綾小路が朝霧海斗みたいな感じだった時の話   作:なか115

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第5話

「―――ホント、信じて損した」

 

 

怒りの表情でオレを怒る櫛田。

せっかく釣りを楽しんでいたのに「リーダー探しはどうなった?」なんて無粋なことを聞いてきた。

真面目に考えてみてほしい。釣りをしながら他のクラスのリーダーを探せるか?

応えはノーだ。そんな簡単なことすら分からずに怒る櫛田がオレは分からない。

 

 

「あのさ、綾小路君が自由行動できてるのって私と約束あったからなんだよ?他クラスのリーダーを探すって言ったから手を回したんだよ?」

 

「バカ言え。俺が黙ってただ釣りをしているように見えたか?」

 

 

フーッとため息を吐きながら釣り具を片付ける。

ゆっくり立ち上がるオレの姿に困惑を感じ取りながら、

 

 

「…ただ釣りしてるようにしか見えなかったんだけど…」

 

「やれやれ、過小評価してくれるな。俺はただ釣りをしていたんじゃない。機会を待っていたんだ」

 

「機会を…待っていた?」

 

「そうだ。今日は6日目だろ?そろそろ動くとしようか」

 

 

着いてこいといわんばかりに歩き始めるオレに追従するように歩き始める櫛田。

こういう時、櫛田はあまり自分の疑問を口にせず相手の行動に何か理由があるのかを考察する傾向にあることを知っていた。

 

 

先頭を歩くオレについてくる櫛田…と軽井沢。

3人一組の相手は堀北ではなく、この軽井沢。

堀北はCクラスのスパイ疑惑のある伊吹を見張るらしく、櫛田と平田がメンバーを選んで見張ることにしたらしい。

それとは別に、Dクラスで裏切り疑惑があるものにも目を向けているらしく、今回の課題では攻めよりも守りを重視する方針に固めたようだった。

 

 

Dクラスは途中高円寺が離脱する以外には今のところ大したトラブルはない。

しかし、各クラスともに仕掛けたりポイントの加算を目指すなら最終日である今日に動きを出すだろうとオレは睨んでいる。

 

 

信じてもらえないかもしれないが、オレはあえて釣りをしていたにすぎない。

決して楽しいとか安らぐとか奥が深いとかハマっていたとかではなく、時間の経過を待っていたのだ。

 

 

「……ゴメンね、軽井沢さん。ついてきてもらって」

 

「ううん、大丈夫。仲良い子アレでダウン中だし、見張りもつまんないし。夕方綾小路君に付き合ってもらうことになってるし、調度いいから」

 

 

パタパタと手を振りながら軽井沢。

オレと軽井沢は夕方、船に一緒に行く約束をした。

 

 

昨日の深夜、夜釣りを楽しむオレに一緒に船についてこいと言ってきたのだ。

名目は生理用品の確保と、排泄物の処理。

排泄物の処理もサバイバルの一環らしいのだが、流石にそこ等へんに埋められては困るということで厳重に処理を施したうえで船に運ぶことになっている。

それが毎日夕方、男子の仕事だった。

女子は生理用品の確保、男子は汚物の処理。ここら辺に現代の社会の不公平さが出ている。

 

 

「……と、いう訳。よろしくね、綾小路君」

 

 

ニコリと微笑むその眼の奥は、相変わらず感情を感じ取らせない。

しかし、嫌悪と警戒の色は感じ取れてしまう。

 

 

本来なら、俺は汚物の処理なんて手伝ったりはしない。

基本的には平田が引き受けていた仕事だったから。

俺もこの軽井沢という女が何者なのか興味が出てきていた。

 

 

 

―――アンタさ…○○○○の出身でしょ?

