ブルーアーカイブ Day After Day   作:燃え殻の灰

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これもうどっちが悪役か分からないね。


第18話 黒より黒く

 

 

 

 

 

 

 カイザーPMC基地 深部

 

「そうか。霧と影の名を持つ人と、そしてあの二人と会ったようだね」

 

 温かい。温かい。孤独で冷えた身体が、そして心が温まる。この人(先生)の温もりと優しい声色の全てが心地よい。

 後から後から涙が溢れる。悲しみとは違う、優しくて温かい涙が止めどなく。

 この人(先生)はこんなにも温かくて、優しいと分かっていた。だからこそそれに頼るのが、溺れるのが怖かった。

 しかし、もう戻れない。この優しさを、火のような温かさを知ってしまったらもう孤独に、一人で立ち向かう事など出来なくなってしまう。

 

「よしよし……。もう大丈夫だホシノ。前にも言っただろう。君が助けて欲しいと願うのならば、直ぐに助ける。その約束を私に守らせてくれるかな」

 

「……せんせぇ、その言い方はずるいよ~……」

 

 優しく背中をポンポンと叩きながら、ガラス細工を扱うかのように優しく抱きしめられる。自分の鼓動が聞こえてしまうんじゃないかと思うくらい心臓が高鳴り、ホシノの顔が別の意味で赤くなる。

 どうしてこの優しい人は、これほどまでに自分を大切にしてくれるのだろうか。いや、きっと自分だけではない。先生にとって自分は多くの生徒達と同じで守るべき存在と言うだけなのかもしれない。そう考えると、ホシノの胸がチクリと痛む。

 そんなホシノの心を見透かしているのか、先生は安心させるかのようにホシノの背中を優しく撫でてあげている。

 

「大丈夫、大丈夫だホシノ。君が望むのならば、私は君を絶対に守ろう。だから、もう無理しなくても良いんだ」

「……先生に守られる……?」

 

 その言葉を聞き、脳裏に浮かぶのは親友(ワカモ)の姿。

 

(ああ、そっか。ワカモちゃんは共に歩むことを選んだんだ。守られるだけじゃなくて、先生と一緒に前に進むために)

 

 思えばワカモは常に先生の隣に立っていた。それはきっと彼女がこの人の、先生の役に立ちたいと、共に歩みたいと願い、それに相応しい努力し、実力を積み重ねてきたから。

 そんな二人に憧れを抱いたりもした。

 

(だけど、今の私はどうだろう。一人で焦って一人で失敗して、そして先生の温もりにただ甘えようとしている……。そんなのは絶対にダメだ)

 

 先生の温もりは、火の様に優しく包み込んでくれる。だが、それに甘えてしまっては戻れなくなる甘美なる毒物だ。

 

(私はどうしたい? このまま先生の優しさに甘えて、守られるだけの存在になってしまう?)

 

 だからこそ、ホシノは涙を拭い決意を込めて先生の瞳を見つめ返す。

 

「それだけは絶対にいやだ。ねぇ、せんせぇ。私ね、もう二度と大切な物を失くしたくない、壊したくない。ノノミちゃんやシロコちゃん、アヤネちゃんとセリカちゃんと一緒に過ごしたいし笑い合いたい。けど、それと同じ位に先生とワカモちゃんと一緒に前に進みたい。そんなわがままを、許してくれるかなぁ……?」

 

「そうか……。ああ、そうだね、ならそのホシノの夢が叶う様に私も手伝うよ。ふふ、そうだったね。ホシノは強くて優しい娘だったね。やはり人の示す心の光は、可能性は素晴らしい」

 

 本当に、本当に嬉しそうに笑いながら先生はホシノを更にギュッと抱き締める。ああ、本当に強くて優しい娘だと。優しくて透き通ったその願い。必ず守るのだとそう表すかのように。

 そして気が付けば、ホシノは小さく寝息を立てて眠りについている。恐らく緊張で張りつめていた意識が、先生の温もりで限界に達したのだろう。だがある意味でちょうど良いタイミングだったのかもしれない。

 先生は優しい微笑みを消し、入り口に立ち尽くしている異形の者、黒服へと鋭い視線を向けるのである。

 

「その異形、そうか、お前がゲマトリアか。随分、コソコソ隠れてやっていたようだな」

 

 

 

 

 

 

 

 


