綾小路が朝霧海斗みたいな感じだった時の話   作:なか115

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エピローグ

『ク・シ・ダ!! ク・シ・ダ!!』

 

 

男たちの野太い声が響く。

サバイバルを終えた我らがDクラスは、ささやかながら打ち上げを行うことになった。

この合宿…勝者は我らがDクラスであった。

 

 

最終日の結果発表、オレや軽井沢は火事が原因で負傷したという扱いになり、学校側の落ち度ということになって点呼や離脱での減点処分はないものとされた。

オレは肩の脱臼に加え頭部の裂傷が思ったより傷が深く包帯グルグル巻き。

軽井沢は傷の男から手を蹴られた際に何と左腕にヒビが入っていたという。どうりで涙目でガタガタしてたと思ったが、能力はさておき身体は頑丈ではないようだ。

 

 

自分と交代したことが原因と思っている佐藤が申し訳なさそうに軽井沢のお世話をする。

佐藤に落ち度は全くないのだが、真実を話すことも出来ず苦笑いをする軽井沢。

そんなオレに、堀北はジュースを片手に寄ってくる。

 

 

「……あなたでも、怪我することあるのね」

 

 

ハイ、と言葉とともにジュースを差し出す堀北。

その目は、心配してくれているようにも取れるし、喜びをかみしめているようにも見える。

 

 

「オレはジュースよりコーヒーがいいんだけど」

 

「文句言わないの。取ってきてあげただけでも感謝してほしいわ」

 

 

クイッとジュースに口をつける堀北。

甘ったるいジュースを飲む気にはなれず、机に置く。

 

 

「櫛田さんの作戦、見事だったわね。初めに話を聞いた時はどうかと思ったけど…アナタの入れ知恵よね?」

 

「…? なんのことか分からん。まあ、確かに代表者捜しは付き合ったがな」

 

「まあ、どちらにせよ彼女の功績ね。伊吹さんをはじめ、スパイが山内君だってこともあぶりだした。見事よね」

 

 

櫛田はスパイがいることを逆手に取り、相手に虚偽の内容を報告させることに成功した。

リーダーが誰かを錯覚させる方法。

「あいつがリーダーだ」と聞くよりも、見る方が確実。

それは、カードを偽造すること。もちろん偽造したカードでポイントを獲得することはできないが、目くらましとして持つことは可能。

この学園でポイントで買えないものはない。今回のような特別試験中は難しいかもと思ったが、キチンと買えた。仮に無理なら似たものを偽造するだけだが。

 

 

「おそらく彼女はあれだけの警戒をかいくぐって手に入れた秘密だから本物と思ったことでしょうね」

 

 

悪そうな顔をしてジュースを飲み干す堀北。

伊吹とは別行動で誰がリーダーか探りを入れている男子生徒も特定。わざと偽造カードを見させることにより、山内は自身がスパイであることを確定させてしまった。

 

 

「何かバツでも与えるのか?」

 

「……正直迷っている。今のまま泳がせてもいいとは思うけど…Cクラスが再び彼をスパイとして使う可能性は低いでしょうし。何かの時のために、詰めるのは取っておこうかって櫛田さんに言われて。私としては、早めに注意をして反省させるべきと思うけど」

 

 

弱みを握ることにしたらしい。実に櫛田らしい考えで好感を抱く。

 

 

「――――で、この宗教みたいな櫛田コールはなんなんだ?」

 

「ああ、私たち、守ることに専念してたでしょ? 相手の攻撃を避け無難に点を取る。私もそう思ったし、皆にもそう説明した。でも、櫛田さんがどこからともなく情報を仕入れ、AとCのリーダーを当てたのよ。おかげで私たちはトップ。Cクラスは0点。憎きCクラスを転落させたことで彼女はDクラスのリーダーどころか英雄よ」

 

 

どうやら櫛田は俺が与えた戦略、情報を全て実行したらしい。

俺が与えた情報も間違いない、とは言えず罠に嵌めるというのも演技力が必要なので大変だっただろうが、無事やり遂げたらしい。頭の良し悪しはともかく、彼女は優秀のようだ。