 

 

 

全く、退屈しないということは素晴らしいことだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

綾小路が朝霧海斗みたいな感じだった時の話 3章5話 

 

 

 

 

 

 

 

『―――弥彦。何度も言わせるな』

 

「か、葛城さん!? し、しかしですね…」

 

 

戸惑う弥彦に言葉をかける。

少し離れた場所で、驚いたような引き攣ったような顔でオレを見つめる櫛田の姿。

 

 

少し時間が戻る。

リーダーを探そうにも、そもそも他人のクラスの人間のことなんて知らないオレが他のクラスのリーダーなんて分かるわけがなかった。

「さっきの言葉はなんだったのよ…」と青筋立てて怒りの表情を見せる櫛田が、Dクラス内で集めた情報を教えてくれた。

 

 

まず、Aクラス。

本来は船で会った坂柳がリーダー格なのだが、対立している男がいて、その男の名前が葛城というらしい。

坂柳が今回の課題を休んでいる以上、葛城という男がリーダー格として命令を出しているだろうと櫛田は推測している。

 

 

もっとも、だからといって葛城がカードキーの保持者であるとは限らない。

取り巻きである数名のうちの誰かがリーダーとして登録している可能性もあるため、一か八かで指名をするのはリスクが高すぎるため、もう少し情報を手に入れたいという話だ。

 

 

俺は幸い、葛城という男のことは見たことがあった。

直接話はしていないが、彼がおそらく弥彦と呼ばれる男と会話しているのを見たことがあったため、俺はとある作戦を考えることにした。

 

 

「軽井沢は葛城を含めたメンバーの気を引いてくれないか?俺は弥彦って男に罠をかける。櫛田は弥彦の近くに誰かが近づいてこないよう見張っていてくれ」

 

 

多少渋る軽井沢だったが、結局引き受けることになる。

しかし、6日目になるとAクラスは多少油断していたようだった。

それもそのはず、BとDは守りを固めるためあまり積極的にポイントを取りに行こうと動かない。Cは遊び惚けてて戦線離脱。

この状況下で他クラスの生徒とすれ違うことすら少なくなり油断していたのか、弥彦と二人で行動する葛城を発見することに成功した。

 

 

何らかの方法で葛城と弥彦を分断させることに成功した軽井沢。

葛城のだけに気が付かせるように動いたのだろうか。やはり、アイツは侮れない。

しかしそれほど時間は取れないだろうからオレは音もなく弥彦に接近し声をかけたのだった。

 

 

『―――弥彦。まずいことになった。こっちに来てくれないか?』

 

 

オレは葛城の声で話しかけた。

驚愕に染まる櫛田の顔。オレは、ピッキングの他にも大体の人間の声真似ができる。

一度聞いたことがある声、特徴さえつかめれば造作もないことだった。

 

 

「えっ?葛城さん?さっき向こうに…??」

 

『いいから早くしろ!間に合わなくなってもしらんぞー!!』(小声)

 

「ハ、ハイ!!」

 

 

オレの迫力に押され移動する弥彦。

おっと、あまり近づかれすぎるとさすがにバレるな。

 

 

『止まれ。いいか、弥彦。心して聞け。一度しか言わん。いいか?』

 

「えっ!? は、はい…ゴクリ」

 

『信じられないかもしれないが、迂闊にも脱糞をしてしまったようだ』

 

「え、あ、はあ……。だ、脱糞!?大丈夫なんですか!?」

 

『近づくなといっただろうが!? 飛び散ってもしらんぞー!!』(小声)

 

 

弥彦からは死角になる位置にいるのだが、少しでもこっちに踏み込んでこられたらアウトなので強めに止めた。

幸い弥彦はどうしたらいいのか分からなくなったようでオロオロし始めている。

 

 

『この環境だ。どうやら下痢になってしまったようだ。この葛城、痛恨の極み。…しかし、俺とてここで終わるわけにはいかん。分かるな?』

 

「そ、それは…ハイ。ど、どうしたらいいですか?」

 

『今はとにかく紙を確保しなければならない。だが、手元にはない。弥彦、すまんがお前の持っているカードキーで俺のケツを拭かせてくれないか?』

 

「カ、カードキーでケツを!?だ、ダメですよ葛城さん!」

 

『何度も言わせるな弥彦!俺のケツが乾いても大丈夫だというのか!?』

 

「しし、しかし…カードキーなんかで拭けないかと…そもそも俺のカードキーは葛城さんが持ってるじゃないですか…」

 

