ブルーアーカイブ Day After Day 作:燃え殻の灰
と言う訳でゲーム開発部編始まります。
メインクエスト【ゲーム開発部からのお手紙】を受注しました!
連邦捜査機関S.C.H.A.L.E。
キヴォトス各地から持ち込まれる相談事や事件を扱うその建物では、今日も朝から慌ただしく人が行き交っていた。
もっともその中心にいるはずの先生が使う執務室だけは、今のところ比較的穏やかな時間が流れている。
窓から柔らかな日差しが差し込むお昼時。机の上には、処理を待つ書類の束や連邦生徒会から回ってきた報告書。他にも各学園から送られてきた相談に地域住民から寄せられた要望と多岐に渡る。
緊急性の高いものから、少し笑ってしまうような小さな相談まで内容は実に様々だった。
先生はそれらを一枚ずつ確認し、必要なものには署名を入れ、別の担当へ回すべきものは分類していく。
「……これはヴァルキューレの生活安全局に回して問題ない。こっちはトリニティの正義実現委員会との演習要請か。クレス。詳細を話し合ってきてくれるかな?」
「あいよ、先生。お前ら巡回も兼ねて行くぞ~」
「「「はーい。先生、いってきます!」」」
「気を付けていってきて」
生き生きしてて大変よろしい。
クレスが数名のネストの隊員を引き連れて出ていくのを先生は手を振って見送り、新たな書類を一枚取ると、先生の手が止まってしまう。
「これは……迷子の猫の捜索依頼?」
「はい。依頼主の方によりますと、三日前から姿を見せなくなったそうです」
すぐ傍らに立っていたワカモが、何でもないことのように答える。
「写真は?」
「こちらに」
ワカモが別紙を差し出した。
「随分ふっくらした猫だな」
「食欲旺盛だそうですよ」
「事件性はなさそうだけど……ミラ、この子の捜索を頼んでもいいかな?」
「えぇ、問題ありませんわ。ふふ、可愛らしい猫ちゃんですわ。では、先生、ワカモお姉様、このミラにお任せください!」
「……なんか、どんどんミラさんが距離を詰めてくるのですが」
「ふふ、仲が良くていいじゃないか」
ミラの熱烈な視線を受けて、若干狐耳をへにょりとして引いているワカモだが、先生が優しく頭を撫でてくれるので直ぐにご満悦な表情になる。
そのままワカモは慣れた手付きで書類を分ける。先程より、尻尾の揺れが速いのは気のせいではないだろう。
こうしたS.C.H.A.L.Eの日常業務は、先生やワカモを始めとしたネストの隊員達が、それぞれ分担して、先生本人でなければ判断できないものを除けば、かなりの範囲を補佐してくれるようになっていた。
多忙だが、ワカモを筆頭に『先生のお役に立てるのでしたら、この程度なんでもありません』と嬉々としてこなしてくれている。
そんな執務室のもう一人。ただし、こちらは今のところ、書類整理を手伝う様子はなかった。
「ふぁ~……」
執務室の一角に大きなリラックスクッションが置かれており、その中央へ身体を沈めるように横になりながら、小鳥遊ホシノは気の抜けた欠伸を漏らした。
眼は半分ほど閉じ、傍らのテーブルには飲み物が置かれているのを見る限り、完全にくつろいでいる。足元には、いつの間に持ち込んだのか薄手の毛布まで置かれている。
ここだけ切り取れば、昼寝場所を確保した生徒にしか見えない。
「ホシノ、今日は手伝いに来たんじゃなかった?」
「そうだよ~。先生が働きすぎないか監視する仕事中だよ~」
「そんな仕事を頼んだ覚えはないな。そんなに働きすぎるに見えるかな?」
「大事だよ~? 先生って、放っておくといつまでも仕事するでしょ? だから、おじさんがこうして見張ってるわけさ~」
目を閉じたままホシノはゆっくりと片手を上げる。
先生はやれやれと言った様子で苦笑しながら、ワカモが淹れてくれた緑茶で一息ついている。
「やれやれ、否定はしないけどね」
「ホシノさんは休みすぎですが、先生も少しはお身体を労わってくださいませ」
「ワカモちゃんひどいよ~。こう見えてもネストの基地で色々とやってるんだよ~。ねぇ、ネスちゃん?」
「ウチに流れ弾がきったすねー? まぁ、ホシノさんは新装備のテストや
突然話を振られたネスだが、ホシノの働きぶりを振り返ると確かに多忙だと思っていた。
ネストが開発した新装備のテスト、隊員達の模擬戦では
先生? その二人を相手にして、片手間にあしらうのだから論外である。そもそも先生の武器にはリロードと言う概念がないのだろうか。800発を撃ち切るまで連射するマシンガンってなんだ。とネストの隊員達は首を傾げている。
「けど、今のホシノさんはただ昼寝してるだけっすねー」
「気のせい気のせい」
ホシノは、まるで聞こえなかったかのように身体をクッションへさらに沈ませた。
そんな姿を見てワカモやネスは呆れながらも、小さく笑っているし、先生は穏やかな眼差しで微笑んでいる。
