小鳥遊ホシノ憑依もの   作:ゲーミングチーパオ

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20代前半なのに親戚の集まりでおじさんと呼ばれたので初投稿です(迫真)


プロローグ

 死んだという感覚はあった。というかあれで死ななかったら多分不死身の化け物だろという状態だったので、状況判断から流石に死んだと思っていた。

 そんな状態から意識が戻り、気が付いて目を開けると、そこには知らない天井があった。死後の世界って案外オタク文化に寄り添ってくれた粋な演出してくれるんだなと思い、ひとまず身体を起こしてみる。

 

 身体は動く。病院で入院しているわけではなさそうだ。起き上がって周りの様子を確かめる。知らない場所だ。壁や天井、部屋の大きさなどの周りの様子から見て恐らく家の中だろう。ひとまず寝ていたベッドから降りて部屋の探索をしよう。

 そうして立ち上がると目線の高さに驚く。明らかに低い。気になって下を向くが、明らかに足が華奢だ。確認してみれば腕も細い。

 

「あ~~~」

 

 気になって声を出してみれば明らかに可愛い。

 ふとガラスに薄く反射した自分の姿が映り、金と蒼のオッドアイと目が合う。あら可愛い。小鳥遊ホシノさんがいるね……。

 

 ……?

 

 ……!?

 小鳥遊ホシノ!?

 

 □ ■ □

 

「うへ~……って、柄でもないしな」

 

 鏡を見てそうつぶやく。

 金色をした右目と澄んだアクアブルー色をした左目のオッドアイがこちらを見ている。

 "小鳥遊ホシノ"が、そこにいた。

 

「まさか、小鳥遊ホシノなんて。

 しかも多分これ、入学前だよなぁ」

 

 自分を落ち着かせるために、誰もいない部屋で声をあげながら自分に言い聞かせる。

 鼓膜に返ってくる音が聞きなれず、自分の声とは中々脳が処理してくれない。もうちょっとダンディーな声だったと思うのだが、とてもキュートになってしまった。

 

 この身体になってから丸1日ほど経った。

 最初はなんかの悪い夢だろうと思っていたが、2日目に入ってお腹がすいてきたので流石に違うなと感じ始めてきた。こうなったら現状を受け入れてなんとかするしかないだろう。

 

 小鳥遊ホシノということは、ここはブルーアーカイブの世界だろう。まさかキヴォトスって死後の世界だったんだな……確かにヘイローって天使の輪っかだしな……という冗談は置いておいて、そうなってくると色々と問題点が上がってくる。

 考えられる現状の問題点を挙げていこう。

 

 まず1つ目は、俺はホシノの過去をほとんど知らないっていうことだ。

 最期の方の記憶に、もうちょっとでメインストーリー更新ということで、アビドス過去編で確定された苦しみを運営から見せつけられていたのだが、それを見る前にこうなってしまった。

 よって現状知っている情報は、アビドス生徒会長のユメ先輩が死んでしまったということと、その生徒会で副会長をしていたという事象だけだ。

 

 2つ目は、なんか身体に適応できていないことだ。

 まだ慣れていないのか歩くだけでも、少しふらつく。腕の長さも違うので、扉を開ける動作だけでもいちいち意識しないと開けられない。

 それに五感がかなり優れているのか、家で過ごしているだけでも情報が脳をパンクさせてくる。普通だったらオンオフとかできるはずなのだが、ちょっとうまくいきそうにない。とにかくホシノとして暮らしていくのであれば、身体に早く適応しなくてはまともに生きていけないだろう。

 

 そして3つ目は、銃の使い方とか戦い方とかが全く分からないことだ。これは身体が小鳥遊ホシノじゃなかったとしても非常にまずい。

 この世界キヴォトスでは、銃撃戦が現実世界の殴り合いよりも軽く発生する。

 例え同い年であっても、こっちは銃との付き合いがまだ1日未満なのに対して、向こうは生まれてきてから関わってきているようなものなので15年目だ。うーん、月とスッポンだ。太陽と月の目を持っているのにスッポン側なのは解せない。

