綾小路が朝霧海斗みたいな感じだった時の話   作:なか115

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第6話

…分かっている。俺はだせえ。

俺は正直自分が好きじゃねえ。バカだしすぐに手が出るのは自分の欠点だって分かってる。

屑な両親から生まれた屑が俺だ。

 

そんな屑にも、神様は才能を与えてくれた。

それは、バスケの才能だ。

俺がバスケをすると、皆の見る目が変わる。

屑を見る目から、尊敬をする目へと変わる。

 

俺が生きていくにはバスケしかない。そう思ったんだ。

しかし、俺は結局ただのバスケがうまい屑でしかなかった。

せっかく手に入れた強豪校への推薦も、俺が起こした暴力事件で泡へと消えた。

 

問題児である俺を引き受けてくれる高校はなかった。

俺は憧れであるNBAの道を目指すことすらできず諦めることになる…ハズだった。

そんな時、高度育成学校の存在を知る。

 

望めば自分の進路が叶う。

俺はバスケ選手になりたい。この学校を卒業したら…俺はまだバスケの道を目指せるのか?

バスケの道を諦めなくていいのなら、どんなことでもする。そう思ってた。

だけど蓋を開けてみたら入学2カ月も経たない内に諦めかけてる自分がいる。

ああ、自分はやっぱり屑でかわることなんて出来ないのか。そう思っていた。

 

イライラが収まらない。

俺を見下す堀北も、クラスメイトにも、何より屑な俺自身への。

――――俺は、もうこの学校を辞めようと思う。

屑は屑のままだった。俺は変わることなんて出来やしない。

 

綾小路をバスケで叩きのめすのはただの八つ当たり。そりゃ分かってる。

俺は自分が何をしたいんだ?どうしたいんだ?

 

「ルールはどうしたらいい?」

 

よく見るとむかつくほどのイケメンだ。叩きのめす罪悪感が薄れていく。

 

「1オン1だ。5本のうち1点でもとるか止めるかでおまえの勝ちでいいぜ。交互に攻め合うって形でどうだ?」

「そんなルールでいいのか?了解だ」

 

タン、タンとボールをつく綾小路。

ボールの扱いをみればすぐにわかる。

コイツは素人だ。運動神経が悪いようには見えないが、バスケは運動神経だけでは出来ない。

 

「いくぞ、いいか?」

「…ああ、遠慮なくこい。トラベリングとか多少の反則は目をつぶってやる」

 

腰を落とし低く構える。

―――俺は手加減なんてしない。叩き潰してやる!

 

そう思った矢先、何を考えたのか綾小路は突然ボールを放り投げた。

虚をつかれた俺は反応が出来ない。

 

急ぎ振り返ったその先で、ボールは弧を描くようにゴールに吸い込まれていった。

 

 

 

 

 

綾小路が朝霧海斗みたいな感じだった時の話

 

 

 

 

「え、えっと…これって…?」

 

少し気まずそうな櫛田。

俺が適当に投げたボールは、そのままゴールに吸い込まれた。

 

「ルール…どうなんだろ?やりなおし?」

 

俺も確かにバスケのルールは詳しくない。

本で読んだ程度で、ある程度は把握しているが1オン1のルールに精通しているわけではなかった。

細かいローカルルールもあるだろうし仕切り直しになるかと思ったが、

 

「……いや、今のはちゃんとしたゴールだ…。俺の負けだ…」

 

首を垂らした須藤は意外にも素直に負けを認めた。

 

「動けなかった。手を抜くつもりは一切なかったが…完敗だ」

「今からでもルール変えるか?3本先取とか」

「いや、俺が言い出したルールだ。俺の負けだ」

 

キッチリと負けを認める須藤。

苦笑いをしながら体育館の脇に腰を下ろした。

 

「…情けねえよな。まさかどんな形であれ、素人にバスケで負けるなんてな…」

「そ、そんなことないと思うけど…あれで勝ち負けが決まるなんて…」

「決まるんだよ、桔梗ちゃん。あれがもし試合の中で残り数秒だったらどうだ?逆転負けされる環境だったら?勝負と言っておきながら油断した俺の負けさ…」

 

自嘲気味に笑う須藤。

 

「綾小路。悪いけどさ、さっきの約束なかったことにしてくれないか?その代わりよ、俺はこの学校退学するわ。テストで落ちて退学よりも自主退学の方が減るポイントも少ないかもしれないだろ?」

 