アビドスを巡る一連の事件が一区切りついた後、ホシノは対策委員会の仲間たちから背中を押される形で、アビドス対策委員会とS.C.H.A.L.Eを兼任することになった。
もちろん、アビドス高校を離れたわけではない。あの場所は今もホシノの居場所だ。何かあればすぐに戻るし、復興作業にも参加する。
シロコたちと共に、対策委員会としての仕事も続けるその一方で先生が他自治区へ赴く際や、大きな事件へ関わる際には、S.C.H.A.L.E所属の生徒として先生にワカモと一緒に同行する。
それが今のホシノの新しい立ち位置だった。もっとも本人の態度だけ見れば、所属先が一つ増えたところで、昼寝の頻度が変わった様子はない。
「それじゃ、ウチも基地のグレートウォールの指揮所に戻るっすねー」
「あ~、ネスちゃん、これ『シルエット』の調整データだからもってって~。キサラちゃんにも伝えてあるからこのメモリー渡すだけで大丈夫」
「了解っすねー。それじゃいってくるっすねー」
ホシノがネスに手渡したのは、
軽量化にブースターの調整などなど、先生の意見を取り入れてホシノ自身が調整した貴重なデータであり、今日のホシノが眠そうなのも、このデータを仕上げたからなのだろう。
「先生、手紙が届いておりますのでご覧ください」
「ん、手紙かい?」
先生が顔を上げるとワカモの手には、一通の封筒があった。それは他の公的な書類とは少し違い学園内で普通に使われている、簡素な封筒だ。
ワカモは封筒の差出人へ視線を落とす。
「ミレニアムサイエンススクールのゲーム開発部から、お手紙が届いております」
「ゲーム開発部?」
先生が僅かに首を傾げた。
その言葉にそれまでクッションへ沈み込んでいたホシノが、片目だけ開く。
「おー、アヤネちゃんパターンだねぇ」
ホシノが気怠げに呟いたその言葉で先生も思い出したように笑みを浮かべる。
「ああ、確かにね。ふふ、随分前に感じるよ」
「あの頃は先生と私、アロナさんだけの三人だけでしたのに、いまはかなりの大所帯になりましたものね」
ワカモも懐かしそうに思い出す。S.C.H.A.L.E最初の大きな仕事は、アビドス対策委員会から届いた一通の手紙から始まったのだ。
まさか一枚の便箋から始まった出来事が、あれほど大規模な騒動へ発展するとは思っていなかった。
借金から始まりカタカタヘルメット団の襲撃、そして裏で暗躍するカイザーPMC。長官や黒服との出会い。そしてホシノ自身を巡る出来事。一つの相談から始まったとは思えないほど、多くのものが動いた。
「……そう考えると、今回も大事の予感がするね」
先生は封筒を見て苦笑を漏らす。
「手紙って怖いねぇ」
「手紙に罪はないと思うけど」
「そうかなぁ」
ホシノがようやく身体を起こしてクッションからゆっくり立ち上がると、先生の後ろへ回った。
「それで~内容はどんなの~? おじさんにもみせて」
次の瞬間先生の背中にもたれかかり、ぽすっと肩へホシノが顎を乗せて手紙を覗き込む。
「よいしょ。ん~、楽ちん楽ちん」
「また変わったところで見るね? 別に構わないけど」
「だって寝そべったままじゃ見えないんだもん」
「ホシノさん、横から見たら良いじゃありませんか。先生もあまり甘やかしてはいけませんよ」
「良いじゃん。ワカモちゃん。細かいこと気にしない気にしない~」
アビドスの一件以前では、ホシノが先生へここまで無防備に接することはほとんどなかった。今ではこうした仕草一つにも先生へ向けた信頼が、ごく自然に滲むようになっている。
ワカモはそんなホシノを注意しながら、笑顔は変わらない。
まぁ、友達が穏やかに過ごせるのなら、何も問題はない。ワカモは度量が深いのである。それにワカモ自身もちゃっかり先生の隣に寄り添い、密着して手紙を見ているのでどっちもどっちだ。
先生が封筒を開くと中には数枚の便箋。
文字にはかなり勢いがあり、一部には何度も書き直した痕跡まであるし、ちょっとした誤字も見て取れる。しかし、どうにか丁寧に書こうとした努力も見えるので、一生懸命に書いたのだろう。
読んでいる先生と同じようにワカモやホシノも文章を追っていく。
「どうやら、ゲーム開発部が廃部の危機に陥っているらしいね」
先生の表情が少し真面目になる。
「廃部?」
ホシノの眠そうだった目がほんの少しだけ開いた。
「それで先生に助けて欲しいって?」
「そう書いてあるね」
「ふ~ん……ミレニアムのゲーム開発部ねぇ。流石に部活となるとわからないなぁ」
ホシノは先生の肩へ顎を乗せたまま考える。トリニティやゲヘナと並び称される三大学園の一角のミレニアムサイエンススクール。
それは常識として知っているが、アビドスのホシノにとってミレニアムの一部活動がどのような状況にあるのかまでは分からない。
その横でワカモは何やら少し考える素振りを見せていた。
「先生。ミレニアムでしたら、ユウカさんに連絡を取ってみましょうか」