 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……あり得ない。どうやってこの区画に侵入したというのですか。この短時間で見張りの兵や警報を掻い潜る等出来るわけがない」

 

「無理を通し道理を焼き尽くして生徒の元に駆け付けたまでの事だ。それが先生という物だよ」

 

 いや、違う。と黒服は頭を振る。

 確かにこの人物(先生)は興味深い存在であった。だが、その興味すら超える謎の感情。これは一体なんだ。いや、そもそも……

 

「あなたは一体……なんなのですか……!!」

 

 黒服がようやく絞り出した声は震えている。何時もの冷静沈着な姿は何処にもない。理解が出来ない、これが先生? これの何処が優しくて穏やかな先生だと言うのだろうか!! 

 黒服の眼には得体の知れない存在が、ただ先生という形をしているだけにしか見えない。それこそ自分たち以上の異物ではないか!! 

 そんな考えを見透かすかのように、先生は低く嗤う。それは先ほどまでホシノに見せていた優しい火の笑いではなく、暗く暗く深淵の如き嗤い。

 

「くははは……。観測者気取りの様だが、随分と無知の様だな。否、己を知恵者と勘違いしている愚者と言うべきか。まぁ、貴様ら如きに私は理解できんよ」

 

「私が……愚者だと……?」

 

ドミナント(神秘を宿す者)。間違った解釈をしているが、その言葉にたどり着いたのはひとまず誉めてやろう。だが、そこで止まってしまったのは頂けん。そもそもその言葉は神秘を宿す者などと言う意味ではない。本来はドミナント(先天性戦闘適合者)を意味している」

 

「先天性戦闘適合者……? そんな馬鹿な。私が調べた文献……しら……べた……? まて、私は何を見た……? 何を調べた……? なにで、この言葉を知った……?」

 

 ゾワリと黒服の背中に悪寒が走る。そうだ、一体自分は何でこの言葉を知った? 何故調べようと思った? なぜ、神秘を宿す者と言う結論に達したのだ? 自分の意思は、思考は、何処にあった? 

 

「くくく、滑稽だ。ああ、本当に滑稽だ!! 自分で考え、調べ上げたと思ったら、誰かに思考を誘導されていた、と。くはははは、観測者気取りが随分と哀れだな!!」

 

 口が裂けたかのように嗤う先生であるが、黒服はそれどころではなかった。一体いつから自分は、思考を誘導されていた……? いや、浸食されていたのかもしれない。だが、一体誰に!? 

 

「ありえない。私は……我々はキヴォトス(この世界)の理の外にいるはず……!!」

 

「自分達だけが、キヴォトス(この世界)の理から外れていると思っていたのか? ……それこそ驕りと言うものだ。第一、貴様らはキヴォトス(この世界)すら理解していないだろう?」

 

「……何が言いたいのです」

 

 思えばこの先生もキヴォトス(この世界)の外から来た人物だという。だが、それにしても全てが可笑しい。この人物は……本当に人なのだろうか。

 

「探求心とは甘美な物だが、同時に危険を伴う毒物でもある。たった一つの探求心が世界を崩壊させた。なんて事もあるのだからな」

 

 とある世界において、封印されていた特攻兵器を目覚めさせた企業が居た。それこそただの探求心での行動だから質が悪い。それにより世界は崩壊し、そして更に()()()()()まで目覚めさせる結果になるほどだ。

 

「さて、一つ講義でもしようか。黒服とやら、何故ドミナント(先天性戦闘適合者)などと言う言葉が生まれたと思う?」

 

「……多くの凡人は理解できない存在を拒む傾向にあります。そして、理解できない存在を自分達とは違う存在だと認識するために、あえて特別な呼び方を付けた。そんなところでしょう」

 

「その通りだ。今はもう使われなくなった古い言葉だが、他にも特殊やら特別やらと色々な言葉でもそう認識されている。ならば、ドミナント(先天性戦闘適合者)は何を望まれた?」

 

 続く先生の問いに黒服は深く考え込む。特殊やら特別やらと呼ばれていたらしいが、他にも意味があるのだろうか、そして何をどう望まれたというのだ? 

