「アレ、なんなの...?」
上空から、謎の女と公安局長の戦いを観察する。
今さっき打ち込んだ重機関銃は2人の距離を分断し、土煙で周囲を覆い隠している。
彼女たちの戦いを見て、直感で理解する。
このヘリに積載した武装であの女性を傷つけることのできるものはないと。
「とりあえずミサイルありったけ...!」
誘導弾のスイッチを押せるだけ押す。
飛来する音を聞いたその女は、銃を天空へと向けた。
「は...?ぜ、全部迎撃した!?」
弾丸だけではない何かを放ち、光と共にミサイルを全て迎撃した彼女はそのまま...
真上に向かって引き金を引いた。
「きゃあっ!?う、嘘...!この高度のヘリを地上から撃ったの!?」
機内が大きく揺れ、ブザーがけたたましく鳴り出した。
重力などお構いなしの一撃が尾翼の中心を捉えている。
これ、墜落する...!
「...っ?」
急降下する中で、走る公安局長の姿が見えた。
持ってるのは...アレ、地雷?
そんなのアイツに当たる訳...
いや、そもそもアレに攻撃しようなんて思ってない?
時間ないけどとにかく何か...!
窓から局長に向かって、積んだ武器を放り投げる。
「局長!何とかしてーッ!」
──────────────────
...武器!
墜落するヘリから、いくつかの兵器が落ちてくる。
どれだ!どれが1番良い...!?
「っ!これだ!対戦車ライフル!」
引っ掴んで、狙いを定める。
狙いは彼女ではなく...地面のある一点!
「...?」
撃ち抜くと同時にスイッチを押して設置した地雷を起爆する。
「もうちょっと、付き合ってよ!」
「...!」
円形に地雷が爆発し、既に穴だらけとなっていたその土地は、その支えとなる柱を撃ち抜かれて崩れ去る。
ふわりと浮いた身体、そして重力に導かれて下へと落ちていく。
2人、地下へとその身を投げ出した。
──────────────────
降り立つ。
大規模な爆破で巻き上がった砂埃の中、未だ傷を受けた様子のないソレと、血みどろの少女が相対する。
「...地下?」
「そう。子ウサギ駅は地下鉄が走っててね。広ーい空間があるんだ。」
彼女との戦闘と怪物たちによる襲撃で、ここの地面には穴がたくさん。随分と脆くなっていた。
生活安全局のパトロールをサボる際はよくここ周辺をぐるぐると回っていた。地下って位置情報がブレやすいからね。
そのおかげでこの空間を支えていた柱の場所もわかる。
地雷と対戦車ライフルによる柱への集中攻撃は、思ったとおりに作用してくれた。
「それで...私をここに落として何が変わるの?」
「そりゃ...変わるとも。」
照準を向ける。
...あれ、全然合わない。
「......っ」
砂か汗か、血か。何かが入って左眼がよく見えない。
タタラを踏む。ようやく自分がまともに立っていられないことを実感した。
はは...自分の策略で、相手は無傷で自分は大怪我だなんて...笑っちゃうね。
...寒い。
「けほっ...はぁ...っ...ぁ...」
目の前の彼女はどんな表情をしているんだろう。さっきと変わらない仏頂面だと思うけど。
大きく空いた天井から、月明かりが差し込む。
ここには喧騒もない。1歩外へ踏み出せば地獄絵図だけど、今この2人が立つ場所だけは静かだ。
「もう、良い?これで最後にしよう。」
「最後...?ああ、うん...そうだね...」
最後になる。どのみち私の身体は、もう動ける限界値なんてとっくに超えてるし。
いや、あの日からそうだ。
先生とキリノとカンナ局長が居なくなったあの日から、私はとっくに限界だった。
大きく息を吸って、酸素を回す。
「...ねぇ。」
「...?」
「『狂犬』の名前、聞いたことある?」
今度はしっかり握って照準を定める。ありったけの力を込めて。
「...いいえ。」
「そっか。じゃあ...私のことは覚えなくて良いからさ、これだけ覚えてって。」
彼女もゆらりと、下ろした銃の持つ手に力を込めた。
言わなくては。伝えなくては。
私じゃ力不足なのは分かってるけどさ。それでも、その名を刻みたい。
「ヴァルキューレには、公安局には...!」
目を覚まさなくたって...!世界が滅んだって忘れさせないっ!
