カヨコ視点
家賃が払えなくなり事務所を追い出されてしまった私たちは今、テント暮らしをしている。早く大口の依頼をこなしてテント暮らしから抜け出したい。そう考えつつ次の依頼に向けて準備をしていると、朝から事務所探しをしていた社長がニコニコしながらテントに入ってきた。
「みんな!新しい事務所が見つかったわ!」
「見つかってよかった。家賃はどれくらい?」
「なんとたったの千円よ!しかも駅から徒歩5分の一軒家!」
社長がドヤ顔をしながら言った。
「…アルちゃん、それ騙されてない?いくらなんでも家賃が千円で駅近って…」
ムツキが社長に声をかける。
「私もそう思う。それに仮に事実だったとしても怪しすぎる。何か裏があるよ、絶対。」
そう私も続ける。そんな好条件の物件を破格の値段で売りに出すなんてよっぽどの馬鹿か裏のある人だけだろう。
「で、でもこれ以外の物件はどれも高いし今は大きめの依頼もないからこれを逃したらもうしばらくはテント暮らしよ。みんなももういやでしょ?だからとりあえず下見だけはしてみない?」
「そういうことなら…」
まあ、確かに下見だけならやってみる価値はある。とんでもなく怪しいけど万が一なんの問題もなければこれほど条件のいい物件など他にない。それにこのテント暮らしもいい加減嫌気がさしてきたとことだし。
アルちゃん視点
後日下見に向かった。
まずは事情を聞くために管理人を訪れ、なぜあんな好物件が破格の値段で貸しに出されているのか管理人のロボットに尋ねた。
「私だってあんな良い物件、はした金で貸したくないですよ。でもあの家誰に貸しても数日で出て行ってしまうんです。事情を聴くと『幽霊が出た!』『誰かに見られている気がする』『部屋に誰かがいる』と皆口をそろえて…私も怖くなっちゃって家を取り壊すことにしたんです。空き地にして売ってしまおうと。それでカイザー・コンストラクションに頼んで解体してもらおうとしたんです。」
「あら、でも今も家は建ったままよね?」
「ええ、そうなんです。なんでも解体のために重機を動かそうとしたところ謎のエンジントラブルが多発したそうで。それならと無理やり人力で解体しようとしたのですがその時偶然スケバンがやってきて工事は中止。その後も何らかのトラブルが起き結局解体できないままカイザー・コンストラクションは人員を引き上げてしまいました。それで取り壊しもできず、かといってまともな値段で貸すこともできずこのようなことに…」
な、なんですって!?幽霊屋敷ってこと!?どうしようかしら。幽霊が出るなんてやっぱりやめた方が…
「くふふ~。幽霊屋敷だってよ、アルちゃん。でもアルちゃんほどのハードボイルドなら幽霊の一体や二体くらいなんてことないよね~?」
そう言いながらムツキが私の顔を見つめる。
「えっ、ええ。もちろんよ!幽霊なんかに怯えたりしないわ!」
「おおっ!それならば契約書にサインを。」
「わかったわ。」
言ってしまった!みんなの手前、虚勢を張ってしまった。どうしよう。それにあのカイザーが何もできずに逃げ出すなんてどうすればいいのよ…
でも…これを乗り越えればハードボイルドに近づける?…そうよ!むしろここでこの幽霊騒動を解決できれば便利屋68の名が上がる。いままでよりももっと依頼が舞い込んでくるに違いないわ!