「ああ、そうしよう。ゲーム開発部だけの話を聞いて決めるより、セミナー側の事情も聞いておいた方がいい」
先生もすぐに頷いた。相談者側の話だけを聞いて結論を出す事は公平ではない。廃部となる以上は当然何か理由があるはずだ。
ワカモはすぐに端末を操作する。
ミレニアムサイエンススクールのセミナー所属の早瀬ユウカ。
呼び出し音が数度響き画面に見慣れた少女の姿が映し出された。
『はい、セミナーの早瀬ユウカです。珍しいですね、先生から直接連絡なんて』
「少し聞きたいことがあってね」
『聞きたいことですか?』
「うん。ゲーム開発部の件なんだけど」
先生が軽く持ち上げた手紙を見た瞬間にユウカの表情が止まった。
『ゲーム開発部ですか? って、それ……え、先生の所にお手紙行ったんですか!?』
突然、通信画面の向こうでユウカが声を上げた。
「そんなに驚くと言う事は、何か知ってる?」
『驚きますよ! それに知ってるも何も……ゲーム開発部の廃部審査を担当しているの、私ですから』
「なるほど、ユウカさんらしいですね」
額を押さえたユウカだが、ワカモは納得した様に静かに頷いているのを見て、ちらりと視線を向けた。
『どういう意味ですか、ワカモさん』
「会計担当でしたら、部費の査定も担当されるのでしょう?」
『それはそうですけど……』
ユウカは少し疲れたようにため息を吐いたが、直ぐに表情を引き締める。
『先生。先に言っておきますよ。これは私がゲーム開発部を嫌っているとか、個人的に廃部にしたいとか、そういう話ではありませんからね?』
「うん、勿論。疑ってないよ」
『本当ですからね? はあ……先生は疑ってなくても、あの子たちは絶対そう思ってそうなんですよ……』
ユウカの苦労が滲む言葉を聞き、先生は苦笑した。どうやら相当に苦労しているようだし、ゲーム開発部は問題児のようだ。
「それで具体的には?」
『はい』
ユウカは手元の資料を確認しながら、データを送って見せる。
『ゲーム開発部は現在、部として必要な規定人数そのものは満たしています』
「よくある人数不足じゃないんだ?」
『そこは問題ありません』
「じゃあ、なんで廃部になるの~?」
先生の後ろから口をはさむホシノを認識して、ユウカが画面を覗き込む。まさか居るとは思っていなかったようだ。
『ホシノさん? い、居たんですね』
「やっほ~、最初からいたよ~」
『先生の後ろに隠れていて見えませんでした』
「今はS.C.H.A.L.Eのお手伝いもしてるからねぇ」
『そうでしたね』
ユウカも以前に聞いていたらしく大きく驚くことなく頷く。
「それで人数足りてるのに廃部なの? ほかに原因あるとか~?」
『問題は活動実績です』
「活動実績?」
『はい』
ユウカの声が会計担当としての落ち着いたものへ変わる。
『部活動として正式に登録され、部費を受け取る以上、当然ですが活動内容を示す必要があります。限られた予算を各部へ配分する以上、何の成果も出していない部へ継続して予算を出し続けることはできません』
ユウカ自身ゲーム開発部に悪意があるわけではない。むしろ出来るなら存続してほしいと思ってるところはある。何だかんだで面白いメンツが居る部活なのだ。
しかしセミナーの会計担当である以上は他の部活動との差を無視することもできない。
『他の部も同じ条件です。活動実績が認められれば予算を維持する。成果が乏しければ見直し。それでも改善されなければ、最終的には廃部となります』
「合理的ですね」
ワカモが静かに言った。確かにミレニアムは三大学園であり、生徒数も膨大だ。それはつまり、部活数も桁外れに多く、何処に予算を回すか、何処を削るかと日々悩まされることだろう。
先生の
「つまりゲーム開発部は人数は満たしている。でも、部活動として継続を認められるだけの成果がない」
『簡単に言えばそうです』
「なるほど」
『ですから……幾ら先生の頼みでも、こればかりは規定ですから、捻じ曲げて存続させてほしいと言う頼みは聞けません』
「うん、そうだろうね」
『………………え、それだけですか?』
「ん、何が?」
『もっとこう、ゲーム開発部を何とか残してあげられないか、とか頼まれるのかと……』
ユウカが戸惑う。
「言ってほしかった?」
『そういうわけじゃありません!』
「なら良かった」
『先生!』
先生が小さく笑うが、直ぐに少しだけ真面目な表情へ戻った。
「予算の事や、実績の件についてはユウカが決めた個人的なルールじゃないんだろう?」
『もちろんです。きちんとミレニアム全体で決めたルールです』
「だったらユウカに規則を曲げてもらうわけにはいかないよ」
先生は当然のことのように言うので、ユウカは僅かに目を瞬かせた。
「他の部活だって同じ条件で活動してるんだろう?」
『はい、当然です』
「なら、ゲーム開発部だけ特別扱いしてもらうのは違う」
先生は手紙へ視線を落とす。その口元へ薄い笑みを浮かべている。あ、何か思いついた顔だ。とワカモやホシノは気が付いたようだ。
