ネムガキはかわいいね。
「くく...爆弾は、上手く作動したようだな。」
崩れ去る連邦生徒会の建物を尻目に、車を走らせる。
あれは生徒会長室の扉を開けると作動する仕組みにしておいたものだ。私が逃げることになった際、奴らに手痛いダメージを喰らわせることのできる施策。
行政官と、その他の仲間は皆重傷を負い、まともに行政権の行使などできまい。
そしてその間に、私が反撃の狼煙を上げるのだ!
「しかし、何だこの怪物たちは...本部に残しておいた戦力とも連絡がつかないし...」
どうにか回避して車を走らせているが、こう数が多いと──
「っ!く、クソ...!」
ガスマスクのシスターが放った弾丸により、車が穴を開け煙を出し始めた。
「はぁ...!こ、こんなところで死ねるか...!」
車から這い出して走り出す。幸い目的地はすぐそこだ。
「くく...!昏睡中であっても、先生がこちらの手にあるとなれば奴らは手を出せまい!私の完璧な作戦────がッ!?」
突如、頭部に凄まじい衝撃を受けて倒れ伏す。
「うぐ、な...何が──」
「消えて。」
もう1発。
彼の背後から飛んできた、重厚なる神秘を纏った一撃が突き刺さり、カイザープレジデントは沈黙した。
「......」
その弾丸の主は倒れ伏すロボットには一瞥もくれずに、ゆっくりとその足を運ぶ。
ずっと前から視えていたけど、ようやく少しだけ目に見える所まで辿り着いた。
もう少し。もう少しで...
「......?」
「こんばんわ、お姉さん。」
ふと、目の前に何者かが立っているのに気づく。
知らない顔。いや、知っている顔かすらもう判別がつかない。
「ちょっとお話、聞かせてもらえるかな?」
──────────────────
轟音が鳴り止む。
「うぅっ...!く...行政官...!」
凄まじい衝撃と、一拍遅れて感じた浮遊感。
爆風に晒されて霞む視界の中…何もかもが崩れ去っていくのを目にした。
カイザーは...連邦生徒会本部に、こんな爆弾を仕掛けていただなんて...
明滅する思考を必死で手繰り寄せ、行政官たちの息を確認する。
ヘイローこそ消えていますが、脈はあります。
どうやら気絶しているだけのようですね…
「はぁ...っ...サキ...!ミユ...!」
返事はない。
なんとか顔を上げて2人を視界に収めるも、動ける状態ではないのが分かる。
「けほっ...き、聞こえ、ますか...モエ...」
『...!?み、ミヤコ!良かった繋がった...!み、みんなは...!?』
何とか身体を起こし、瓦礫にもたれかかる。
通信機は...雑音が多いですが、まだ聞こえますね...
「生きては、います...じょ、状況を...」
カイザーは連邦生徒会から居なくなりましたが、こんな状況で行政を動かすことなどできません。
つまり、押し寄せる怪物たちを止める手段がない。
『怪物たちの勢いはどんどん増してる!みんな必死に戦ってるけど、いつまで持つか分からないよ...!』
激しい頭痛の中で突破口を考える。
「っ...モエ...あなただけでも何とか他学区に行って、救援を...」
『...さっき何とか通信妨害の範囲外に出たんだけど、他の学区も同じ感じだった。種類は違うけど、何かしらの怪物が...このキヴォトス全土を襲ってる!』
気力を振り絞って立とうとしますが、足に力が入りません。
...このまま、終わるのでしょうか。
せっかく先輩方と手を取り合うことができ、連邦生徒会も取り返すことができたというのに...っ!
このまま...!
『...!?まって、あれ...何?』
「...?」
モエが何かを見つけ、驚きの声を上げた。
『公安局長が女の人と、子ウサギ駅付近で戦ってる!あれは誰...?』
「局、長...?」
子ウサギ駅付近...連邦生徒会本部からは、それなりに距離があります。この状況で連邦生徒会周辺を離れる意味は...
