最凶ヴィラン「アンナ・シェルビーノ」 作:一般通行令嬢
日の当たるバルコニーで、いつも私は貴方とお茶をしていた。
貴方の入れてくれるお茶は最初はとっても渋かったり、薄かったりで全然おいしくなかったけど、段々とこなれて畏まった言葉づかいに、上手になっていくお茶の味。
あの海辺の崖にあった家のバルコニーであなたの淹れてくれたお茶と、潮風の混じった匂いが大好きだったわ。
「ねぇ、■■■■。一緒に食べよ?」
「いえ、お嬢様。私は使用人ですので」
「そう……。そう、ね」
――貴方はいつもそういう人だったわね。
「もういいわ。デボラ」
「?どうかしました、たたたたたおじ、お嬢様」
グニャリ、と風景が歪み、匂いが遠くなっていく。
最後にもう一つ、あの人が淹れてくれるお茶を口を含む。
「えぇ、今日もとっても美味しいわ……■■■■」
――――§――――
「もうよろしかったのでしょうか、アンナ
「えぇ、いつもありがとう。デボラ」
大きなキャペリンハットに、惜しみなく身体の線を出した妖艶さの感じる紫で統一した服で女は仰々しく、アンナと呼んだ少女に傅いた。
「勿体ないお言葉ですわ。これもアンナ様のお力あってのものですわ」
「そうね」
胸元にさされた満開の赤いバラをひと撫でしてからデボラは立ち上がる。
それにアンナは無機質なままに応える。
「それでゴリーニは? またいつもの部屋にいるの?」
「えぇ。でも、そろそろ出てくると思いますわ」
「そう。……次は何をするつもりかしらねアイツ。まぁ、どうでもいいことね」
そこまで言うと、徐にアンナは立ち上がり、コツコツと小さなヒールの音を響かせながら歩きだす。
デボラもその後ろに着いて一緒にしばらく歩いていくと、大きな扉が見えてくる。
重厚な石造りで女性二人では開けるのに手間取りそうな佇まいを持った扉は、アンナが近づくと自然と開く。
ずっと続き、歩いてきたレットカーペットに沿ってそのまま歩いていくと、カーペットの端には六人の男が跪いていた。
カーペットの先には王座のような太々しく、立派で下手な装飾は用いらないセンスを感じる荘厳とした椅子と、隣には薔薇と茨の意匠が彫られたカウチソファが用意されている。
跪いていた人に一瞥もくれることなく、淡々とアンナは歩みを進めて、カウチソファに腰を下ろす。
それと同時に再び、石造りの扉が開く音がして、HAHAHAと無理に陽気じみた声が聞こえてくる。
「おや、珍しいねアンナ。君が先に来ているなんて」
「……無駄口はいいわゴリーニ。それともまた〝
それが当然、とばかりに感情もその行為に意味すら見出すことなくアンナは言ってのける。
彼女をこうしてしまった原因は間違いなくゴリーニと呼ばれた男にあったのだが、それでも思わず一歩引いてしまう強者の圧が今の彼女にはあった。
「は、HAHAHA。それは勘弁いただこう、我らが姫、個性の女王よ」
無言で、早く次に進めろ、と視線を受けゴリーニは冷や汗を流しながら、ひとつ咳ばらいをして話を続ける。
「さて、俺たちはこれから日本にいく。秩序のなくなった日本を起点に、俺が来た、と新たな象徴として世界に示す!!!」
ゴリーニに手を差し出され、エスコートされる形でアンナも歩き出す。
床に着くほど伸びたよく手入れされた漆黒の髪が、彼女の今の在り方を、これまでの歩みを表すように揺れていた。