ブルーアーカイブ Day After Day 作:燃え殻の灰
第1話
昔昔、人類は争いを続けていました。
神様は人間を救いたいと思い、導こうとしたのです。管理しようとしました
しかし、何処からか一羽の鳥が表れて、神様の作る秩序を壊してしまいました。
何度も何度も現れては秩序を壊していく鳥に怒った神様は、機械の人形を送り出し、鳥を殺そうとしました。
だけど、鳥はすべての人形を壊し、遂には神様の所に飛んできました。
そして、神様を守護する紅い天使すら焼き尽くしてしまいました。
神様は聞きました。救われたくはないのか、と。
鳥は答えました。我々は自由なのだ、と。
そして神様すら焼き尽くした鳥は、何時しかこう呼ばれるようになりました。
全てを焼き尽くす黒い鳥レイヴンと。
「私のミスでした」
少女の独白。それは深い後悔の色が見える。
「私の選択、それによって招かれたすべての状況」
ノイズまみれの記録が浮かんでくる。
「結局、この結果にたどり着いて初めて、貴方の方が正しかったことを悟るだなんて……」
何処か怪我をしているのか、少女の服は赤く染まっている。
「……今更ですがお願いします、先生。きっと私の話は忘れてしまうでしょうが、それでも構いません」
少女は寂しそうに、そして何処か嬉しそうに言葉を続ける。
「何も思い出せなくても、きっと貴方は……どんな事があろうとも、貴方にしか出来ない選択をしてくれる。そんな確信があるんです」
少女は優しげな表情を浮かべ、目の前の存在に話しかける。
「大人としての責任、強さ、優しさ。それをもった貴方なら、この捻じれて歪んだ終着点を、そこに繋がる悲しみを、絶望を、嘆きを」
そして縋る様に言葉を続けた。
「全て、焼き尽くしてくれるって」
連邦生徒会ロビー
その日、多忙極まる連邦生徒会に来客があった。本来ならば自分の役割ではないのだが、近くにいた為に対応を任された扇喜アオイは、目の前の人物を観察していた。
鴉の様な黒い髪を一本に結んだ大人の男性。キヴォトスではかなり珍しい存在だ。
しかし、それだけでも珍しいのに、その人物の姿はとても痛々しい。
左腕を骨折しているのか吊るしているし、右目にも包帯を巻いている。そして何処か疲れたように椅子に深く座り、窓からの景色を眺めていた。
「私の怪我が気になるかい?」
「いえ、そんな事……いえ、やはり気になるわ。普通に考えて重症の人物が、平然と目の前にいるんですもの」
「ははは、それはそうか。だがまぁ、そこは目を瞑ってくれると嬉しいな。私としては、どうしてもここの用事は外せなくてね」
「仕事熱心といえばいいのかしら」
「どちらかと言うと、仕事を探しにここに来たんだけどね」
「なによそれ」
「そのままの意味さ」
にこやかに、優しげに話す男性の声が、何故か少し心地よい。何時しかアオイも微笑みを浮かべながら、男性と会話を続けている。
穏やかで、日々の多忙で疲れた心を癒してくれるような居心地の良さ。それを感じ始めたアオイだが、ロビーのエレベーターが開く音が聞こえ、そちらを見れば自身の先輩であり行政官を務める七神リンが歩いてきた。
「アオイ、対応ありがとう。時間を取らせたわね」
「いえ、大丈夫です。そちらの要件は終わりましたか?」
「来客ということで放置よ。はぁ、頭が痛くなる」
額を抑えてヤレヤレと疲れたようにするリンに、若干の申し訳なさをアオイは覚えた。
確かにこの男性の対応はしていたが、どちらかと言うと疲れを癒されたような気がするから、仕方がないのだろう。
「お待たせしました。私は七神リン、ここ学園都市キヴォトスの連邦生徒会所属の幹部です」
「そんなに待ってないから気にしなくていい。アオイとの会話も楽しかったしね」
「それならば良いのですが。ここに来た要件については連絡を受けてますが……」
「まぁ、そうだろうな。では改めて言うと、私は先生としてここに招かれた」
「やはり……わかりました。上の方で改めて説明させてもらいます」
「そうしてくれるかな。私もまだ情報があやふやでね」
「先生なら心配しなくてもいいでしょう。あの生徒会長がお選びになった方なのですから」