『なんか、あの人の周りだけ怪物が居なくって...』
「...っ!」
...これは。最後の希望でしょうか。
最悪の状況で、唯一見つけた特異点。
公安局長が見つけたその何かを倒すことができれば、全てが終わると...そんな都合の良い希望に賭けるしかない。
「戦況は...」
『...いや、無理!持ってる武器とか身のこなしとかじゃなくて...もっと何か、相手は根底から違う!』
公安局長。
彼女は、果たして勝ち目のない戦いに身を費やすでしょうか。
あるいはこれも、まだ希望を失いたくない私の理想的な思考かもしれませんが。
待って。
...子ウサギ駅?
先ほどのジェネラルとの会話を思い起こす。
『くくく...!お前たちは以前FOX小隊が押収した、サーモバリック爆弾を覚えているか!そいつは今、子ウサギ駅の地下に仕掛けられている!』
『な、ない!リモコンが...!』
まさか公安局長は、あの爆弾を?
いや、それなら彼女自身は子ウサギ駅に近づかないはず...そもそも、通信妨害のせいでスイッチも作動しませんし...
「...っ!」
咄嗟に銃を上げ、撃つ。
死角から近づいていた怪物が塵に帰る。
「...もう、ここまで来ていますか。」
あの通信妨害を起こしているロボットも居ることでしょう。通信はここまでですね。
『──!ミヤ──!ちょっと、通信が───!』
「...RABBIT3。私たちのことは気にせず、公安局長の支援に向かってください。」
壁に手をつきながら、最後の力で立ち上がる。
「SRTはいかなる状況であっても、正義の名の下に...何度だって、立ち上がります。」
まだ武器も動く。さすが、モエが選んだ最新型です。
少し振り返って...倒れ伏すサキとミユを見る。
それから大きく息を吐いて、怪物たちへ銃を向けた。
「RABBIT小隊は、最後まで諦めません...!」
──────────────────
「......」
「おーい。えっと、言葉通じる?」
目の前の、黒いドレスを纏った彼女をじっくりと観察する。
見かけはただの女の子だ。
「その...怪物出すやつ?ちょっと止めて欲しいんだけど。ダメ?」
「...ごめんなさい。」
喋った。
ごめんなさいか...うーん...
「いやぁ、このままだとキヴォトスが滅んじゃうからさ。どうにかしたいんだよね。」
「...私は、命ある全てを常世に導くものだから。」
常世...ね。
なんか悪い子には見えないんだけど、止める気も止められることもなさそうだ。
一応ダメ元で、スイッチを押してみる。
「...ダメか。その通信妨害ずるくない?」
「......」
矯正局でジェネラルから拝借した、爆弾のスイッチを放り投げる。
カイザーPMC基地で見た資料には、弾頭用のサーモバリック弾が子ウサギ駅の地下に設置されているとの記載があった。
それを起動できれば1番早いんだけど...案の定ダメだったね。
まあこっそり盗んだスイッチだから、これじゃなかった可能性はある。
今から探しに行く時間なんてないし、あっても多分通信妨害のせいでどうせ使えない。
「私、ヴァルキューレ警察学校の公安局長。ねぇ、あなたの行き先も先生の病院?」
「......」
その視線は一体何を見つめているのか、見当もつかない。
横目で沈黙するカイザープレジデントを眺める。この子がコイツを潰したのは偶然なのか、それとも。
「先生を、どうする気?」
「...テクスチャーを剥がさないといけないから。そうしなければ、私は、終われない。」
何をいってるのやらさっぱりだ。
そもそも彼女の虚な瞳を見るに、彼女自身それを理解しているかも怪しい。
「ふぅ...じゃあお姉さん。」
「......」
色々と聞き出したくはあるんだけど、いかんせん時間がない。
こうしているうちにも...ヴァルキューレやSRTの戦力は削られていってる。
「やろうか。」
「......」
予感がする。彼女は何かが違う。
災厄の狐と相対した時とは別種の...別次元の力とさえ言えそうな圧力。