 

 とりあえずこのショットガン、ベレッタ1301──Eye of Horus(ホルスの瞳)と少し向き合った方が良いだろう。少し握って構えてみるが手に馴染む。ホシノの記憶とかそんな感じのは無いので単純に高い銃なのだろう。初心者こそ高いものを買えと昔言われたことを思い出す。

 戦闘経験皆無な俺はアサルトライフルやスナイパーライフルで遠くから撃った方が良いかもしれないが、遠くから当てられる気がしないので、今は近距離で一発に賭ける方が行ける気がする。それに対策委員会の頃には確かホシノしか前線がいなかったはずだ。それならば最初から小鳥遊ホシノらしくショットガンで行くべきだろう。

 あと銃がどこで買えるのかも分からないし、どの銃が良いのかもわからない。下手に高い出費をしたのにEye of Horus(ホルスの瞳)の方が普通に良いやんってなった時には悲惨だ。

 

 机の上に整頓して置かれていた資料とスマホの日付から、入学式はどうやら明後日のようだ。

 それまでは少し家の周りを探索しよう。

 食べ物も買うところとか知らないとまともに暮らせないし、何よりどういう状況なのか少しでも知っておきたい。あと研ぎ澄まされすぎた五感による頭痛のための薬も欲しい。

 

 そうと決まれば出発だ。

 

 まずは服を着替えようとするが、これにも一苦労だ。

 入学もしてないのに制服で歩くのはちょっと……と思ったが、制服以外の服が見当たらなかった。

 今後の調達物のリストに入れる。

 袖を上手く通せずに四苦八苦しながら何とか着替える。

 スカートの履き方とかよくわからなかったが、ホックでいい感じに止まったのでたぶんこれでオッケーだろう。

 軽く動いてみたが落ちる気配はない。

 ネクタイをきちっと決めて完成だ。

 

「おぉ……ちゃんと小鳥遊ホシノ(過去)だ」

 

 ピンク色の短髪に金と青のオッドアイ、頭上に浮かぶホルスの瞳のヘイロー、そしてアビドスの制服でよくスチルで見た1年生の頃のホシノだ。

 

「なんか足りない気もするけど、オッケーか」

 

 足りないことがあれば後で知ればいいだろということで、とりあえずスマホでスーパーと調べる。現在地から6km……遠いのか? いや、近い気がする。田舎の方の都会暮らしだった頃に比べれば遠いが、ガチ田舎よりはかなり近いし、先生が遭難していたアビドスの広さを基準に考えればかなり近い方だろう。

 ついでに学校までの距離も調べてみたら5kmと、まぁそこそこな距離だ。ここらへんはなんとか慣れていったらそこまで遠くないだろう。

 

「ひとまず歩いてみるか……。よし! 頑張ろう」

 

 自分を鼓舞するように声を上げる。鼓膜に返ってくる声が良いので、やる気も上がる。

 そうして財布をスカートのポケットにしまい、スマホを片手に初外出が始まった。

 Eye of Horus(ホルスの瞳)を肩にかけているため、重心が偏って歩きにくいのか、そもそもこの身体に慣れていないのか足取りは重い。

 それでもこの世界に慣れていくために一歩ずつ歩いて行った。

 

 

 ■ □ ■ 

 

 

「すげぇなこの体。体力無尽蔵じゃん」

 

 目的地まで1kmと迫ってきたころ、やっと街というか人の動きのありそうな場所が見えてきた。

 ここに来るまでも全て建物が立っているため、街と言えなくもない様子だったが、人がいる気配はなく砂が初雪の次の日のようにかかっていただけだ。空気も砂っぽい。

 

