小鳥遊ホシノ憑依もの 作:ゲーミングチーパオ
「思ったより生徒いたな」
先ほどあった入学式のことを思い出す。ちっさい学校なので非常に簡素であったが、まぁ顔合わせするようなタイミングなんてあれぐらいしかないので行ったのだろう。周りには自分の他にも3人ほど新規で入学する生徒がいた。在校生側もなんだかんだ10人ほどはいた。
ゲーム内で語られていた話的にはホシノが1年生の頃はまだ少し生徒が残っていたようなことを言っていたがするので、恐らく生徒会長のユメ先輩が死んでしまったときにいなくなったりしたのだろう。生徒会長は国家元首と同じようなものだ。その元首がなくなるのは国として不安になるのは当然だ。ましてや、アビドスはこんな砂で沈みかけの不毛の大地。残る理由の方が少なく感じてしまうのも確かだ。
「……帰るか」
特に学校にいる用事もない。生徒会長のユメ先輩に会ってみたい欲もあるが、初日から話しかけに行くのもあれだ。こんなに生徒が少ない学校なら、どこかで話すことはあるだろう。
出来れば救いたいという気持ちもある。しかし、同時に俺に助けることができるのかという気持ちもある。何しろ死因が全く分からない。砂漠で倒れていたらしいので、戦闘でやられたんじゃないかと考察されていたが、誰に狙われているのかも、そして狙われていた相手が分かったとしても今の俺には守れる力があるとは思えない。
だからとりあえずこれからの行動計画は自己研鑽だ。やはり力こそ正義なのだ。治安が悪い世界において力なき正義は無効であり、正義なき力は暴圧であるんだ。あとは、原作と同じようにすることとアビドスを少しでも救うために、生徒会に入れそうなタイミングがあったら逃さないようにするくらい。生徒会に入れなかった場合、ユメ先輩がいなくなってしまったらアビドスは高校として、自治区として成立しないことになってしまう。それこそカイザーの思い通りだ。
今は筋トレ……もとい、リハビリ中だ。まだ身体が男だった時に骨折したときのことを思い出す。病院で謎にマッサージを受けてから軽く負荷をかけていくあれだ。効果があるのかどうかは分からないが、実際元通りになったのだから多分意味はあったのだろう。
現状はそれの途中だ。ジャージを新しく買うのもあれだったので、アビドス高校指定のジャージを着て銃を背負いランニング中だ。小学生の頃に慣れない自転車でふらつきながらも、学区内を駆け回ったような感じに似ている。アビドスは広すぎるし砂漠ばかりなので、あの頃のような隅から隅まで全部知っているという状況にはならないだろうが、新たな景色を見て必死に覚えようとするあの頃の感覚が思い起こされて楽しかった。
飽き性なのでいつまで続くかは分からないが、ある程度は頑張ろう。この前の戦闘で最後に転んで撃たれたのは、流石にプライドが傷ついた。
それにしても銃の練習もしたいが、そんなことができるところなんて知らない。アビドスにいくら空き家が多いと言っても、市街地で何もないところに撃つわけにはいかないだろうし……。
原作のホシノみたいにパトロールしながら、ちょっとずつ状況的に撃てるときに撃って対人練習していくのが丸いだろう。トリニティの正義実現委員会とかゲヘナの風紀委員会とかヴァルキューレとかは訓練できる場所があるのだろう。羨ましい。そう考えると治安の終わっているゲヘナで常に戦い続けるほぼ戦闘民族みたいになってしまっている空崎ヒナが、キヴォトス最強になるのもなんとなく分かるかもしれない。キヴォトス最強だからそうなったのか、そうなったからキヴォトス最強なのかは分からないが。
アビドスも都合が良いことに治安が終わり果てているっぽいことは確認できたので、銃を撃つ機会には恵まれるだろう。なんていうか自分で思っていて悲しくなってくるな……。
いったん学校から家に帰り、装備を整える。街に行ったら弾の補充もしておこう。銃弾は少し高いがこれが無ければ話にならない。
整備は大事だ。銃という文明に対して素手で勝てることなんて基本的に無いので、戦闘中に銃が使えなくなったら一巻の終わりだ。ほぼファッションとして持っている層もキヴォトスにはいるだろうが、俺は哀れに逃げ回りたくはないのでキチンと説明書や誰かの残した個人ブログとにらめっこしながら整備をやっていく。
リロードだが、この前家に帰ってからネットで調べて詰め方を学んだ。操作はレバーを引いて装填するところに弾を1つずつ沿わせて入れていくだけなので、この銃はかなりしやすかった。これなら走りながらでもできるように少し練習を継続していけばなるだろう。
