ブルーアーカイブ Day After Day   作:燃え殻の灰

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今週分となります。少しだけ短くなりました。


第11話 鴉の囁き

 

ブラックマーケット シリウス商会

 

「いやぁ、いきなり呼び出して悪かったね、支店長」

 

「……まったくだ。今の私は機嫌が悪いし忙しい。まだ片付けねばならん案件があるのだ。さっさと用件を言え」

 

 PMCの兵士達とのイザコザの後、いきなり代表に呼ばれた支店長は、部下に兵士達に注意を払う様に指示を出すと、直ぐにシリウス商会を訪れたのだが──やはりすこぶる機嫌が悪い。

 何時もはパリッとしたスーツなのだが、今日は少し乱れているし、オートマタらしい顔には少しだけ傷が入っている。

 その様子に代表は仕方がないだろうと言った様子で肩を竦め、同席している先生とジナイーダに視線を向ける。

 

「まぁまぁ、落ち着きなよ。ここに居るのはアタシらだけじゃないんだ」

 

「そいつらは誰だ。何時もならば、私と会うときは一対一だっただろう」

 

「アンタも聞いたことはあるだろう? 今話題のシャーレの先生、その人さ」

 

「初めまして、支店長。連邦捜査部シャーレの顧問を務めている者だ」

 

「ふん、貴様が噂の先生か。随分と派手に動いていると聞いたな。それならば、そちらの小娘はシャーレの生徒か?」

 

「……違う。私はジナイーダ。……ハウンズの一人だよ」

 

「な……は、ハウンズだと!? 代表、貴様どう言う事だ!?」

 

 ジナイーダの言葉を聞き、そのジャケットに描かれている紅い猟犬を見て支店長は目を見開く。まさかこんな所で抗争相手と会うとは思ってもみなかったのだろう。

 代表を問い詰めるが、返ってくるのは何時もの胡散臭い笑みだ。

 

「安心しな。別にアンタをどうこうしようって話じゃないよ。と言うか、アンタにとって美味しい話さね」

 

「なに……どう言う事だ。随分と回りくどいぞ。先程も言ったが、私は忙しいのだ。要件を手短に言え」

 

「そうかい。なら単刀直入に言おう。支店長、アンタこっち側に付きな」

 

「……おい、冗談でも笑えんぞ。貴様、一体何を考えている」

 

「支店長、先ほど貴方がPMCの兵士達と揉めている現場を見たが、随分と手ひどくやられたようだ」

 

「ほう。シャーレとは随分と悪趣味な組織の様だ。覗き見するとはな」

 

 ふんと鼻を鳴らす支店長だが、先生の口元に弧を描く笑みが浮かぶのを見て、身体が勝手に震え始めてしまう。PMCの兵士達にも怯まなかった自分が、である。その事実に支店長も内心では焦っていた。

 だがそれも仕方がないだろう。それは生徒達に向ける優しい笑顔とは別種の、口が裂けるような壮絶な笑み。決して優しいだけの人が出来る笑い方ではなかった。

 

(なんだこれは……震えが止まらんだと!? 馬鹿な。ただ笑っただけなのだぞ!?)

 

「支店長、私は貴方の事を高く評価している。アビドスの借金の件について──恐らく独自で調べていたのだろう?」

 

「そ、そこまで知っているか。だが、それがどうした。取引の内容を把握するのも支店長の役割だ」

 

「そう言う貴方だからこそ、私は味方に引き入れたいと思っている」

 

 聞くな、これは悪魔の囁きだ。支店長の本能が警告を鳴らす。この先生の言葉は劇薬だ。聞いてしまえば後戻りが出来なくなる。

 しかしそれと同時に、甘い甘い蜜の香りがするのも事実だ。これは莫大な利益が転がり込んでくる。商売人としての支店長の直感が告げている。

 

「カイザーPMC。少しばかり調子に乗っているようだ。アビドスの件に関しても、各学区に不正に武器を流出させている件についても、ね」

 

「ば、馬鹿な!? PMCはそこまでやっているのか!? 武器の販売など一時の利益でしかないのだぞ!? しかも不正流出だと!? 製造工程や管理、手間を考えれば割に合わん!!」

 

「まぁ、アンタならそう言うだろうと思ったよ。しかもね、うちらブラックマーケットの流通ルートを利用されている。そうなると、まず疑われるのはアタシらになる。こればかりは看過できなくてねぇ。先生の提案に乗って、カイザーPMC潰す算段を立ててる所さ」

 

 その言葉を聞き、支店長は唖然とする。カイザーPMCがそこまで愚かだと思ってもいなかったし、まさかブラックマーケットの領分まで手を出しているとは想像もしていなかった。

