「ナナ、もうそろそろ寝るぞ」
「わう。わかったー」
ナナは、本を読むのをやめて、歯磨きをしに脱衣所へと向かう。その間、俺はリビングに置いてある机をずらして、布団を敷く。ちなみに布団は一枚しかない。しょうがないよね、引くスペースがないんだもん。それに、ナナも別々に寝るのは嫌だって言ってたし。布団を敷き終わった後は、俺も歯磨きをしに行く。すると、入れ違いになるように、ナナが脱衣所から出てくる。
「ご主人歯磨き?」
「ああ、そうだ」
「じゃ、お布団で待っとくね!」
そうだけ言うと、ナナは布団がある方へとトコトコ走っていった。
「全く...元気な奴だな」
そんなナナを見て、自然と俺は、独り言を洗面台の前で呟く。その後、洗面台の蛇口の左側に置いてある歯ブラシを入れておく容器から、自分の歯ブラシを取り出し、歯磨き粉を付け、自分の歯を磨く。暫く鏡を見ながら磨いた後、うがいをする。脱衣所を出て、リビングの方へと行くと、ナナが布団の上で、尻尾を振りながら、楽しそうに本を読んでいた。だが、俺が来たとわかったら、本を読むのを止め、寝る体勢になる。
「んー、読みたいなら読んでも良いんだぞ?別にこの時間に寝なきゃいけないわけでもないし」
「大丈夫、ご主人。ちょうどいいところまで読んだだけだから」
「そうか、なら寝るか」
「うん」
そう言って、俺は布団へと寝転び、身体に毛布を上から被せる。そうしたら、自分のお腹辺りで毛布を掴み、それを上にあげる。状態的には、犬を自分の布団へ入るように誘うような感じだ。ナナはそれに倣うように、俺の隣へと入ってくる。
「おっけーか?」
「わうわう、おっけーだよ」
「よし、じゃあ電気消すぞ」
そして、最後に枕元にあるリモコンを操作して、部屋の電気を消す。明かりは徐々に消えてゆき、部屋を暗闇が包む。そこから、30秒ほど沈黙が続いたのだが、俺がふとした疑問を、小声でナナに言う。
「ナナ?」
「ん?なにご主人?」
それに、ナナも小さな声で答える。
「本読むの、好きなのか?」
「...そうだね。好き...かな」
「そうなのか」
「...元々、寝る前に本を読む習慣があったから。今じゃ、寝る前のルーティーン...みたいな感じかな」
「寝る前のルーティーン...か」
「そう」
「...ちなみに、何の本読んでたんだ?」
「ん?...えーと、“転生したらおっさんだった件について”ってやつ」
「うわ、俺が買ったけど5ページ目くらいで読むのをやめたやつだ。良く見つけられたな」
「探してたら、なんかあったから」
「そうか...」
「...」
「...」
俺の、その言葉を最後に、しばらく静寂が訪れる。次に、その静寂を破ったのはナナだった。
「ねえ...ご主人...」
「ん?なんだ?」
「抱き着いて良い?」
「...」
「...」
「...分かった、良いぞ」
「わう...ありがと♪」
ナナが元から近かった距離を、さらに縮めて抱き着いてくる。俺はそんなナナを、三回撫でてからこう言う。
「...おやすみ。ナナ」
「むふぅ~♪おやすみ...ご主人♪」