装弾数が8なので1発1発が大事だが、リロードが早くなれば継戦できるようになるので強くなるには必須っぽいというのが感想だ。やっぱ操作が難しくて強いものよりも、操作が簡単で強いものが最強だね。
弾速も早いし威力も高いし連射もできる。トリガーを引けば真っ直ぐそのまま目標に当たるのだ。後はAIMを合わせて動き回る俺本体が強ければ最高な気がする。つまり今の俺は銃に振り回されてる状態、雑魚に金棒だ。
しばらくは外しても焦らずもう一発狙い直して、弾切れしても少し隠れてこそこそリロードしよう。いつかは百発百中でちょこちょこ合間を縫ってリロードできるようになりたい。
水道からコップに水を汲んで、頭痛薬を3錠喉に流し込む。薬のおかげか頭痛は軽くなっている。それに脳みそっていうものは凄いもので、五感からの情報量が多い状態に適応してきた。もう少ししたら頭痛薬は要らなくなるはずだ。
よく漫画とかアニメとかで気配とかどうやって分かってるんだよって思っていたが、ここまで五感が優れていれば、第六感が生えてきてもおかしくないなと思う。アニメ世界のやつらって色々見えてたり感じていたんだなと、文字通り見ている世界が違ったことを実感させられている気分だ。
しかし、情報量を捌くのに脳をめちゃくちゃ使っているのか、とても腹が減る。食費と弾薬費で家計が大変なことになりそうだ。でもどちらも減らすわけにはいかないので、他で節約するしかない。
制服からパーカージーパンに着替える。制服でもいいのだが、どうにもスカートは落ち着かない。あと制服を何度も洗濯するのは地味に面倒なことに、この前気がついてしまったのだ。最悪雑に洗濯機に放り込めば良い服のほうが楽すぎる。
ジーパンのポケットに携行食を一箱入れる。みんな大好きカロリーメイトもどきだ。持ち運びが便利だし、小腹が減ったときにちょうど良い。欠点としては空気も乾いているのに、更に口の中が乾いてしまうことだ。
持ち物は全部揃った。街の方に出よう……と思ったが、まだ15時か。夜の見周りの方が多分良いことは分かる。だが労働を8時間以上はしない主義なので今から行っても日付が越えるまでやることはない。まぁ、そんなもんでいいか。どうせ疲れて8時間なんてやることもない。
学校が始まればもうちょっと遅くからやるだろうと思い、とりあえず玄関から街へと向かった。
□ ■ □
「ありがとうね。わざわざ手伝ってもらっちゃって……」
「いえ、これぐらいなら……」
そうして街に出たもののやることが特に分からないので、店の閉店作業を手伝っていた。というのも、街の中を見て歩き回るのは何もないとかなり暇だ。学生時代の短期で入った夜の交通整理のバイトも車がこないと結構暇だったことを思い出した。何も無いことは良いことだが、何もしないのはとにかく暇なのだ。
そんなときに商店街を歩いていたら、店頭においてあった野菜の入った箱を持って店仕舞いをしてる人(犬?)がいたので手伝いますよと声をかけて現在に至る。身体は小さくなったものの、男の頃よりもはるかに力はあるので重いものは苦ではなく、どちらかというとコントロールに難ありなので細心の注意を払いながらの作業だ。
「そういえば、嬢ちゃんはどこかの学生さん?」
「アビドスです」
「ここらへんにいる学生さんならそうかと思ったけど珍しいね。もう一人もいないのかと思ったよ」
嬢ちゃんと呼ばれるのは、なんか少し恥ずかしい。隠すほどでもないので高校は真面目に答えた。キヴォトスにおける学校というのは国に匹敵するので、みんなその学校にいることに対して誇りに思っていることが多い。だから隠すように話すのはおかしいと思っただけだ。
話し方はなんか男っぽく話すのもあれなので、ちょっと丁寧語多めな感じでどんな性別でも話しそうな感じにしてある。小鳥遊ホシノの真似でもいいんだが、どこかでぼろが出て変な感じになりそうなので丁寧口調だ。うへ~と口にし始めたらちょっと精神が不安定になっていきそうな気がしている。女の子として生活になんとか慣れようとしているが、心は男のつもりなのだ。
それにしてもアビドス高校への認識はそれくらいなのか。まぁ、なんか元々色々なところにあった校舎は砂の下に沈んだらしいので、廃校になっていてもおかしくはない。それに今の本館も砂漠が迫っているのでいつか沈む気がする。ゲームのスチルで出てくるアビドス高校はこんなに大きくなかったはずなので、たぶんあそこも沈んでゆくのだろう。なんだか悲しい気分になる。
「まさに廃校の危機って感じですけどね」
「そりゃあそうさ。なんせこの砂だ。ネフティスですら恐れをなして逃げたんだよ」
ネフティス……? ブルアカ以外なら頭の中で結構出てくるが、ブルアカでもどこかで聞いた記憶があるが中々出てこない。なんだっただろうか。確かそんな学校はなかったはずだし、生徒でもそんな名前のキャラクターはいなかったはずだ。
