綾小路が朝霧海斗みたいな感じだった時の話   作:なか115

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第6話

それなりに修羅場はくぐってきている。

そんな偉そうな言葉を言うつもりはないが、俺は高校に入る前から喧嘩に明け暮れていた。

俺は誰にも負けなかった。それは、喧嘩の実力とかじゃない。

俺は最後に勝っていればそれでいいと思っていた。

 

 

中学時代、単純な喧嘩なら俺より強いやつはいた。

この学校に入学しても俺より喧嘩強い奴はもちろんいた。例えば今隣にいるアルベルトがそうだ。

しかし、そのアルベルトも今は俺に従う道を選んでいる。

そう、俺は最後には必ず勝つ。相手が俺より上だろうが強かろうが関係ない。どんなことをしても最後には勝っているのだ。

 

 

だが、こんなことは初めてだった。

目の前の頬に傷のある屈強な男と相対したとき、この男に『最後には勝てている自分』を想像することが出来なかった。

相手を威圧するわけでもない。ただ会話をしただけで思わず尻もちをつきそうになるただならぬ雰囲気。

俺は思わず一歩後ずさりをした。

 

 

――が、それもその一歩だけ。

ここで状況を整理した。

今現在、ただならぬことが発生している。肩に担がれた坂柳が生きてるのかは分からないが奴を連れ去ろうとしているのは間違いがなかった。

多分俺がこの男に喧嘩で勝つ見込みはないのかもしれない。

だが、俺だけで勝つ必要はない。アルベルトのパワーならコイツを抑えることくらいは出来るかもしれない。

 

 

後ろ手でサインを送る。

『左の奴をやれ』そんな簡単なサイン。

アルベルトは俺のサインに頷くと、ボクシングの構えのように腕を上げ、トン、トン、とステップを踏みながらスーツの女に向かって行った。

スーツの女からは特別何かを感じることはない。そこまでガタイがあるわけでもないし、仮に武道の心得があるとしてもアルベルトなら勝てると見込んだ。

後はこの傷の男が助けに向かわないように俺が引き付ければ……と思ったが、傷の男はスーツの女を助けに行く素振りすら見せない。

 

 

「……どうした? いきなり戦闘モードかと思いきや随分と大人しいじゃないか」

 

 

傷の男は試すように言う。

この男に勝つ必要はない。人が戻ってくれば勝ちだ。

今一番必要なのは時間。だから一番するべきことは時間稼ぎなのだが…

 

 

「――フッ!!」

 

 

ジャージのポケットに隠し持っていた丸めた布を傷の男に投げつける。

突然投げつけたにも関わらず、傷の男は自由な方な手で丸めた布を軽く払う。

しかし、その布の中には砂浜の砂と料理の時に使った胡椒が少々入っている。

坂柳に嫌がらせのために使おうと思っていた目つぶしだ。払ったことによって一瞬だが視界が遮られる。

 

 

「オラァッ!!」

 

 

間合いをつめ、回し蹴りを傷の男の側頭部めがけ振り上げる。

しかし傷の男は坂柳を担いでいるとは思わせないほど軽やかにバックステップで俺のハイキックを余裕で避ける。そしてどこか嬉しそうな顔で、

 

 

「……ホウ。てっきり時間稼ぎをしてくると思ったが…やるな。状況判断がいい。噂通り、この学校の生徒は優秀なようだな。それとも、キミが優秀なのかな?」

 

「チッ……!!」

 

 

確かに最善は時間稼ぎ。しかし、坂柳を担いでいる今こそが傷の男をどうにかする最大のチャンスだった。

もし坂柳を床におろしたり、最悪武器として使われ放り投げられでもしたらあっという間に倒されてしまう恐れがあった。

出来ればこの状況の説明が欲しいし、何が狙いなのかも知りたい。しかしそれは、コイツ等をどうにかした後でも聞くことができる。

 

 

「……だが、一つ判断ミスをしたな。二人がかりでこの俺を抑える、が正解だったな」

 

「――なに?」

 

 

傷の男がそう言うやいなや、ガチャンと派手な音がした。

音がした方を見ると、薬品などが入っている棚が倒れその下には倒れたアルベルトの姿。

 

 

「――アルベルト!?」

 

 

アルベルトは俺の問いかけに応えることはない。ピクリとも身体を動かさずカラン、と薬品が転がるのみ。

スーツの女はパンパン、と手を払いコチラをチラリとみる。

アルベルトがやられた? こんな女に? どうやって?

