綾小路が朝霧海斗みたいな感じだった時の話   作:なか115

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第3話

「言っておくが、ここまでマイナスになるには例年ではないことだ。初めの1か月で500を切ることは少ない。今まで義務教育で習ったことを普通にこなしてさえいれば、点数はひかれることはなかった。学校は無理難題を押し付けてはいない。むしろ、初めの1カ月は優しいくらいなものだ」

 

担任である茶柱が先日行われた小テストの結果を返却しながら言う。

進学校ということもあり、この学校は小テストをこまめにやるようだ。

俺にとっては難しいテストでもないが、とりあえず適当に60点くらいをとっておいた。

 

「本番でなく良かったな。中間・期末試験で32点以下の人間は退学になることが決まっている。もしこれが中間試験なら、このクラスからは7人の退学者が出ていたということだな」

 

茶柱の発言にクラスがざわつく。

なるほど。この学校が日本屈指の進学校という割には学力的なものに低さを感じていたのはこのせいだったようだ。

つまり、レベルの低い人間を足切りしていく。そして与えられるプライベートポイント、つまり金をニンジンにして走らせる、ということか。

 

この学校の生活は考えられないくらい素晴らしいものだった。

住む家も用意され、何もせずとも金に相当するものを与えられ、自由を得られる。

更に卒業すればどんなに難しい就職先でも入れる…と噂されている。

 

賢いやり方だ。人間は基本的に自分に甘い。

人間を動かすのに必要なのは飴と鞭だ。この1か月で飴を知ってしまったこの生徒たちは、退学を拒むだろう。現に池という生徒や須藤は文句を茶柱にぶつけているが、意味をなさない。彼らは今回の小テストで退学者のラインにいたからなのである。

 

「綾小路君、後でいいかしら?」

 

 

 

クラスでの話し合いの後、人気の少ないカフェでコーヒーを片手に堀北。

隣に座る女子生徒に呼び出されついていった先で彼女は小さくため息をついた。

 

「さて、参ったわね。このクラスで3年間戦っていくなんて…」

 

言葉も短く頭を横に振る。

この学校が希望の進学先や就職先に進めるのはAクラスのみという話だった。

そして、ポイント残量はAが一番高くDが一番低い。

クラス分けがどのように行われたかは分からないが、能力順に振り分けられたということだった。

 

「正直納得できないことはあるわ。この私がDなんてね。運動も勉強も、人並み以上にこなせる自負がある」

 

90点の小テストをちらつかせながら言う。

 

「でも、私の考えは少し違う。茶柱先生の言ってたことがすべて本当と思えない。だって、確かに学力が低い生徒がDに多いのは認めるけど、平田君や櫛田さんを始めとした学業や運動、対人にも秀でた人もDにいるわけじゃない?単純に学業だけで判断したのなら、彼女たちはAかBにいるはずよ」

 

髪をかき上げながらコーヒーに口をつける。

俺も振り込まれていたポイントを早速つかい、コーヒーを飲む。

うん、うまい。意外と俺はコーヒーというものも好きかもしれない。

 

「綾小路君、貴方には正直に言う。私はAクラスに上がりたい。最悪、上がれなくてもAで卒業することしか目的にない。入学してから浮ついた気配を見せていないのは貴方だけだった。貴方もAクラスで卒業することが目標…そうでしょ?」

 

とりあえずコーヒーをおかわりする。

堀北は何かを勘違いしているようだ、とこの時初めて気が付いた。

俺は浮ついていた。人生で初めて通う学校。目新しい光景。自由。安全。

しかし金がないので静かに暮らすしかなかっただけなのである。

カラオケやボウリングに行かなかったのも金がなかったため。

しかし、目を輝かせるコミュ障を前に俺がそんな事を言うのは酷ではないか?と考えた。

 

「小テストの際…貴方はテスト開始した瞬間、ペン回しを始めた。小型扇風機にして遊んでいるように見えたけど、テストは60点だったわよね?やはり私の目に狂いはなかった。貴方は何か理由があって実力を隠している。そうでしょう?」

 

…こいつには恥ずかしいところをみられてしまうようだ。

 