 

「先天性……? 生まれながらにして戦闘の適性があると言う意味でしょうが……? だが、それに何の意味がある? 後天的とはいえ訓練さえ積めば戦闘能力は向上は可能のはず……」

 

「だが、その適合者が更に訓練を積めばどうなる?」

 

「……そうか。先天性ならば最初から高い戦闘能力を所持している。更に訓練を積めば更なる戦闘能力が向上すると言う事ですか!! ……いや、まて。なぜそこまでして戦闘能力を伸ばす……?」

 

「そうしなければ倒せない存在が居るとしたら……さぁ、どうする?」

 

 再び黒服の背筋に悪寒が走る。

 

「そんな馬鹿な……そこまでしなければ倒せない存在など居る訳がない!! そんな存在などありえない!! いや、存在していいわけがない!!」

 

「だが、存在し、そして実在したのだよ。そんな化け物がな。それに対抗するために見出されたのがドミナント(先天性戦闘適合者)だ」

 

「ならば、何故、何故そのような言葉が消えるというのです!! そこまでの意味があるならば、今でも残り続けるはずだ!!」

 

 

 

 

「その言葉に価値がないからだ」

 

 

 

 

 そう。言葉などに価値はない。【レイヴン】と言う言葉を曲解し都合が良い様に解釈(自由の象徴? 反体制の旗印? 笑わせるな)した連中が居たように、黒服も神秘を宿す者と勝手に定義し決めつけていた。

 それ故に、言葉などに価値はないと先生は断言する。遠い未来で、何時しか【特別】と言う何の飾り気のない言葉になる程度の価値しかないのだ。

 人は、そんな言葉以上の可能性を秘めている。その輝きこそ、先生が最も尊いと思う物。先程ホシノが見せて輝きこそ、綺麗で大切な輝きだ。

 

「だから貴様らは所詮観測者気取りだと言ったんだ。未だにこのキヴォトスの事を知らずに、全てを観測したつもりでいたのか」

 

 冷酷に、鋼鉄の冷たさを持って先生は言葉を紡ぐ。

 

「何故アビドスが異様な砂漠化現象を迎えたと思う? 自然現象、いいや。ならばこのキヴォトスに色濃く存在する神秘か? それもまた違う」

 

 そうして先生は天井……否、更にその向こう。キヴォトスの遥か上空へと鋭い視線を向ける。そこに浮かぶ存在を決して許さないという様に。

 

「この透き通った空の上には、()()()()()()()()()が浮いている。それが巻き散らした物質が、砂漠化の要因の一つでもある、貴様が思っている以上に、人の悪意とは深く、そして濁っている」

 

「老人達の歪んだ答え……? 一体何をいって……!!」

 

 一体何を知っている!? と黒服が狼狽えている様子を、低く嗤いながら先生は片腕で器用に眠っているホシノを抱き上げて、黒服の後ろにある扉へと歩みを進める。

 

「観測者を気取るならば、少しは啓蒙を高めるといい。そうだな……脳に瞳でも宿してみたらどうだ? 最も、宿せたとしても自分の形を保てるとは思えんがな」

 

「世界とはな、貴様が思っている以上に複雑で、そして滅びの欠片がチラホラと眠っている。だが、それ以上に、多くの可能性があふれている生徒達のいる世界(キヴォトス)を守るために私は来たのだ。余計な事をするな。生徒達の序にならば助けてやらんこともない」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 


 

 

 

 

 

 

 

 火の粉を纏い、立ち尽くす黒服に鋼鉄の視線を向けて、先生は研究室の外へと消えていき、その後姿を確認するまでもなく黒服は崩れ落ちるように地面へと膝を付ける。

 身体中が震え、吐き出す息も荒い。

 

「これが……これが恐怖という物ですか……!! く、くくく、実に興味深い……!!」

 

 何時もの調子を取り戻そうとするが、その声は震え深い深い恐怖がにじむ。

 

「あれの何処が……何処が人だというのだ……!! 人の形をした暴力、いや、もっと純粋な力。これは計画の修正を……」

 

──なら、少し知識をあげようか? ──

 

「はっ?」

 

──それを知って耐えられたら、面白いことになるかもね──

 

「なにを言って……!? まて、なんだこれは。私の中に何か入ってくる。やめろやめろやめろやめろぉぉぉぉぉ!!!!!!!!」

 

 突如として頭に激痛が入り、黒服は耐えきれずにのた打ち回る。脳内に強制的に刻まれる戦いの歴史、そして自分達以上の人の悪意と殺意の歴史。

 ありとあらゆる人の負の感情に晒された黒服は、遂にはプツリと糸が切れたかのように動かなくなってしまった。

 