だけど今の私に、引き下がれる場所なんてないんだ。
─────────────────
「さ、流石に多すぎるって...!」
「うわっ!」
ジリジリと、戦力が削り取られていく。
警備局も公安局も善戦していますが、無尽蔵に近い敵の兵力に...皆疲弊していっています。
それでも引くわけにはいきません。私たちの後ろには、守るべき市民がいるのですから。
「...っ、交代を!前線は後衛と入れ替わってください!」
「は、はい!」
崖っぷちの戦場をどうにか保たせるため、ほぼ座学でしかやっていない戦術学を絞り出す。
付け焼き刃のこれで一体いつまで戦えるのか。
「...局長。」
先ほど走り去っていった彼女から渡された、手帳を見る。
『合歓垣フブキ 公安局 局長』
怖くて開けられていないその手帳。
聞いた話によると、彼女も...意識不明となった尾刃カンナ局長から、手帳を受け取ったという。
「局長...帰ってきて、くれますよね...?」
───────────────────
「っ...!?」
彼女の銃撃が頬を掠める。
ただの銃弾じゃない。何か、私の芯に触れるような──
「......」
最新鋭のライフルを叩き込む。
隙というか、彼女は避けるそぶりすらない。それも、狐坂ワカモの時とは違って直撃する。
「ええ...?」
しかし、どれだけ直撃しようと...彼女の体も表情も、1ミリだって動かない。
とにかく彼女の周りを駆けずり回る。
正直彼女を目の前にしたその時から、武力で制圧できるなんて思ってなかった。
「...!なっ...!」
私の一瞬の隙を突いて、彼女がふわりと近づいて銃を向けた。
予備動作があまりに少ない。まるで何かに身体を預けているような動き。
「ッ...!はっ...ぁ...!」
寸前のステップで何とか直撃を避けた。
その代わり、左肩のあたりが燃えるように熱い。
バチバチと、痺れるような何か。
ただ弾丸に貫かれただけじゃない...ヘイローを撫でられたような一撃。
「...っ!行けっ!」
転がった私にそのまま銃口が向く。
先ほど拝借した最新型ドローンを、咄嗟に私と彼女の間に割り込ませる。
「......」
しかし、彼女から飛び出す一閃は…
新型ドローンの装甲をあっさりと貫通し、そのまま私の体に突き刺さった。
「ぐぅッ...!?はっ...!はぁっ...!」
雷に打たれたような衝撃が身体を通り抜けて、痛みが私の脳を埋め尽くして止まない。
麻痺する身体を、それでも本能で無理やり動かそうとする。
「勝てないよ、あなたでは。」
土煙の中でも、狙われているのがわかるほどの悪寒が走る。
...前だ!遠距離の撃ち合いは、不利すぎる!
身体を縛る恐怖心を振り切って、銃口の煌めく方向へ転がり込む。
すぐ上空を通り過ぎた熱線を背中で感じながらすぐに体勢を直して、ピンを抜いた。
「これで、どう...だ!」
接近に気づいた彼女の横殴りで吹き飛ぶ、その瞬間。
「手榴弾…」
落とした手榴弾は彼女の足元に落ちて私は遠ざかっていく。
至近距離での爆炎で、彼女の姿が掻き消える。
「......はっ…… はっ……!」
周りを見回す。
かつて他学区と連邦生徒会をつなぐ地下鉄の存在により賑わいを見せていたこの地域。
今や無事な建物などなく、そこらじゅうが穴だらけの廃墟だ。
考えろ。
私の思考を打ち切るように、粉塵の中から弾丸が飛んでくる。
「げほっ...ああ...やっぱ全然効いてないなぁ...!」
再開されるのは、先程と何一つ劣ることのない強力な銃撃。
咄嗟に建物の影に隠れると…
それは衝撃に耐えられず倒壊を始める。
「おかしいって...!」
下敷きになるのを避けるため全力で横っ飛びする。
飛び込んだその先。
いつの間にかその先に、彼女とその銃口がいた。
「わっ!読まれ…っ!?」
「さよなら。」
無表情な銃口が、私の心臓をぴったり捉えた。
彼女が指に力を込める瞬間。
彼女と私を分断するように、ヘリの駆動音と重機関銃の足跡が走った。
「公安局長ーっ!!」
次回、最終回です。