 

壇上で櫛田コールに応え控えめに手を振る櫛田だが、チヤホヤされている現状に喜びが隠しきれていない。

 

 

ブーンと携帯が震える。

見覚えのないアドレスからメールが届いている。

 

 

「…………」

 

 

チラリと軽井沢を見る。

偶然か、それともコチラを見ていたのか分からないが目が合う。

軽く目で合図を送り、俺は「オシッコ」と堀北に告げ打ち上げ会場を後にしたのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

*******************

 

「さて、まず今回の件…お礼を言わせてください。助かりました。まさかのメンバーに助けられ、正直驚いています」

 

 

ペコリと頭を下げる坂柳。

保健室に集まったオレと軽井沢、龍園とアルベルトに向かい頭を下げる。

このメンツで保健室…と思われるかもしれないが、俺たち全員包帯グルグル巻きの怪我人ぞろいなのでそこまで違和感はないだろう。

 

 

坂柳も龍園もアルベルトも、あちこちに痛々しい包帯が巻いてあった。

 

 

「……そんな礼なんてどうでもいい。あいつ等が何者か…教えてもらおうか」

 

 

ドカッと椅子に腰を掛ける龍園。

オレや軽井沢も気になるところなので続けて頷く。

オレに届いたメールの内容は『今回の事件について話があるので、保健室に来てください』だった。

なんでオレのアドレスを知っているのかは今は問わないが、アイツらが何者なのかオレにも興味があった。

 

 

「彼らが何者で何が目的なのか…今は分かりません。ただ、明確に狙われたのは私でしょう。そしてそれは、私がこの高度育成高校理事長の娘であるからと思われます」

 

「……なるほど。理事長の娘ねえ…」

 

「決して私を贔屓させるなどはないということは約束できます。でもだからこそ、皆さんが知り得ない情報を私は持っています」

 

 

ポツリと坂柳が話は始める。

オレが関わったストーカー事件を初め、最近外部の人間が何らかの方法でこの街に侵入してきていると。

厳しい監視があるこの街に侵入することは不可能とは言わないが容易でない。

しかしそれが原因なのか分からないが、この街に相応しくない凶器なども入り込んでいるとのこと。

 

 

「私が持っていたスタンガンもその一種。念のため警戒して持っていましたが…使うことになるとは思いませんでした」

 

「なるほどな。俺が軽井沢に渡したような偽物じゃなく、本物だったってことか。もっとも、持ってなかったら普通に負けていただろうがな」

 

 

チッと舌打ちをする龍園。

軽井沢に託した黒い筒はただのハッタリだったらしい。

軽井沢も持った瞬間それに気が付いたらしいが、ないよりマシと思ってそれを武器に突っ込んだらしい。

傷の男が警戒してくれたから良かったものの、バレてたら無駄な特攻に終わっただろう。

 

 

「調査の続きはこの船が学園に戻ってからになります。巻き込んだ以上、最大限出来るお話はお伝えさせていただきます」

 

「……聞かせてもらえるとは思ってなかったから、それは助かるな。ただでさえ試験に負けたのにそっちが気にならねえくらいの出来事が起きたんだ。学校側にポイントの請求をしたいくらいだぜ」

 

 

結局、今は相手がだれで何が目的なのかはハッキリしなかった。

しかし事実として、相手はコチラの行動をある程度予測していたように感じる。

Cクラスがしたように、オレ達生徒や教職員・スタッフの中に誰か内通者でもいるのだろうか…。

チラリと軽井沢を見る。

話についてきているのかいないのか、キョトンとした顔でオレを見つめる。

 

 

「……俺の気になることは…綾小路。おまえだ。おまえ、何者だ?」

 

「オレか? 何者と言われても…ただのイケメンだ、としか答えられん」

 

「ふざけんな! 俺の目を侮るんじゃねえ!」

 

