ブルーアーカイブ Day After Day 作:燃え殻の灰
7000字あたりに纏めたいなぁと思う今日この頃。
外郭地区
「ユウカ、2m先の瓦礫に隠れて。スズミは五秒後に閃光手榴弾を投擲」
戦闘が始まってから、絶えず耳に聞こえてくる先生の指示。メートルや秒数単位での細かい指示であり、それに従って瓦礫に隠れれば銃弾の雨を避け、指示された場所に弾丸を撃ち込めば未来予測のように不良生徒へ命中していく。
その戦いやすさは、前線にいるスズミやユウカ、そしてその少し後ろで援護しているハスミが特に感じていた。
今まで己の技量だけで戦っていたのだが、指示があるだけでこんなにも戦いやすくなるのか、と。
「なんだか何時もより、戦闘がやりやすい気がします。ユウカ、閃光手榴弾、追加で投擲します」
「了解。やっぱりそう思うわよね。隠れる位置とか的確に指示してくれるし……」
「先生の指示の場所を撃てば、そこに不良達がいますものね。まるで弾が吸い込まれていくように命中します」
3人の経験の中で、今までの戦闘より格段に戦いやすく、被害もなければ手持ちの弾の消費も少ない。なにより戦いやすいのだ。
退避する場所の指示。一見誰もいない場所に射撃するよう指示されてみれば、物陰から飛び出してくる不良達に弾が吸い込まれていく。
そしてなにより、今まさにこちらに銃を構えた不良の頭に命中する弾丸。前線にいる3人の弾ではないそれは、後方のビルから飛んできた弾丸である。
「なにより、先生の狙撃が完璧すぎますね。まるで未来予知です」
「お疲れ。3人とも、この辺りは制圧できたようだ。少し待っててくれ、合流するから」
「せ、先生、無理しないでくださいね。傷口が開いてしまったらどうするのですか」
「チナツ、これくらいなら心配しなくても大丈夫だ。それより前線にいる3人の怪我を見てあげてくれ」
そう通信機器から聞こえてくる通り、先ほどの狙撃は先生が何処からか取り出したのか、
なにより3人に的確な戦闘指示を行いながら、狙撃を得意とするハスミ以上の腕前なのだから、驚くしかない。
それでも、近くで見ていたチナツにとっては、一発一発を撃つたびの衝撃で若干痛そうにする先生を見るのは精神的によくはなかったらしい。
後方で先生と一緒に居たチナツが心配そうに彼の身体を支え、ビルの屋上から降りてくるまでの間、ユウカ達の話題は先生のことだ。
「これが先生の力……連邦生徒会長が選んだ方だから、って言うにはすごい実力よね。狙撃だけで何人気絶させてるのよ」
「狙撃にしても指示にしても的確ですし、何より指示に迷いがありません。私やユウカさんの隠れる場所とか、ちゃんと指示してくださいますし、そこに隠れたら今までいた場所に弾丸が殺到しましたしね」
「スズミの手榴弾の投擲場所の指示も、最も効力の発揮する地点に投擲させていましたね。それを狙撃しながらなのですから、すごいものですよ。私も負けていられませんね」
そんな事を話していれば、ビルからチナツに支えられた先生が降りてくる。先ほどまで持っていた
確かに、この先生の指示なら今までより断然戦いやすくなるのでは、そんな期待が高まるのを感じていた。
だが、それよりも驚くべきことがある。
「ハスミさん、手を見せてください。ああ、やはり擦り傷がありますね。今、消毒をします」
「この位なら、後でもいいのですが……」
「だめです! 傷口から雑菌が入ったらどうするのですか! 消毒して手当てしますので、さぁ手を出してください」
「ハスミ、少しの怪我だからって甘く見てはいけないよ。チナツに手当てしてもらいなさい」
「せ、先生まで……わかりました。チナツ、お願いします」
「はい。少し沁みますよ。それと先生も、先ほども言いましたが無理しないでください。そのように大怪我されているのですから!!」
本来、ゲヘナとトリニティはあまり友好的な関係とは言えず、チナツと、ハスミやスズミの仲も最初はギクシャクしていたのだが、先生が仲を取り持つような言動で、いつの間にかそこまでギクシャクはしないようになっていた。