「ただ、その規定をクリア出来るように、ゲーム開発部へ協力するのなら大丈夫かな?」
『え?』
「廃部そのものを取り消して欲しいとは言わないよ。けど、ゲーム開発部が存続条件を満たせるように手伝う。それなら規定違反にはならないだろう?」
『そ、それなら……』
ユウカは数秒、本当に規則上問題がないか考え頷いた。
『はい、それなら問題ありません』
「良かった」
しかし、すぐにユウカが指を立てる。
『ただし先生が協力したからといって、審査そのものを甘くすることは出来ませんよ?』
「もちろん、分かっているよ」
『本当に分かってます? 先生、たまに生徒のためになると無茶しますから』
「信用ないなぁ」
「日頃の行いだねぇ」
「ホシノ?」
「なんでもないよ~」
ホシノがぼそりと言うが、素知らぬ顔だし、クスクスとユウカも小さく笑っている。
そんなに無茶してるだろうか……と考える先生だが、生徒の為なら本当に何でもやる・それ自体を無茶と認識していないので、改善されることはないだろうし、それが出来る実力があるので、なお凄まじい。
「まあ、ユウカはユウカの仕事を優先して。こっちは規定上でなんとかするよ」
『先生……』
その言葉を聞いたユウカは一瞬だけ黙った。
先生なら頼めば自分のために学園やS.C.H.A.L.Eの規則を曲げてくれる。そんな期待を持つ生徒も、これから増えていくかもしれない。しかし先生本人はそれを望んでいないのだ。
自分が持つ権限や人脈で特定の誰かを必要以上に優遇する気もない。
勿論、生徒達が困っているなら、何が何でも助ける。しかし、助け方にも線を引き、生徒達が自分の翼で飛び立てるように見守るのが、先生だ。
初対面で戦闘の指揮をしてくれた時や助けてくれたことを思い出し、本当に優しくて凄い人ね……と。ユウカの表情が少し柔らかくなる。
『……分かりました。そこまで言われたら、私から止める理由はありません』
「ありがとう」
そこで先生の肩へ顎を乗せたままだったホシノが小さく首を傾げた。
「ねぇ、ユウカちゃん」
『なんですか?』
「そもそもさぁ、ゲーム開発部の“実績作り”って何するの?」
ホシノはごく単純な疑問を口にした。確かにゲーム開発部ではない人間からすれば何をすれば「部としての成果」になるのか分かりづらい。
『一番分かりやすいのは……やっぱり、面白いゲームを一本完成させることかしら』
「ゲームを作ればいいんだ」
『ただ作るだけじゃ駄目ですよ』
「厳しいねぇ」
『当たり前でしょう! 動くだけのゲームを大量に作れば実績扱い、なんてことにしたら審査の意味がありません!』
思わずユウカの声が大きくなる。
「ユウカちゃん、声が大きいよ~、けど、確かにそれもそうか~。動くだけなら何でもいいってしたら、ダメだよね」
『し、失礼しました。こほん、やはり一定の完成度があって、外部へ発表できて、きちんと評価される作品ならば十分な活動実績として認めます』
「他には?」
『そうですね……ゲーム用の専用筐体を自作するとか』
「実機ですか。しかし、筐体となるとかなり大型の物なになりそうですわね」
『ええ、これは少し現実的ではないでしょうね。後は、新しい入力デバイスを開発したり、新しいゲームシステムやゲーム開発に応用できる技術を構築した場合も成果として扱われます』
「つまりゲーム開発部として、何を作ったのかを示せればいい。これであってるかな?」
『はい、その認識で大丈夫です』
「へぇ~、だったら、それほど難しくなさそうじゃない? ゲーム開発部なんだし、何かしらのノウハウとかあるでしょ~?」
ホシノが少し感心したように声を漏らしたがユウカがほんの少しだけ視線を逸らしたのに、先生は気が付いた。
「ユウカ?」
『…………』
「何かございましたか?」
ワカモも首を傾げるが、ユウカは答えないのでごく自然な疑問を口にする。
「ちなみに、今までのゲーム開発部の実績はどうなのです?」
『…………』
しかし返ってくるのは沈黙だ。しかもユウカの視線が泳いでいる。
「ユウカさん?」
『いや、その……以前に、作品自体は発表されてます』
ユウカが非常に言いづらそうに続ける。
「おー、じゃあ、その時は実績があったから、存続できたんだね~」
『…………ネットでボロクソに叩かれてる作品なら……あと、レビュー欄は見ない方がいいと思います」
「「「…………」」」
S.C.H.A.L.Eの執務室が静まり返った。窓の外から聞こえていた雑踏すら妙に遠く感じる。
「……そんなに?」
先生が恐る恐る尋ねるがユウカは完全に視線を逸らした。
気になったワカモが尋ねてみる。ある意味で怖いもの見たさと言う奴だろうか。
「どの程度なのです?」
『ワカモさん。知らない方が幸せなことも、この世にはあります』
「そ、そこまでですか。流石のユウカさんでもフォロー出来ないと……?」