「そうです! ただのイケメンなんかではありません! アナタをイケメンなんて言葉で表すことは…そう! ゴッドと言えばよろしいでしょうか?」

 

「…………。ア、アルベルトを軽々と倒した相手をも倒す実力…あんな化け物を相手に立ち回る能力…普通じゃ考えられない」

 

「それは神だからです。あの常軌を逸した相手ですらねじ伏せるあの強さ…神以外なんと言えばよろしいでしょう?」

 

「…………坂柳。おまえ、そんなキャラだったか? 頭いてえ…」

 

「私は私です。もし彼のことが知りたいのなら、私の家にアルバムがありますので詳しく教えましょう。5~6時間ほどかかりまので、お時間余裕をもっていらしてください」

 

「なぜおまえの家に当然のようにオレのアルバムがある?」

 

 

オレの問いに坂柳は何故か嬉しそうに微笑んだ。

毒気を抜かれたのか、龍園もその後は特に何もオレに聞いてくることはなく、少し雑談をしたのち各々のクラスへ解散となった。

 

 

 

 

 

…………。

 

アルベルトを倒したというあのスーツの女。

アイツは何者だったのだろうか?

あんな相手戦ったこともない。素人のような動きに体格に似合わぬ力。

アルベルトという男が鍛えていて、ある程度格闘技の経験があることは見て取れた。

そんな奴でも歯が立たないくらいの強さ。……まあ、考えても仕方ないのかもしれない。

 

 

クラスへの帰り道、俺は船上に出る。

付いてくる軽井沢。オレは、誰よりコイツに興味がある。

 

 

「聞かせてくれるか? オレをワザワザあの場に連れて行った理由」

 

「――疑うよね? 言っておくけど、私は知らなかったしアイツらと関わりなんてない。それは本当」

 

「……確かに、アイツらがオレに用があるようには見えなかったし、オレの事を知っているようにも見えなかった。だからこそもう一度問う。なぜオレをあそこに連れて行った?」

 

 

オレの問いに、軽井沢は手すりに手をかけ遠くの海を見つめながら答える。

 

 

「……あんたほど強くない私が、あの場所で生きていくにはどうしたらいいと思う?」

 

「……誰かの庇護を受ける…か?」

 

「それが一番よね。でも、あの場所ではずっと誰かに護られるなんてありえない。いつどこの危険が潜んでるか分かんないんだもん。……だから私は、自然にどこに行ったら危険がありそうで、どうしたら助かるのかが何となく分かるようになった」

 

「道理かもしれんな。少なくともオレには身につかない能力…か」

 

「そうよ。私が自分を護るために身に着けた能力。誰が強いか、弱いか。誰に頼れば生き延びることができるのか。そんな能力」

 

 

自嘲気味に笑う軽井沢。

 

 

「アンタが強いんじゃないかってのはすぐに分かった。もちろんどのくらいとかは分からないけど…でも、私を護ってくれるタイプには感じられなかった。苦手な人に似てたってのもあったしね」

 

 

だから平田君と付き合った…いや、付き合ったフリをしているといった。

自分を護るためにはどう動いたらいいか。自分を護る存在が誰なのかを探し当てたということだろう。

 

 

「今度はこっちが聞く番。どうしてあの女に接近してたの?」

 

「……あの女? 誰のことを指している?」

 

「決まってるじゃん。一之瀬帆波」

 

「……一之瀬? どうして一之瀬が出てくる?」

 

「は? 本気で言ってる? それとも、またふざけてる? だって――」

 

 

軽井沢がその言葉を発する前に。

オレの頭の中で色々なピースがハマっていくような感覚があった。

そして気付く。彼女が何者であるのかという事に。

 

 

「――――あの女、禁止区域の出身でしょ?」

 

 

 

 

 

 

 

エピローグ end

 




よう実本編を待っている間に書いた作品でしたが…本編が面白すぎて書く内容を変えたくなってきました。
暁の護衛を中心にしたプロットだったのに…
初めのプロット通りに進むか方向転換するか書き直すか…迷いますね
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