「実力を隠しているつもりはないが…気のせいじゃないか?」

「正直、私がDクラスなんてありえない、そう思った。さっき茶柱先生に言われる前にこの学校の優劣はAからDまで順に並べられている、上級生たちの話を聞いて気が付いたの。そして、クラスの変動があることも。気が付いてる?この学校、いろんなタイプの生徒がいる。勉強が苦手な人、得意な人、スポーツが出来る人、そうでない人。クラスを固定していることからも、おそらくこの学校は競い合うことを前提に作られている」

「なるほど」

「つまり、能力の低いクラスメイトは足かせのようなもの。私がクラスを導くことでAクラスに上げてみろ、そういうことなんじゃないかって考えたのよ」

「割と口悪いよな、堀北」

「だってそうじゃない?あんな中学レベルのテストで14点とか24点だか取ってる連中よ?明らかに足を引っ張る存在達。これは与えられたハンディと思うべきだわ。その代わり、優秀な生徒達もいる。平田君とか櫛田さん、もちろん貴方もね」

 

どこまでも真っすぐな瞳が俺を見据える。

本当にそうなのだろうか?

正直、俺は学校のクラス分けにはある程度納得している。

持っている学業や能力はさておき、俺は常識が0に等しい。

目の前の堀北も学業こそ優秀であるものの、性格面で問題があるように感じる。

ということは、平田や櫛田も同じように何か理由があってDクラスなのではないかと推測している。

 

「私は私のやり方でAクラスに行く。でも、4月から分かった。一人では無理。信頼できる誰かと共に戦わないと、今のクラスでは上に上がっていけない、そう思ったのよ」

「……それはいいが、話す相手が俺でいいのか?平田の方が役に立つと思うぞ?」

「正直、私は誰かを信頼するとか誰かと一緒に何かをするとか苦手なの。ただ、不思議なんだけどなぜか貴方は近くにいて不快に感じない。誰かとともに戦わないといけないのなら、このクラスでは貴方だと私が思った。理由はそれだけよ」

 

長い髪をかき上げコーヒーを口に運ぶ堀北。

捉え方によっては愛の告白をされているようにも感じるが、そのような意図はないだろう。

 

堀北は自信に満ちている。

俺からしたら、別にクラスがAになろうがDであろうがどっちでもいいことだ。

しかし、毎月貰えるプライベートポイントが高くなるのなら、それは俺にとっては都合のいいことなんだろう。

 

何より、退屈しないかもしれない。

自分が育てられることがあったが、人を育てるなんてしたことはない。

めんどうではありそうだが、少しだけ興味を惹かれる。

 

 

「まずは中間テストの対策に乗り出すか?」

 

 

俺がそういうと、堀北は嬉しそうにうなずくのだった。

 

 

 

 

 

 

 

――――side 坂柳 有栖

 

 

入学したときに彼を見た時、電撃が身体に走ったような気がした。

間違いない。間違いなく彼だ。

 

ホワイトルーム。何もない白い部屋に彼はいた。

父が言った。彼は、人工的に作られた天才だと。

 

父はあの歪な白い空間が好きではなかった。

私も、好きではなかった。ただ、白い部屋で誰よりも輝きを放つ彼が目に焼き付いて離れなかった。

 

人工的に作られた天才を天然で天才な私が倒す。

いつかどこかで出会えたら、そうなればいいと思っていた。

しかし4年前、原因不明の大爆発を起こした施設で彼は跡形もなく消えた、そう聞いた時、私の心の中に穴がポッカリと空いた気分になった。

 

会いたい。

彼にどうしても会いたい。

 

そんな時、貴方が高度育成高校に入学したことを知る。

どうやって生き延びた?いえ、今までどこに?

 

それも別にどうでもいい。私は、貴方に会いたい。

一方的だけど、私は貴方を知っている。

貴方にも私を知ってほしい。

 

彼がDクラスであると知ったのは入学してその日の事だった。

この学校のシステムをある程度知る私にとって、彼がDなんてありえないと思っていた。

しかし、入学試験の結果を見てこれは杞憂に終わる。

 

彼は敢えてDクラスに入ったのだ。

私と戦うため?いえ、彼は私を知らない。

まるでときめく乙女の如く心臓が高鳴る。

 

あなたの事はなんでも知りたい。

だから人を使って貴方を探らせた…んだけど…。

 

 

――――私の知る貴方は、少なくとも草を食べて喜ぶ人ではなかった。

 

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