「おや、もう忘れられるほど時間が経ったのか。ネフティスが逃げ始めてからも十数年も経ったから……うん、嬢ちゃんが生まれて少しぐらいの話かな。ネフティスはあの鉄道とかやってる会社のセイント・ネフティスさ」
あまり反応の芳しくない俺に説明を付け足してくれるが、会社の名前にはっきりとした覚えはない。それでもここで話を切るのもあれなので分かったように頷く。たぶんデカい会社なんだろう。今度電車に乗る機会があったら確認してみよう。
「昔のネフティスはアビドスに本社を構えていて子会社や関連企業も沢山アビドスにいたんだよ。あの頃はアビドスも人に溢れていて裕福だった。
それも街が砂で飲まれていくようになってからは経営が傾き始めたんだよ。倒産しそうになったからアビドスを見捨てて、アビドスからは人も金もなくなった。ネフティスは安全なところに本社を構え直して、その後鉄道事業で復興したんだ」
そう言う店主の顔にはちょっとした失望が感じ取れた。なるほど。元々地元企業だったのに移転したのか。こんな砂漠じゃ逃げたくなるよな。俺でも移転できるならば移転したほうがいいと思う。社員を守る責務もあるのだ。会社を潰すわけにはいかないだろうからな。
でも、聞いてた話だとあれだ。アビドスにとってネフティスは一蓮托生のような存在で、なければならない存在だったのだろう。そんな相手なのに移転されたのなら逃げられたと考えてもおかしくない。結果的にネフティスは今も何とかなってるらしいし、アビドスはこんな状況だからな。アビドス高校が借金まみれなのもネフティスが抜けた分を補おうとしたとかがありえそうだ。
「そうだったんですね……全然知りませんでした」
「おっと、老人の昔話に付き合わせてごめんね」
「いえ、有益なお話でした。まだ来たばかりで知らないことが多いので」
「これぐらいアビドスに昔からいる者なら誰でも知ってることさ。……いつまでもあの頃の栄光が忘れられないんだ。だから、まだここにいる」
そういう店主の瞳は、遠くを見ていた。今は砂っぽくなってしまったこの街も、昔は人が沢山往来する栄えた場所だったのだろう。
昔はアビドスもゲヘナやトリニティと並ぶようなデカい学校だったということは聞くが、いまいち実感できるところはない。だが、あまりにも広すぎる砂漠の下に全て街があったことを想像すれば、なんとなく分かる気もする。国の力として国土がデカいことは大事だからな。デカければデカいほど強くなるポテンシャルがある。復活するようなことがあれば広大な土地を活かして……と思ったが、アビドスの土地のほとんどはカイザーに売ってしまっていると思い出す。もしかしたらどうしようもないのかもしれない。例え借金がどうにかなったとしても……。
でも、こういう人がいて残ってくれているということを覚えておこう。アビドスを諦めきれてない人がいる限り、この不毛の大地にも復活する可能性がある。
「これはこっちでいいですか?」
「お、そこでいいよ。それでおしまいだ」
道路側に出していた商品を店の中に全てしまい、シャッターを下ろされる。店じまいの作業は終わりだ。小さくなった身体での作業はなかなか難しかった。十数分という時間だったが、良いことをできた気がする。それにアビドスについても少し知れた。
「じゃあ私はこれで」
「おう、ありがとうね。今度来てくれたら嬢ちゃんに少しまけてやるよ」
「ありがとうございます。またきます」
手を振りながら見送られ、今度はこの店で野菜を買おうと決めて街のパトロールに戻る。人助けも悪くない。パトロール自体も目的は違うがボランティアなので人助けのようなものか。
それにしても平和なときは平和なんだな。というか単純に人が少ないから、トラブルのある回数は大して多くないのかもしれない。
と思っていた時期が俺にもあったよね。
「はぁ……。盗みとかってやっぱり多いのかな?」
足元に転がるショットガンで一発KOしたヘルメットを被った窃盗犯を眺める。こいつは通行人の鞄をひったくって逃げていた。向こうが走っているのでこちらの銃が当たるか心配だったが、しっかり狙って撃てば結構簡単に当たった。距離があんまり離れていなければ撃った瞬間ヒットするので、こっちの狙いが外れてなければ上手く当たる。
撃った時はとっさだったので考えていなかったが少し逸れると面倒なことになってた可能性が高いな……。でも失敗を恐れて行動をしなければ成功もないので、今回は成功したことを喜んで、次も成功することを考えればいい。
「どうぞ」
「あ、ありがとうございます!」