 

なるほど。いきなりあたりを引いたかな?『俺の』カードキーね…。

チラリと横を見ると、櫛田からブロックサインが出た。

恐らく葛城が戻ってきたようだ。

 

 

動揺している弥彦からは相変わらず死角となっているため、オレは音もたてずにその場から脱出することにしたのだった。

 

 

 

 

 

* * * * * * * * *

 

 

「――とまあ、こんなもんだな」

 

「なんというか…綾小路君が何でもありとかそれ以前に、葛城君に少し同情しちゃうかも…」

 

 

悲しげな顔をする櫛田と軽井沢。

別に脱糞くらい気にしなくてもいいのに。男なら100や200くらい脱糞する機会はあるはずだから、その思いは杞憂だと思うんだけどな。

 

 

「…とりあえず、さっきの話からすると…葛城君じゃなくて戸塚君がカードキーの所持者ってことであってるのかな?」

 

「まあ間違いないだろう。あそこまで動揺している場面で嘘つけるほど器量があるようには見えなかったしな。とはいえ、カードキーを直接目視したわけじゃないから告発するかどうかはみんなと相談すればいいと思うぞ」

 

 

コクリと頷く櫛田。

軽井沢は葛城を引き付けたうえ、多分姿は見られてはいないと言っていた。

やはりコイツ、ただものじゃない気がする。

 

 

まあ別にオレに何を仕掛けてくれても構わない。

オレが負ける事とかはあり得ないが、楽しませてくれるなら歓迎だ。

 

 

「次は…Bクラス?」

 

「いや、Cクラスにしよう。Bは多分聞き出すのは無理だ」

 

「え、でもさ。Cクラスってもう諦めてるんじゃないの?」

 

 

軽井沢が首を傾げる。

俺の予感が確かなら、Cクラスは諦めてはいない。

そして、Bクラスのリーダーを当てるのは困難なのでスルーした方がいい。

 

何故なら、Bクラスは守りを固めているから。

Bのメンツは一之瀬を除いてみんなが3~4人のペアを組んで行動していた。

しかもCクラスのスパイの可能性が高い金田を警戒してガードが固くなっている。

ダミーの情報を掴まれる恐れもあるし、何より一之瀬が不気味なのでBクラスはスルーすべきなんだろう。

 

 

「Cクラスは龍園君がリーダー格だと思う。対抗馬はいないから、みんな彼の戦略の元動いているはず」

 

 

龍園は前の事件で話しかけられたことがあった。

つまり、彼の声も再現が可能ということ。

Cクラスの拠点は確かビーチだったな。おそらく誰かが潜んでいるはず。

多少戦略を練ったのだが、特にそれも必要ないくらいCクラスのリーダーは簡単につかむことが出来た。

では、ダイジェストでどうぞ。

 

 

 

 

~ダイジェスト~

 

 

 

「……俺がやるんだ。前回迷惑をかけたんだ。絶対に汚名挽回してみせる」

 

『ククク…石崎ィ。気合入ってるじゃねえか』

 

「え!?龍園さん!?船に戻ったんじゃあ…?」

 

『ククク…お前が心配で戻ってきたんだァ。ちなみに汚名は返上、挽回は名誉だァ』

 

「龍園さん…ありがとうございます。でも俺やるっすよ!あと一日ここに誰にも見つからずに潜んでいればいいなんて楽勝じゃないですか!!Dクラスとの一件…俺のミスで龍園さんの顔に泥塗っちまった…だから、今度こそオレ、力になりてえんです!!」

 

『ククク…流石俺の右腕だァ…。へまこいて、カードキーなくしたりすんなよ?』

 

「心配しないで下さい!ちゃんとポケットに入ってます!あとは7日目の点呼にも参加せず、終了のタイミングで俺一人行けばよかったですよね!?これくらい俺、やりますよ!今夜は火も付けないし灯りも付けない!誰にも見つからないように潜みます」

 

『ククク…頼りにしてるぜェ…。さて俺は船に戻るぜェ…』

 

「ハイ!アルベルトにも心配すんなって伝えてください!」

 

