次回からは日常回に入る予定です。
「静かにするんだぞ...?」
「う...ん。わかっ...た」
背中に背負っている少女に、静かにするようにだけ言うと、俺はアパートの階段を登る。登り終わったら、心の中で、
(住民に見つかりませんように)
とだけ祈りながら廊下を進む。コツン、コツン。そんな金属の音を一歩ごとに響かせながら。
その時、少女が辺りをキョロキョロ見回しながら聞いてきた。
「...お兄さんの...家は、どこ?」
俺は、突然の問いかけに少し体がビクッとするが、ひとつ先の扉を指さしながら、
「あれだ」
と言った。そして、扉の前まで行き、鍵を開ける。家の中に入ると、玄関の電気をつけ、少女を背中から下ろす。
「まず、ご飯から食べるか?風呂から入るか?」
靴を脱ぎながら俺が問うと、少女は、
「...ご飯...!」
と、輝いた目で答えた。さっきまで泣いていたのに、切り替えが早いこった。
「わかった、ご飯な。作ってくるからリビングで待っとけ。」
「リビング...?」
少女は首を傾げながら言う。どうやら、リビングがわからないみたいだ。
「...机の置いてるあそこだ」
そう、リビングの方を指差すと、
「わか...った...」
少女はそう返事をして、リビングへと行き、どこに座ればいいのか戸惑いながらも、ちょこんと座る。
(可愛いな)
その動作にそんなことを思いながら、俺はキッチンでご飯を作る。と言っても、簡単なものだが。味噌汁の入っているお鍋の火をつけ、温めている間に、白米を俺の茶碗と使ってない茶碗によそう。その後、温め終わった味噌汁も2つのお椀に入れる。それを、リビングで待っている少女に持って行く。
「とりあえず、こんなもんしか出せないが。これでいいか?」
ご飯と味噌汁だけという、少し簡素すぎるメニュー。お気に召すかどうか、心配になってそう聞いてみたが、少女はよだれを垂らす寸前ぐらいの様子で、出されたものを凝視しており、
「うん...!食べても...いい?」
そう、尻尾を左右に振り、今にも飛び跳ねそうなくらい嬉しそうな表情で聞いてきた。
「ああ、いいぞ」
俺がそう言うと、少女は、「いた...だきます...!」と言うと、茶碗を手元に寄せた。その光景を見ていた俺は、少女の分の箸を持ってくるのを忘れていたことに気付き、
「あ、悪い。箸を持ってくんの忘れたわ」
と言って、箸を取りに行こうとしたのだが...
ガブッ!!
その時、少女は茶碗に顔を埋めた。そして、犬食いしだしたのだ。
「...わーお...ワイルドォ...」
本当の犬のようなスピード感、腹が減った極限状態だからこそ出来るのかもしれないその動きに、俺は止めることもできず、少女が一通り食べ終わるまで眺めているだけだった...