──この程度で限界か。少しは利用できるかと思ったんだが期待外れか。まあ、良い──

 

──やはり人は、人の業で滅ぶべきなのだから──

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 


 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 コワレタドコカ

 

 ──やはり人は滅ぶべくして滅ぶか──

 

 その声は、目の前の光景を心底つまらなさそうにして眺めていた。

 絶望と嘆きと、悲しみで満ちた世界。たった一人の人物(先生)が消えただけで、生まれた悲劇。それをただただつまらなさそうに眺めている。

 

 ──だが、この程度で滅ぶのか。戦う力もなく、言葉だけでどうにかしようなんて……先生? だっけか。期待外れも良い所だった──

 

 血塗れで倒れている人物(先生)。人ならざる者に変えられた人物(先生)。憎悪と憎しみに呑まれた世界をどうにかしようとして、どうにもならず壊れた人物(先生)

 そのどれもが、【声】にとっては期待外れも良い所だった。

 数多の世界を超えてきたが、その全てが壊れてしまった。

 

 ──戦う事すら出来ないのに、どうして前に出ようとするのか。人の温かさって奴でも示そうとしたとか? それで止まるほど、人類は利口じゃない──

 

 壊れる世界を、そして燃える世界を見て【声】は既にこれからどうするかと考えている。もう、目の前の光景に興味すらないようだ。

 

 ──やはり戦いが人の可能性……と言う事なのか? だが、同じ結論に達するのはつまらない。君もそう思うだろう? ──―

 

【声】が問いかけた先にあるのは、一滴の紅い雫。その紅い雫は目の前の悲劇と絶望に悲しんでいるかのように、ふるふると揺れ動く。

 

 ──何故、こんな事をするのか、だって? おいおい、さっきも言っただろう? 人は、自分の手で滅ぶべきなんだって。ボクはそれを少しだけ後押しして、見てただけさ──

 

ふざけないでください……!! それで済まされていい悲劇じゃない!! 

 

 叫ぶごとに紅い雫は少しずつ体積が減っていく。それを【声】は先ほどと変わらずつまらなさそうにしながら、言葉を続けた。

 実際に【声】が直接手を出して世界を壊した事は一度もない。

 ただほんの少し、悪意の種を蒔いただけ。それを使って世界を壊したのは、人類側だと【声】は語る。

 

 ──自分さえ良ければそれで良い。それが人類の本質だ。君だって、果ての星で散々見せつけられてきただろう? 人類の悪意をさ。あそこまで到達しながら、まったく変わらないとはねぇ。やはり人類は愚かだよ──

 

違う、違う!! 人は、人類は!! あの娘はそんな人じゃなかった!! 沢山沢山抗って!! 取り戻そうとして、必死に手を伸ばした!! 私に人の綺麗な所を教えてくれた!! 

 

 ──だが、君はこう結論付けたはずだ。人の形は、戦う為の物だ、と──

 

っ……それは……!! 

 

 ──そう思ってるのなら、ボクに見せてみなよ。人の持つ輝きを、そして可能性という物をさ。そうしたら少しは考え直してみてもいい──

 

……何処に行くんです

 

 ──もうこの世界は壊れるだけみたいだからね。別の場所に移動するだけだよ──

 

 そして【声】が消えた世界で紅い雫は嘆きと絶望で終わる世界に悲しみながら、自分も別の場所、いや、世界へと移り変わる。

 

レイヴン……いえ、ジナイーダ、何処にいるんですか……。この孤独は、私には……もう耐えられません……。もう一度、貴女に会いたい……

 

 幾多の世界の悲劇と、滅びと嘆きを観測し、そして【声】と紅い雫はたどり着く。

 

 渡り鴉(先生)が存在する世界へと。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




黒服

生きてます。色々と変なのが脳内に強制インストールされた模様



老人達の歪んだ答え

キヴォトスの遥か上空に浮いている。触れてしまえば全てが滅ぶ。人の作り出した禁忌の回答者。



【声】

人は、人の手で滅びるべきだ。この世界はどうだろうね




紅い雫

こんなの……人の全てじゃない。あの人が、あの娘が見せてくれた可能性はもっと綺麗だった!!







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