綾小路が朝霧海斗みたいな感じだった時の話   作:なか115

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第3話

3

 

 

 

「――ま、こういうところに来ればすることは一つっきゃないよな? そう、男子会だ!」

 

 

キャンプのテントは8人用だったので、クラスメイトは何組かに分かれ各々の夜を迎えている。

一応サービスなのか、携帯用の豆球はあるのだが明るさというには不十分。

スマホも取り上げられているので夜は基本やることがない。

普段は遅くまで起きている若者たちも、やることがなければ9時前には寝る準備を開始するものだ。

 

しかし、試験中とはいえキャンプでの初日の夜はテンションが上がるもの。

各々のテントからは話し声のようなものが聞こえていた。

 

 

「あーあ、しかしトイレに続いてシャワーまでポイントで買うとかもったいないよな~」

 

 

不満そうに声を上げる山内。

トイレに続きシャワーも水浴びで何とかなる作戦を提唱していたのだが、あえなく却下された。

やはり体調面が考慮されシャワーや石鹸などもポイントで購入。

肌トラブルを避けるためなのか、化粧水や日焼け止めなど試験中よりむしろその後に影響が出そうなものは無償提供なのだが、石鹸など衛生面にかかわるものはポイントで購入しなければならなかった。

 

 

「…先行投資とはいえ、大分ポイントは使ってしまった。明日からはもっと積極的にポイントの獲得を目指さないといけないな」

 

 

既に就寝中の幸村はポツリと言う。

この試験の肝は、とにかく離脱者をださずに1週間を経過させること。

しかし腕時計のセンサーがあるので体調不良などは誤魔化せない。

初めに与えられた300ポイントはほぼ使い切る。節約とポイントを獲得しようやく100ポイント貯められたらいいほうなのかもしれない。

 

 

「キャンプ、甘く見ないほうがいいぜ。2~3日くらいは野宿とかみたいな感じでも平気だけど、雨降ることも考えないといけないし食事の問題を解決しないと。ポイント何て足りないくらいさ」

 

 

今回のキャンプで大活躍の池は言う。

火をおこしたり落ちていたドラム缶を使って簡易的な風呂を作ったりとかなり株を上げた一人だ。

最も、わざとらしくサバイバルがこなしやすいようドラム缶やブロック石なんてものが落ちているのは学園側が用意してくれたからなんだろうが。

 

 

「んなことはどうでもいいんだよ~。寛治が簡易更衣室みたいなものも作るから結局覗きも出来ないし…」

「アホか。そんなことしたら、暴力沙汰以上のペナルティが出るのは目に見えてる。というか、普通に犯罪だぞ」

 

 

ゴロゴロ転がりながら文句を言う山内に呆れたように言う幸村。

 

 

「冗談に決まってるだろ?でもさ、覗くんじゃなくて見えちゃったら文句ないだろ?」

 

 

冗談の割には熱心に仮設トイレなどの反対をしていた気はするが、黙っておいた。

 

 

「言っておくけど、鈴音のを覗くのは許さねえからな」

 

 

ギロッと睨みつける須藤に、山内はニタニタと笑顔で

 

 

「何、健は堀北が好きなの?変わった趣味してんな~」

 

「うるせえな。あれでも可愛いところがある」

 

「へ~! じゃあこのキャンプでいい所見せないとだな!」

 

 

友人の恋を応援する池にチッチッチッと指を左右に振る山内。

 

 

「いい所見せて喜ぶなんて小学生かよ? 俺たちもう高校生だぜ? お前たち、女心分かってないよ」

 

「また偉そうに…そこまで言うならお前は女心ってのが分かってるっていうのか?」

 

「あったり前だろ? 俺が昔、どれだけモテ男だったか知らないだろ?」

 

「言っておくが、犬とか猫はカウントされないぜ? ゴキブリとか蚊ももちろんだ」

 

「バッカ違うっての。なんだそのカテゴライズは。今だって既にいい感じの女子が複数いるってのに…まあいいや。いいか、健。俺はお前を応援してんだ。友達だからな」

 

 

コホン、と少し偉そうな雰囲気を出し座りなおす山内。

 

 

「いいか健。女の子は基本押しに弱い。押して押して押しまくれ。そして隙を見つけたら押し倒せ。基本、やったもん勝ちだからな」

 

「……ちょっと期待して損したぜ。昔そんなこと言ってる本見たことあるぜ。あのな、鈴音が押しに弱いタイプに見えるのかよ?」

 

「う……確かに」

 

 

逆に納得させられる山内。

池も須藤もハーッとため息を吐き

 