 そんな何の変哲もない道を歩くにあたって色々と身体能力を試していた。

 軽く走ってみようと思ったのだが、一歩目の踏み出しで異常な加速に脳が拒絶反応を起こし、二歩目を理性で無理やり蹴ってみるも地面を踏み外し、三歩目が出ることはなかった。これが100%か……と思いつつ、ならば5%と思ったがそうにも行かなかった。まず、5%が意識できない。車のアクセルも5段階ぐらいの踏み分けでやっていた俺が、そんな微調整をできるわけがないんだよな。5分の1の力でやってみたら4歩目で転んだ。

 力の量というよりも体に適応できてないことの方が原因だと思う。このまま俺が小鳥遊ホシノとしてこの世界を生きることになるのならば、少しずつ慣れてはいくだろうが間違いなく喫緊の課題である。転んだときも体の反応が良すぎて地面が近づいてくるのがあり得ないくらいスローモーションだった。どうすればよいか分からず腕を地面に突き立てたが、あれほどの反応速度が出るなら転ばないようにもできたはずだ。難しい。

 

 他にも全力で上に向かってジャンプしてみたが、良くわからないほど飛べた。多分二階建ての家の屋根ぐらいは飛び乗れるだろう。そして着地にはちゃんと失敗した。

 すこし痛いが傷にはなっていない。頑丈すぎるぜキヴォトス人……。耐性がありすぎてちょっと自殺とか大変そうだなと思った。

 

 転んだりしまくったため、買い物リストに一応怪我をしたとき用の絆創膏が追加されたところで、目的地にようやくたどり着いた。

 なんというか、思ったよりも栄えていた。シャッターとかで閉じているところもあるが、人通りもちゃんとあり、街には生活があり、活気は……まぁ、そんなにないかもしれないが、思っていたよりもちゃんとした街だった。廃墟ばかりで寂れた街だったらどうしようと、少し心配していたが大丈夫そうだ。

 

 元々スーパーを目的地にしてここまで来たが、その前に街を探索しよう。食べ物を買うならば、普通最後だ。ひとまず薬局に行って頭痛薬と絆創膏を買おうとしたところで気が付いた。あ、お金ってどうなってるんだ? って。

 道の端に行って、財布の中身を確認する。うーん、現金が4000円ちょっとと、カードが何枚か。クレジットカードはない感じかな? キャッシュカードが2枚、そのうち恐らく支払いはキャッシュカードとデビットカードがセットのやつだ。俺も学生の時はこんな感じで分けていた記憶がある。クレジットカードと違って来月の自分へ任せずに済むので、クレジットカードよりはある程度の自制が効く。

 残高を確認する方法が無いかスマホの方を調べてみたところ、残高は分からなかったがバーコード決済を導入していることに気が付く。流石高校生って感じである。俺は結局入れたものの友人との金のやり取りぐらいにしか使わなかったため、この体でお世話になることはほとんどないだろう。

 

 とりあえず、銀行に寄ってみよう。軍資金の確認だ。生活をどれほど切り詰めないといけないかを確認しなくてはならない。キャッシュカードの名前にアビドスと入っていたので、この街にもどこかしら銀行かそのATMがあるだろう。

 スマホで調べると銀行は500m先にあった。入り口にあったATMで残高を確かめてみるとぎり7桁あった。うーん、これはどうなんだろう。高校生の口座にしてはある方だと思うが、弾薬費がどれほどかかるかは分からない。それに収入は……ん? アビドス高校から入金されてる。あ~、なるほどね。生活できる程度は学校がくれるのか。

 これならば、毎日3食冷凍うどん解凍生活とかたまにカレールーを溶かしてカレーうどんの味変とかしなくても大丈夫そうだ。便利屋68にお金がないのはゲヘナにいないからっていうのもあったりしたんだろうか。ともかくバイトしなくても最低限生きていくことができることを知れたのは大きい。

 

