身振り手振り説明したり、予め配布していた資料を使いながら説明したりとしていたが、やはりと言うべきか生徒会は少し違っていた。
壇上に上がったのは、身長がそれほど高くない細身でさらりとした黒髪のシャープなメガネが印象的な先輩。資料も何も配られていなかった為、口頭で説明するのかと思いきや、マイクの前に立ったその先輩は落ち着いた様子でこちらを見下ろす。一言も発する事なく。
一見、緊張でセリフを忘れてしまったように思えるが、その先輩からはそんな雰囲気は一切感じられない。ただ一年生を見下ろしているだけ…。
そのまま数分が経過するが、未だにその先輩は言葉を発さない。一年生達からは笑い声や励ましの言葉が贈られたが、それでも先輩は微動だにせずに立ち尽くすだけ。その様子に白けた一部の生徒達は、呆れの言葉やいつまでも説明を始めない事に対して不満を呟き始めていた。かく言うオレもさすがに呆れてきた。…本当にセリフを忘れたのだとしたらポンコツ過ぎるだろ。
しかし、その先輩はそれから間もなく口を開いた。
「私は、生徒会会長を務めている堀北学と言います」
その言葉と同時に体育館全体が静寂に包まれた。誰に命令されたわけでもないのにも関わらず、静かな空気が広がっていく。
「生徒会もまた、上級生の卒業に伴い、一年生から立候補者を募集することとなっています。立候補することに資格などは必要ありませんが、もし生徒会へ立候補するのであれば部活への所属は避けてください。原則、生徒会と部活の両立は認められておりませんので」
生徒会長――堀北学の言葉は一言一言に重みがあり、聴いている側は全員自然と緊張していた。オレは特に何とも思わなかったが、それでも普通の人間であれ程の空気を作り出せるのは大した人間だと心の中で思わず称賛した。
「それから――我々生徒会は大した覚悟の無い者の立候補は受け付けておりません。そのような人間は当選することはおろか、学校の歴史に汚点を残すこととなる。我が学校の生徒会には、規律を変えるだけの権利と使命が、学校側に認められ、期待されている。そのことを理解できる者のみ、生徒会の一員として歓迎しよう」
説明を終えた堀北学は真っ直ぐと壇上から降りていき、そのまま体育館から去った。
「皆さまお疲れ様でした。説明は以上となります。これより入部受け付けを開始いたしますので、入部希望者は申込用紙を各部活の顧問の先生に提出してください。また、入部の受け付けは四月いっぱいとなっておりますので、後日を希望される生徒は、申込用紙を直接希望する部にまで持参してください」
橘先輩の言葉で我に返る生徒が多い中、堀北学に畏怖の念を示す生徒が多くいた。十分程でここまでの人心掌握を行える人間は少なくともホワイトルームには存在しない。さすがのオレもここまでの人心掌握を行える自信はない。…オレは少し外の世界の天才を見誤っていたようだ。
自分の思い込みを訂正したところで、オレは部活動についても考えを纏めていく。説明を聴いて、生徒会にも興味が湧いたが、生徒会の業務に追われている中で青春が送れるか不透明な以上これは却下だ。実際どれほどの仕事量なのか分からないが、量が多いだけの面倒なことばかりだろう。
運動部の中では、水泳部が最も魅力的に感じた。水泳部は夏が水中練習や大会、冬が陸上練習と思われがちだが、実は冬にも大会が多くあり、夏と冬がメインシーズンのようだ。
専用の水着は高い物で数万するようだが、3000ポイント程の安い水着もあるそうなので、それを履けばそこそこの出費で抑えられるだろう。そして、水泳は個人種目ではあるが、友人が作りやすいらしい。何とも辛い練習を共に乗り越えることで友情が生まれるとか。
その事を踏まえてやはり水泳が良いと判断し、オレは申込用紙を水泳部顧問に提出して帰路についた。
その日の夜、オレは寝る前に飲み物でも飲もうと思って冷蔵庫を開けたのだが、生憎と飲み物をきらしていた。しょうがないからオレはジャージに着替えて寮の外にある自販機まで向かった。
寮から出て、自販機でミネラルウォーターを購入した後オレは近くにあったベンチに腰掛け、ミネラルウォーターを一口飲む。
…それにしても、堀北学という先輩は一体何者なのだろうか?説明会の時は深く考えなかったが、あの空気は常人が瞬時に作り出せるものではない。カリスマというものなのだろうか?だが、心理術も心得ているように思える。そうでもなければ集団を思うように統率できないからな。
そう考えていると、少し先の所で昼休みに出会った少女と堀北学が話しているのが目に入った。先輩に分からないことでも聞いているのかと思ったが、あの少女はそのようなタイプではなさそうだし、堀北学の表情も何処か険しい。――次の瞬間、少女の身体がぐっと前に引かれ、少女の体が宙に浮く。勿論堀北学の仕業だ。
直感的に危険だと判断したオレは走り出す。直ぐに近寄ると気配を悟られる前に、少女の手首を掴む堀北学の右腕を掴み取り、動きを制限する。
「――何だ?お前は」
自分の腕を掴まれたと認識すると同時にゆっくりとこちらに顔を向ける。鋭い眼光がオレの事を射抜く。
「あ、あなたは…」
「生徒会長、あなた今こいつの事を投げ飛ばそうとしましたよね?ここはコンクリなので投げ飛ばしたら大怪我ですよ?その事を分かっているのですか?」
「盗み見とは関心しないな」
「いいからその手を離してください」
「それはこちらのセリフだ」