 

「綾小路も言ってやれよ。そもそもやったもん勝ちってなんだよ」

 

「いや、一理あるぞ。堀北が押しに強いか弱いかはやってみないと分からない」

 

「ハハハ、私も綾小路ボーイに賛成だねぇ。強い雄として認識させるのが恋愛の第一歩さ」

 

 

まさかの恋バナ参戦の高円寺の援護もあってか、山内の顔が生き返る。

否定派だった須藤や池も顔を見合わせ、

 

 

「で、でもよ…押せって言っても俺はそんな経験ないからどうやっていいか分からないぜ…」

 

「じゃあ、他の女子で練習したらどうだ?」

 

「そんなこと出来るかよ!? 別に他の子と付き合いたいとかないし、俺はそんな軟派じゃねえ」

 

「軟派とか硬派ってことじゃなくてさ、RPGでも初めは弱い敵を倒してレベル上げるだろ? 練習みたいなもんさ。むしろ本当に堀北と付き合えたとして、デートの方法すら分からないんじゃ嫌われるぜ? 恋愛は、素養じゃなく経験なんだよ」

 

 

もっともらしいことを言う山内だが、かなり説得力があったようで須藤は考える。

おそらく何かの本の受け売りなのだろうが、実際そんなもんなんだと思う。

実際に女の子を喜ばせるデートプランはセンスもあるだろうが経験が一番大事なのかもしれない。

 

 

「……まあ、言ってることが正しいのは何となくわかるけどよ…春樹、おまえそこまで言うってことは…もちろん経験あるんだよな?最後まで」

 

「…………へ? ももももも、もちろんあああああるに決まってるだろ!?」

 

 

そう聞かれるだろうことは予測できただろうにあからさまな動揺を見せる山内。

なぜ男は、これほどまでに童貞か非童貞であるかを重要視するのだろうか?

それはきっと、女には分かり得ない世界なのかもしれない。

 

 

 

 

 

 

 

綾小路が朝霧海斗みたいな感じだった時の話 3章3話

 

 

 

 

 

 

―――2日目。

 

 

Dクラスはこれからの方針を明確にした。

まずは自給自足をある程度成立させることとポイントの加算を目指す必要があるため、班を大きく二つに分けることにした。

まずは池を初めとしたサバイバル班。こちらは食料やキャンプの環境をよりよくするために保存食や雨を凌げるよう活動する。

続いて偵察班。これは島内にあるポイント獲得のためのスポットを探しに行くための班だ。

今のところ拠点意外にポイントを貯めるためのスポットは発見できていない。

獲得ポイントを伸ばすためにはスポットは必要不可欠だが、スポットを使うにはリーダーが必要になるためまずは場所を発見しないといけない。

 

かといって他のクラスにリーダーを当てられることがあればマイナスでかなりの失点を強いられるのでスポット巡りは慎重にしないといけない。

リーダーしか使うことが出来ないカードには、リーダーの名前が刻まれている。

別の人間がカード自体を持つことは可能だが、ポイントを獲得するには必ずリーダー本人がスポットに行く必要があるのだ。

 

 

「……できれば、他クラスがどんな感じで動いているのかのチェックもしたいな」

 

 

オレの隣でポツリと幸村が呟く。

この課題は、他のクラスの動きも大事になってくる。

2日目はほとんどのクラスがウチと同じ戦略をとるだろう。

もしかしたら油断している初日にこそスポットを確保して回っているクラスもあったかもしれない。

 

と、いうわけで偵察班はスポットを探すついでに他のクラスがどう動くかをチェックすることになった。

基本3~4人を一組として行動する。

スパイをしている人間がいるのが分かっているので、男女混合でペアを組む作戦に出たDクラス。

オレとしては一人で釣りがした…いや、行動がしたかったのだが、オレと女子生徒二人がペアになった。

名前は…一人は平田の彼女の軽井沢。もう一人が…田中。

 

 

「佐藤よ、佐藤! その間違え方、何気にめちゃくちゃ嫌なんだけど!?」

 

「モノローグを読まないでくれ。とりあえず、よろしくな」

 

 

クラスの中心的な人物でありながら全く絡んだことがなかった二人。

ギャルっぽい雰囲気の二人だが、誰とでも話せるようでクラスのムードメーカー的な役割も果たしている。

 

 

「こちらこそ、よろしくね、綾小路君! 1学期終わるけど、ちゃんと話すのって初めてだよね?」

 

 

嬉しそうに微笑む佐藤の隣でこちらも微笑む軽井沢。

……オレが一番分からない女が、コイツだ。

高円寺も別ベクトルで分からない点があるが、この軽井沢って女は相手に感情を読ませない。

 

オレはある程度相手の感情が分かる。

隠すのが上手なつもりだろう櫛田や堀北、坂柳ですらだ。教師である茶柱ですら例外でない。

唯一ではないが例外は佐竹とか。しかし、学生の身でありながらよくわからない生徒の一人がこの軽井沢だ。

 

発言やら言動は何ら他の女子生徒とは変わらない…が、なんだこの女は?