 一旦薬局に戻り、頭痛薬を1瓶と絆創膏を1箱、それと水を買った。そういえば鞄も持っていない。確かスクールバッグが家にあったような気がするのだが、あれは戦闘するときに持っていたら邪魔だろう。ショルダーバッグが良いと思ったが、女子高校生はショルダーバッグなんて買うのだろうか? 今回はレジ袋が貰えたので、それで良しとしよう。

 

 ついでに服も買っておいた。嗅覚も敏感になっているので、最初は古着屋で買おうとしたがやめ、新品を買うことにした。あの特有の匂いが結構好きだったのだが、どうにもこの身体では受け付けなかった。

 買ったものとしてはオーバーサイズの白と黒のパーカーを2着とジーパンを2着だ。やはり、ダボダボパーカー最高と言わせてください(性癖)。基本的に転びそうなのでそういうことも考えて長袖長ズボンだ。砂漠は乾燥してるから直射日光を避ける方が涼しいみたいな話を聞いたことがある気もするので、そこらへんも少しだけ考慮している。

 

 あとはご飯でも買って帰ろうと思い、最初の目的地のスーパーへ大きな紙袋と小さなレジ袋を左手に持って進む。

 

「おい! 強盗だ!」

 

 ……治安が悪いなぁ。やはりここはキヴォトスなのだと再確認させられる。後ろから声がしたので振り返ると、明らかにこっちに向かって走ってきていた。

 辞めてくれよ……と思いつつも小鳥遊ホシノならこの場面を見過ごすことはないだろう。と言っても、銃は撃てる気がしない。

 

 なのでこちらに向かってくる強盗に、すれ違いざま足をかけた。避けられるかと思ったが、案外上手くかかったようだ。

 

「転んだぞ! 今だ! 押さえろ!」

 

 あぁ、哀れなり。周りの人たちに取り押さえられてジタバタと暴れる強盗ちゃんをちらっと見るがギロリとした目があってしまう。

 

 ……うん、見なかったことにしてスーパーで惣菜買って帰ろう。流石に昨日から水道水しか飲んでないので腹が減った。

 見なかったことにしてスーパーを探索する。思ったより品揃えが良いな? こちらとしてはここに来たらだいたいあることが分かれば、ここに来るだけでいいので助かる。周りをシャッターだらけにしているのはこういう存在があったから……と責任転嫁したいが、恐らくアビドス高校が金を得るために、カイザーにここら辺の土地を売ったことの方が理由としては大きい気がする。

 水道とガスと電気は通っていることを確認しているので、一通りの調理はできるはずだが料理はめんどくさいので冷凍チャーハンとカップ麵を1週間分ほど食いつなげられるような量を買う。別に偏食家なので同じ料理が3食でも1週間はいける。足りない栄養素が出てくるとそれが食べたくなってくるので、そのタイミングで食事バランスを少し考える程度でいいはずだ。……いや、育ち盛りの高校生だからちゃんと食べるべきかもしれない。余裕があったらちゃんとバランスのとれた健康的な食事をしよう。

 支払いはカードで済ませ、店を出て家に帰る道を検索する。来た道を帰るだけだが道中には特に目印はなかったので、しばらく道はスマホ頼りになる生活となるだろう。

 

「おい、お前」

 

 そうして街の中心部を離れ、どんどんと空き家街に入っていったときだった。声をかけられた気がして振り返る。そこにはさっきの強盗ちゃんがいた。しかも仲間を数人連れて。うーん、もしかして死んだか?

 

「……人違いじゃないか?」

「なわけねーだろ! さっきは良くもやってくれたな。おい、お前ら撃て」

 

 は――――、なんか撃ってきたんだが!?