「気をつけてくださいねー」
盗まれた鞄を返してこの件は一件落着だ。そういえばこういうときって犯人はどうすればいいのだろうか。治安維持組織があればそこに引き渡せばいいのだろうが、アビドスにはそんなものは存在していないはずだ。敢えて治安維持組織を挙げるのであれば俺になってしまうのは、少しバグだと思う。まぁ、放置でいいかな。そういえばこの前も放置したまま帰ったもんな。あいつらは今頃どうしているのだろうか。
撃った分の弾をリロードしてMAXにする。一発一発詰めるタイプの銃は、特にリロードするタイミングを考えず銃弾にロスなく常にフル装填をすることが可能で助かるね。ゲームとかだとこまめにリロードしても残弾数は差分しか減らないが、実際にはそうはいかない。マガジンの中に弾が残った状態で新しいものとリロードすると、微妙な数の弾薬が入った古いマガジンの完成だ。そのマガジンを使うときには少なくなってることに気を付けないといけないので、戦闘中に意識できる余裕がないと敗因になりそうだ。俺には一発一発手間をかけて装填するこの銃がかなり好きだ。
ガードレールに腰かけようとするが、少し根元が緩くなっているのか体重をかけると少し傾く。ジーパンの右太ももあたりのポケットに挿したペットボトルを取り出して水を飲む。中身は家で詰めた水道水だ。水筒を買うのがめんどくさくてペットボトルで代用している。
空を見上げてみれば星がぽつりぽつりとうっすら見える。それだけ人工物の光が少ないんだ。たぶん砂漠の方が綺麗に見えるのだろうが、夜の砂漠に行く勇気はちょっとない。というか砂漠にはまだいけてない。いつか明るくて風が少ないときに様子を見に行った方がいいのかな? まぁ、焦らずゆっくりとやっていこう。
ふとスマホで時間を見る。もう22時を過ぎたのか。初日だし今日はこれくらいにしておこう。パトロールしているときに暇すぎて歩く姿勢とか意識していたら疲れてしまった。意識していないと危なっかしくなってしまうので、仕方ない側面も大きいが。
■ □ ■
そうしてパトロールも一週間ほど続けている。結構街の構造には慣れてきて、見回りルートが形成された。銃弾が売っている自販機や安い飲料を売っている自販機なども見つけて、少しずつ街に馴染んできている気がする。
それにしてもいっこうに小鳥遊ホシノに意識が渡ることはない。もしかしたら本当にこのまま3年間は過ごしていく可能性があるので真面目に色々とやっていく必要がある。
学校も慣れてきた。勉強は……まぁ別にしなくても何とかなるだろう。基本的に授業はない。教師がいることはないので、在校しているだけのお飾りな学校だ。どうやって単位が出ているかは知らないが何やら時間経過で勝手に進級できるらしい……。ヤバすぎる。というわけで日中は寝ている。
パトロールをすることで夜の睡眠時間を削っているので睡眠時間の補充が必要なのだ。小鳥遊ホシノと奇しくも同じ構えになってしまった。一応大学は出ているので、授業がなくても学力は大丈夫だと信じたい。いや、大学受験をもう一度やれと言われても無理なので、勉強した方が良いのは確かだが、見ないふりをしよう。そもそもキヴォトスの進学とか大学とかそこらへんのシステムがよく分かっていないからこれからどうしていくのかも分からないが。とりあえず気にしなくていいだろう。
そんなこんなで今日もパトロール中だ。アビドスの治安の悪い原因の1つとして、取り締まる組織がいなかったことが大きいはずなので、こうして少しでも取り締まることで犯罪が少しでも減っていけばいいと思う。
そんな感じで暗くなった街を適当に歩き回っていたのだが、少し離れたところから恫喝するような声が聞こえた。もしかしたら何も無いかもしれないが、何もなければそれで良いの精神で、様子を見に行くために駆け足になる。やっと駆け足程度ならある程度安定してできるようになってきたので成長だ。転んでも怪我はしそうにないことが判明してからかなり慣れてきた感がある。まぁまだ足がもつれて転びそうになることは多々あるし、転ぶことも片手にぎりぎり収まらないぐらいはある。
「や、やめてくださいっ!」
「知るかよ!」
「あーあ、気分わりーな。ちょっとツラ貸せや」
なんだなんだ。明らかにやばい恐喝現場に出会ってしまった。アビドス、ここまで酷いのか……。
あれ、脅されてる人ってなんか見たことある感じの人だなって思ったけど、たぶんユメ先輩だな? 入学式で壇上にいたのを見たのと同じ人な感じがする。そうとなると国のトップが脅されている場面で助けに来た理想的な国民となれる可能性がある。絶対脅してるやつらがやばいやつらで頭狂っている可能性が99%ぐらいだと思っているが、一応途中からきたのでどういう状況か分からないので話を聞いておいた方が良いので、近づいて話しかけるか。