少しだけ漏れる嫌悪の感情。それがオレに向けられている。

嫌われたり憎まれたりするのは慣れているが…。

 

 

「―――ねえ、聞いてる!?綾小路君!」

 

「ああ、聞いてるぞ。その通りだと思うぞ」

 

「全然聞いてないよね!? あの…く、櫛田さんとは仲いいから特別な関係なの?って聞いてるの!」

 

 

何故か櫛田が出てくる。

正直話は全く聞いてなかったのでなぜそんな流れになったのか分からなかった。

これも、この軽井沢に気を取られていたからだろうか。

 

 

「櫛田…まあ、クラスの中では仲いいほうだな。この間本もくれたし…」

 

「そ、そうなんだ…ほ、本? 何して遊んでるの?」

 

「そうだな…最近は櫛田(がくれた本)から聞いた肛門日光浴にハマってるな」

 

「……へ? こ、肛門??」

 

「そうだ。櫛田(がくれた本)曰く、心身に効果があるらしい。絶賛していたぞ。一緒にやってみるか?」

 

「い、いやいやいや!! 仲良いってかレベル高すぎ…!」

 

 

顔を赤らめながら佐藤。

「いやーそれはないわー」など引いた表情で軽井沢も言うが、やはり俺への警戒心を弱めていない。

だが、歩いている姿を見ても運動能力がそれほど高いわけでもなさそうだ。

運動能力も学力も女子の平均から少し上といった程度。

もちろん隠している可能性もあるが、筋肉の付き方を見てもその可能性は低いだろう。

 

結局、俺たちは新しいスポットを見つけることも他のクラスの動向を探ることもできぬまま、時間は経過したのであった。

 

 

 

 

 

―――2日目 夜

 

 

他のグループは俺たちと違いスポットや他のクラスの動向を知ることに成功していた。

まずBやAはオレたちと同じ動きをしているようだ。

拠点を抑えつつスポットを回りポイントを積み上げる作戦。

しかしCクラスは全てを放棄しバカンスのように遊んでいるらしい。

 

この試験はもらったポイントがマイナスになることはない。

ポイントを初めに使い尽くしてリタイアしたとしても、ポイントが0になるだけで減ることはない。

一見諦めたように見えることの作戦だが、おそらく…

 

 

「他のクラスのリーダーを当てることに全力を尽くすようだな」

 

 

最終日に0だとしても、全てのクラスのリーダーを当てることが出来れば150ポイント。

ついでに相手にマイナス50ポイントプレゼントできるため、効率のいいやり方と言える。

問題はどうやって相手のリーダーを判明させるかだが…

 

 

「スパイを使う…か」

 

 

ウチのクラスにやったように他のクラスに既にスパイがいてもおかしくない。

もちろん隠し通すことも出来るが、スパイがいると分かっているなら逆に罠を仕掛けられる。

罠には多少のポイントを支払う必要があるが…

 

 

「やる価値はある。あとは、堀北がそれを実行するかどうかだな」

 

 

作戦を思いつくとしたら堀北だ。

ポイントが増えるのなら多少口添えをしてもいいが…面倒だな。

そんなことを考えていると、何やら櫛田が手招きをしてきた。

 

 

「綾小路君、何してるの?」

 

「決まってるだろ? 夜釣りをしているんだ」

 

「綾小路君、なんで少し距離を取るの?」

 

「決まってるだろ? オレは少しシャイだからだ」

 

 

周囲に人気はない。

俺が夜釣りをしているからというのもあるが、とても静かな空間だ。

そんな穏やかな空間でなぜこんなにも歪な空気が流れているのかオレには理解できなかった。

 

 

「ねえ綾小路君……誰が肛門日光浴が好きだって言った?」

 

 

フム。

笑顔というものは人に安心感を与えるものだと思っていたが、こんなにも怖いものなのだなと実感する。

やはり、人間は笑顔で近づいてくるものが一番怖いのかもしれない。

 

 

 

とりあえず俺は、この場をどうやったら切り抜けられるのかを考えるのであった。

 

 

 

 

 




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