いきなり弱気な須藤。

別にこいつが退学しても構わないが、自主退学とテスト失格の退学でポイントに差が出るかどうかは分からない。

クラスの人数が均等に揃えられていることを考えると、人数が足らないだけでペナルティが発生する可能性もある中で、こいつの退学は早すぎるのかもしれない。

 

なんとか励まそうとしているが言葉が出ない櫛田に代わり、俺が話す。

 

「退学するんならおまえのポイント俺にくれないか?」

「人の心ねえのかよおまえは…。まあいいけどよ」

 

力なく端末を取り出す須藤に笑顔で受け取ろうとする俺の頭を櫛田がスパーンと叩き

 

「綾小路君!!真面目にやる!どうしてやる気を出させるが退学になっちゃうのよ!?」

「俺としては真面目なんだけど…須藤、本当にいいのか?おまえが辞めても俺は構わんが、うちのクラスは困るらしいぞ?」

「……誰が困るってんだよ?厄介者がいなくなってせいせいするんじゃねえか?」

「よくわからんが、おまえはうちのクラスがAクラスに上がるための大事な切り札らしい」

「はあ?」と素っ頓狂な声を出すが驚きからかその眼には先ほどまでの不貞腐れた様子はない。

 

「これはあくまで堀北から聞いた話なんだが、おまえには将来D組男子のリーダーになってもらわないと困るらしいぞ。リーダーがいないとやばいんじゃないか?」

「……はぁ???この俺が男子のリーダーなんてなれるわけねえだろ!?俺のテストの点数知ってんのかよ?」

「俺は知らん。知らんが、そう言ってたんだから仕方ないだろ?嘘つく必要あるか?なんでも、うちのクラスで一番伸びしろあるのが須藤らしいぞ。スポーツが出来てクラスの男子からの信頼も厚い。リーダーとして活躍するには彼だって言ってたぜ」

「あの堀北が…俺を…?」

 

唖然とする須藤。

人は何故か、人伝で話を聞くと素直に受け入れる事がある。

もし堀北本人が同じことを言ったとしても、ここまで須藤の心に響いたかは分からない。

 

「須藤よ、そのNBAで活躍するのと、クラスのリーダー的存在になるのってどっちが難しいんだ?」

「そりゃ……NBAに決まってる…だろ…」

「NBAに入るまでに、苦労したり辞めたくなったりとかはしないのか?」

「………………」

「自慢させてくれよ。俺らのクラスの男子リーダーだった男は、NBAのプレイヤーなんだってさ」

 

手を差し伸べる。

一度目を伏せるも、ゆっくりと俺の手を掴み立ち上がる須藤。

 

「……俺に、出来るか?俺は本当に屑なんだ。俺の親も屑だ。そんな俺が、みんなのリーダーになってもいいのか?」

「リーダーは指名されてなるものじゃないだろ。堀北はおまえがそのリーダーになるって言ってるだけだ。勉強で一番になれって言ってるんじゃない。態度で、おまえの背中で見せろ。努力している姿でもいい。今屑だとしても、未来永劫屑かどうかは分からないだろう?」

 

須藤の目には炎が宿る。

よし、これでやる気を出した。

この先須藤は苦しむときやうまくいかないことがあるかもしれない。その時はまた、誰かが支えてやればいい。できれば俺以外の誰かがやってほしい。

 

 

 

今後はどうなったかって?

別に今までと変わりない。堀北と喧嘩しながらも勉強会は続いたそうだ。

結果として、俺たちDクラスは赤点なしで切り抜ける。

 

櫛田のテスト用紙も効果的に働き、赤点ぎりぎりの生徒はいなかった。

櫛田と堀北は念のために自分のテストの点数を下げてまで平均点を下げる努力をしたそうだ。

 

まずは初めの関門を突破したと言ってもいいだろう。

そろそろ課題とやらがくるころか?

――――せめて、退屈しないことを求めんばかりだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

Side ???

 

体育館での出来事の後。

櫛田桔梗は綾小路清隆と帰路についていた。

 

周囲に人気はない。櫛田は問いかける。

 

「……堀北さんってあんな気の利いた事言えるんだね。私、知らなかった」

「ああ、あれか?」

 

涼しい顔をした綾小路。

そして櫛田に買ってもらったコーヒーをゴクリと飲み干し、

 

「あれは嘘だ。そもそも最近堀北と話すらしてない」

 

思わずズッコケるのをこらえるのに精一杯な櫛田なのであった。

 




少し海斗っぽくなく感じるかもしれないですけど、
海斗と清隆を足して2で割ったみたいな感じで見ていただければと思います。
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