「そう言ってもらえると助かるよ。ああ、アオイ、対応してくれてありがとう。また機会があればね」
そう言って立ち上がり、リンと共に歩き出す男性の後姿を眺めているアオイに、不思議な香りが届いた。
それは今まで嗅いだ事のない香りであり、言葉にできそうにないのだが、フッと言葉を漏らす。
「火の香り……?」
レセプションルーム
エレベーターに乗り、連れてこられた先は様々な生徒達が忙しそうに行き来している一室であった。
「代行! 見つけたわよ、まだ話は終わってないでしょ!! 生徒会長を呼んできて!!」
「行政官、お待ちしておりました」
「連邦生徒会長に会いに来ました。風紀委員長が、今の状況について納得のいく回答を要求されています。ご説明いただけますか」
リンが姿を見せた途端に彼女に詰め寄る複数の少女たちだが、白いジャケットを着崩した少女やら、翼を持った黒セーラー服の少女と白い制服の少女、風紀委員と書かれた腕章をつけた少女もいる。
「ははは、リンは人気者らしいな」
「笑い事ではありません。はぁ……面倒な人達に捕まってしまいました」
「皆が君を頼りにしているということだろう。悪いことではないさ」
「物は言い様ですね。さて……各学園から訪問してくださった生徒会、風紀委員に、暇を持て余したみなさん」
リンのにこやかだが何処か棘のある言い方に、先生は苦笑しながらも「仕方がないだろう」と首を横に振る。
かなりの多忙の様だし、ロビーに来るまで彼女達の対応をしていたのだろう。毒も吐きたくなろうさ、と。
「大変暇そ……大事な方々がここを訪れた理由はわかっています。現在の学園都市で起きている混乱の責任を問うためでしょう?」
「そこまでわかってるなら、なんとかしなさいよ!! 連邦生徒会なんでしょう!! 学園自治区が混乱に陥っているのよ! うちの学校の風力発電も止まって大変だったんだから!!」
「連邦矯正局からも一部の囚人が脱走したとの情報もあります。ゲヘナはただでさえ治安維持が大変なのです。早急な対応をお願いします」
「スケバンなどの不良たちが、うちの生徒たちを襲う頻度が急激に高くなっています。トリニティの治安維持も、実現委員会や自警団だけでは難しくなっています」
「ええ、戦車や武装ヘリコプターやら、出所の分からない兵器の不法流通も増加しています。これでは正常な学園生活に支障をきたします」
それぞれの少女たちの話を聞く限り、ここ最近でかなりの治安悪化が起こっているようだ。
流石に多忙とは思っていたが、その理由が生徒会内部だけでなく、外の出来事の対応にも追われているとなると納得できるものがある。
そんな生徒達にリンが説明するのは、生徒会長が行方不明になった事と、サンクトゥムタワーの管理者がいなくなったため生徒会が行政制御権を失っている事実。
それを聞いた少女たちは絶句して動きを止めてしまう。
「どうにか復旧できないの!? これ以上の混乱は過労死しちゃうわよ!! 予算だって組み直さないといけなくなるし!!」
「ああ、なるほど。だから私が呼ばれたというわけか」
「……そういえば、そちらの男性の方は? と、というか、かなりの大怪我をされていますが大丈夫ですか?」
目をグルグルと回し始めた少女とは別に、風紀委員の腕章をつけた少女が心配そうに先生に声をかける。
まぁ、見た目がかなりの重症だし仕方がないのだろう。心配そうに声をかけてくる少女に、大丈夫といったように笑いかけると、彼は怪我を感じさせないように姿勢を正す。
「初めまして、連邦生徒会に招かれた者だ」
「こちらの先生が、フィクサーになってくれるはずです」
「え、待って。そう言えば、この先生は一体どなた!? どうしてここにいるの?」
「まぁ、色々と混乱するのは仕方がないだろう。私自身、まだ色々と怪しくてね」
そう言って笑う先生に、何処かほっとするような感覚を覚える。
この先生なら、なんとかしてくれるんじゃないだろうか、と。
皆が静かになったタイミングでリンが、生徒会長によって招かれた先生だということを説明すると、みなが慌てて自己紹介を始める。
「ああ、よろしく頼む。私は……まぁ、先生と気楽に呼んでくれ」