 

 

混乱する思考を強引に止める。

いまするべきことはこの状況を打破すること。

アルベルトの安否も気になるが、今の状況は最悪。逆にこちらが2対1。

しかし、ここは保健室。色々な薬品がある。何かまだ、状況の打破が出来るはずだ。

チラリと周囲に目線を配らせ……気が付いたら、傷の男が目の前にいた。

 

 

「ピンチに陥ってから状況の打開を考えるようでは遅いな」

 

 

遅いのか、それとも早いのかすら分からぬ抜き足。

何をされたのかすら分からない。気が付いたら俺は意識を失ったのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

綾小路が朝霧海斗みたいな感じだった時の話 3章6話 

 

 

 

 

 

 

「……オイ、これはどういう状況だ?」

 

 

目的地である保健室でガチャンガチャンと破砕音がするので恐る恐る開けてみると…倒れている男子生徒が二人、見たこともないスーツの女と女子生徒を抱えた傷のある男がいるではないか。

 

 

「どこが恐る恐る開けたのよ!? 何も気にせずガチャッと開けてたじゃない!!」

 

「個人の感覚の差だな。というかコレ、お前が仕組んだんじゃないのか?」

 

「仕組める訳ないでしょ!? どうやって連絡とるのよ!?」

 

 

生理用品を取りに来たのだが、船近くの森で火事があったとかで先生たちが消火活動に当たることになり、仕方なく自分たちで保健室に来たらこれだ。

この軽井沢が仕組んだことなのかと思いきや…そうでもないのか? この状況でもこの女の考えていることが分からない。

 

 

「やれやれ、これ以上目撃者が増えるのは…まあ構わんが流石にそろそろ面倒だな。オイ、さっさと処分しろ。脱出するぞ」

 

 

傷の男がめんどくさそうにクイッと顎で指示を出す。

スーツの女はコクンと頷くと、無防備に向かって歩いてきて…オレの前腕を掴んだ。

 

 

「……あん?」

 

 

細い腕だった。

しかし熱を帯びないその手の握る力は考えられないほど強い。

前腕の骨が砕けるか?と思ったその時、女は無造作に俺を振り回した。

まるで子供がおもちゃをぶんぶん振り回すような感じで俺を振り回し――放り投げた。

 

 

「――綾小路君ッ!?」

 

 

軽井沢が悲鳴を上げるが、受け身を取ることすら許されず、俺は派手に棚に打ち付けられた。

 

 

「――随分と派手にやったな。力加減が効かないのか?」

 

 

傷の男が呟く。

チラリと軽井沢を見るが…興味をなくしたのか、

 

 

「予定より時間を使った。もう行くぞ」

 

 

と言い保健室を出ようとした。――が、

 

 

「……いやいや、もうちょっと遊んで行けよ」

 

 

フラフラと立ち上がる龍園が傷の男の前に立ちはだかる。

 

 

「もう目を覚ましたのか? …タフな男だな。面白い」

 

「…あいにく俺は気分が最悪で何も面白くねえ…。オイ、軽井沢。さっさと誰か呼んで来い」

 

「呼んで来いって言われても…こんな状況じゃ無理でしょ…」

 

 

スタスタと出入り口を塞ぐようにスーツの女。

後ずさりをする軽井沢。

軽井沢は震えていて逃げられるような状況ではない。スーツの女の手がゆっくりと軽井沢の腕を掴もうとした時、

 

 

「―――オレとも遊んでくれないか?」

 

 

俺の左手がスーツの女の前腕部分を掴んでいた。

 

 

「あ、綾小路君!? 大丈夫なの?」

 

「大丈夫に見えるか? 割れたガラスが頭に突き刺さって血まみれだわ腕なんか脱臼してるっぽいは大丈夫要素0だろこれ」

 

「た、たしかに大丈夫そうに見えない…」

 

 

頭から流れる血を拭いもせずに俺は言う。

ぶん投げられた際に右肩が外れたのか、今は動かない。

左手に力を込める。並の人間ならそのまま折れてもおかしくない力で握るが…ビクともしない。

しかし女はわずかに顔をしかめると、俺の手を乱暴に振り払い前蹴りを放つ。

 

 

大したキレはない。素人のような蹴りだが、受けた左手が折れそうになるほどの威力がある。

フワッと俺の身体が宙に浮くが、1メートルほど後ろに下がるくらいで着地に成功した。

 

 

「そっちの男は分かるが…なんとも変な女だな、おまえ。格闘技経験なさそうな素人同然の蹴りでここまでの威力は受けたことがない」

 

 

蹴りを受けた左手が痺れる。

ここまでヘンテコな相手に片腕は流石に不利なのでポコンと脱臼を整復しておく。

 

 

「…おまえも十分変な男だと認識する」

 

「へえ…話せるのか。てっきり話せないのかと思った――ぜ!!」

 

 

スーツの女が反応する間もなく一瞬の内に接近する。

コイツの力は確かにすごいものがあるが、肝心の戦闘技術は大したことがない。

あっという間に接近されたことに驚いたのか、無造作に腕を横なぎに振り回すスーツの女。

そんな不用意な一撃を下に潜り込むように躱し渾身の一撃を腹部に叩き込む。

 

 

「―――ッ!!?」

 

 

