綾小路が朝霧海斗みたいな感じだった時の話   作:なか115

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第4章
第1話


『――正直さ、やっぱ俺たちがAクラスとかって無理だよな。今回の課題でやっぱ総合的なスペック違えなーって思ったもん』

 

『分かる。平田とか幸村とかいるけど、勉強できるだけの真面目君で勝ち上がっていくのって無理だよな』

 

『Cクラス卑怯だし、最後は正義が勝つ!みたいに思ってたけど…やっぱ龍園凄えよ。俺たちがサバイバルで勝てたのだって正直櫛田ちゃんが頑張ってくれただけだし…』

 

『でもさ、あれも偶々だったのかもな。あの後コテンパンにされたし。詰まったポイント差が一瞬でまた開いたぜ』

 

『櫛田王朝も長くなかったよな~』

 

 

耳元からイヤホンを外し、私は停止の■ボタンを押した。

 

 

「グギギギギギ……あのザコどもが…自分たちは何もできないくせに……」

 

 

うっかり握りつぶしそうになったボイスレコーダーを乱暴にベットに投げつける。

怒りとストレスで壁を殴ろうかと思ったが…やめた。

昔のように形に残るような証拠は残さない。溜めたストレスは、別の場所で吐き出すのだ。

 

 

状況を整理しよう。

まず、初の課題であるサバイバルは私の活躍もありDクラスの完全勝利で幕を閉じた。

気分よく帰路に就こうとした次の瞬間、立て続けに課題が発令。

課題が立て続けに行われるという事態を想定していなかった私は混乱。急遽堀北や平田君たちと作戦を練ったものの…龍園君率いるCクラスに惨敗。

 

 

それどころかBにもAにもズタズタにやられてしまい、サバイバルの貯金は全て吐き出してしまった。

これは盗聴していたクラスメイト達の話していた通り、事実であった。

 

 

宗教のような盛り上がりを見せていた私への称賛の声は無に帰し、今ではあきらめの声が聞こえてくる始末。

私がメインでやられたから積極的な情報を集めることが出来なかったため、とりあえずクラスの声を盗聴したらこの始末…悔しさとストレスで頭がおかしくなりそうだ。

 

 

「しかもあんな包帯まみれのボロボロの男にまけるなんて…!」

 

 

サバイバルの途中、火事があったらしく数名が怪我をしたと聞いた。

Aクラスの坂柳さんやウチのクラスの綾小路君に軽井沢さん、そしてCクラスの龍園君とアルベルト君。

学校側の想定外の怪我という事でポイントの減額はナシ。そして「シンキング」試験も受けなくてもペナルティはナシという話だったのに…龍園君は普通に出席した。

 

 

見るからにボロボロ、足も引きずるような大怪我だったのに、蓋を開けてみたら手負いの相手に惨敗。そりゃコチラの評価も下がる。

愚民というものはいい時は持ち上げ、ダメな時はすぐに手のひらを返し誰かに何かをしてほしいと求める。

最早私のストレスは、その愚民どもにチヤホヤと持ち上げられないと気が済まないレベルに達している。

 

 

「悔しいけど…嫌だけど…やっぱりアイツを利用しないとこの先勝てないよね…」

 

 

写真を見る。

「シンキング」の試験、龍園君以外は怪我で欠席をした。

怪我なら仕方がないと思う。しかし、怪我をしているはずの男が船上で海釣りを楽しんでいいのだろうか?

写真の男は、ご機嫌に魚を釣り上げ、魚拓を取ろうとしていたのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

綾小路が朝霧海斗みたいな感じだった時の話 4章

 

 

 

 

 

 

 

「そろそろ、俺たちも決着をつけるとするか…」

 

 

俺の隣でコーヒーを片手に、静かに男はそう告げた。

別に一緒に居たわけではない。公園で静かに読書をしていたら特に断りもなく隣に腰かけてきたいきなりこの発言だ。

きっとこの男は、少し頭がおかしいのかもしれない。

 

 

「隣いいか、と聞いただろ? そしてお前も「構わん」と答えただろう」

 

「そうだったか? みんな当たり前のようにモノローグを読むのをやめてほしい」

 

「なら、口に出さないことだな。それで、返答は?」

 

 

眼鏡をクイッと持ち上げるキザな仕草。しかしそれが嫌味にも似合わなくも見えなることはない。

 

 

「返答と言われても…そろそろも何か競ってたか? というか決着って何だよ」

 

「初戦は不意打ちに近かった。しかし、実戦の場でそれは言うまいと思っていたが…不思議なものだ。おまえとは、もう一度キチンと戦いたいと思ってしまった。俺はあの時の負けを決着と思っていない。次の体育祭に勝負の場を作った。そこで決着をつけたい」

 

「初戦? …すまんが覚えてない。よくわからんが、おまえの勝ちでいいぞ」

 

「そう言うな。俺にはもう時間がない。間もなく生徒会長としての責を終え、その後は卒業だ。この学校で初めて出来た心残り、晴らさせてほしい」

 

 

言いたいことを言い終え満足したのか、男はスッと立ち上がりゴミ箱に飲み干したコーヒーカップを捨てた。

 

 

「テストの答案の借りを返すと思ってくれ。もちろん、お前と直接戦えるかは運が絡むと思うが…個人的には、きっと戦えるだろうと思っている」

 

 