「先生には、連邦生徒会長が立ち上げた、ある部活の特別顧問としてこちらに来ていただきました。名前は連邦捜査機関シャーレ」
そこで説明されるのは、各学園の自治区に自由に行動し制約なしに戦闘行動も可能な超法的機関──それがシャーレという組織の概要である。
そこの顧問となるのが、目の前にいる先生と呼ばれる男性だ。
「つまり、固有戦力を持った何でも屋、みたいなものか」
「う……そう聞くと少し嫌な記憶が……」
「ああ、ゲヘナは便利屋68とか言うグループがいましたね。確か、それなりの戦闘能力を持ったグループだとか」
若干げんなりした様子のチナツと、ある程度の戦力を把握していたハスミが言葉を続ける。
どうやら何かしら思い当たる存在がいるのだろう。
「あれ、他にも似たようなグループってなかったっけ」
「何でも屋ハウンズですね。こちらはトリニティでもあまり情報がありません。ミレニアムは何かつかんでいるのですか?」
「あーそうそう。噂では、こっちも大人の男の人が率いてるとかなんとか……その位しかないわよ」
スズミとユウカの会話を聞きながら、先生は「ほう……」と少し興味を持ったようにつぶやいた。
(私以外の男性……か。そしてハウンズ。ふむ、そうなると率いているのは……いや、憶測だけではいかんな。まぁ、そのうち会うことになるだろう)
「先生、なにか考え事ですか?」
「ん、ああいや。シャーレという組織の顧問になるとすると、何処かの施設でも借りるのかな、とね。リン、そこの説明もお願いできるか?」
「はい。シャーレの部室はここから離れた外郭地区に用意しています。生徒会長の指示で、そこの地下にとある物も運び込んでいます。そこに先生をお連れしたいのですが……」
そんなこんなで直行するためのヘリを用意しようとしたリンなのだが、どうやら矯正局から脱走した一部の生徒が騒ぎを起こし、そこは戦場になっているという。
「……なんでこう忙しいときに問題ばかり……!!!」
「ぎ、行政官も大変の様ね……」
「ふふ、ゲヘナでは日常茶飯事ですけどね……」
「チナツっていったっけ。うちで開発された栄養ドリンク、飲む?」
「はい、いただきます……」
青筋を立てるリンに若干ビビりながらも、似たような騒ぎばかり起きるゲヘナ所属のチナツをいたわるように、栄養ドリンクを手渡すユウカ。
話を聞く限り、ゲヘナは世紀末な場所なのかと思いつつ、シャーレを率いるようになったらある程度色々と手伝ってあげるかと思いつつも、先生はリンに声をかける。
「こうなると戦場のど真ん中を突っ切っていくことになるが、どうする?」
「……いえ、大丈夫です。ここに各学園を代表する立派で強くて暇な方々がおります。是非とも手伝っていただきましょう」
「手伝うとは……どう言うことですか? それに何故こちらを見ているのでしょう……?」
疑問に感じたハスミの質問に答えずに、リンは眼鏡を怪しく光らせてフフフと笑うだけであった。
外郭地区
爆音、銃撃音。響き渡る怒声に悲鳴、建物が崩壊する音。
リンに連れてこられた外郭地区の戦場を見て、ユウカは大声で声を上げる。それは連れてこられた他の生徒たちの心の代弁でもあった。
「なんで!! 私達が!! 不良と!!! 戦わないといけないのよ!!!」
「サンクトゥムタワーの制御を取り戻すためには、部室の奪還が必要らしいですが……」
銃撃から身を隠すように答えるチナツであるが、先ほどより肌ツヤや声に張りがあり、元気を取り戻している。
ミレニアム印の栄養ドリンクが結構効いてきたらしい。
しかし、まだ何か言おうとしているユウカに気が付いた一部不良たちが銃撃を加え始める。咄嗟に身を隠そうとするも反応が遅れ、銃弾が命中しそうになった瞬間、撃ち込まれてきた別の弾丸がユウカに当たりそうになっていたその全てを砕き落としていた。
「あまり注目を集めるべきではないよ、ユウカ」
「え、あっ、先生? って、きゃあっ!?」
すぐ近くの瓦礫にユウカを引きずり込み、自分の胸元に顔を埋めさせて背中をポンポンと優しく先生はたたいてあげる。
戦場には似つかわしくない状況に、ユウカは顔を真っ赤にしながら抗議の声を上げる。
