エピローグ
事件から2日ほど経過した。
俺は担任である茶柱に個人的に呼びだされ、事の顛末を聞いた。
あの後、警察は間もなく到着した。
つけてくるかもと危惧していた堀北と櫛田は素直に須藤を連れて脱出。
たまたま通りかかった一之瀬が警察に通報してくれたようだ。
「佐倉も後遺症等はないようで、明日から登校を再開するようだ」
今回の事件は一部の人間しか知らぬよう、内内に事を処分した。
誘拐事件という学生の安全を揺るがす事件。子供たちを寮で預かる立場としては事を大きくしないほうがいいとの判断だろう。
犯人、主犯格である田中は家電売り場に勤めていて、そこで佐倉を発見したらしい。
自分は陸の孤島ともいえる職場で行き来は自由でないのに、会いに来てくれたと錯覚したとか。
しかし気になるのは共犯である二人は外部の人間であるということ。
「3人とも元自衛官のようだ。そこで仲間だったようだな」
メモが書かれたプリントを片手にめんどくさそうに話す茶柱。
伊集院と名乗った男は自衛官の中でもそれなりの地位にいたようだ。
学生時代は剣道でインターハイにも出場したとか。
表の世界ではあれが猛者なのか、とも思う。
安全な世界で暮らしていたらそこまでの強さなんて必要ない。
今現代が必要としているのは純粋な力ではなく、権力や政治力なのかもしれない。
「あ、そうだ。Cクラスだかな。須藤の件、訴えを取り消すと言ってきたようだ。もちろんウチの学園はそこまでは甘くないので、訴え得にはならぬよう、ペナルティが入るだろう。まあ、大事にはなっていなかったので微々たるものだと思うがな」
櫛田が提出した須藤が無実である、という写真を見て呟く。
「茶柱、Cクラスは何故このタイミングで訴えを取り下げた?」
「敬語を使えと言っているだろうに…。殴られたと言っていた石崎が自分の言葉を虚偽と認めた。仲間を思っての行動だったが、小宮自身が自分の力でバスケ部のレギュラーを勝ち取る、という言葉を聞いて自分の行動は過ちだったと気が付いた、とな」
「はあん…」
思っていた通り、全面降伏か。
ここまで証拠が残っていたのは奇跡的なことでもあるし、傷が深くならぬよう行動をしたか。
学校側も案件の取り消しは疑問にこそ思うかもしれないが、これ以上突っ込めないだろう。
関わった石崎が全面的に罪を背負い数日の停学処分といったところが妥当だろう。
「…おまえの力は見せてもらった。まだ全てではないだろうがな。一つ聞いてもいいか?」
「構わないぞ。だが、敬語を忘れるなよ」
「敬語を使うのは貴様だ。まあ二人の時はいい。……おまえをこの学校に推薦した佐竹という男は何者だ?」
俺は坊主頭にサングラスの大男の姿を思い浮かべた。
ああ、そうだ。そういえばハゲ以外はあの伊集院に雰囲気が似ていたかもしれない。
だからこそ、少し遊んでしまったのかもしれないな。
「俺も詳しくは知らない。向こうは俺を知っていたようだが…俺が調べてほしいくらいだ」
「……嘘はついていないようだな。佐竹という男はこの学園の理事を務めている。それ以外は私も知らない。ここ最近、という話ではなくずっと何年も前から理事を務めているようだが、普段何をしているのかは私も知らない」
あの男が俺に何を望んでこの学園に導いたのかは分からない。
だが、初めて知る世界は退屈することはあれど、楽しく過ごせている。
料理もいい。本もあふれるほどある。コーヒーも美味しい。
「そういえば、今回俺が大活躍しただろ?特別にポイントとか入らないのか?」
「今回の件は社会貢献をした、という名目で特別にクラスポイントが加算されている。100ポイントほど入っているのではないか?正直、破格だと思う」
「なるほど。でもそんなにもらえるポイントが多くなった気がしないのは気のせいか?」