 銃口がこちらに向けられた瞬間、足に力を入れて路地に飛び込み、転がり込んだのでなんとかなった。

 

「隠れたぞ! 逃げるかもしれねぇからバラバラに散らばって探せ!」

 

 どうする……? どんどんと上がる心音を抑え、駆け足でふらつきながらも移動して必死に考える。

 まともに走って逃げて転ぶのは論外。銃は撃てるか怪しい。そして負けるのは俺のプライドが許せない。ちなみに逃げるが勝ちとも思っているので、逃げ切れればそれでも良い。

 しかし逃げてる隙に撃たれる可能性が高い。さっきは一か所に集まってたから、路地裏に飛び込めばすぐに射線を切れたから当たらずに済んだが、次に逃げ場があるとは限らない。

 なら銃を撃って反撃するのは? 弾を撃てると仮定するなら、ショットガンの拡散する弾全部を当てれば1撃で気絶させられるはず。確実に仕留めるにはある程度は近づかなければならない。幸い敵は散らばっているから各個撃破もしやすくはなっている。でも撃てるか?

 そんなことを考えているうちにも複数の足音がこちらに向かって近づいてくるのが聞こえる。

 どうする? どうする、どうする、どうするどうするどうするどうするどうするどうする???????

 

 ──もういい、即断即決だ。

 ──戦う、勝つ。

 この世界に来た時点でいつかやるしかないことは決まっていた。それがちょっと早いが今だっただけだ。

 

 やろう。できる。今の俺はキヴォトス最高の神秘、小鳥遊ホシノだ。

 

 両手の荷物を空き家の塀の裏に置き、背中に背負っていたEye of Horus《ホルスの瞳》を両手で構える。引き金には指をかけず、銃をしっかりと持つ。確実に当てられる距離までは撃つこと厳禁。やると決めたら、やり通す。

 

 息を殺し、曲がり角に隠れる。足音は聞こえてくる。歩いているやつは、恐らく道の真ん中。道幅が3mほどなので見えた瞬間でも1.5m以上ある。構えずに当てられる自信は──正直ない。弾を無駄に撃って敵の前で弾切れしたら終わりだ。だから確実に当てるために一歩踏み出して腹に押しつけてトリガーを引く。撃った後のことは考えない。それで全員1人1人倒す。

 壁を背にして目をできるだけ横に向けて、左後ろから近づいてくる足音を感じる。はぁ、ドキドキする。まるで陸上のスタート前だ。親指と人差し指を線に沿わせて必死にスタートの雷管が鳴るのを待つあの瞬間ほど、聴覚が研ぎ澄まされる瞬間はなかった。あれを最後に体感したのはいつだっただろうか。

 左足に力が籠る。利き足が右だから右足から一歩目を踏み出したかった、なんて贅沢は言えない。

 

 さぁ、見えた。どうやら幸運にも相手は反対側の道を見ている。一発勝負だ。

 飛び出して銃口を突きつけながら体当たりする。

 

「なぁっ!?」

 

 バン。

 

 トリガーを引いた瞬間、発砲音というか爆発音に近い音が驚いたような相手の声をかき消し、俺と相手を極が同じ磁石のように跳ね飛ばす。明らかに一個人に向けてはいけない威力が至近距離で放たれたため、完全に相手は吹き飛ばされた道の隅で気絶している。ヘイローの有無で意識があるのかないのか判断できるのは、追撃をしなくていいことが分かって良い。

 発砲音で周りの奴らに気付かれただろうから、すぐに立ち上がって移動をする。その場で待ち伏せしてもいいが、そうなると多分同時に複数人と戦わなくてはならなくなるので、他の場所で発砲音に近づいてくる奴らを待ったほうが良いだろう。

 

 移動中に足音が近づいてきたので、立ち止まりもう一度構える。やることは同じだ。近づいて撃つ。

 次にあらわれた相手と目が合った。

 

 まずい。早く撃たなきゃ。

 そんな気持ちで焦り、トリガーに指が自然と行き、その場で撃ってしまう。

 

 バン。

 

 腰の入ってない状態での射撃で尻餅をついてしまうが、カランコロンと地面で跳ねる薬莢の音で我に返り、急いで立ち上がり移動を開始する。なんとかヒットしてダウンしたが、今のはまずかった。たまたま当てることが出来たからなんとかなったが、外す可能性の方が高かった。