そんな言葉を残し、手をひらひらと振って去っていく。

オレから離れたのを確認してか、一人の女子生徒が男に付き従うかのように同行していく。

……誰かと思っていたが、あれは堀北の兄ののび太君じゃないか。

何が言いたいのかはよく分からなかったが、妹がコミュ障な分兄もコミュ障なのかもしれない。

 

 

手に持った本をパタンと閉じる。

久しぶりにゆっくり本でも読もうかと思ったが、この本は外れだった。

ちっとも楽しくないしむしろつまらなく不快だ。捨てようと思ったその時、

 

 

「あ、かずおの大冒険!!」

 

 

華が咲くような笑顔で一之瀬はそう言ったのであった。

 

 

 

 

 

* * * * * * * * * *

 

 

 

「その本、本当に神だよね! 私の妹も本当に大好きでね。寝る前に音読してあげたら、泡吹いて喜んでくれたなぁ…懐かしい」

 

「それは間違いなく喜んでないだろ」

 

 

特に断ることもなくオレの隣に腰かける一之瀬。

先ほどの堀北兄の姿が見えなくなった瞬間姿を見せたところを見ると…

 

 

「オレに何か用か?一之瀬?」

 

「用がないと話しかけちゃダメ? 綾小路君の近くって不思議と懐かしい感じがして落ち着くんだよね」

 

 

純粋な笑みを浮かべる一之瀬。いや、純粋そうに見えるだけ…か?

残念ながらオレでもその判別は難しい。

 

 

「通りすがりに話しかけるならともかく、堀北兄が立ち去るまで待ってたんだ。何か用があると思うのが普通じゃないか?」

 

「あ、やっぱバレるよね…。うーん、ちょっと聞きたいことがあって…」

 

 

特に否定もせず頬をかきながら照れ笑いをする。

 

 

「あのさ、サバイバルで火事があったって話しがあったでしょ? あれで怪我した数名の中に綾小路君いたよね? 正直、怪我したメンバーに違和感があるんだよね。龍園君、アルベルト君に綾小路君、軽井沢さんまではまだわかるけど…足の悪い坂柳さんがなぜ火事の現場に? それに、火事が原因の怪我という話なのに誰も火傷なんてしてないじゃない?」

 

 

流石に鋭い。

実際、数名は違和感を感じている人はいるだろうが、勝利に浮かれていた堀北でも気が付かなかった物事を把握しにかかっている。

それとも、何か別に目的があるのか?

 

 

「あの時はオレも無我夢中だったからな…。逃げてる間に転んで、誰かに踏みつけられて怪我しちゃったとかそんなところなんじゃないか?」

 

「自分の怪我なのに随分他人事みたいに言うんだね…脱臼したって話だったけど…」

 

「そうだったらしいな。気が付いた時には整復されてたから分からんけど、確かに肩はしばらく痛かったもんな。ケツ拭きにくくてしばらくオムツ履いてたくらいだ」

 

「オムツ履く理由として若干おかしくない? 反対側の手で拭けばそもそも解決じゃん」

 

 

何が楽しいのか、ニコニコと笑みを浮かべる一之瀬。

どのくらいオレを待っていたのか、額に玉のような汗がチラリと見える。

 

 

あの時、坂柳や学校側からは詳しいことが判明するまで情報は外に流さないで欲しいと言われた。

口が固いオレからすれば話さないでいることも可能だが…

 

 

「実はあの時、暴漢に襲われてな。オレの獅子奮迅の活躍で撃退できたが、その時に怪我をしてしまったということだ」

 

 

めんどくさいので言ってしまうことにした。

ついでに一之瀬の反応を見たいのだが…一之瀬は特に変わった様子を見せることもなく、

 

 

「ま、正直に教えてくれるとは思ってないよ? ただ、いつかは話してくれると嬉しいな。なんかわからないけど、綾小路君には隠し事とかされたくないなって思って」

 

 

頬をポリポリかきながらそう告げたのであった。

その顔は、特に何かを隠していたりオレを探っているようには見えなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

Side 南雲 雅

 

 

 

 

「……これが次の体育祭の詳細…? あの固い堀北センパイが、一体全体どうしたっていうんでしょうかねぇ…」

 

 

生徒会に提出された今年の体育祭の詳細。

この学校は生徒がイベント事などを決める権限が他の学校よりも強いが、現生徒会会長の堀北学は奇抜なイベントや発想を嫌い普通の体育祭と例年変化はあまりなかった。

しかし、今回は違う。今までとルールも違うし、ポイントの変動も大きくなる可能性がある。

 

 

「元来の学年対抗という概念を捨て、クラス単位でのポイント争奪戦…これは素晴らしい」

 

 

例年は赤と白に学校を分け、その点数を競っていた。

その際、個人的に優秀な成績を収めたものはクラスポイントではなくプライベートポイントを支給されていたが、今回はクラス単位で競うためクラスポイントも、プライベートポイントも大きく変動するイベントとなるだろう。

 

 

「それにこの種目内容…これは、ちょっと僕の方でも色々動かさせてもらわないといけないかな…」

 

 

彼は既に2年全体を掌握しつつあった。

しかし、激戦区だった3年や駒がそろう1年に比べ、小粒が多い2年生の争いにやや退屈さを感じていた。

しかし、今回もしかしたら自分も満足のいく戦いが出来るかもしれないと思った。

自分自身の願いでもある、堀北学との戦い。叶えるチャンスが目の前にあるのかもしれない。

 

 

綾小路にとって、人生で初めての体育祭が幕を開けようとしていた。

 

 

 

 

 

 

 

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