――――彼はやはり本質に気が付いている。
私、堀北鈴音は観察をしていた。
高度育成高等学校。Aクラスで卒業すれば進路は自分が思うがままに。そんな謳い文句がまかり通るこの学校の門出は拍子抜けするほど穏やかな始まりとなった。
生徒一人一人に10万ポイントが渡される。1ポイントにつき1円と同価値を持つ、つまり生徒全員に10万円を渡していると同じなのだ。
これが毎月貰える?高校生の身分で?
――これが罠だ、そう気が付いている生徒は残念ながらDクラスにはいなかった。
AクラスやBクラス、Cクラスまでもがこの学校のシステムについて探っている。
このクラスポイントというものにはきっと秘密がある。そう確信したのは食堂で無料の物が提供されることを知った時。
学生生活を送る際、家賃から光熱費、通信費はかからないようになっている。
食事も贅沢をしなければ生きていくことはできる。
無料の食事をとっているのは上級生。毎月ポイントが入るならこれはおかしいのだ。
3年間クラス替えはなし。留年もなし。クラスで競い合う?
クラスメイトは馬鹿みたいにはしゃぎ散財する。……彼を除いて。
「綾小路清隆…」
180を超える長身に整った顔立ち。
成績や運動神経は並のようだが…彼はこの学校の本質にいち早く気が付いている。
ポイントをもらった次の日には、無料の物ばかりをかき集めている。
無駄にジュースやお菓子も買わない。食べ物は無償提供の物。
クラスでは親睦を兼ねてカラオケやボウリング大会などが開かれても、彼は参加しなかったという。やはり彼は、気が付いてる。
だから私は、彼に話しかけたのだ。
綾小路が朝霧海斗みたいな感じだった時の話
――――誤算がある。
金というものをほとんど持ったことがなかった俺に、10万なんて大金を渡せば使い方なんて分かりやしない。
そんな俺はポイントを貰った初日に、うっかり全てのポイントを使ってしまったのであった。
「とはいえ、別に後悔はない」
初めて見るショッピングモールは煌びやかなものだった。
全ての商品は目新しく、俺の興味を引くには十分だった。
特に【自宅で本格ピッツァが焼ける電気石窯】には一目ぼれをしてしまったのだ。
これが10万ポイント。俺は迷わず全額を投資した。
「電気石窯があっても材料がなかったとは…」
当たり前だが材料は有料だ。
つまり、俺のピッツァは来月に持ち越しだということ。
そんなわけでポイントを貰った次の日には無料の食事を食べないといけなくなる。
「……ねえ、あなた。入学式の次の日からずっと無料の物を食べているわよね?」
珍しく、というか初めて話しかけてきたのは堀北という女子生徒。
コミュ障らしく友達がおらず、フラフラと出かけては人間観察を続ける悲しきコミュ障だ。
「今日で2週間。私はこの期間、ずっと学校を見て回っていた。今でもはしゃいでいるのはこのDクラスくらい。Aクラスを始めとした他のクラスはこの学校の仕組みに気が付き始めたみたいよ。どうするの?そろそろ私たちも行動を起こさないといけないと思わない?」
この学校の仕組み?コミュ障だけではなく中2病患者なのだろうか?
とはいえ、俺は事情があり学校の仕組みというものを詳しく知らない。
「この学校の仕組み?」
「ええ、そうよ。私もあなたと同じく、入学の時に渡されたプライベートポイントはほとんど手を出さないようにしているの。きっとこれは今後の学園生活において重要なカギとなる。上級生を見ていても、無駄使いをしている人はほとんど見かけなった。つまり、プライベートポイントが今後も渡されるかどうかは分からないと思う」
「月に1回振り込まれる、という話じゃなかったのか?」
「常に10万ポイント、とは言ってなかった。つまり、このポイントは上下する。今のところはまだ何で上下するのはかは分からない。でも、食堂で無料の食べ物を食べていた人たちはほとんどが上級生のDクラスだった。つまり、Dクラスでいるとポイントが下がる、という可能性が高いと私はにらんでいるの。貴方はどう思う?」
…なるほど。こいつ、なんか賢い気がする。
ポイントが少なくなるということはピッツァを作る機会が減る可能性があるかもしれないということ。
俺はとある事情により食事というものに非常に興味がある。
出来れば自分で作りたいし、色んなものを味わいたいという願望がある。
「公園の水を飲んだり草食べたりしてたのは何が理由なの?何か理由があるのよね?」
「……見てたのか?」
「ええ。私がアチコチ観察していた際、貴方も同じように散策していた。私は流石に草とかは食べなかったけど…多分理由があると思った。どんな考えで草食べてたのかは分からなかったけど」
理由はない。そこに草が生えていたから食べたのだ。
「俺がどうしようとどうでもいいだろう。えっと、堀北。行動とは具体的に何をするつもりだ?」
「情報収集をしたいの。これ以上一人で色々見てもわかることは限られている。だから、上級生に話が聞きたい。手分けして聞けないかしら?」
「俺は上級生の知り合いとかいないんだが…」
「私も気軽に話が聞ける人はいないわ。あなた、クラスメイトで仲良くしてる人がいるじゃない?」
「…平田の事か?」
「そう。興味ないけど、彼と話すと他の女子の目がね。貴方はよく話しているところをみるけど…仲がいいの?」
「ああ、ケツを差し出し合う仲だ」
「……全く意味が分からないけど、それなら彼に話してみてもらえないかしら?私と上級生をつなげてもらうだけでもいい」
いや、めんどくさい。
俺はその言葉を飲み込んだ。
この学校は平和だ。初めて見る煌びやかな世界に俺の心は高鳴った。
しかし、最近は退屈に感じてきているのは事実。
もしこの学校に何かがあるのなら?このままいくと退屈でしかないこの学校に来た意味が、あの男の言う通りあるのなら、少しこの女に協力してみてもいいかと思ったのだ。
あくまでもこれは俺という人間のただの好奇心。
しかし、この会話を機に俺という人間は大きな変化を迎えていくのだった。