Side 櫛田桔梗
―――どこで私は選択肢を誤った?
綾小路君が勝手にどこかに行ってしまった後、私と一之瀬さんは各々のクラスの連絡をし、佐倉さんを見かけた人を探した。
事件の事をいきなり書くと混乱する恐れがあったため、あえて佐倉さんの目撃情報を募った。
『え、佐倉さんがどうしたの?桔梗ちゃん』『何かあったの?俺が協力するよ』
急いでいるときにこんな空気が読めない連絡を入れてくるのは大概役に立たない池とか山内といった男子連中だ。情報が欲しいのに、こっちとの会話を求める。何かがあったから連絡を入れているのだ。
Dクラスのチャットアプリで全員に送ったので仕方がないのかもしれないが。
そんな時、よりにもよって堀北から通知が入る。
『多分佐倉さんだと思う人を見たわ。ケヤキモールの家電売り場の方。それがどうかしたの?』
好きではないが、堀北は流石だった。
緊急!と書いたこともあるがキチンと情報を入れたうえで何が起きたのかを問うてきている。
私と一之瀬さんは手分けして佐倉さんを探すことにして、とりあえず連絡があった堀北と合流すべく現場に向かう。
目撃情報があったと言ってもそれが今朝なのか今なのかでも違う。
嫌だが、私は堀北に電話をすることにした。
『見かけたのはついさっきよ。…今? 今は周囲にはいないわ。…!!待って。何か不審な男がいるわ。少し切るわね』
私の静止を聞かずに堀北は電話を切った。
その後何回電話をかけてもつながらないし、メッセージも既読にならない。
なんで言うことを聞かないんだ、と思った矢先に通知が入る。
今度はメッセージが来ていて、GPS情報が入っていた。
尾行しているということだろうか?危険があれば私はリスクを取りたくない。
変な男がいるのならすぐに警察をと思うのだが…電話をかけても堀北は出ない。それどころか電源が落とされている。
GPS情報だけでは危険がどうか分からず警察は呼べない。
となると危険をおかしても現場に行かないといけない。
「……これ、リスク負う場面なのかな…」
仮に佐倉さんがどうなろうと、私は特に困らない。
しかし救うことが出来れば賞賛される。しかも、彼女は須藤君の事件のカギを握る女性。
彼女に何かがあれば、須藤君の事件もまた何か変化が起きてしまうのだろうか?
「せめて堀北が何があったかくらい教えてくれていれば…」
迷った末に、私は現場に向かうことにする。
ケヤキモール近くの資材置場。GPS情報ではここら辺――――
「…ちっ、また目撃者が増えちまった。オイ、動くなよ」
後ろからガシッと肩を抑えられる。
振り向くと190はあろう大男の姿。
逃げようと試みるも大きな手で肩を抑えられビクともしない。
「逃げるな。ああなりたくなかったらな」
大男が指さした先では、うつぶせに倒れピクリとも動かない須藤君。
そして、私と同じく男に拘束されうずくまる堀北の姿。
「俺たちの用事はすぐに終わる。大人しくしてたら危害は加えない。――が、その端末だけは預からせてもらうぜ」
この瞬間私は理解する。
私は、選択を誤ったのだと。
綾小路が朝霧海斗みたいな感じだった時の話 2章 6話
……で、その後は手錠かけられて控室に拘束させられてたってことか。
堀北と櫛田から話を聞いた。
堀北は周囲を伺う不審な男がケヤキモールから出ていったため、その男を尾行。
尾行している堀北を不審に思った須藤が合流し二人で尾行していたところ見つかったとのことだった。
「……不覚だったわ。まさか三人組とは思わなかったのよ」
手錠で後ろ手を縛られたまま不服そうな堀北。
尾行は成功し、佐倉であろう女子生徒をこの建物内に連れ込んでいることを把握することには成功した。――が、そこで犯人グループに見つかってしまう。
突然交戦状態になったが、運動部でガタイもいい須藤の敵ではなく犯人の一人は一撃でKO。堀北ももう一人の男を倒すギリギリまで追い詰めたそうなのだが…
「テーザー銃って言うのかしら?いきなり須藤君があれで撃たれてこんな感じ。私も佐倉さん人質に取られて降参するしかなかった」
その時にGPS情報を櫛田に送信し、電源を落としたらしい。
その瞬間は見られてはいなかったのだが、警戒した犯人グループによって現場に現れた櫛田はあえなく捕まってしまった、という流れの様だ。
「…せめて危険かどうか送ってくれてたら…」
「GPS情報記載していた時に交戦状態になってしまったから…危険とか言う余裕がなかったのよ。悪かったと思ってる」
うなだれる堀北に流石にこれ以上責められない櫛田。
しかしただのストーカーかと思いきや3人組かつ威力の高い武器を持っている。
テーザーガンというものを現物で見たことはないのだが、あれは男一人気絶させられるほどの威力があるのだろうか?