そうと決まれば、さっそく契約書を交わし、鍵を受け取った。
「それじゃあみんな行くわよ!」
「はい、アル様。」「くふふ~どんな幽霊がいるのかな~?」
ハルカとムツキが返事をした。
「はぁ、大丈夫かな…」
カヨコは小さく呟いた。
カヨコ視点
幽霊屋敷は一昔前のただの一軒家であった。正直あの外見からでは幽霊が出るとは思えないほど綺麗だ。ひとまず玄関の鍵を開け中に入る。
玄関のすぐ左に居間がありその奥にキッチンがある。玄関正面の廊下は居間に沿って左に続いており途中に物置部屋、トイレ、階段があり、終点にはお風呂が設置されている。
部屋を散策している間は特に何も起きなかった。しばらくは皆一緒に行動していたがいっこうに幽霊が現れないので皆の気が抜けていった。
お風呂に入った後夜風に当たりたくなりベランダに出る。少しの間考え事をした。
部屋に戻ろうとすると鍵が閉まっていている上にカーテンも閉められている。なんで?誰かが間違えて閉めた?まあ窓から少し横にずれた位置にいたので内側から見えなかったのかもしれない。中を覗くともう誰もいない。仕方がないので窓を軽くたたいて自分の存在を知らせる。何度か叩くが反応がない。もう少し強めに叩く。反応がない。カーテンの隙間から覗き込んでも誰もいない。聞こえていないのだろうか?
携帯を取り出し便利屋68のグループに電話をかけて助けを呼んだ。すぐに社長が駆け付け鍵を開けてくれた。
「突然電話がかかってきてびっくりしたわ。まさかベランダに閉じ込められてるなんて。ごめんなさいね。さっき戸締りの確認をしていた時に間違えて閉めちゃったかも。」
「…別に大丈夫だよ。助けてくれてありがとう。」
本当に私を閉じ込めたのは社長なんだろうか?鍵を閉めた音に全く気が付かなった。それにカーテンを閉めたら「シャッ」って音が聞こえるはず…これは幽霊の仕業なんだろうか?でも聞いていた幽霊の特徴とは違う。こういう怪奇現象ではなく本当に幽霊が現れたって話だったし…
夜になったので皆で二階の寝室に布団を敷いて寝ることにした。結局今日は一日中気を張って警戒していたが幽霊は現れなかった。現れないに越したことはないが、出ないなら出ないでなんだか不気味な感じがする。布団に入ったままぼんやりとそんなことを考える。
なんとなく部屋を見渡す。ふと寝室の扉がほんの少しだけ開いているのに気が付いた。あれ?扉は私がちゃんと閉めたはず。そのあと誰も部屋を出て行ってないから扉があいてるなんておか…
いる!誰かがこっちを覗いている!
「皆!起きて!誰かがいる!」
私は大声で皆をたたき起こし、銃口を扉に向ける。
「えっ、何、どうしたの!」
「もしかして本当に幽霊がでちゃった?」
「ゆ、幽霊ですか!?」
皆が起きたのを確認し扉に視線を向けるとすでに謎の視線は感じなかった。
「さっきまで確かに誰かの視線を感じてたんだけど…」
警戒しつつ部屋の外を確認する。なにもおかしな点はない。手分けして鍵が開いているところや隠し通路がないか調べてみるも異常はない。
「ほ、本当に幽霊が出るなんて…」
「あ、アル様!わ、私が幽霊を爆破して退治してきます!」
「待ってハルカ。家の中で爆破ダメ。」
「くふふ~。でもさあ~、それって本当に幽霊だったの?暗かったし見間違いじゃないの?」
「…わからない。でも少なくとも視線を感じたっていうのは本当。」
皆と相談しても幽霊の視線を感じたのは私一人で話が進展しない。皆は寝起きだったし幽霊も皆が起きるとすぐに消えてしまった。せめてもう少し早く現れてくれれば皆にも起きていて何かに気付けたかもしれないのに。
次の日
今日は依頼がないから皆家にいる。昨日の幽霊騒ぎのせいで皆どこか不安げである。なんとなく嫌な雰囲気だ。
「あっ、そういえば洗濯はまだだったよね。皆洗濯物カゴに入れといて。洗濯しとくから。」
そう声をかける。テント暮らしの時は洗濯も一苦労だった。やっぱり洗濯機があるととても便利だ。
皆が洗濯物を出すのを確認して洗濯する。洗濯中は皆とまだこの家に住み続けるかどうか相談したが、皆は直接幽霊を見ていないこと、テント暮らしはこりごりということで、一応住み続けることになった。