銃を持って近づいたら敵だと思われて即撃たれるかもしれないので丸腰で足音を立てながら近づいていく。向こうがこちらの存在に気がつくと視線と僅かな銃口がこちらを向く。
「どうかしました?」
「あ、なんだお前? ガキは絡んでくるんじゃねぇ。どっか行ってろ」
「……弱いから数と言葉で威嚇してるんですね」
「てめぇ……!」
ロボットの厳ついやつをちょっと煽ったら腹に持ってた銃を押し付けてきて、すぐ撃つぞという意思表明で脅してきた。この状況って正当防衛になるのだろうか? というかここから背中の
「もう一度言うぞガキ、どっか行け。そうしたら見逃してやる」
「……嫌だと言ったら?」
ババババババババ。
腹に一気に衝撃がくる。流石に至近距離の射撃だと痛い。みぞおちを殴られたような感じだ。痛い──が、痛いだけだ。
「ちょっ、ちょっと……!」
「馬鹿なガキだ、従わないからこうなる。お前もこうなりたくなかったら……
バン!
「誰が、馬鹿なガキだって?」
こちらも返事は銃撃からだ。咄嗟に頭を狙う技術はないので胴体のど真ん中目掛けて狙いをつけた。正当防衛という最強の建て前を手に入れたため、もうどれだけ撃っても構わない。正義はこちらにあるぞ(大噓)。
ロボットだから生徒と違って撃ったらバラバラに砕け散るかもと思ったが、そういう感じにはならなかった。意思がある存在は原型が保たれるとかなんかそういう世界のルールでもあるのだろう。
立ち上がってからワンテンポ経つと周りから銃撃がくる。こいつらの銃の威力はチンピラよりも高い。わざわざたくさん銃弾を食らう必要もないし、距離も近いため、さっさと片っ端から1人ずつ撃っていく。こいつらヘイロー無いから分かりにくいなぁ……。明るかったら分かりやすい特徴とかあるのかもしれないが、暗くてなんにも見えないし、謎に薄く発光しているヘイローの方が分かりやすくて良い。
「はぁ、いってぇ……」
全員倒し終わるまでにだいぶ弾を食らった。避ける動作をできる余裕は無いので、棒立ちしてたからというのもある。当たった箇所を見るが少し汚れている程度で服が破れたりしてはいない。キヴォトスの服って素材がだいぶ強い可能性が上がってきた。こちらとしては戦闘の度に買い換えずに済むのであればなんでも良い。
「だ、大丈夫?」
「大丈夫です。ユメ先輩こそ大丈夫ですか?」
見る限り怪我はなさそうだ。なんか全身のところどころに絆創膏があるが、それは元々のもののはずで今回は関係ないだろう。
俺の方も大丈夫だ。痛いが、特に傷が残りそうな感じではない。ちょっと今までの数少ない戦闘で一番ダメージが芯まで残っている気がするが、それも時間で薄れている。軽傷にも満たないだろう。
「私のこと知っててくれたんだ?」
「い、一応、ほら生徒会長じゃないですか?」
本当はホシノとの写真のスチルで容姿を知っていたとは言わずに誤魔化す。実際に入学式では見たので生徒会長と知っていてもなんら間違いではない。俺のそういった誤魔化した反応に確かにといった顔をしているのを見て、なんとかなったと安堵する。
しかし勝手に下の名前+先輩のユメ先輩と呼んでしまったが、特に何か言われなくて良かった。関係性が増してきて呼び名を許してくれるタイプの人だったら、いきなり距離を詰めすぎるとコミュニケーション失敗する可能性の方が高かったので少しミスだった。まぁ、それ以外の呼び方の方が分かんないので、どちらにせよそう呼ぶしかなかったのだが。
「でも本当に大丈夫? 怪我とかしてない?」
「ほら、大丈夫ですよ……おっとっと」
「本当に!?」
ユメ先輩に元気なことを証明しようと胸を張ろうとするが、勢い余って後ろに倒れそうになり心配をかける。後ろにはさっきぶっ倒したやつらが地面でおねんねしているので、そいつらに倒れるのもなんか嫌なので頑張って踏ん張った。
無事と言っても腹部がヒリヒリするのは確かだ。気絶するレベルのダメージを一度知っておく必要がありそうだが、現状だと自分の攻撃を食らうぐらいしか考えられないのでちょっとそれは勇気が出ない。残念ながら自虐趣味はないのだ。たまに異世界系で自分にスキルを当てて耐性を付ける発想を実行するやつらはどういう精神をしているのだろうか。
「これくらい大丈夫ですよ」
「そっか……うん! えっと、名前はホシノちゃん……だよね? ホシノちゃんが無事そうなら良かったよ!」
まだ敵がいるかもしれないので、リロードを一応しながら応対する。そういえば名前言ったことあっただろうか?