相手が女だろうが子供だろうがオレには関係ない。

敵であればただ叩き潰すのみ。

常人ならその一撃で下手すりゃ死すらあるほどの破壊力を込めたのだが、スーツの女は顔色一つ変えることなく再び腕を横なぎに振り回す。

オレはその一撃を螺旋を描くように受け流す。そしてバランスを崩したスーツの女の顔面目掛け回し蹴りを叩き込んだ。

 

 

「……なんつうか、俺が言っていいのか分かんねえが容赦ねえな…」

 

「俺くらいジェントルになれば多少の粗相は許される」

 

 

意外にも龍園は気にするのか、変な突っ込みを入れてきたがこれほどの一撃を加えたにもかかわらず倒れもしない相手を見てゴクリと唾を飲み込んだ。

 

 

「見ての通り、ビクともしない。コイツは俺が遊んでるからとりあえず坂柳を任せていいか?」

 

「……冗談キツイぜ。こんな男見たことない」

 

「まあ一人じゃ無理か。オイ、軽井沢。お前たちでこの場をなんとかしろ」

 

「な、なんとかしろって言ったって…」

 

 

オレは龍園の目を見た。

オレが来る前にやられたのだろうが、ふらつくその身体には力がない。

しかしオレの意図を読み取ったかどうかは定かではないが、

 

 

「――軽井沢! おまえは援護だ。隙をみてこれでアイツを撃て!!」

 

 

黒い筒状の何かを軽井沢に放り投げると、痛む身体を推して傷の男に接近する。

2度、3度と蹴りを繰り出すものの当たらない。

しかし、傷の男は今度は龍園を倒せないでいた。理由は簡単。オレを警戒しているから。

オレはスーツの女と相対しながらもいつでも傷の男に飛び掛かれるよう睨みを効かせ時にフェイントを入れる。

 

 

傷の男はかなりの格闘技術があるようで、そのせいか逆にオレのわずかな動きに反応してしまう。

更には坂柳を肩に担ぎながら相手にいしてるのもあって後手に回ってしまう。

しかしそれでも龍園との力の差があったようでついに傷の男の蹴りが龍園の腹部に命中する。

が、その瞬間傷の男の背後から軽井沢が龍園からもらった黒い筒を突き出して突進してきた。

 

 

「―――――ッ!!?」

 

 

オレすらも見失うレベルで気配を殺し突っ込んできた軽井沢の突進を、何とか身を捻り躱しその手に持った黒い筒を蹴り飛ばした。

勝った、そう思ったのだろうか? 初めてに近い油断をずっと待っていた女がついに行動を起こす。

 

 

「―――――!!!!」

 

 

バチィッと激しい音と共に声にならない悲鳴を上げる傷の男。

その衝撃で肩に担がれた坂柳が飛ばされ、地面にたたきつけられる。

その手には小型のスタンガンが握られている。

 

 

「――相馬っ!?」

 

「よそ見してもいいのか?」

 

 

スーツの女が傷の男に気をかけた瞬間、俺は相手の肘を極め反対方向にへし折った。

ガキンッと変な音とともにスーツの女の腕があらぬ方向に捻じ曲がるが…やはり女は顔色一つ変えず傷の男の元に駆け寄った。

 

 

「……やられたな。まさか高校生にここまでやられるとは…おまえもその腕、メンテナンスが必要そうだな」

 

 

電撃が効いているのかいないのかは分からないがスッと立ち上がる傷の男。

そしておもむろに腕時計を見たかと思うと、

 

 

「――ここまでだな。計画通りにはいかなかったが…引き上げるぞ」

 

「ちょっと……待って…もらっていいですか…。なんで…私を狙ったのか…伺ってませんから…」

 

 

床に叩きつけられた身体が痛むのか、顔を歪めながら問いかける坂柳。

傷の男は腕時計に向けて何かを呟くと、

 

 

「……今は答える必要はない。だが、いずれ知ることになる。その時は…高校生。お前たちも相手になるか?」

 

「……まっぴらゴメンだぜ…」

 

「個人的にはお前とは別の形で会いたいものだ。龍園といったな。覚えておこう。もう一人…お前の名は?」

 

「俺の名は…昆布豆豆太郎だ」

 

「さっき綾小路と呼ばれてなかったか? ふざけた男だが…その顔…覚えておく」

 

 

チラリとこっちをみて…保健室から姿を消す傷の男とスーツの女。

オレ達は誰も追おうとはしなかった。

流石に血を流しすぎたのか、力が抜けた俺は椅子に倒れこむ。

 

 

チラリと軽井沢の顔を見る。

今回協力的だったコイツが、アイツらの味方なのか関係ないのかは分からない。

だがこいつは、俺ですら違和感程度にしか察知していなかった襲撃が分かっていたような雰囲気がある。

何故ならば、オレをこの場にワザワザ連れてきたのだから。

 

 

傷の男に蹴り上げられた手を擦りながら、ガタガタと震える軽井沢。

その姿が演技なのか、本心なのか。オレに分かる術はなかった。

 

 

 

 

 

 

 

end

 

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