須藤の身体を触れる。…生きてはいるようだ。
「まあ反省会は後でいいんじゃないか?とりあえず無事だし。とりあえず須藤を連れてここから脱出してくれないか?二人がかりなら運べるだろう?」
「あのね、これが見えないの?こんなゴツイ手錠どうにかするのは無理……え?」
堀北が手錠を俺に見せようと上に持ち上げた瞬間、手錠はガチャンと床へと落ちた。
それを見た櫛田は自分の手錠を確認すると…同じようにガチャンと音を立てて床に落ちる。
「こ、これ…綾小路君が?どうやって?」
「実はピッキングが唯一の特技でな。とりあえず話は後だ。のんびりしてる時間がない。俺は佐倉の様子を見に行く」
「……待ちなさい。一人で行くつもり?私が言うのもアレだけど…危険よ」
「幸い俺は面が割れてない。侵入したことも気が付かれていない。大丈夫だ。危険なことを俺がすると思うか?警察が来るまで見張ってるだけだ」
「貴方が言うことは信用できないわ。私もついて―――」
「堀北」
冷たく言い放つ俺の言葉に堀北は途中で言葉を止める。
「言うことを聞け。櫛田と堀北は須藤を連れて安全圏へ。そして警察に連絡。佐倉の携帯は店の忘れ物BOXにおいてあった。だから、警察の誘導は俺のGPSを使え。よろしく」
堀北や櫛田の言葉を聞かぬまま、俺は控室を後にする。
もしかしたら俺の言葉を無視して追ってくる可能性もあるが、須藤をそのまま放置しないだろうしその時はその時だ。
これがベストの対応とは思わない。だが、俺は俺で自分のやりたいようにやるだけだ。
人の気配が感じるのはこの建物の一階部分の奥の方。
俺は気配を殺しながら奥へと足を進めるのであった。
*************
「さて…色々あったが、彼女にはバツを与えよう」
大柄な男は言う。
190を超える長身に筋骨隆々。熊に見間違えられるほどの巨体は小さな椅子に腰かけている。
いや、普通のサイズの椅子なのだが彼が腰かけると小さく見えてしまう。
それほどまでの巨体だった。
「リー、リーダー…バツとはどんなことを?」
「それはお前が決めることだ、田中。おまえはどうしたい?」
田中と呼ばれた男は身体をブルブルッと震わせ
「コイツは…雫は嘘をついていた!イケメンが苦手といいつつ、イケメンに愛想をふるまいていた!俺に嘘を…嘘をついていた!」
「…なるほど。嘘と加工アプリの使用は万死に値する行為だ。同志田中よ、お前の無念は真っ当なものだ」
「だから俺は…雫がもうアイドルとして生きていけないようにしてやりたい」
怒りに震える田中。静かに座る大柄な男。もう一人の仲間、鈴木は息を荒くして
「あ、アイドルとして生きられないようにって一体何を…?」
その問いに田中は沈黙をする。
鈴木が良からぬことを想像しているのを大柄な男は分かっていた。
こうやって無力な女を攫っておいてなんだが、彼は崇高な精神の持ち主でもあった。
攫って犯す、というものを彼は嫌っていた。
それに、犯したからといってバツを犯した者がアイドルとして再起できないとは限らない。
心の傷は、外からは見えないのだから。
「同志田中よ…おまえが許すならコレを使え」
大柄な男が差し出したのは一本のペンだった。
「そのペンは、一生消えぬインクで作られている。というのがうたい文句だが、本当は10年程度したらインクは落ちるらしい。見ての通り無色透明。しかし、カメラのフィルターを通すとインクが浮かび上がるようになるという代物だ」
「おお…!!つまり…!?」
「…そうだ。カメラのフィルターを通す作業、つまり芸能生活は行えなくなる。普通にしている分には透明に見えるから生きていく分には問題ない。まあ、写真は撮れなくなるかもしれないがな…」
「す、素晴らしい!!例えば額に『肉』とかかけば…!!」
「そうだ。雫はキン肉マンとしてしか過ごせなくなる」
「も、もし額に『大往生』とかけば…!!」
「そうだ。雫は雷電としてしか過ごせなくなる」
「も、もし額に『M』とかけば…!!」