「名前どうして知ってるんですか?」
「強い生徒がいるって噂になってるんだよ? ちょっと誰とも関わらない一匹狼っていうのも聞いたけど……」
まぁ、冷静に考えてみればあれぐらいしかいない生徒数であれば生徒会長が顔と名前を憶えていてもおかしくないか。
あと追加の情報は何とも言えない……。コミュニケーションに失敗したか。まぁどうせいなくなると分かっている人たちとコミュニケーション取る必要もないと考えていたので当然のことだろう。高校生と何を話せばいいか分からないとかそういう理由では断じてない……と思いたい。一応コミュニケーション能力はあるって思っていたので、なんだか何とも言えない気分だ。
「ま、まぁ、ホシノちゃんが良ければ私が友達になるから……」
「友達ができないんじゃなくて、作ってないだけです」
ちょっと微妙な空気になる。ユメ先輩の分かっているよという優しい眼差しが今の俺には苦しかった。
「ともかく、今日は早く帰ってください! また襲われていても助けられるか分かんないですよ!」
「う、うん……ホシノちゃんは?」
「まだ、もうちょっと見回ります」
「じゃあ、ついて行っていい?」
苦しくなってまくし立てるように帰るように伝えるが、その後出てきた急なお願いに思考が固まる。別にパトロール自体はまだ始めたばかりなのでこれからもやるつもりだった。
「駄目……だったかな?」
「……いいですよ」
「やった! じゃあホシノちゃんのこと教えてよ」
「別に、面白いことなんてないですよ」
どうせ暇なのだ。話し相手がいるほうが眠くなりにくいし、精神的にも落ち着く。これからもそこそこの時間関わっていくことになるだろうから、こうやって話すのもいいだろう。
「ううん、せっかくアビドス高校に入ってくれた後輩の話を聞くのは、面白いし楽しいよ」
「そんなものですかね」
「うん、そうに決まってるよ! じゃあホシノちゃんは……」
そうやってユメ先輩は質問してきた。食べ物は何が好きか、好きな色は何か、趣味は何かから始まり、どうしてパトロールをしているのか、アビドス高校に入って来てよかったかなど、それらの質問に無難に答えていく。
それをユメ先輩は笑顔で頷きながら聞いてくれる。こちらがわりと雑に答えていても本当に楽しそうだ。
「じゃあホシノちゃんは、なんとなくでパトロールしてるってこと?」
「なんとなくで悪かったですね」
実際パトロールはやっている理由は、ほとんどホシノがやっていたからという自主性の欠片もない酷い理由だ。強くなりたいという気持ちはホシノってよりも俺に理由があるが、別にこの身体がホシノでなければパトロールはしていないだろう。
「ううん。なんとなくで誰にも言われずにできるってことは凄いことだよ! ホシノちゃんがアビドスのために何かやってくれてるってことだけで私は嬉しいな。ありがとうホシノちゃん!」
こんなふうに言われてしまっては嬉しくなってしまう。我ながらちょろいものだ。年下の先輩に褒められるというのは変な気分だが悪くはない。誰からだって褒められたら嫌味じゃなければ嬉しいもんだ。それもかわいい女の子だったり、イケメンな好青年だったら尚更だ。
「そういえばユメ先輩はどうしてさっきあそこにいたんですか?」
気になっていたことだ。普通に治安最悪のアビドスの夜の街にいたら、変な奴らに絡まれるのは必至だろう。見た感じ拳銃と盾という2つの装備が見えるが、あの時それらを使用しようとしていた感じには見られなかった。これは予想だが、ユメ先輩はあんまり戦闘が得意ではないと思っている。ならばそんな人が外にいるなんて何か理由があるんじゃないかと思った。
「あっ! それはね、これ!」
手に持っていた紙をこちらに見せてくる。えっと、アビドス治安維持強化方針の説明会……? なるほど。つまりちょうど俺がやろうとしていることか。確かにこんな治安じゃ自治区としての機能がまともに動かないだろうから大切だろう。
「これってどういうやつですか?」
「治安維持のためにみんなで頑張ろう! って感じで説明会を開こうと思って」
「内容とかは……」
「人が集まってから考えたらいいかなぁ、って……だって誰も見向きもしてくれないし……」
「何か具体案は考えておいた方が良かったと思いますよ」
「ひぃん……ホシノちゃんが厳しいよ~」
うーん、大丈夫だろうか……。確かに治安維持強化はアビドスにおける喫緊の課題ではあるが、どうしようもない面があるところは否めない。もっとアビドスに生徒がいて治安維持組織を運営してくれるような人材もいれば話が変わっただろうが、それは所詮夢物語だ。
「……まぁ、やってみることが大事ですからね。結果は後から見えてくるもので、始まる前から必ず決まっているものなんてありませんから」
「ホシノちゃん、良いこと言うね……。うんっ、今の言葉、手帳に書いておこう」
「……なんですかそれ」
「生徒会長手帳だよ! って言っても、ほとんど私の日記みたいなものだけどね~」
「なんというか、その、独創的なデザインですね……」
ポケットから明らかに高校生が持つような感じではない、小学生の連絡帳のようなノートにメモするユメ先輩を見て少し引く。もうちょっと高校生らしい手帳とかはなかったのだろうか?