 そもそも武器を流出させて儲けようとしても、製造番号を誤魔化したり、データの改ざんなどを考えれば利益より手間ばかり増えてしまう。それすらも分からないのか──と言う思いの方が支店長は強かった。

 

「そこで貴方には協力者になってもらいたくて、ここに呼んだ訳なんだよ」

 

「言いたいことは分かった。だが、私にどうしろと言うのだ。まさか、その情報を持って敵対派閥に移れとは言わんだろうな? 一度裏切った者を重用するような奴等、本社には居ないぞ?」

 

「いや、貴方には手柄を立てて派閥を立ち上げてもらいたい」

 

「なんだと……? おい、冗談は休み休みに言え。こんな場所でどうやって手柄を立てろと」

 

「……私達、ハウンズとの和解。それを支店長主導でやればいい」

 

 そのジナイーダの言葉を聞き、支店長の動きが止まる。【何でも屋ハウンズ】との和解。本社で幾度となく協議されているのは知っているが、ハウンズとの接点を誰も持っていないので難航している議題。

 確かに、分かりやすい手柄と言えばそうとも言える。

 

「……実際、ウォルターは和解しても良いと考えてる。ただ、カイザーPMCは潰す。それが条件でもある」

 

「そして貴方は、ハウンズとのパイプ役と言う、カイザーコーポレーション内で唯一無二の地位が手に入る。ここで貴方が断ろうとも、カイザーPMCを潰すのは既に決定事項だ。貴方は受け入れるだけで、自動的に手柄が転がり込んでくる。悪い話ではないだろう?」

 

 悪魔の囁きが支店長の頭にスルスルと入り込んでくる。今はPMC理事の権力のお陰でカイザーPMCは健在だが、本社上役の一部からはカイザーPMCを解体し、新規の軍事部門の立ち上げを検討すべきだという声も上がっている。

 確かに、その功績を手土産に本社に戻り、その軍事部門を掌握し派閥を立ち上げる事も出来るだろう。

 しかし……とまだ迷っている支店長に、先生は先ほどと同じように、弧を描く不気味な笑みを浮かべる。

 

「それともう一つ。この資金を貴方に運用してもらいたい。これも立派な手柄になると思うんだが、どうだろう?」

 

「資金の運用だと……? 生半可な資金では手柄とは……なっ!?」

 

 タブレットに表示された金額を見て、支店長は目を見開く。そこに示された金額は、アビドスの借金がはした金に思えるほどの金額。

 

「なんだこの金額は!? 本当に貴様の手持ちか!?」

 

「ああ、勿論。これを適切に運用して実績を積み上げるのも、手柄になるだろう?」

 

 実際、先生の総資産は天文学的な数字だ(カンストしている)。1com=1万のレート考えれば、どれほどの金額が分かるだろう。余談だが、ジナイーダの総資産もそれに近い金額である。

 

「さて、どうするね支店長。アタシとしては大人しくこの人の話に乗った方が良いと思うけどねぇ」

 

「……一つ聞かせろ、代表。貴様、何故これほどまでに先生とやらの話を信じれる」

 

 最早断る理由もないが、支店長は何処か納得が出来ないように代表を睨み付ける。何故、これほどまでに先生と言う存在を信用できるのか。

 支店長から見て、先生と言う人物は得体の知れない、警戒すべき存在である。ただ、唯一分かるのは敵対してはいけないと言う事だけ。

 それを聞いた代表は掛けていたサングラスを取ると、何時もの胡散臭い笑みを浮かべて答える。

 

「前にも言っただろう? 渡り鴉とは敵対するなってさ。アタシはまだ焼き尽くされたくないんでね」

 

 ただ、その瞳には燃える様な火が灯っているのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 


 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ブラックマーケット 闇銀行前

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「さて、みんな準備は良い~?」

 

「はい☆ 何時でも突撃可能です!」

 

「ん、5分で終わらせる。先生から指示されたルートも覚えた」

 

「あんな事言われて、黙ってらんないしね。あの兵士達、ただじゃおかないわよ!」

 

「やれやれ、まさかここで暴れることになるとは……いえ、先生の為ですもの。ふふ、派手に暴れて差し上げましょう」

 

『皆さん、時刻合わせを。作戦開始まであと1分です』

 

「あ、あのー……わ、私も参加するんでしょうか?」

 

 銀行から見えない場所に隠れるアビドスの面々。その顔には、先日シロコが用意した番号付きの覆面をかぶっており、ワカモは先生から借りたペストマスクを装着していた。

 ヒフミに至っては、待機してる間におやつとして食べたたい焼きの紙袋をかぶっており、黒幕感が半端ないことになっている。

 支店長の情報提供を元に、アビドスの借金の情報を強奪するために、闇銀行を襲撃することにしたのだ。

 最初は先生が単独で襲撃しようとしたところ、ホシノを始めとするアビドスの面々が止めたのだ。

 