ハスミだけでなくスズミとも友好的な関係を違和感なく築けているのを、チナツ自身も感じており、外部から見ていたユウカでさえすごい進展だと思えるものだ。
この先生との出会いにより、何かが変わるんじゃないか。そんな思いが皆の心に芽生え始めていた。
外郭区画 シャーレ前広場
「ふむ、あの建物に何があるかは存じませんが、何やら連邦生徒会が大切に保管しているものがあるとか。気にはなりますが……それよりもこの香り、とても近くにいらっしゃるようですね」
そう零すと、狐耳の少女は周囲にいた不良達に指示を出し、そのままシャーレの内部に歩みを進める。
もう少しで運命と出会える。そんな予感を胸に抱きながら。
「狐坂ワカモ、それがこの騒ぎの首謀者の名前か」
「はい。百鬼夜行連合学院で停学になった後、矯正局を脱獄した生徒です。破壊活動の常習犯であり、似たような前科を多数持っています」
「それはそれは……中々に危険な生徒の様だな。常習犯となると、今回も特に理由はないのかな」
「脱獄する直前に、火の香りがするとよく分からない発言をしていたそうですが、恐らく特に理由はないでしょう」
「火の……香り……そう発言したのだね?」
「先生? どうかされたのですか?」
リンからの通信で首謀者の概要を聞いていた先生だが、最後の「火の香り」という言葉を聞いて、少しだけ考え込むように黙り込んでしまう。
どうしたのだろう? と思ったリンが声をかけたが、次の爆弾発言に驚きを隠せなかった。
「よし、そのワカモを私が捕まえることができたら、シャーレで身柄を預からせてほしい」
「……理由をお聞きしても?」
「似た者同士の予感と言えばいいかな。なによりシャーレは何処の学園の生徒でも所属ができるんだろう?」
「相手は脱獄した危険な人物です。先生の身に何かあったらどうするのですか」
狐坂ワカモ。危険度ではキヴォトスでトップクラスであり、破壊活動の常習犯で、単体の戦闘能力もトップクラスという厄介極まりない人物として有名であり、【災厄の狐】と呼ばれる程のものだ。
そんな人物を連邦生徒会の組織であるシャーレの先生の近くに置いていいものか、と考えれば断じて否である。
「リン、大丈夫だ。私を信じてくれないかな。捕まえたらちゃんと言って聞かせるよ」
「……はぁ。先生の声を聴くと、なんとかなるかもしれないと思ってしまうのは何故でしょうね。わかりました、先生の判断に委ねます。ただ、もし制御できないようであれば矯正局に戻ってもらいますので」
「そうならないように最善を尽くすさ。私の生徒の一人なんだろうからね。さて、部室前の制圧は完了した。リンもそろそろ現場に来てくれるかな」
「わかりました。すぐに向かいますので、建物の地下でお会いしましょう」
そう言って通信を切り、制圧した広場に視線を向ける。先ほどの戦闘で戦車も破壊しており、暴れていた不良達は1か所に纏められていた。
なお、更に抵抗しようとした不良生徒達は全員もれなく先生の拳骨が振るわれており、頭のてっぺんに大きなタンコブが出来上がっていて、かなり痛そうである。
「ちくしょー!! 大人が生徒に手を出していいとおもってんのかー!」
「暴力はんたーい!! さっさとはなせこらー!!」
「ど、どの口が言ってるのよあなた達……」
そのユウカの一言は、その場にいた皆の心の代弁であった。
先生side
シャーレ地下室
その後、不良生徒達の方はユウカ達と、リンが連れてきた生徒会員達に任せて、私と彼女はシャーレの地下室に歩みを進める。
「ここに連邦生徒会長が残したものが保管されています。幸い、傷一つ付いてないようですね」
そう言ってリンが差し出してきたのは一つのタブレット端末である。何処にでもあるようなタブレット端末だが、これが重要なものなのだろうか。
私にはただの端末にしか見えないのだが……?