日記をつけるのは良いことだ。俺も高校生の頃につけてみたが、毎日書くことが同じになってきて途中で飽きて辞めてしまったことを思い出す。もしもホシノの意識が戻ってきたときに現状を把握していない可能性があるので、俺も日記をつけていた方が良いかもしれない。そのときはもっとまともなデザインのやつを買おうと、心の中で決めた。
「そうだっ、ホシノちゃん。もしよければ、その、生徒会に入らない?」
ユメ先輩がいかにも真剣な眼差しでこちらを向いてきて言ってきたのは、こちらが待ち望んでいた言葉だった。会ったときから、いや、会う前からわりと手伝ってくれそうと目をつけていたのかもしれない。
だって、パトロールを入学式があったその日から自主的にやってる異常者だぞ? そこまで傍から見ればアビドスのために動いているやつを見逃せるほどアビドスに人材はいない。会話してる中でわりとパトロールしていたことは知っていた感じはなんとなくあったので、今回助けることがなくてもどこかしらで誘えてもらっていた可能性が高い。
「入らせて貰ってもいいですか?」
「もちろん! やった~! 奇跡だよ奇跡! 今日ホシノちゃんとめぐり合うために生まれてきたのかも?」
「さ、流石に大袈裟すぎないですか?」
「全然! だってひとりぼっちだった生徒会が2人になったんだよ? つまり2倍でしょ? だからアビドスを救える力も2倍になったも同然! それにホシノちゃんって頭良さそうだし、ホシノちゃんがいれば100人……いや1000人力だね!」
大袈裟すぎる……が、そりゃそうか。1人で救おうと思っていても、心細いときはやはりあったはずだ。仲間がいるだけでかなり変わる。まぁ、俺が小鳥遊ホシノよりできることはあまりあるとは思えないが、できる限り頑張って力になろう。せいぜいほんの少しの原作知識と少しだけ生きてきた経験──それも別世界のものなのでこの世界でも通用するかは分からない。
「生徒会室に明日来てね!」
「はい先輩、帰り道は気をつけてくださいね」
「うん! じゃあ、ホシノちゃんも気をつけてね~! またね~!」
パトロールも1時を回った時点で終えて解散した。途中で眠そうになってきて、口数が減ってきたユメ先輩を見て流石にこれ以上は無理だろうと思い、こちらから声をかけての解散だ。おそらく、昼間からずっと街にいたことが予想できるので、早く帰って寝て欲しかった。睡眠の質によって活動の質も変わるからね……。
次の日、入学式以来初めて制服に着替えて9時ぐらいに生徒会室に向かう。生徒数に比べて広すぎる校舎を歩いて行く。実はあんまり校舎の中を見て回ったことが無い自分にとっては初めて見る光景ばかりだった。所々にあるボロボロになってしまった地図を見て生徒会室までたどり着く。
部屋の中からはドタバタと音がするので、ユメ先輩は既にこの中にいるのだろう。コンコンコンとノックを3回すると、部屋の中から先ほどより大きな音が鳴った後静かになり、その後どうぞ~と明るい声が聞こえてきた。……不安だ。
「失礼します」
「おはよ~ホシノちゃん!」
「おはようございます」
「ちょっと汚いけど、ここに座って待っててね~。今書類持ってくるから」
「……ちょっと?」
催促されて椅子に座る。わりと良さそうな部屋の出来に対して、椅子はパイプで机も折りたたみの簡素なものだ。おそらく資金難で売り飛ばしたのだろう。
先ほどの音が立てられた原因であろう、書類が詰め込まれている段ボールが崩れて地面に謎の書類が散乱している様子を見て、少し……いやかなり心配になってきた。昨日のユメ先輩を見た感じだと、なんとなくこうやって散らかっていることも予想できなくはない。俺の生徒会としての最初の仕事は生徒会室の掃除になりそうだ。部屋は汚れていてもあまり気にしないタイプだが、ここまで散らかっていると流石に行動に支障が出るレベルなのでしょうがなく掃除はやる。
ユメ先輩が引き出しをあれでもないこれでもないと、引いては押して、引いては押していると目当ての紙が見つかったのか笑顔になる。分かりやすい。その紙を一枚引き出しから取り出し、こちらに見せながら歩いてくる。