『……はい、そこまでです。流石にあれは無理でした……』
先生はゆっくりと机へ視線を落とす。
そこにはゲーム開発部から届いた手紙。
『先生! ゲーム開発部を助けてください!』
勢いのある文字で助けを求める強い意志はあるようだ。しかし話を聞けば聞くほど前途が明るいようには思えない。
「……前途多難だぁ」
ぽつりとホシノが零した。
「まだ会ってすらいないよ、ホシノ」
「けど、会う前からこれだからねぇ。今回も大変そうだよぉ~」
「確かに。しかも今回はカイザーPMCみたいに明確な敵も居ませんので、更に厄介かもしれませんわね」
ワカモまで静かに頷いた。
『とにかく先生が協力すること自体は問題ありません。ただし、私はセミナーとして公平に審査しますからね。違法行為があった場合は、全力で阻止に動きますよ』
ユウカが咳払いをする。
「うん、それでいいよ」
『……本当に何とかするつもりなんですね』
「助けて欲しいって手紙をもらったからね」
先生は便箋を手に取ると、一行ずつ手紙の文字を追う。
「まず本人たちの話を聞いてみるよ。どうして部を残したいのか、どんなゲームを作りたいのか」
そして、何時もの様に穏やかに、そして優しく微笑んだ。
「何をするのか決めるのは、ゲーム開発部のみんなだからね」
『…………』
ユウカの口元にも僅かな笑みが浮かんだ。やっぱり先生は、優しい人なんだ。と言うように。
「近いうちにミレニアムへ行くよ」
『はい、お待ちしています。けど先生、ゲーム開発部のメンバーについては、個性的ですから一応は覚悟しておいてくださいね』
それだけ言うと通信が切れたが、先生は暗くなった画面をしばらく見つめる。最後の一言が気になりすぎる。
「最後の一言は、妙に気になるな」
「ねぇ~」
ホシノが先生の肩から顎を離すとそのままぐーっと両腕を伸ばして背伸びをする。
「まあでもここまで聞いちゃったら、おじさんもちょっと気になるかなぁ」
ホシノは眠そうな目のまま少し笑った。
「一応、私もS.C.H.A.L.E所属だからねぇ。先生のお手伝いなら頑張るよ~」
「ふふ、ホシノさんの言う通りですわね。先生のお側でお世話をすることこそ、私の役目ですから」
「ありがとう、二人とも。今回も頼りにさせてもらう。よし、ワカモはネストの隊員達に連絡して。ホシノは『シルエット』の調整予定の変更に、対策委員会にも伝えておいてね」
それはいつものS.C.H.A.L.Eの日常である。
机の上にはミレニアムサイエンススクールから届いた一通の手紙。ゲーム開発部の廃部の危機を助けて欲しいと言う内容だ。
先生たちは一つの部活動から寄せられた少し変わった相談事だと思っているし、実際始まりはそれだけだった。
先生は手紙を丁寧に封筒へ戻し、何時もの様に穏やかに小さく笑う。
「さて、まずは会いに行ってみようか」
ミレニアムサイエンススクール。
最新技術と合理性を何より尊ぶこの学園には、大小様々な研究室や開発施設、そして一風変わった部活動が無数に存在している。
その校舎の一角。最新鋭の設備が整えられたミレニアムらしい区画から少し外れた場所に、ゲーム開発部の部室はあった。
扉の向こうへ一歩入れば、そこにはいかにもゲーム好きの生徒たちが集まる部屋らしい光景が広がっている。
大小様々なモニターや新旧入り交じったゲーム機が乱雑においてある。そして何世代も前のものと思われる古いゲームソフトから、発売されたばかりの新作まで詰め込まれた棚がある。
机の上には液晶タブレットやキーボードだけではなく、コントローラーまで無造作に置かれている。
壁にはゲームのポスターが貼ってあるし、ホワイトボードにはキャラクター案やステージ構成らしきものが殴り書きされているが、その横には何故か、
『超絶面白いゲームを作る!』というあまりにも抽象的な目標まで大きく書かれていた。
部室内は整理整頓されているとは、到底言い難い。
しかしこの部屋を使っている者たちにとっては、この雑然とした空間こそが最も落ち着ける場所なのだろう。
そんな部室の中央で弾んだ声が響いた。
「見て見て! 先生から返信の手紙、来たよ!」
一通の封筒を両手で高々と掲げながら、才羽モモイが満面の笑みを浮かべている。まるで高難易度のクエストを攻略し、極低確率のレアアイテムでも引き当てたような喜びようだった。
「えっ? お姉ちゃん、本当に送ってたの?」
少し離れた机で液晶タブレットへ向かっていた少女、モモイとよく似た顔立ちを持つ双子の妹の才羽ミドリが顔を上げる。
何やら喜んでいる姉を、今も驚きながらも、どこか呆れたような目で見つめていた。
「もちろん! 前に言ったじゃん!」
何故そんなことを聞くのか、そう言いたげにモモイが胸を張る。
「確かに、『もう先生に頼るしかない!』って言ってたけど私はてっきり、その場の勢いで言っただけなのかと……」
モモイが頬を膨らませた。