 だが、今ので気が付いた。マジでホシノ強いな? 多分だけど、今のはカス当たりで直撃はしてなかったと思う。それでも一撃で意識を刈り取る攻撃を与えた。

 

 買い物の成果物の位置を忘れないように、先ほどの1人目の気絶した相手のところまで戻ろうとする。しかし、行き先でちょうど足音が聞こえたのですぐに身を隠す。

 

「ここら辺にいるはずだ」

「でも、逃げられたんじゃ……」

「馬鹿野郎、それなら最初に逃げるに決まってるだろ。発砲音の数からあのガキは絶対、隠れて一撃を狙ってやがる。死角をカバーするように見渡せ」

「わ、分かりました!」

 

 ちっ……2人か。それに強盗をするような馬鹿だが、勘はいいじゃないか。

 しょうがない。戻って別のやつを探そう。2人と戦っているうちに応援が来たりしたら面倒だ。

 

 スパパパパパパ。

 

 しかしその考えは意識外からの銃撃によってかき消される。まずい、さっき2人目が気絶した方、つまり後ろからだ。

 マジで最悪だ。近くに二人いるのに見つかった。それに敵の場所は前にも後ろにもいる。前の2人は交差点の曲がった先だがすぐ近く、後ろの1人は少し距離があるが間には交差点のない一本道だ。完全に逃げ場はない。

 さっきの銃撃でとっさに顔をかばった左腕に少し当たったが、それほどダメージにはなっていないようでそこは安心だ。

 

 どっちだ? 後ろは遠い。当てに行くまでに時間がかかる。それまで撃たれる可能性がある。しかも2人の援護が来る可能性付きだ。

 前は近い。後ろからの射線も一旦切れるだろう。しかし、2人だ。1人気絶させるたびに銃の反動でよろけていた俺が、流れるように2人やれるとは考えにくい。

 

 いや、前だ。

 あの2人が別れることは多分無い。なら消耗が少ない今のうちに2人から潰すべきだ。

 余計なことに時間をかけすぎた。迷っていた足を前へと向けて飛び出す。すぐに角を曲がり、後ろからの射線を切る。射線管理は大事だとなんかのプロゲーマーが言っていた気がする。

 まずは強盗をしていたアイツからだ。飛び出した瞬間に既に銃口はこちらに向いていたが、気にせず突っ込む。相手までは20m程あるが、変に回避行動を取ったほうが転んで被弾するに決まっている。

 

 突っ込んだところで相手の銃撃のうち1発が左足に直撃する。

 身体を動かす意識が被弾に対する意識によって上書きされ、足を踏み外し地面が近づいてくるが、倒れる前に雑に狙いをつけてトリガーを引く。だがそんな上手くいくこともなく、その銃弾は狙いから少しずれて道のコンクリート壁に直撃し、大きな音と煙を立ててコンクリートが砕け散る。

 

 やらかした。地面に倒れてからすぐに起き上がるため、右手を銃から離し、地面について左足をすぐ右手の横に立てて立ち上がる。途中で銃撃も来るが奇跡的に肩と左腕にしか当たらなかったので、大したダメージではない。相手の方に視線を向けると、先ほどのコンクリート壁が砕け散ったときに大きく砂ぼこりが舞って相手の視界を塞いでいて、ある程度の銃撃を逃れられたようだ。

 すぐに立ち上がって走り始める。砂の中の相手のシルエットがくっきりしてきたところで、強盗ちゃんの方に狙いを定める。昔なんかの体験をしたときに言っていた、照準を目標に合わせて撃つのではなく、照準が目標に合ったとき撃つを意識する。身体が上手く操れずエイムは合わないが要はタイミングだ。後は目と照準と相手が一直線となった瞬間にトリガーを引くだけだ。

 

 バン。

 

 命中。そのまま腕を水平にスライドさせてもう一発。

 

 バン。

 