「ふむ、ただのタブレット端末にしか見えないが、それほどのものか?」
「はい。これが連邦生徒会長が残した物。【シッテムの箱】です」
【シッテムの箱】とそう呼ばれたタブレットだが、何故か聞き覚えがある様に感じている。私はこれを知っているのか、あるいは私を形作る何かが知っているのか。
ただ情報を思い出そうにも、上手く言語化ができない。
なんにせよ、これは何かしらの重要な存在なのだろう。
「普通のタブレット端末に見えますが、正体が分からないのです。製造会社もOSもシステム構造も、動く仕組みさえすべてが不明」
「なるほど。見た感じでは既存のものと変わりなさそうだが」
「……連邦生徒会長は、この【シッテムの箱】は先生の物で、先生がこれでタワーの制御権を回復させられるはずだと言っていました。私たちでは起動すらできなかった物ですが、先生ならこれを起動させられるのでしょうか。それとも……」
「そこまで期待されると緊張するのだが、まぁ試してみよう。リンや生徒たちの為だしな」
そう言ってリンを安心させるように笑いかける。そうだな、まだキヴォトスに来たばかりだが、彼女たちは私の大切な生徒だ。
そう思うと、自然と口から言葉が漏れ出す。
「リン、私はね、キヴォトスに来たばかりだが、みんなの事を大切に思っている」
「先生……ありがとうございます」
「まだ本当に短い間しかみんなの事を知らないが、暴れていた生徒達だって、みんながいい子だと思っている。勿論、暴れすぎているのだからお仕置きは必要だけどね。だからこそ、私は願うよ。生徒達みんなに、この透き通った空の下で、今日も明日も、優しい毎日が続くようにって。だから、任せてくれないか」
「ふふ、先生は不思議な方ですね。先生がそう願うのなら、本当にそうなる。そんな気がしてきました。ここから先はよろしくお願いします」
ああ、やはりこの子もとてもやさしい子だ。ならば先生として答えないわけにはいかないだろう。
そう微笑んで小さく頭を下げて離れていくリンを安心させるように頷き、シッテムの箱の画面に触れる。
すると画面が光り、パスワードを求める画面が表示される。本当に私が来るのを待っていた、ということか。
思い当たる言葉はない。のだが、何故か脳裏に知らない文章が浮かんでくる。まったく詳細の分からない文章だが、恐らくはこれが正解なのだろうという妙な確信があった。
【我は望む。七つの嘆きを】
【我々は覚えている、ジェリコの古則を】
さて、どういう意味なのか、なんの事を言っているかは分からないが、画面が先に進むのでこれが正解の様だ。
〈接続パスワードを確認。現在の接続者情報の確認を完了しました。認めましょう、今日から貴方は
なんとも……なんともはや懐かしい言葉を真似てくるものか。かつて幾度も幾度も聞いたことのある言葉。地下世界で、偽り空の世界で、赤い星の大地で、最初に私が聞いた言葉。
〈生体認証及び認証書制作のため、メインオペレートシステムA.R.O.N.A起動します〉
そのシステムメッセージの直後、画面が切り替わり、別の景色が広がっていた。透き通るような青い空と海、そしてこれは……半壊した教室だろうか。
そんな不思議な教室の机に突っ伏して眠っている少女が一人。何やらぐっすりと寝ているようだが、彼女は何者だろうか……?
「むにぁ……カステラにはぁ……いちごミルクよくぃ……バナナミルクのほうが……」
「……いやぁ、普通にミルクだけの方が合うと思うがな」
何やら幸せそうな夢を見ている少女の寝言に、私はポツリと返事をこぼしてしまう。私自身、あまり甘いのが得意というわけではないので、甘いもの×甘いものは遠慮したいものだ。
「けど、甘いもの食べるとぉ……幸せになりますよぉ。まだまだたくさん……ありますようへへ」
「幸せにはなるだろうが……その後の体重計が地獄を見るぞ。さて、起きてくれないか。君が誰で、この画面は何なのか教えてほしいんだが」
なんだかスイーツ女子を敵に回しそうな発言をしながら、眠っている少女を起こすために画面上で頬を突いてみる。
そうすると、少女がむにゃむにゃと言いながら眠気眼でこちらを見てくるではないか。画面に触っただけなのだが、まさか感覚が伝わるというか?