「酷い! 私はやるって決めたらやる女なんだから!」
「だから心配なんだけど……」
「どういう意味!?」
部室に姉の抗議が響くが、こうしたやり取りはこの部室では日常茶飯事だった。
モモイが勢いよく何かを始めて、ミドリがそれを止めようとし結局二人揃って最後までやると言った流れを、何度繰り返してきたか分からない。
ミドリの口元には僅かな笑みが浮かんでいので、本気で姉を責めているわけではないだろう。
モモイは再び封筒を前へ突き出す。
「でもさ! 困ったことがあったらS.C.H.A.L.Eに相談! って最近すっごい噂になってるでしょ?」
「それは、聞いたことあるけど」
ミドリも小さく頷いた。
連邦捜査機関S.C.H.A.L.E。そして、そこの先生。
ミレニアムでも、最近その名前を耳にする機会は明らかに増えていた。
キヴォトスの各地へ自由に出入りし、所属の違う生徒たちとも分け隔てなく関わる大人であり、困っている生徒がいれば、どんなに些細な内容でも話を聞く。
落とし物から始まり人間関係の相談。部活動の応援をすることもあれば、勉強を手伝ってくれたり、分かりやすい解説までしてくれる。
相談内容の大きさで態度を変えることもなく、最後まで真摯に向き合ってくれると言う評判が、生徒たちの口コミを通じて少しずつ広がっていた。
特にアビドスでの一件で流された言葉
──頑張っている女の子は、幸せになるべきなんだ──
それは優しくて、暖かな祝福の言葉であった。
「だから! ゲーム開発部最大の危機を相談してみたの!」
モモイが自信満々に胸を張った。
「最大の危機って……」
「廃部だよ!? これ以上の危機ある!?」
「まあ……それはそうだけど」
ミドリも否定できなかった。自分たちにとってこの場所がなくなるというのは、確かに大事件なのだから。
「で、先生は何て?」
「ふっふっふ、今から読むよ!」
モモイが勿体ぶるように封筒を開いて、咳払いしてから文章を読み上げるが、その仕草も一々大袈裟である。
『ゲーム開発部のみんなへ。手紙、確かに受け取りました。詳しい事情を聞きたいので、近いうちにミレニアムへ伺います。
何が出来るかはまだ分からないけれど、まずは一緒に考えてみよう。先生』
「おお~!」
読み終わるより早く、モモイの表情が輝いた。
「やったやった来てくれるって! これで勝った!」
「良かったね、お姉ちゃん。けど、まだ何も解決してないよ?」
「先生が来るんだから何とかなるって!」
根拠のない自信だが、モモイ本人は本気でそう思っているらしいが、ミドリは困ったように眉を下げた。
「その考え方って、先生に全部投げてない?」
「そ、そんなことないよ!」
「じゃあ、お姉ちゃんは何をするの?」
「それはーそのー……先生と一緒に考える! ミドリも考えてよ、廃部の危機なんだし!」
「もー、やっぱりまだ何も考えてないんだね? まぁ、私も考えるけどさ」
そんな双子の会話を部屋の隅から、静かに聞いている人物がいた。
「楽観的すぎると思うけど」
低く気怠げな声が聞こえたので、モモイとミドリが同時にそちらを見る。
窓際に置かれた少し古びたソファの上へ深く腰を沈めながら、一冊の雑誌を読んでいる少女がいる。
華やかなミレニアムの校風とはどこか異なる、近寄り難いほど静かな雰囲気を纏った少女、戒野ミサキ。
ウォルター率いる何でも屋ハウンズの一員である彼女が、ミレニアムに通っているのは、事情がある。
ハウンズの面々はヒヨリは、ゲヘナ、アツコとアズサはトリニティ、そしてミサキはミレニアムと、それぞれが学園に通いながら情報収集を行っている……と言うのは建前である。
実際はウォルターが彼女達に学園生活を満喫してもらい、そして勉学にも励んでほしいと言う事で通わせているのだ。
しかし、サオリは事情があり休学扱い、ジナイーダは自由奔放でキヴォトス中を歩き回っているので通信教育となっている。
そんなこんなで、ミサキはミレニアムに通うことになったのだが──そこまでは良かった。
問題は何故かモモイとミドリに気に入られて一緒に遊ぶようになり、気がついた時には何故かゲーム開発部の部員として登録されていたのだ。
本人としても、どの瞬間にそうなったのかは未だに判然としていないが、モモイの押しと、ミドリの静かな圧力に押し切られたと言うのは確かである。
他にもメイド姿のちょっと変わって友達も出来てたりするし、なんだったらそこに誘われたりしている。『ダウナーメイドは鉄板だよね』との事。
「なんだよぉ、ミサキだって嬉しいでしょ?」
「別に。先生が来たところで、面白いゲームが勝手に完成するわけじゃないでしょ」
「うっ、そ、それはそうだけど」
モモイが唇を尖らせるが、ミサキは雑誌へ視線を落としたまま答えるが、確かに正論である。
「じゃあ何で勝ったと思ったの」
「雰囲気だよ、雰囲気!」
「はぁ、モモイのそれは一番信用出来ないやつ」
「わーん、ミサキが辛辣だょミドリぃ!」