オレと堀北学は睨み合う。少しの間沈黙に襲われるが、それは少女によって破られた。
「や、やめて綾小路くん……」
少女の絞り出した声。オレの名前を覚えてくれていた事に喜びを覚えるが、今はそれどころではない。
オレは少女の意見を尊重し、渋々堀北学の腕を放した。その瞬間とてつもない速度の裏拳が、オレの顔に目掛けて飛んでくる。が、咄嗟に身体を大きく反るような姿勢をとり、何とか回避する。そして息を付く間もなく、急所を狙った蹴りが飛んでくる。
「っ!」
当たれば悶絶する程度では済まない威力。堀北学は少し驚いたような表情を見せるが、呼気を吐くと右手を真っ直ぐ開いた様な状態で伸ばしてくる。掴まれば先程の少女のようになるのは明白だ。オレは慌てずに左手ではたくようにして受け流した。
「いい動きだな。立て続けに避けられるとは思わなかった。それに俺が繰り出そうとした技の対処法もよく理解している。何か習っていたのか?」
ようやく攻撃を止め、そう問いかけてきた。ホワイトルームの事は話す義理もないので適当に流して置く。
「何をというわけではないのですが、武道の事は親に教えられていたもので」
「ユニークな男だな」
堀北学はこちらに向き直る。攻撃の意志は感じられないが、警戒するに越したことはない。
「一応Aクラスなのでね」
「…!お前はその事に気づいているのか?」
「何の事だか分かりませんね」
堀北学がこちらに体を向けたことでフリーになった少女が安堵したかのように肩の荷を下ろしている中、堀北学が再び少女に向き直り少女の肩が上がる。…少し面白いな。
「とりあえず、俺に認められたいのであれば己を磨け。そして死に物狂いで足掻くのだな。それとお前。綾小路、と呼ばれていたな。お前が入れば少しは面白くなるかもしれないな」
「否定はしません」
オレがそう言うと同時に堀北学はオレの横を通り過ぎて去って行った。堀北学が居なくなったことで夜の静けさに包まれる。少女は壁際に座り込んで俯いてしまっている。…何と言うか、気まずい雰囲気だな…。
黙って寮に戻ろうとすると少女に呼び止められた。
「最初から聞いてたの……?それとも偶然?」
「偶然だな。そこのベンチで水を飲んでいたらちょうどお前たちの事が目に入ったんだ。これは本当だぞ?」
また少女は黙ってしまう。何となく帰りづらく、オレは少女に話しかけた。
「これは好奇心なんだが、生徒会長とお前はどういう関係何だ?」
「……私と生徒会長は兄弟よ。そして私は堀北鈴音、お前呼びはやめて頂戴」
サラッと名前を教えてくれた。…嬉しい。
「わかった。じゃあ、改めて堀北よろしくな」
「別に私はあなたと触れ合う気はないわ、それじゃあ」
堀北は兄から言われた言葉から回復したのか、毒を撒いて寮に戻っていった。堀北兄から何を言われたのかは知らないが、堀北兄が言い残していった言葉から察するに「お前は成長していない」や「いつまで孤高と孤独を履き違えているのだ?」とか言われたのだろう。
オレに言い残していった言葉から推測すると、恐らくだが堀北は自分にとって大きな存在である堀北兄に憧れていて、自分もそうであろうとしているのだ。堀北兄が孤独であると思い込んで、自分も他者との関わりを遮断することで孤独になる。実際は堀北兄は孤独ではなく、孤高なのだが、堀北にはそこの区別がついていないのだろう。
…今はまだ兄に依存している堀北だが、それを剥がせばそこそこ使える駒として利用価値があるだろう。だが、この学校のゴール地点にオレは既に立っている。有栖がリーダーになろうと葛城がリーダーになろうとクラスがAクラスから落ちることはない。その為、生憎と駒は必要としていない。
堀北兄は妹である堀北に期待しているようだが、それはオレが潰すことになるだろう。オレは勝利以外求めていないのだ。
今回の補足
・綾小路が水泳部に入部した。
入部したとはいえ、部活動の描写はあまりしません。どちらかと言えば物語の方を進行させたいので。
・綾小路はA〜Dクラスの割り振り方に気がついている。
部活動説明会の時点では疑い程度だったが、堀北兄戦後の会話で確信を持った。
・堀北と堀北兄の会話を聞いていない。
これは堀北と清隆があまり親しくなかったため、発生しなかったと言っても過言ではない。
・水泳の授業の前に堀北兄イベントが発生している。
話の進行上これは仕方がなかった。申し訳ございません(_ _;)
綾小路をAクラスに移動させたらDクラスが物凄く弱体化してしまった…。どうしよう?
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高円寺くんが本気らしいよ?
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南雲先輩はDクラスを狙っている?
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オリキャラ(綾小路妹とか)ぶっこもうよ?
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1年Aクラスに従属したらしいよ?
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堀北さんと櫛田さんの協力?
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何もなし。そのまま底辺なの?