「先生~、私達の事、大切に思ってくれることは凄く嬉しいよ~。けどこれは私達の問題でもあるんだよ?」

 

「先生はとってもお優しいので、私達を心配してくれてるのは分かります。けど、それだけじゃダメだと思うんです!」

 

「うん。何時までも先生に頼りっぱなしはだめだと思う。それに最初に銀行強盗を立案したのは私。だから大丈夫、手順は任せて」

 

「大丈夫かは分かんないけど、なんとかしてみるわ! それに先生、一応怪我人だし、そんな恰好で襲撃なんてしたら一発でバレるんじゃないの?」

 

『今回は私達に任せてください、先生』

 

 そう言われては先生も引き下がるしかない。確かに少しばかり過保護が過ぎるところがあったかもしれない。ここは彼女たちの心の強さを、輝きを信じるべきなのだろう。

 時に苦難を乗り越えてこそ人は成長するものだ。それこそが眩い光を放つ人の可能性。それを持つ生徒達を信じるのも先生の役割なのだと。

 

「先生、いえ、貴方様。ご安心ください。私も着いていきますし、なによりバックアップをしてくださるのでしょう? ならば、安心できるというものです」

 

 それでも少しばかり心配そうにしている先生の頬に手を当てて、ワカモが優しく微笑む。ああ、なんと優しく、そして可愛らしい方なのだろうと。鋼鉄の冷たさと火の温かさを併せ持ち、硝煙を纏う不思議な方。

 その頬に添えられた手に自身の手を添えながら、先生も優しく微笑み、皆を見送ったのである。

 なお、何故か流れで参加が決まってしまったヒフミであるが、流石に無関係なのに参加は可哀そうと言うことで、先生が代表に相談し、ブラックマーケットのペロロ様グッズを格安で売ってくれるように話を付けてくれたらしい。

 

『ヒフミ、すまないな。トリニティとも武器流出について話をしたくてね。その証拠集めも兼ねてと思ってくれ』

 

「あう……確かにトリニティでも問題になってますしね。それにペロロ様グッズ……。よ、よし。お役に立てるか分かりませんが、やってみます!」

 

 

 

 

 

 

 


 

 

 

 

 

 

「なぁ、支店長どこ行ったんだ?」

 

「さっきブラックマーケットの代表に呼び出されてたな。またなんか無茶ぶりされてんじゃないのか?」

 

「おい聞いたか。なんか支店長、ハウンズとのコンタクト成功して和解に向けて調整役やる事になって、本社に出向くらしい」

 

「本当か!? 前々から有能な人だとは思ってたが……流石は元本社のエリートだなぁ」

 

「まぁ、問題は……あのPMC共だよなあ」

 

 コソコソと話しながら、銀行員たちの視線は奥の扉──資料室を警備しているPMCの兵士達に向けられている。アビドスや怪しい入金がある日は必ず理事直属の部隊と銀行員が訪れ、ああして資料室を占拠するのだ。

 以前から立ち入りを制限されており、そして先ほどの支店長への暴行。銀行員達も随分と横暴な兵士達に我慢しているが、それも限界に近くなってきている。

 

「あれ、可笑しいな。パソコンの電源が落ちたぞ?」

 

 その言葉と同時に銀行内の全ての電源が落ち、銃声が響き渡る。

 

「何事だ、ぐはぁ!?」

 

「て、敵襲!! 敵襲!!」

 

「うわ、馬鹿!? やたらめったら撃ちまくるな!! 当たるだろうが!!」

 

 警戒していた兵士の一人が撃たれたのを見て、PMCの兵士達は周囲を撃ちまくるが、正確に狙いを付けたわけでもないので、本当に弾をバラまくだけの行為。慌てて銀行員達は机や物陰に隠れて罵声を浴びせる。

 

「いっつも偉そうにしてる癖に、役にたたねぇのかよ!!」

 

「虎の威を借るなんとやらって事だろ!!」

 

 暗闇から聞こえてくるのは、先程から兵士達の悲鳴ばかりであり、どうにも誰かを仕留めたという気配がない。

 同士討ちでもやってんじゃないのか? と銀行員が様子を見ようとした瞬間、銀行内の電源が復旧し、明かりが戻る。

 そこには無様に撃ち抜かれ倒れ伏している兵士達の他に、覆面やら紙袋やらペストマスクやらで顔を隠した集団の姿があった。

 

「全員その場に伏せなさい!! 持ってる武器は捨てて!!」

 