モモイは大袈裟に胸を押さえて、隣で小さく笑っているミドリに縋りつく真似をして見せる。
はいはい、何時もの事、と流すようにミサキはまた雑誌のページへ視線を戻した。
だが少しして、モモイが何か思い出したように声を上げた。
「そういえばさ、ミサキって、S.C.H.A.L.Eの先生に会ったことあるんだっけ」
ページを捲ろうとしていたミサキの指が止まり、雑誌から目を上げた。
「……会ったと言うか、遠目で見ただけ」
あの頃、ハウンズはカイザーPMCと敵対しており、潰すために色々と動いていた時期だ。
そして、アビドス対策委員会からの手紙で姿を現したS.C.H.A.L.Eの先生。
勿論、アビドスの騒動のど真ん中にジナイーダも参戦していたので、事情も分かっていたので、S.C.H.A.L.Eとアビドス対策委員会が表立ってカイザーPMCと敵対してる時に、裏で徹底的に叩き潰したのがミサキの所属しているハウンズだったのだ。
その騒動の際、ミサキ自身は先生と言葉を交わした経験はない。
「ねぇねぇどんな人だった? 噂通り優しい?」
「……多分、優しくて善良なのは確かだと思う」
ミサキは答えを探すように、僅かに視線を上へ向けた。
「やっぱり! 手紙送って正解だった!」
モモイの顔が明るくなる。
しかし、ミサキの中にはアビドスで見た光景が蘇る。圧倒的戦闘能力で、悉く焼き尽くしていく姿。
確かに、あれは鋼鉄と火と硝煙を纏っていると言うウォルターとジナイーダの二人は評価は正しいのだろう。
「まぁ、ハンドラー……じゃなくて、ウォルターも信用してるし良い人なんじゃないの」
「ウォルターさんも?」
ミサキがその名を口にした瞬間、普段からミサキを見ている者でなければ分からない程度にごく僅かだが、その声音から硬さが抜けた。
「「…………」」
それに気が付いた、二人が顔を見合わせると、モモイはニマニマとしたからかうような笑みを、ミドリも口元に小さく微笑みを浮かべている。
「……なに」
「いや~? 何でもないよ~?」
「…………なによ」
明らかに何かあると気が付いたミサキは雑誌を膝の上へ置いた。
「ねぇねぇ、ミサキぃ、先生って、ウォルターさんみたいな人なの?」
「ウォルターみたい……?」
「ほら、優しいって意味で!」
モモイは無邪気に尋ねるので、ミサキは少しばかり考えてみる。
いつも眉間へ皺を寄せ難しそうな顔しているし、愛想だって良くない。
しかし、こちらが無茶をすれば声を荒げることはないが叱るし、怪我を隠せばもっと叱る。しかし、最後には常に心配してくれる。食事を抜けば、その日の任務より先に食事を取らせる。
何時も自分達の事を色々と考えてくれる人。
そんな不器用なウォルターを思い浮かべるミサキの口元には小さく笑みが浮かんでおり、目元の力もわずかに抜けている。
「まあ……同じくらい優しいんじゃない?」
それを聞いたモモイとミドリの顔がさらにニマァと緩んだ。
それを見て、ミサキの眉が寄る。
「ねぇミサキってさぁ、ウォルターさんのこと、すっごく尊敬してるよね~?」
モモイが椅子へ座ったまま、楽しそうに身体を揺らして、そんな事を言うが、ミサキの視線がすっと横へ逸れた。
「あっ! 今目逸らした! 逸らしたよね!!」
「うるさい、逸らしてない」
「逸らしたよ!」
「逸らしてない」
珍しくミサキの声に僅かな動揺が混じったの聞いてミドリも、小さく笑う。
「ウォルターさんの話になると、ミサキちゃん、少し雰囲気が柔らかくなるよね」
「だよね、だよね!! 隠してるけど、思いっきり照れてるよね! わー、凄い貴重だよレアイベントだよ!」
「お、お姉ちゃん。あんまり言ったら怒られるよ」」
ミドリが一応姉を止めるが、その顔も笑っている。
「ミドリも笑ってるじゃん!」
「だって……ミサキちゃんが笑うなんて珍しいから」
「…………」
ミサキはむすっとして黙ってしまった。
しかし、実際二人の言っていることは完全な間違いではない事はミサキ自身にも分かっていた。
ハウンズに所属する者たち皆は、ウォルターを深く信頼している。
無口で無愛想だけど、彼が自分たちをどう思っているのか、それだけは誰も疑ったことがない。
危険な任務へ向かう時には、必ず複数の退路を確保しているし、撤退すべき状況で無理をさせることはない。
負傷者が出れば、何より先に治療を優先するし、任務を成功させたとしても無茶をすれば叱られる。
『結果が出れば何をしてもいいと思うな』
そんな言葉を何度聞いたか分からないハウンズの者たちが、心の奥で抱いている認識は恐らくもっと単純だ。
誰よりも大切な父親。
誰も本人の前では絶対に口にしないだろうけれどハウンズのメンバーにとってウォルターは、そう呼んでも違和感のない存在だった。
「ねぇねぇミサキ~、今度ウォルターさんの話、もっと聞かせてよ!」
「…………」
モモイの声を聞き、現実に引き戻されてくる。