 命中。ふぅ、何とかなった。

 

 スパパパパパパ。

 

 そういえばまだ居たな……。すぐに振り返って撃とうとするが、足がもつれて思いっきり横に倒れる。

 よくもやってくれたなという叫びと同時に来る銃撃だが、大して痛みが無い。なんだ、それならもっと簡単じゃないか。

 相手の銃撃は気にせず立ち上がり、ゆっくりと近づく。過剰に意識しなければ、銃撃は雨上がりの羽虫のようだ。……結構めんどくさいかもな。

 

「ば、バケモンが」

「全部そっちが悪いんだ。練習台になってくれてありがとな」

 

 逃げるところを背中から撃ち込む。……もしかしたらマナー違反だったかもしれないな。逃げてる相手に撃ってはいけませんみたいなことをいうマナー講師がキヴォトスにいてもおかしくない。まぁ、軽犯罪者集団にマナー違反もないか。

 最初に見たときは5人だったはずなので、これで終わりだと信じたい。周りにまだ誰かいるかもしれないので銃は構えたまま、荷物を置いてきたところへ向かう。ひとまず初戦闘は何とかなったが、問題点は浮き彫りになった。いや、でもよくやれた方だろう。

 

 「はぁ……。結局はマシンスペックが最高でもCPUがカスじゃ、まともに動けないってことだな……」

 

 転んだ影響で砂だらけになった服を銃から片手ずつ離して交互に掃いながら、先ほどまでの戦闘を振り返る。

 まず近づくのが至難だった。ある程度やっていて気が付いたが威力はあるので、ある程度離れたところから当てられるようにするか、もっと身体を動かせるようにして近づけるようにするか。いや、どっちもか。

 やはり身体の動きの違和感を取り除くことがやはり最優先だ。前の身体の身長から30㎝ほど縮まったため、視界もまだ慣れず目算がずれる。そもそも手足の長さも変わったので、まともに全力疾走することもできないのは致命的だ。力をセーブするのは案外意識をそちらに割くので、ちゃんと全力疾走できるようにしておきたい。

 それに銃の取り扱いだ。今回は6発しか使わず球切れしなかったからリロードしなかったが、戦闘中にリロードが必要になることも絶対に出てくる。手元を見ないでパッとリロードできるようにはなりたい。そっちのほうがカッコいいし、戦闘中にできることが増えるはず……。

 

「はぁ……課題がいっぱいだ」

 

 ブルアカの作中の設定だと、小鳥遊ホシノは1年の時点でエリートだったはずだ。今の俺では到底エリートなど名乗れないな。えりーと(笑)もちょっと厳しいレベルで、よちよち歩きの雛だ。それでも何とかそこらへんのチンピラにはスペックで殴ればなんとかなることが分かったのは収穫としてデカい。

 だとしても上位勢には全く手も足も出ないだろう。というか今勝てたのはダメージがほぼ効かないからみたいなところがある。被弾でダメージがデカかったら普通にリンチにされていた場面が何回かあった。つまりある程度ダメージを与えてくるような存在が現れたら、秒でボコボコになる未来が確定している。

 

「おっ、良かった。今回の買い物は一応成功ってことで良くなりそうだ」

 

 戦闘開始のときに置いてきた荷物を両手に持ち、一旦ペットボトルで水分補給をする。運動の後の水が一番美味しいとされているね、やっぱ。生き返る感じがする。

 食べ物の状態もみるが、春だからまだ大丈夫だろう。それでも、さっさと帰って冷蔵庫に放り込んだ方が良い。

 さっさと帰ろう。さっきのやつらが起き上がってまた襲われる可能性もあるし。うーん、アビドスってこんなに治安が悪かったのか。無法地帯だとは作中で言われていたが、まさか外に出て初日に襲われるとは思わなかった。ちょっかいかけたせいかもしれないが、そもそも強盗が起きてるのがやばい。

 

 ちょっとこれから生きていけるか心配だ。




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