「せせせ先生、大丈夫ですから距離が近いです、はなしてください! 当たっても大して怪我はしませんし、というか、いまなにをしたんですか!!」
「だから大声を出さない。特に珍しいことはしてないな。私の銃で撃った弾を当てて砕いただけだよ」
変わった形のリボルバーCRーWH01HPを見せて事も無げに答える先生だが、それを聞いたユウカや近くで身を隠しているハスミ達は絶句していた。
一発二発どころではない弾丸を、リボルバーの速射で撃ち抜いた? 確かに一発二発ならできるかもしれない。だがそれ以上の弾丸で、しかも命中弾だけに限定してやれと言われたら無理である。
この先生は一体……? と思うユウカ達とは対照的に、先生は瓦礫からチラリとこちらに銃撃を加えてくる不良たちを覗き見る。
(1、2、3……ある程度の戦力予測はできた。あとは奪われたという戦車がどこかにいるらしいが……まぁ、なんとかなるだろう。問題は私の身体か。色々と無理させるにはまだ万全ではないし、呼べる武装も少ない。流石に長重兵装は片手ではきついか。そうなると……)
「先生、あまり無理をなさらないように。ただでさえ大怪我されているのですから」
「そうですね。先生はキヴォトスの外からいらっしゃった方、銃弾一つでも生命にかかわります」
チナツとハスミの心配した声を聴きつつ、まだ胸元でウーウーいっているユウカの頭を撫でながら、どうしたものかと先生は頭を回す。
この子たちは優しく、とてもいい子なのだろう。そんな子達が怪我をしないようにするには……と。
「よし、みんな聞いてくれ。私が戦闘の指示を出す」
「ええ!? 先生が指揮を執るんですか!? まぁ、先生……ですし……?」
「わかりました。これより先生の指示に従います。ところでユウカは何時まで先生にくっついているのですか?」
「へ? ……ああああいや、これは先生が離してくれないからで──って先生、そんな頭撫でないでください! ハスミはなんでそんな顔してみるの!?」
「いや、いい撫で心地だと思ってね。ハスミ達もこれが終わったら撫でてあげよう」
「ふふ、それは楽しみですね。では正義実現委員会ハスミ、参ります!」
慌てて立ち上がり、顔を真っ赤にしながら走り出すユウカを見送りながら、ハスミは弾丸を装填すると愛用のライフルを構える。
そして先ほどリンから全員に渡されていた通信機器を耳に取り付けると、先ほどまでのにこやかな表情を消して先生は冷たい鋼鉄を思わせる目つきに代わり、意識を切り替えるための言葉を口にした。
「メインシステム、戦闘モードを起動します。さあ、戦い続ける歓びを」
少し前、連邦矯正局
「あら……なんでしょうか、この香り」
黒い美しい髪をした狐耳の少女が、何処からか漂ってきた香りを感じ取る。
それは自身が慣れ親しんだ香り。だがそれ以上に、心が高鳴っていく。
自分は、この香りの主の元に行かなくては。そんな思いが彼女を突き動かす。
「ああ……とても強い、強い火の香り。とても素敵な香り。ふふ、待っていてください、名も姿見知らない人。今、会いにいきます」
その日、火に焦がれた狐が解き放たれた
砂漠地帯
「あれが今回の狙いのカイザーコーポレーションの輸送車両だ。お前達なら大丈夫だと思うが、無理をするな」
「こちらサオ……622了解。任せてくれ、ハンドラー」
「623了解。ランチャーで隊列を乱す。624も準備は?」
「ろ、624配置完了です。廃墟の中で待機中、何時でも撃てます」
「こちら625、車列前方にトラップ配置してある」
「よし、トラップと623の攻撃で車列が乱れたら622と625は突撃。かまわん、撃ちまく……ん? どうした626、なに? 621が居ない? ……まさか……」
「こちら622、車列が爆発したぞ。見覚えのある姿もあるが……どうする、ハンドラー」
「……作戦を変更する。各位、621を援護だ。内容は変わらん。何でも屋ハウンズを舐めたこと、後悔させてやれ」
CRーWH01HP
N系より登場したリボルバー式のハンドガン。
通称リボハン。ライフル並みの威力を誇るハンドガン。
単発威力、連射、瞬間火力と反動に熱量て優秀な攻撃性能を誇る。