「『狂犬』が居たってことをッ!」
静かな空間を切り裂くように音が響く。
こっちが撃つより少しだけ速かった彼女の弾丸は、私の右手に握られたヴァルキューレ制式ライフルを弾き飛ばす。
構わず突っ込む私のお腹を、1発。
痛みを無視して、まだ進む。
2発目、頭を掠めて帽子を弾き飛ばす。
目の前っ!
がむしゃらに手を伸ばして彼女の銃に掴みかかるも、異様な腕力によって振り解かれて壁に叩きつけられた。
「...ぁ....っ...」
「さよなら。」
聞いたこともない音がする。
彼女の銃身が禍々しく発光し、その光に晒されればたちまち消え去るのだと本能で理解させる。
そしてそれが今、壁にもたれて座り込む私に向けて、見下ろすように向けられていることも。
これがきっと、この戦いで最大の一撃。
これなら届く。
「うあああああああッ!」
引き金が引かれるその瞬間、私は懐から
2つ弾丸は吸い込まれるように彼女の銃の上部を掠めて、その銃口を
「...!」
鈍い音を立てて地面へと発射されたソレは。
深く。
一層二層とコンクリートを軽々突き破っていったその閃光はやがて。
地下深くのサーモバリック爆弾へと到達する。
「......!」
尋常ではない地響き。半径数キロ被害が及ぶとされた爆弾が、足元で炸裂する。
共に光に飲まれていく彼女は...
既にヘイローを消し、目を閉じた少女の姿を捉え...呟いた。
「.....狂犬。」
───────────────────
「...んむんむ。」
イチゴにチョコに...ホワイトチョコが全部2つずつ。
それとアイスコーヒー。
これが私の、いつものセット。
右も左も、工事の業者が忙しなく駆け回っている。
そこかしこに破壊の跡が残るこの周辺だけど、少しずつ修復されて以前の街並みが戻ってきているように見える。
「はぁ...まったく。あんな重労働の後なんだから、休暇にしてくれても良いのに...」
あの大騒動から大体1週間ほど。
あんなに頑張ったっていうのに、騒ぎの後は治安の悪化が懸念されるとか言って結局パトロールに駆り出される。
ドーナッツ休憩でもしないとやってらんないね。
「...ん?あれ?」
「...!」
そんなこんなで、位置情報を適当に誤魔化すため歩きながらドーナッツを頬張っていると...つい最近、資料で見た顔と鉢合わせた。
「えーっと、何だっけ。アビドスの人?」
「...あなたは。」
正直資料も流し見してたから名前とか全然覚えてないけど...
黒いドレスに銀髪。この間の大事件の渦中に居た生徒だった気が。
偽のサンクトゥムタワーが出現し、街に怪物が溢れ返り。
それに立ち向かった先生や生徒たちの戦いは、勝利で終わったと聞いている。
全部終わった後に行方不明だと聞かされた気がするけど...たまたま私のサボりスポットと逃亡ルートが被っちゃったとか?
