皆はテレビというものを知っているだろうか?
この学校は無意味にテレビなんてものが家に備え付けてある。
ここにあるテレビでは様々なコンテンツが配信されている。
普段はニュースしか見ない俺も、映画というものには興味があったのだ。
「燃えよドラゴン」
とある場所にいた時に聞いたことがあった。
『昔やんちゃしてたおれだけどさ…あれ見ると無敵になった気がするぜ』
そんなことを話すおっちゃんがいたことを思い出す。
配信されているコンテンツの中に、この燃えよドラゴンというコンテンツがあったのだ。
なんてことはない。
正直、俺は誰かが自分より強いと思ったことはない。俺が最強で最強は俺だ。
しかし、このコンテンツを観て心から熱くなるものを感じてしまったのは事実なのだ。
熱くなった俺が何をするかって?
それは熱を冷ますために散歩をするしかないだろ?
散歩してる最中に女子生徒に迫る男を見かけたらどうするって?
そりゃもう「消えろ、ぶっ飛ばされんうちにな」と言ってしまうだろう?
男が突然襲い掛かってきたらどうするって?
そりゃもう…フルボッコにするしかないだろう?
問題は…フルボッコした相手が確か生徒会長だったということである。
綾小路が朝霧海斗みたいな感じだった時の話
「あの…その…兄さん?」
俺がフルボッコしてしまった相手が生徒会長と知ったのは相手が失神した後のことだった。
ついでにコイツは堀北の兄とのこと。そういえば名字が同じだったが興味がなかったので気にしていなかった。
ただの学生にしては思いのほか鋭い攻撃だったこと、俺の心が燃えていたこともありついうっかり間違えてフルボッコしてしまい気絶させてしまったのだ。
「…うう」
「!!兄さん!?大丈夫ですか?」
「…俺は一体…?確か亡くなった祖父が川の向こうで手招きをしていたんだが…?」
堀北の兄、堀北学はフルボッコされた頬を触りながら体を起こした。
時刻は深夜。目撃者はおそらくいない。
ついでに監視カメラも周囲にはない。が、こいつの証言で暴力をふるったことが明らかになった場合、俺は窮地に陥るかもしれない。
普通に考えたら暴行されていた女の子を助けたとなれば問題ないのだが、兄と妹がじゃれ合っていたところフルボッコしたとなると話は別だ。
ここは俺の誤魔化し力が問われると言っても過言ではない。
「大丈夫か?物騒な世の中だな。おまえをフルボッコしたイケメンはあっちに行ったぞ」
「……!そうか、思い出した。俺はおまえに確か裏拳を放った。その後は記憶にない…俺は負けたのか?」
「…人違いじゃないか?俺は燃えよドラゴンなんて見ていない」
「?何を言っている?しかしそうか…そういうことか…」
ゆっくりと立ち上がり、ポンポン、とズボンの砂を払う。
そしてバキバキにひび割れた眼鏡をかけなおし、
「…なるほど。おまえが鈴音の言っていた綾小路という男か。なるほど。おまえほどの男がいるのなら、鈴音が自信をもってAクラスに上がるというわけか…。鈴音、この学校を甘く見るな。おまえがDクラスにいる以上、Aに上がるのは至難の業だ。だが、俺はもうお前を否定しない。この学校で何が出来るのか、俺は見守らせてもらう」
短い訳が分からぬ言葉を残し、足を引きずりながら去っていった。
そして訪れる沈黙。
さてどうする。別に構わないんだが、流石に退学はまだしたくない…口封じの必要がある。
そんなことを考えていると堀北が近づいてきて
「…変なところ見られたわね。もしかしたら勉強だけじゃないかもとは思ってたけど…強いのね」
「いやいや、アイツが弱いだけじゃないか?眼鏡かけてるしがり勉みたいだしポジションで言ったらのび太君の立ち位置じゃないか?」
「人の兄を捕まえてのび太君言う?兄さんは強いわ。少なくと私が今まで見てきた誰よりも。…貴方を除いてね」
いつもの涼しい顔ではなく、少し照れたような顔で堀北。
「中間テスト対策がみんなで勉強会とか舐めたこと言ってたから少し失望してたんだけど…それも理由があったのよね?」
「……ああ、そうだ。決してめんどくさいからとかそういう理由じゃないぞ」
「分かってる。貴方、私を試してるのよね?Dクラスの面々が赤点を取らないよう、私が導けって、そういうことよね?正直、教えるなんて得意じゃない。でも、私が今やるべきことは勉強会でみんなの学力を向上させること。それは今後の役にたつ、そういうことね?」
なにやら都合のいいように解釈をしてくれる堀北。
だが、俺は堀北兄が告げ口をしないかどうかでハラハラしていた。
この女の発言次第で俺はまずくなる可能性がある。
兄に暴力を振るわれてた、と言えば堀北兄が。逆に兄をフルボッコにされたと言えば俺がまずい立ち位置になってしまう。
すこしこの女の機嫌を取るべきなのかと悩まないといけない、時間にして3秒くらいはそう思うのだった。
Side 櫛田 桔梗
私は堀北という女が嫌いだ。
堀北の兄も好きじゃないが、アイツはどうせ今年で引退。気にしないでいい。
ただ、堀北は最悪3年間同じクラスにないといけない。それは困る。
だから退学にしてやりたいのだが…
どうやって退学にしようかと考えているうちに次から次へとお願い事をしてくる。
入学して2週間、周囲の信頼を集めつつあるころに寄ってきて
「普段の生活態度がクラスポイントに影響が出るかもしれない。私の言葉では皆が聞き入れてくれる可能性が低いから、貴方が皆に言ってくれるかしら?」
と言ってきた。
確かにその通りだった。私自身少し浮かれていたこともあり、このままずっと10万ポイント毎月振り込まれるなんてタダでは絶対にないって今になったらハッキリ思える。
私の発言を聞いたクラスメイト達が、ある程度遅刻や欠席が無くなったため、クラスポイントは0にならずに済み、結果として発言をした私の信頼度は更に高まることになった。
皆が私の事をチヤホヤしてくる。
よく気が付いたね、流石だね、とチヤホヤしてくる。この高揚感はたまらないものだった。
しかも堀北は
「初めましてでこんなお願いをするのはどうかとも思うんだけど…」
と言ってきた。
もしかして、アイツは私の事を覚えていない?
確かにアイツは中学の頃からコミュ障で、ずっとボッチだった。
だから私はあいつのことを堀北学の妹という認識しかなかったくらいだ。
そんな認識のアイツが今度は勉強会のお願い?
クラスで支持を集め、貴方の言うことなら男子も女子も言うことを聞いてくれる、ですって?
正直、ストレスが溜まる。
でも、次の中間で私の力で赤点者が出なければ…きっともっとチヤホヤされる!
恍惚の表情を浮かべ未来の姿を想像する。
私は、私の欲求のために行動をするのだ。