相変わらず、モモイが騒いでいるのでミサキは静かに、ぱたん、と雑誌を閉じた。静かで何時も通りの所作なのに、何故かモモイの笑顔が少し固まってしまった。
「……モモイ、さっきからずっとニヤニヤしてるけど、ちょっと腹立つんだけど」
ミサキが立ち上がると一歩、また一歩と近づいてくるのでモモイの笑顔が完全に固まった。
「ミ、ミサキ? え、なんでそんな近寄ってくるの!? ちょっと待っ──」
「モモイ、あんまり調子に乗るな」
ミサキがモモイの両頬を摘まむと、ムニムニとこね回す。
「もにゅっ!?」
「……反省しろ」
むにむにと徹底的にこね回すミサキ。
「もにゅあぁぁぁぁ!? いひゃい! いひゃいってぇぇ!」
「まだニヤニヤしてるけど、反省した?」
「ひました! もうひたからぁ! ミドリぃ、わらってないでたひゅけてよぉ」
「お、お姉ちゃん……ごめん。面白くて……ぷ、あははは! もう無理、おなか痛いよぁ、あははは!」
最初こそ、ミドリは口元を押さえて笑うのを我慢していたが、ミサキの手で頬をムニムニされているモモイの顔と、言葉遣いで我慢できず決壊してしまったようだ。
そんな爆笑しているミドリに、ジロッとミサキが視線を向ける。
「ミドリもさっき笑ってたけど……何か言う事は?」
「ご、ごめんなさい、ミサキちゃん」
ここは姉と違い、即座に謝るミドリは流石と言うべきか。信じられない者を見るモモイの視線が、また笑いを誘う。
「裏切り者ぉぉぉ!」
モモイの悲鳴が部室へ響き渡った。
「……うるさいよ、モモイ。静かにすれば直ぐに終わる」
「みひゃきがやってるんでひょ!? ひょれに、ほっへひゅねられてるのにどうひてひずかに出来るの!?」
それからしばらくモモイの頬をミサキはこね回していたが、一通り満足したので手を離すと、定位置のソファに戻り雑誌の続きを読み始める。
そして解放されたモモイだが、若干涙目で赤くなって頬をさすっているし、ミドリも涙目だが、それは笑いすぎなので問題ない。
「酷い目に遭った……」
「自業自得だと思うよ、お姉ちゃん」
「わーん、ミドリが冷たい!」
「あれはちょっと調子に乗りすぎたお姉ちゃんが悪いよ」
「そう言う事。少しは反省してよ」
「ぐぬぬ……」
ミサキとミドリの言葉に言い返せないモモイは、百面相を浮かべている。そんな姉を見て、ミドリがまた小さく笑った。
その時、ふと机の上に置かれた便箋が目に入る。
「でも、先生、本当に来てくれるんだね」
ミドリの声音が少し穏やかになり、ミサキも目線だけ手紙へと向ける。
『ゲーム開発部を助けてほしい』
ただそれだけであり、大きな事件でもない。自分たちの居場所を守りたいと言う小さな願いだが、S.C.H.A.L.Eの先生はこうして返事を寄越して、実際にここまで来るという。
「よーし! 先生が来るまでに作戦会議だよ! 名付けてゲーム開発部存続大作戦」
モモイが勢いよく立ち上がると、天井へ向かって指を突き上げた。その勢いにミドリは目を丸くしているし、ミサキも雑誌から視線を向ける。
やはり勢いだけには誰にも負けないモモイなのである。
「で、具体的にはなにをするか考えてるの?」
「それは……先生が来てからみんなで一緒に考えるの!」
「もう、やっぱりお姉ちゃん、何も考えてないじゃん」
何故か自信満々のモモイの様子を見てミドリは小さく笑い、ミサキも、やれやれと言った様子で小さく息を吐いた。
しかし自分でも気付かない程度にミサキの口元がほんの僅かに緩んでいた。
ここは騒がしくて、落ち着きのない空間だ。ゲーム機に散らかった机。モモイは騒がしいし、彼女の陰に隠れているが何気にミドリも便乗する。今は席を外している部長も、なんだかんだで乗りに付き合ってくれる。
そんな騒がしい場所なのに、いつの間にかここに座って雑誌を読むことがミサキにとって当たり前になっていた。
相変わらず部室へ騒がしい声が響いている。それはとても平穏で、くだらなくてどこにでもありそうな時間。
しかし、この小さな部活動を存続させるためだけに始まったはずの物語が、やがてミレニアム全体を揺るがす事件へ発展する事になるとは誰もが思わなかっただろう。
その中心に一人の少女と彼女に隠された過去が待っていることはまだ誰も知らなかった。
ゲーム開発部編を一章・二章と続けて時間系列変えて進めるか悩み中です。
理由?アビ・エシュフ魔改造したい。あとトキを仲間にしたいからです。
書きながら考えていきますね
小鳥遊ホシノ
本作では、アビドス対策委員会とS.C.H.A.L.E所属を兼任することに。
霧と影の人から受け取ったショットガンでダブルトリガーの使い手に。
専用装備の『シルエット』が開発されている模様。
戒能ミサキ
本作では何でも屋ハウンズのメンバーであり、ミレニアムサイエンススクールに通っていることに。
紆余曲折と言うか、モモイの押しでゲーム開発部に所属することに。