「誰とは言わないが、風紀を乱す存在がいるからな。具体的には突然裸になったり、不思議な踊りを踊ったりとかだな。監視員もこんな生徒見たことがないとポイントをどう扱っていいのか分からなくて困っている、と愚痴をこぼされた」
………………。
まあ、この件はクラスメイトには内緒にしておこう。
「もう話してしまった」
「仕事が出来る先生で感謝しかないな」
俺は席を立った。
これ以上話すことはない、と言わんばかりに扉に手をかける。
「マイナスを出す以上にプラスを出すんだな。今年は色々ルールも変わるようだ」
そんな言葉を背に、俺は扉を閉めた。
そういえば、なぜ茶柱が俺を気にかけているのかは聞かなかったな。
まあいいか。
気になる点は他にある。
伊集院ともう一人…名前忘れたが、その二人は外部からこちらに来たということ。
高度育成高校は機密性が高い。
長く続く学校にも関わらず情報は噂程度にしか流れない。
かといって子供たちだけで生活しているわけではなくキチンと大人たちもいる。
ただ、そこら中に監視カメラがあり管理された陸の孤島。
当然働いている人間も、外部からくる人間にも厳しい審査がかかる。
あの男たちは、どうやってこの街に侵入してきたのだろうか?
そんな事を考えて歩いていると…俺の前に男が立ちはだかった。
「よう…綾小路…とか言ったな。今回はお前らのクラスにしてやられたみたいだな」
170とちょっとくらいの身長に長い髪。
鍛えているであろう身体は高校生にしてはガッチリとして見える。
「おまえらのクラスのリーダー格は誰かと探りを入れるつもりが…痛い目見せられちったぜ」
「……何の話だ?」
「とぼけるな。須藤の件だ。とことんやってやろうと思ったが…写真まであると聞かされちゃあ降りるしかない。ついてたな」
………………。
「おまえのクラスのリーダー格に伝えてくれ。今度は本格的に遊んでやるってな」
ククク、と悪役のような笑みを残して立ち去る男。
雰囲気的に、きっとアイツがCクラスのリーダー格の男なのだろう。
さてさて、罠にハマったのか宣戦布告なのかは分からないが…とりあえずハッキリしたことがある。
堀北は言っていた。『時期をみて訴えを取り下げるだろう』と。
俺もその考えには同感だった。良くて共倒れ。そんな策を格下にとるとは思えない。
たまたま証拠がこっちにあったのでアチラだけが痛い目を見ることになったのだが、こっちが本当にもっと抗議していたらほんの少しだがアチラのバツが重くなったかもしれない。
しかし、敢えて俺たちはその選択をとらなかった。
俺は事件が終わった直後、堀北と櫛田、平田にある提案をしていた。
それは、クラスメイトによって伝える内容を変えるということ。
積極的に目撃者を探していた女子グループには『目撃者は音声データを持っているから今回の事件は無実が証明できると思う』と。
あまり関わらなかったグループには『目撃者が見つかって証言してくれる流れになったから大丈夫』と。
そして、積極的に目撃者を探していた男子グループには『目撃者は決定的な写真を持っていたから事件の無実を証明できる』と。
このように分けたのは簡単。
須藤は嘘をつくのが得意ではないからだ。
そして、黙ってられる性格でもない。下手すりゃ自分の無実の証拠の写真を仲のいいメンツに見せる可能性もある。
茶柱の発言…そして、さっきの男の発言から確信を持った。
ウチのクラスには、『裏切者』がいるようだ、と。
続く
2章は自分の思っていたことをうまく書けなった章となりました。
低評価が多いのも納得でどこかで書き直せたらいいなと思いました。
そんな拙い文章を見てくれている方は本当に感謝しています。
完結できるよう頑張りますので、引き続きよろしくお願いいたします。