洗濯が終わったのでベランダに干しに向かう。ベランダにつながる部屋に入る。
そういえば昨日はここの部屋の鍵が閉められて閉じ込められたんだ。なんだか不気味な感じがする。カーテンもほんの少しだけ空いていて隙間から覗き込めそうだ…いや馬鹿馬鹿しい。何をこんなに不安がっているのだ。こんな真昼間でなんの変哲もない部屋。怖がるからこそ怖いのだ。別に怖い要素なんてない。
そう自分に言い聞かせて窓に目を向けると…カーテンに何かの影ができている。人の形をした影が。
「皆!」
叫ぶ。すぐさま階段を駆け上がる音が聞こえ、皆が集まり、カーテンの影に注目する。
「まさか、本当に?」
「な、なんですって~!」
「わ、私が追い払います!」
ハルカがそう言って窓に向かうと同時に影も動き出し、カーテンの隙間からこちらを覗いてくる。
「ひぃ!」
社長が白目をむく。ハルカも立ち止まってしまう。
隙間から覗く【何か】はなんとも形容しがたい何かであった。
皆が動けずに固まっていると【何か】は窓をコンコンと叩き始めた。固唾をのんで見守る。しばらく続けると叩くのを止めた。皆がほっと息をのむのもつかの間、今度は先ほどよりも強く窓が叩かれた。
ドンドン!ドッ!ドン!
まずい。これ以上じっとしているわけにはいかない。幽霊に銃が効くかはわからないがやるしかない。素早く銃を構え撃とうとする。が、いつも携帯しているはずの愛銃がどこにもない。
あっ、一階に置いて来ちゃった!こんな時に限って忘れてしまうなんて…
ハルカもまずいと思ったのか引き金を引こうとしている。引き金に指をかけ、引く。しかし何も起こらない。疑問に思いハルカに視線を送ると
「あっ、昨日整備した後に弾を込めるのを忘れてました!すみません、すみません、すみません、すみま…」
…?残ったムツキに視線を向けるが
「もういなくなっちゃったみたいだよ。」
気が付くと窓をたたく音を聞こえず、【何か】もいなくなっていた。
皆と顔を合わせ、頷きあう。すぐさま荷物をまとめて家から飛び出し、近くの公園まで逃げ出した。
「はぁ、はぁ。何、あれ。」
「さ、流石にあんなのが出るなんて…」
皆が落ち着くのを待つ。
「社長。もう駄目だよ、あんな家。住み続けられない。」
「そっ、それはそうだけど…でも…」
ようやく正気に戻った社長が答える。
「せっかくあんなに安い値段で借りられたのにもったいないというか、もうテント暮らしは嫌というか…」
「う~ん、じゃあさ特異現象捜査部を頼ってみるのはどう?」
「特異現象捜査部?」
社長が尋ねる。
「そう。なんでも最近こういう特異現象を解明するためにいろんな自治区を飛び回ってるらしいよ。」
「私も聞いたことがあるよ。最近新しい部員が増えて活動が活発になったって。」
確かにこういったことにはうってつけの部活だ。もしこれで解決できればいいし、できなくてもミレニアムならきっと研究のためにあの家を買い取って調査するだろう。買い取るために借主である私たちに多少の金銭を払ってくれるだろうから、それでしばらくはしのげるだろう。
「そうね。それならその特異現象捜査部を頼ってみようかしら。」
「わかった。電話してみる。」
確か特異現象捜査部の電話番号は…っと。
プルプルプル…プルプルプル…
「はい!こちら特異現象捜査部です。特異現象ならうちに任せてください!」
「こちら便利屋68、課長の鬼方カヨコです。実は…」
事情を説明した。
「なるほど。わかりました。では明日の10時にはそちらに着きますので。はい、よろしくお願いします。」
通話を切る。
「明日には来てくれるみたい。」
「おっ、早いね~。」
早く来てくれるのは助かる。でも少なくとも今日はまたテントか…
導入長くない?
結構テンポ重視で書いていますがどうですか?
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もっとテンポ早くして
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このくらいのテンポでいい
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もっと丁寧に描写してほしい