 

 

~ダイジェスト終わり~

 

 

前回の事件で見知った相手だったから、名前も声も知っていて助かった。

しかし、こういった課題が出るなら面倒だが学校のメンツの名前と顔、声くらい記憶しないといけないかもしれないな。

 

 

ビーチ近くの洞窟に潜んでいたようだが、オレでなくても潜んでいることは分かった。

というより、暗闇の中でブツブツ呟いてれば声も反響するし誰かいるくらいすぐにバレそうだった。

 

 

暗闇なことが幸いして、特に石崎には違和感を持たれないように情報を収集することが出来た。

てっきり龍園がリーダーで誰かと待っていると思ったが…アテが外れたな。

しかし、逆にアッサリとリーダーが割れた。これでCクラスのリーダーは石崎で間違いないだろう。

 

 

そんな事をしている間に、徐々に日も暮れてきそうだった。

俺は軽井沢との約束通り、拠点に戻って汚物を船に運ぶ。軽井沢は生理用品を取りに行く。

この道の途中で、この女の真の狙いでも分かればいいが…分からなくてもそれはそれでいいか。

 

 

「……てかさ、龍園君ってあんな口調だったっけ?」

 

 

ジト目で突っ込む櫛田の発言をオレはスルーした。

龍園とはほとんど話していないので、声はともかく口調を真似することは出来なかった。

でも、石崎は信じていたので多分あんな話し方で間違いなかった。

 

 

俺の会心の働きに、櫛田は心なしか満足そうだった。

 

 

 

 

 

 

Side 龍園 翔

 

 

 

この課題が発表され拠点であるビーチに着いた瞬間、俺は作戦を展開した。

それは、ポイントがマイナスにはならないことを利用した作戦。

初日に一気にポイントを使い切る。派手に遊び、船に戻るやつを増やし、諦めたと見せる作戦。

 

この作戦の肝は、他クラスのリーダーを当てることにあった。

幸いなことに、各クラスに一人ずつ仕込みを終えた段階でこの課題が発表された。

 

 

俺が送り込んだスパイはフェイク。クラスを追い出された、と言って保護はしてもらえるだろうが、DクラスはともかくAやBは警戒してくる。

しかし、送り込んだスパイじゃなく別のスパイが既にもぐりこんでいることにまだどこのクラスも気が付いていないハズだった。

 

 

俺が立てた戦略はただ一つ。全てのクラスのリーダーを当てること。

しかし、予想外の言葉を発する男がいた。

 

 

『――龍園さん、俺をリーダーにしてください』

 

 

リーダーは6日目以降身を伏せ姿を悟られないよう動かねばならない。

石崎では荷が重い。これは俺がやる…そう思っていた。

 

 

だが、結果として俺は石崎にリーダーを託すことにした。

その狙いはただ一つ。

――坂柳に会うため。

 

 

アイツは早々に課題を辞退した。

その後は、基本的には自室もしくは保健室で課題を受けていることを確認した。

身体が悪いから保健室にいるのか何なのかは分からない。

ただ、夕方になると保健室の先生やスタッフは生理用品の配布や汚物の処理に受け取りなどで一旦船の外に出る。

 

 

つまり、誰にも邪魔されずに坂柳に会うことが出来る。

別にどうこうしようと思ってるわけじゃない。

ただ、アイツは常にだれかを隣に従え行動している。

そんなアイツが一人でいてくれるなんて、絶好のチャンスと言える。

 

 

丁寧にあいさつを、しないとな…。

アルベルトを引き連れ、保健室を開ける。

どんな顔をする?青ざめるか?おびえるか?それとも……

 

 

「――――チッ、学生か。思ったより船の中に多くいたのだな。計画というものは、予定通りには進まない。そう思わないか?」

 

 

俺の予想に反して。

目の前にいたのは、頬に傷のある屈強な男とスーツの女。

男はグッタリとした様子の坂柳を肩に担いでいる。

 

 

これも課題…とは思わない。

何故ならば、今まで感じたこともない殺気を、目の前の男が纏っていたからだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




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