「言う事聞かないと、痛い目にあいますよー☆」

 

「あ、あはは……みなさん、ケガしちゃいけないので……伏せてくださいね……」

 

「ぎ、銀行強盗だと!? 支店長が居ないときに限って!! くっそ、まじで何のために居たんだ、この役立たずども!!」

 

「うへ~、確かにあまり役に立たない警備だったねー。次はもっと良い所に頼むのをお勧めするよー」

 

「ご忠告どうも!! こっちは非力な銀行員だ。手荒なことしてほしくないんだけどね!!」

 

 速攻で無力化された兵士達に、日ごろの恨みを兼ねた罵詈雑言を浴びせながら、銀行員達は大人しく地面に伏せる。こんな時でも肝が据わっているのは、あの支店長の教育の賜物なのだろうか。

 とペストマスクの下でワカモが考えるが、直ぐに首を振ると目的を思い出す。

 

「さて、リーダーのファウストの言う通り、ケガしたくなければそのまま伏せていなさい。そうすれば、そこの兵士共の様に無様な姿にならずに済みます」

 

「ここまで計画通りだねー。さぁさぁ次のステップに進もうー。ファウストさん、指示をお願いねー」

 

「えっ、えっ!? ファウストって、わ、私ですか!? リーダーですか? 私が!?」

「ワカ……じゃなくて、クロウさんとかじゃなくて!?」

 

「私は今回は雇われですから。本来、貴女の傘下でしょう。この覆面水着団は」

 

「そうですよー。ファウストさんは私達覆面水着団のボスです!! ちなみに私は覆面水着団のクリスティーナだお☆」

 

「うわ、なにそれ!? 何時から覆面水着団なんて名前になったの!? それにダサ過ぎだし!!」

 

 流石にその名前はどうなんだ……? と銀行員達も思っているようだが、それを正直に口に出すほど馬鹿ではない様だ。

 

「あう……リーダーになっちゃいました……えっと、そこの行員さん、資料室の場所は何処ですか」

 

「し、資料室だと? そんな場所に一体何の用が……」

 

「うへ。ファウストさんは怒ると怖いんだよー? 素直に言う事聞いた方が身のためだよー?」

 

「そ、そこだ!! そこの扉に資料室がある!!」

 

「ふむ、ここですか。私が中で探してきますので、みなさんはここで警戒を」

 

「ん、了解。クロウ、残り時間2分」

 

 行内の警戒を他の面子に任せ、ワカモは資料室に入ると直ぐに書類に目を通し、必要な物は即座に持っていたカバンへと詰め込んでいく。伊達にシャーレで書類仕事をこなしている訳ではない。

 アビドスの借金に関する資料、不正な武器流出で得た資金の流れ等、事前に先生と支店長に指示された内容の資料を集め、即座に資料室から離れる。

 

「ワカ……じゃなくて、クロウ! 資料は全部集めた!?」

 

「ええ、問題なく。これで用はなくなりましたし、撤収いたしましょう」

 

「そうだねー。それじゃみんな撤収するよー!」

 

「アディオース☆」

 

「あ、あはは……行員の皆さんはケガしてないようですし……えっと、それじゃ、さよなら」

 

 そう言って最後に煙幕を展開し、覆面水着団は銀行から飛び出すと即座に横付けされていた装甲車に乗り込んでいく。

 その運転席に座っているのは、まさかの支店長であった。

 

「資料は回収したか!?」

 

「ええ。必要な物は全て回収しました」

 

「よし、追手が来る前に即座に離れるぞ!! こう言う時の対策も教育しているからな!! 

 ……しかし、PMCの兵士共、役に立たんではないか!! いきなり全員が無力化されるなど、木偶の坊どもが!!」

 

 そう言いながら支店長は車を走らせる。どのルートで増援が来るか、その全てを彼は把握しており、追手を振り切るのが彼の役割だ。

 

「けど、支店長良かったのー? 自分の銀行襲わせてさ。話を聞いた限りだと、失点になるんじゃないの?」

 

「ふん、貴様ら小娘が心配することじゃない。それに奪ってきた資料には、他の上役の裏金や弱みも載っている。それをチラつかせれば、どうとでもなる」

 

「ん、思ったより悪いこと考えてるんだね。支店長って」

 

「けど、先生に負けず劣らず優しい所もありますよね☆」

 

「うるさい、黙れ小娘ども!! 運転に集中できんだろうが!!」

 

 そう言って運転する支店長の姿に、何処か可笑しいのか笑う面々なのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




先生とワカモをイチャイチャさせたい欲が出てきた今日この頃。

支店長がかなり使いやすいキャラになってきた気がする。
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