「...えっと、それじゃ私はこれで。」
面倒ごとは嫌だし、こういう時は他の人に任せるのが1番。
別のサボりルートを使おうか。子ウサギ駅辺りにしよっかな。
「あなたは、私を捕まえないの。公安局長。」
「え?」
踵を返そうとしたところ、話しかけられる。
公安局長だって。なんとまあびっくりな人違いだ。
「えっと、誰かと勘違いしてない?私は公安局じゃなくって生活安全局。それに先生から...まあ悪い子じゃないって情報は貰ってるから平気だよ。」
「...そう、なの。」
彼女のぼんやりとした瞳は、何を考えているのかさっぱり伝えてくれない。
それでも何か、遠くを見ているような。
「ふぅ...まあそんな顔しないで、ほら。」
「...え?」
ドーナッツを差し出す。
「なんか大変なんだろうけど、ドーナッツでも食べてゆっくりしなよ。甘いものを食べてれば、そのうち悩みも溶けてくって。」
「......」
そーっと受け取った彼女は、ただただそれを見つめる。
「なんか困ったことがあったら、ヴァルキューレ警察学校の生活安全局に来なよ。私...じゃなくてキリノが何とかしてくれるからさ。」
「...名前。」
「え?」
彼女は無表情のまま、こう問いかけてきた。
「あなたの名前を、教えて。」
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ヒラヒラと手を振りながら去っていく彼女の背中を見つめる。
合歓垣フブキ。
私があの世界で会った彼女とは何もかもが違っている少女。
...あの日。
彼女の命を賭けた戦いで、確かに私は足を止めた。
一体どれだけの時間だっただろうか。戦闘が数十分、地下の爆弾を食らって数時間は動けなかった気がする。
それでも、私のヘイローが壊れることはなかった。
しかし、彼女の稼いだ時間で...先生が目を覚ました。
彼女が現れなければ、今私はどうしていただろう。
ただ眠り続ける先生を前に、本当に撃ち殺すことができていたかもしれない。
撃てずとも、先生が『色彩の嚮導者』の役割を私から奪うことなく...私の自我はとうに消滅していたかもしれない。
「......」
ドーナッツを、1口齧る。
『私のことは覚えなくて良いからさ、これだけ覚えてって。』
『ヴァルキューレには、公安局には...!』
染み込んだチョコは甘く、ほんのり苦味をたたえる。
『狂犬が居たってことをッ!』
彼女は...あの世界に生きた人々は、私と先生が居なくなった後どうなったのだろう。
分からない。思いを馳せる資格があるとも思っていない。
彼女たちの世界を壊したのは、間違いなく私の手。
それでも...考えざるを得ない。
遠い世界の、私の故郷を。
もう私しか知らない、あの世界を。
「...覚えておくわ、公安局長。」
彼女が命を賭して刻もうとしたその名を、忘れることはない。
きっと、どこへ行っても。
「『狂犬』...合歓垣フブキ。」
──────────────────
遠い世界。
微睡の中、少女は想う。
楽しかったあの日々を。
仲間と笑い合えたあの日々を。
もう2度と戻らない思い出たちを抱いて。
そして───
── ありがとう。頑張ったね、フブキ。──
『──────────。』
光に飲まれる瞬間。
聞こえるはずのない声と、聞こえるはずのない電子音を聞いた気がした。
それはとても、懐かしくて───
「「フブキ!!」」
箱の主は『色彩の嚮導者』の役割を彼女から奪った。
懐かしい声が聞こえる。
もう2度と聞けないと思っていた声。
「うううっ!フブキ!良かった...!」
「良くやった。お前はヴァルキューレの誇りだ。」
瓦礫の山から、引き上げられる。
怪物たちは色彩と共に消えた。
しかしこの曇り空が晴れることはない。
世界は荒廃し、多くの人々の命が失われた。
連邦生徒会は崩れ去り、多くの学区は未だ混乱の最中にある。
それでも。
先生が居なくても。
誰が見ていなくても。
彼女たちはあの世界で生きている。戦っている。未来を夢見ている。
彼女たちの青春は、人生は、どんなことが起きても歩みを止めてはくれない。
だから覚えていて。
これはもう2度と見ることはない。
もう1つの世界の
最終話です。
次のやつは読む必要のない後書きですので、簡単にご挨拶を。
このような二次創作に5万字もお付き合いいただき誠にありがとうございます。
読者様が一瞬でも『公安局の制服を羽織った合歓垣フブキ』を幻視していただくことができたなら幸いです。
よければぜひ、この作品の感想や評価等を足跡として置いていってください。泣いて喜ぶと思われます。
それでは、ここまでお読みいただきありがとうございました。
またどこかでお会いしましょう。