ますます謎の遺物だな、この【シッテムの箱】とやらは。
「むにぁ……ありゃ……? ほにゃぁ?」
「おはよう。よく眠れたかな」
「ありゃ……ありゃりゃ……? え。あれあれあれ。ここに入ったきたということは……
どうやら少女は目が覚めたようで、こちらを認識してくる。ふむ、私の名前を呼べないことに疑問を持っているようだが、まぁ仕方がないだろう。世界そのものが私を拒んでいるのかもしれない。
まぁ、そのような理自体焼き尽くせるので大した問題ではない。
「そこは気にしなくてもいいだろう。さて、君は誰なのか教えてくれるかな」
「うわわ!? そうですよね! もうこんな時間!? 寝すぎてしまいました!! えっとその、まずは自己紹介から!」
そう言うと少女は背筋を伸ばして小さく頭を下げてくる。礼儀正しい子のようだな。
「私はアロナ。この【シッテムの箱】に常駐しているシステム管理者であり、メインOS、そしてこれから先生のアシストをする秘書です!!」
「管理者……か」
意味合いが違うだろうが、どうにも管理者やAIなどの単語には反応してしまう。まあ、あれらの存在が私の様に流れ着いたり存在しようとも、やることは変わらない。
だが、そうなると彼女、アロナが【シッテムの箱】そのものということだろうか。そんな事を考えながらも、私は彼女の話の続きを聞くことにした。
「やっと会うことができました! 私はここで先生をずっと、ずーっと待っていました!! た、たまに居眠りとかしてましたが……」
「甘いものが好きなのもいいけど、食べたら歯を磨いて寝ないと虫歯になってしまうよ」
「あにゃ!? そんな事いってましたか!? あうう、すいません」
「ふふ、気にしなくていいさ。アロナ、これからよろしく頼むよ」
「はい! まだ身体のバージョンが低い状態で、声帯周りの調整が必要ですが、よろしくお願いしますね
私の名前が発音できなくて困っているようだが……まあ、こればかりはちょっと我慢してもらおう。それほどまでに重いということなのだろうな。
「まあまあ。これからのサポートに期待してるよ、アロナ」
「うう……はい、わかりました。では先生、これから形式的ではありますが生体認証を行います。少し寄っていただけますか」
「ああ。この位でいいかい?」
「はい、大丈夫です。少し恥ずかしいですが……この私の指に先生の指を当ててください」
そう言われるがまま、アロナと指先を合わせる姿は、遠い昔の映画のように感じる。
「うふふ。まるで指切りして約束するみたいでしょう?」
「そうだね。なら食べた後はちゃんと歯を磨くんだよ? あと食べすぎはだめだからね、約束だ」
「はひ、からかわないでください! これで生体情報の指紋を確認するんです! 画面に残った指紋を目視で確認しますので、少し待ってくださいね。こう見えて目はいいのです!」
……これほどまでに高性能らしいのに、そこは目視なのか。というか、彼女は本当にAIなのだろうか。声質などは確かに違和感があるが、あまりにも
……主任とかは論外だ。そもそもあれはなんなのだ。人類の可能性を信じてはいるが、あまりにも過激派すぎるだろう。それに負けないあの世界の人類も凄まじいものがあるがな。
「うーん……どれどれ……まぁ。これでいいですかね」
「適当だけどいいのか、それは。しかし、今の最新機能ならば指紋認識位一瞬で終わるだろうに」
「だ、大丈夫ですよ! 手抜きとか一切してません!! って、そんなに速いんですか!? わ、私にはそんな最先端機能はないのですが……」
……一体本当に【シッテムの箱】とはなんなのだろうか。だが、それは今はおいておくとしよう。早急に解決しなければいけない案件がある。
「なるほど。連邦生徒会長が行方不明になって、そのせいでキヴォトスのタワーを制御する手段がなくなってしまったと。先生の事情は大体把握できました」
「君は連邦生徒会長の何かしらの情報は持っているのか? それならば教えてほしいんだが」
「私はキヴォトスの情報の多くを知ってはいますが……連邦生徒会長についてはほとんど知りません。彼女が何者なのか、どうしていなくなったのかも……お役に立てずにすいません」
「そうか。まぁそれは仕方がない。これから地道に調べていくとしよう。それよりタワーの問題についてはどうにかできそうか?」
「はい! サンクトゥムタワーの問題でしたら、私が何とか解決できそうです」
「それなら早速お願いしようか。困っている生徒たちがたくさんいるからね」