「はい、ホシノちゃん! 書類持ってきたよ~」
「ありがとうございます」
「えっと、印鑑ある? なかったら別に今日じゃなくてもいいんだけど」
「大丈夫です。ちゃんとありますから」
「流石だね~」
持ってきていた筆箱からボールペンと念のため入れておいた印鑑を取り出す。何気に名前をサインするのは今回が初めてだ。前の名前を書かないように細心の注意をはらいながら小鳥遊ホシノの記入していく。これからこっちが本名になっていくので書き慣れていく必要がある。そういえば元々のホシノの筆跡とかどうなんだろう。筆跡鑑定とかされたら確定で違うことがバレるので、銀行とかが少し心配になってきた。
朱肉に印鑑を当てて、彫られた文字の向きを確認して押し込む。何回も何十回も下手したら何百回も捺しているはずなのに、毎回印鑑を使うときは謎に少し緊張する。押さえつけている間、インクのついてる面が見えないからちゃんと捺せてるか怖いのが一番理由としては大きいと思う。うん……今回は上手く小鳥遊と出ている。小鳥遊は画数が多くて字が細かいから密度があって潰れないか心配だったのだ。
「うんっ、これで正式にホシノちゃんも生徒会のメンバーだよ! これからよろしく、ホシノ副会長!」
生徒会長の記入する欄に梔子ユメと記入して印鑑を押すと、書類として完成した。これで目標の1つである生徒会のメンバーになるをすんなりと達成できた。これからは無限金策編に突入だろう。正直カイザー関連の問題はよく分かっていないが、新たに土地を売るようなことはしないようにしてせめて残った土地を守りつつやっていくしかない。
それにしてもユメ先輩のフルネームを初めて見たが、梔子っていう苗字なのか。どんな花か忘れたが、クチナシなんてふざけた苗字にしてくれちゃって、死体に口なしとでも言いたいのだろうか? Yostarさんやばいな。
パシャ。
随分と懐かしい音の方向を見ると、ユメ先輩がこちらにガラケーを向けて写真を撮っていた。ガラケーなんてひさしぶりに見たな……。
「あれ、ホシノちゃん写真知らない?」
「いや知ってますよ? いや、なんで今撮ってるのかなって」
「嬉しいときにはこうやって記念に写真を取るようにしてるんだ~。ほら、ホシノちゃんこっち来て」
そう言ってガラケーの首を直角にして机の上に置くと、カメラの横が赤く点滅し始める。なるほどタイマーで撮影する感じか。腕を引っ張られて席から立たされ、カメラの前に立たされる。ちょっと写真を撮るとはいえ、ユメ先輩との距離感(物理)が掴めずにもたもたしていると、右からの左側肩に腕を回されてユメ先輩に引き寄せられる。密着も密着で凄いボディランゲージだ。ちょっと恥ずかしくなってくる。
「ほらホシノちゃん、もっと寄って! 時間ないよ!」
「む、胸が……」
「はいっ、チーズ!」
フラッシュが焚かれ、ユメ先輩からの胸の押さえつけの拘束から解放される。顔の右側が胸に押さえつけられていた感触が残っており、ちょっと変な気分になってくる。この身体になってから性欲はなんか薄くなったが、心は男なので意識はしてしまう。健全な青少年の精神を破壊する音が聞こえてくるぜ……。
写真を確認するとユメ先輩はいい笑顔をしていたが、俺はちょっと引き攣ったような顔をしていた。流石にこれが記念に残るのはどうかと思う。
「あはは、ホシノちゃん凄い顔!」
「も、もう1回撮りませんか?」
「いいね~、じゃあ次は違うポーズにしよ!」
そういってもう一枚写真を撮ってパトロール前に街で写真として印刷した。少し原作よりホシノの顔が笑っている写真になった気がする。
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感想を返すのが下手すぎるので返せていませんが、全て読ませてもらっています。
対策委員会編とかアニメとか確認していたら遅くなりました。
次回の更新もこれぐらい開くと思います。