「そうだ。雫はベジータとして…って何の話をしている!?ふざけているのか!?」
突っ込む大柄な男な男の表情が驚愕に変わる。
それはそうだろう。田中として話していたと思っていた男が、俺に変わっているのだから。
「な、なんだキサマ!!一体いつの間に!?どこから入った!?」
焦った声とともに立ち上がり、距離を取る大柄な男。
弱そうな男二人にはとりあえず軽く当身を加えて眠っておいてもらった。
声を出すことすらなく眠らされた男たち。この田中というやつが、恐らく今回の主犯だったのだろう。
が、俺の興味はこの大柄な男にしかなかった。
俺は当身を加えた時に抜き取ったテーザーガンをチラチラと大柄な男に見せつける。
大柄な男は何かを察したように
「…なるほど。その銃で二人を撃ったということか。私としたことが、話に夢中で気が付かなかった。だが、その銃で私を撃たなかったことは失敗だったな」
「いや、あんたは敢えて残したんだ。ちょっと事情があってな」
「……なるほど。初めから私をIKYの柱が一柱、伊集院と知ってのことだったのか」
「…いや、それは知らなかった。無駄にかっこいい名前だな。というか、IKYとはなんだ?」
大柄な男――伊集院は腰から特殊警棒を取り出した。
スイッチを押すと棒は伸び、竹刀ほどの長さになる。
「IKYとは…」
棒を両手で持ち、中段に構える。
――堂に入っている。初心者ではない。剣道か。
「イケメンコロス勇者たちの略だ!!」
気が抜ける言葉とは裏腹に鋭い一撃。横なぎの一撃を俺はバックステップで回避する。
その後も風を引き裂くような連撃を俺は紙一重で躱す。
「フハハハハハ!俺の剣は常人には見ることすら叶わぬ!」
「……悪いが、常人ではないんでね」
振り下ろした特殊警棒を俺は右手一本で抑えた。
大柄なだけあって力も大したものだが、俺と比べるとそうでもない。
と思った矢先に、伊集院はニヤリと頬を上げた。
その瞬間、ビクン!と俺の身体は跳ね上がった。
「フハハハハ! 文字通り肉を切らせて骨を断つ!そんな覚悟で俺の剣を捨て身でつかみに来た奴らはいた。そんな奴らにはこの100万ボルトをプレゼントって訳さ!!」
「そんなに掴みに来るやつらがいるのか。結構敵って多いのか?」
「我々にとってイケメンは全て敵。奴らがいるからこそ我々が冷遇されるのだ」
「…そんなもんか?イケメンだからって女にモテるとは限らないと思うけどな」
「それはおまえがイケメンだからその言葉が出てくるのだって……あの、電気きてます?」
「あ~どうだろうな。少し故障気味かもしれないぞ。ちょっと触ってみるか?」
俺は特殊警棒の先っぽを伊集院のお腹に押し当てた。
「――――ッツ!!」と言葉にならない悲鳴を残して伊集院は気絶する。
久しぶりに電気を浴びたが、多少痺れるものだな、と感じる。
……まあ、こいつ等がくだらない話に集中していたのでアッサリと制圧してしまったが、人質を取られた状況での戦いになったらもう少し苦しかったかもしれない。
伊集院という男はともかく、他の二人はむしろ弱いレベルだったしオッサンだし。
多少の物足りなさを感じた。
こんなのが相手でも、やはり手加減が必要になる。
この街で人が死ぬようなことがあればそれは大問題なのだろう。
「まあ、多少は退屈が晴れたかな」
今回大変な目にあった佐倉も怪我はなさそうだ。
メンタル的にどう響くのかは分からないが、アイドル活動はどうなるのだろうか。
「ん……」
佐倉がピクリと反応を示す。
流石にこのまま帰るわけにはいかない…か。
ここを制圧するよりも、この後どうやって誤魔化そうか考える方が大変だな、と俺は思うのであった。
第2部 完
ここまで読んでくださり本当にありがとうございます。
たくさんの感想ありがとうございます!
勇気とモチベーションが上がります。
この話はザックリと書いてしまったので修正するかもしれません。
次回エピローグなので、またまたよろしくお願いします。