「はい、それではサンクトゥムタワーのアクセス権を修復します!」
アロナの返事の直後に、地下室の電源が復旧し、明かりがついていく。リンに視線を送れば、通信で各所の施設が復旧し始めたのを確認しているらしい。
私の視線に気が付き小さく頷いた様子から、危機は脱したようだ。
「サンクトゥムタワーのadmin権限を取得完了。サンクトゥムタワーの制御権を無事に回収できました。今サンクトゥムタワーは、私アロナの統制下にあります!!」
「すごいな。よくやった、アロナ」
「はふ、えへへー」
指先でアロナの頭を撫でてあげれば、まんざらでもない様子でふにゃりと笑ってくれる。しかし、これほどの機能を持ちながら、認証機能やらバージョンが低いとはどういうことなのか……
「はっ! けふんけふん。今のキヴォトスは先生の支配下にあるも同然ですよ! 先生が承認してくだされば、サンクトゥムタワーの制御権を連邦生徒会に移管できますが、どうしますか? 渡しても大丈夫ですか?」
「ああ。構わない。管理するのは私の仕事ではないからね」
「わかりました。これよりサンクトゥムタワーの制御権を連邦生徒会に移管します!」
むしろ、それらを焼き尽くす側だから。とは口が裂けても言えない。仮にもし、リンやアオイがそうなったならば……制御権を取り戻すだけだが。
まあ、彼女達ならば大丈夫だろう。短い間だが、そう感じるくらいの安心感がある。
「……はい。分かりました。サンクトゥムタワーの制御権の確保が確認できました。これからは連邦生徒会長がいた頃と同じように、行政管理を進められますね。お疲れさまでした、先生。キヴォトスの混乱を防いでくれたことに、連邦生徒会を代表して深く感謝いたします」
「そうか。なによりだ。まずは最初の仕事はこなせた。ということかな。先生として合格かな?」
「ふふ、もう既に合格されていますよ。先ほど、不良や停学中の生徒達に説教もしてくださったのでしょう。みな、反省していると連絡が入ってきました」
それは何よりだ。あの子たちもいい子なのは間違いない。ただ少し、感情や言葉の表し方が下手なだけなのだろう。
「では改めて、連邦捜査本部【シャーレ】にご案内します」
シャーレ メインロビー
「ここがシャーレのメインロビーです。長い間空室でしたが、ようやく主人を迎えることになりますね」
そこに広がるのは、青い空が見える大きな窓の一室。ここが私の仕事場になる部屋か。必要最低限のモニターやら棚やらは用意されているようだ。あとは何かしら用意しておいてみるのも悪くないだろう。
「ここで先生のお仕事を始めると良いでしょう」
「なるほど。何からやればいい、という希望はあるのか?」
「いえ。シャーレは権限だけはありますが、目標のない組織なので何かをしなくてはいけない、という強制力は存在しません」
それはつまり……
「先に説明した通り、キヴォトスのどんな学園の自治区にも自由に出入りでき、所属に関係なく先生が希望する生徒たちを部員として加入させることも可能です」
「それはまた、随分と縛られないものだな」
「面白いですよね。捜査部とは呼んでいますが、その部分に関しては連邦生徒会長も特には触れていませんでした。先生がやりたいことを、なんでもやっていい。ということですね」
なんともはや、随分と私向きの組織というわけだ。本来、私は縛られるのは嫌いだ。我々は自由なのだと、そう叫びたいだけだ。
「ここでも自由にやれ、ということか。まぁ、私の気質に合っているから上手くできるだろう」
「……すいません。どういう意図なのか本人に聞いてみたくても、連邦生徒会長は相変わらず行方不明のまま。私たちは彼女を探すのに全力を尽くしているため、キヴォトスのあちこちで起きる問題に対応できるほどの余力がありません」
「なるほど。それなら、私は連邦生徒会が対処できない問題に着手していこうか」
そう私が返事をすると、リンは少し眼を丸くした後に微笑みを返してくれる。
「ありがとうございます先生。今も生徒会に様々な要請や苦情が届いています。支援物資の要請、環境改善や落第生への特別授業、部の支援要請など……お恥ずかしいですが、お願いしたい件が多数あります」
「任せてもらおうか。
「その辺りに関する書類は、先生の机の上に用意しておきました。準備などが整いましたらお読みください。先生ならば、きっと良い方向に解決してくれる、そんな予感がしています」
そう言ってリンは会釈すると、シャーレから出て行った。さて、まずは準備から始めなければいけない。
シャーレ前広場
「はい、こちらでもサンクトゥムタワーの制御権を連邦生徒会が取り戻したことを確認できました」
「そうか。これでみんなの学園も問題なく運営はできるようだね」
「はい。ありがとうございました。私たちはここまで。あとは担当者に任せます」
「お疲れさまでした、先生。先生の活躍はキヴォトス全域に広がるでしょう。すぐにSNSで話題になってしまうかもしれませんね?」
そう言ってユウカはクスリと笑みをこぼす。そこまで有名になると困ったことになりそうだが、まあ隠しても仕方がないのだろう。
「これでお別れですが、近いうちにぜひ、トリニティ総合学園に立ち寄ってください、先生」
「私も、風紀委員長に今日のことを報告しに戻ります。ゲヘナ学園にいらっしゃった時は、ぜひ訪ねてください」
「ミレニアムサイエンススクールに来てくだされば、またお会いできるかも? では、また!」
「ああ。また近いうちに挨拶に伺うとするよ。それまでみんな元気でね。私の大切な生徒達」
そう言って私は笑顔で生徒たちを見送った。ああ、なんていい子達なのだろうか。
「……先生って天然なのかしら。うれしいけど恥ずかしいわね……」
「げ、劇物すぎますね……しかも本当に撫でてくださるとは……」
「これがあれば風紀委員の激務も頑張れそうです。……委員長にも体験してもらった方が……」
深夜 シャーレ部室
椅子に深く腰掛けて夜空を見上げながら、私はある人物を待っていた。ずっと視線を感じているし、この時間ならば人もいないし来やすいだろう。
その予想通り、部室の扉が開き、月明かりの元に一人の生徒の姿が見える。
「こんばんは、火の香りがするお方」
「やぁ、こんばんは。狐坂ワカモ」
そこにいたのは狐面を被った少女、狐坂ワカモ。そして被っていた狐面を外し、その黄金色の瞳が私をとらえた。
「まぁ、私の名前を知っていてくださったのですね。とてもうれしいです」
「色々と話を聞いたからね。近くにおいで」
そう言って私が手招きすると、ワカモは恥ずかしそうに、そして嬉しそうに近くまで寄ってきてくれた。
こうしてみると素直ないい子だが……私も似たようなものだ。人は見かけによらないもの。
そのまま二人で無言で月を見上げているが、少し経てばふっとワカモが言葉を漏らした。
「あなた様は、ここで何をなさろうとしているのですか? 私なんかより圧倒的な力を秘め、それなのに静かに見守るような方」
「……そうだなぁ。私が何をしたいか……か」
色々とやりたいことは多い。やらなければいけないこともある。だが、あえて言葉にするならば……
「全てを焼き尽くした後に、生まれてくる
それがきっと、みなの、生徒達の優しい毎日に繋がるのだと、私は信じている。
「……とても大きくて優しくて、そして険しい夢をもっているのですね」
「そうだな。だからこそ、ワカモに手伝ってもらいたいと思っている」
「私に……ですか。その……迷惑ではありませんか? 私、脱走しておりますし……悪名もそれなりにあります」
不安げに揺れるワカモに、私は笑って返事をする。その位ならばなんてことはない。こちらは文字の如く
「それなら、私と後で謝りにいこうか。ちゃんと反省文も書いてね。だからワカモ、私の手伝いをしてくれないか?」
「……はい……はい! 不束者ですが、よろしくお願いします、先生!!」
こうしてシャーレに最初の生徒、狐坂ワカモが所属してくれた。
「そう言えばあなた様のお名前を教えてくださいませんか」
『あー! 私も知りたいです!! そうしたら上手く発音できるかもしれません!!』
「アロナも知らないのですか? 秘書といってましたのに」
『うう……上手く発音できないんですよぉ』
「私の名前か。そうだな……ちゃんと名乗っておくべきだろう。私が声に出せば、理は焼き切れるはずだ」
????
「どうした621、なに? 少し外出してくる? 構わんが……ああ、待て。ちゃんと財布とスマホは持っていけ。市街地には622がバイトに出ている。差し入れに持っていってやれ。……人に会ってくる? そうか、先方にちゃんとアポイントは……いってしまったか。だが621が自主的に人に会うとは……良い傾向だ」
シャーレ所属生徒No1 狐坂ワカモ
作者の一番推しだから。
お買い物日常回を書いたらアビドスへ。
WH02RS-WYRM
3~NBまで登場したスナイパーライフル。射程よりも威力を重視した攻撃型。
3系列とN系列は型式が違う模様。
NX系では強武器の一つであり、マガジン方式を採用しており、通称マガスナと呼ばれていた。